(SS注意)指先避難

  • 1二次元好きの匿名さん23/12/03(日) 01:50:18

     吐く息は白く染まり、冷たい風が肌を切るようになった頃。

    「早く『あたたかい』になりたい……」

     俺の隣には寒そうに手を擦り合わせるウマ娘が一人。
     金髪のロングヘアー、青空のような瞳、どこか幻想的な雰囲気。
     担当ウマ娘のネオユニヴァースは、肩を震わせながら、その真っ白な手を晒していた。

    「もうちょっと歩けば屋内に入るから……手袋はどうしたんだ?」
    「“NIZR”をしたよ、次のお休みに“調達”するつもりだった」
    「なるほどね、あまりに辛いようなら俺のを使うか? ちょっと大きいけどさ」
    「……ネガティブ、気持ちは“THNK”だけど、それだとトレーナーが『さむい』になる」

     ユニヴァースは嬉しそうな表情をしながらも首を横に振る。
     俺としては彼女の方を優先したいのだけれど、彼女が望まないなら仕方がない。
     なるべく早く目的地に着くべく、少しだけ歩調を早くする。

    「……あれ」

     すると、隣に並んでいたはずのユニヴァースはどんどん後ろに下がっていった。
     歩調を早めたとはいえ、俺に彼女が追い付けないはずもない。
     疑問に思って振り向くと、彼女は足を止めて、何か考え込むようにしていた。
     どうしたのだろうか、怪我とかではなさそうだけれど。
     やがて彼女はぴこんと耳を立てて、にこりと口角を少しだけ吊り上げた。

    「ふふっ、ネオユニヴァースは“熱伝導”の“IDE”を思いついたよ」
    「えっ?」
    「トレーナーは、そのまま“スタンバイ”していて欲しい」
    「おっ、おう」

  • 2二次元好きの匿名さん23/12/03(日) 01:50:32

     返事をすると、ユニヴァースは小走りで俺に近づいて来た。
     尻尾を楽しそうに振りながら俺の背後に立つと、彼女は手を前に伸ばす。
     ────そしてそのまま、俺のコートのポケットに、手を突っ込んだ。

    「うわ!?」
    「“指先避難”だね、トレーナーのポケットはとっても『あたたかい』をしているね?」

     ユニヴァースは俺のポケットの中で指をもぞもぞもと動かしながら、微笑みを見せた。
     お腹の辺りにくすぐったい感触が広がって、思わず身じろぎをしてしまう。
     すると彼女は首を傾げてから、ぺたぺたとお腹周りを手のひらで確かめるように触り出した。

    「トレーナー、“断熱材”が“過積載”?」
    「……冬は食べ物が美味しくて、ついね」

     毎年この時期になると太るんだよなあ……。
     とはいえ、ウマ娘には体重管理を指示する身なので、そこは素直に反省しなければいけない。
     ……って、そうじゃない。
     俺は慌ててユニヴァースの細くて、冷たい手首を掴んだ。

    「ネオ、さすがにこれは歩きづらいし、危ないからダメだよ」
    「……♪」

     ユニヴァースの手をポケットから出そうとするが、彼女は器用に身を翻してそれを拒否する。
     トレーニングで培った重心移動とフットワークを使いこなす彼女を捉えるのは、困難といえた。
     しばらくの間その場でくるくる回っていたものの、まるで届く気がしない。
     俺は息を切らしながら、大きくため息をついた。

  • 3二次元好きの匿名さん23/12/03(日) 01:50:53

    「……ゆっくり歩くから、押したりしないこと、周りにも気を付けてね」
    「アファーマティブ、『ぽかぽか』を堪能だね……それと触り心地も“EXCOMF”」
    「…………そっか」

     ユニヴァースは、俺のお腹をモミモミと揉みながら、楽しそうに感想を述べる。
     それは先日サンプルで貰った新商品、ぷにぷに触感のぱかプチ『ぱかプニ』に触れた時と同じ感想。
     ────ダイエットしよう、俺はそう心に誓いながら、歩みを進めたのであった。

  • 4二次元好きの匿名さん23/12/03(日) 01:51:11

    「おはようトレーナー、今日はとっても“EARI”なんだね」
    「……ちょっと用事がね、ユニヴァースこそ、早いね」
    「たまに“恒星”の光に染まる街を“観測”したくなるんだ、『静か』で『ドキドキ』になるから」

     一週間後の早朝。
     用事があってまだ生徒も歩いてない時間帯に学園へ向かう途中、ユニヴァースと出くわした。
     今日は手袋している彼女は、コートの袖口で口元を隠しながら目を細める。
     しかしその直後、何かを発見したかのように目を大きく見開いた。

    「……トレーナー、手袋が“NOST”?」
    「ん? ああ、昨日洗濯したんだけど、まだ乾いてなくてね」

     俺は両手を擦り合わせて、息を吐きかけながら、そう答えた。
     ……本当は別の日に洗濯する予定だったのを、間違えて洗濯機に入れてしまっただけである。
     意味のない見栄を張る俺を、ユニヴァースは心配そうに見つめていた。

    「今日の朝は“BLFRZ”、とっても『さむい』をしているよ……?」
    「まっ、まあ、寒いは寒いけど、コートもあるし、これくらいなら大丈夫だよ」
    「むぅ、でもネオユニヴァースは“WORR”をしているよ……“ルミネセンス”、閃いたよ」

     ユニヴァースは、両手をぽんと合わせた。
     そして、くるりと俺に背中を向けて、自身のコートのポケットの中身を見せつけるように引っ張る。
     尻尾が誘うようにゆらりと揺れて、彼女は微笑みを浮かべて、言葉を紡いだ。

    「“指先避難”だよ、トレーナー、ネオユニヴァースはこの間の『お返し』をしたい」
    「……えっ?」
    「“ドッキング”の準備は“オールグリーン”、“WECOM”だよ」

  • 5二次元好きの匿名さん23/12/03(日) 01:51:35

     一瞬、ユニヴァースが何を言っているかわからなかった。
     やがて思考が正常に言葉を読み取って、その意味を理解する。
     蘇るは、先日彼女が手袋を忘れて、俺のコートのポケットに手を入れて歩いていた光景。
     その逆をすれば良いと────彼女は言っているのだ。
     いや。
     いやいやいや。
     流石にそれはいかんでしょ、と思い、それを伝えようとするのだが。

    「……トレーナーは“DENY”、嫌、かな?」
    「うっ」

     悲しそうに問いかけて来るユニヴァースに、思わず言葉を詰まらせてしまう。
     冷静に考えよう、あくまでコートのポケットに手を入れるだけ、身体を触るわけではない。
     そう考えれば、特に問題のない行為といえるのではないだろうか、多分、きっと、恐らく、そうだといいな。
     何よりも、せっかくの彼女の厚意を、無下にしたくないという想いがあった。
     大きく深呼吸をして、冷たい空気を身体の中に取り込む。
     俺は意を決して、震える指先を、彼女のポケットへと伸ばした。
     余計なところに触れてしまうことがないように、慎重に、ゆっくりと。
     指先がポケットに触れる直前、俺は彼女に伝えた。

    「じゃあ、入れるよ、ネオ」
    「うん、“GENY”……優しくしてね?」

     ユニヴァースは微かに頬を染めて、そう呟く。変なことを言わないで欲しい。
     妙に心臓が高鳴るのを感じながら、指先を彼女のポケットに入れて、中へと差し込もうとする。

  • 6二次元好きの匿名さん23/12/03(日) 01:51:51

    「────おっ、おはようございます! そそそっ、それではしっ、失礼しましゅ……っ!」

     刹那、俺達の隣へ、挨拶と共に一人のウマ娘が現れた。
     大きな三つ編みの黒鹿毛、大きな眼鏡をかけた、文学少女。
     ゼンノロブロイは、またこの人達英雄的行為してる、と言わんばかりの表情で、早足に通り過ぎて行った。
     真っ赤な顔で、ちらちらと横目でこちらを見ながら。
     ふと、俺がしようとしていた行為を客観的に見てみる。

     女子学生の腰をまさぐろうとしている、成人男性。

     うーん、ツーアウトってところか。
     いや、どう考えても人生のゲームセットものである。

    「……やめようユニヴァース、キミの気持ちは嬉しいんだけど」
    「……ダメ?」
    「ダメ」
    「“ドッキング・フェイリァ”、だね……ネオユニヴァースは『残念』をしているよ」

     ユニヴァースはしょぼんとした表情で、顔を俯かせた。
     心が痛むものの、仕方があるまい。
     というか、自分のコートに手を突っ込めば良かった、と思い至ったその直後。

    「────それじゃあ、“コネクト”をするね?」

     俺の冷え切った両手が、ふわふわとした感触に包まれる。
     ユニヴァースは正面から向き合い、手袋で包まれた彼女の両手で、俺の両手を掴んでいた。
     まるで腕で弧を作るように、俺達は両手を握り合っている。

  • 7二次元好きの匿名さん23/12/03(日) 01:52:19

    「ふふっ、今なら“UAP”を起こせそう……マーベラス☆マーベラース★☆」
    「……この状態なら、ベントラーじゃないかな」

     ユニヴァースは空を見上げながら、その場でくるくると回るようにステップを踏む。
     手加減はしてくれているのか、俺でも何とか追いつける速度で。
     止めるべきだったかもしれないが、彼女の表情は、耳の動きは、尻尾の揺れはとても楽しそう。
     見ている俺の方まで、微笑んでしまうほどに。

    「ネオユニヴァースは『ポカポカ』になったよ、トレーナーとは“同期”出来たかな?」
    「うん、指先だけじゃなくて、なんだか心まで温かくなりそうだ」
    「……スフィーラ、『わたし』と『おんなじ』だね、“EXAL”達にも伝えてあげたいな」
    「じゃあ、学園まではこのまま、ランデブーと行こうか」
    「……“ミューテフ”」

     ユニヴァースははにかんだ笑みを浮かべて、一言、そう告げる。
     そうして俺達は、別の宇宙への交信を続けながら、学園へとゆっくり向かうのであった。

  • 8二次元好きの匿名さん23/12/03(日) 01:52:51

    お わ り
    ネオユニの秋ホーム台詞ネタです

  • 9二次元好きの匿名さん23/12/03(日) 01:53:53

    秋じゃない冬ホーム台詞ですね

  • 10二次元好きの匿名さん23/12/03(日) 02:05:54

    最初から手を握るほうで来るかとおもったがポケットハグとはこのリハク。

    客観的に見てあすなろ抱きの亜種という感じですかね。男が後ろで入ってるよねな構図も女が後ろで愛らしさが先行する感じも美味です。
    素敵な作品をありがとうございます!

  • 11123/12/03(日) 07:52:42

    >>10

    ありがとうございます

    なかなか見た目が想像しづらいですよね

    でも夢のあるシチュだと思いました

  • 12二次元好きの匿名さん23/12/03(日) 08:52:24

    英雄的行為で草生える
    色を好むとは言うけどさぁ

  • 13二次元好きの匿名さん23/12/03(日) 08:57:13

    朝からいいもん見してもらいましたわ...

  • 14二次元好きの匿名さん23/12/03(日) 12:15:36

    英雄的行為(イチャイチャ)

  • 15二次元好きの匿名さん23/12/03(日) 12:34:04

    確かに野外でのイチャイチャは英雄的行為ではあるが…

  • 16123/12/03(日) 19:12:39

    >>12

    学園前でイチャついていたら英雄的行為ですわ

    >>13

    そう言っていただけると幸いです

    >>14

    早朝じゃなかったらそれはそれで大変なことになってたとか

    >>15

    早朝だったからセーフ理論

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