- 1二次元好きの匿名さん23/12/03(日) 22:34:33
俺はキングヘイローのトレーナー。今日は彼女と、彼女の親族が主催するダンスパーティーに訪れている。
キングは普段から一流を名乗り自分を鼓舞し続けている。
トゥインクルシリーズの三年間において、悪戦苦闘したものの、一流に相応しい成果をあげることができた。
そして彼女の一流はレースだけでなく、日常の立ち居振る舞いや社交の場での立ち回りにも及ぶ。
トレセン学園において、慣れないことにも果敢に挑戦し、見栄を張り、ボロを出すことも多いが、こういう場での振る舞いは実に板についている。
キングはダンスパーティーが始まってから何人もの男性からダンスに誘われ、優雅な舞を披露している。
ダンスだけではなく、ダンスに誘われた時の受け答えや、様々な年齢の男性と交わす会話も完璧だった。
かたや俺はどうだろう、事前にキングから簡単なステップを学んだものの、最初のダンスをキングとした後は、すっかり壁の花になっていた。
住む世界が違う、嫌な言葉が頭によぎる。
そんなことを考えていると曲が終わりキングはダンスパートナーに礼をし、こちらに振り返り歩み寄ってきた。
何度も踊っているためうっすらと汗をかき上気している姿は、健康的な魅力に溢れている。
キングと踊った男性は同伴者の俺に恭しく礼をし、会場に戻っていく、先ほどから何度も繰り返したやり取りだった。 - 2二次元好きの匿名さん23/12/03(日) 22:34:55
「ちょっとあなた、まさかエスコートしたパートナーとも最後まで踊らないつもりじゃないでしょうね」
先ほどまで楽し気に振舞っていたキングは俺の前に立つと途端に不満を露わにした。
「そうは言うけど、今の俺のダンスの技量じゃ一緒に踊るキングにも迷惑かけるよ」
俺の返答にキングは大げさに呆れたというリアクションをする。その仕草は不思議とこの場の雰囲気によく合っていた。
「あなたは日頃の私の何を見ているの?始めないことにはずっとできないままよ。それに私は……あなたがいいのよ」
「そうだな……、一曲踊っていただけますか?」
キングに習った、いかにも付け焼刃という仕草で彼女をダンスに誘う。
「おばか、同伴者の誘いを断るわけないでしょう」
キングは先ほどの不機嫌な様子はどこにいったのか、言葉尻はともかくにこやかな笑みを浮かべていた。
「足元は見ないで、私を見て、呼吸を合わせて……」
キングは最初のダンスでキングの足を何度も踏んだせいでびくびくしている俺に的確にアドバイスをくれた。
「そう、上手よ。いい感じじゃない」
曲が終わりを迎えるころには何とかキングと息を合わせて踊ることができた、気がした。 - 3二次元好きの匿名さん23/12/03(日) 22:36:29
「ねえ、あなた、せっかく踊れるようになってきたし……」
「もう一曲踊ろうか」
「あ……ええ、喜んで」
きっとキングはこう言ってほしいという気がした、それが正解だったのは彼女の耳の動きを見ればよくわかった。
フロアで次の曲が始まるのを待っていると、不意に照明が薄暗くなり、明らかに今までと違う曲調の曲が流れた。
「ちょ、ちょっと、こんな聞いてないわよ」
キングはフロアに流れた曲で即座に自体を把握したらしい。周りをよくみると、先ほどより色っぽい雰囲気になっていた。
「チークタイムよ」
チークタイム、聞いたことはあるレベルだったが、どんなことをするかは一目瞭然だった。
キングは俺の腕の中ですっかり狼狽えていた。二人でこの場を離れることは容易いが、それじゃダメな気がした。
「キング、さっき俺がいいって言ってくれたよな」
「ええ」
「俺もキングがいい、キングじゃなきゃダメなんだ」
キングは消え入りそうな声で「はい」と答えて、俺の胸に顔を埋めた。
俺は改めて誓った、「キングに相応しい一流の男になろう」と。 - 4二次元好きの匿名さん23/12/03(日) 22:37:07
以上になります。お目汚し失礼しました。
読んでいただいた方、ありがとうございます。 - 5二次元好きの匿名さん23/12/03(日) 23:52:55
ちょっと後日談を投下させていただきます
- 6二次元好きの匿名さん23/12/03(日) 23:53:16
ダンスパーティーから数日経ったある日、俺はトレーナー室でキングとの打ち合わせの資料をまとめていた。
そんな時、
「あなた、いるわよね」
キングによって乱暴にトレーナー室のドアが開かれた。
普段、丁寧な所作を心がけている彼女だが、時折、こんなことをする時がある。
そういう時は概ね面倒くさいことになる。たぶん、今日もそうだろう。
「ちょっと聞きなさい、あのダンスパーティー…その、あれよ」
キングは怒っているのか恥ずかしがっているのよくわからない様子でもじもじし始めた。
「ダンスパーティー、ああ、キングのおかげで楽しかったよ」
「そう、それはよかったわ……ってそうじゃないわよ、チークタイムのことよ」
キングはどうやら自分で「チークタイム」という単語を口にするのを恥ずかしがっていたが、つい勢いで口にしてしまったようだ。
キングいかにも不貞腐れている様子で俺を見ている。 - 7二次元好きの匿名さん23/12/03(日) 23:53:37
「なあ、キング、そのチークタイムがどうかしたのか」
「どうかしたのか、じゃないわよ。あれ、お母さまの差し金だったのよ」
あとでキングに聞いた話だと最近はチークタイムがないのが一般的だそうだ。
確かにダンスを楽しむ場であればそれもそうかなと思う。
それにキングが他の誰かとチークダンスを踊るところなんて想像したくない。
「あの人、私とあなたが踊り出したら、そうするように頼んでいたんですって!おじさまを問い詰めたら白状したわ」
「キングのお母さんが?何のために」
「知らないわよ、そんなの!もう、せっかくあなたとダンスを楽しんでいたのに」
キングの母親が何のためにチークタイムをさせたのかは考えないようにした。
このままキングの機嫌が悪ければ、ミーティングの内容も耳にはいらないだろう。
そのためにはキングを落ち着かせ……いや、今日は俺も自分の気持ちに素直になることにした。 - 8二次元好きの匿名さん23/12/03(日) 23:53:52
「キング、私と踊っていただけますか」
俺はキングに教わった、ダンスに誘う作法に乗っ取り手を差し出した。
あの日のダンスが楽しかったのは俺も同じ、それをキングに伝えたかった。
「はい、喜んで」
キングはスカートの裾を摘み、一礼をして俺の手を取った。
二人だけのダンスパーティー、この日のダンスは俺たちにとってきっと大切な一日になるはずだ。 - 9二次元好きの匿名さん23/12/03(日) 23:54:29
今度こそ以上になります。
読んでいただけると嬉しいです。 - 10二次元好きの匿名さん23/12/04(月) 00:09:54
乙、赤キングいいよね
- 11二次元好きの匿名さん23/12/04(月) 01:47:28
!掛かり
このママ可愛いぞ。乙です〜 - 12二次元好きの匿名さん23/12/04(月) 06:09:04
📱「早く孫の顔を見せなさい」と言ったところかな?
- 13二次元好きの匿名さん23/12/04(月) 06:23:41
ウマ娘やトレーナーが掛かる展開はよく目にしてきたがまさかママンが掛かるとはこのリハクの目を持ってしても……
- 14二次元好きの匿名さん23/12/04(月) 08:24:39
ご感想いただき嬉しいです。
このSSだともう和解してそうですが、キングとお母さまの和解話とかも書きたいと思っています - 15二次元好きの匿名さん23/12/04(月) 08:32:01
- 16二次元好きの匿名さん23/12/04(月) 13:15:13
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