- 1作者◆t/sR6m2cmSB022/01/06(木) 20:38:13
突然だが、葦毛の逃げで「スカイ」の名を持つウマ娘と言えば誰を思い浮かべるだろう?
ほとんどのウマ娘ファンは恐らくこう答えるだろう。
3000メートルの世界レコードを記録したウマ娘「セイウンスカイ」と。
しかし運命のいたずらか、葦毛の逃げで「スカイ」の名を持つウマ娘は他にもいるのだ。
その名も「フローズンスカイ」。
ウマ娘ファン達からは通称「じゃない方のスカイ」と呼ばれる、僕の担当ウマ娘だ。
今では、そう言われているがデビュー前はフローズンスカイ……フローの方が評価が高かった。
セイウンスカイにはサボり癖があり、学内での評価も高くなかったが、デビューしてからその評価は一転した。
ジュニアクラスから好成績でクラシッククラスに昇格し、そして「皐月賞」に勝利して「菊花賞」で世界レコードを叩き出した。
そして、それを僕はずっと近くで見てきた。
フローはずっと……目の前で見てきたんだ。
ずっと側にいたから、フローは「じゃない方」と呼ばれる事になった。
※ - 2二次元好きの匿名さん22/01/06(木) 20:39:42
うおっ懐かし…
- 3作者◆t/sR6m2cmSB022/01/06(木) 20:41:10
夕方のトレーナー室、僕は先ほど届けられたシニアクラス「天皇賞(秋)」の出馬表を見ていた。
「また、か」
思わずこぼれた言葉、真っ先に目に付いたのはセイウンスカイの文字。
「また、かぁ……」
また、あのウマ娘と走るのか。正直、もう会いたくはなかった。
去年の菊で、フローは一度心が折れてしまったから。
あの時から、本格的に「じゃない方」の烙印を押されてしまった。
フローの戦績が悪い訳じゃない。いい戦績だ。
重賞だって四回とった。立派だ。
ただ、G1は取れてない。入賞も出来ていない。
「いや、考え過ぎはよくない。良くないんだけどなぁ……、フローは絶対気にするよなぁ」
思わずため息が漏れた。
その時、トレーナー室の扉が開く。
「お待たせしました」
ゆるふわのセミロングを揺らしながら、フローが入ってくる。
そして目敏く、僕の持つ紙に目を止めた。
「あっ、それ天皇賞の出馬表ですね。誰が……」
と言った所で、僕の表情に気付き顔を曇らせた。 - 4作者◆t/sR6m2cmSB022/01/06(木) 20:44:27
「あー、もしかして?」
「うん」
「そうですか……」
そのやり取りで、彼女は十分把握できたらしい。
「セイちゃんかー」
困ったなぁ、と頬をかきながら苦笑する姿に心が痛くなる。
しかし避けられない。だから、やめよう等と声をかけない。
「じゃ、対策練っていこうか」
「……そうしましょっか」
あくまで前向きに、天皇賞(秋)に向けて僕たちは話し合いを始めた。
※
天皇賞(秋)を数日に控えてフローの仕上がり具合はいい。
しかし、調子はあまり良くない。明らかにプレッシャーを受けている。
「まずいよな、このままじゃ……」
元々、同じ逃げ馬同士、策も仕掛け辛い。
逃げの次に得意な先行策に出ることも考えたが、それだとフローの持ち味を行かせない。
G1で自分からリズムを乱すようなことはできない。
やはりフローは豊富なスタミナを生かし、一息ついて押しきるのがベストだ。
ベストだが……、それはやはり気持ちがついて来てこそ。
メンタルケアは難しい。時間が解決するものでもあるし、しないのものでもある。 - 5作者◆t/sR6m2cmSB022/01/06(木) 20:48:53
「ちょっと、考えなきゃかな?」
※
当日、いつもより少し遅れてフロー控え室に向かうと、そこからURAのスタッフが出てきたので会釈する。
扉を開け、スタッフの後ろ姿を見つつフローに話かける。
「スタッフが来てたけど、なんかあったのか?」
しかし、フローから言葉は返ってこない。
「……」
返事がないことを不安に思い、彼女を見ると──そこには花の香りを嗅ぎ、落ち着いた様子を見せていた。
花は、彼女の勝負服と同じ緑色の薔薇。それが8本束ねられた花束だった。
「……それは?」
聞くと、フローはこちらに笑顔を向けて来る。 - 6作者◆t/sR6m2cmSB022/01/06(木) 20:50:06
- 7作者◆t/sR6m2cmSB022/01/06(木) 20:51:21
レースは想像通り、フローとセイウンスカイが競り合う展開になった。
予想外だったのは、他に逃げを打ったウマ娘が二人、前を走っていた事だ。
しかし、前の二人はよく仕掛け打ってくるセイウンスカイを警戒してか、中盤に少し下がった。
セイウンスカイは先頭に立ち、フローはそれに食らいつく。
そして終盤、後ろから追い込みのウマ娘がかっ飛んで来た。
あらかじめ、フローにはそのタイミングを教えていた。
フローが大きく息を吸うのがわかった。
「いけ……!」
フローがセイウンスカイの前に躍り出る。
セイウンスカイは少し面食らった顔になり、スパートのタイミングを外した様だ。
「よし!」
思わず、拳を握る。
(頼む、このまま……!)
しかし、そうはならなかった。
セイウンスカイは脅威的な末脚を発揮し、フローを追い抜いた。
そして、迫っていた追い込みウマ娘にも抜かれる。
されど、結果は3着。
なんとか入賞を──ステージのスポットライトを浴びる場所を死守したのだった。 - 8作者◆t/sR6m2cmSB022/01/06(木) 20:54:56
「また、セイちゃんには勝てませんでした……」
ステージ控え室で頬をかきながら、フローは言った。
しかし、その顔に曇りはない。
「でも、このリベンジはURAファイナルズで返して見せますよ! 『じゃない方』だなんて言わせませんっ!」
張りある声で彼女は意気込む。
「あぁ、その意気だ。……でも、今日はライブを楽しむといい」
「はい、行ってきますね!」
こちらに手を振って、彼女はステージにかけていった。
それを見送り、僕はステージに向かう。
「はぁあ……」
誰もいなくなった控え室で椅子に腰掛けて大きく息をつき、鏡台の前に置かれた緑色の薔薇の花束を見る。 - 9作者◆t/sR6m2cmSB022/01/06(木) 20:56:18
「なーんとか、バレなかったなぁ」
ソレを用意したのは僕だ。
花束を用意し、メッセージカードを書き、スタッフに届けるようお願いした。
薔薇を選んだのは彼女が「フ『ローズ』ンスカイ」だから、緑色を選んだのは彼女の勝負服と同じなのもそうだがその意味が「穏やか」と「希望を持ち得る」という僕の願いそのものだったから。
そして、8本なのは「あなたの思いやり、励ましに感謝します」という意味だったから。
フローがどれほどの意味を汲んでくれたかはわからない。
でも、その内の少しでも受け取ってくれればと思った。
「……キザな事しちゃったよな」
今更ながら顔が熱い。
もう、こんなことは勘弁だと思いながら、僕は立ち上がって控え室を出ていく。
あの子の晴れ姿を見逃す訳には行かない。 - 10作者◆t/sR6m2cmSB022/01/06(木) 20:57:52
※
「ふんふふー♪」
私は鼻歌交じりでステージ裏に着いた。笑顔になる顔を止められない。止めるつもりもないけど。
「おやおや~、ずいぶんご機嫌ですね~」
そこを目敏いセイちゃんに見つかり、笑顔で答える。
「まぁ、初めてのG1入賞だからね!」
セイちゃんはそれだけ? とでも言いたげな顔だったが、私は変わらない笑顔で言う。
「さっ、ライブだよライブ! 一緒に楽しもっ!」
そして、セイちゃんの手を引いて歩き出す。
彼女はおっと~、おどけながら手を振りほどく事はなかった。
(どうせなら、赤い薔薇がよかったな)
心の中で思う。
まずスタッフが薔薇を届けてくれることがおかしい。そんな事が許されるなら、人気ウマ娘たちの控え室はプレゼントで埋め尽くされてしまう。
そして、筆跡でバレバレだった。
(らしくない事してまで、私にがんばって欲しかったんだよね……)
だから、
(今日のライブは、私の最初のファンに送るよっ!) - 11二次元好きの匿名さん22/01/06(木) 20:59:17
アーイイ…
- 12二次元好きの匿名さん22/01/06(木) 20:59:43
良い!良いSSだ!モブウマ娘のトレウマSSは素晴らしい!セイウンスカイとも仲が良さそうでさらに良い!!
- 13作者◆t/sR6m2cmSB022/01/06(木) 21:00:30
- 14作者◆t/sR6m2cmSB022/01/06(木) 21:01:38
お久しぶりです。
薔薇の色と本数はあなたにおまかせ。 - 15二次元好きの匿名さん22/01/06(木) 21:04:11
これは素晴らしい物だ
- 16二次元好きの匿名さん22/01/06(木) 21:07:06
追い込みのウマ娘(ゴルシ)
- 17二次元好きの匿名さん22/01/06(木) 21:13:07
マジだった
- 18二次元好きの匿名さん22/01/06(木) 21:24:05
久しぶり!
楽しかった! - 19二次元好きの匿名さん22/01/06(木) 21:26:08
久しいな、たっぷり成分補給させて貰ったぞ。
- 20二次元好きの匿名さん22/01/06(木) 21:30:27
本家掲載おめでとう。
あれはビックリした。 - 21二次元好きの匿名さん22/01/06(木) 21:45:12
モブトレ視点って珍しいな
- 22二次元好きの匿名さん22/01/06(木) 21:51:38
いい……!
- 23二次元好きの匿名さん22/01/06(木) 21:55:35
おかえりなさい!
- 24二次元好きの匿名さん22/01/06(木) 22:12:17
- 25作者◆t/sR6m2cmSB022/01/06(木) 22:19:50
- 26二次元好きの匿名さん22/01/06(木) 22:34:23
良かった。
またお願いします。 - 27二次元好きの匿名さん22/01/06(木) 23:20:35
もしも法と倫理が許すなら
全てのモブウマ娘のエモエモなSSを書き終えるまで作者を監禁するのになあ - 28二次元好きの匿名さん22/01/07(金) 05:52:14
600以上を!?
- 29二次元好きの匿名さん22/01/07(金) 14:39:15
- 30二次元好きの匿名さん22/01/07(金) 23:27:10
フローズンスカイは牝馬(左耳飾り)だからティアラ路線かと思い込んでたけど、
現実で牝馬のメロディーレーンが菊花賞に出てたりするから、スタミナ自慢なら、って発想もありだなぁ…