(SS注意)シュヴァルグランが自分のトレーナーと姉の逢瀬を目撃する話

  • 1二次元好きの匿名さん23/12/07(木) 23:17:59

     トレーナーさんと出会ってから、僕は少し変われたと、自分でも思っている。
     きっと、彼はそれを否定するのだろうけど。
     知らない人と話すことが得意でない僕を、根気強く、親身になって支えてくれた。
     もう一つで勝ちきれない僕に、後一歩を踏み出す勇気と自信を教えてくれた。
     そしてついにm大舞台での、欲しくてたまらなかった勝利を、僕にくれた。

    「……えへへ」

     あの時のことを思い出すと、どうしても笑みが零れてしまう。
     ターフの上で、嬉しくて、泣きそうになりながらもトレーナーさんの姿を探した。
     ついに見つけた彼は、すでにボロボロに泣きながら喜んでくれていた。
     そういう男の人の姿を見るのは初めてで、なんだかドキドキしてしまったのを覚えている。

    「トレーナーさん、今何をしてるのかな……?」

     空を見上げる。
     今日は雲一つない晴天、釣り具の調達を優先したけれど、釣りに行けば良かったと少し後悔。
     でも今日は一日天気が良いみたいだから、買い物の後に行くもの良いかもしれない。
     ああ、急ではあるけれど、トレーナーさんを誘ってみようかな。
     そんなことを考えて歩いていると、ふと、匂いを感じた。

    「……これ」

     たくさんの人が行き交う街中、トレーナーさんの匂いを突然感じて、鼻先がぴくりと動く。
     本来ならば気づくはずもない、ただの勘違いかもしれない、そんな偶然あるわけない。
     頭ではわかっていても、僕はきょろきょろと、トレーナーさんの姿を探してしまった。
     会えたらよいな、会いたいな、そう思って。
     ────そんな風に、浮かれているから気づけなかったのだろう。
     彼の匂いに混ざっていた、もう一つの、慣れ親しんだ匂いに。

  • 2二次元好きの匿名さん23/12/07(木) 23:18:16

    「あっ……!」

     そして、僕は見慣れた後ろ姿を見つける。
     背は平均的な男の人と同じくらいだけど、とても頼りになって、見てて安心する背中。
     見つけた瞬間、まるで犬みたいにぶんぶん揺れる尻尾に恥ずかしくなりながら、小走りで近づく。

    「……えっ」

     そして、僕は見つけてしまった。
     トレーナーさんの隣に立つ、トレーナーさん以上に見慣れた、後ろ姿を。
     それは、小さい頃かずっと、今なおずっと、この目に焼き付いている背中。
     青毛の綺麗なロングヘアー、高潔さを示すかのような立ち姿。

    「……ヴィルシーナ、これなんて、どうかな」
    「ええ、良いんじゃないかしら、きっと似合うと思うわ」

     トレーナーさんの隣に立つ姉さんは、まるで僕やヴィブロスを見るような笑みを、彼に向けていた。

  • 3二次元好きの匿名さん23/12/07(木) 23:18:48

     呆然と、その場で立ち尽くしてしまった。
     信じられないものを見てしまったような気がして、思わず目を逸らしてしまいそうになる。
     けれど、それは出来なかった。
     奇しくも、トレーナーさんと共に育んできた勇気が、それを許してくれなかった。

    「もう少し落ち着いた色合いが良いと思うわ」
    「そっ、そういえば、さっきのお店にそういうのがあったような」
    「あら、それなら戻ってみましょう」
    「……でも時間が」
    「あなたにとっての『一番』に時間を惜しむべきではないわ」
    「…………それもそうだね、ありがとう」

     姉さんは僕達を諭すような笑顔で、トレーナーさんにそう言って。
     トレーナーさんは僕に向けるような優しい笑顔で、姉さんにそう言った。
     その姿はまるで、同じ目標に向けて共に歩む、担当ウマ娘とトレーナーのように見える。
     
     どうして、トレーナーさんの隣に姉さんがいるのか。
     どうして、姉さんの隣にトレーナーさんがいるのか。
     どうして────それが、とてもお似合いの二人に、見えてしまうのか。

     困惑する僕の中に、冷静にそれを見つめる僕がいた。
     僕と違って、トレーナーさんは大人の男性だ。
     姉さんは、僕と大して年齢は離れてはいない。
     けれど、長年僕達の面倒を見ていてくれたせいか、高等部と勘違いされるほど大人びていた。
     だから、どこまでいっても子どもっぽい僕と比べれば、姉さんの方が似合っているに決まってる。

    「あはは……」

  • 4二次元好きの匿名さん23/12/07(木) 23:19:01

     乾いた笑い声が、口から漏れてしまう。
     何を勘違いしていたんだろう、何を浮かれていたんだろう。
     勝手に勘違いして、勝手に浮かれて、勝手に傷ついた気持ちになって。
     本当に、子どもだ。
     こんなことじゃ、トレーナーさんと対等な関係になんて、なれるはずがなかった。
     
     ────帰ろう。

     ずっと、二人の逢瀬を眺めているのも悪い。
     でもこの街にいる限り、二人のことが気になってしまうから、今日はこのまま帰ろう。
     そして、釣りに行こう。
     何も考えないで、ただ糸を垂らしていれば、きっとどうにかなるはずだ。
     この胸のぎゅっとした痛みも、ぐちゃぐちゃになってしまった頭も。
     僕は、トレーナーさんと姉さんから目を逸らして、踵を返した────はず、だった。

    「……っ!」
    「わっ! ……えっ、シュヴァル?」
    「きゃっ……って、シュヴァルじゃない」

     気が付けば、僕はトレーナーさんと姉さんの間に、割って入っていた。
     歩みを進めた瞬間にハッとなって、頭が真っ白になってしまう。
     顔を上げれば、驚きの表情で僕を見つめる二人の視線。
     当然だろう、二人でショッピングをしていたら、共通の知り合いが突然乱入してきたのだから。
     一体、僕は何をしているんだろうか。
     自分自身でも糸が掴めない、突飛な行動に心臓がバクバクと音を鳴らし始める。
     口が震えてしまって声も出せず、顔が熱くなって、何も考えられなくなって。
     それでも、『ここ』から、離れたくないと思ってしまって。

  • 5二次元好きの匿名さん23/12/07(木) 23:19:16

     僕はトレーナーさんに背を向けて、姉さんと正面から対峙した。

     どういう目で姉さんを見ていたのかは、自分でもわからない。
     ただ、姉さんは珍しいものを見るように、きょとんとした表情を浮かべて、やがて。

    「……ふふっ、へぇ、あなた、そういう表情も出来るのね?」

     姉さんは、にやりと微笑む。
     心の底から、楽しくて仕方がない、そう言わんばかりの顔だった。
     張り詰めた空気が、流れる。
     ここまでしてしまったのだ、姉さんが相手であろうとも、今更逃げるわけにはいかない。
     僕は、意を決して────。

    「ちょうど良かったシュヴァル、この帽子どう思う、キミに似合うと思うんだけど」
    「えっ?」

     その瞬間、トレーナーさんが回り込んできて、帽子を見せて来た。
     いつも僕がしているのものに似ている、でもちょっとだけ色合いが派手な、ウマ娘用の帽子。
     彼は、普段通りの、見ているだけ元気になるような、優しい微笑みを見せていた。
     それを見て、姉さんは呆れたように大きなため息をつく。

    「……はぁ、シュヴァルには内緒にしておくんじゃなかったのかしら?」
    「……あっ」
    「えっ、えっ?」
    「G1制覇記念のサプライズプレゼントを用意したい、というから付き合ったのに」
    「す、すまないヴィルシーナ、シュヴァルに会えたものだから、つい」
    「えっ、えっ、ええっ?」

     困惑の声を上げながら、僕はトレーナーさんと姉さんの顔を交互に見てしまう。
     こんな時に限って明瞭に働く僕の思考は、今の状況を冷静に分析してしまった。

  • 6二次元好きの匿名さん23/12/07(木) 23:19:33

     トレーナーさんは、G1勝利記念に、僕へサプライズプレゼント用意しようとした。
     姉さんはその意を汲み取って、そのプレゼント選びに付き合っていた。
     
     それは、その、つまり、今までのことは、完全に────。

    「……こうなった以上は、本人と一緒に選ぶのが一番でしょう、私は帰らせてもらうわ」
    「あっ……今日はありがとうヴィルシーナ! このお礼は必ずさせてもらうからっ!」
    「気にしなくてもいいわ、とても珍しいものが見れたから…………ねえ?」

     そう言って、姉さんはちらりと僕を見る。
     心の底から、楽しくて仕方がない、そう言わんばかりの顔だった。
     そして姉さんは僕に顔を近づけて、囁くように、耳打ちをする。

    「────シュヴァルのトレーナーさんを取ったりしないから、大丈夫よ」
    「…………ねっ、姉さんっ!」

     かあっと顔が熱くなる僕を尻目に、姉さんはご機嫌な足取りで笑いながら立ち去って行った。
     その場に残されたのは、真っ赤な顔を隠すために帽子を深く被る僕と、何も知らないような表情のトレーナーさん。
     ……何故か、そんな彼を、とてもずるいと、思ってしまった。
     だからだろうか。
     そんな彼の顔色を、少しでも変えてやりたいと、僕は考えた。

    「えっ、シュッ、シュヴァル?」

     トレーナーさんの腕を取って、胸や身体を押し付けるように、抱き着く。
     普段ならば絶対にしない行動、普段ならば絶対に出来ない行動。
     そんな僕にトレーナーさんは顔を赤らめながら、慌てふためいている。
     僕の全てが、彼に伝わってしまうようで、僕も凄い恥ずかしかった。
     近づいたことによって、先ほどよりも強く感じるトレーナーさんの匂い────と、姉さんの匂い。
     気づいた瞬間、心が騒めいてしまう。

  • 7二次元好きの匿名さん23/12/07(木) 23:19:53

    「……トレーナーさん」
    「どっ、どうした? それと一旦離れてくれると助かるんだけど」
    「…………」

     トレーナーさんの要望。
     僕はそれに対して、尻尾で彼の背中をすりすりと撫でる、という行動で応えた。
     ……姉さんの匂いを、少しでも打ち消したかった、という意図もある。
     彼はそんな僕も見て、仕方ないな、という感じでも優しく微笑んだ。
     嬉しいと思う反面、僕の想いには気づいてないんだろうな、と残念に思う。
     でも、今はとりあえず。

    「あの……姉さんと一緒に回ったお店……僕と一緒に見てもらっても良いですか?」
    「ああ、勿論、他のお店にもキミに似合そうなものがたくさんあって、迷ってたんだ」
    「ふふっ……それは、楽しみ、です」

     ────トレーナーさんの今日の思い出を、僕との思い出に、塗り替えないと。
     僕は彼の肩に頬を寄せながら、彼と共に街へと繰り出していくのだった。

  • 8二次元好きの匿名さん23/12/07(木) 23:20:22
  • 9二次元好きの匿名さん23/12/07(木) 23:21:14

    >>8

    やはり発端はあのスレでしたか…素晴らしいモノをありがとうございます……

  • 10二次元好きの匿名さん23/12/07(木) 23:24:07

    >>8

    今日も良作ごちそうさまです

  • 11二次元好きの匿名さん23/12/07(木) 23:24:11

    文豪じゃあ捕えろ!

  • 12二次元好きの匿名さん23/12/07(木) 23:32:56

    Nice SSです。独占力シュヴァル可愛いヤッター!

  • 13二次元好きの匿名さん23/12/07(木) 23:49:39

    良い……

  • 14二次元好きの匿名さん23/12/08(金) 00:35:50

    王道シチュは強力だから王道なんやなって

  • 15二次元好きの匿名さん23/12/08(金) 01:02:13

    >> 姉さんの匂いを、少しでも打ち消したかった


    >> トレーナーさんの今日の思い出を、僕との思い出に、塗り替えないと。


    大丈夫?このシュヴァちちょっとヤンデレ入ってない?……このシュヴァルになら包丁で刺されたい

  • 16二次元好きの匿名さん23/12/08(金) 01:05:22

    おとなしい妹が姉に意を決して逆らう姿からしか得られないものがある

  • 17二次元好きの匿名さん23/12/08(金) 02:43:52
  • 18二次元好きの匿名さん23/12/08(金) 02:55:00

    独占欲高めなシュヴァルはいいぞ…

  • 19123/12/08(金) 07:52:23

    感想ありがとうございます

    >>9

    あちらに書かれていたのがとても良かったので

    >>10

    そう言っていただけると幸いです

    >>11

    !?

    >>12

    独占力強めな女の子は万病に効く

    >>13

    シュヴァルちゃんいいよね……

    >>14

    王道たる所以ですねえ

    >>15

    独占力の発露だからセーフ でもヤンデレでシュヴァルちゃんは可愛いと思います

    >>16

    いいよね……結局勘違いで恥ずかしがるのも良い……

    >>17

    イラストありがとうございます

    キリッとしてるシュヴァルちゃんと呆れ顔の姉さんと呑気なトレーナーの対比が良き

    >>18

    引っ込み思案な子にはこういう時にアクティブになって欲しい

  • 20二次元好きの匿名さん23/12/08(金) 07:52:51

    嫉妬シュヴァちでしか摂取できない栄養はある

  • 21二次元好きの匿名さん23/12/08(金) 13:03:58

    >>17

    ヴィルシーナの目が良い

  • 22123/12/08(金) 19:42:04

    >>20

    控えめな女の子が嫉妬心を出すのは万病に効く

  • 23二次元好きの匿名さん23/12/09(土) 07:42:43

    >>17

    ヴィルシーナ姉さんの顔がムーミンみたいになってて可愛いですね。

  • 24二次元好きの匿名さん23/12/09(土) 19:41:35

    >>トレーナーさんの腕を取って、胸や身体を押し付けるように、抱き着く。


    シュヴァルちゃんの体型で男性にそれを実行するのは逆セクハラなのでは?(建前)

    いいぞいいぞ、もっとやってトレーナーさんを確実に抑えこむんだ(本音)


  • 25123/12/09(土) 21:36:08

    >>24

    攻め攻めになったシュヴァルちゃんは無敵なんや

  • 26二次元好きの匿名さん23/12/10(日) 09:36:29

    シュヴァルちゃんの尻尾に背中撫でられるなんて羨ましすぎる…

  • 27二次元好きの匿名さん23/12/10(日) 16:40:45

    素晴らしっ(遺言)(幽体離脱する)

  • 28123/12/10(日) 22:13:51

    >>26

    僕はヴィルシーナ姉さんの尻尾ではたかれたいと思っています

    >>27

    逝かないで……

  • 29二次元好きの匿名さん23/12/11(月) 10:10:29

    もしかしてこのトレーナーさんはもう逃げられなくなってる?

  • 30123/12/11(月) 19:28:05

    >>29

    仮にシュヴァルが許したとしても他が許さないからね……

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