【閲覧注意】【SS注意】Brush my teeth WITH her finger!

  • 1二次元好きの匿名さん23/12/11(月) 12:30:51

    とある日。

    トレーナー室で弁当を食べ終えた。いつも通りのコンビニ弁当だが、トレセン学園内の売店で売られている弁当は、日本最高峰のウマ娘専門学校らしく、栄養バランスにも気が払われているようだ。
    白ごまの振られたご飯に柴漬け。卵焼き、くきくきとしたほうれん草のお浸し、アスパラの豚肉巻き、鶏のから揚げが二つ、肉団子、春巻き、――皮がパリッとして美味しい――、肉汁溢れるシューマイ、底に敷かれたスパゲッティ。
    やや甘いニンジンの煮つけと、わずかに塩味の効いた茹でたブロッコリー。どの弁当にも、ニンジンが必ず入っているのがトレセン弁当の特徴の一つだろう。それと、ポン酢味の大根サラダも添えた。味も量も満足な内容だ。
    最後の胡麻団子もやさしい甘味だ。
    お茶をごくりと飲み干す。

    「ふぅ……」

    やっぱり食後はウーロン茶だな。さっぱりとした味が口の中の脂を流し去ってくれる。
    卵焼きの味付けは意見が分かれるだろうが、弁当は塩味派だ。やはりトレーニングはトレーナーも汗をかくし、塩分補給も大事だ。甘いだし巻き卵は、夜の酒席には欠かせないのだが――――。

  • 2二次元好きの匿名さん23/12/11(月) 12:31:34

    「……ん?」

    「トレーナー、今いいかしら?」

    おや、この声は、担当であるサトノクラウンだ。
    軽くなったペットボトルを片手に持ちながら、返事をした。

    「あ、……ああ、いいよ」
    「? 入るわね。――――ちょうど食後だったかしら」

    意外にも、勝負服を着たクラウンが現れた。今日は気合が入っているのか、なにか特別なことがあるのだろうか。
    クラウンは、後ろ手にドアを閉めながら、机の上に置かれたカラの弁当箱に目をやった。銀色のドアノブを握る、黒の長手袋が妙に映えた。

    「ちょうど食べ終えたばかりだよ。今、片付ける」
    「ゆっくりしてていいわよ。トレーナーもお昼はゆっくりしたいでしょ? その代わり……でもないけど、トレーニングはしっかり付き合ってもらうからね」
    「ああ、もちろん。すばらしいデビュー戦、そしてもう、重賞制覇なんて。すごいよ。次も決して負けないさ。……ただ、もう少し期間を開けて……トレーニングをしよう」
    「そうね……」

    クラウンは少し考え深げに頷いた。

  • 3二次元好きの匿名さん23/12/11(月) 12:32:11

    「トレーナー、この格好、どう思う?」

    勝負服? ああ、とても、よく似合っている。深い緑が、森のように、目に優しく……黒い足元や手袋が、全体を引き締めていて……胸元のリボンや、少し見える腕の白が鮮やかでまぶしく……。

    「じゃなくて、どうして今さら…勝負服の感想を?」
    「まあ、それは本題じゃないのよ、……でも、ありがとう」
    「どういう、こと?」
    「ええと……、トレーナー、その前に、その話し方はどうしたのかしら。奥歯に何かものが挟まったような」
    「ああ……ごめん。さっき食べた弁当のほうれん草か何かが、歯に挟まっているみたいで」
    「あら、やっぱり。It’s literally!」
    「本当に文字通りだ。先に歯を磨くよ」
    「フロスは持っていないの? 歯を磨く前に、フロスをした方がいいわよ」
    「そうなの?」
    「ええ、先にフロスをすると、それこそ挟まった食べ物が取れるし、歯磨きしたときにも歯の間の汚れが取れやすくなるのよ」
    「そうなんだ……たしか、前に買ったのが引き出しにあったような……あ、あった」

    引き出しの奥から、フロスの箱を取り出した。

    「それ、Y字になってて使いやすいやつじゃない」
    「前にトレーナー仲間で薦められてたやつで……いいやつなんだね、これ。ちょっと洗面所に行ってくるよ」

    トレーナー室には、小さな給湯スペースがある。そこに鏡をつければ、簡易な洗面台になる。
    本来の目的通り、お茶やコーヒーを入れたりできるし、遅くまで仕事があるときには顔を洗ったりして、気分転換することもできる。

    「いってらっしゃい」

    視界の端で、クラウンの耳がピコピコとはためいた。

  • 4二次元好きの匿名さん23/12/11(月) 12:32:43

    ◇ ◇ ◇


    洗面台に立つ。実はお茶を飲んだところで、何か舌に違和感を感じていたのだ。少し高い鏡に向かって、口を開けると、確かに何か緑のものが、奥歯と前歯の間の辺り……に挟まっている。

    箱からフロスを取り出して、歯に当てる。言われてみれば、先に食べ物を取ったほうが、効率的だ。
    前後にフロスを動かしながら、歯と歯の間に挿し込む。割とすぐに、取れた。スッキリだ。やけに隙間が空いた気がする。ついでだし、他の歯も掃除しておこう。

    …………。
    ……。

    だいたい取れたかな。もう歯ブラシを使って歯磨きも済ませてしまおう――――。

    「トレーナー!」
    「わっ!」

    鏡の端から、ひょっこりとクラウンが顔を出した。
    振り返ると、悪戯っ子のような笑顔を浮かべたクラウンが、顔をのぞかせていた。ちょうど、腕が白から黒に変わるあたりが見えた。

    「どうしたの?」
    「ちょっと……思いついたことがあって」

    頬を緩めて、手袋に包まれた腕をほっそりと伸ばしてくる。

    「ちょっと、……クラウン。ドアから見えないところだからって……。それにまだ歯を磨いていないよ」
    「うふふ、そのことなんだけど……」

    その手が、棚からコップと、薄緑色の歯ブラシを取り出した。

  • 5二次元好きの匿名さん23/12/11(月) 12:33:05

    「私にやらせてくれない?」

    ……え? 何を? ……まさか。

    「……は・み・が・き。フロスをしたから、歯磨きしたくなったでしょう。私がしてあげる」
    「……で、でも、するったって、クラウンに?」
    「そうよ。個人的にもしてみたいことがあって……」
    「でも、クラウンになんて。歯磨きなんて自分でできるし、クラウンもしてあげたことってあるの?」
    「もう。いいじゃない。大丈夫よ。I’m confident! それに――まだ、って、何のこと?」
    「いや、あの」
    「お姉さんの言うこと聞いて、こっちに来て」
    「はい」

    強引に手を引っ張られて、部屋に戻る。引っ張るその腕は、肩を後ろに大きく開き、ゆえに覆われていない腋がちらりと見えた。
    ……重賞も勝って、トレーナーらしくなってきたと思ったんだけどな……。まだ頼りないのか、クラウンにお姉さんぶられるときがある。


    クラウンに連れられてソファに来ると、ぽすん、と座った。黒く長い脚がゆっくりと畳み込まれていき、正座になった。
    この部屋のソファは仮眠もしやすいように、とサトノ家の援助で広めのソファベッドが贈られていた。
    ――――サトノ家の支援が、こんな目に出るとは、誰が予想しただろう。トレーナー間で部屋の差はないはずだが、学園側も後援を受けている立場、強く言えないようだ。

  • 6二次元好きの匿名さん23/12/11(月) 12:33:18

    「あなたは、ここ、ね」

    と、クラウンが流し目を見せた。誘われるようにちらりと見やると、ひし形とひし形の意匠に挟まれた、艶やかな黒が、正座になって、くゆりと不定形に形を変えていた。
    ぽんぽんと、膝をたたく。きりっと、両耳がこちらを捉えている。

    「……仕方ない」

    ソファベッドにもぞもぞと登る。内心、給湯スペースで意味ありげな顔を浮かべて近づくクラウンを見たときから――――いや、クラウンが勝負服姿でここに現れたときから、何かが起こる予感がしていた。

    不定形に膨らんだ脚から上に、互い違いに色の反転したひし形の意匠があり、すらりとした腰つきが上体を支えていた。深緑の上着が複数の縦のラインを描いて肩に到達し、眩い白に切り取られている。しかしすぐに黒に変わり、すらりと腕から手の先まで覆っている。胸元のリボンと合わせて、まるで木立に差し控える陽光のようだ。左右対称の衣装は、しかし王冠とサイドポニーによってアシンメトリーのゆらぎを与えられている。

    「……」
    「はい、ごろーん」

    あやすような声色にはあえて反応を見せず、背中を向け、そっと、後ろに倒れる。耳から順に、逆さまのクラウンの顔が見える。頭をその膝に載せた。
    むにという感触、そしてタイツのすべらかな感触。頭のてっぺんには何かが当たって……。ほんのりと、温かい。これは、お腹?
    視界は深緑と、大きく二つのラインが――――と、クラウンと目が合った。

  • 7二次元好きの匿名さん23/12/11(月) 12:33:33

    「……私も、さっきお昼食べたばっかりだから……お腹、おっきくなってて……。頭ぐりぐりしちゃダメだからね! あと、ここ見るのはダメ。よそを見るか、目、つむってて。はい、あーんして」


    あう。

    早口になったクラウンの言う通りにして、目を閉じる。左耳に、ひたりと手が添えられた。シルクのような……これも文字通りか、すべらかな手触りを、耳に感じる。

    視界が暗くなると、後頭部の感覚が鋭敏になった気がした。

    スリスリと、黒タイツの擦りあう微かな音、それに伴う太ももの形の変化。


    「じゃあ、歯ブラシを入れるわね……。泡が詰まるといけないから、ハミガキは付けずにいくわ」

    「ん」


    薄目を開ける。長い影が視界をまたいでいる。


    やさしく、毛先が上あごの歯と歯茎の間をなぞる。

    [[rb:紗 > シャ]]、紗、紗……と、小気味よく音を立てて、歯をなぞる。

    温かな体温を後頭部に受けながら、歯をなぞる。

    さわさわと、手袋をした指で耳のふちを撫でられながら、歯をなぞる。

    なぞられる。


    「いーってして」

    「……」


    前歯の辺りを、シャカシャカと磨く。歯茎のあたりをなぞられると、なにやらむずがゆい。

    自分で歯を磨くときはこんな感覚にはならないのに、不思議だ。自然と、にやと気持ち悪い笑みを浮かべてしまい、自ら前歯を大きく見せてしまう。

  • 8二次元好きの匿名さん23/12/11(月) 12:33:49

    「[[rb:好 > ホウ]]……なんだかすごく気持ちよさそうね」


    クラウンはその唇の形を弓のようにしならせて、ほほ笑んだ。


    「気持ちいい?」

    「ん」

    「えへへ」

    「んふふ」


    クラウンが喜んでくれている。嬉しい。


    「あーってして」

    「あー」


    奥歯のほうをなぞられる。

    シャカシャカと。

    奥歯の内側に斜めに歯ブラシを挿し入れ、テンポよく歯ブラシを揺らす、黒い手。

    クラウンの顔を逆さに見ていると、顎の下に口があるように見えるので、変な生き物がしゃべっているような、変な気分になってきた。


    「ちょっと、歯と歯の間に毛先を入れるために、強くするわよ?」

    「ぁん」


    やさしく毛先だけでブラッシングしていたが、わずかに力が強く込められて、歯と歯の間に押し付けるように当てられた。毛先は歯間に入ったまま、左右の振動だけ与えて、あまり音を立てずに掃除されていく。

    他人に歯磨きされるなんて初めてだが……。気持ちよくてぼーっとしてきた。

  • 9二次元好きの匿名さん23/12/11(月) 12:34:08

    「……指、入れるわね」

    「……んぁっ!?」


    開いた口に、指を入れられそうになった。流石に、驚いてしまって、唾を[[rb:嚥下 > えんげ]]した。


    「ごめん、[[rb:没事吧 > メイシーマ]]?」

    「んぅ」

    「えっと、指、入れないと、奥歯の外側を磨けないから。大丈夫?」


    視線を合わせて、目でうなずいた。


    「あーん」


    頬を広げるように、指が侵入してくる。手袋を付けた黒い指が、はいってくる。

    頬を引っ張られて、内側を指の第一関節に引っ掛けられる。

    開いた隙間に、歯ブラシを挿し入れられ、シャカシャカと、歯をなぞる。

    頬を上へ、下へと引っ張られる。クラウンの指によって。


    そろそろ、終わるころだ。なぜか名残惜しい。

    そのころには、夢うつつの気分だった。


    「……あなた」

    「……」


    「……指磨きって、知ってる?」

  • 10二次元好きの匿名さん23/12/11(月) 12:35:12

    ……?

    「歯の表面とか、歯茎を、指で磨くのよ」
    「んぇ」

    クラウンは歯ブラシを、くるりとひっくり返して持ち、人差し指が、黒い影になった。

    「ぁ……」

    長手袋をした、クラウンのしなやかな長い指に、こんなことをさせている……という考えは、既にどこかにしまわれているようだ。
    ただただ、クラウンの指に口内をなぞられるのが気持ちいい。

    「きゅっ……きゅっ……」

    小さな声で、ささやかれる。気持ちいい。

    「こうするとね……キュッキュッとして……綺麗になるのよ……」
    「……」

    頬の内側を、指で引っ張られる。気持ちいい。
    ざらざらした前歯の表面を、指でなぞられる。気持ちいい。
    歯の生え際を、指でこしこしとなぞられる。気持ちいい。
    唇の内側に、クラウンの指の爪が当たって、押し上げられて…歯茎に埋まっている歯根を指で指圧されている。気持ちいい。

  • 11二次元好きの匿名さん23/12/11(月) 12:36:23

    「えろーってして」
    「ぇー」

    伸ばした舌をやさしくつままれて、表面の味蕾の凹凸を、撫でられる。気持ちいい。

    なぞられる。
    気持ちいい。

    もう、目を開けているのか、閉じているのか、わからない。
    視界はなにか暗くて柔らかいものでいっぱいだ。
    どこかでどさくさに紛れてクラウンの太ももに触れようとした自分の手も、今、どこに置いてあるか意識できない。
    温かい鼓動の音もタイミングも、すでに一致している。
    いいにおい。
    もう、頭がいっぱいだ。

    「眠いの……? さっきお昼食べたからね……ごろーんしましょうね……」
    「……」

    もう、何も。
    ――クラウン……。


    「――――この服で耳かきは……また今度ね」

    なにかが、囁いた。

  • 12二次元好きの匿名さん23/12/11(月) 12:37:41

    (おわり)

    二作目の投下と相成りました。
    トレーナー呼びが確定するまでちょっと時間を置いたけど、待ってよかった。

  • 13二次元好きの匿名さん23/12/11(月) 12:42:25

    ちょっと文字化け起こしてるけど非常にベネ

  • 14二次元好きの匿名さん23/12/11(月) 12:58:48

    バカな…早すぎる…

  • 15二次元好きの匿名さん23/12/11(月) 17:16:07

    >>13

    ルビ(rb)のところでしたらすみません

    手元のメモ帳からコピペですませました

    ベネ、ありがとうございます


    >>14

    実装発表後から書き始めて、累計5時間くらいでしょうか

    ありがとうございます

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