- 1二次元好きの匿名さん23/12/18(月) 18:11:47
扉を開けるとそこには、あたし……のような何かが床にドン! と座っていた。
突然の出来事にあたしは目を見開き、扉を開けたまま呆然と口を開けては閉じを繰り返してしまう。
何か言いたくても言えないし、言葉が出ないこの状況。震える唇からやっと出てきたのは。
「と、トレーナーさん……こ、これはいったい……?」
困惑に満ちたありふれた言葉だった。あたしはあたしみたいな何かを指さしながら、目を泳がせながらトレーナーさんに呼びかける。
トレーナーさんはお仕事をしてる場所からアレを見つめていたけど、すぐにこちらを向いてくれた。
「ああ、これか。前に話しただろう? 巨大ぬいぐるみの試作品だよ」
「あ、ああ〜……あれですか……。そっか……これが……」
トレーナーさんの一言であたしはすぐに思い至る。
トゥインクルシリーズで結構な活躍してきたあたしには色んな話が舞い込んでくることが増えた。
テレビに出たり撮影があったり商品が作られたり……。どれもこれも目が回りそうになるくらい大変だったけど、それだけ自分が頑張ってきたんだと心から思えて凄く嬉しかった。
確かその中にあったのが巨大ぬいぐるみ……だったっけ? あの時は話を聞いてるだけだったから実感しにくかったけど……。うん……なんというか……その……。
「この子……大きいですね……」
「そうだな……」
あたしの言葉に同意するトレーナーさん。うん……そうだよね……同じこと思っちゃいますよね……。
その……勝負服の装飾が凄いとか、あたしよりも可愛いとかね。思い浮かんだことは沢山あるよ? でも……それよりもなによりも……大きいよね……。 - 2二次元好きの匿名さん23/12/18(月) 18:12:11
チラリと見えたソファーと比べてもこの子の方が高さはある。それに横幅も結構あって、後ろに隠れればあたしを覆い隠せちゃうくらいだ。
覆い隠す……? そうだ、これなら……!
「この子の後ろにいたら、かくれんぼ勝てるかもしれませんね!」
「う~ん……大きいぬいぐるみの後ろなんて、一番に探す場所じゃないかな?」
「あっ……それもそうですね……」
いい考えだと思ったけどちょっと浅かったみたい。トレーナーさんの一言であたしは考えを改める。
話題のあの子は変わることなくその場で佇み、あたしのことを見つめてる気がした。
「あはは……あの子にも呆れられてる気がしてきました……」
「そうかな? 俺がこの子の立場だったら、頭を撫でる気がするけどな。可愛らしいし」
「か、可愛らし……!? そ、そんなこと言っちゃダメです!」
「えっ……ダメだったのか……? す、すまない……」
ほっぺたに宿る熱をそのままに、腕をぶんぶんと振り回しながらトレーナーさんに注意する。
だって……可愛いとか……そんなの……照れますから!
あたしの勢いに押されたみたいで、トレーナーさんも謝ってくれた。
わ、分かればいいんです……分かれば……! - 3二次元好きの匿名さん23/12/18(月) 18:12:29
「それに! か、可愛いっていうのはあの子のことを言うんですよ! ちゃんと見て下さい!」
い、一応釘を刺すために巨大ぬいぐるみを指さしながらトレーナーさんに訴えかける。
ほら見て下さい! あの赤い瞳にニッコリとしたお口! それにふわふわした髪にまんまるのお顔に、何より晴れ渡る笑顔! こういうのを可愛いって言うんです!
そんな気持ちをトレーナーさんに瞳で伝えるけど、あまりうまく伝わらなかったみたい。
トレーナーさんの表情は釈然としない様子で、あたしとあの子を何度も見ている。
何度か頭を捻った後、トレーナーさんは困った顔をして口を開いた。
「なんか話が変わったような……? う~ん……確かにこの子は可愛いけど……」
「ですよね! だから可愛らしいとかそういうのは――」
「でもこれキタサンを元にしてるんだから、この子の可愛らしさはキタサンの可愛らしさでもあるんじゃないか?」
「ふぇ……?」
トレーナーさんの言葉はあたしを打ち砕くには十分なものだった。
そうだよ、この子はあたしことキタサンブラックを元にしてるんだから、見た目の話をしたらそのままあたしに返ってくるに決まってる。あれ? それならあたしさっきなにを思ったけ? えっと……赤い瞳、髪、何より笑顔……。それをあたしは可愛いって思ったんだよね。
あれ? それってつまりあたしがあたし自身を可愛いって言ってしまってることに……?
あ、ああ……ち、ちが……あわ……あわわ……!
徐々にほっぺたに熱が宿っていき、視界がぐるぐると回る感覚に襲われる。どうにもならない感情も胸に渦巻いていき、そして。
「ち、ちが! 今のはそういう意味ではないんです! ぬいぐるみが可愛いって意味で言ったんです! あたしが可愛いってことでは決してなくて!」
腕と尻尾をぶんぶんと振り回しながら出てきたのはそんな言葉だった。 - 4二次元好きの匿名さん23/12/18(月) 18:12:47
こ、こんなことで言葉を撤回できるわけじゃないけど言わないよりはいいはずだ。だからこそ下手くそな言葉でも伝えていけばいい!
「いや、可愛いのは間違いないではないだろう? そこは否定しちゃ駄目じゃないか?」
「ぴぇ……」
下手くそな言葉の代償は余りにも大きかったみたいだ。
何故か真剣な表情どこちらを見ているトレーナーさんの言葉で、あたしは全ての動きが止まってしまう。
な、なんでそんな事言うの……? 今そんな事言われたら……あたし……あたし……。
視界だけでなく頭の中までかき回されてどうにかなってしまいそうだった。
な、なにか……打開できるなにかを……。か、可愛いのはあたしよりもあの子だって言えるなにかが……。
回る視界を一旦トレーナーさんから外して、あの子を見る。
えっと……ぬいぐるみの可愛らしさ……可愛らしさ……ふわふわ……モコモコ……。こ、これだ!
「ぬ、ぬいぐるみの可愛らしさって見た目よりも感触ですよ!本人以上に大事なことですよ! ほら、この子を抱きしめて上げて下さい!」
「えっ? き、キタサン? うおっ!?」
スタスタとトレーナーさんのところまで移動して、無理やりトレーナーさんを担ぐ。
バタバタと動くトレーナーさんを無視してぬいぐるみまで歩いていく。
「よい……しょっと……。ほら! 抱きしめてあげて下さい!」
「うお! き、急に抱きしめろって言われても……」
「きっと気持ちいいですよ! ほら早く!」
「圧が凄い! 分かった、分かったから! レース中みたいなプレッシャーをかけないでくれ!」
あたしに促されるままトレーナーさんはゆっくりとあの子を抱きしめだした。 - 5二次元好きの匿名さん23/12/18(月) 18:13:03
結構大きいからか手を回すのにひと苦労してるみたいたけど、何とか体に手を回せたようだ。ゆっくりとあの子の体に体を沈めていくトレーナーさん。
「どんな感じですか?」
「まぁ……柔らかいな……」
「これが可愛らしさです……!」
「お、おう……」
呆れたような声が聞こえてくるけど構うことはない。だってこれでぬいぐるみの可愛らしさを証明出来たのだから。
妙に晴れやかな気分で心も落ち着いてきた。……落ち着いてきたからかな? トレーナーさんがぬいぐるみを抱きしめてる状況を改めて客観的に見れるようになってきた。
あたしモチーフのぬいぐるみを体が埋まるくらい強く抱きしめてる。
うん……なんというかその……。
「でも……あたしを抱きしめてるみたいで何だか照れますね……」
「だ、抱きしめろって言ったのは君だろう!?」
「な、何だか正気に戻ると恥ずかしくなってきて……ごめんなさい……」
「いや……大丈夫だ……。俺も言葉が強くなってしまったよ。すまなかった……」
暑いような寒いような、そんな妙な空気感が生まれてしまう。トレーナーさんは抱きしめるのはやめてあの子を見下ろしてるし、あたしもあの子を見ながらじゃないとトレーナーさんを視界に入れることが出来ない。 - 6二次元好きの匿名さん23/12/18(月) 18:13:19
「と、とりあえずキタサンも抱きしめてみるか?」
「えっ!? な、なんで……?」
「いや……何となく……」
突然のトレーナーさんの言葉にあたしは動揺を隠せなかった。多分この空気を変えたかったんだろうけど、本当に唐突だ……。とはいえ、この空気を変えるなら乗るのが一番だよね。
あえてそのトレーナーさんの提案に乗ることにしてみる。
「……分かりました。キタサンブラック、巨大ぬいぐるみを抱きしめます!」
気合を入れてあの子の近くまで進む。……といってもトレーナーさんを運んだ時から移動はしてないからちょっと歩いただけだ。
正面に立ってみると改めて大きいと思ってしまう。だけどここまで来たら抱きしめるだけだ。
ゆっくりと膝を床につけて、腕をあの子に回しながら引き寄せるようにしてっと……。そのまま頭を体に近づけながら抱きしめる。
あっ……これ……。
「柔らかいですね……」
「だろう? きっと材質にもこだわってるんだろうな」
トレーナーさんの言う通りだ。確かにこれは良い触り心地でふわふわした感触が体に広がっていく。きっと普通のぬいぐるみよりも大きいのも影響しているのだろう。うん……本当に気持ちがいい……。
だけど……気持ちがいいせいかな……?
「ふわふわ……いい……」
頭がぼんやりとしてきて、さっきまでは感じていたトレーナーさんの気配が少しだけ薄らいでいる気がする……。
それになんだか……心地良すぎて……意識も……。 - 7二次元好きの匿名さん23/12/18(月) 18:13:34
「キタサン? ……気持ちが良すぎるのも考えものかもな……」
あれ……? 少しずつだけど……トレーナーさんの声も遠いような……?
それに気づいた時にはまぶたがゆっくりと下に下りていた。
「もう少しだけトレーニングが始まるまで時間があるし……うん、ゆっくり休ませてあげるかな」
なんとか聞こえたのはその声と少しずつ遠ざかる足音だけ。
あたしの意識はふわふわの中にゆっくりと包まれていき、広がる暗闇呑まれるまま意識が消えていっていく。
一瞬だけ見えたあの子の顔。それは初め見た時からずっと変わっていないのに、何故か優しげにあたしを見守っているように見えて、それがあたしに安心感を与えてくれるかのようだった。 - 8二次元好きの匿名さん23/12/18(月) 18:13:49
おまけ
「そういえばなんですけど、なんでトレーナーさんあの時ちょっとムッとしてたんですか?」
「あの時? えっと……それってどの時だ?」
「あれですよ。あたしが可愛いのを否定してる時に、トレーナーさんムッとしてたじゃないですか。なんでかな~……って」
「自分の相棒を否定されたら思うところがあるのは普通じゃないか?」
「あ、相棒……ですか……。そう言っていただけるのはありがたいですけど……。うう……照れちゃいますよ……」
「それに可愛さを否定したら、サトノダイヤモンドも鬼の形相に変わるんじゃないかな?」
「だ、ダイヤちゃんですか……。確かに凄く怖そうですね……あんまり想像したくないかも……」
「とにかくだ。あのぬいぐるみの可愛さは君から生まれたものなんだ。それは受け止めてほしいな」
「そ、そうですね……。これを作ってくれたヒト達にも失礼ですもんね……。えへへ……可愛いって言ってくれてありがとうございます……」 - 9123/12/18(月) 18:14:50
元ネタは例のド級の可愛さのぬいぐるみです
アレ見たら書くしか無いですよね……。
色々悩みましたが買うことを決意しました。後悔はしてません - 10二次元好きの匿名さん23/12/18(月) 18:18:02
買ったのか…
- 11二次元好きの匿名さん23/12/18(月) 19:43:28
腕やら尻尾やらブンブンしてるキタちゃん可愛いねぇ
どきゅーともモノ考えればお値打ちだとは思うし、ちょうど予約終了になったとかってスレ見たな - 12123/12/18(月) 19:50:30
- 13二次元好きの匿名さん23/12/18(月) 20:24:11
キタちゃんはトレーナー室に入る度思い出して照れちゃうかな?
買おうと思えば置くところがあるのが羨ましい…!いつか私も推しのどきゅーとを…! - 14123/12/18(月) 20:26:47
- 15二次元好きの匿名さん23/12/18(月) 22:39:41
でかぬいの柔らかさに先に抱きついてたトレーナーの温かさも相まってよく眠れそうですね……
- 16二次元好きの匿名さん23/12/19(火) 01:54:16
- 17二次元好きの匿名さん23/12/19(火) 02:00:04
追加受注検討中らしいからまだ可能性はあるぞ
- 18二次元好きの匿名さん23/12/19(火) 03:15:31
あの二種類が売れたらテイマクも出たりするのかな
- 19123/12/19(火) 03:17:57