【SS】ふつーなわたしのスペシャル

  • 1二次元好きの匿名さん23/12/20(水) 02:01:01

     自分の走りでスタンドを沸かしたのも今は昔、怪我もあり引退を決めたわたしはドリームトロフィーの道も断って、今ではどういうわけかふつーの大学生に逆戻りしていたのでした。もう戻れないと覚悟してレースに挑んでいたつもりですが、思っていたほどのハードルはなくてちょっと拍子抜けしたのはナイショです。
    「おじゃましまーす……って、まだこの時間はレースでしたね」
     そんなふつーな私に残された、唯一のふつーじゃないことは週末のこの時間。引退後の進路について、色々サポートしてくれたトレーナーさんにできる恩返しの一つとして、こうして空きがある時間にお部屋にお邪魔して、料理しているのでした。
     最初は結構強めに断っていたトレーナーさんでしたが、毎週末根気強くやってくるわたしを見て、ついに折れてくれました。現役のときはズブいだなんて言われてましたが、裏返せばそれだけ粘り強いってことなんですからね。ふふん。
     そんなわけで気付けばほぼ毎週末、トレーナーさんの部屋にやってきては勝手に料理を作ったり、その日の気分でお酌をしてみたり。月曜日は遅い時間の授業しか入れてないので、終電を逃したとしても泊めてもらえば解決なのです。
    「確か今週の特売で買っておいたキャベツと……ほほう、合いびきミンチに豚バラですか」
     家主のいない部屋で冷蔵庫を眺め、今晩の献立を組み立ててみます。そこでふと気付いてしまう、お好み焼き粉を切らしてしまったことに。ガーン、って擬音が出てしまいそうなぐらいにショックを受けつつも、今からでも買いに行けるエリアのスーパーを思い浮かべましたが自分の足で行くには少し遠い距離。ウマ娘なら走っていけばすぐだ、なんて言われそうですが、心配性なトレーナーさんは過度なランニング厳禁と言ってたので、走っていく選択肢はすぐに消えていました。
    「めんつゆとベーキングパウダー……なるほど、シーフードミックスも結構残ってますね」
     しばらく思案して、そして食器棚の上にしまっておいたホットプレートを取り出してみる。最近洗ったばかりなので軽く水で流すだけで良いですね。今日の晩御飯はクーちゃん特製スペシャル玉ですよ。

  • 2二次元好きの匿名さん23/12/20(水) 02:01:37

    >>1

     じんわりと温まってきたプレートに油を敷いて、そして生地を流していきます。パチパチと油が弾ける音が部屋に響いて部屋中に濃厚な匂いが広がっていきました。薄く広げた油の上に、わたし特製の配合で作った生地。今日はミンチ肉を使ったのでいつもより少しだけガッツリ系な感じに仕上がるはずです。そろそろトレーナーさんは帰ってくる頃なので、家についたらすぐアツアツのお好み焼きが味わえるという算段です。

    「ただいま、インタビューとかもあってちょっと遅くなった」

    「おかえりなさい~、もしかして、もしかするとですか?」

    「この前言ってた子が今日のメインで勝てたんだ。前に指導してもらったのがかなり効いて、さすがヒシミラクル大先生だなんて言ってたよ」

     もちろん正規のトレーナーではないので、あくまでOB訪問のような形での指導でしたが、案外効果はあったみたいです。わたしの思っている以上に、周りの評価というのは高まってしまうものなのですね。もうビックリするほどにいろんな子に捕まって、アレコレ聞かれるものだから勘違いしちゃいますよ。

    「気が向けばサブトレーナーとしてちゃんと給料が出る形にもできるんだけど」

    「うえぇっ、ええと、流石にそれは責任が重すぎるというか」

     現役時代を一緒に走り抜けたトレーナーさんはこういう時ちょっとわたしを買いかぶりすぎです。どこにでもいるふつーのウマ娘をヒーローに仕立て上げたのは他ならぬトレーナーさんなんですから。わたしじゃなくて、自分のことをもっと誇ってください。

  • 3二次元好きの匿名さん23/12/20(水) 02:01:55

    >>2

    「そんなことより、焼き立て、冷めないうちに食べてください」

     誤魔化すように焼きたてのお好み焼きを切り分けて、トレーナーさんと自分のお皿に半分こ。ソースとマヨネーズを程々にかけて、パラパラと鰹節と青のりを乗せたら出来上がり。まだまだ熱く、溢れる湯気で踊るような鰹節が食欲をそそる、クーちゃん特製お好み焼きの完成です。

    「……美味しい、今日はなんかいつもよりも美味しい気がするよ」

    「あはは、気付いちゃいました? お好み焼き粉を切らしちゃってたので、たまには秘伝の配合を試してみたんですよ」

     冗談っぽく笑みを浮かべながら、胸を張って見せます。もっとも、目分量でめんつゆを注いでみたり、戸棚にあった調味料を自分の勘で注いでみただけだったのですが。激賞するトレーナーさんを見ていると、わたしのセンスも案外捨てたものじゃないみたいですね。

    「やっぱりヒシミラクルは凄いよ。よっ、日本一のお好み焼き職人」

    「褒めても何も出ないですってぇ」

     にへらと笑いながら自分も箸をお好み焼きに伸ばしました。ふつーなウマ娘を自認するわたしですが、他ならぬ彼の言葉ならちょっとだけ信じちゃっても良いかな、なんて思います。

  • 4二次元好きの匿名さん23/12/20(水) 02:05:29

    完全にレースの世界から離れたつもりが、実はトレーナーさんにべったりな日常が普通になってしまったヒシミラクルの日々の一コマ、というつもりで書いてみました。

    お好み焼きセミプロを自認するミラ子の作るお好み焼き、毎日食べたら粉ものなので太りそうですがそれも良いかな、って思ってしまいます。

    過去作はこちら

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    キャラは違いますがグラスワンダーでもいくつか書かせていただいてます

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  • 5二次元好きの匿名さん23/12/20(水) 02:15:35

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  • 6二次元好きの匿名さん23/12/20(水) 02:45:00

    ナチュラルに通い妻ムーブかますミラ子はいいぞ…

  • 7二次元好きの匿名さん23/12/20(水) 02:56:53

    >>6

    ありがとうございます

    ふつーの暮らしをしているはずだけど、トレーナーさんとは相変わらずイチャイチャしてるのが良いなと思いました

  • 8二次元好きの匿名さん23/12/20(水) 05:08:03

    深夜に良作ミラ子SSが上がってる!と思ったら飯テロ描写が時間帯的に刺さるなぁ……
    ミラ子、レースの世界から離れてもトレーナーとの関係がずっと続いてる感あるのいいよね、あの仲の良さだとトレーナーと担当だけの関係じゃないでしょ

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