(SS注意)Voyager

  • 1二次元好きの匿名さん23/12/21(木) 13:35:04

    「……あれ?」

     仕事を終えて、日が落ちかける頃合。
     学園から出てすぐ、なんとなく振り返って空を見上げると、屋上に人影が見えた。
     屋上は人気スポットではあるものの、この時間帯に人がいるのは珍しい。
     それに、あまり良くは見えなかったけれど、その人影には見覚えがあるような気がした。
     さらりと揺らめく金髪が、見えたような気がしたのだ。

    「……」

     もしあの人影が、俺の良く知るあの子だったとして、別段、それは不思議なことではなかった。
     彼女は屋上にいることが多く、そもそも俺が彼女と初めて出会ったのも、夜の屋上だったから。
     それに、彼女はしっかりしているから、一人でいたところで、何の問題もない。
     今日は彼女はお休みの日、あまりプライベートに干渉するべきではないだろう。
     ……わかっているはずなのに、どうしても足を進める気分にはならなくて。

    「……ふぅ」

     ため息一つ。
     俺は頭をかきながら、踵を返し、校舎へと戻っていく。
     空には、小さく星が煌めき始めていた。

  • 2二次元好きの匿名さん23/12/21(木) 13:35:20

     息を切らし、運動不足を実感しながら、屋上へと上がる。
     気が付けば日は落ちて、街の明かりが宝石のように瞬いて、星々が目立ち始める時間。
     そこには夜空を見上げながら、両手を掲げて、ぶつぶつと言葉を呟く、金髪のウマ娘がいた。

    「ゼロ、イチ、ゼロ、イチ……」

     彼女は、真剣な表情で、ただひたすら同じ数字を繰り返している。
     独り言をしている、というよりは空に向かって語り掛けている、という様子にも見えた。
     俺には、それがとても、大切なやり取りをしているように感じられて。

     ────邪魔しちゃ悪いかな、という考えが、頭によぎる。

     無駄足にはなるけれど、このまま回れ右をして、一人にしてあげた方が良いかもしれない。
     そう考えた直後、彼女の耳がピンと立ち上がって、くるりと俺の方を向いた。
     眠たげに細められた目、大空のように深く蒼い瞳、星の瞬きのような特徴的な流星。
     彼女は俺の姿を認めると、柔らかく微笑んだ。

    「ハロー、トレーナーは“観測”かな? 今日は“シンチレーション”がとても『きれい』をしているね」
    「……こんばんは、ネオ、下から君の姿が見えたから、気になっちゃって」

     見つかっちゃったかと、苦笑を浮かべながら俺は担当ウマ娘のネオユニヴァースに近づく。
     彼女もまたこちらに駆け寄ると、俺の隣に並び立って、空を見上げた。

    「ネオも、今日は天体観測なのかな?」
    「“DENY”、ネオユニヴァースは今日、“交信”をしにきたんだ」
    「……交信?」
    「“受信”をしたんだ、地球から遠く離れた“ヘリオポーズ”からのメッセージを」

  • 3二次元好きの匿名さん23/12/21(木) 13:35:38

     ユニヴァースの瞳は、遠くを見つめていた。
     きっとそれは、俺の想像を遥かに越えた、ずっとずっと遠い場所なのだろう。
     
    「ゼロ、イチ、ゼロ、イチ……」

     そして、再びユニヴァースは空に向けて、言葉を送り始めた。
     俺達以外誰もいない屋上、静寂が場を包む中、彼女の小さな声が響き渡っていく。
     その時、ぴゅうっと、冷たい風が吹き抜けた。

    「……くちゅっ」

     ユニヴァースは可愛らしい、小さなくしゃみをする。
     見れば、彼女はコートを身に纏っていなかった。
     今日の朝は比較的暖かったから、寮から持ってこなかったのかもしれない。
     俺は自分が着ていたコートを脱ぐと、それを彼女に羽織らせた。
     少し驚いた表情でこちらを見つめる彼女に、俺は笑みを浮かべる。

    「使ってよ、俺はカイロとか持ってるし、大丈夫だから」
    「……“THNK”、ふふっ、あなたのコートは『あったかい』をしているね?」
    「安物だよ……でも今日は本当に空がきれいだね、これなら君のメッセージも良く伝わるんだろうね」
    「…………ネガティブ、“MABTE”、ネオユニヴァースの声は届いていない」

     ネオは少し顔を俯かせて、悲しそうな表情でそう告げた。
     
    「最近になって“シグナル”を“感知”出来るようになったんだ」
    「……そうなんだ」
    「でも、その『メッセージ』の理解は“EXDFF”だった」
    「君でも、なんだね」
    「アファーマティブ、だけど、諦めたくないんだ……“STDA”がとても寂しいのを『ぼく』は知っているから」

  • 4二次元好きの匿名さん23/12/21(木) 13:35:54

     そう言って、ユニヴァースは再び、空を見上げた。
     その両目には強い意志を込めて、迷いなく、じっと、空の、その先を見据えて。

    「トレーナーには“帰還”を“推奨”するよ、これは“MIP”だから」
    「────ネオは、ココアとコーヒーどっちが良い?」
    「……えっ?」
    「まだ交信を続けるんでしょ? これからもっと冷えるし、温かい飲み物でも買って来るよ、俺の分もね」
    「……“MUTX”である必要は、ないんだよ?」
    「俺がいる必要はないかもね、でも、俺が一緒に居たいんだ……独りが寂しいのは、俺も知っているから」

     君に寂しそうな顔をさせたくないから、と心の中で付け足して。
     ユニヴァースは驚きの表情を浮かべるが、やがて嬉しそうに目を細めて、口元を緩ませた。

    「……スフィーラ、そうだったね、ネオユニヴァースはもう“STDA”じゃなかったんだ」
    「うん、だから次は遠慮なく、俺のことも誘ってよ」

     俺の言葉に、ユニヴァースはこくりと頷く。
     時計をちらりと見てみれば、屋上にいられるのは後一時間といったところ。
     多少肌寒いけれど、温かい飲み物でもあればなんとか過ごすことが出来るだろう。
     そういうわけで、俺は改めて彼女に問いかけた。

  • 5二次元好きの匿名さん23/12/21(木) 13:36:12

    「それでネオ、飲み物は何が良い?」
    「“CA”……いや、『未知』に“TRYS”してみるのも……?」
    「……ネオ?」
    「うん、トレーナー、ネオユニヴァースも“ランデブー”をする」
    「それは構わないけど、いいのか?」
    「『可能性』という名前の『海原』に出てみれば、もっと“同調”することが出来るかもしれないから」
    「……?」

     俺はユニヴァースの言葉に、思わず首を傾げてしまう。
     彼女はそんな俺を尻目に、踊るような足取りで俺の目の前に動くと、手を差し出した。
     そして、小さく微笑みを浮かべる

    「“コネクト”をしたい────ネオユニヴァースと一緒に“航海者”になって欲しいな」

  • 6二次元好きの匿名さん23/12/21(木) 13:36:42

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