【SS】My Dearest

[1 二次元好きの匿名さん 23/12/26(火) 01:41:15]

　年の瀬迫るこの頃、引退した後も欠かさず見ていたグランプリが終わったことで、ようやく年末の実感を得ます。街はクリスマスの電飾から徐々に正月に向けて、門松やしめ縄を店先に並べ始めている様子でした。この国にやってくるまで、軒先に置くような大きさのモノしかイメージできませんでしたが、棚に飾れる程度に小型化されたものがあるのは少し意外でした。折角ですので、一つぐらい買っていきましょうか。
　年末の大一番を終えて、手持ち無沙汰になったからと近くの商店街を少し散策して戻ってくる頃には人混みも少し減ってきたようで。そんな中でも、たまに私のことを呼び止める声が聞こえるあたりに少し懐かしさを覚えました。
―――
　現役時代から便利だからと着ていたトレンチコートを着て、関係者出口でトレーナーさんの姿を待ちます。少し視線を集めているような気がしますが、今はただ、この寒空のもとトレーナーさんがやってくるのを待つだけです。
「ごめん、待たせたね」
「いえいえ、カイロ持ってきましたが、使いますか?」
「ありがとう、流石にこの時期の日暮れにジャージだけは堪えるよ」
　おそらくレース後のミーティングを終えて、すぐに出てきたのでしょう。手にした大きなカバンから上着を取り出すトレーナーさんは歩きながら上着を着込みはじめていました。
　引退後も時折並走相手として学園に顔を出すことはありましたが、今日のレースは観客席から。関係者として呼べるとトレーナーさんは言いますが、一度レースから退き今は家庭を守る身ですから。表舞台は彼女たちのためにあるべきです。
「こうして待ってもらうなら、ゲストルームぐらい用意出来たのに」
「レースの一線からはもう身を引いたのですから、あまり過ぎた真似はしたくないものでして」
「はは、そういうところは相変わらず強情というか」
　現役を退きすでに幾年が過ぎた以上、私がこれ以上表舞台に立ち続けることもないでしょう。もちろん貰うべきものは頂いていますが、それ以上の応対を受けるわけにはいきません。あくまでも私は、彼の生活を支える立場ですので。

[2 二次元好きの匿名さん 23/12/26(火) 01:41:29]

>>1

　家の近くまで帰ってくる頃にはレースの熱気もどこか遠く、街はまだ残るクリスマスの狂騒と新年を待ち望む空気が入り混じったものに。生まれ故郷は主たるイベントがクリスマスで、年末年始はその付属品のような様子でしたが、この国はどちらも同じ程度の熱量で祝うもののようでした。

「結局、今年もクリスマスをちゃんと祝う時間はなかったね」

「……残念がる必要はないですよ?」

「あはは、お見通しだったか」

　故郷で感じたクリスマスの空気と、グランプリで感じる肌を焦がすような熱気、そして間もなくやってくる正月への盛り上がり、すべて私にとっては等しく大事なものなのですから。何もかも、全力で打ち込んでくれるトレーナーさんだから私はついていくと決めたのです。

　不意に強い風が通りを駆け抜け、思わずあなたの腕に抱きつきます。お互いに厚着をしているものだから、その熱は確かめられませんが、それでも隣を今も歩いていられる事実だけで私の心を温めてくれます。

「少し遅くなったけれど、今年のプレゼント。いつも寒いのに頑張ってくれるグラスに私たくて」

　彼のバッグからふいに取り出されたマフラー。彼の手が私の首にかかり、そしてぎこちない手つきで巻かれていきます。編み込まれた糸から彼の匂いがふんわりと漂い、私の鼻を擽って離してくれません。

　貴方を慕い続けることができたことが私にとっての最大の幸せです。これからも変わらぬ年の瀬を迎えたい、その思いをより一層強くさせてくれました。

[3 二次元好きの匿名さん 23/12/26(火) 01:43:57]

どうしても仕事終えて色々しているとこの時間からの書き始めになってしまいますね。もう少し早い方が良いとは思いつつ......

今日はグラスとグランプリを終えた後の二人を。現役を退いた後の彼女はあんまり表舞台に出たがらないような気がするんですよね。

過去作はこちらから

【SS】夢と知りせば覚めざらましを｜あにまん掲示板

【SS】ふつーなわたしのスペシャル｜あにまん掲示板

他のキャラですが、ヒシミラクルでも書かせていただいてます

【SS】Boxing Day Party｜あにまん掲示板

【SS】エビ・イカ・ホタテ・ズワイガニ｜あにまん掲示板

【SS】ふつーなわたしのスペシャル｜あにまん掲示板

[6 二次元好きの匿名さん 23/12/26(火) 02:21:21]

グラスと共にレースを歩むどころかその後の人生まで一緒に歩んでらっしゃる
寒くても二人で歩けば寒くない