- 1二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 15:20:40
「トレちー、みかん持ってきて欲しいなー♡」
「……はいはい」
一瞬炬燵から出るのを躊躇してしまうが、意を決して温もりから飛び出した。
冷えた空気の中、足早に台所へと向かい、実家から送られてきた蜜柑をカゴへと投入する。
そして炬燵へと帰還し、いつの間にか身体の大部分を炬燵に入れて、カタツムリ状態となっている彼女へ声をかけた。
「お待たせヴィブロス、持ってきたよ」
「ありがと、トレち」
先端に青みがかかった黒髪のツインテール、そこに撒かれた二種類のリボンに、小さな流星。
担当ウマ娘のヴィブロスは起き上がると、嬉しそうな笑みを浮かべて、蜜柑に手を伸ばした。
皮を剥いて、半分に割り、一房を取り分けるとそれを口に入れて────直後、渋い表情を浮かべる。
「うっ、酸っぱい……」
「ありゃ、外れか……うん、俺のは甘いやつだし、交換する?」
「……いーい?」
「俺は酸っぱいのも結構好きだから良いよ、ほら」
「うん……あむ……えへへ、トレちのみかんあまーい♡」
そう言ってヴィブロスは顔を綻ばせる。
俺はそれを見て微笑ましく思いながら、彼女が皮を剥いた蜜柑を口に放り込む。
……むっ、確かに酸っぱい。
出来るだけ顔に出さないように、それを食べながら、俺は机の上に視線を向ける。
「ヴィブロスって面白い皮の剥き方するよね、器用というか」
「そうかなー? あまり意識したことないけど……でもこっちの方がきらきらしてない?」
「きらきらは……わからないけどきれいだよね、俺もやってみようかな」 - 2二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 15:20:54
ヴィブロスの皮の剥き方は、まず、蜜柑のヘタの部分とお尻の部分の円状に切り取る。
そして残った皮を一房ずつ実を剥がしながら帯状に広げる、といったもの。
皮の上に蜜柑がきれいに一列で並んでいるので、とても可愛らしく、見栄えが良い。
大して俺の皮の剥き方は皮ごと四等分にする一般的なやり方であった……一般的だよな、これ。
彼女が頬張っている、俺が剥いた蜜柑を見て、ふと思い出す。
「そうだ、一応ケーキ買ってあるんだけど、食べる?」
「んー……気持ちは嬉しいけど、今はいいかな、昨日一昨日っていっぱい食べちゃったから」
「なるほどね、了解、残しておいても夜に俺が食べるから無理しなくても良いよ」
「うん」
少し困った笑みを浮かべているヴィブロスに、俺はそう伝えた。
今日はクリスマス────の翌日である。
彼女は一昨日に家族でのパーティ、そして昨日は姉妹を含んだ友人達とのパーティをした、と話していたことを思い出す。
そりゃケーキなんてたくさん出て来るだろうし、飽きて来るだろうなあ、と自分の考えの浅さを恥じた。
自身の至らなさを誤魔化すように、俺は彼女に問いかけた。
「今年のクリスマスはどうだった?」
「家族で行ったレストランはお洒落で凄い美味しかったのー! あと、お店の近くですごいきらきらなイルミネーションがやっててね、お姉ちゃんもシュヴァちもすっかり見惚れてたんだー!」
「へえ、それは俺も見てみたいな」
「じゃあ後でLANE送るね? あと、学園でやったパーティも楽しかった! 結局色んな子達が集まって盛大にやったんだよね、キタサンが色んな子達からお礼代わりにたくさんプレゼント貰ってたなー、サトノも誇らしげにしてたよー、256色に光る提灯見てた時には何故か顔を引きつらせてたけど」
「……そういやツリーに扮したどっかのトレーナーもそんな感じで光ってたって聞いたな」
「それとねそれとねー?」
ヴィブロスはキラキラと目を輝かせて、クリスマスの思い出を語り始める。
彼女が楽しそうにしているのを眺めているのは、俺としても楽しいのだけれど、少しだけ考えてしまう。 - 3二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 15:21:11
「……なあ、ヴィブロス」
「んー? どしたのトレち?」
「いや、本当にプレゼントはこんなことで良かったのか?」
今日、俺とヴィブロスは、トレーナー寮の俺の部屋で過ごしている。
クリスマスイブ、クリスマス当日と彼女には予定が入っており、プレゼントを渡す時間がなかった。
そのため事前にプレゼントを渡そうと思って、何が良いかを彼女に聞いてみたのだが。
『それじゃあ────この日に、トレちのおうちで、一緒に過ごしたいなー♡』
そう言って、ヴィブロスが指定したのが今日だった。
特別なことをせずに、ゆっくりと過ごしたい、という彼女の願い。
本人の希望ではあるものの、クリスマスのことを楽しそうに話すのを見ていると、本当に良かったのかと思ってしまう。
すると彼女はきょとんとした表情で首を傾げた。
「……? 私はとっても楽しんでるけど?」
「そっ、そう? いや、もっときれいな夜景を見に行ったり、お洒落なとこ行った方が良いんじゃないかなって」
「トレちはさ、パソコンずっとやってたりすると、目が疲れて来ることってない?」
「……まああるけどさ」
唐突な話の切り替え。
そしてヴィブロスはおもむろに炬燵から出て、立ち上がる。 - 4二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 15:21:24
「きらきらでセレブな感じは大好きだけど、ずっとそればっかりだと疲れちゃうんだよねー?」
「ヴィブロス……?」
「ひゃー寒い寒い……ささ、トレち、寄って寄ってー」
「うわ!? 動くから! 無理矢理足を突っ込まないで!」
ヴィブロスは寒そうに手で身体をさすりながら、俺の隣へと歩み寄り、そして炬燵に入ろうした。
彼女のすらりとした足先が触れて、その柔らかさと温かさに思わず驚きながら、身体を端に寄せる。
ふわりと漂う女の子らしい香りと、たくさん食べていた蜜柑の匂いが混ざり合って、鼻腔をくすぐり、思わずドキリとしてしまう。
彼女はそのままぴとりと頭を寄せ、目を細めた。
「だから、今日は『ここ』で、のんびり、ゆっくりと過ごしたかったんだ」
「……そっか」
明るくて、行動的で、セレブな国でのセレブな生活に憧れを抱くヴィブロス。
そんな彼女にも、静かに、のんびりと過ごしたい時があるのは当然だ。
この部屋が、彼女の止まり木になれるのならば、越したことはない。
そう思って、俺は冗談めかした笑顔を彼女に向ける。
「それじゃあ、俺の部屋はゆったり過ごせる状態を維持しておかないとな」
「…………そうじゃないのに」
「えっ?」
「なんでもなーい…………あっ、トレち、テレビつけて良い?」
「あっ、ああ、構わないよ」
一瞬だけ不満そうな顔をしたヴィブロスは、すぐに笑顔に切り替え、テレビを付けた。
画面には走るウマ娘達の姿、そして『年末振り返りトゥインクルシリーズ特集!』の文字が表示されている。 - 5二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 15:21:44
「あっ、シュヴァちだ!」
「この間のレースの映像だね、良いレースだったな」
「やっぱ走ってると、あのマントきれーに見えるなあ、セイクリッドプレアデスみたいで」
「うん、うん?」
「あっ、私も映ってるよトレちー! えへへ、どう、きらきらしてるかな!?」
「……ああ、とっても、輝いて見えていたよ」
画面が切り替わり、ヴィブロスの走っている画面。
要領が良くて、どこか余裕のあるように見える彼女の、必死の形相。
けれどそれは、思わず見惚れてしまうほどに美しくて、きれいで、きらきらとしている姿。
……今年も、この子は本当に頑張っていたよな。
「ヴィブロス、やっぱり俺、君に何か特別なプレゼントを贈りたいな」
「……私にとっては今日一日が特別なんだけどなー」
「それはそれでさ、一年間頑張った君に、やっぱり何かご褒美をあげたいなって」
「んー……ふふっ、それじゃあトレち、私、椅子が欲しいんだよねー?」
「椅子? また意外なものを、まあでも構わないよ、今度一緒に買いに────」
「いやいや、ぴったりなのが『ここ』にあるから、だいじょーぶ」
にやりと、ヴィブロスは小悪魔のような笑みを見せる。
言葉の意味が理解できず、ぽかんとしていると、彼女は身体を少しだけ浮かせた。
そしてそのまま────ぴょこんと俺の膝の上に乗る。
「えっ!?」
「んふふー♪ ちょーっと固いけど、あったかくて良い感じだよ、トレちー♪」
「いや、ちょっ、ヴィブロス!?」 - 6二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 15:22:00
流石にこれはいけないと思って、どかそうとするが上手くいかない。
それどこかヴィブロスは座り心地の良さそうな位置を模索し始めて、やがて寛ぎ始めた。
耳や尻尾が楽しそうにぱたぱたと、俺をくすぐって、思わず身じろぎをしてしまう。
湯たんぽのような温もりと、彼女の甘くて良い匂い、そして身体の柔らかさが神経を刺激した。
なんとか動かそうと努力はするものの、彼女の少し大きいお尻がむにむに形を変えるだけで終わる。
……やがて俺は諦めて、大きくため息をついた。
「……わかったよ、君の思うままにどーぞ」
「やったー♪ じゃあ今日は思う存分堪能するね……でも、さすがに持ち帰りは出来ないから」
ヴィブロスは顔を上に向けて、俺と目を合わす。
少しだけ恥ずかしいのか頬は微かに赤いけれど、それ以上に嬉しそうに満面の笑みを浮かべている。
その顔を見ていると、まあ喜んでくれているからいいかなと、思ってしまう。
そして彼女は、囁くような小さな声で、俺に要望を伝えるのであった。
「……『ここ』は私専用にしておいてね、トーレち♡」 - 7二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 15:23:09
お わ り
ヴィブロスには幸せに過ごしてもらいたいよね - 8二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 15:34:25
この前のとは打って変わってハッピーなSS…悲哀もいいがこちらの方がやはりいい
- 9二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 15:36:30
俺はみかんの皮をりんごみたいに剥くんだが
みんなはどんな剥き方する? - 10二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 15:38:07
ヴィヴロス可愛い…
皮ごと4等分に割って皮から剥がして食べる - 11二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 15:38:42
脳が回復するss助かる
- 12二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 15:44:49
打って変わって脳が回復するわ……
みかんの皮は昔鳥を作りまくった影響でいつの間にか鳥を作ってる - 13二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 15:51:21
みんなあの脳破壊SS読んでるのウケる
両極端なSSどっちも楽しめるなんてなんという贅沢なんだ - 14二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 15:56:51
- 15二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 15:58:43
- 16二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 16:20:09
多分同じ作者さんだろうけど壊して再生させるとかマッチポンプだな? いいぞもっとやれ
- 17二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 16:22:24
ヴィブロスはトレーナーの膝の上がお気に入りの風潮は未来永劫大事にされるべき
- 18二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 20:18:44
脳破壊のあとの脳回復は健康に良さそう
- 19二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 20:45:58
ミカンの尻から放射状に剥いて最後にヘタを引き抜く
- 20二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 21:51:25
- 21二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 22:04:33
あ、(俺の脳が)壊れたァ!
- 22二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 22:21:54
決闘者としてはセイクリッドプレアデスで微妙な顔になるんですよね
- 23二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 22:30:27
なんでや!セイクリッドプレアデスのマントかっこええやろ!
- 24二次元好きの匿名さん23/12/26(火) 22:37:53
その後高確率で出てくるトレミスM7が酷過ぎんだろ!
- 25123/12/27(水) 00:29:21
やっぱり可愛い子には幸せになって欲しいよね……
私は放射状に向いて食べるタイプです
ヴィブロスの可愛さが出せていれば良かったです
脳を破壊したら超回復しないといけないからね
意外と蜜柑の皮剥きって個性でるんですね……
両方読んでいただけてありがたいお話です
脳破壊と脳回復の反復横跳びはととのう……?
年内最後に書いたヴィブロスのSSがあれで終わりあんまりかなーって……
いいですよねあの概念……
健康に良い気がするだけで多分悪いと思う
大体自分も同じですねー
なんてむごいことを……
立ってるだけで邪魔
いいよねあのマント……
あの応用力の塊みたいな効果はなんなんですかね……
- 26二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 10:35:10
SSで擬似サウナはさすがに草
- 27二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 14:48:44
投稿お疲れ様です
ハッピーは良いですね - 28二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 14:54:55
ヴィブロスかわいいね…素晴らしいSSをありがとう
- 29123/12/27(水) 19:52:59
- 30二次元好きの匿名さん23/12/27(水) 20:06:06
- 31123/12/27(水) 23:42:45
やっぱハッピーエンドが良いよね!
- 32二次元好きの匿名さん23/12/28(木) 09:48:52
こたつ・おみかんと来たらテレビ見ながらこたつでご飯食べるものぐさライフ!
- 33123/12/28(木) 20:00:22
いいよね……本当に……