【SS】「虚しい。切ない。貴方が恋しい。

  • 1二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 14:21:59

     世間はクリスマス、聖夜だのに。

     寒風吹きすさぶ街は、しかし煌びやかに彩られて。楽しげに行き交う家族連れや恋人たちによって、熱気さえ感じるというのに。


     私の側には貴方が居ない。


     ずっと願っていました。私と全てを受け入れ合ってくれるひとが現れて、共に歩んでくれたなら。それはどんなに幸せでしょう。

     仕事に没頭したところで辛い過去を忘れようもない。過ちを繰り返すまいと厳しく努めれば、反発を受ける日々。

     孤独感に押し潰されそうな私にとって、貴方は救いだったんです。


     その貴方が、特別な日に、居ない。」


    TOM☆CAT LADY BLUEⅡ


  • 2二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 14:22:53

    「あの~、理子さん?」
    「予感はしていました。だけど、私だって期待してしまうじゃないですか……」
    「確かに当日は無理でしたけど。
     でも僕ん家で、こうして僕と過ごしてですよ?失恋ソングやら冬の日本海動画をね、エンドレス再生しながら零す事じゃないと思うんですが」

     歳の暮れのわずかな休暇、二人の時間にコレはあんまりだ。僕までちょっとブルー入りつつあるので、さすがに停止した。

    「だって……クリスマス……
     忙しいけど淋しかったんです」
    「有馬の前後なんて大忙しで、運営や出走の当事者はまともにクリスマスなんて出来ないって……理子さんが良く解ってるでしょうに。毎年の事なんですから」
    「前は違いました。この時期はひたすら忙しいだけで、そんな事考えもしなかった……せずに済んだんです。
     ……でも、それは……その……」
    「それは?」
    「貴方と会う前は、貴方が居なかったからですよ……。今は違うでしょう。
     居るのに居ない、なんて。そんなの辛いじゃないですか」

     ドキリとした。心底辛いということが、言葉でなく心で理解できた。
     すぐ隣から真っすぐ射るような理子さんの視線を躱し、話題を変えてみる。

    「えー、僕らのクリスマスはともかく、有馬は盛況でしたね。ココンが頑張ったじゃないですか」
    「……はい。よくやってくれました」

     先日の有馬記念、着順は一位リトルココン。二位ハッピーミーク。そして三位は……先輩の担当だ。
     本来は僕の担当も出走していたかも知れない。そうなれば掲示板入り、いや優勝を期して臨むはずだった。
     故障さえなければ……。

  • 3二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 14:23:35

     そう、彼の担当も、本来はそれを望んでいたのだ。しかし有馬出走が視野に入った頃に足に違和感が現れ、診断の結果――中足骨に小さな亀裂骨折が発覚、治療に専念して見送る事となった。
     この世界では全くありふれた故障ではある。全てを注いで迎えんとしたレースを逃す事も、決して珍しくはない。
     問題は、その原因がほぼ間違いなく、オーバーワークによる疲労骨折という事。これもまた普通すぎる。でも。
     担当が隠れて練習していた事を見抜けなかった可能性、そこに私から言及すれば、彼にとって特別重い意味が発生する。彼こそが最も強く自己批判をしているだろう所に、とても触れられなかった。
     結果、当たり障りのない言葉しか出て来ない。

    「……出走、残念でしたね」
    「まあこんな事もありますよ。あの子もね、当日は寮での観戦にその後のパーティーにと、楽しんでくれたようですし。ウインディちゃんが張り切っていたそうですよ」

     そう、あのトレーナーさんも当日はシングルと聞いていたのだ。彼氏さんの話はハッキリとは聞いた事がないけれど、やはりあの人……出走組と分かれてしまったのだろうか。
     下世話かもと思いはしたが、少し探りを入れてみた。

    「……ウインディさんは寮でしたか」
    「そうですね。現地観戦でない生徒達も、夜まで戻らない子も多いので、そこまで大人数ではなかったそうですが」
    「ならトレーナーさんは?」
    「それがね、傑作なんですよ……」
    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
    「メリ~クリスマス!……の前夜祭!」
    「おー!……クッ」
    「なんやウインディ、もっとテンション上げて行こうや。今日は細かい事言わへん、色んな味を選び放題やで」
     
     テーブルの上には彩とりどりの小さなケーキたち。定番のイチゴにチョコレート、モンブラン、ベリーソース等々、バラエティに富んだ詰め合わせが並ぶ。
     そしてパッケージに燦然と煌めく、赤と黄色のシール。

    「いや、テンションはむしろ……こんなの笑うのだ、その風水的に有難そうなシール……アッハハ」
    「ちゃうねん。言いたい事は解るで?アタシかてな、たまのイベントにしみったれたマネをしたないで。けどな……」
    「けど?」
    「……23日に半額になっとるケーキさんサイドにも、原因あると思うんよ」

  • 4二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 14:25:17

    「……と、僕の担当から聞きました」
    「んっ……ふふ、ふ。らしい、と言ったら失礼ですが、楽しく過ごせたようで」
    「後は先輩なんですが」
    「三着でしたからね。桐生院さん共々、遅くまで大変だったはずですよ」
    「なので労おうと思ってたんですがね。『出勤して会うまで一切連絡して来るなヨ!前フリじゃねぇゾ!』……ですって。
     まぁ、担当の子を存分に祝ってあげたんでしょうね」

     もちろん、それもあるのだろう。桐生院さんの所もそう、私達ファーストもココンを祝い、労った。
     しかし当の出勤日、疲労を隠せない先輩さんに対して、あの人の上機嫌な顔が思い出され……やはり、との思いに顔が赤くなるのを感じる。
     果たしてこの人は知っているのか?いないのか?口の軽いタチではない。当事者の口から明らかにするまではと、全て知った上で私に言わないだけなのかも。
     ――もちろん立場が逆なら、私だって軽々に漏らされては困る。

    「それはそれとして、理子さん。クリスマスへの未練は僕もなんですよ。
     何しろ理子さんや先輩は担当が出走、寮で養生中の担当を引っ張り回す訳にもいかないでしょう。孤独にひたすら残務処理するだけのシングルベルでして。
     ……今から取り戻したいんですが」
    「私だって取り戻しますからね。だから、その……たくさん、あ、アイ、愛……」
    「お猿さん?」
    「違いますっ」
    「たくさん愛し合いましょうね」

     彼がそう囁いて私の手を取る。優しく握ってから体を寄せ、背中に腕が回された。しばしの後に息を継ぐ。

    「あ、あの、汗を」
    「後にしましょう。夜はまだ長いですし」
    「……本当にお猿さんになっちゃうつもりですか?何だか怖いですよ」
    「まあ、猿って実際はそんな事にはならないらしいですけど」
    「もう!今度は私から黙らせますよ!」

     禍福様々な巡り合わせが成した今。この満たされた時も、あるいは束の間の幸せかも知れない。しかしこの人が側に居てくれるなら――きっと何があっても、乗り越えてゆけるだろう。
     だから、今だけは、この幸せをただ享受してもいいですよね。

  • 5二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 14:26:04

     終了 なんとか年内に書けました
     次は自作まとめです

  • 6二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 14:49:55
  • 7二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 16:42:55

    あげ

  • 8二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 18:35:35

    このレスは削除されています

  • 9二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 20:28:24

    >>6

     まとめ作成にあたって改めて読み返してみると、何と言いますか趣味全開で……

     以前ブレーキは上達したと言ったのに、すいませんあれはウソでした

  • 10二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 22:15:50

    最後の保守

  • 11二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 22:25:02

    >>10

    おかげで見つけられましたよ。一年間お疲れ様でした。

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