Re:私たちの年越し蕎麦

  • 1二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 21:53:13

    「う〜ん、やっぱり寒いね!」

     一年ぶりに立ち入った学園校舎の屋上。コートのポケットに手を入れながら、ふるりと身体を震わせた。
     去年の反省を生かしてカイロは用意したけれど、冷え切った夜の空気にはいささか力不足で。トレーナーと二人でいそいそとテーブルとチェアを広げ、卓上コンロに火を焚べてお湯を沸かす。

    「ついこの前、ここで一緒にラーメンを作ったばかりに感じるな〜」
    「本当、あっという間の一年だったよ」

     去年の大みそかにも、この屋上で年越しを前にして、私たちだけの“年越し蕎麦”を作っていた。その時は“中華そば”もお蕎麦のうちだといってラーメンにしたけれど、今度は本物のお蕎麦にすることに。

     お湯が沸くのを待ちつつ、辺りに溶けていく湯気に、一年の思い出を映し出す。
     いよいよレースに本格参戦したこの年は、未知との出会いにあふれていた。日々のトレーニングは負荷が高くなったし、レース前には追い込みをかけてより一層厳しいものに。
     ターフの上でぶつかり合う『勝ちたい』という意志は、これまでに感じてきたどんな感情よりも熱かった。誰もが一着を目指し、皆が対等に競い合ったレース。そんな戦場でも、秋華賞とエリザベス女王杯を勝てたのは僥倖だったといえよう。

    「そろそろかな?」
    「うん! いざ、投入〜」

     お湯が沸騰したところで、トレーナーが食堂で分けてもらったというお蕎麦を二人前。彼がめんつゆを用意してくれているから、私は菜箸でお鍋の中をほぐしておく。

  • 2二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 21:54:21

    「またキミと一年を締めくくれて、とっても嬉しく思っているのよ?」
    「それはきっとお互いにだよ」
    「まあ! キミも私と一緒で嬉しい?」
    「もちろん。ファインと節目を迎えられて光栄だよ」

     微笑みが炎に揺れる。私も、キミと時間を重ねられることを、この上なく幸せに思っている。まだ、面と向かって口にはしていないけれど。

     お蕎麦が茹で上がったところで、器に麺を盛り付ける。私の分をちょっとだけ多くするのはご愛嬌。キミと一緒にお料理をするときは、いつも多めに分けてくれるから。
     めんつゆをかけて、かき揚げと海老天を一つずつ添えて。二人肩を並べて手を合わせ、「いただきます」のご挨拶。

    「これは身体が暖まるね」
    「うん! あったかくておいし〜い!」

     風味を楽しみながらゆっくりと、けれどお蕎麦が伸びてしまわないうちに。これからの青写真を語りつつ、すべての締めくくりへ向けて心構えをする。来年は泣いても笑っても、どんなものにも代えられない一年になるだろうから。

     学園での日々はそうはいかないけれど、キミとの縁は、細く長くでも続いていけるように。

     年越し蕎麦に願いをかけながら、この一年を勢いよく啜った。

  • 3二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 21:56:16
  • 4二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 22:10:11

    良いものを読ませていただきました
    作者様もよいお年を

  • 5二次元好きの匿名さん23/12/31(日) 22:16:00

    屋上で蕎麦とは風流な
    ファインとの縁で「細く長く」は含んだ意味が大きくて好き

オススメ

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