(SS注意)ヤマニンゼファーと初詣に行く話

  • 1二次元好きの匿名さん24/01/01(月) 09:42:48

    「────申し訳ありません、お待たせしてしまいました」

     今年は新年始まって早々、珍しいことが多かった。
     卵を割ってみれば黄身が二つ入っていたり、お茶を淹れれば茶柱が立っていたり。
     真面目な彼女が、初詣の待ち合わせに遅刻する、と連絡してきたのもその一つであった。
     俺は背後からかけられた、慣れ親しんだ声と少し違和感を感じる言葉を聞いて、振り向く。

    「ああ、俺も今来たばかりだから、気にしないで────」

     そして、言葉を詰まらせてしまう。
     そこには思いがけない光景が広がっていたから。
     ふわふわとした特徴的な大きな流星、まんまるとした黄色い瞳。
     担当ウマ娘のヤマニンゼファーは、少し恥ずかしそうに、視線を彷徨わせていた。

    「……その、これは、トレーナーさんと初詣に行くと言ったら寮の皆さんが」

     今年は新年始まって早々、珍しいことが多い。
     いつもは風の向くまま、ふんわり飄々としているゼファーが恥ずかしそうに顔を染めていたり。
     ────彼女が、見たこともない着物姿で立っているのも、その一つである。
     水色を基調とした、縁起の良さそうな花々で彩られた、華やかで可愛らしい着物。
     髪型も普段の二つ結びではなく、後頭部で髪をまとめたアップヘアスタイルに、大きな花の簪。
     予想外の出で立ちに、俺は思わず見惚れてしまっていた。
     彼女はもじもじとしつつも、意を決したように囁くような小さい声で、問いかける。

    「あの、どう、でしょうか?」

     ゼファーは見せつけるように、見せびらかすように、くるりんとその場で回って見せる。
     長い髪に隠されて、普段は見ることの彼女のうなじに、少しだけどきりとしてしまった。
     そして、彼女は何かを期待するような目つきで、じっと俺のことを見つめて来る。

  • 2二次元好きの匿名さん24/01/01(月) 09:43:01

     ────ようやく俺は、彼女の姿を目にしてから一言も発していないことに気が付いた。

     何か気の利いたことを、と思うが浮足立った頭は言葉を忘れてしまったかのように機能しない。
     仕方がないので、見て感じたことを、そのまま伝えることにした。

    「とても可愛くて、きれいだよゼファー、良く似合っていると思う」
    「……! ふふっ、そうですか、慣れない異風を纏い、春の初風に挑んだ甲斐がありました」

     ゼファーは柔らかく顔を綻ばせて、嬉しそうにいつもの調子でそう言った。
     笑顔だとより似合って見えるな、と心の中で思いながら、俺も彼女とともに微笑みを浮かべる。
     そんな時、俺はふと、大事なことを思い出した。
     どうやら彼女の同じだったようで、耳をぴこんと反応させてから、こちらに目を合わせている。
     そして、示し合わせたかのように、俺達は二人、同時に声を発した。

    『あけましておめでとうございます』

     声が完全に合ってしまったことに、ゼファーはきょとんとした表情を浮かべた。
     多分、俺も同じような顔をしていたのだろう。
     なんだかそれが、とてもおかしく感じてしまって、二人揃って笑ってしまうのでだった。

  • 3二次元好きの匿名さん24/01/01(月) 09:43:15

    「あら、今年は饗の風の賑わいなんですね」
    「去年はちょっと遅めの時間だったからね」

     境内に入ると、ゼファーは人の多さに驚いていた。
     ここの神社は学園の近くで、かつそれなりの大きさと知名度があるため、この時期はとても賑わう。
     流石に足の踏み場がない、というほどではないが、人によっては億劫になるくらいかもしれない。
     まあ、隣の彼女は驚きながらも興味深そうに眺めているから、大丈夫だとは思うけれど。
     
    「困りましたね、このような乱気流に巻き込まれたら、私なんて木枯らしに吹かれた落ち葉のようなものでしょう」

     ゼファーは頬に手を当てながら、まるで困ってなさそうな、楽し気な表情でそう言った。
     ちらちらと俺のことを見つつ、尻尾をぶんぶんと振りながら。
     そんな彼女の様子に苦笑しながらも、俺は手袋に包まれた右手を、彼女に差し出した。

    「君に飛絮になられたら俺が困っちゃうよ、だから、はい」
    「……ふふっ、ありがとうございます♪」

     弾んだ声でお礼を告げるゼファーは、俺の手をぎゅっと握り締めた。
     その小さな手は、手袋越しでも、どこか暖かさを感じる気がする。
     彼女は確かめるように手をにぎにぎとすると、視線を俺の首元に向け、嬉しそうな耳を反応させる。

    「聖夜の便風を使ってくださっているんですね、その前の分も、大切にしていただいて」
    「そりゃあ、君がくれたものだからね、暖かくてこの季節には重宝しているよ」

  • 4二次元好きの匿名さん24/01/01(月) 09:43:29

     そう言って、俺は首元にある、肌触りの良いマフラーを軽く撫でた。
     これは去年、いや一昨年ののクリスマスに、ゼファーが贈ってくれたもの。
     彼女が手ずからに首に巻いてくれた時は驚いたけど、それ以上に嬉しかったのを良く覚えている。
     そして今、俺の両手には去年のクリスマスに彼女が贈ってくれた手袋があった。
     物として見れば一般的なの手袋とマフラーなのだが、どうな防寒具より俺にとっては暖かく感じる。
     冬になくてはならない逸品、といったところだろうか。

    「私も付けて来たかったのですが、皆さんから風情がないと止められてしまって」
    「まあ、あれは着物と合うデザインではなかったからね……今年のクリスマスは着物用の防寒具にしようかな?」
    「ということは、来年の初詣ではトレーナーさんにも着物姿になっていただかないといけませんね?」
    「……まあ用途が限定され過ぎるのはアレかな…………着物は、考えておく」
    「はい、風待ちをしていますね」

     ゼファーは期待に目を輝かせながら、そう言った。。
     一昨年のクリスマス、マフラーを貰った俺は寒そうにしている彼女に、マフラーを贈っている。
     そしてなんとなく、俺達の間で聖夜には同じ物をお互いに贈るのが決まりになり、去年も俺は彼女に手袋を贈っていた。
     彼女の言うことは、つまりそういうことである。
     ……まあ、見たいというなら見せてあげても良いかもな、この辺で着物を借りられそうなとこ探さないと。
     そんなことを考えていると、彼女がにこにこと俺のことを見つめていることに気づく。
     顔というよりは、全体を見ているような感じで。

    「どうかした?」
    「毎年、少しずつ冬毛のまんまるさんみたくなっていくトレーナーさんを見ていると、なんだか嬉しくて」
    「そっか」

     マフラーをくれた時もトナカイみたい、とか話していたことを思い出す。
     ……まさか、太ったって意味じゃないだろなと若干不安になりながら。
     そんな俺の心配を他所に、彼女は何やらじっくりと見立てるように、俺のことを眺めていた。

  • 5二次元好きの匿名さん24/01/01(月) 09:43:43

    「今年はコートが良いかしら、それともセーター? ふふっ、初東風が吹いたばかりなのに次の朔風が恋しくなっちゃいます」
    「俺の冬の装いはどんどん君に染められていくんだなあ」
    「…………ふふっ、そうですね、そして」

     ぎゅっと、ゼファーは手を握り締める力を強め、ぴたりと足を止める。

    「私もトレーナーさんの風に染められています、そうでなければ、初詣に着物で来ることはなかったでしょうから」
    「……いや、着物は寮の子に薦められてって」
    「ええ、でも無風とすることも出来ました」

     ゼファーは軽やかな足取りで、手を繋いだまま、俺に向き合う形で前に立った。
     思えば、着物という服そのものは、あまり彼女の好みには合っていないような気がする。
     我が道を行くタイプである彼女が、人に言われてそういう服を着るのは珍しいことだった。
     彼女は空いていたもう片方の手も取って、俺達は両手を繋いだ状態にいなる。

    「────でも、貴方に私の花信風を浴びてほしい、そう思ってしまったんです」

     ゼファーは俺の両手を包むように自身の手を合わせると、じっとこちらを見つめて来る。
     少しだけ頬を染めた彼女の瞳には、どこか熱を感じさせるような潤みを湛えていた。

    「もう一度聞きます、私の着物姿は、どうですか?」
    「……本当に良く似合っているよ、見た時には、ここだけ春風が吹いたのかと思った」
    「ふふっ、ふふふっ、その言葉だけで北風も緑風のようになってしまいますね」
    「大袈裟だよ」
    「凪です、他人を気にして風道を変えるのも、雪風が恋しくになったのも、トレーナーさんと出会ってから」

  • 6二次元好きの匿名さん24/01/01(月) 09:43:58

     ゼファーは、少しだけ困ったように、眉をハの字にする。
     それでいて、その表情には、信頼と親愛と感謝の情を感じられる、不思議な表情。。
     彼女はそのまま、真剣な声色で、言葉を続ける。

    「貴方のおかげで、貴方のせいで、私の風向きは変わってしまいました」
    「……えっと、ごめん?」
    「いえ、それでもこれが、これこそが私の風、私だけの風なのでしょう……でも、責任は取ってもらわないと」

     そう言って、ゼファーは俺の両手を、自分の頬に添えさせた。
     もちもちで、キメ細やかで、柔らかくて、暖かい。
     彼女は心地良さそうに目を細めると、初日の出よりも明るい笑顔を見せてくれた。

    「────今年も、その先も、よろしくお願いしますね、トレーナーさん♪」

  • 7二次元好きの匿名さん24/01/01(月) 09:45:11

    お わ り

    今年こそゼファーの新衣装が来るでしょうか
    僕はSSを読んでいただいてわかるとおりゼファーの新衣装は異世界ウェディング水着バニーが良いと思ってます

  • 8二次元好きの匿名さん24/01/01(月) 09:48:35

    このレスは削除されています

  • 9二次元好きの匿名さん24/01/01(月) 09:58:56

    新年早々に良い風を浴びられて心が清みわたる

  • 10二次元好きの匿名さん24/01/01(月) 10:41:22

    このレスは削除されています

  • 11124/01/01(月) 10:42:49

    >>9

    そう言っていただけると幸いです

    今年はイベストでゼファーの出番あるといいな

  • 12二次元好きの匿名さん24/01/01(月) 11:49:32

    ゼファー可愛い
    良いSSありがとうございます

  • 13二次元好きの匿名さん24/01/01(月) 16:15:27

    我が道をゆくゼファーが誰かの影響を受けて変わる事をよしとする…確かに責任とらないとね

  • 14二次元好きの匿名さん24/01/01(月) 16:28:38

    あのゼファーが風通し悪そうな着物を着て、待ち合わせをして、人が多い神社に参拝に行くってもう相当なんだからトレーナーは責任取ろうね???

  • 15124/01/01(月) 20:30:03

    >>12

    カワイイゼファーが書けていて良かったです

    >>13

    変わっていくゼファーも良いよね

    >>14

    責任は取らないとね……

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています