恋愛……この人を逃すな……

  • 1◆y6O8WzjYAE24/01/04(木) 22:02:41

     年も明け。元日は家でゆっくりしていた人達も動き始める1月2日。
     アタシたちメジロ家の面々はと言えば。ライアンとパーマー、それとマックイーンは初売りに。
     ラモーヌさんとアルダンさんはこちらのお屋敷に来ている親戚の方達のお相手を。そしてアタシとブライトは……。

    「ドーベル〜。あちらでお守りを買いませんか〜?」
    「うん、そうだね」

     近場の神社に初詣に訪れていた。お詣りも済ませて、後はおみくじを引いたり、お守りを買ったりするだけ。
     大きめな神社だから出店もあるけど、それは後で考えればいい気がする。

    「まあ。まあまあまあ!」
    「なに? どうかしたの?」

     アタシの後ろあたり。お詣りを済ませた人達が流れて来てる方だとは思うんだけど、ブライトがそこへ向かって手をブンブンと振り始めた。
     何事かと思って振り向こうと思った矢先。掛けられた声によってその理由を知ることになる。

    「偶然だな、ドーベル、ブライト」
    「ちょっと置いてかないでよっ!? 誘ったのは君でしょ!? って……ああ、そういうことか」

     振り向いた先に立っていたのはブライトのトレーナーと……そしてアタシのトレーナーだった。各人各様、新年の挨拶を交わす。

    「あけましておめでとう!」
    「うふふ〜。あけましておめでとうございます〜」
    「あけましておめでとう」
    「あけましておめでとうございます。ブライトとドーベルも初詣かな? 今日はふたり?」
    「はい〜。ライアンお姉さまとパーマーさま、マックイーンさまは初売りに行かれているので〜」
    「ラモーヌさんとアルダンさんはお屋敷の方で親戚付き合い。こういうのは年長者に任せて出掛けておいで、って」

  • 2◆y6O8WzjYAE24/01/04(木) 22:02:55

     トレーナーたちからしてみればメジロ家揃ってではなく、アタシたちだけで初詣に訪れているのは珍しいのかもしれない。
     実際年始のお休みで皆揃ってるのに、別行動になるのには理由があると考えるのが普通だとは思う。

    「ああ、なるほどな。だからふたりなのか」
    「アンタたちはなんでふたりで?」
    「俺は彼に無理やり連れ出されたんだけど……」
    「いや、お前俺が誘わないと初詣を三が日のうちに済ませないだろ」

     多少強引に振り回すところはアタシ相手にするのと変わらないみたいで、お互い苦労するなぁと思う。

    「それはそうかもしれないけどさぁ……」
    「まあ〜! ありがとうございます、ドーベルのトレーナーさま〜♪ 年が明けてお会い出来るのは、三が日が過ぎてからだと思っておりましたので」
    「ブライトは俺の味方みたいだけど?」
    「ズルくない、それ?」

     確かにブライトは自分のトレーナーと会えて嬉しいのかもしれないけど、それをちょっとしたドヤ顔で主張してくるのはなんだか癪に障る。障るので。

    「……お互い苦労するね」
    「ドーベル!? なんでそっちの味方をするんだ!?」

     アタシはブライトのトレーナーの肩を持つことにした。これに関しては結果オーライだっただけで誇らしげにするアンタが悪い。
     取り敢えず立ち話ばっかりしていても仕方ない。大方お詣りを済ませた後なんだろうけど、これからどうするか決めなくちゃ。
     このまま四人で回るのか、立ち話だけで済ませるのか。

    「お詣りは済ませたの?」
    「ああ。だからこれからどうしよっか、ってなってるところに手を振られたんだ」
    「四人で一緒に回る? ああ……でもドーベルは俺が一緒だと嫌だよねぇ〜……」

  • 3◆y6O8WzjYAE24/01/04(木) 22:03:05

     出会ってからそれなりの年月が経ってるし、自分以外の担当トレーナーとは言え流石にもう慣れてる。
     というか今だって普通に会話出来てるんだし。
     フォローを入れようとする前に、先にブライトがトン、と自身のトレーナーとの距離を詰めた。

    「では、トレーナーさま。わたくしたちふたりでお守りを見に行きませんか〜?」
    「えっ? でもドーベルとふたりで来てるのにいいの?」
    「はい〜。ドーベルにもトレーナーさまがついておられますから〜」

     何かおかしい。明らかに勝手に話が進む予感がする。

    「えっ、ちょっと待っ──」
    「そういうことなら。じゃあ後で合流しようか?」
    「俺はそれでいいぞ」
    「えっ、いやっ──」
    「では行きましょう、トレーナーさま〜♪」

     アタシの言葉をかき消すように、言葉が重ねに重ねられ。
     主張をする間もなく、ブライトとそのトレーナーはお守りが売ってある方へと行ってしまった。

    「ドーベル?」
    「……なに?」
    「機嫌悪い?」
    「別に……ただ、なんか嵌められたな、って……」

     顕著に感じられるようになったのはクラシックレースが終わったあたりだけど。
     ブライトはアタシとトレーナーをくっ付けようと画策している気がする。
     いや、単純に男性が苦手なアタシと仲を深めて欲しいくらいの、軽い気持ちなのかもしれないけどさ。
     ふたりとももう行っちゃったし、アタシもトレーナーと回るのが嫌なわけではないから取り敢えずは良しとしよう。

  • 4◆y6O8WzjYAE24/01/04(木) 22:03:29

    「俺達はどうしよう? ふたりはこれから何する予定だったんだ?」
    「お守りを見に行く、って話だったんだけど。もうふたりが行ってるし……」
    「じゃあおみくじでも引きに行くか」

     お互いの担当同士で回る流れだし、ブライトたちと同じようにお守りを見に行くのは空気を読めてない気がする。
     トレーナーの言う通りおみくじを引きに行っちゃっていいかもしれない。

    「ん、分かった」

     了承して、アタシたちはお守りが売ってある方とはちょっと離れてる社務所へと向かって行った。
     初穂料を入れて、六角形のおみくじ箱をガラガラと振り。出てきた棒を社務所内にいるお巫女 さんにおみくじと引き換えて貰った。
     気になる中身の方は……。

    「ドーベルはどうだった?」
    「アタシは……中吉」

     悪くはない。悪くはないけど良いとも言い辛い、なんとも言えない結果だった。

    「……中吉って案外見ないよな。俺人生で一回も引いたことないぞ」
    「それはアンタがたまたま引いてこなかっただけでしょ。で、アンタの方は?」
    「末吉……」

     渋い表情をしながらおみくじを広げて結果をアタシの方に見せてくる。
     トレーナーの方がもっとなんとも言えない結果だった。

    「反応に困るんだけど」
    「それを俺に言われても困る……でも大事なのは中身だからさ!」

  • 5◆y6O8WzjYAE24/01/04(木) 22:03:44

     それもそうで。例え大吉と言えど中身の内容は良くないとか。そういう事はざらにある。

    (願望……心配が多くてその功はよくない。失物……出がたし下にあり)

     中吉だけあって全体的にはいい内容が多い気がする。
     上段と下段に分かれている内容の上段を読み終え、下段に差し掛かった時、とある項目に気を取られた。

    (恋愛……この人を逃すな……)

     この人を逃すな……。いい感じの人がもう近くにいる、ってこと? アタシの周りにそういう人なんて……。

    「どんな内容だった?」
    「ちょ、ちょっとっ、勝手に見ないでよっ」

     アタシよりも先に読み終えたのか、覗き込むようにトレーナーが顔を近づかせてきた。
     ……いた、そういう人。

    「へぇ〜。中吉だけあって内容もいい感じだな」

     と言ってもトレーナーはトレーナーだし。ブライトはくっ付かせようとしてる感じはあるけど、別にアタシはそういうつもりじゃないし……。
     かと言ってアタシの周りに他にそういう人がいるかと言われたらいない。
     良くてブライトのトレーナーだけど本当に会話が出来るだけ、ってレベルだし。

    (いやいやいや、そもそもおみくじの内容がそのまま当て嵌まる訳じゃないんだから!)

     鵜呑みにしそうなところをなんとか振り払う。
     アタシのおみくじの内容から切り替える為にも、トレーナーのを見せてもらおう。

  • 6◆y6O8WzjYAE24/01/04(木) 22:03:57

    「アタシの勝手に見たんだからアンタのも見せてよ」
    「ああ、いいぞ?」

     特に抵抗もなく、おみくじの紙ごと手渡される。恋愛は……。

    (違うから……これは別に、トレーナーはどうなのか気になるとか。そういうのじゃないから……)

     真っ先に恋愛の項目に目を向けた事を心の中で言い訳して。
     なんで言い訳してるのかは分からないけど。ちょっとだけドキドキしながらその内容を読む。

    (この人となら幸福あり……)

     この人となら、って事は……相手がいる、ってこと?

    「ねぇ……その、さ。アンタっているの?」
    「なにが?」
    「彼女……」
    「いたらここに男と来てると思うか? というか聞かれるたびに言ってると思うけど出来たらドーベルにも報告してるって」

     ああ、なんで数秒前にそのまま当て嵌まる訳じゃない、って考え直してたのにこんな事考えちゃったんだろ!?
     トレーナーの言うことはご尤もで。彼女がいるならブライトのトレーナーじゃなくてその人と来てるだろうし。
     この手の話題になる度にもしも出来たら教えるよ、って散々言ってくれてるのに。

    「まだまだトレーナーとしては新人なのに、彼女作ってる暇なんてないよ」
    「ふ~ん……」

     何回も確認してるはずなのに、その度にどこか安心してしまう。
     ただ全く作る素振りがないのも、それはそれでちょっと心配になることもある。

  • 7◆y6O8WzjYAE24/01/04(木) 22:04:10

    「結婚願望とかはあるの?」

     新人と言ってるけどアタシを担当し始めて3年以上経ってるし。
     中学の同級生が結婚した〜、みたいな話はトレーナーの口からもちょっとだけ出てくる。
     だから結婚とか考えてもおかしくない年齢ではあるはずなんだけど。

    「まあ、人並みには?」
    「あるにはあるんだ」
    「でもドーベルが卒業するまではいいかなぁ、そういうのは。初めての担当だし、今後の将来設計とかはそこで決めていけば」

     つまりはアタシが卒業するまでは彼女も作らない、ということなのかもしれない。
     それなら安心……何を安心してるんだろ、本当に。

    「そんなこと言ってたら結婚できないんじゃないの?」
    「悲しい事を言わないでくれ……」

     と言ってもその気になれば彼女は普通に作れそうな人ではある、アタシのトレーナーは。
     多少強引なところがあるとは言え、気遣いは上手だし、顔も……多分格好いい部類に入るんだろうし。
     その上で今は作る気がない、って言ってるんだから、余計な心配はしなくていいのかもしれない。

    「取り敢えずおみくじを結びに行こうか。後お守りだよな?」
    「あっ、うん」

     促されるまま、縄状のおみくじ掛けに結びに行って、お守りを買って。
     出店のおしるこを食べた後、そろそろブライトたちと合流することになった。

    「待ってな、今アイツに連絡を……」
    「ねぇ、あそこじゃない?」

  • 8◆y6O8WzjYAE24/01/04(木) 22:04:21

     合流する為にトレーナーが連絡をしようとする前に、おみくじ掛けの前でおんぶされてるブライトと、ブライトを背負うトレーナーがいた。

    「……ふたりで何してるの?」

     このタイミングで声を掛けられると思っていなかったのか、酷く狼狽した様子で慌てて弁明してくる。

    「え? ああっ!? いや、これはおみくじを結べる場所が高いところしか見つからなくて!?」
    「トレーナーさま〜? 動かないでくださいませ〜。キチンと結べませんわ〜……」
    「あっ、うん!? ごめん!?」

     わたわたしているトレーナーとは正反対に、ブライトはマイペースそのもので。おみくじを結び終えてから、背中から降りてきた。

    「仲がいいのは知ってるけどさ。人前でイチャイチャするのはどうなの?」
    「イチャ!?」
    「違いますわ? おみくじを結ぶのは神様と御縁を結ぶためでしょう〜? ですので、わたくし自身で結ぶためには、トレーナーさまに背負っていただくしかありませんでしたのよ?」
    「ちっちゃい子じゃないんだから……」

     最もらしいことを言ってるけど、もうちょっと横の方に行けば普通に下の方で結べる場所がある。
     気付かなかっただけではあるんだろうけど、ブライトはともかくトレーナーの方にはもっとしっかりしてもらわないと……。

    「まあいいけど。で、どうするの? これから」
    「わたくし、お腹が空きましたわ〜」
    「じゃあご飯食べに行こっか」

     ラモーヌさんとアルダンさんに任せっきりなのも悪いし、早めに帰るつもりではあるけれど。
     確かにお昼を食べて帰るくらいはいいかもしれない。特にアルダンさんの方はすぐ帰ったら気を遣わせた、って思っちゃうだろうし。

  • 9◆y6O8WzjYAE24/01/04(木) 22:04:43

    「希望は? 俺はなんでもいいぞ」
    「アタシも別に」

     別にお昼を食べる予定はなかったから、特段食べたいものがあるわけでもない。ここはブライトあたりに合わせて……。

    「俺はお寿司がいいな」

     と思ったらブライトのトレーナーの方が先に希望を出して来た。

    「お前なぁ〜……! 流れ的に普通ブライトに譲るだろ!」

     アタシもそう思う。いや、別にお寿司な事に不満がある訳じゃなく。なんというか、図太い。ブライトに似て。

    「うふふっ♪ わたくしもお寿司で賛成ですわ〜」

     まあ、ブライトがいいならアタシは別に文句はない。

    「ほら!」
    「何鬼の首取ったみたいな顔してるんだ腹立つな。大体なぁ──」

     くどくどとブライトのトレーナーに物申してるアタシのトレーナーをしり目に、ちょいちょいとブライトがコートの袖を引っ張ってきた。

  • 10◆y6O8WzjYAE24/01/04(木) 22:04:54

    「ドーベル〜」
    「なに?」
    「ドーベルはおみくじ、どうでしたか〜?」
    「中吉だけど……」

     なんだけど。今更になってまた内容を思い出してきた。

    (この人を逃すな、かぁ……)

     ちらっとトレーナーを盗み見て、別にそういう“好き”ではないはずなのにどこか意識してしまう。

    「顔が赤いですわ?」
    「な、なんでもないっ!」

    (あ~もう! 早く忘れよ!)

     そんなはずはないけれど。どこかで期待してるのか、胸の鼓動は高鳴るばかりだった。

  • 11◆y6O8WzjYAE24/01/04(木) 22:05:05

    みたいな話が読みたいので誰か書いてください。

  • 12二次元好きの匿名さん24/01/04(木) 22:05:30

    10レスに渡った話を我々に書けと!?

  • 13◆y6O8WzjYAE24/01/04(木) 22:05:33

    お巫女 さんでNGワードに引っ掛かるのはバグでは?

  • 14二次元好きの匿名さん24/01/04(木) 22:09:15

    女しゃんがアウトなので…
    オラッ!ブライトもおみくじ引けッ!

  • 15二次元好きの匿名さん24/01/04(木) 22:09:51

    拙者乙女のもだもだする様大好き侍
    読みながら👍しまくっておった

  • 16二次元好きの匿名さん24/01/04(木) 22:13:59

    >>13

    私もよく引っ掛かるので言葉選びに苦労してます


    それはそれとして素晴らしいですね。恋愛の結果に悶々としつつもトレーナーの方の結果を見て思わず聞いちゃうドーベルさんが乙女乙女で素敵です


    いつも素晴らしいものをありがとうございます。これからもいっぱいハートと感想を送るのでサイン下さい

  • 17◆y6O8WzjYAE24/01/05(金) 00:04:27

    おみくじは大体吉か末吉割と真面目に人生で一度も中吉を引いたことがない人間です。
    今年は人生二度目の大吉でした。やったね!
    ひっさしぶりにめちゃくちゃラフな作品を書いた気がします。
    そのせいでどうやって話を締めるのか忘れてたんですけど。

    ここまで読んでいただきありがとうございました。

  • 18◆y6O8WzjYAE24/01/05(金) 00:04:44
  • 19◆y6O8WzjYAE24/01/05(金) 00:08:31

    >>15

    私も好きですわよ~!



    >>16

    苦肉の策、半角スペース……

    ありがとうございます、でもサインはないです

  • 20二次元好きの匿名さん24/01/05(金) 01:31:15

    久々のドーベル、トレーナー同志も仲良くて何より

  • 21◆y6O8WzjYAE24/01/05(金) 12:13:12

    >>20

    ドーベルで書くの約半年ぶりみたいで驚きですわね


    ベルトレとブラトレを手癖で絡ませること多いですけど果たして一般的なウケがいいのかは永遠に謎です

  • 22二次元好きの匿名さん24/01/05(金) 12:40:12

    良き…
    このおみくじ書いてるの三女神だろ(決めつけ)

  • 23◆y6O8WzjYAE24/01/05(金) 23:29:48

    一回あげあ〜げでうぇうぇーいですわ〜

オススメ

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