- 1二次元好きの匿名さん24/01/08(月) 20:57:49
「うぇいよー☆ トレぴよあけおめぇぇ~~っ!」
「あっ、あけおめ……?」
元旦、朝の6時前。
部屋に突然鳴り響いたインターホンを聞いて、寝ぼけまなこで扉を開けると、そこには無邪気な笑顔のウマ娘。
青いメッシュの入ったサイドポニー、目元にはタトゥーシール、口元からちらりと覗く八重歯。
担当ウマ娘のダイタクヘリオスは、尻尾をブンブン振りながら、俺の部屋の前に居た。
「えっと、今日は随分早起きなんだね?」
「忘年パからカウントダウンフェスブッカマして今までオールでパーリナイッ☆ してたかんねー!」
「そっ、そっか、若いなー……」
どうやら、ヘリオスは夜通しで騒いでいたようである。
寮には門限と消灯時間が存在するが、大晦日に限ってはその制限が解除されると聞いたことがあった。
……それにしても、何をしに来たのだろう。
新年の挨拶か、あるいはお年玉の要求か。
いずれにせよ、わざわざこんな朝早くから来る必要性は薄く感じられる。
どう聞いたものか、と考えていた矢先、理由は彼女の口から語られることとなった。
「トレぴさ、今日ってフリーな感じ?」
「まあ、今起きたばかりだし、この後も予定はないけど」
その言葉を聞いて、ヘリオスは耳を大きく反応させる。
そして嬉しそうに笑みを深めて、誘うように、俺に向けて手を差し出した。
「そマ!? ラッキー☆ それじゃあウチとさ────初日の出、見に行こ?」 - 2二次元好きの匿名さん24/01/08(月) 20:58:04
「ゼファっちが教えてくれてな? 『Fuuコールメイビー』? 叫んじゃうほどヤバイかも的な!?」
「あの子えらいファンキーなこと言うんだな……場所は知っているけど、そんな話聞いたことがないな」
「レベチな穴場なんだって! ウチも初見なんだー!」
ヘリオスは手をパタパタと動かしながら、期待に目を輝かせていた。
そんな彼女を見ているだけで、俺の方までわくわくしてきてしまう。
────あの後、俺達は初日の出を見に出かけることとなった。
彼女がヤマニンゼファーから聞いたとされる場所は、トレーナー寮から30分ほど離れた丘の上にある公園。
何度か散歩がてら行ったことがあるけれど、日の出なんて意識したことがなかった。
まあ、あの自然を愛するヤマニンゼファーのお墨付きだ、嫌でも期待をしてしまう。
……少し、不安が残るとすれば。
「あそこの坂道結構キツいんだよね……」
「んー? そだったかなー?」
道中のことを考えて、少し苦笑いを浮かべてしまう。
そこそこの傾斜のある、あまり舗装されてない荒れ道。
年末にかけて事務仕事に追われ、運動不足だった身にはなかなか大変かもしれない。
ヘリオスは俺の言葉を聞いて、不思議そうな表情で首を傾げる。
ウマ娘の身体能力をもってすれば、あの程度の道がキツイと言われてもピンと来ないのだろう。
しばらくの考え込んだ後、彼女はにこっと音が出そうな明るい笑顔を浮かべた。
「んじゃウチが背負っていけば解決じゃね!? 出会った頃の思い出がカモカモしてマジエモいっしょ!」
「……いやあ、急に初日の出だけじゃなくて歩くのも楽しみになってきたなあ!」
「それなー☆ トレぽよもアゲぽよじゃーん! ウチもバイブスアガる~っ! うーん、たのちみソワソワ丸~~っ!」
ヘリオスはぴょこぴょこ跳ねながら、先を急いだ。
その姿を見ているだけで何だか元気が出てくるみたいで、俺は顔を綻ばせて、彼女の後を追った。 - 3二次元好きの匿名さん24/01/08(月) 20:58:27
十分後。
「とぉーーれぇーーぴぃーーよぉーーまってぇーー……!」
「わ、ごめんヘリオス、大丈夫か!?」
背後からかけられた消え入るような言葉。
いつの間にかヘリオスを置き去りにしてしまったことに気づき、慌てて俺は振り向く。
彼女はふらふらと蛇行しながら、真っ青な顔で荒い呼吸をしながら、歩いていた。
「だっ、だいじょーびー……ちょい、ぴえん超えてぱおん超えて……ぎゃおんなだけだし……」
「どう見ても大丈夫じゃないでしょそれ……」
ヘリオスに駆け寄ると、彼女は倒れ込むように俺の胸の上へと寄りかかってくる。
絶え絶えな呼吸の音と汗の匂い、そして疲れたと書いてあるような彼女の顔。
いくら何でもおかしい、本来の彼女であればこの程度の道のり、逆立ちでも踏破出来るはずなのだが。
「アハハ……トレぴ、まぢ感謝☆」
ヘリオスは顔を上げると、少しだけ困ったような表情で礼を告げた。
…………メイクで上手く隠していたようだが、彼女の目の下には良く見ると隈が出来ている。
彼女のスケジュールが、その言葉通りだったとすれば当然だ。
半日近く夜通し不眠不休で騒ぎ続けていれば、さすがの彼女も体力が尽きてしまうだろう。
むしろ、トレーナーである俺が彼女の無理を見抜いて、止めてあげるべきだった。
後悔の念に苛まれつつも、思考を巡らせる。
すでに道は半ばまで来ている、今から引き返すのも一つの手だが、彼女がそれを望むだろうか。
これ以上、彼女に無理はさせたくない。
けれどここまで来たのならば、彼女に初日の出を見せてあげたい。
ならば取れる手段は一つ────俺が、少しだけ無理すれば良いだけだ。 - 4二次元好きの匿名さん24/01/08(月) 20:58:44
「ヘリオス、ちょっといいかな」
一旦ヘリオスを一人で立たせて、一歩離れて、俺は彼女に背中を向けて屈んだ。
後ろを振り向けば、きょとんとした表情を浮かべて立ち尽くしている彼女の姿。
「俺がおぶさっていくよ、いつかの思い出の、お返しってことで」
「……マ?」
「マ」
「……ガチなパティーンかあ」
ヘリオスは微かに頬を染めて、目を逸らしながら、珍しいほど小さな声で呟いた。
しばらくの間、彼女は逡巡するようにもじもじとしていたが、やがてちらりと俺に目を合わせた。
「オッ、オナシャーッス……?」
そう言いながらヘリオスは、そっと俺へと乗った。
マシュマロのような柔らかい感触と、熱いくらいの体温が背中に広がり、思わずドキリとしてしまう。
何とか平静を装いながら、むっちりとした彼女の太腿を掴み、しっかりと身体を支える。
そして足に力を入れて、ゆっくりと立ち上がる。
「……ウチ、重くない?」
「全然問題なし、このくらい任せてよ」
「そっか……ようし! ウェイウェーイ! ちゃんヘリMAX盛りトレぴ、れっつらごー!」
「まあ盛ってるちゃ盛ってるけどさ」
ヘリオスの号令に合わせて、俺は歩みを進める。
しばらくの間は、彼女も遠慮がちに、少しだけ身体を離していた。
けれど数分歩いているうちに安心したのか、気が付けばすっかり身を預けてくれていた。
……そうすると、彼女のぽよんがぽよんしてしまうのだが、全力で意識を向けないようにする。 - 5二次元好きの匿名さん24/01/08(月) 20:59:02
「えへへ……トレぴの背中めーっちゃあったかい……もはや夏じゃん?」
「……そんなに?」
「トレぴよとずっしょなら…………暖房いらずじゃんねー……マジエコいってか…………」
「まあ確かに、君と一緒なら、冬でもあったかそうだけどさ」
「それに……なんだか…………フワフワ………………して……やば……たに…………えん…………」
徐々にヘリオスの言葉が小さくなっていき、彼女の両手が前へと回される。
そして彼女は、まるで抱き締めるかのように、その両手に力を入れた。
「ヘッ、ヘリオス?」
「すぅ……すぅ……」
鼓膜を揺らすは小さな寝息、背中にかかる重みがずっしりと増してくる。
どうやらヘリオスは寝入ってしまったようだ、全身の力は抜けているのに、腕に籠もった力は不思議とそのまま。
……そういえば、良く荷物とかに抱き着いていることがあるし、そういう癖なのかな。
普段であれば、彼女は睡眠中でも喋ったり笑ったり歌ったりするのだが、今はそれもない。
それくらい疲れて、眠かったのだろう。
ちらりと、心地良さそうにしている彼女を見て、思わず笑みを浮かべてしまう。
「……お休み、ヘリオス」
後で起こしてあげるからね、と付け足して、改めて前を見る。
────そこには、未だ終わりの見えない、暗い道のりが続いていた。
彼女にはああは言ったものの、正直、結構キツイかもしれない。
大きく深呼吸をし、起こさないように小さな声で、自分に気合を入れる。
「がっ、がんばるぞー……」
えい、えい、むん。
心の中のマチカネタンホイザにエールを送ってもらったが、あまり効果があるようには思えなかった。 - 6二次元好きの匿名さん24/01/08(月) 20:59:26
「はあ……はあ……流石に、厳しかったか」
丘の頂上。
予定よりも遥かに長い時間をかけて、俺は息を切らせながらヘトヘトの状態で辿り着いた。
そこには、数人の人がいて────すでに帰り支度をしている。
目の前では、黄金色に輝くまんまるの太陽が、全てを明るく照らしていた。
……残念ながら、夜明けの瞬間に間に合わせることができなかった。
けれど今、俺達の前に広がっている光景は、とても神秘的で、心に染みわたるようで。
「……きれいだ」
気が付けば、柄にもなく、そう口走っていた。
すっかり見惚れてしまってから、ふと我に返る。
これを見せてあげなきゃいけない人がいるのに、何をボサっとしているのか。
俺は慌てて近くのベンチにヘリオスを降ろすと、少し呼吸を整えてから軽く肩を揺さぶった。
「ヘリオス、起きて、着いたよ」
「ふあ……って眩し…………ミラボ? トレぽよ朝からパリってんの…………ウチもぴらんと……」
「じゃなくて、ほら、初日の出、もう出ちゃってるけどさ」
「初日の出────」
刹那、ヘリオスは大きく目を見開いた。
そして燦然としている太陽と照らされる景色を視界に収め、その瞳をキラキラと輝かせた。
彼女はぷるぷると震えると、勢い良く立ち上がる。
「Fuu! マジヤバッ! テンアゲッ! 爆アゲッ! 鬼アゲッ! うぇいうぇいうぇいうぇーいっ!」 - 7二次元好きの匿名さん24/01/08(月) 20:59:57
ヘリオスは叫ぶように、思いの丈を口に出した。
顔には、あの太陽に負けず劣らずの、満面の笑みが浮かんでいる。
そんなの嬉しそうな様子を見ただけで、先ほどまでの苦労も忘れて、来て良かったなと思ってしまう。
彼女は尻尾を振り回し、耳をぴこぴこ動かしながら、こちらを向いた。
「トレぴトレぴ! 一緒にセルフィーよろっ! これは神映え間違いなしっしょー☆」
「了解……出来れば日の出の瞬間を見せて上げたかったんだけど、ごめんね」
「日の出の? ……って、あああああ~~~~っ!?」
一瞬ぽかんとした表情を浮かべてから、ヘリオスはこの世の終わりみたいな表情で叫び声を上げた。ムンクかな。
慌てた様子で俺の肩を掴み、焦りすら感じさせる形相を近づけて、ガックンガックンと激しく身体を揺さぶってくる。
そんな彼女の瞳には、縋るような、そんな想いが込められていた、
「トトトッ、トレぴっぴは初日の出チェケ出来たん!?」
「ちょっ、落ち着いて……! いや、俺が来た時にはもう日は昇り切ってて……!」
「ぴっ、ぴえんっ! 絶起だったんじゃんよーっ!」
ヘリオスは悲鳴を上げて、へなへなと力なくベンチに座り込んでしまう。
そして今にも泣きだしそうな、というか半泣きで、彼女は語気を荒げていく。
「最&高なヘロー太陽を見せたかったのに~! ウチのせいで台無しとかマジメンブレなんですけどー!?」
「……見せたかった?」
「トレぴとエンカしてからMAXたのぴい毎日が上限ブチアゲでな!? でもウチはそのお返しも出来んくてマジつらたんで!」
「……うん」
「せめて一年のお礼だけでもしたかったのにガチしょんぼり沈殿丸ぅ~~~~っ!」 - 8二次元好きの匿名さん24/01/08(月) 21:00:16
頭を抱えながら、朝焼けの空に向かってシャウトするヘリオス。
……俺は、彼女が初日の出を見たいのだと考えていた。
でも、それは少し違っていて、彼女は俺に、この美しい光景の、もっと美しいであろう瞬間を見せたかったのだ。
それにようやく気付いて、思わず、胸が熱くなってしまう。
その気持ちが、とても嬉しかったから。
「……ごめんねトレぴ、ウチが寝落ちしちゃったせいで」
「そんなことないよ、今見てる景色もすごいきれいだし、何より君が連れ出してくれなかったら、これすら見れなかった」
「でもでも、ホントはもっと神ってて! あげみざわで! マジまんじのはずで!」
「じゃあさ、約束しようよ」
「……約束?」
俺は首を傾げるヘリオスの目の前に、小指を立てて差し出す。
「また来年一緒に行こう、それで今度こそ、初日の出を見よう」
「…………りょ! おけまるにじゅうまる! 来年もゆりハカまでずっしょだかんね!」
ヘリオスは泣き顔を、みるみるうちにいつも通りの笑顔に変えて、自らの小指を絡ませた。
力強いはずなのに、あっさりと折れてしまいそうなほど細くて、守らなきゃいけないと思ってしまう。
まだ今年も始まったばかりなのに、俺達はお互いに笑みを浮かべながら、来年のことを誓い合うのだった。 - 9二次元好きの匿名さん24/01/08(月) 21:00:42
「トレぽよー! この後どうするん!? フェスる? オケる? 雑煮る? 全部カマすかー!?」
帰り道、先導するヘリオスは振り向きながら、俺に問いかけて来た。
ひと眠りしたことですっかり元気全開、足取りも軽く、いつもの調子を取り戻したようである。
……こっちは消耗したままなのだけれど。
まあ、たまには良い運動だろう、俺は誤魔化すように苦笑いを浮かべる。
────ふと、木々の影がなくなって、朝日が強く差し込んできた。
……しかしまあ、あそこの光景はきれいだったけど、ヘリオスほど感動はしなかったな。
生まれてこの方、初日の出なんて見に行ったこともないからもっと高ぶっても良さそうだけれど。
やっぱり、初日の出の瞬間を見れば違うのかな。
「トーレーぴー! かまちょしてー!」
突然、ヘリオスの笑顔が、横から目の前に入り込んできた。
その日光に照らされたその顔はとてもきれいで、見てるだけで温かくなって、優しい気分になって、思わず見惚れてしまう。
そして、俺は気がついた。
「ああ、そっか」
「ん? どしたん?」
「……いやね、俺、最高の初日の出、別の場所でちゃんと見せてもらってたよ」
「うっ、うええぇえ!? いついつどこどこ!? ってか夜明け前からウチとニコイチだったべ!?」
「それは…………秘密で、ヘリオスには見せてあげられないからね」
「それなしよりのなしすぎぃ~~っ! 過去1気になり過ぎてガチバイヤーなんですケド~~!?」 - 10二次元好きの匿名さん24/01/08(月) 21:01:02
いいものを見た…これをちゃんとした所に挙げなさい
- 11二次元好きの匿名さん24/01/08(月) 21:01:13
ショックを全身で表現するヘリオスを見て、申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。
…………とはいえ、さすがに口に出すことは恥ずかしくて出来ない。
あの時、驚いてはいたけれど、本当は嬉しかった。
年末なかなか会えなかった君と、新年早々出会えて、一緒にいることが出来て。
ああ、そうだ。
まだ大切なことを伝えていなかったな。
「ヘリオス」
わちゃわちゃと動き回っているヘリオスの名前を呼ぶ。
すると彼女はぴたりと動きを止めて、俺のことを、どこか神妙な顔つきで見つめた。
それがちょっとだけおかしくて、思わず吹き出しながら、俺は言葉を紡ぐ。
「ぷっ、あはは、いやさ、ちゃんと言えてなかったから────今年も一年、よろしくね」
俺の、太陽。
そんな小恥ずかしい言葉だけは、何とか飲み込むことが出来た。
そして、ヘリオスは初日の出よりも眩しい笑顔を見せつけて、よろっ! と元気良く返してくれた。 - 12二次元好きの匿名さん24/01/08(月) 21:02:33
お わ り
新年ネタはしばらく擦っていきたい - 13二次元好きの匿名さん24/01/08(月) 21:06:04
ありがとうお わ りの人
エミュ難しいだろうにようやったな… - 14二次元好きの匿名さん24/01/08(月) 21:11:53
ヘリオスの為なら多少の無理でもやってのけるのがトレぴ…
トレぴがそんな風に自分の為にといつも頑張ってくれてるのをちゃんと理解して、返したいと思ってるのがヘリオス…
…やはりトレヘリは尊い - 15二次元好きの匿名さん24/01/08(月) 21:19:38
(素晴らしい作品に賛美を惜しまない私…)
- 16二次元好きの匿名さん24/01/08(月) 21:34:43
- 17二次元好きの匿名さん24/01/08(月) 21:45:35
すごくよかった
新年一番に太陽から会いに来られるなんて贅沢なことだな
そしてパリピ語エミュすごいな - 18二次元好きの匿名さん24/01/08(月) 22:14:19
貴方のssを見るたびに俺には書けないってなる。いいssでした。
- 19124/01/09(火) 08:06:56
- 20二次元好きの匿名さん24/01/09(火) 08:16:17
このレスは削除されています
- 21二次元好きの匿名さん24/01/09(火) 18:44:50
ヘリオスが可愛い……
- 22124/01/09(火) 22:43:40
ヘリオスは可愛いよね……