セイちゃんの明けましてほろ酔い綺譚【トレウマ・SS】

  • 1二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 00:24:03

    元日、新しい一年の始まりである。このようなおめでたい日には、さて何から始めるのが良いだろうか。
    百八つの煩悩を打ち祓う鐘の音を聞きつつ二年参りか、初詣。あるいは、今年一年またお世話になる友人知人へあけおめことよろとメッセージを送りまくるか。またあるいは、カウントダウンパーティをあけおめパーティに切り替え、ご機嫌なミュージックに針を落とし更に盛り上げて行こうか。

    各々が厳かに、あるいは昂揚しながら新年を迎える中、トレセン学園でトレーナーを務める彼は、担当ウマ娘……否、元担当ウマ娘に倣って新年を寝正月で始める事にした。二人してデパートで買い込んだごちそうやら年越し蕎麦やらを食べ尽くし、お腹いっぱい幸せいっぱいで眠りについた二人が目を覚ましたのは、初日の出から随分出遅れたお昼前であった。二人は色々とやりっぱなしのリビングに苦笑した後、まずは互いに向かい合い、頭を下げた。

    「あけましておめでとうございます、トレーナーさん。今年も一年セイちゃんをたっぷり甘やかして下さいね♪」
    「あけましておめでとう、スカイ。今年もよろしくお願いする以上家の事も少しはやって貰うつもりなので、よろしく。後、もうトレーナーは元だ」
    「にゃはは、そこは慣れちゃったので、そのままでお願いしまーす」

    商店街のおばちゃんみたいな手つきでころころと笑う彼女に、彼もまた笑顔を返す。そして、周囲をぐるりと見回した。

    「さて、それじゃあ早速……後片付けだな」
    「ですね、ではセイちゃんはこたつむりを担当しますので、他はお願いします」
    「そうは問屋が卸さないぞ。皿を洗うか、リビングを片付けるか、どっちが良い?」
    「むむ……では、お片付けの方で」

    心得た、と彼がテキパキ皿を重ねて運び始めると、スカイも思い切り身体を伸ばしてからリビングのアレコレを片付け始めた。

    トレーナー資格試験を現役で合格し、喜び勇んで中央トレセン学園へやってきた彼の、初めての担当ウマ娘。それがセイウンスカイである。
    トレセン学園を卒業してすぐ彼の家に転がり込んだスカイに対し、彼も、スカイと彼の周囲も特に何も突っ込まない程度にはトゥインクル・シリーズで親密な関係を築き上げ、共に駆け抜けてきた。

  • 2二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 00:26:12

    そんな二人の出会いは、空き部屋のソファで横になりに来たスカイがその空き部屋の新しい住人であった彼と鉢合わせたのがきっかけと言うから、人生何が起きるか分からないものである。

    炬燵の周りに散らかしたアレコレを片付け、食器も拭いて戸棚へ。リビングで適当に寝てしまったのであちこちガタついた全身をシャワーで洗い流して、さっぱり。
    グラスワンダー曰く、元日は呼び込む福を水に流さないという言い伝えからお風呂に入らない習慣があるらしいが、シャワーなら、まあ許して貰えるだろう。
    そんな風に時折頭の中を緩くできるようになったのは一緒に暮らすスカイのおかげだと、彼は密かに思っていた。片付けも済んで身だしなみも整えた二人は、一先ずリビングへと戻る。

    「いやー、さっぱりさっぱり。そう言えば、初詣はどうします?」
    「そうだなぁ、もうお昼になるから……今は神社も混んでるだろうし、もうしばらく後でも良いかな」
    「さんせーい。トレーナーさんも折角のお正月ですし、のんびり行きましょうよ」
    「ん、じゃあ、今日はスカイ流でいくとしよう」

    そうと決めると、彼は炬燵に足を埋めた。スカイもまた、彼の居る側の炬燵布団へいそいそと潜り込む。

    「ここだと狭くないか?」
    「まあまあ良いじゃないですか、セイちゃんとトレーナーさんとの仲ですし♪」

    嬉しそうに耳をピコピコ動かしながら炬燵に潜り込むと、スカイは彼の隣でむふー、と息を付いた。

    「お腹は空かないか?」
    「ん、だいじょーぶです。昨日の分がまだ残ってますので」
    「分かった……食べたもんなぁ」
    「いやぁ、セイちゃん久々にハッスルしちゃいました。スペちゃんの事、笑えないかも」

    とりとめのない話をして、時折スカイ自慢のふわふわの髪を撫でるなどしながら、穏やかな元日を過ごす。
    スカイが引退した後も新たな担当ウマ娘と共にトゥインクル・シリーズを駆ける彼にとって、年末年始は貴重な休みの一日。担当ウマ娘と必勝祈願がてら初詣に行くトレーナーも多いが、今の担当ウマ娘は実家に帰省していた。ふと、12月最後のミーティングの後、別れ際に彼女から贈られた言葉を思い出す。

  • 3二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 00:29:26

    『じゃあなTrainer……アタシは愛すべきFamilyが待つHomeへ帰る……次に再会する時はClassic RacesへのGateが開く時さ……更にCoolでDrum and bassなSoundを響かせようぜ……大先輩とも、仲良くな……Have a happy new year……』

    囁きかけるような口調に大変美しい発音の英語を織り交ぜ喋る。黒曜石のようなロングヘアーを美しく煌びやかに掻き上げたなら、そのままクールな流し目を向けながら人差し指と中指で投げキッス。
    こんなスタイルだが、彼女は歴とした日本産まれ日本育ちのウマ娘である。愛する家族や、自身の背中を押してくれた親友達を何よりも大切にしている彼女は、彼と一つ屋根の下で暮らす二冠ウマ娘の先輩との仲を度々気に掛けていた。
    こうして休みがあるなら一緒に過ごすように促してくれるのは、正直言って助かる事も多い。

    「トレーナーさん、今担当の子の事考えてたでしょ」
    「……バレたか」
    「そりゃあバレますよ……セイちゃん、最初テレビでレース見た時は一瞬トレーナーさんの趣味を疑っちゃいました」
    「確かに、最初は俺もあの子も色物を見る目で見られてたな。でも……」
    「……あの切れ味に惚れた。でしょ?」

    したり顔のスカイの指摘に対し、ふ、と彼の口角が上がる。
    先手必勝、風を切り裂くような爆発力で飛び出したら、ただただ只管に先頭を駆ける。彼女の親友曰く、彼女は常に、一瞬を生きている。
    脚質は大逃げ。スタートダッシュ以外の駆け引き、ペース配分一切無し。爆発的なスピードとパワーで常に全てを出し切るスタイルから適性は短距離からギリギリマイルまで。"刹那の逃亡者"とは、朝日杯を大逃げで勝利した後ターフに倒れ伏した彼女に付けられた渾名だ。
    強者を幻惑しレースを支配するトリックスターの導き手が次に見出したのは、ROCK'N'ROLLなスプリンター。彼の頭には、既に彼女の未来が見えている。NHKマイルカップ、スプリンターズステークス、高松宮記念、マイルCS……。

  • 4二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 00:31:52

    「にゃは、トレーナーさん……悪ーい顔が出ちゃってますよぉ?」
    「参ったな、レースの事を考えているといつもこうなるらしい……もしかして、スカイのおかげかな?」
    「あっ、そういう時だけセイちゃんのせいにする。あー、いけないんだー」
    「ごめんごめん」

    ほっぺを膨らませ、耳で器用にペチペチと自身を叩いてくるスカイの矛先を逸らすように、彼はすっと立ち上がった。

    「まだしばらく外にも出ないし、折角だから一杯どう?」
    「お酒ですか?」
    「と言っても、祝い酒だけどな」

    そう言って、彼は台所から大きめのティーサーバーと杯、それと随分格式の高そうな包みを持ち出してきた。包みには、『屠蘇散』と書かれている。

    「何です、それ?」
    「グラスワンダーの元トレーナー、覚えてるか? 彼女が教えてくれたんだ。元日に飲む、縁起の良いお酒らしい」
    「ああ、お屠蘇ってヤツですか。グラスちゃんもいつだか皆に言ってましたね」

    彼は頷きつつティーサーバーの中を確認すると、うんと唸った。
    お屠蘇とは、お正月に無病長寿を願って飲まれるお酒の事だ。単にお正月に飲むお酒をそう呼ぶ事もあるらしいが、本来は色んな材料を配合したものを漬け込んだお酒を差すらしい。
    屠蘇散とは、山椒や桔梗などで作られたお屠蘇の材料の事だ。これを日本酒と味醂に6時間から8時間ほど漬け込めば、お屠蘇の完成である。
    二つの杯に薄い琥珀色のお屠蘇を注ぐと、彼は自身とスカイの前に置いた。

    「なかなか綺麗な色ですね」
    「こうして見ると確かに縁起が良さそうだ……よし、それじゃあ、スカイの無病長寿を祈って」
    「ではではセイちゃんも、トレーナーさんの無病長寿、後は我らが後輩ちゃんの武運長久を祈って」

    二人は杯を軽く掲げると、同時に琥珀色のお屠蘇を口に含んだ。お屠蘇を頂く時、乾杯は言わない。他にも色々と作法があるらしいが、グラスと、グラスの元トレーナーは、一緒にお屠蘇を飲むだけでも大きな意味があるから、とそこまで厳しくは指導しなかった。
    杯の中身を飲み終えた二人は、晴れやかな笑顔で互いに見つめ合うのだった。

  • 5二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 00:34:12

    「トレーナーさんって、いつ見てもカッコいいですよね~。俳優さんも顔負けじゃないですかぁ?」

    それからしばらくすると、スカイはニコニコしながら嬉しそうに耳と尻尾を揺らし、彼の側に身体を寄せていた。お屠蘇は日本酒と味醂を合わせたお酒なのでそれなりに強く、杯一杯でもスカイをほろ酔い気分にするには十分な量であった。それは、彼もまた然り。

    「それ程でも無いよ。俺なんて精々舞台の隅にいる脇役みたいなものさ」
    「え~? またまたご謙遜を~♪」

    お酒が回り頬を赤らめた彼に、スカイが更に追撃をかける。スカイが不意に始めた『照れたら負けゲーム』で先手を奪ったスカイの褒め言葉に、彼は嬉しそうに身体を揺らしていた。その様子に上機嫌なスカイが続ける。

    「じゃあじゃあ、今度はトレーナーさんがセイちゃんに色々照れちゃうような事、言ってみて下さいよ」
    「スカイの事をか……?」
    「ですです! 勿論、セイちゃん負ける気はありませんけどね。にゃは♪」

    端から見たら完全にただの酔っ払いだが、実の所、彼にそう見せているスカイの胸の内には一つの打算があった。それは、ほろ酔い気分の彼に『照れたら負けゲーム』を仕掛け、彼の内心を暴こうという策である。
    既に一つ屋根の下での生活を初めてから数年が経ち、いつしかスカイもお酒が飲める年齢になった。転がり込んでからあまり変わらない彼との生活を、スカイ自身は居心地良く思ってもいたが、それはそれとして実際の所彼が自身をどう思っているか、気にしている所もあったのである。

  • 6二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 00:36:45

    スカイが内心鼓動を早めながら彼の言葉を待っていると、彼は何か納得したように頷いた。

    「そうだな、まずはとにかくスカイは可愛い」
    「ほほう、まずはストレートに来ましたね。それで、どんな所が可愛いんでしょうかねぇ?」

    既にスカイの胸の鼓動は一気に加速していたが、それを彼は知るハズも無い。お屠蘇の力も借りて、堰を切ったようにスカイへの想いを込めた言葉が溢れ出す。

    「青空と雲の流れを見上げる顔が可愛い。釣りをしながらのんびり風に揺られてる時の顔が可愛い。ネコを可愛がってるところが可愛い。ネコの物真似が上手な所も可愛い……あと、甘えてくる時ネコみたいに懐に飛び込んでくるのが可愛い」
    「あ、あの……ひとまず、それくらいで……」

    五月雨式に放たれる言葉に許容ダメージ量を上回りかけたスカイが言葉を挟むが、彼は止まらない。

    「それから、頭を撫でる時、いつもふわふわしてて撫で心地抜群な所が好きだ。その時にしか見れない嬉しそうな顔が好きだ。たまに見せていた憂いを帯びた表情も大好きだった。けれど、考えに考え抜いた作戦がハマった時の晴れやかな顔がもっと大好きだ」
    「あっ……あっ……!」

    スカイは既に限界が近かったが、辛うじて理性を保っていた。ギリギリで耐えたスカイは、このまま押し切られる訳にはいかないとばかりに、彼の言葉が止まった一瞬の隙を突いて逆転の一手を打った。

    「と……そ、それを言うなら、と、トレーナーさんだって。私、驚いた時の目をぱっちり開いたトレーナーさんの顔とか、好きですし? お酒に酔って、ふわふわしてる顔も可愛くて好きですし、後はレースの時とか、私に『行ってらっしゃい』って背中を押してくれた時の顔とか、それはもうすごくカッコ良くて大好きでしたし、私が行きたいって言った所にいつだって一緒につれていってくれる所も、だ、だいすきで……」

    事ここに至り、スカイはようやく気付いた。逆転の為放った自身の言葉が、端から見たらただの愛の告白であるという事に。

  • 7二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 00:38:42

    だが、それに気付いてパニック状態になったスカイはもう止まらないし、止められない。自身の想いを勢いのままぶちまけた。

    「わ、私、私は! トレーナーさんが私の事好きだって言うより、トレーナーさんの事が大好きですからっ!!」
    「俺もだ」
    「はえ?」

    想いを叫びきったスカイに対し、彼は即答する。そして、思わず空気の抜けたような声を上げたスカイと真っ直ぐに向き合い、真剣な眼差しでスカイの想いに応えた。

    「俺は今までも、これからも、ずっとずっと、スカイが好きだ。大好きだ」
    「あっ……」

    彼の言葉に、スカイは遂に限界を超えた。糸が切れた人形のように崩れ落ちた身体は、程よく暖かいカーペットの上に横たわってしまった。
    顔を真っ赤にしたまま横になって動かないスカイに、彼はふ、と笑みを浮かべると、炬燵を引っ張り毛布をそっとスカイに掛ける。

    「……今度は、酒の力だの、照れたら負けだの、そんなのに頼らず言わないとな」

    その言葉が、スカイに届いていたかどうかは分からない。それでも、心の奥で届いている事を祈りながら、彼もスカイに寄り添い、身体を横たえるのだった。

    その後目を覚まし、酔いも覚めたスカイが最初に見たのは、自身を優しく抱きしめながら眠る彼の寝顔だった。
    スカイは、凄まじい勢いで湧き上がってきた羞恥心と彼への想いから彼が起きてからしばらく彼の顔をマトモに見る事が出来なかったとキングヘイローにこぼし、この世の終わりのような溜め息で呆れられる事になるが、それはまた別の話である。

  • 8二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 00:43:35

    以上です。ありがとうございました。

    こちらのスレの85にて、名無しの権兵衛スワンダーが注文していたセイちゃんSSが届く前にスレが落ちてしまった為、改めてSSスレを立てさせて頂きました。

    起きて目が覚めてからセイちゃんを見たが|あにまん掲示板今日も可愛いな!ヨシ!bbs.animanch.com

    勢いのまま突っ込んで自爆するセイちゃんは可愛い。古事記にも書かれている。

  • 9二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 01:01:15

    ……今はただ、君にハートを

  • 10二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 01:04:20

    まだあのスレの同胞が残っていたとは
    照れたら負けゲームでセイちゃんが勝つ日は来るのだろうか…

  • 11二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 01:30:05

    セイちゃんの卒業しても変わらない可愛さがスーッと効く
    と同時に元セイトレの現担当が濃すぎてすごくすごい気になる

  • 12二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 02:08:52

    これはいい負けセイちゃん

  • 13二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 08:51:53

    金曜朝一から摂取するセイちゃんの可愛さが健康に効く

  • 14二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 11:38:59

    セイちゃんがこの手の話題を持ちかけたり相談をする時の相手はまずキングという謎の信頼感

  • 15二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 11:52:59

    ほのぼのイチャイチャパート狂おしいほど好き
    トレセイに似合う

  • 16二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 17:08:34

    セイちゃんは卒業後転がり込んで関係はなぁなぁになってそうとかいう概念もっと流行れ

  • 17124/01/12(金) 21:07:06

    皆様、お読み頂きありがとうございます。

    >>9

    ありがとうございます!励みになります。


    >>10

    結婚してブラックコーヒーから砂糖黍が生えるレベルになった頃には勝てると思います。

    ただその際の照れたら負けゲームは端から見てるとただのイチャイチャなのが難点です。


    >>11

    セイちゃんの可愛さがDNAに素早く届いて健康になる。

    現担当ちゃんは、濃すぎる佇まいと大逃げ以外やらないスタイルのせいで声が掛からない日々を送っていた折に元セイトレにスカウトされました。

    セイちゃんとセイトレの結婚式には愛用のギブソンを携えて参列するつもりです。


    >>12

    全力でラブビーム撃ったら吸収されて10倍返しされちゃうセイちゃんからしか摂取出来ない栄養素がある。


    >>13

    セイちゃんの可愛さでいつか風邪も予防出来るようになる。


    >>14

    すごくすごい分かります!

    個人的にセイちゃんの相談相手一番人気はキングだと思います(二番人気はグラスちゃん)。小言を言われたり呆れられたりしても最後まで聞いてくれる。そんな一流ウマ娘だといいなと思います。


    >>15

    ありがとうございます。

    セイちゃんとセイトレはどれだけイチャつかせても困りません。


    >>16

    結構長いことその概念を推しておりますが、もっと流行らせていきたい所ですね。

    またどこかに良いセイちゃん概念があったら参加したいものです。

オススメ

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