(SS)シュヴァルグランお父さんっ子概念

  • 1二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 21:54:19

     入学して最初のゴールデンウィーク。
     姉さんとヴィブロスに引きずられる様に、家に帰ってきた。
     下の階では、家族4人が食後の談笑を楽しんでて……僕は、2階で踞ってその声を盗み聞いてる。   

     姉さんはトレーナーを、しかも専属契約を勝ち取った。
     僕は……まだ、選抜レースに出走すらしていない。
    「こんなところで遊んでいていいの?」
    「トレーニングはいいのか?」
     言われるはずもない言葉を、みんなが言わないことを期待して。
     走って来るからって席を外して、ランニングウェアに着替えたまま聞き耳が立つここから離れられない。

     自信満々に勝利を宣言してみせる姉さん。
     私も私もと気張るヴィブロス。

    どうして僕だけ、違うんだろう。

     宝石みたいな紫色の瞳。
     誰も寄せ付けない、走りの才能。
     みんなに囲まれてキラキラしてる姉妹たち。

     曇り空みたいな燻んだ青色の瞳。
     怯えて縮こまって走りだせない、弱い僕。
     みんなの後ろを俯いている、僕。

     どうして同じじゃないんだろう。
     もうちょっとだけでも似ていたら。
     姉さんと、ヴィブロスと。
     もうちょっとだけでも、同じだったら──

    どうして、僕だけ?

  • 2二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 21:54:31

     僕が情けない姿を晒すたび、2人との差を思い知るたび。
     言ってはいけないことが頭をよぎる。


    僕は、本当は……よその子なんじゃないかって。


     考えるほど自分が嫌いになる。
     比べられることから逃げる為に、家族の絆を否定する僕なんか。

    手鏡を覗くと、弱い瞳が目を逸らした。

    僕なんか嫌いだ。

  • 3二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 21:55:01

    「シュヴァルはなー、目が青いんだよ!」

     大きな声。父さんだ。
     ……酔ってるなぁ。そういえば夕飯の間にビール2本空けてた。

    「もー、またその話?」
    「パパ、酔っ払うといつもその話なんだから」
    「お父さんったら、シュヴァルは父親似なんだって言って譲らないのよ」

    ……え、知らない。

     釣りをするのは父さんと僕だけだし。
     家族で出かける時、父さんは決まって一番後ろで皆を見守ってた。
     母さん姉さん、ヴィブロスが3人固まって前を歩いて。
     その後ろをとぼとぼ僕が歩いていたから……父さんが、一番近くにいた。

     英雄を打ち倒したあの偉大なウマ娘を知るまで、何度も走るのが嫌になった。
     そのたび、母さんの才能を引き継げなかったって顔を見られなくなって。

     走りたくない時、逃げ出したい時……父さんがキャッチボールに連れていってくれた。

    「3人とも小さくても丈夫で運動できるから、ちょっと強く投げても上手く捕れただろ?」
    「大人気ないからやめなさいって言ってるのに、懲りずにね」

     投げるのは姉さんの方が上手かった。打つのはヴィブロスの方が上手かった。
     僕は、どちらも下手だったから……みんなでいる時はいつもキャッチャーだった。

    「それである日な、キャッチボール中に不意にフォークを投げてみたんだよ。そしたら、な!」
    「『1発で大魔神のフォークを捕ったんだ!僕の握りを見て、しゃがんで空を見上げるみたいにして!』……でしょう?もう覚えちゃったわ」
    「シュヴァちばっかりズルーい……」

  • 4二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 21:55:28

     記憶の中に朧げに、でも確かにあった。

     何度もテレビ越しに見た現役時代のフォーム。
     反射的に、何度もやったキャッチャーの姿勢になって。
     もしかしたらって目を凝らして一瞬見えた、開いた二本指。
     燻んだ空に浮かんだ白球を見上げて──何かに導かれる様に、グローブに納めた。

     父さんが凄く喜んでくれた、大切な思い出だったんだけど。

     その後、野球の才能がまるで無いことを散々思い知って……父さんの才能も継いでないんだって、思い出すのもやめちゃったんだ。

    「シーナとヴィブロスは母さんと同じ紫色だし、ならシュヴァルの青い目は僕からの遺伝だろう?
     たぶん僕の先祖のどこかにな、青髪青目のウマ娘がいたんだよ」
    「えー、じゃあ結局私もお姉ちゃんもパパ似じゃん」

    「当然だろ、2人とも僕の娘だぞ?
     でもやっぱりシュヴァルが一番父親似なんだよ。父親の僕が言うんだから間違いない」



    ……父さん。

    そうだったらいいな。
    きっとそうだ。

    父さんがそうだって言うんだから。
    僕がそうだったらいいって思うから。

     手鏡を覗くと、白球が浮かぶ空色の目が微かに笑っていた。

  • 5二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 21:55:54

    「でも味を占めて同じ事やってシーナ泣かしたのは反省なさいな」
    「はい……」
    「ちょっとママ!?私泣いてなんかいないったら!」
    「お姉ちゃん、すっごい悔し泣きしてた!」
    「ヴィブロスっ!」

  • 6二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 21:56:16

     朝。少し急ぎ足に洗面所に向かう。

     寮では聞かない電動カミソリの振動音。
     姉さんもヴィブロスも洗顔とメイクが長いから、寝癖を直すだけの僕たちが先だ。

     宝物のグローブをぐっと抱いて、豪快な水音が止むのを待つ。

     これが僕ができる精一杯の親孝行……なんて考えておきながら、結局僕も期待してる。


     扉が開いて、ちょっと眠そうにのそっと大きな体が姿を見せた。


    「お……おはよう、父さん。
     ……えっと。

     朝ごはん済んだら……キャッチボール、しない?」

  • 7二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 21:57:30

    以上になります(小声)

    ヴ三姉妹は並べるとシュヴァルがちょっと浮いてるのは元ネタの父親が違うからなんだろうけど、
    ウマ娘では異父姉妹ではないので父親似か母親似かって事になってシュヴァルは毛色は母親似でそれ以外は父親似なんだろうな、というお話。

    ところで最近「年の近い三兄弟、三姉妹は真ん中の子が父親っ子になる」という話を聞いた。

    一人っ子だった期間のある長子は両親両方、一番小さい末っ子はお母さんに甘え慣れていて、
    一方真ん中の子は親の独占期間が短いからちょっと遠慮しちゃう。

    お母さんに甘えたい末っ子、お姉ちゃんしたい上の子、お母さんがひと塊りで、真ん中の子とお父さんが余り物チーム組むんだとか。

    一人称僕だったり、釣りをするのは父親とシュヴァルだけだったり、姉妹がパパママ呼びするのに対して父さん母さん呼びだったり。

    また家族、特にヴィブロスに対しての言葉のかけ方もどこか男性的なところが見えるような。
    「レース直前だぞ」「べったりだっただろ」
    幼馴染のシャイン相手でも「〜だろ」なんて言い方はしないので、家族内では特別父親からの影響が強くでてるんじゃないか。

    きっと5人で出かけたら、ママ魔神・姉魔神・妹魔神の後ろで大魔神・偉大魔神が並んで歩いている光景だったんだろうと思ったのである。


    という訳でシュヴァルグランはお父さんっ子概念でした。対戦よろしくお願いします。

  • 8二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 22:09:39

    横浜の子

  • 9二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 22:24:15

    ふぅん、良い概念のデッキとSSだ
    私の負けだねぇ

  • 10二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 23:16:34

    すいませんここの大魔神にいきなり変化球投げられて捕れずに悔し泣きするロリシーナください

  • 11二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 23:16:47

    よき…

  • 12二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 23:20:21

    (*^○^*)「リードオフマン兼正捕手ゲットなんだ!」

  • 13二次元好きの匿名さん24/01/12(金) 23:46:00

    途中のシュヴァルに感情移入して泣きそうになっちゃった
    良きSSでした

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています