【SS注意】【トレウマ注意】ヴ３姉妹と体育倉庫

1二次元好きの匿名さん24/01/14(日) 11:21:21

体育倉庫の灯りを付けて、辺りを見回す。
相変わらず埃っぽい。
だが、使用頻度が高いにもかかわらず、よく整理されている。

「あら、トレーナーさん？」

不意に背中から、声を掛けられる。
鈴を転がすような可愛らしい声は、今まで何百回、何千回と聞いた担当で愛バのもの。
振り返ると、予想通りそこにいたのはヴィルシーナ。

「シーナ。どうしたの？」

問いかける。
彼女は、ジャージにブルマという、トレーニングの服装。
さりとてその雰囲気を見るに、これからトレーニングのつもりとも思えない。

「ヴィブロスに頼まれて、体育倉庫の整理を手伝いに来たのよ。なんでも、知り合いの教官に頼まれてしまったんですって。トレーナーさんは？」

「奇遇だな。同じことをシュヴァルに頼まれて、ここに来たよ」

担当で愛バのシュヴァルグランに頼まれたのであれば、否やはないところ。
その時、軋んだ音を立てて、鉄扉が閉まる。
こちら２人を照らすのは、何とも頼りない白熱灯一つのみ。

2二次元好きの匿名さん24/01/14(日) 11:22:07

ガチャリ、と鍵が閉まる音がする。
慌てて彼女と開けようとするも、２人でもびくともしない。
いや、ウマ娘に比べると自分の力なんて微々たるものだから、１人と少しというのが正しいか。

普通、内側からは開けられるようになっているのが倉庫の常だが。
ここの倉庫の場合、鍵はついておらず、外側の南京錠での管理。
とはいえ、ウマ娘の力で開かないのは明らかにおかしい。

――すると、外からまたしても聞き慣れた声が聞こえてきた。

「こほん。えー、この部屋はエッチなことをしないと出られない部屋です。トレちとおね……じゃなかった、ヴィルシーナさんは、エッチなことをするまで出られません」

同じく、担当で愛バのヴィブロスの声。
いち早く反応したのは、シーナだった。

「ちょっとヴィブロス！　ふざけてないで早く出しなさい！　今度のデート行かないわよ！」

応えは、沈黙。
扉の側で外を窺えば、確かに誰かがいる気配はする。
それも、複数。

3二次元好きの匿名さん24/01/14(日) 11:22:38

「これは、嵌められたかな」

「そうね。きっとヴィブロスの悪戯でしょうから、あの娘が満足すれば出してくれると思うわ」

入口近くの体操マットの山に、２人して腰掛ける。
冬の気温とほぼ同じ温度のそれは、ズボン越しにも冷たい感じ。
窓もなく、鉄と断熱シートだけに囲まれている風景は、見るからに寒々しい。

「シーナ」

自分のジャケットを脱ぐと、彼女に放り投げる。
予想もしていなかったのだろう、慌てて受け取めるシーナ。

「きゃっ……。なに？」

「体操服にジャージだけじゃ寒いでしょ。それ、着てて」

「でも、それじゃトレーナーさんが」

「俺は、良いから」

「でも」

「返されても絶対に着ないからね。シーナが着ない限り無駄になるよ」

そう言うと、彼女は「ありがとう」と小さく呟いて。
ジャケットに、袖を通した。
男物の大きめのジャケットに、美少女が着られているのは明らかにアンバランスだが、そんなことを言っている場合でもないだろう。

4二次元好きの匿名さん24/01/14(日) 11:23:02

「――トレーナーさんの、匂いがする」

「そっか」

「ええ。力強くて、頼りがいがあって、安心できる匂い」

彼女の身体が、近くなる。
もう、脚同士は触れる程度にまで近くなり。
彼女の頭は、そっとこちらの頭に載せられた。

「ねえ」

「なに？」

「私、トレーナーさんのことが好きよ」

シーナの口から零れるように、紡がれた言葉。
俯いた彼女のうなじが、桜色に染まる。
何気なしに言われた言葉だが、予想外に重い。

「……そっか」

「ええ。貴方は？」

5二次元好きの匿名さん24/01/14(日) 11:23:32

――閃いた！
ここでシーナを振れば、驚きでヴィブロスも扉を開けてくれるかもしれない！
だが、振るだけはインパクトが足りないだろう。
ならば。

「ごめん」

「……えっ？」

こちらを見上げたシーナの瞳に、涙がじわり。
その雫が、一滴。
彼女の、白い膝を濡らした。

「俺は、ヴィブロスが好きなんだ」

気取られないように、真剣な声と眼差しで答える。
嘘っぽく思われてしまったら、この作戦は失敗。
しかし。

6二次元好きの匿名さん24/01/14(日) 11:23:57

「――そーなの！　トレち！」

轟音を上げて、鉄の扉が開く。
足元に転がる、引き千切られた南京錠。
――今だ！

一気に床を蹴ってダッシュすると、鉄扉の外に躍り出る。
勢いあまってヴィブロスにぶつかるが、それも予想の範囲内。
接触して倒れそうになる彼女を、抱きとめる。

「えへへ、これがさっきお姉ちゃんが言ってたトレちの匂いかあ……。トレち、愛してる」

ヴィブロスから、こちらの胸に顔を擦り付けられる。
彼女の腕が、しっかりと背中に廻った。
蕩け切った表情で、そんなことを呟いているので。

「いや別に」

「……えっ？」

「あんな風に言ったら、ヴィブロスが驚いて扉を開けてくれると思ったからさ。別にそういう訳じゃない」

7二次元好きの匿名さん24/01/14(日) 11:24:43

グイッ、と右腕を掴まれた。
見れば、目に涙を溜めて憤怒の表情を浮かべたシーナ。
こちらの腕をギリギリと締め上げられたせいで、苦悶の息が出てしまう。

「ふーん。トレーナーさんは、一世一代の私の告白を、『ヴィブロスが驚いて外に出られるかも』なんていう理由で振ったのね」

グキッ、と左腕から嫌な音がした。
見れば、怒りに打ち震えて涙を流すヴィブロス。
嫌な音の発信元から来る苦痛に、思わず息を荒げてしまう。

「へー。トレちは、そんな理由で私の乙女の純情を弄んだんだ」

地獄の釜の底から聞こえてくるような低い声で、２人から責められる。
そこに、シャツの裾を引かれる感触。
目を向けると、そこにはシュヴァル。

「……ね、ねえ。姉さんもヴィブロスも振られたのなら、その、もしかして僕にもチャンスがあるのかな？」

8二次元好きの匿名さん24/01/14(日) 11:25:12

――お前もか。
とてもファンには見せられないような顔で、シーナとヴィブロスに睨まれる。
そのまま、ズルズルと引き摺られていく俺。

「とりあえず、言い訳はトレーナー室で聞くわね」

「そうだね。覚悟してね、トレち」

「僕のことも聞きたいな」

ドナドナの歌に登場する子牛って、こんな気分だったんだろうか。
掴まれている腕の痛みから目を逸らしながら、考える。
そう言えば。

――あの子牛は、最後に食べられたんだっけ。