- 1二次元好きの匿名さん24/01/15(月) 21:13:48
―その昔、「ウイニングライブ」は存在しなかった。
―その昔、夢を背負った少女が英雄になった。
その、昔――
『ハイセイコー一着!後続には7バ身!もはや大井において敵なしッ!文句もなしの名バですッ!』
がなり立てるスタンドの実況を、一人のウマ娘と作家が耳にしていた。
そのウマ娘は、体こそ小さい。背丈のほどは154センチといったところか。しかし体の仕上がりは大人顔負けのグラマーさで、顔にはなきぼくろがついており、髪と瞳は共に漆黒、人を惑わせるような妖艶さがあった。
「珍しいね、カブトシロー。きみが僕の予想あそびに付き合うなんて―それも地方の」
作家の方が口火を切った。眉は太く、顔つきはくろぐろとしている。しかし、彼のまとうボロのトレンチコートが、彼を田舎―青森出身であることを物語っていた。しかし、今や彼は、押しも押されもせぬ大詩人である。
名を、寺山といった。
「ああ、彼女が強いってだけじゃないんだ。なんでもここ大井では、珍しい出し物をやるらしいよ?『怪物』…ハイセイコー発案のね。きみも見ていくといい、演劇の参考になるんじゃないか?」
「むう、悪魔メフィストめ。ぼくが『優駿』のコラムに追われて火がついてるのを知っててかどわかしてるんだろ。それに、シロートの出し物が仕事にドカンと影響を与えるほど、世の中ってのは簡単にはできてないんだ」
などと言いながら、寺山はカブトシローの提案に乗り気だった。
彼女が言うには、ハイセイコーというのは元来アイドル志望で養成所に通っていたところを『都落ち』して大井トレセン学園に入ったのだという。その彼女が、ウマ娘のアイドル性を見出して、中央にもないような―革新的な、アイドルとしての活動を学校みんなで推し進めているそうだ。
寺山は、元来踊り子とかアイドルとかが好きだった。
それに、都落ち、とか鞍替え、とか言った言葉は、寺山の耳にいかにも心地よく聞こえた。それでなんとなく、ハイセイコーが中央にきてアイドルの踊りやらをやってくれたらいいのに、とおもったのである。
「みなさーんッ!今日は観戦、ありがとうございましたーッ!『ウイニングライブ』、楽しんでってください!それでは歌いますッ!…」
はじめから終わりまで、終始彼の目はセンターのハイセイコーにくぎづけだった。特段すごくうまくはない。それでも、彼女には『なにか』があることは確かだった。 - 2二次元好きの匿名さん24/01/15(月) 21:14:56
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- 3二次元好きの匿名さん24/01/15(月) 21:25:37
»1です
初SS初投稿です
字数制限次は気をつけるわよ
評判良かったらどんどん続き書きます - 4二次元好きの匿名さん24/01/15(月) 21:45:23
続きかきますわよ
例えるならそれは、夕闇の空をふっと見上げたときに輝く宵の明星。
「随分と焦がれた目をしているよ。妬けるな…そんなに彼女、良かった?」
うん、とうなずく。そうか、それじゃ、とカブトシローが言い、こう続ける。
「次は生徒会長を招くか。クラスメイトのよしみでね。シンザンさんは―ライブはともかく、彼女の強さを好きだと思うよ」
にわかに周囲がざわつくのが感じられた。『中央』のウマ娘が地方に来ていることも驚きなのに、こともあろうに『神話』の名前を出すとは。しかもこれは明確にスカウトである。
そんな周りの視線を知ってか知らずか、寺山は歌うように、「じゃあ、ダービーで彼女が踊るといいな」と言った。 - 5二次元好きの匿名さん24/01/15(月) 21:59:01
控室。ハイセイコーはうつむいていた。
今日は中央からの客が来ていた。ウイニングライブまで見ていた。中央にこういうものがないから珍しいのか、それとも―。
「ハイセイコー!きょ~~~もすっっごく可愛かった~~~!もーなんていうか全部やばいッ!好きッ!あーッ、こんな尊い娘があたしの担当でよかった~!」
にわかに控室のドアをあけて突っ込んで来たのは、ハイセイコーのトレーナーだ。彼女の提案した、『ウイニングライブ』を後押しした立役者である。
「あ…うん、ありがと。そうね、トレーナーが喜んでくれて、ほんとよかった」
何となく気持ちが苦い。大体ハイセイコーには何となく自分の立場に対して引け目があった。
アイドルの夢を道半ばで諦め、走れるからと大井トレセンに入った。ウマ娘たちの一般向けの営業がグラビアやその手の類であると知ったとき、それ以外の道を用意したい、ウマ娘にも女の子である以外の個性がある、と思ってウイニングライブを推してきた。だが、中途半端をやっている気がするのだ。そのくせ、どちらも評価されてしまっている。
それに―
「てゆうか、今日中央のお客さん来てたよね?トレンチコートのおじさんと一緒だったから、多分カブトシローさん…てことはさ、やっぱり中央行くの?もうあたし、そうなったらちょ~~~応援しちゃう!」
やっぱり。走る理由も見つからないまま応援して、こんなわたしをこんなに褒めてくれて、トレーナーがいなくなったらどうするんだろう。
「…うん、ありがと。走れるか、わからないけど」
横顔からゆるくウェーブのかかった髪をなでながら応えた。 - 6二次元好きの匿名さん24/01/15(月) 22:05:16
「…でも、ほんと応援してるよ。あたしたち人間は、ウマ娘みたいに走れないから。あたしは、ハイセイコーに出会って、初めて夢を見る気になれたんだ」
だからきっと中央に行けばもーっと夢みせられるよ!
トレーナーはそう言って笑う。なんとなく、いつもの大仰な褒め言葉とは違った雰囲気を感じる。
「夢…そっか」
挫折したことが励ましになるなら、走って勝つことが夢を与えることになるなら。
走る理由が、見つかった気がした。
「うん、そうね。―トレーナー。ありがとう。なんだか、どう転んでも良い気がするな。中央で、ウイニングライブ、できると良いな」
「も~当たり前じゃん!ハイセイコーが来たらさ、ウイニングライブのために全部のレース場に立派なライブ会場ができてさ、みんなが歌って踊るようになるんだよ!」
そんな話が本当になるとは、疑うべくもない当たり前の話になるとは、つゆほども思わず、二人は談笑した。 - 7二次元好きの匿名さん24/01/15(月) 22:27:09
ときが流れて、その時がやってきた。
青雲賞を勝ったあと、額にバンダナを巻いた小柄で子供のような体型の少女がライブ後に控室にやってきた。シンザンであった。
「おーっ、これが噂の怪物かぁ。シローがすごいすごいというから来てみたが、下バ評は馬鹿にならんなぁ。どーだ、こっちのトレセンに来て走ってみないか。楽しいぞぉ」
ハイセイコーが返事をする前に、トレーナーが元気よく返事をした。
「ハイッ!も~この娘はほんとに強いから、シンザンさんを超えるかもしれませんよ~!…よろしくお願いしますね」
中央の免許を持っていないトレーナーは、ハイセイコーと一緒には行かれない。
ハイセイコーが戸惑っているのを見て、トレーナーはハイセイコーの所によった。それで、「中央に行っても、ウイニングライブ、やってね。絶対見に行く。大丈夫、ずっと見てるよ」と言ってやった。
「ほいほい、ついたぞ。ここが日本トレーニングセンター学園、トレセン学園だ!最近は随分いろんな設備が整ったんだ、わたしが有マ勝ってあたりかな。ほれ、見て回ろっか!」
快活に言ってのけるシンザンと対照的に、ハイセイコーは周りをずっと気にしていた。ものすごく視線を感じる。周りの娘達のかたまりがみな一様に何かをささやいている。話題はおそらく―わたし。
「んー?どうした?ははァ、周りがきになるか!みんな強いやつに興味があるんだよ。まあ気にせず!ほれ、ここは体育館!どうだでかいだろ。ここはわたしがジュニア級のときから変わらんな。初めて見たときはびっくりしたもんだ…」
「…そうですね。ここなら歌やダンスの練習もできそう…」
「え?」怪訝な顔をしてシンザンがふりむく。子供のようでどっしりした明るい性格だと思っていた彼女が、初めてそんな顔をした。「なんのために?」 - 8二次元好きの匿名さん24/01/15(月) 22:52:21
やっぱり伸び悩みますわね
ここは時間制限もあるし別媒体で出直しますわ - 9二次元好きの匿名さん24/01/15(月) 23:13:03
おっと?続き気になりますよ
- 10二次元好きの匿名さん24/01/15(月) 23:24:53
ちょっと今日は疲れたわゾ
続きは次スレで行きますわゾ