- 1二次元好きの匿名さん22/01/12(水) 20:38:11
春。私は、一つの悩みを抱えていた。それは私の担当するウマ娘――ライスシャワーのこと。このところライスは私にハグを求めてくることが増えた。菊花賞、天皇賞(春)……史上二人目の無敗の三冠、そして史上初の春の天皇賞三連覇……その二つの偉業を阻止したライスは、『黒い刺客』としてブーイングを受けた。更にその天皇賞(春)の後一度も勝利できていないこともあり、現在の世間からの評価はまさに非難囂囂といったものだった。周りの自分を見る目、そして勝てないという不安に、彼女はかなり参っているのだろう。けれどトレセン学園は寮生活。ここには甘えられる親もいない。それ故に信頼できる大人……つまり、彼女のトレーナーである私を母親代わりにしている……のだと思う。
トレーニングはしっかりとこなしているし、学業に身が入っていないような様子もない。ただハグの回数が増えただけだ。ライスは訳を言わないし、私も言わないことをわざわざ聞こうとは思わないので何も言わずに受け入れているが、どうしても不安なら相談してほしい。そんなことを思いながら今日もライスとのトレーニングに励む。
「よし、終わり! お疲れ様、ライス」
予定していたトレーニングメニューを終え、ライスを呼び戻す。今日はライスに付き合ってだいぶ体を動かしたため、ジャージにはすっかり汗が染みこんでいた。ライスにドリンクとタオルを渡した後、自分も汗を拭くためにタオルを取り出す。……いや、取り出そうとした。私の手が鞄の中のタオルを探し当てるより早く、ライスが何も言わず私に抱き着いてきた。
「ちょっ、ちょっとライス!?」
今までは抱き着くと言ってもこちらの了承を得てからだった。だから突然のこの行動に私は心底驚いたし、慌てた。そして何よりまだ汗を拭いていない。臭くないかと不安になる。
「ライス、汗……拭いてないから……」
振りほどこうとするも振りほどけない。ウマ娘とヒトでは力に差がありすぎる。いくら声をかけても、ライスは返事をせずに抱き着いたままだ。 - 2二次元好きの匿名さん22/01/12(水) 20:38:19
……そんなにも、つらいのだろうか。ふと、ある考えに辿り着く。ハグには不安を抑える効果があるという。もしかしてライスは、精神的にかなり追い込まれてしまっているのではないか。それなら私がここで突き放すのは酷というものだろう。今は何も言わず、ただ優しく抱き返すことにした。
しばらくして、ようやくライスが両の腕を緩めた。安心したのか穏やかな顔になったライスは、また少し挟んでハッとしたように謝りだす。まるで『嫌われた』とでも言わんばかりに必死に謝るライス。私はそれを受け入れた。
「不安に思ったりしたならいつでも胸を貸すよ。ハグをすると安心するっていうしね」
担当ウマ娘のメンタルケアもトレーナーである私の仕事だ。担当が万全の状態でレースに挑めるよう、私はどんな手も尽くす。
「ただ……汗だくのままはちょっと……やめてほしいかな……」
そこは流石に恥ずかしいやら申し訳ないやら。それを聞いたライスはほっとしたような顔の後、満面の笑みを浮かべた。
――それからは、またハグの回数が増えた。けれどトレーニングの結果は確実に良くなっているし、次のレース……二度目の天皇賞(春)に向けて気合も十分。きっといい結果を残してくれることだろう。
そして迎えた、天皇賞(春)――。
「やったやったライスシャワーです! おそらく、おそらくメジロマックイーンも、ミホノブルボンも喜んでいることでしょう! ライスシャワー今日はやった!」
その日、一人の少女は『ヒーロー』になった。 - 3二次元好きの匿名さん22/01/12(水) 20:38:38
それはほんとうに、些細なきっかけだった。ある日のこと、不安そうにしていた私を、お姉さまは優しく抱きしめてくれた。お姉さまの優しい言葉が、頭を撫でてくれる掌が、肌の温かさが、柔らかさが、そして何よりお姉さまの匂いが……すうっと心に染み込んで、不安を和らげてくれた。
――それからは、何度もお姉さまにハグを求めた。どんなにつらい言葉を投げかけられても、冷たい態度を取られても、お姉さまさえいてくれればそれで良かった。
いつも通りトレーニングを終えて、クールダウンをしようという時。その日はお姉さまもトレーニングに付き合ってくれて、いつもより汗をかいていた。お姉さまにドリンクとタオルを渡された瞬間に……嗅いでしまった。いつもより濃い、お姉さまの匂い。不思議と不快感は全くなく、それはただ心地よく鼻腔をくすぐった。
どうしても、我慢できなかった。思わず無言で抱き着いてしまう。あまりの興奮にお姉さまの声も聞こえず、ずっと抱き締めていた。すっかりお姉さまの匂いを堪能しきって体を離した頃、ようやく冷静になった頭で必死に謝罪の言葉を考える。
けれど、お姉さまは優しく受け入れてくれた。ただ、ただ、優しく。お姉さまはライスが不安を感じてハグを求めていると思ったらしい。全くの間違いではないが、本心は『お姉さまの匂いを嗅ぎたい』という下心だ。ちょっぴり、罪悪感を覚える。それでも嫌われていなかったという安堵と、受け入れてもらえた喜び。そんな感情で自然と頬は緩んでいた。
――そんなことがあってからは、毎日のハグの回数もかなり増えた。本心を明かしていない罪悪感と、大好きなお姉さまの匂い。そのふたつが頭の中で混ざり合い、ぐるぐると渦を巻く。どうにかなってしまいそうだったけれど、それでもお姉さまとのハグはやめられなかった。
お姉さまとのハグが増えてから、調子はすこぶる良くなった。トレーニング結果も上々、不安や心配もお姉さまが吹き飛ばしてくれる。次のレースはきっと勝てる。そんな自信すらあった。
そして迎えた、天皇賞(春)――。 - 4二次元好きの匿名さん22/01/12(水) 20:38:51
- 5二次元好きの匿名さん22/01/12(水) 20:43:36
ライスのハグ大好き概念…!すばらしい…!
- 6二次元好きの匿名さん22/01/12(水) 21:11:48
馬の嗅覚は非常に優れているのでウマ娘は軽率に匂いフェチにしても良い
- 7二次元好きの匿名さん22/01/12(水) 21:34:08
米×姉は万病に効くようになる
- 8二次元好きの匿名さん22/01/12(水) 22:40:03
ライおねもっと流行ってほしいですね
- 9二次元好きの匿名さん22/01/12(水) 23:58:01
素晴らしい…
- 10二次元好きの匿名さん22/01/12(水) 23:59:25
酷い言い方だけどちょっと気持ち悪いライス好き
- 11二次元好きの匿名さん22/01/13(木) 06:15:43
匂いフェチライスはとても良い概念
流行るべき