【SS】私が見たかった景色

[1 二次元好きの匿名さん 24/01/18(木) 01:16:05]

　相変わらず降りしきる雪は、氷点下の外気も相まって溶けることなく地面の厚さを増していきます。長きに渡る遠征疲れを鑑みてか、年末に帰国してすぐにトレーナーさんが言い出した温泉療養。トレーナーさんも私も、異国の地で長い時間を過ごしたお陰でどこか、一息つける理由を求めていたのでしょうか。トントン拍子に進んだ小旅行の計画はすぐに実行までこぎつけ、今は広縁の椅子に腰掛け外を眺めていました。
一昨年末に取った休養開けから、ここではないどこかを目指してトレーナーさんとアメリカのレースに挑戦してみました。酸いも甘いも噛み分けた海外遠征でしたが、トレーナーさんと見た景色は今でも思い出されます。
「こうも大雪だと、流石にスズカも走りづらいかな」
「確かに走るのは難しいですが、新雪に足跡をつけていくのも楽しいものですよ」
　おそらくはそれなりの値段がする宿を取ったのでしょう。眼の前に広がる庭園は少なくとも学生の私には少し縁遠いと感じさせられる程度には意匠が凝らされています。もっとも、この時期はすべて雪で覆われてしまっているのですが。
　先程までは湯上がりすぐの火照りゆえに薄い浴衣でも過ごせましたが、そろそろ窓から差し込む冷気が肌を刺すようになってきました。宿に備え付けられた半纏を羽織って、もう一度椅子に腰掛けます。
「遠征先でもお風呂上がりのスズカと話したことはあったけれど、今日みたいに気が抜けてるのは久しぶりかもね」
「気が抜け……えっ?」
「髪も半乾きで、メンコも嵌めてないみたいだったから、リラックスしてるのかなって」
　とっさにタオルを頭に被って、まだ乾ききってない耳や頭を隠します。確かに遠征先では打ち合わせのとき、もう少ししっかりした格好をしていました。もっとも、今日は改まった場ではないからと気を抜きすぎていた私の落ち度ですが。

[2 二次元好きの匿名さん 24/01/18(木) 01:16:15]

「見ないで……ください。ついつい雪景色に目を取られて忘れてました」
　頬がカッと紅くなり、頭を隠したタオルをそのまま頬まで回します。そもそもトレーナーさんの部屋に押しかけたのは私だというのに、少し気が抜けていました。確かに、これまで打ち合わせをするという時はある程度身なりを整えるように気をつけていたので。
「リラックスしてくれてるならそれが一番だよ。ただ、浴衣の着方とかはちょっと気をつけて欲しいな」
「浴衣……あっ」
　ウマ娘用の浴衣がないため、尻尾の穴を通さずに着ていたツケが今更。立ち上がれば今度は別の部分が顕になりかねないからと、一旦座り直して乱れた着衣を整え直します。
「無理に浴衣じゃなくて、普段のジャージでも良かったのに」
「折角ですし、トレーナーさんとおそろいにしたかったので」
　その言葉にトレーナーさんは応えることなく、外の景色に向き直っていました。長いこと一緒に走ってきたトレーナーさんですが、こういう時に何か言おうとして隠してしまうところだけはまだ好きになれません。もっとも、それ以外のすべてが私にとってとても大事なことには変わりありませんが。
「今は、トレーナーさんと同じ景色が見たいだけなので」
　椅子を立ち、座布団に腰掛けるトレーナーさんの横に座り直します。肩を寄せながら眺める雪景色も、また忘れられないものになりそうです。

[3 二次元好きの匿名さん 24/01/18(木) 01:18:33]

前回のお話はこちらから

【SS】Voyager｜あにまん掲示板

同じ栗毛かつスペちゃんを軸に接点もある二人なので、いつか二人のお話を書きたいと少し思いつつ。

個人的に温泉は好きですが、最近はどこも混んでて大変ですね……

[6 二次元好きの匿名さん 24/01/18(木) 01:20:23]

良いね

[7 二次元好きの匿名さん 24/01/18(木) 01:51:59]

和装は胸が控えめな方が映え(ry
スズカさんの「私だけの景色」から二人の景色に変わった雰囲気を感じてもらえたら幸いです

[8 二次元好きの匿名さん 24/01/18(木) 02:15:55]

確かにメンコしてないスズカはちょっとレアかも？
よっぽど信頼されてるんだなぁ