【SS】バレンタイン後日談

  • 1二次元好きの匿名さん24/01/21(日) 19:03:57

    「トレっち!こっちこっち〜」

    私たちのお出かけはだいたい近場での買い物だけれど今日はいつもと違う。車を降りるとそこはお花畑、今日は知る人ぞ知る穴場のロッジに私たちは来てた。

    「すっごい綺麗な場所〜!しかもロッジもピカピカ!」

    丁寧に掃除されているロッジの中は新築と見間違えるくらいで、おしゃれに小物や家具が配置されている室内は派手な感じはなけれどセレブの休日って感じの上品さがそこにはあった。
    しかしこのロッジのすごいところはその庭にあった。綺麗にお手入れされた芝の中にはテーブルが一つあって、周りには一面色とりどりの花、シンプルだけどそのテーブルにティーカップを置けばそこはまるでお姫様の庭園だった。

    彼はこうやって付き合ってもらうのに慣れてきてはいたけれど、どこか申し訳ないといった顔だった。彼は車からお菓子とケーキスタンドを持ってくるとそれっぽい感じでお菓子を乗せていく。手つきに迷いはあったけどセンスは悪くなかったので「トレっちセンスいいじゃーん」と揶揄うと、『それほどでも』とでもいいたげな表情でぎこちなく彼は笑った。乗せきれなかったお菓子をお皿に乗せると彼は「お茶淹れてくるよ」といってロッジへ向かう。お皿にあるお菓子は撮影では使わないから食べてもいっかと思ってチョコを一つ手に取ると知っているロゴが目に入った。

  • 2二次元好きの匿名さん24/01/21(日) 19:04:20

    『ウチら生徒的なもんだし、重いと思って受け取ってくんないかもね。』

    『え、てかそれでも受け取ってくれたら……超脈ありくない!?』

    友達のいった言葉を思い出して、眉毛が少し傾くのを感じる。バレンタインで本当はここのチョコをプレゼントしようとしていた私は、友達に手作りじゃなくていいのかと言われて初めて自分の気持ちに気付いた。友達とその話をした後からもう自分の“だいすき”はちゃんと理解したけど、でも彼の考えていることはもっと前から私は知っていた。

    彼が私を嫌ってるとかじゃないし、少なくとも信頼されているような気はするけど、それ以上でもないことも分かってた。どこまで行っても担当トレーナーと担当ウマ娘で、それ以上になることはないし、なってはいけないというのが彼の中にあることを薄々気付いていた。別に普段ならいつも通りチョコを渡して「トレっちのお返し期待してるね」とか言って終わらせればよかったんだけれど、私は彼への気持ちが別の夢と似てることに気付いちゃってから臆病になってしまった。

    昔、私はドバイに住みたいと言うおねだりだけは通らないことを子供なりに理解していた。だから自分の力でなんとかするために調べて、自分を磨いて、レースを頑張ってきた。そしてついにドバイのレースに勝つという一つの目標がもう目の前にあって、まだ道のりは長いけれどもう夢は手の届くところに迫ってる。
    おねだりじゃなくてその手で掴む、まさに目標らしいゴール。でもおねだりじゃなければ手に入らないこともあって、それが私のおねだりでは届かないことを私はもう知ってた。

  • 3二次元好きの匿名さん24/01/21(日) 19:04:56

    ひそめた眉を元に戻してチョコを口に入れる。甘すぎず苦すぎずまさにセレブって感じの味だった。彼がティーポットを持ってきたので「ありがとうトレっち〜」というと紅茶をティーカップに注いでくれた。撮影のためにお茶を一口飲んで気持ちを切り替える。まあ今日は優雅な感じの写真を撮りたかったので落ち着いた表情で大丈夫なんだけど。
    今日は彼が撮影係なので写真を撮ってもらうから私はお姫様のような落ち着いた感じのポーズをしてカメラに目を向ける。カメラの使い方がそれっぽいので多分撮り方を少し覚えてきてくれたっぽい。

    やっぱり彼は私のトレーナーとして完璧だ。彼より上手に教えられるトレーナーがいないとかそういうことではないけれど、レースに対する姿勢も、責任感も、私への対応もちゃんとこなせるトレーナーは彼しかいないと思う。
    担当ウマ娘とトレーナーという関係で私を甘やかしてくれる人が何より“ドバイを目指す私”にとって必要不可欠だった。彼の演じる“トレっち”は前の私にとって最高のトレーナーで、だからこそ今の私は辛かった。彼にとって私がなれるのは“担当ウマ娘”という役だけで、“お姫様”にも“家族”にも、ましてや“恋人”になることなんてできなかった。

    結局彼の勘違いのおかげでチョコを渡すことはできたが、彼を試すような形になってしまったことをちょっぴり後悔している。撮影を終えてケーキを食べるよう彼に言うとショートケーキをとって少しずつ食べていく。表情がいつもより柔らかいあたり味には満足していそうだった。

    「トレっち、あーん」

    マカロンをあーんで食べさせようとしたけどいつも通り「それはちょっと…」と言って断られてしまう。まさに“脈なし”。
    おねだりでしか手に入らないなら何かが変わるのを待ちながら甘えるしかない。そんなことを考えながらいつもはよく回る口を今だけは閉じて静かに祈った。

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