- 1二次元好きの匿名さん24/01/23(火) 13:50:47
「ネオユニヴァースはトレーナーと────“GUTR”をしたい」
昼下がりのトレーナー室。
事務仕事をしていた俺の前に彼女は現れて、そんな希望を口にした。。
金色と水色が混ざり合う艶やかな髪、少し眠たげにしている碧眼、前髪には特徴的な星。
担当ウマ娘であるネオユニヴァースの言葉に、俺は思わず目を丸くして、聞き返してしまう。
「……ガーター?」
「アファーマティブ、きっと、それが『必要』だから」
「ふむ」
ユニヴァースの用いる、少しだけ難しい言葉。
出会った頃に比べれば、大分理解は出来るようになったけど、やはり時折わからない時がある。
でも彼女が俺に言うのだから、きっとそれは大切なことなのだろう。
それに、彼女がやりたいことならば、俺に断る理由なんて、これっぽっちもない。
「わかった、“GUTR”を、俺にも手伝わせて欲しい」
俺は頷きながら、そう伝える。
するとユニヴァースは嬉しそうな表情を浮かべて────首を左右に振った。
「ネガティブ、“準備”はネオユニヴァースに『おまかせ』だよ」
「えっ」
「トレーナーは、ここで“GUTR”をしていて欲しいな」
「ええっ?」 - 2二次元好きの匿名さん24/01/23(火) 13:51:09
思わぬユニヴァースの言葉に、俺は狼狽えてしまう。
どうやら“GUTR”はトレーナー室で、しかも今の状態で出来ることのようだ。
そして、それはそれとして準備が必要、らしい。
……さっぱりわからない。
首を傾げている俺を尻目に、彼女は機嫌良さげに尻尾を揺らしながら、外へと向かう。
そしてドアに手をかけながら、こちらに振り向いて、微笑んだ。
「それじゃあ、ネオユニヴァースは“集積”の“EVA”に、『いってきます』」
「……ああ、いってらっしゃい、ネオ」
まあ、なんか楽しそうだし、任せてみよう。
ユニヴァースは軽く手を振りながら、トレーナー室から出て行った。
パタンと、扉が閉まる音が鳴り響いて、ぽつんと俺一人、静寂に包まれる。
「そういえば、結局、何をして待ってれば良いんだろう」
ふと、疑問が浮かぶ。
“GUTR”の正体は何も掴めておらず、何をすれば良いのかもわからない。
ユニヴァースを呼び戻すのもアレだし、さりとて今考え抜いたところで答えが出る気もしない。
……彼女のトレーナーとして、まだまだだなと、ため息一つ。
「とりあえず……仕事の続きをやるか」
仕方がないので、彼女が戻ってくるまでの間、仕事を再開することにした。 - 3二次元好きの匿名さん24/01/23(火) 13:51:25
約一時間ほどの時間が経った後、外からドスンと音が聞こえて来る。
「トレーナー、ネオユニヴァースは“帰還軌道”に乗ったよ……『ただいま』だね」
「おかえり……ってすごい荷物だな」
ユニヴァースは両手いっぱいに様々な荷物を抱えて、帰ってきた。
しかも、どうやらそれで全部ではなく、外にもまだ荷物があるようである。
いつもの涼し気な笑みを浮かべる彼女は────俺の姿を見て、眉を歪ませ、唇を尖らせた。
「むう、“GUTR”していて欲しいと“伝達”していたのに、ネオユニヴァースは『めっちゃムカつく』をしているよ」
「えっ、ごっ、ごめん?」
「……“NVEM”、“任務”を中断して、これから“同期”してくれれば良い」
微かに不満げな表情を残しながらも、ユニヴァースは手に持った荷物を置いて、外に置いてある荷物も運び出す。
彼女が持ってきたのは、一台のテーブル。
しかし、それはただのテーブルではなく、この寒い季節ならではの、テーブルであった。
少しだけ自慢げに、言い方を変えればドヤ顔を浮かべながら、彼女は言う。
「“遠赤外線”の効果で『ぽかぽか』を“FUEN”できる」
ユニヴァースはそう言って、そのテーブルをドスンと床の上に置いた。
そして、そのテーブルを包むように布団を敷いて、そして更にその上に天板を置く。
そう、それはいわゆる、『炬燵』であった。
彼女はそのままテキパキと周囲を片付け、炬燵の電源をつけて、その天板の上に色々なものを並べていく。
様々なお菓子に飲み物、蜜柑をはじめとする果物に、様々な本や漫画、ゲーム機など。
……どこから持ってきたのかと思ってしまうようなものまで、様々なものが所狭しと広がっていった。
やがて、ユニヴァースはいそいそと炬燵に入り、ちょいちょいと俺に向けて手招きをする。
「ここが“ハピタプルゾーン”だよ、トレーナー……“GUTR”、しよ?」 - 4二次元好きの匿名さん24/01/23(火) 13:51:40
そして俺は、ユニヴァースに誘われるまま、向かい合って炬燵に入ったのだけれど。
「……久しぶりに入ったけど、やっぱ良いな、これ」
「“ハップル”、トレーナーの顔が『トロトロ』をしているよ、ふふっ」
悪戯っぽい笑みを浮かべるユニヴァースに、俺は慌てて口元を引き締めた。
しかし、身体が芯から温まるというか、染み入るような温もりを感じてしまう。
一人暮らしを始めてからは使うことがなかったけれど、今度買ってこようかな……。
そんなことを考えていると、パリパリと、軽い音が聞こえて来る。
それはユニヴァースがスナック菓子をつまんでいる音だった。
ただ、どうにも彼女のお気に召さなかったようで、微かに眉を顰める。
「……“NaCl”がオーバーロード」
「ネオはあんまりそういうの食べないもんね、残りは俺が食べるから、無理しなくて良いよ」
「『ありがとう』だね……んっ、こっちの“CACC”は“GNEY”な甘さ」
そんな会話を続けながら、俺達はしばらく飲み食いを繰り返す。
穏やかで楽しい時間ではあるものの、彼女の目的は未だにわからない。
それに、このゲーム機やら本などは何なんだろう。
本はユニヴァースがあまり読まない、最近話題の娯楽作品が殆ど。
ゲーム機に至っては、ゴーグルタイプのもので最新VR機器かと思ったがなんか古くて赤い。
……どうにも、無理矢理集めてきた感が強いんだよなあ、自分が苦手なお菓子を持ってきたことも含めて。
持ってきてくれたお菓子や果物をあらかた食べ終えた頃、彼女は俺に問いかけた。 - 5二次元好きの匿名さん24/01/23(火) 13:52:02
「……トーレナー、お腹は“膨張”をした?」
「うん、ちょっと食べ過ぎたくらいかな……なんか眠くなってきた気がする」
「それじゃあ今度は『ゴロゴロ』をして、“アルデバラン”を灯らせてほしい」
「あっ、ああ」
言われるがまま、ごろりと寝転がって、天井を見上げる。
身体を満たす満腹感、じんわりと広がる優しい熱、ぼーっとしてくる頭。
それは実家にいた頃を思い出す、懐かしい感覚で、とても心地が良い。
ふと、がさごそと物音が響き、続いて小さな足音が聞こえて来る。
それは少しずつ大ききなって、気が付けば、俺のすぐそばに。
────ぴょこんと、ユニヴァースの顔が視界の端から、覗き込むように現れる。
その顔は楽しそうな笑顔で、それでいて、頬は少し赤い。
「えへへ……ネオユニヴァースは“大気圏再突入”をするね」
「ちょっ」
慌てて制止しようとするが、ユニヴァースは有無も言わさず俺の隣に潜り込んでこんできた。
華奢で、柔らかな感触をぐいぐい押し付けながら、小さいスペースに無理矢理身体を押し込もうとする。
仕方がないので少し横に動いてスペースを開けると、彼女はこちらに寄り添いながら、すっぽりと布団に入り込んだ。
そして、少しだけ驚いたような表情をしながら、耳をぴこぴこ動かす。
「ビックバン、同じ条件のはずなのに、さっきよりも『ぽかぽか』でとっても“COMF”」
「……そりゃあ、こんなに密着してたら暑いでしょ」
「ネガティブ、これが“最適環境”だよ、トレーナーは“同調”出来ないかな?」
ユニヴァースは、期待に目を輝かせながら、俺をじっと見つめる。
……きっと、彼女には、俺が思っていることなどわかり切っているのだろう。
素直に口に出して良いものかと悩むけれど、彼女の顔を見ていると、そんな考えは失せてしまう。
俺は表情を弛めながら、彼女に正直な言葉を伝える。 - 6二次元好きの匿名さん24/01/23(火) 13:52:14
「確かにこの方が居心地が良いね、ありがとう、ネオ」
「……スフィーラ」
嬉しそうに目を細めながら、ユニヴァースはそう呟く。
そして彼女は、そっと俺の顔に手を伸ばして、眉間の辺りを優しく撫でた。
すりすりと、何度か指を這わせると、安心したような表情を見せる。
「“ヒギヌス谷”は“観測”できなくなったね」
「えっ?」
「トレーナーが“チャンドラセカール限界”を越えてしまいそうで、“WORR”だった」
「……それは」
とても不安そうな表情で、少しだけ瞳を潤ませながら、ユニヴァースはそう話す。
……近頃、彼女のトレーニング内容の調整や、事務処理などの仕事が増えて、寝不足の日々が続いていた。
周りに心配かけないように振舞っていたつもりだったのだけれど、眉間の皺だったり現れていたようである。
「『癒し』を“取得”するには“GUTR”をするのが一番だって、ヒシミラクルが教えてくれたんだ」
「あの子が?」
「アファーマティブ、とっても素敵な“IDE”だった、今度いっぱい“APPR”を“送信”しないと」
ヒシミラクル、ネオユニヴァースとも走ったことのある、芦毛のウマ娘。
彼女のトレーナーとは個人的にも面識があり、とてもオンオフの切り替えが上手な子だと話していた。
少しだけ、お休みの時に気を抜き過ぎてしまうこともあるけれど、とも。 - 7二次元好きの匿名さん24/01/23(火) 13:52:28
────ああ、そういうことか。
ここまで来て、ようやくピンと来た。
ずっと彼女は、そんな難しいことなど言っていなかったのだ。
ただ、俺のことを心配して、身体を休めて欲しいと、考えてくれているだけだったのだ。
その想いがとても嬉しくて、胸から熱いものがこみあげてしまいそうになる。
それを誤魔化すように笑みを浮かべながら、俺は彼女の頭を軽く撫でた。
「ありがとう、ネオ」
「……んっ」
「それじゃあ今日はこのまま、のんびりと、“GUTR”過ごそうか?」
その言葉に、ユニヴァースはこくりと頷いてくれる。
こうして俺達は、今日の残りの時間を炬燵に入りながら────『ぐうたら』と過ごすこととなった。 - 8二次元好きの匿名さん24/01/23(火) 13:54:22
お わ り
炬燵には長年入ってないです - 9二次元好きの匿名さん24/01/23(火) 13:55:53
ヒシミラクルでピンときてて草
良SSあざっす - 10124/01/23(火) 14:21:10
最近ミラ子をダシにばかりしている気がします
- 11二次元好きの匿名さん24/01/23(火) 22:53:11
ユニちゃんがカワイイ
- 12二次元好きの匿名さん24/01/23(火) 23:05:13
積極的にしっかり休養取れるのってアスリートとして稀有な才能だよなあ
やっぱヒシミラクルは普通じゃない - 13124/01/24(水) 01:01:02
- 14二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 02:37:58
ユニはいいぞ
- 15二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 02:44:49
ゴーグルタイプの赤いゲーム機…"VBOY"?
とてもほっこりした - 16124/01/24(水) 08:05:27