- 1二次元好きの匿名さん24/01/23(火) 20:34:59
ナカヤマとトレーナーの旅行で起きたアクシデントとその先のお話です
〈注意〉
・トレーナーは女性
・トレーナー視点あり
・若干のお色気描写 - 2二次元好きの匿名さん24/01/23(火) 20:35:33
AM07:48。休日に起きるにはあまりにも上出来で、だからこそ普段であれば二度寝を決め込んでいるような時間だ。だというのに、何を思ったか起き上がって、着地したのは昨晩脱ぎ散らかしたスリッパの上。
夢でも見てんじゃねぇかって足取りで、向かった先は生活感のない洗面所……いやまあ住んじゃねぇんだからそりゃそうだけど。邪魔くせぇ髪を雑にまとめて、水が温まるまでは歯を磨く。半分寝ながらこなして気づけばベッドに腰掛けていた。
顔を洗ってもなお重い瞼に従って倒れ込みたい欲求を堪えるように、枕元に置いた着替えを手繰り寄せる。冬の時分に着るにゃ心許ないナイトウェアのボタンを外していけば、追うように鳥肌が立った。いくら暖房がついてるったってまだ動き始めてから30分もたってやしねぇから、温み始めてまだ冷たい空気が微睡みの快感を奪っていく。
手探りで適当に引っ掴んだデニムに脚を通して、次に掴んだのはタンクトップのアンダーシャツ。こりゃ順番間違えたな、寝ぼけすぎだろ……まあ大した手間でもねぇけど。裾に手を突っ込むのに苦戦している間にやや控えめなノックが3回。着替え終わっちゃねぇが……んまぁ減るもんでもねぇしな、とこれまた適当に返事をする。ドアが開く音を尻目に、ようやく腕の通ったタンクトップに頭を通した。……っげ、髪引っかかったな……解いときゃよかったか？
ひと段落ついたついでに音沙汰のないドアに顔を向ければ、頰を染めた間抜けヅラで突っ立ってるトレーナー。それが何を意味するかを理解すると同時に、頭に血が上っていく。飾られないままの耳が戦慄き、制御する間も無く怒りに誤魔化した羞恥が飛び出していった。それを聞いてようやく正体を取り戻したトレーナーが、形にならない謝意と共に引き返していく。ドアが閉まるのを確認して、今度こそベッドに倒れ込んだ。
このまま二度寝でもできりゃあ良かったんだがな、なんてぼやいてみても速まった鼓動は帰ってきやしない。同性なんだから着替え見たくらいで驚いてんじゃねぇよ、だの、見てて面白いもんでもねぇだろ、だの。終いにゃそんな素振り見せねぇから着替えなんざ見るハメになんだろ、なんて考え出したところで昨晩しかけたアラームが現実に戻す。 - 3二次元好きの匿名さん24/01/23(火) 20:36:02
AM08:30。下敷きになってくしゃくしゃに温められたパーカーを着て立ち上がる。できる限りの遠回りをしてドアの前に立ち深呼吸。ノックはせずに、トレーナーの部屋へ乗り込んだ。
ソファでクッション抱えて落ち込んでるトレーナーに何の用だったんだ、と問えば、朝飯をどうするのかが気になっていたらしい。最悪食わずとも問題ないだろうと何も用意していなかったと返せば、少しばかり惜しそうな顔をして離れていく。愛用の鞄から取り出したのは、どこでだって買えるような新発売のサンドイッチ。包装を開けながら戻って来て、朝ご飯食べ過ぎてお腹いっぱいだからとの言葉と共に押し付けてくる。押し切られて仕方なく口にしたそれは、存外好みの味をしていた。
***
すこしだけご機嫌ななめに見えるナカヤマが、無理やり押し付けたサンドイッチに口をつけて、やっぱりすこしだけ口元をほころばせた。私の部屋に入ってきた時は何ともないような顔をしていたから、きっと、食べたくて買ってきたものなんだから自分で食べろってことなんだと思う。
おいしそうに食べているのを見ていると、やっぱり味が気になってしまうけれど。ナカヤマが食べる分が減ってしまうのは嫌だったし、今までは気にならなかったのになんだか気恥ずかしくなってしまったから、違うことを考えて気を紛らせることにした。
私とナカヤマは起きている時間が違う。休日なんかなおさらで、私はさっさと起きてしまってお弁当のおかずを作り置いたり、後に回していたものの洗濯をする。けれど、寮生活だからかな。ナカヤマは起きたらお昼時、ってことがあるみたい。今日は8時ごろには起きていたようだけど、私はもう朝ご飯を済ませてていて、今ナカヤマが食べてるサンドイッチを買ってる頃だったと思う。
……空腹に勝てなかったのが悪いのはわかってるんだけど、二人旅の一人バイキング、味気なかったなあ……。ナカヤマを待ってたらバイキングには行けなかったけど、もっと楽しかったと思うんだよね。
そんなことしたら、なら食事なしプランにしておいた方が良かったんじゃねぇのって呆れられそうだし、……うん。行動が変わったってアクシデントが起きないって決まってるわけでもないから……気まずいままだったのかもしれない、かな？ - 4二次元好きの匿名さん24/01/23(火) 20:36:25
コンビニで売ってるサンドイッチって、ご飯にするにはちょっと物足りないサイズだから、もくもくと食べてたらすぐ無くなっちゃう。いただきます、よりはっきり聞こえたごちそうさん、の声に、ナカヤマってこういうところ丁寧だな、って思いながら、役目を終えた包装がポケットにねじ込まれないうちに受け取って、忘れてしまう前にゴミ箱へ。
時計を見たら9時になるちょっと前。予定よりずっと早いけれど、もうチェックアウトすることにして、ナカヤマには自分の部屋に引き返してもらった。時間まで二人でのんびりしてもよかったけど、き、気まずいし……なんだかどきどきしてしまって、頭を冷やさないとまともにおしゃべりできなさそうだったから、ね。……はぁ……反省だけできたらよかったのになあ……。
私は朝ご飯を食べに行く時にほとんど準備を終わらせていたから、忘れ物がないかをしっかり確認したらそそくさと廊下に出てナカヤマを待つ。壁に背を預けて一呼吸。わがままだとしても、ちゃんと謝れるまではいつも通りに。あまり待つことなくナカヤマが出てきて、フロントへ向かって歩きだした。
一泊二日の旅行なら、大して嵩張ることもないけれど。観光するには身軽な方がいいから、荷物はホテルに預けておく。気づかないうちに詰められた、腕と腕が触れ合う距離に少しくらくらしていたのも束の間。門から垣間見える天守閣に意識を奪われる。
今回の旅でただひとつ、スケジュールに組み込まれていた場所である、大阪城天守閣。本当ならもっと予定を詰め込むつもりだったのに、休みなんだから休めよ、と嗜められてしまって、ものすごく悩んでひとつに決めたのがここだった。
お城って、外観がかっこいいし、展示されている資料は面白いしでとてもお得だと思うんだよね、なんて口に出すつもりはないけど。態度には出ているようで、近くに設置された説明を撫でるように眺めては先へ進む私と、隣で静かに、ほんのり楽しそうに微笑んでいる気配。……せっかくだからしっかり見ていきなよ、って言われないの、新鮮だな……。 - 5二次元好きの匿名さん24/01/23(火) 20:36:51
初めて自分のペースで楽しんで、早々に最上階。大阪の街を見下ろしながら、何階の展示が良かった、とか、ここさっき通ったとこだ、なんておしゃべりする。その途中で、普段なら遠すぎてきっと気づかない、でも今はピントが合った赤い観覧車。
昨日乗ったそれに、二人きりの旅行であることを思い出す。どこか意識の端に追いやっていたけれど、朝のことはちゃんと謝らなきゃダメだと改めて思う。それはきっと、罪悪感を誤魔化すためじゃなく、……私たちが先に進むために。
***
展望台を後にして、ひたすら階段を降りていく。一瞬、遠くを見つめて少し考えたあと、すっと黙り込んだトレーナーに、何か話しかけようかとも思ったが……いつもの雰囲気に戻してしまうのは少し惜しい気がした。
AM11:42。天守閣を出て、時計を見ていないことに気づいて、スマートフォンのスリープモードを解除する。思っていた以上に時間が経っていたのに驚いたのか、納得のいかない顔で首を傾げるトレーナー。そりゃ気に入ったとこは何遍も見返してんだから時間かかるに決まってんだろ。
正午も回ってねえから飯時にはちと早いんだが、さっさと朝飯を済ませたのと遅くとも大したもん食ってねえのがいりゃ、次の行き先は自ずと飯屋に決まる。都合よく粉もんの店が目と鼻の先にあるってんでそこに決めて、土産屋なんかを冷やかしながら歩いてった。
二人して似たようなもん頼んだのにソースやら薬味やらがセルフだから、って私のを一口持っていって美味そうにするんで、同じように私も一口。わかっちゃいたが、やっぱ似たような味だな？
満腹ってほどじゃなくともそれなりに腹が落ち着いて、あとはドリンクを飲み干して終わりって頃。トレーナーが、少しばかり躊躇うような硬い声で、核心には触れず、今朝はごめんねと一言。
説得力なんざ欠片もねぇが、今朝のは別に謝られなきゃならねえ出来事でもねえし、しばらくしたら忘れちまうか、いいとこお笑い種の失敗談だ。……私にとっては、っつう但し書きがつくならの話ではあるがな。
そんでもアンタは、トレーナーは多分そうもいかねぇんだろう、ってのを私はもう知ってんだ。だとすれば、わだかまりを残さないためにもこの謝罪は受け入れる必要があるし、そうするのなら私から言うべき言葉もある。 - 6二次元好きの匿名さん24/01/23(火) 20:37:12
私も悪かったよ、まさかあんな反応されるとは思ってなかったからさ……別に、見てて楽しいもんでもないだろ。そうやって口にするごとにぶり返す羞恥に、らしくもなくあからさまに不貞腐れていく声。
トレーナーの、謝罪のため誠実さを示そうとしていた視線は力をなくし、万の言葉よりも雄弁な赤い耳がこちらを向いている。そのまま、やけに力強く次の行き先へ話を変えるものだから。毒気なんか抱える暇もねえな、なんて吹き出してしまう。
アンタがいるならどこでもいいよ、とか、ぜってえ言ってやらねーけど。休みなんだからその辺ぶらつくくらいでちょうどいいだろ、と言えば、それ楽しそう、と立ち上がる。気の赴くままに歩き出したトレーナーの手を捕まえて、昼食の割り勘を強請ったのは不発に終わったが、本命じゃねえし構いやしない。
絡めた指と、いつもより近い距離。今日のとこはこんくらいで勘弁してやるから、帰ったら覚悟しとけよ、トレーナー！ - 7二次元好きの匿名さん24/01/23(火) 20:38:25
おしまい
久しぶりに旅行に行きたかったけど体力がないのでその代わりに書きました
お読みくださりありがとうございます - 8二次元好きの匿名さん24/01/23(火) 21:20:27
- 9二次元好きの匿名さん24/01/23(火) 22:37:04
- 10二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 01:32:55
良いね
- 11二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 07:20:40