- 1二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 09:26:00
- 2二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 09:26:15
高級レストランの専属ピアニスト、 財閥で開かれる、華やかな社交界での演奏者、 あるいは私だけの個人演奏会。 これらすべては今の私にとって、ただ機会を逃した未練にすぎない。
黴臭く煙たい12坪ぽっちの安っぽいカフェ。 消えゆく電球の朱色が照らす景色は墓所を彷彿とさせる。 私のような、下流階級人生の墓場。 実力もない傭兵と組織の下っ端みたいなクズたちが集まってくだらない励ましの言葉で、互いをおだてあう場所。
ここで私はただ楽譜だけを見つめて白黒の鍵盤を叩く。 - 3二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 09:26:40
周りを気に掛けないまま、頭を垂らして演奏をし始めたのは私ですら記憶が朧げな3年前だ。 出世の機会を逃した15歳、初めてカフェで演奏することになった。 安っぽい喫茶店での演奏というのは私にとってもう後のない、崖っぷちに立つことだった。 私の演奏が始まると、客はぽつぽつと会話をやめ、 私に顔を向け、演奏に聞き入り以心伝心する……ということまでは望まなかったが、私の音楽が少しでも認められ、彼女達の慰めになることを望んだ。
しかし、カフェの様子をふと眺めてみると、私の音楽はカフェにとって当たり前にある紙ナプキン程度の価値と認めざるを得なかった。 私というピアニストでなくても構わない。 ただ、楽譜通りに演奏ができる代替品なら何でもいいのだ。 - 4二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 09:26:53
テーブルに載せられたナプキンと花瓶のように、あるべき場所に見栄えよく見せるために、適当に置かれているだけの......無駄な思索に耽ることが多くなった。 私の前に現れた真っ黒な何かと、光、その日を境に、演奏の最中、よく昔の思い出に浸ると同時に忘れていたものが思い浮かばれる。
アビドスには不似合いな温もりと不安、そして静寂の中で自分自身を振り返られるほどの余裕でもできたのだろうか。 考えに浸ることができるほどの心は、とうの昔にすり減って無くなったはずなのにだ。 - 5二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 09:27:11
今日もピアノの音よりお客の罵言雑言とおしゃべりが煩い
この安っぽいカフェで私は指を一生懸命に動かしてそっと目を閉じる。
私ができる唯一の事は、ただピアノの鍵盤を叩くこと。 楽譜をなぞるだけのバカどもはありふれていた。 しかし、そいつらの多くは、私よりも高い場所にいる。 いつの間にか、大したことないと思っていた奴らがパトロンをつけて1人、また1人のし上がっていく様をただ見ているしかなかった。 羨ましくはあったが怒りは無かった。 いつしか自分の才能が認められれば金とコネの力で成り上がった奴らよりも高みに立てると自分に言い聞かせた。 - 6二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 09:27:33
しかし、その自信が瓦解するのは早かった。 この道へ本格的に入って1年余りが経った頃。 「つまらない演奏」と言われた。 1つだけ残った才能さえも誰かの才能に比べると、とてもみすぼらしいものであった これを果たして才能とよべるのだろうか。 ただ、人より楽譜を読むのが速かった、指の動きが速かっただけ。 そしてピアノの音が好きだっただけ。 特筆するに値しない平凡な適性であったことを知らずにいた。 自分だけが持つ、特別な芸術的才能と勘違いしてきた。 そして、自分になかったのは、金持ちの家族や パトロンだけではなかったと悟ることになった。
才能すら無かった。 - 7二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 09:27:49
私の演奏は私だけができる演奏ではなかった。 楽譜の上の五線紙をなぞって弾くだけの誰でもできる演奏。 私でなくてもいい演奏。 それなのに、どうして私は鍵盤の上から10年以上も指を離せないのだろうか。
ピアノが好きだからだろう。 誰も耳を傾けやしない、自分のためだけの小さな演奏を今までし続けている。
誰かに肩を乱暴に掴まれて我に返った。 1人のヘルメット団が激昂した顔で私に何か言っている。 一緒にいた連れのために自分がピアノをちょっと弾くから椅子からどけと言われる。 - 8二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 09:28:10
私の手はその最中にも止まらず、鍵盤を叩いている。 曲が終わるまでは、指を止めることができない。 尻を離すことはできない。 私の席を譲ることはできない。 浅はかな自尊心でしがみついてきた退く所のない自分だけの椅子だった。 店主がやってきて、騒ぎを起こすなと言う。 今すぐ退かないなら、これから仕事はないと思え大声でそう脅す。 椅子に座ったまま、彼らを見上げながらも一生懸命に指を運ばせながら 演奏をしていると、再び悟ることになる。
私の演奏はいつも底から流れるものだった。 私はただ頭を上げているだけの、沈む演奏をしていた。
その瞬間、頭が響いた。 店主が頬をぶって、私の演奏は終わった。 - 9二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 09:28:24
水に濡れたタオルを頬に当て、隅のテーブルに腰を下ろし 不躾な奴がピアノの前に座っているのを見つめた。 窮屈なカフェはいつもの通り騒がしくどのテーブルからも下世話なおしゃべりが聞こえてくる。 礼儀も知らない奴がピアノの椅子に座って唾を飛ばし散らしながら奴の友達にカッコつけている。 話を聞くと、趣味で時々ピアノを弾いてきたようだ。 腫れ上がった頬をさすりながら、私もピアノを仕事から趣味にしていたら今よりは少しはマシになっていたのだろうか、そう考え出した頃だった。
- 10二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 09:28:43
甘美なる旋律が流れた。 あのピアノが果たして、先程まで私が弾いていた安物のピアノなのだろうか。 確かに自分が演奏した曲と同じであるのに、旋律に胸を抉られる。 カフェはまだ喧騒に満ちていたが、自分にだけは鮮明に聞こえてきた。 そして、徐々にカフェの音は消え失せ、そこに美しい旋律だけが残る。
涙が流れる。 自分の心を貫く旋律に身が震えて美しくも痛くて涙が流れた。 曲がピークに達するにつれて、12坪余りのこの場所は世界にまたとない心地良い空間となっていく。 - 11二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 09:28:58
これが真の才能だ。 瞬間、私は席を勢いよく立ち上がり、ピアノへ駆けた。 そしてピアノを演奏していたヘルメット団の生徒を椅子から力一杯に押しのけた。 私の頭を鍵盤の上へ狂ったように叩きつけた。
どん。 ばきっ。 ポロン、ポロン。
ピアノの鋭い音が大きくこだまする。
右眼が黒鍵に刺さり、眼窩から液体が流れ出る。 頭を鍵盤に擦り付け、すり切った。純白の鍵盤が赤く染まっていく。 続いて捩じり捥いだ左腕を鍵盤に押し付け潰した。 口を開けてピアノの縁に刺した。 歯は折れて、抜けて、ピアノに刺さった。 全身をピアノに擦り付け、叩きつけて、削り取る。 今までのピアノでは聞けなかった、全く別の音が聞こえてくる。 - 12二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 09:29:17
客が私の演奏を無視して聞かなかったことは、恨んでいない。 奴が私の演奏を無礼にも止めたことは、恨んでいない。 店主が私の肩を持たなかったことは、恨んでいない。 同輩がパトロンのおかげで成り上がったことは、恨んでいない。 私はただピアノが好きだから、ピアノを弾いて生きたかっただけだ。 芸術学院では許されない。 単に好きだという気持ちだけではできないことだらけだ。 自分らしく生きていく自由はどこにあるのか。 どうして私は鍵盤から離れられないのだろうか。 どうして蔑まれないといけないのか。 評価されることが全ての、芸術学院を嫌悪した。
- 13二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 09:29:31
名前も知らない奴が私を押しのけてピアノの前に座ったときには、私の椅子が奪われたとは思わなかった。 だが、あの演奏が私を魅了したとき、真の意味で私の椅子は奪われた。 私の演奏はどうして他者の心を魅了できないのか。 どうして私さえも魅了することができないのか。 ...すべてがねじれている。
気が付けばカフェのすべてが私の演奏に耳を傾けている。 私の演奏だけを聴いていた。 私の血肉まみれになったピアノが酷く軋む。 それでも、どうしてこの体はかつてないほどに 一生懸命にピアノを弾くことができるのだろう? - 14二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 09:29:56
そういった疑問は、この刹那の歓喜に比べれば些細なものである。 止まることなく、いまいましい自分の体をピアノに叩きつけて演奏する。 ピアノはとっくに壊れてしまっているはずなのに姿かたちを保ったまま、むしろどんどん大きくなっている。 鍵盤が増えながらより大きくなる。 鍵盤が増えるにつれて私の腕も増える。 演奏のための新しい腕が生えてくる。 音楽はさらに甘美に、美しく響き渡っていく。
目の前に楽譜が開かれる。 人々が私の様に裂けて音符になっていく。 あの生徒の体から滲み出たものと同じ音を紡ぎだす。 傭兵が銃を構える。
しかし、やがて彼女達も演奏の一部になっていく。 五線紙の上に音が見える。 悲鳴、肉が爆ぜる音、骨が折れる音、内臓が抜き出される音……ただの騒音でしかないものが私を通じて旋律になっていく。 次第に美しく演奏されていく。 これこそが私の才能だ。 - 15二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 09:30:18
地下に押し込められていた私のピアノは、一つになって、高い舞台へと向かう。
キヴォトスの底で1人演奏をする。 いつかキヴォトスの人々のすべてが、私の演奏だけを聴けるように さらに力強く鍵盤を叩く。 もう下らない思索に耽る必要もない。 パトロンも才能も関係ない。 私が生み出す旋律の前ではすべてが些細なものだ。 二度と誰にも譲りはしない、自分だけのピアノの前の巣を守り、 自分だけが演奏できる旋律を流す。 私の演奏は底から流れるが、もう沈みはしない。
今となってはどちらが見下ろしながら演奏しているのか...
…今となってはどちらが見上げながら旋律に身を震わせているのか - 16二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 09:30:31
- 17二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 10:05:03
…ね、ねじれていらっしゃる
都市でもないのに生まれないで… - 18二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 10:15:36
ユメ先輩に姉妹が…?
- 19二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 10:18:49
生徒が変化できるってことはこのキヴォトス色彩が来てるってことだよな
- 20二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 10:56:02
色彩と接触しようとするホシノ
プレ先に妨害されるホシノ
他世界に行った後プレ先に八つ当たりしようとするホシノ
それはそれ
これはこれ - 21二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 11:30:11
これ完全に接触してるだろ!!
- 22二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 11:34:38
音符になったアンジェリカを探そう!(新イベント)
- 23二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 11:55:47
芸術学院の生徒だけど評価されなくて
アビドスでカフェのピアノを弾くバイトをしてたけど色彩でねじれてピアニスト化した
って感じ? - 24二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 11:57:18
趣味でピアノを弾いてるだけのヘルメット団の生徒の弾くピアノの方がずっと上手かったも追加だ
- 25二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 12:00:11
ピアニストとか言う一般人特攻をキヴォトスに放つな
- 26二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 12:00:42
うーんいつ見ても狂気と切なさを感じる名文
- 27二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 12:02:08
先生に救われなかった生徒の末路ってこんな感じなのかな
- 28二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 12:05:30
C&C「自分だけを愛せるようになったな!ヨシ!」
- 29二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 12:29:19
才能が足りなかっただけっていうこのレベルの生徒がねじれてあんだけ被害出すんだから恐ろしいよなやっぱ…
- 30二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 14:02:09
クロスの文字とピアニストという肩書で嫌な予感したけどまさかあたるとは思ってなかった
- 31二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 14:12:53
「………あの演奏、凄かったよねえ」
- 32二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 14:53:44
ぶっちゃけカヤの方が似合ってる気がするんだ
- 33二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 15:03:03
私は…この都市に生まれたただの惨めな凡人だ
- 34二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 15:13:11
どれだけ…頑張っても、頑張っても、私とあの人との"差"を見せつけられるだけでした。
より自分が惨めであることを自分自身に見せつけられただけだったんです。より強く、より深く。
最初は悔しかったんですよ、でもこうなった今はそうじゃないんです。私は私だったんですよ
何か、大きな壁にぶつかった気分です。でも別にあの人を恨んでいる訳じゃないんです。それを理解することができたんです。
こうして今初めて、私は私として生きることができているんですから
光を見て、あの声を聞いた今ならよくわかるんですよ
私は超人ではなかった。私はようやくそれに目を合わせることができたんです。
ああ、だから見てください。私は、私らしく、この都市に生きているんですよ。先生 - 35二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 15:14:52
これは超人を目指したもののねじれだな…
- 36二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 15:15:43
- 37二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 15:16:37
- 38二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 15:17:19
- 39二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 15:19:04
- 40二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 15:23:09
ピアニストちゃん……ただピアノが好きだっただけなのに……
- 41二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 15:23:58
都市ってマジクソって思うと同時にやるせなさが凄い…
- 42二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 15:24:40
- 43二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 15:27:13
都市の人間って大抵自分の欲求を誰かに「押し付け」ようとする傾向があるんだ 比較的まともな奴でもね
その究極系がねじれなんだ そしてそれを振り切った先がE.G.Oなんだ - 44二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 15:28:29
- 45二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 15:29:56
library of ruina という韓国産のゲームだ steamで三千円ぐらいで売られている
- 46二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 15:34:17
ミサキもおそらくねじれる
自傷を他人に強いるねじれになることは間違いない - 47二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 15:50:05
こんなカヤならもう好感でてきていいな
- 48二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 15:59:16
上でも言われてるLibrary of ruinaに出てくる、ほぼ上記の経緯で化け物になったピアニストが元ネタ。
物語の舞台となる都市には人間が急に化け物になる、ねじれ現象と言う怪現象がとある事件を機に発生し始めて、それが公に確認された最初の事件がこのピアニストの出現で、多くの人間を一夜にして芸術的に殺○してみせたらしい。
推定被害者人数は...数十万人でいいのか?泣く子とかの後にも最大規模のねじれ呼ばわりされてたし。
上の文章でも明確に名前を語られてない様に、原作でもねじれとしての名前のピアニスト以外に呼び名はない。ただの無名のピアニストだった。
- 49二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 16:02:19
ピアニストの話ぶっ刺さるから辛いけど好き
- 50二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 16:03:40
いいねえ
- 51二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 17:23:27
弩級の厄を持ち込むな
- 52二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 17:25:53
では代わりにノースティリスのピアニストを用意した
- 53二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 18:02:45
- 54二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 18:13:49
ピアニストの話かわいそうだとは思う
それはそれとしてそのクソみてぇなピアノは没収な - 55二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 18:16:24
うおおおお俺の音楽を聴けッ!
えぇ…人が楽譜になっていく… - 56二次元好きの匿名さん24/01/25(木) 03:51:12
ヒナ委員長のピアノ聞かせようぜ!(今回のイベントを読んで)
- 57二次元好きの匿名さん24/01/25(木) 14:55:15
ヒナを押し除けピアノに体を叩きつけるピアニストちゃん
- 58二次元好きの匿名さん24/01/25(木) 18:13:45
ユメ先輩の死因!?
- 59二次元好きの匿名さん24/01/25(木) 18:15:41
一般通過天才ピアニストヘルメット団は一体何者なのか?
- 60二次元好きの匿名さん24/01/25(木) 18:17:29
ちょうどヒナがイベントでピアノひくのタイムリーだね
いやまあ前からグレゴリオとかいう静かなオーケストラとピアニスト合体したやついるけど… - 61二次元好きの匿名さん24/01/25(木) 18:23:02
- 62二次元好きの匿名さん24/01/25(木) 18:29:04
ねぇそれ黒い仮面つけた大人が乱入してこない?
- 63二次元好きの匿名さん24/01/25(木) 18:59:49
グレゴリオが焼き増しみたいになっちゃう
- 64二次元好きの匿名さん24/01/25(木) 19:02:13
結局多くの人の脳を焼いて黒沈に討ち倒されたピアニストだけど、
マエストロってどう言う反応するんだろうか。