- 1二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 20:48:12
「うーん! やっぱりここは気持ちが良いですね!」
「……こんなところに公園があるだなんて、知らなかったよ」
少し学園や住宅地からは距離があるけれど、自然豊かで、空気の美味しい公園。
彼女からの要望で足を運んでみたけれど、予想以上に素敵な場所だと思う。
当の本人は、俺の隣で心地良さそうに背伸びをしていた。
栃栗毛の短い髪、きらりきらめく月桂冠の髪飾り、桃の花を映すかのような桜色の瞳。
担当ウマ娘のサクラローレルは、にこやかな微笑みを浮かべて、こちらを見た。
「懐かしいなあ、入学したばかりの頃、バクちゃんやチヨちゃんとここでお花見をしたんです」
「ああ、じゃあこの大きな木って、桜の木なんだ」
「はい! とってもきれいに咲き誇っていて────きゃっ!」
ローレルが思い出話を始めようとした瞬間、ぴゅうっと、一際強い風が吹き抜けた。
肌を切るような冷たい風に、俺達は思わず、身を小さくしてしまう。
その時、ほんの微かではあるけれど、花の匂いが鼻先をくすぐった。
寒風に紛れて運ばれてくる、爽やかで、透き通るように甘く、優しい香り。
しかし、風の流れが静まると、その匂いは嘘みたいに消えてしまう。
……気のせいだったのかな、そう思って、隣をちらりと見た。 - 2二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 20:48:30
「……すんすん」
隣では、ローレルが可愛らしい仕草で、小さく鼻を鳴らしていた。
目を閉じて、意識を嗅覚に集中し、耳をくるくると動かしながら周囲を探る。
やがて、その両耳がピコンと立ち上がり、彼女は目を開けた。
「……J’ai compris! トレーナーさん、こっちです! さあ、行きましょう!」
ローレルは尻尾をぶんぶん振り回しながら、俺の手を取って、遠くを指差す。
その表情は、普段よりもどこか子どもっぽくて、とても楽しそうで、何よりも魅力的で。
俺もついつい顔を綻ばせながら、彼女に連れられてしまうのであった。 - 3二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 20:48:49
「わあ……!」
「これは、すごいな」
公園から10分ほどの距離にあった空き地。
そこには立派な梅の木が、見事なまでに満開の花を咲かせていた。
ローレルはきらきらと輝く瞳で、その美しい紅色の花に見惚れている。
「梅の木もあっただなんて……梅の花ってこんな早く咲くんですね、春のイメージでした」
「梅は百花の魁なんて言うくらいだからね、冬の終わりと春の訪れの間くらいに咲くんだよ」
「へえ、そんな言葉があるんですか……というか、詳しいんですね?」
「ははっ、単なる梅の木学問ってやつだよ、いやあ、それにしてもきれいな花だなあ」
「……梅の花、お好きなんですか?」
「ああ、花の中では一番好きかもしれないな、小さい頃……から…………」
思わぬ出会いに、気づけば俺は声を弾ませていて────ふと、隣の、不穏な気配に気づいた。
まさかと思いつつも、梅の花から隣に視線を移すと、そこには不満気に頬を膨らませたローレルの姿。
彼女は俺からの視線に気づくと、ぷいっと目を逸らした。
「…………良いんですよー? その純粋で、きらきらで、きれいな瞳で、どうぞ梅の花を楽しんでください」
「……えっと、ローレル? なんか不味かったかな?」
「別にそんなことはないですよ…………ただ、あなたはサクラローレルのトレーナーさんですよね?」
「ああ、それは間違いない」
「でしたら、梅の花よりも、もーっと、愛すべき花があるんじゃないかなーって思っただけです」
「ええ……それは、その……」 - 4二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 20:49:08
……梅の花に嫉妬しているのか?
思わぬローレルの反応に、俺は少しだけ焦って、慌ててしまう。
そして、すぐに気づく。
彼女の肩が、微かに震えていることに。
……これは揶揄われているな、狼狽して、変なことを言おうものなら彼女の思うツボだろう。
それも別に嫌ではないのだが、やられっぱなしもアレなので、変な意地を張ってしまう。
「まっ、まあ、それにしても本当に良い場所だな、二つの花が楽しめて、両手に梅と桜を持つというか」
「……むぅ」
適当な慣用句で両方を褒めていこうとしたが、どうやらローレルのお気に召さなかったようだ。
眉を少しだけ顰めた彼女は────突然、何かを思いついたかのように、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
そして彼女は軽い足取りで、前方に回り込み、こちらに向かい合った。
その行動の意図が掴めず、俺はぽかんと呆気に取られてしまう。
「えいっ♪」
ローレルは、そんな俺の隙を突いて────俺の両手を、掴む。
柔らかくて、しなやかで、すべすべとした感触に、両手が包まれた。
それはどんな手袋よりも、ホッカイロよりも、確かな温もりを持っていて、思わずほっと力が抜けそうになる。
彼女は手を持ち上げて、にぎにぎとしながら、とても楽しそうな笑顔を見せた。
「えへへ、これで両手にサクラ、ですね?」
「ローレル、これはちょっと……!」
「さあどうですか、トレーナーさーん♪ あなたもサクラが、一番好きになってきたんじゃないですか~?」 - 5二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 20:49:27
流石に取り乱す俺を見て、ローレルは更にギアを上げていく。
……それと、少し『サクラ』という単語のもつ意味合いが、変わってきたような。
素直に桜が好きだ、と口にすれば済む話かもしれないが、『サクラ』が好きと言ったら、いけない気がして。
俺は思考をフル回転させて、脳からまたしても、この場を打開できそうな慣用句を引っ張り出してくる。
「あの、ほら、梅は香りに桜は花っていうし、どっちにも良いところがあると、俺は思うなあ……!」
「ほほう? それでしたら」
ローレルはにやりと口元を歪ませると、一歩前へと踏み出した。
そのまま少しばかり頭を下げて、ぽすんと俺の胸元に着地させる。
そして、ぐりぐりと、すりすりと、顔や頭、髪を押し付けるように、俺に擦りつけて来た。
────ふわりと、甘くて、素朴で、微かに汗の匂いも混じった、サクラローレルの香りが、嗅覚を刺激する。
「……ロッ、ローレル!?」
「ふふっ、どうですか? 香りも、花も、どっちも『サクラ』じゃないですか?」
「確かに良いけど……じゃなくて! 近すぎるから! ちょっと離れて!」
「…………すんすん、でも、トレーナーさんの香りも良いですね」
「ローレルさん!?」
引き剥がそうと試みるものの、ローレルはびくともしない。
耳をぴこぴこと動かしながら、俺に顔を押し付けて、深い呼吸をし続けているだけだった。
……参った、こんなことになるなら、最初の段階で素直に趣旨替えをしていれば良かった。 - 6二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 20:49:45
────桜切るバカ、梅切らぬバカ、という言葉を思い出す。
それぞれの木には適切な剪定があり、転じて『個性に応じた手入れをしましょう』という諺。
梅を切るどころか、サクラを切り離すことも出来なくなった今の俺は、どっちに分類されるのだろうか。
その答えは、自分自身で、すぐにわかった。
「……今の俺は、ただのバカかな」
俺は眼下で蠢くローレルの頭を見ながら、そう呟き、小さくため息をつくのだった。 - 7二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 20:50:14
- 8二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 21:37:07
スキンシップ強めなローレル…
困った、ちょっと勝てない… - 9二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 21:53:00
Good SS,ちょっと拗ねちゃうローレルもそこから一転攻勢を仕掛けるローレルもいいですなぁ
- 10二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 21:53:30
筆速すぎぃ!!
いいssでした - 11二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 22:02:58
オシャレすぎる
- 12二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 22:19:49
綺麗すぎんか
- 13二次元好きの匿名さん24/01/24(水) 23:59:49
トレーナーにもローレルつけてほしい!する子だからサクラも好きでいてほしいんだな
クッソ可愛いなローレル
桜と月桂樹どっちを好きになればいいか聞かれたらどう答えるんだろう - 14124/01/25(木) 07:07:17