どんな高価なものよりも

  • 1二次元好きの匿名さん24/01/27(土) 23:33:44

    「誕生日プレゼントはいりません!」

     ファインがそう宣言したのは数週間ほど前のこと。カレンダーを眺めながら、二十七日にマークを書き入れたときだった。

     前々から何を用意しようか考えてはいたものの、彼女は一国の王女である。生半可なものではお眼鏡に叶わぬと思い、あれこれ悩んだ結果、ようやく選択肢を絞ったところだったのだが。

    「いらないの? 準備はしてたんだけど」
    「うーん、いらないというのはそうなんだけど、ちょっと違くて」

     彼女は顎に指を添えながら、わずかに首を傾けた。

    「プレゼントを貰えるのはとても嬉しいことだよ。だけど、いろんな国の方々からたくさん頂くから」

     立場が立場だからね、と彼女は続ける。

    「ちょっと多すぎるかなって。お城にいた頃もお部屋がいっぱいになるくらい届いたから」
    「それはまた……凄いな」

     実際に彼女の自室を目にしたことはないが、寮の部屋やトレーナー室より広いのは確実だろう。それが埋め尽くされるほどとなると、もはや想像のしようがない。

  • 2二次元好きの匿名さん24/01/27(土) 23:34:17

    「だから、何か贈り物をくださるというのなら、ちょっと待っていただきたいの」

     ファインの意向は理解した。しかし、記念日に何もなしというのもいかがなものなのだろう。
     そんなことを考えていると、彼女はにやりと口角を上げた。

    「そこで! キミには……形のないプレゼントを所望いたします!」
    「形のないプレゼント?」
    「そう!」

     彼女は少し身を乗り出しながら両手を合わせている。

    「素晴らしい品はたくさん頂けるから、変わり種も見てみたいなって」

     形のないプレゼントというと、どのようなものを望んでいるのだろう。形あるものでさえ選ぶのは難しいのに、お題の難易度が跳ね上がっている。

    「……もう少しヒントとかないかな」
    「ございません! キミは私にふさわしいプレゼントを用意できるかな〜?」

     いたずらっぽく笑う姿は、心からこの状況を楽しんでいるようで。時々見せる周囲を振り回すような振る舞いも、彼女が持つ魅力の一つではあるのだが。

    「善処します……」
    「よろしい! 期待してるよ〜♪」

  • 3二次元好きの匿名さん24/01/27(土) 23:35:03

     善処するとは言ったものの、ついに名案が出てくることはなくて。思い浮かべたものは複数あったが、なかなかひとつを選べなかった。
     窓の外が暗くなりつつあるトレーナー室にて、練習後の振り返りが一段落したところで。

    「さて、今日は何の日かご存知?」
    「ファインの誕生日だね」
    「御名答! 朝にも聞いたからもちろん覚えてるよね」

     今朝から上機嫌な彼女は、顔を合わせたときから誕生日であることをアピールしていた。

    「キミは私が望むものをくださるのかしら?」

     テーブルを挟んだ笑顔に、いよいよ退路が塞がれる。形あるものではなくて、ファインにあげられるもの。どんな贈り物にも劣らない、代えの効かないもの。

     いくつかの案のうち、ひとつを選んだのは直感だった。

    「ファイン、そこに立ってくれるかな」
    「おっ、何かな何かな~?」

     ピンと伸びた背筋に、腰の前で重ねられた指。気品と可憐さが見て取れる立ち姿の前に歩み寄って。

    「――ファインモーション殿下」

     本物の礼儀作法はわからないが、見よう見まねの意気込みで。片膝を床につけて跪く。

    「この身が朽ちるまで、貴女に忠誠を捧げます」

     はっと、息を呑むような音が聞こえた気がした。それからしばらく、部屋には時計の秒針だけが鳴っている。

  • 4二次元好きの匿名さん24/01/27(土) 23:35:34

    「……駄目かな。なかなか完璧なプレゼントが思いつかなくて」

     恐る恐るファインの顔を見上げてみると、彼女はきゅっと唇を結んでいて。

    「……駄目だよ。簡単に『この身が朽ちるまで』なんて言ったら」

     予想以上に深刻そうな反応だが、怒っているとか困っているというわけでもなさそうで。もともと彼女を担当すると決めた時点で全てを賭す腹積もりはできているのだから、“朽ちるまで”なんてこれまでの延長線上で、当たり前だと思っていたのだが。

    「やっぱり間違ってた?」
    「そうじゃなくて……」

     彼女にしては珍しく考え込んでいる様子。それでも、すぐに何かを閃いたようで。

    「うーん、えーっと……こうしましょう!」

     ファインは両手を叩き、目を閉じる。瞼が開かれて彼女の瞳が露わになったときには、王女の威厳が纏われていた。

    「――貴方にクローバー騎士章を授けます。任を解くまで、私に忠誠を誓うこと」

     肩に彼女の手が触れる。服の上からでも感じられる確かな重みに、身が引き締まる思いがした。

  • 5二次元好きの匿名さん24/01/27(土) 23:36:08

    「……あれれ、トレーナー?」
    「……謹んで、頂戴いたします」

     風格に気圧されていたが、なんとか言葉を返す。次に瞬きをすると、威厳は既に見えなくなっていて。彼女は普段の好奇心旺盛なお姫さまに戻っていた。

    「はい、終了~! もう顔を上げてもいいよ」
    「……逆にファインから贈り物を貰っちゃったみたいで申し訳ないな」
    「ううん、あれは確認のための儀式みたいなものだから。それに、キミにはどんな高価なものよりも素敵なプレゼントを頂いたから!」

     弾むような声色から、自分の選択が的外れなものではなかったことが窺えた。それから彼女は目を細めて。

    「“忠誠”って、キミがどんな想いでその言葉を選んだのかはわからないけれど、私は本気にしちゃうよ」

     いいの? と首を傾げる彼女に。

    「ファインの思うように解釈していいよ。君のためならなんだってしてみせるから」
    「そっか~……ありがとう。今年の誕生日は忘れられない日になりました」

     ファインの人生にとって最も良い選択のためなら、どんな無理難題でも応えてみせようと、改めて胸に抱く。

    「それでは騎士さま?」

     ファインは腕を伸ばすと、こちらの両手を捕まえて。ぎゅっと握りしめると、眩くはにかんだ。

    「これからもよろしくね♪」

  • 6二次元好きの匿名さん24/01/27(土) 23:38:47

    大変爽やかな殿下SSであった 大義

  • 7二次元好きの匿名さん24/01/27(土) 23:41:20

    プレゼントは私を高貴な感じにやるとこうなるのかー

  • 8二次元好きの匿名さん24/01/27(土) 23:42:09

    前作

    Re:私たちの年越し蕎麦|あにまん掲示板「う〜ん、やっぱり寒いね!」 一年ぶりに立ち入った学園校舎の屋上。コートのポケットに手を入れながら、ふるりと身体を震わせた。 去年の反省を生かしてカイロは用意したけれど、冷え切った夜の空気にはいささか…bbs.animanch.com

    ファインちゃんお誕生日おめでとう!!!本当に好き愛してる

    なんとか今日中に一本書き上げられました

    本当は一年前のように気合い入れたものを書いてたけどまとまらず完成しなかったのは許してください

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