- 1二次元好きの匿名さん24/02/11(日) 04:54:50
休日、俺はなんとなくデパートの地下を歩いていた。
2月の中頃ということもあって、店内はバレンタインムード一色。
少しばかり居心地の悪さを感じながらも、俺は前回のバレンタインのことを思い出していた。
見知らぬ街、けれど見覚えのある街で彼女と過ごした、いつかどこかのバレンタイン。
“AMRT”を重ねることによって辿り着いたあの時間は、とても楽しいものだったと覚えている。
「今年も行けるといいな……ん?」
思わず独り言を呟きながら歩いていると、あるお店に陳列されているチョコに目を奪われる。
細長い入れ物に入った、パッと見ではチョコとは思えない、個性的で美しいな造形の逸品。
それを見ると────どうにも、彼女のことを顔が浮かんできてしまう。
気が付けば、俺はふらりとそのお店に立ち寄っていて、数分後には紙袋を手にしていた。
……そして、一つの問題点を思い至る。
「……当日、渡している暇あるかなこれ」
去年のバレンタインを思い出すと、彼女との絆を深めるため、色んなことをした。
花束をプレゼントしたり、限定メニューを食べに行ったり、動物園に行ったり、海に行ったり。
その時はとても楽しかったし、時間なんて気にならなかったが、かなりの強行軍だった気がする。
今年も同じことをする、とは限らないけれど、渡している時間がない可能性は十分あり得るだろう。
それならば、いっそのこと。
「よし、そうするか」
妙案を思いついた、という気分なって、俺は機嫌よく帰路に着く。
────後々考えると、アホなことを考えていたなと思わざるを得なかったけれども。 - 2二次元好きの匿名さん24/02/11(日) 04:55:13
「あー、ごめん、少しだけ時間もらっても良いかな?」
2月13日の夕方、トレーナー室。
ミーティングを終えた俺は、立ち上がろうとした彼女に、そう声をかけた。
美しい金色のロングヘアー、煌めく前髪の星、少し眠たげに垂れた目、どこか浮世離れした雰囲気。
担当ウマ娘のネオユニヴァースは、俺の言葉に、こくりと頷いた。
「ネオユニヴァースはこの後“平常運航”だから“NOST”だよ」
「ありがとう、えっと、これを渡したくて」
「…………“CACC”? バレンタインは、25200秒以上先だけど?」
「……開けてないのに良く中身がわかったね」
不思議そうな表情で首を傾げるユニヴァースは、俺が手渡した紙袋の中身をぴたりと言い当てる。
まあ、紙袋にはメーカーの名前も入っていたから、たまたま知っていたのかもしれない。
俺は彼女に対して、先日思いついた『妙案』を口にした。
「ほら、クリスマスにイブがあるんだし、バレンタインにあっても良いと────いや、思わないよな」
言ってる途中で、いかに自分がアホなことを言っているかに気づいてしまった。
バレンタイン二日目、じゃないんだわ。
……購入したときは去年のことを思い出し、浮かれてて、頭の螺子が二、三本吹っ飛んでいたのかもしれない。
ユニヴァースはしばらくきょとんと俺と紙袋を見つめていたが、やがて嬉しそうに微笑んだ。
「ふふっ、『スイーツ』を“MAZN”味わえるのは、『嬉しい』をしているよ」
「……そう言って貰えると助かるよ」
「トレーナー、“ブラックボックス”を『開封』しても良いかな?」
「ああ、どうぞ」 - 3二次元好きの匿名さん24/02/11(日) 04:55:30
俺がそう告げると、ユニヴァースは耳と尻尾を楽しそうに揺らめかせながら、丁寧に包みを開けていく。
そして箱の蓋を開けると────まるで星々のように、その青い目を輝かせた。
まあ、その瞳に映っているのも、『星』なのだけれど。
「“DIGG”……! “惑星直列”だね、とっても『きれい』……!」
「うん、俺も初めて見たときはびっくりしたよ」
箱の中に入っているのは、9個の、丸い小さなチョコレート。
その一つ一つが違う見た目をしていて、それぞれが太陽系の惑星をモチーフとしたデザインとなっている。
まるでその箱が銀河を表しているようで、ネオユニヴァースにぴったりなチョコだと思ったのだ。
「“摂取”するのが『勿体ない』をしてしまうね」
「気持ちはわかる……けど、やっぱ食べ物だから、食べて貰えると嬉しいかな」
「アファーマティブ、ネオユニヴァースは“ブラックホール”になる……!」
「太陽系の危機だなそれは」
ユニヴァースは悩まし気な表情で、チョコをじっと見つめて、視線を彷徨わせる。
どうやら、どの惑星から手をつけるか、迷っているようであった。
やがて彼女は俺をちらりと見て、ぴこんと耳と尻尾を立ち上げる。
そして、にやりと、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「……トレーナー、“ファーストスター”を“SLCT”して欲しい」
「構わないけど、責任重大だな」 - 4二次元好きの匿名さん24/02/11(日) 04:55:47
俺は苦笑を浮かべながら、9つのチョコを見つめる。
水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、そして太陽。
悩みどころではあるものの、やはりここは、定番であり彼女の知り合いの名前にも含まれている星が良いだろう。
「『地球』が良いんじゃないかな?」
俺は『地球』のチョコを指差して、そう提案する。
するとユニヴァースはにっこりと微笑み、頷いた後────大きく口を開いた。
「……んあ」
「えっ、ネッ、ネオ?」
「……“AUHN”」
突然の行動に困惑する俺を尻目に、ユニヴァースは誘うようにぴこぴこと耳を動かしている。
……経験則上、これはやってあげないと、ずっと口を開けっ放しになるな。
俺は小さくため息をついて、『地球』を摘まんだ。
「……♪」
ユニヴァースはそれを確認すると、機嫌良さそうに尻尾を振ってから、そっと目を閉じた。
俺はゆっくりと、鮮やかな赤色をした、血色の良い彼女の口内に、『地球』を運び入れる。
刹那、ぱくりと口を閉ざした。
俺の指先も巻き込まれて、柔らかで瑞々しい唇が微かに触れてしまい、慌てて手を離す。
彼女はゆっくりと味わうように咀嚼して、少しずつその口元を緩ませていった。
しばらくして、こくりと飲み込むと、頬に手を当てて、蕩けたような目でうっとりとした表情を浮かべる。 - 5二次元好きの匿名さん24/02/11(日) 04:56:02
「スフィーラ、とっても“SWTY”……『甘さ』が“オーバーロード”してしまいそう」
「……それは何より、やっぱ見た目だけじゃなくて味も良いんだな」
「トレーナーにとってはこのチョコは“ダークマター”?」
「まあ、食べたことはないね?」
「……ネオユニヴァースはトレーナーと“共有”をしたいな」
「……でも割ったりするには小さいし、それぞれが違う味だから、ネオ一人で楽しんだ方が」
「“ART”」
ユニヴァースは一言、大丈夫と告げると自らの鞄をごそごそと漁り出す。
そして、一つの紙袋を取り出した。
それは妙に見覚えのある────というより、俺が彼女に渡したものと、全く同じものであった。
彼女は楽しそうに微笑んでから、俺にその紙袋を、両手で手渡してくる。
「ハッピーバレンタイン……これで『はんぶんこ』しよ?」 - 6二次元好きの匿名さん24/02/11(日) 04:56:23
お わ り
寝付けなかったので短めの話を書きました - 7二次元好きの匿名さん24/02/11(日) 05:01:08
ええSSや~
- 8二次元好きの匿名さん24/02/11(日) 05:02:07
チョコを食べさせるシーンが
ちょっとえっちですごくすごいです! - 9二次元好きの匿名さん24/02/11(日) 07:29:25
同じもの買ってたからチョコレートだって知ってたんか……ええ子や……。
- 10124/02/11(日) 07:36:25
- 11二次元好きの匿名さん24/02/11(日) 07:36:45
いいもん見させてもらいました…
- 12二次元好きの匿名さん24/02/11(日) 08:33:17
ネオユニ可愛いぜ…
- 13124/02/11(日) 20:12:24
- 14二次元好きの匿名さん24/02/11(日) 20:29:00
良作をありがとうございます
- 15124/02/12(月) 01:10:53
そう言っていただけると嬉しいです