【SS &幻覚注意】👹と🥒のお出かけ

  • 1二次元好きの匿名さん24/02/11(日) 08:31:49

    「ごきげんよう。お待たせ致しましたわ」
    休日、夕暮れの街角にて、ジェンティルドンナは1人のウマ娘に一礼をした。

    「ふふっ。そう畏まらなくていいのに」
    美しい形の瞳、風にたなびく鹿毛、まだ学生ながら大人顔負けのプロポーション…彼女こそは絶世の美女と世間に謳われている、アーモンドアイ。G1九冠という皇帝を超えた記録を持つトリプルティアラウマ娘であり、ジェンティルドンナはそんな彼女と気軽に話せる仲…というのはアーモンドアイの認識である。

    「まさか貴女からお誘い頂けるなんて。なんのご用で?」
    「ほんの息抜き」
    「はあ…」
    ジェンティルドンナは理解できていない様子で首を傾げる。そんな彼女を可愛らしく思いアーモンドアイはクスリと笑みを溢した。
    「さ、行きましょう。退屈はさせないから」
    「…確かに、お誘いの時に話していたものですわね」
    ジェンティルドンナが受け取ったチケット、イタリアからの弦楽団の演奏会である。

  • 2二次元好きの匿名さん24/02/11(日) 08:33:00

    「Che bello!」
    演奏が終わり、アーモンドアイは楽団たちに拍手を送った。いつもならファンに囲まれるのを避けるため目立つことはしないが、観客が少ない時間であったため遠慮なく思いを吐露できる。
    「SÌ ...Arrivederci」
    楽団にお辞儀をして、ジェンティルドンナは一顧だにせず席から立ち去っていった。
    「あら。Grazie!」
    不思議に思いながらもすぐに楽団に目を向けてウインクし、アーモンドアイもホールから出た。

    「お腹がすいていたなら言ってくれても良かったのに」
    「食事くらい自分で済ませられますわ」
    「わかってる。だから、ほんのスイーツだけ。召し上がって?」
    「いただきます」
    煌々とする夜景が見えるカフェテリア。ブリヌイを口に運ぶジェンティルドンナを眺めながら、アーモンドアイもコーヒーを一口飲む。

    「…私の事、嫌いなの?」
    「…はい?」

  • 3二次元好きの匿名さん24/02/11(日) 08:34:17

    咄嗟のアーモンドアイからの質問に、ジェンティルドンナは思わず手を止めて素っ頓狂な声を出す。
    「会った時も、楽団の鑑賞の時も、今も…眉間に皺が寄ってるから」
    「そう貴女の目に映りまして?」
    「楽団もウェイターも、みんな目を丸くしてたし」
    どうやらアーモンドアイの見間違いではなく、誰が見ても分かるような表情だったようだ。ジェンティルドンナは一瞬ハッとした表情になったが、取り繕うように真顔になった。

    「バイオリンもブリヌイも貴女が好きなはずなのに、おかしいと思った。で、私の事、嫌いなの?」
    「答えて何になりますの?」
    「隠せてないよ。そもそも、前から私にはそういう顔ずっと見せてたよね」
    苛立ちか、焦りか、それらが混じった声色にアーモンドアイは苦笑いをした。

    「…激情が、堪えられないのです」
    「へえ。続けて?」
    ようやく明かしたジェンティルドンナを見て、余裕げながら真剣な目をしてアーモンドアイは耳を傾けた。

  • 4二次元好きの匿名さん24/02/11(日) 08:36:57

    「ずっとずっと、私が史上最強のティアラ路線ウマ娘だと思っていました。しかし、貴女が現れ、そしてあの皇帝をも超えた時、私の神話が崩れるのではないか、不安に駆られるのです…」
    ジェンティルドンナの目の色が変わる。先程の苛立ちが消え、悲壮と恐怖が滲み出ているようだった。

    「私が最強を示すことで、ティアラ路線で無念を抱いた同期の方々にせめてもの救いとなりたいのです。このティアラは女王の証でもあり、簒奪者の証でもあるので…」
    「簒奪者ね。貴女らしい大袈裟な辞」
    「そう思わなければ私…!とても堪えられませんわ…!私もお母様やお姉様のために競走に身を投じたとはいえ、あのお方に消えぬ呪いを齎した事を幾度悔いたことか…!何度この道を辞めようと思ったか…!」
    きめ細やかな手を血管が浮き出るほどに握り締め、ジェンティルドンナは目に涙を浮かべる。

    「あのお方…ヴィルシーナね」
    「はい。貴女の輝かしさを見るたびに、妬みが、悔いが、歯痒さが湧き起こるのです。そして思わずにはいられない、これこそあのお方が抱き続けてきた悲しみであると…。失礼、喋り過ぎましたわね…」

  • 5二次元好きの匿名さん24/02/11(日) 08:37:52

    「勝者の立場も、苦しいよね。私も分かる」
    「え?」
    突然話し始めたアーモンドアイにジェンティルドンナは目を丸くした。

    「私はただ、強く、美しくなりたかった。その代償として、同じ立場にいたあの子とはもう競い合えなくなったけれど」
    「あの子…ラッキーライラックさんですか」
    「うん。私はあの子より、遠く先に行き過ぎてしまったみたい。…それでも今も仲良くしてくれるから、あの子は美しいのだけど」
    アーモンドアイは寂しさがある一方で、何か楽しみにしているような表情を浮かべた。

    「美しい…ですか」
    「貴女もどう?ヴィルシーナが今は何も気にしていない…とは言い切れないけど、それでも家族や友達、貴女のために前を向いて、貴女とも話してくれる事に、まずは感謝しない?」
    「…そうですわね。今もご縁があるだけでも奇跡…と言うべきでしょうか」
    ジェンティルドンナはハンカチで涙を拭い、静かに、長く息を吐いて自らを落ち着かせた。

  • 6二次元好きの匿名さん24/02/11(日) 08:38:52

    「あ、私の事ならいくらでも憎んで構わないよ。私としては、貴女と競い合えるだけでも喜ばしいから」
    「それは…」
    「さて、長くなったね。本音が聞けて良かった。お会計は私が払っておくから」
    「お待ちになって」
    「ん?」
    どうして私の周りはこんなに優しいのだろう、そんな思いを抱きながらジェンティルドンナは前を向き、アーモンドアイを止めた。
    「この後、夕食に行く予定ですの。貴女もご一緒しませんこと?」
    「へぇ。それなら、お言葉に甘えようかしら」

    ジェンティルドンナからの誘いに乗り、アーモンドアイが着いたのは…
    「焼きそば?」
    「はい。私の学友から『ここの焼きそばは涎がロックンロールを起こすほど美味いぜ!』というお話を聞いたもので」
    「学友って…ああ、あの子ね。でも本当に意外。レースでは鬼のような威圧感の貴女が、あそこまで繊細で、しかも焼きそばが好きだなんて」
    「…今日の事はお忘れに…いえ、何でもありませんわ」
    「そう。それじゃあ、いただきます」
    顔を赤らめるジェンティルドンナに微笑むアーモンドアイ。2人の乙女の間に冷めた空気は消え、代わりに熱く濃厚な焼きそばの味が記憶に刻まれた。

    ー終ー

  • 7二次元好きの匿名さん24/02/11(日) 08:55:26

    素晴らしい……幻覚だからマジで供給少ないからありがたい

  • 81〜624/02/11(日) 09:01:36

    >>7

    初SSなのと幻覚なので解釈違い云々の不安もありましたが、嬉しいお言葉本当にありがとうございます

  • 91〜624/02/11(日) 09:52:12

    需要あるか分かりませんが元ネタ解説

    バイオリン:ジェンティルドンナの全弟レゲンデから連想
    ブリヌイ:ジェンティルドンナの母ドナブリーニから連想
    焼きそば:鞍上ネタ

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