- 1二次元好きの匿名さん24/02/16(金) 20:24:23
やあ親愛なる地の民、悪魔たる同胞諸君!突然だが俺は今日も絶好調だ。何せ所謂退魔組織というやつの聖職者に取っ捕まって縛り上げられている。つまり死の淵だ。最高。ゾクゾクする。今までで二番目くらいに刺激的。一番はもちろん名を『誠実(シャディク)』なんて馬鹿みたいな皮肉にされることかな。一度浴びてみるといい、聖職者御用達の聖水なんてものを喰らうと、本当に文字通り脊髄まで痺れるね。
とっくに魂を食い荒らした死体に事務的に十字を切り、検死でもしているらしいアホみたいな髪の毛アポロ男を眺める。どうやら長くここに居つき過ぎた。そろそろ移動しなければ、なんていいながら、ここに愛着を持ってしまったのがまずい。幾たびか派遣された神父を食ったのも、その死体を玄関とかにつるしたのも、「夜明来たれり」とその血で廃協会(にしたのは俺だ、つまりここ!)に書き殴ったのも。いやもしかしたら聖水を原材料にしたドラッグを街に配ったことかも。神像の腕とかで「やめなさい!」したことかな。まあともかくそうこうしていたら強そうなヤツが扉を刀で爆破して入ってきた。なにかいてるかわからないかもしれないけどマジで。そしてちょっとの油断でこのありさま、対悪魔の手枷に両腕突っ込まれてこの通りだ。カ、カ、カツ、たぶん仕込みブーツか何か、が鳴る音がする足音。やあ、はじめまして__
「久しぶり」
「……えと、覚えがない。どこかで会った事がある、かな?」 - 2二次元好きの匿名さん24/02/16(金) 20:26:38
おお……期待
- 3二次元好きの匿名さん24/02/16(金) 20:32:26
記憶にない。こんな美丈夫、そうでなければもっとちみったくてさぞやふにふにもふもふかわいらしいであろういのち。つまり見かけて食ってないはずがない。死んでないなら覚えがない。逃げられた?外套人物は、少なくともここ数十年では思いつかない。わざとらしく首をかしげる。恨みでも買った?これでも買っていそうな恨みは相手の生死を問わずちゃんと指折り数え歌にして数えてるのに。茶色い髪、桃色の前髪、真っ青な瞳__
「……まあ、知らなくても仕方ない」
「へえ?」
「探したんだ。人生全部、棒に振った」
「どうして」
「強いて言うなら、執着?」
「フフフッ……執着、執着ね!そりゃアまあ、光栄なことで。片想いよりは熱をあげてくれたかな?」
「ああ。初恋と同じほど、あるいはずっと」
「……、そう」
その返しは少し予想外であった。この男、恋なんてしたことありませんみたいな顔してるくせに、そういう比喩するんだ。くすぶる何かをむりやりおさえつけて火を焚き続けるような、憤怒か怨嗟か、憎悪か。そこまではうかがい知れない。が、それだけの期待をこの『シャディク』にかけてくれているのは、まあ、嬉しいか嬉しくないかで言えば、嬉しい。何故なら人間の強い感情は、最高のスパイスになるからね。
美味ければいい、不味くても構わない。ちょうどここ最近は何も喰らっていなかったからちょうどよかった。数え歌の一番最後、今日の年月日とこの男の容姿の語呂合わせとか考えちゃわないとね。いつなんどきも今日この日この場この出会いに感謝を!とかいうやつ。
- 4二次元好きの匿名さん24/02/16(金) 20:40:00
「一か所に留まるなんてお前らしくない。そんなにここの神が気に食わなかったのか」
「いいや、まさか。名前も知らないが、神様なんてヤツを、俺は等しく、平等に、公平に、唾棄しよう。悪魔は慈善活動・無賃奉仕なんて言葉を聞くと、重大なアナフィラキシー・ショックが出るんだ。あと反吐も」
「……そうか」
青い目が俺を見下ろしている。正確には俺の舌を見下ろしている。ふふん、そうだろう、この舌を貫いて、四肢をばらばらにして、心臓を一突きして、「こんなことをしたってどうにもならない」って後悔するといい。押し込めているらしいそれへの期待、愉快で笑いだしてしまいそう!腸がねじれるほど怒っても、神の御膝元では復讐は罰せられるものなんでしょう。ああ、ああ。神様は正しくて優しいけど、融通ってヤツがきかない。なんだか可愛いコイツがそれに気づいたら、知り合いの悪魔の一人や二人さしむけて魂ごと落としてやるのも悪くない。もちろん俺達悪魔の腕の中なら復讐はあらゆるものを生むからね。ね、ね。お前も見たい?
「さあ、剣を抜いてくれ。俺の全部、やってもいいよ」
「……、言ったな」
ぐるぐるぐるぐる、ずっとおさえていたものが渦巻いて、今にも決壊しそう。青い!こんなに燃えるみたいなのに、可愛い。そうだよね、わかるよ、正気を棄てるって楽だよね、自分より巨大なものに許されながら殺すって安寧だよね、あの手際の良さ、たぶん悪魔をもう、二桁は殺しているでしょう。
「ふふ」
下品な笑い方は人間にウケないらしいので、可愛らしく微笑んでみた。リップサービス、というやつである。
- 5二次元好きの匿名さん24/02/16(金) 20:46:37
さてここでひとついいことを教えてあげる、同胞諸君。人間はたぶんしらないけれど、俺はゼネリ家、いわゆる原初の悪魔の養い子に入っている。そしてここに名を連ねる悪魔は、一般的な悪魔の魂の在り処である心臓ではなく、瞳に魂を込めている。他の悪魔が銀の剣で心臓を突かれれば死ぬけれども、シャディクのような存在は『本当の名前を呼ばれながら、剣の一突き目で瞳を貫かれないと死なない』__とのことだ。ためしたことないけど。
とにもかくにも、まず真っ先に心臓を狙う親愛なる聖職者諸君に殺されることはまずない。この時点でだいぶ愉快だけども、他の部位を刺されればすぐにふわりと霧散して笑い声だけ残して逃げられる。よって怖いものなど何もない。あの呆気にとられた人間の顔は、もう、最高。
さあ、さあ、さあ。清く正しき祓魔師殿、悪魔の殺し方は知っているでしょう。そうだ。そう、そう。そう!心臓を、
「瞳を一突き。そうだな、『イエル』」
流れ変わったな
- 6二次元好きの匿名さん24/02/16(金) 20:55:30
…………え。あ、ふーーーーーん……なるほど。……、……え? はあ、え、うん。そう。そうだね。そう。そっか。話が変わってきたな。悠々と組んでいた足を正す。あの……すみません。ちょ、一旦。いったんね? カメラとか止めていただいても? ひとまず話し合い。話し合いしましょう。話せばわかる。調子乗ってたことは認めるんで。えへ。えへへ。まさかいや、そんな。
てか誰?誰がやらかしたんだ?「ゼネリさんちの悪魔はみんな瞳に魂があるからそこ刺されない限り死なないけどそこやられると終わりでーす」って聖職者に漏らしたのはどこの誰だよ。おい五億回床に頭擦りつけろ。牡牛の中とかで吠えて暮らせ。控えめに言って死んでくれ。皮膚で聖書とかのカバー作ってやろうか。馬鹿!!!!!……ッ、すーーー……よし。アンガーマネジメント終了。さすれば何か。命乞いとか?
「……えっと。その。その……何が望み?叶えるよ、なんでも」
「そうか」
ぁすっごーーーい!取り付く島もない!なんでだろ。日頃の行い?俺最近じゃ珍しい模範的優等生悪魔なのに?ひどい。ひどいよ。しくしく……なんてやってる場合でもないか。
殺されるよりひどい目にあうの?俺。なにかこう……じわじわおいこんで最終的に死にたくなっても死ぬことすらできない……みたいな?いやそれはそれでちょっと気になる。こういう頭してるからだめなんだろうな悪魔って。ちら、と青年の姿を伺う。何考えてるか全くわからない。読心術とかやっておくべきだった……
「……グエル」
「へ」
「グエルだ」
「な、何……突然……」
「なんでもすると言っただろう。俺の名前」
「……グエル?」
「グエル」
男__グエルは平坦に呟いて、何やら白い紙を眼前に突き出した。ふむ、名前を書く欄が二つある。その上に『婚姻届』なる文字が踊ってる。人間ってこんな紙持ってるんだ、昔の紙よりずいぶん白くなってる、文明の進歩……え?
「結婚してくれ」
「ごめん血とか耳に詰まってたかも。なんて?」
「結婚してくれ」
「なんて?????」
- 7二次元好きの匿名さん24/02/16(金) 20:59:39
流れ変わりすぎ!!続けて
- 8二次元好きの匿名さん24/02/16(金) 21:10:25
「……ふむ」
グエルはしばらく考えるように視線を巡らせた末に、再びシャディクの方に視線を向けた。
「『ゼネリ』と『オルグ』をやめてくれ」
「言い換えの魔術?」
幼稚園の教員とか向いていると思うよ。エクソシスト(笑)なんて物騒なものやってないで。てかなんで知ってるんだ。なんでよしんばゼネリを知っていたとして旧姓の方まで知ってるんだ。いや旧名知ってるだけでだいぶ怖いけど。無意味とわかりつつ睨みつけるも、予想通りグエルは顔色一つ変えない。かといって他に取るべきリアクションも思いつかない。とりあえず全身全霊をかけて相手の脚を蹴り飛ばすもびくともしない。コイツ本当に人間か?皮膚だけ人間で中身はモビルスーツなんじゃないか?微動だにしなかったぞ今。
「『イエル・オルグ』は『シャディク・ゼネリ』になる過程で世界の庇護から奪われた。故に、あらゆる契約を行えない」
「……、どうしてそんなことしってるの」
「強大な悪魔は契約にあらがえない。それを克服するために『作られた』のが、お前だ」
断定。図星故に閉口するしかない。ああ、ああ、認めるさ。今や立派な悪魔の翼が生えているこの背は、かつて無垢な人間のものだった。孤児だったせいでよりにもよって悪魔一族に攫われて、ゼネリ家が魂を瞳以外のところに移植する実験に『協力』させられて。魂の位置を移すなんて禁忌、世界の法則にあらがってる、から、さ。俺を『道具』、触媒にすることで、ゼネリ家のからくりが完成したわけ。主の契約に守られることを棄てる代わりに、主の契約に縛られることも捨てたわけだ。
とはいっても今となってはゼネリ家はシャディクのことになんて見向きもしてないから、シャディクに残ったのは魂のこもった瞳と、悪魔の道具にされた身体と、『契約を結べない』ことだけ。
「だから。名字と一緒に、契約ができない特性の一切を棄ててもらう」
「…………飼い殺すつもり?」
「真逆」
言っただろう。お前に入れ込んでいるのだと。
- 9二次元好きの匿名さん24/02/16(金) 21:23:10
「……だよ、それ。だから、なんで俺なんだ。どうして俺に執着する」
「言っただろう、お前は覚えてないと」
「お前の惚れこんだっていう俺に裁量権を渡せよ。せめて判断させろせめて」
「俺より弱いやつにお前のことは預けられない」
「今俺のこと弱いって言った!?」
「自分の格好を見てから言ってくれ」
偏執、どろどろ。おそらくロマンスに似た何かをヘドロで煮溶かした底なし沼に沈んで、身動き一つとれていないらしいのに、もがきもせずこちらを見るな。他所でやれ。無理矢理同じ泥沼に引きずり込むな。さあ一緒に死んでくれじゃないんだわ。
おそらくグエルの中にはシャディクの知らない事実に基づく独自の理屈が組みあがっていて、つまるところブレーキの欠落したジェットコースターも同然。マジでこういうの一番タチ悪い。
あのさ、せめて君のことを幸せにしてみせる、とか、それらしいチープな愛の一つも囁けない訳?つらつらと決まり文句を血と臓物のにおいがしみついた神像に捧げる男に、特にストレス性でもない頭痛が増大する。婚姻届を書くにも結婚式を行うにも、全てに第三者は必要ない。何故って、まあ、聖職者ならびに退魔機関の就職には神父であることが第一条件であるからに。
「ところで。契約を完遂させるの最後の条件は何か、知っているか?」
「……。……あーーーー……フフッ……なんだろうね……ハネムーン?」
- 10二次元好きの匿名さん24/02/16(金) 21:27:35
- 11二次元好きの匿名さん24/02/16(金) 21:41:49
『グエル・ジェターク』は領主の子であった。
幸いにも厳しくも優しい父親のもとですくすくと育ち、かといって家の中に納まって居られるほどおとなしくもなく、あちこちはしゃいでまわるほど闊達で、ついにはスラムの孤児のひとりと、親友と呼べる関係になるまでにいたった。
嗚呼、だがそれも、ほんのわずかな蜜月。時にしておよそ数か月もない。ある日突然、その孤児は悪魔に連れていかれてしまった。とられてしまった。それで、さ。悪魔になった孤児が、はじめて滅ぼしたのが、かつての『親友』が治めるジェターク領だった、と。
なるほど見ても思い出せないのは仕方ない。どうやらシャディクは契約と共に、あらゆる人間世界での感情の一切も奪われていたらしい。故にありえない程見事悪魔としての倫理を手に入れて、躊躇いなく人を殺し、弄ぶことができたわけだ。同時にコイツのことも忘れていたと。あれ、え? でも、さ。おかしくない? 俺が悪魔になったのなんて、たぶん百年や二百年前じゃあ、ないとおもうけど。正確には記憶にないけど、たぶん五百はくだらない__
「言っただろう、執着と」
一番信頼していた親友が悪魔の姿をして、親を、愛する領民を、そして自分を蹂躙しに来た日のことを、今でも鮮明に思い出すことができる。だからグエルは追いかけてきた。何度でも。何度でも。何度生まれ変わっても、この記憶だけは忘れることが、できない。
死ぬなんて、許さない。この男を「契約」というフレームを持って、人間世界の規範に引きずり下ろしたい。何故なら神の御膝元では復讐は何も生まず、グエルは今世では模範的優等生神父、やってるので。
「イエル、あるいはシャディク。契約として最もやりやすい形を取ったとはいえ、あくまでこれは婚姻だ。せいぜい仲良くやろう」
「ぜッ、……____」
……ったい、厭!!!!!!!
全てを思い出してなお、台風というかビームライフルを乱射したみたいな目も当てられぬ荒野原となった情緒は一切変わらぬその悪魔、は、廃教会(ドアに血文字で「夜明来たれり」と書いてある)に響く大声でそう叫んだのだった。 - 12二次元好きの匿名さん24/02/16(金) 22:09:42
ありがとうございます、続きを楽しみにさせていただきます
- 13二次元好きの匿名さん24/02/17(土) 00:03:34
面白い
続きが気になる - 14二次元好きの匿名さん24/02/17(土) 11:43:34
文章いいな
惹き込まれる - 15二次元好きの匿名さん24/02/17(土) 20:55:42
☆
- 16二次元好きの匿名さん24/02/18(日) 08:22:39
更新楽しみ…
- 17二次元好きの匿名さん24/02/18(日) 18:54:05
初っ端からフルスロットルで面白い
生きろシャディク - 18二次元好きの匿名さん24/02/18(日) 22:20:06
話を爆速で進める初手婚姻届、さすグエ
- 19二次元好きの匿名さん24/02/19(月) 00:36:56
面白いです!!
- 20二次元好きの匿名さん24/02/19(月) 10:13:42
まぁグエルだから倫理的にいかんことまではしないだろうという信頼
シャディクは諦めて - 21二次元好きの匿名さん24/02/19(月) 18:19:43
保守
- 22二次元好きの匿名さん24/02/20(火) 00:12:32
☆
- 23二次元好きの匿名さん24/02/20(火) 12:02:02
待機保守
- 24二次元好きの匿名さん24/02/20(火) 12:02:05
ほ
- 25二次元好きの匿名さん24/02/20(火) 21:36:10
(オルグじゃなくてオグルじゃない?)
- 26二次元好きの匿名さん24/02/21(水) 00:47:28
保守
- 27二次元好きの匿名さん24/02/21(水) 12:14:42
★
- 28二次元好きの匿名さん24/02/21(水) 21:26:57
ほっしゅ
- 29二次元好きの匿名さん24/02/22(木) 07:28:40
ホシュ
- 30二次元好きの匿名さん24/02/22(木) 12:32:13
wktk
- 31二次元好きの匿名さん24/02/22(木) 22:20:16
☆
- 32二次元好きの匿名さん24/02/23(金) 07:09:52
保守
- 33二次元好きの匿名さん24/02/23(金) 13:43:42
保守しているけどさ、これ続き来るのかな…?一発ネタだったりしない?
- 34二次元好きの匿名さん24/02/23(金) 15:23:37
もしそうだったら、そう書いてくれるんじゃないかな? 規制にかかったとか、急に忙しくなったとかじゃないかと思ってる
魅力的な文章だから、もうちょっと保守して様子を見守りたい - 35二次元好きの匿名さん24/02/23(金) 21:21:01
(一発ネタの予定だったけど久々に帰ってきたら保守されてびっくり!!せっかくなので続きを書くよ)
多分おそらく悪魔なる親友をもったことで魂が変質したのだと思う。その証拠にちっとも、全然、前世の記憶というやつが消えやしない。まあそういうこともある 仕方ないなァ、何せこれも縁だ!……なんて軽やかに鼻歌を歌い、画家になって鮮明に焼き付いた人相画をかき、更に次でそれをオークションで売りさばき、更に次経営したワイナリーでいちばんの美酒を揺らして、それなりに満喫していた。この第xの生というやつを。
その余裕が頭に置かれた机から全部滑り落ちて戻ってこなくなったのはおそらく四十回目くらいから。とうとう気が狂ったのは五十回目。飛びに次いで飛ぶブツ切りの記憶は不鮮明なのにどういうわけかあの無邪気な笑顔__一緒に遊んだ時代と、俺を殺しに来た日、どちらもを指して!__だけははっきりとしていて、いつ何時目を覚ましても乾ききってない生理食塩水を目許からダラダラ垂れ流しながら起きて、身体に酷い疲労と耐え難い飢餓感のような何かにさいなまれて眠る。自害をしようが獣とかに食い殺されようが、無論その先に待つのは生き地獄の猛烈な歓待、その記憶も感覚もそのまままた目が覚めるのだからいよいよ救われない。
アイツを見つければ、なんて思ったのは七十二回目だった。『シャディク・ゼネリ』の存在を知ったのは八十六回目、そして記念すべき百回目に、やっと、やっと、届いた。
アイツを殺して俺も死のうと考えた数はとっくに今までの両手両足全ての数を足したより多いが、あらゆる方法をシミュレーションしても身体が道理の通らないむちゃくちゃな拒否反応をおこし、失敗する。そんなのってないだろ。普通。ちったァ常識的にものを考えてほしい。グエルとて思った、不敵に微笑む青年に成長した彼を見た時、どう考えてもこの悪魔を殺して魂の分子レベルまで自己を分解して二度と戻らないようにした方がスピーディかつ低コストでグッドエンディングを迎えられると思ったのに、ちゃんちゃら、おかしい。
グエルをグエルたらしめ、人でありながら非人間的、そして決して悪魔にしてくれない、不可視の力で聖母が如く諭してくるハッピーエンドの魔法が、「がまんしなさい」と強制してやまないのだ。
- 36二次元好きの匿名さん24/02/23(金) 21:31:36
グエル・ジェタークが『イエル・オグル』に執着しているということに関しては何も否定しない(それを否定できる区域はたぶんとうの昔に中指立てながら通り越してしまったので)、而してそれに己の一切を縛られるのは癪だ。だからグエルも縛りたかった。かつて交わした口約束も、今こうして新たに結んだチギリとかいうやつも、ひとつひとつ勘定して『契約』として、手の施しようがないほどに守らせてやる。
悪魔というのは契約にのみ縛られ、その他の何物にも縛られない概念、自律思考実体、故に生命ではない。その契約すらも奪われた『シャディク』は、ほとんど世の理ですらない、完全なイレギュラー。そしてそれに狂わされ、多分この世に規定されてない前世の記憶をバンバン持ちこしている俺も、世界から仲間外れにされている。それがちゃんちゃらおかしい子供騙しの指切りげんまんで幾つもの生涯を捧げてのたうち回って苦しんでいるなんてお笑い草だ。「ずっと一緒に居ようね」だなんて、「俺とおともだちでいてね」、なんて。なんてさ。クソ。クソが。ッど~~~~~してくれよう!幾千幾億幾兆回想しても、「好き」、「親友」、「助けてあげたい」、「とくべつ」、そう、そう!確かにそれなのに、それらが狂気というスパイスでミックスジュースにされてる。悪酔いが酷い。駄目だ全然殺せるはずない、後ろ髪は引きちぎられるしバカと怒鳴り散らかしたくなるほどぐずぐず後悔してちょっと口には出せないレベルで内心目の前の悪魔をこき下ろしながら懐に手を突っ込むしかない。銀のナイフでその瞳を貫く代わりに、世界を逸脱した我らを、再び契約というこの世の規範に押し込めるために。
「……結婚してくれ」
たぶん冷静な顔は出来ていたと思う。
- 37二次元好きの匿名さん24/02/23(金) 21:50:23
引き攣った笑みも一瞬みせた何かを悟ったような表情も全部全部かなぐり捨ててギャンギャン騒ぐシャディク・ゼネリの脚を軽く蹴り飛ばし、今世で都合二十年ほど着てきたおかげで身体に慣れたスカプラリオを脱ぎ捨てる。今世では俺はただの孤児で、グエルでもジェタークでもない。ああ__ハハ、そう考えるとお揃いで、今回だったのは運命だったのかも!喚く口に手を突っ込んで、蛇みたいに寝たり起きたりする悪魔の牙を丁寧に自身の手首に突き立て、少し筋肉に力を込めて引き抜けないようにする。
「がッ!?が、ぁ、かぁ……!?」
「~~~~っ、は、あ゛。痛……」
契約の満了は初夜を以て行われる。とはいっても、どこからどこまでがそこに含まれるかは曖昧なもので、そのうえ男体と男体、であれば、こうして破瓜がわりの血を垂れ流すだけでも十分だ。だけどもそれでは、満足できない。
ずっと、怒っていたんだ。怒りたかった。無駄だとわかりつつ。アア、苛立ちが止まらない。そんなに俺のことが好きだったなら、悪魔なんかに攫われる前に助けを求めてくれ。温かい食事を食べたかった。共に柔らかい毛布に包まれて同じ夢を見たかった。違う、そうじゃア、なくって。彼のような存在が生まれる世界の仕組みとか、自分の無力さとか、そういったものに、怒っていたのかもしれない。人間の記憶を奪われて怒ることすらできなくなってしまった彼奴の代わりに、地獄みたいな焼畑農業にでも向いていそうな平米数の喪失感に襲われながら、それでも怒ってやるしかなかった。
本当に絶対、許したくない。百回の死を経て、三大欲求に属するあらゆる感覚は希薄になったし、そのかわり特定の人物の名を一度聞くだけで全身が歓喜するように魔改造された。酷い。許せそうにない。やっぱり殺してやろうか、……、無理だできない。泣き濡れて陶然とした顔を見ると、たぶん。
愛、なのかも、と少し思う。
ティーンエイジャーの情熱的な、自らを認めてくれたものへの一途な初恋ではない。好き、親友、助けてあげたい、とくべつ__傍に居たい、何度うまれかわってもかならず、またあいたい__
「ッ、あ゛~~……ひっく、う、う゛、あとでそのお綺麗な顔面三千回はぶん殴る……」
「俺今全面的に被害者なのに!?それ俺の台詞じゃない!?」
- 38二次元好きの匿名さん24/02/23(金) 22:06:48
この厚いくちびるが、食事をあまり得意としていないことを知ってる。ロクなモン食べてなかったもんな。叶うなら一緒に食べたかったよ、この口の直径の倍はあるステーキとか。すまん大嘘だ。ひとり一枚ほしい。
「ンでお前が泣くんだよ、俺に泣かせろよ、グエル」
「……だって……」
だっても何もない。頭の中ではそうわかっているのに言い訳をも止めてしまう。もう一枚、いや三枚はほしい。ううん、違う、まっっっ……たく、足りない。マジでマジで。惨めでならない。三回目くらいから既に女は抱けなかったし男もお前以外の顔に虫唾が走るアタマになったんだ。責任位とってくれ。なア。あ゛ー、認める。認めるから。お前のこと好きみたいだよ俺。これで満足か? お前が好きで、真っ直ぐに好きで、自分すらまともに騙すことができなくなってしまった。初夜ゴッコの続きの間、焦げ付くようにブツブツと正気が焼き切れていくのに、その感触ばかり永遠に感じる。理性でこの先を求めなければならない。あんまりなほど浮彫に。
「う゛、あ。あ。なあ、さみしい、さみしいんだ……」
「知らないよ。俺を解放してくれよ、早く」
「……いや……」
「なんで!?」
ひとりはいや。
知らないかもしれないけど。すっごくさみしいんだ。しらないからそんなこといえるんだ。すれったも、みおりねも、えらんも。誰もついてきてくれない。お前だけなんだ。落ちた水滴が弾ける音が混じる。混じったところで、結局お前の笑顔が浮かぶだけ。……
「今世では、自慢げに存在を語れる弟の一人も増えなかったのか?寂しがり屋の領主様」
はっと、顔を上げる。
「おもいだしたのか」
肩を竦める彼に、
__ようやく、心の底から涙を流せた、ような気がした。
- 39二次元好きの匿名さん24/02/23(金) 22:08:42
や、や、やったあぁ!!
ありがとうございます!!! - 40二次元好きの匿名さん24/02/24(土) 09:12:47
★
- 41二次元好きの匿名さん24/02/24(土) 14:24:32
やったぜ
シャディクガンバ - 42二次元好きの匿名さん24/02/24(土) 20:34:04
⭐️
- 43二次元好きの匿名さん24/02/25(日) 00:15:46
思い出せて良かった、これで一人じゃない
これからも二人だけ世界の法則から切り離されて生きていくんだろうなってのが、切なくて美しいとも、寂しくて恐いなとも感じる - 44二次元好きの匿名さん24/02/25(日) 10:24:04
おは保守
- 45二次元好きの匿名さん24/02/25(日) 20:42:30
泣きながら初夜?やってるの叡智でしゅき
- 46二次元好きの匿名さん24/02/26(月) 05:31:19
☆
- 47二次元好きの匿名さん24/02/26(月) 14:41:59
★
- 48二次元好きの匿名さん24/02/26(月) 22:43:26
なんかしんどそうな感じではあるけどお互い幸せになってほしいな……
- 49二次元好きの匿名さん24/02/27(火) 08:24:01
☆
- 50二次元好きの匿名さん24/02/27(火) 19:14:13
保守
- 51二次元好きの匿名さん24/02/28(水) 01:29:08
★
- 52二次元好きの匿名さん24/02/28(水) 11:02:33
⭐︎
- 53二次元好きの匿名さん24/02/28(水) 21:53:21
🥩🥩
- 54二次元好きの匿名さん24/02/29(木) 07:53:26
>あとでそのお綺麗な顔面三千回はぶん殴る……
いかにもグエルのセリフでわろえる
- 55二次元好きの匿名さん24/02/29(木) 19:05:14
★