- 1二次元好きの匿名さん24/02/22(木) 23:41:39
「わっ……!」
お出かけの途中に立ち寄った、昼下がりの公園。
突然、俺はズボンの裾を何かに引っ張られた。
以前の思い出が蘇り、昼間からお化けかと思ってしまい、冷や汗を流しながら足下を見る。
そこには、一匹の小さな犬が、尻尾を振りながらじっと俺のことを見上げていた。
「あら? 随分と可愛らしい子犬さんですね?」
隣にいた担当ウマ娘がそっと屈んで、優し気な微笑みでその子犬を見つめる。
さらりと長く綺麗な青い髪、アメジストのように輝く無先の瞳、硝子のようなどこか儚げな雰囲気。
彼女────メジロアルダンと合わせるように、俺のその場で屈んで、子犬と視線を合わせる。
「そうだね……あっ、首輪にリールがあるから、どっかから逃げてきちゃったのかな?」
「まあ♪ ふふっ、随分とやんちゃな子なんですね? ちょっとだけ、チヨノオーさんに似てるかもしれません」
確かに、この人懐っこい感じは、アルダンの同室であるサクラチヨノオーを彷彿とさせるかもしれない。
彼女はそっと、子犬に向けて、手を差し伸べた。
しかし、何故かその子犬は彼女を見向きもせず、飛び込むように俺の方へと向かってきた。
何とか胸の中でそれを受け止めるものの、子犬はお構いなしにぺろぺろと俺の顔を舐めて来る。 - 2二次元好きの匿名さん24/02/22(木) 23:41:51
「……残念、この子はトレーナーさんにご執心のようですね」
「わぷ!? いや、たまたまだと思うけど……くすぐったいから舐めるのは勘弁してな」
「…………」
「よーしよし、いい子だ、さて、多分飼い主もキミのことを探していると思うから」
無理矢理、子犬を引き離して、その代わりに顎の下撫でたり、耳の付け根を軽く揉んであげる。
すると子犬は心地良さそうに目を細めて、俺の手を受け入れていた。
……さて、まだ幼い子だし、恐らくは飼い主はそんな遠くではないはずだ。
俺は子犬にかまってあげながら、周囲をぐるりと見回した。
「………………」
────先ほどから言葉発さないまま、じっとこちらを見つめるアルダンに、気づかないまま。 - 3二次元好きの匿名さん24/02/22(木) 23:42:04
その後、飼い主はすぐにやってきた。
まだ小学生くらいの女の子で、ちょっと目を離した隙に逃げ出してしまったらしい。
気を付けてね、と言いながら彼女に子犬を返すと、子犬は脇目もふらず女の子に甘え始めた。
……うん、まあそんなもんだよな、ちょっと寂しい。
そんな気持ちを振り払うように、俺は待たせてしまっていたアルダンに声をかける。
「お待たせアルダン、無事に飼い主が見つかって良かった……よ…………?」
「……むう」
アルダンは、眉を八の字にし、つーんとそっぽを向いて、不満気に唇を尖らせていた。
こういう顔を可愛らしいなと思いながら、何で怒っているのかがわからず、言葉を詰まらせてしまう。
いつも優しく、穏やかな彼女がこういう感情を表に出すのはかなり珍しい。
そのため、どう対応をして良いのかがまるで見当がつかず、俺はただ困惑するしかなかった。
「……わん」
「えっ?」 - 4二次元好きの匿名さん24/02/22(木) 23:42:18
アルダンの口から、小さな呟き。
良く聞き取れなかったが、状況を打開するヒントを、逃すわけにはいかない。
次の言葉は逃さないと、俺は耳を傾けて、彼女のことをじっと見つめる。
彼女は頬を赤く染めながら、一瞬ちらりとこちらを見やり、そして意を決したように正面から向き直った。
「わっ、わんわんっ!」
「……えっ? アルダン?」
妙にクオリティの高い、犬の鳴き声。
それは目の前にいる、人一倍の誇りと覚悟をもった、清楚なウマ娘から放たれているものであった。
俺が彼女の名前を呼ぶ、彼女は小さく首を横に振って、真っ赤な顔と今にも泣きそうな瞳で、小さく言葉を吐き出す。
「ちっ、違います……今の私はメジロアルワンです……わん…………」
そしてアルダン、否、アルワンはぷるぷると震えながら、俯いてしまった。 - 5二次元好きの匿名さん24/02/22(木) 23:42:44
「先ほどの可愛がられている子犬さんを見ていて、少し、羨ましく感じてしまいまして……わん」
「そっ、そっか」
「それで私もあのように、遠慮なく構っていただけたらと思って、このような暴挙にでてしまい……わん」
アルダンを少し落ち着かせた後、俺達は公園のベンチに座った。
そして彼女はしょんぼりとした様子で、自身の突然の行動について話してくれた。
何故か、アルワンモードは律儀に継続したまま。
……そもそも、今日は彼女のための、彼女とのお出かけの日。
不可抗力であったとはいえ、そんな彼女との時間を割いて、犬に構っていたのは非があるといえなくもない。
俺は彼女に対して、ぺこりと頭を下げた。
「ごめんアルダン、キミをないがしろにしてしまったみたいで」
「いっ、いえ! これは、その、私の我儘で、トレーナーさんは何も悪くないです、わん!」
「……キミがそうやって我儘を言ってくれたのが嬉しくて、俺がキミに何かしてあげたいんだ」
「……っ!」
アルダンの耳がぴこんと立ち上がって、その瞳が大きく見開かれた。
視線がしばらくの間、困ったように右往左往と彷徨って、やがて再び俺と目を合わせる。
そして彼女は恥ずかしそうにはにかみながら、口を開いた。
「…………もしも宜しければ、先ほどの子犬にしていたように、私を撫でて欲しいです、わん」 - 6二次元好きの匿名さん24/02/22(木) 23:43:07
「……いいかな?」
「……わん」
アルダンは準備が出来たと言わんばかりに小さく一吠えしてから、そっと目を閉じた。
頭を差し出すように少しだけ身体を前に傾けて、耳をぴょこぴょこ動かし、興奮気味に尻尾を揺らしている。
彼女の端正な顔立ちと白い肌、艶やかな髪を目の前にすると、この期に及んで緊張してしまう。
だが、彼女が望んでいることだ。
そう思い直して、深呼吸を一つ、俺は覚悟を決めて彼女の頭に向けて右手を伸ばした。
「……んっ」
さらさらとしていて、手からすり抜けてしまいそうな、艶やかなアルダンの髪。
それを軽く梳いてあげると、彼女は小さく声を漏らし、ぴくんと身体を反応させて、固まってしまう。
きゅっっと口元を引き締めて、少しだけ強く両手を握って、肩に力が入る。
そんな彼女の緊張を解すように、俺はふわふわとした耳の付け根をくにくにと揉んであげた。
「ひゃっ……あっ……ふあ……」
何度も、何度も、少しずつ場所を変えて耳に優しく触れると、アルダンは身動ぎをしながら、甘い声を出す。
その都度、身体の力は抜けていき、徐々に蕩けたような表情になっていく。
しばらくそうしてあげると、彼女は少し物足りなそうな顔で、潤んだ熱っぽい瞳をこちらに向ける。 - 7二次元好きの匿名さん24/02/22(木) 23:43:44
「顎の下を、触って欲しい…………です……わん」
「……ああ」
言われるがままに、俺は開いていた左手で、彼女の顎の下に触れた。
髪や耳とは全く違う、すべすべとしてしっとりとしている、柔らかな彼女の肌。
それに軽く指を滑らしたり、少しだけくすぐってみたり、ちょっとだけ指を押し込んだりしてみる。
「んんっ……とれーなー、さん、それ、きもちいいです……わふ……」
幸せそうに口元を緩ませて、心地良さそうに目を細めながら、俺の拙い手つきを受け入れるアルダン。
その姿は、先ほどの子犬を彷彿とさせて────すごく、可愛いなという思いで、頭がいっぱいになってしまう。
そして俺はしばらくの間、時も忘れて、目の前にいる可愛い生き物に構い続けるのであった。 - 8二次元好きの匿名さん24/02/22(木) 23:43:57
「……ごめん、やり過ぎた」
「いっ、いえ、私も、その、とても良かったもので、すっかり堪能してしまって」
夕焼けの赤い日差しがアルダンの髪を照らし始めた時、俺はやらかしに気づいた。
まだ買い物など行く予定があったにも関わらず、俺は一時間以上、アルダンの頭や顔を撫でていたのである。
彼女はすっかり骨抜きの状態でベンチにもたれて、とろんとした目つきで肌を上気させて、熱い吐息を吐いていた。
慌てて手を止めて、とりあえず問題がないことを確認して、安堵のため息をついて、今に至る。
美しく揃えられていた彼女の髪もすっかり乱してしまい、本人が手櫛で整えているような有様であった。
そして、俺は今、彼女の前で深々と頭を下げている。
「まだ予定もあったのに」
「私がお願いしたことですから、あまり気になさらないでください、それより一つ宜しいでしょうか?」
「あっ、ああ、出来ることならなんでも言ってくれ」
「ええ、でしたら遠慮なく……トレーナーさん、顔を上げていただいても、良いですか?」
俺はアルダンに言われるがままに、頭を上げて、背筋を伸ばす。
それを見て、彼女はくすりと笑みを浮かべて、ゆっくりと距離を縮めて行った。
そしてそのままそっと、アルダンは正面から、抱き着くように俺の胸の中に飛び込んできた。
ほんのりと漂う甘い匂い、ふわふわで柔らかな感触、そしてじんわりと伝わる体温
アルダンは俺の胸に顔を埋めて、大きく息を吸い込む。
突然の温もりと刺激的過ぎる感触、謎の行動に呆然としながら、俺は彼女を上から見下ろす。 - 9二次元好きの匿名さん24/02/22(木) 23:44:11
「ふふっ……あの子犬さんの気持ちがわかるような気がします、こうしていると、とても安心しますから」
アルダンは穏やかな微笑みのまま顔を上げると、上目遣いで俺のことを見つめる。
そして、ちろりと舌をちょっとだけ出すと、揶揄うような声色で言った。
「そういえばあの子は、トレーナーさんのお顔をぺろぺろと舐めていましたね?」
「……それは勘弁して」
「あら、それは残念です、それじゃあ、その代わり────」
悪戯っぽい表情を浮かべた後、アルダンは言葉を紡いだ。
「────あの子以上に、もっと私のことを可愛がってくださいね…………わん♪」 - 10二次元好きの匿名さん24/02/22(木) 23:44:36
お わ り
とあるスレ用に書いたSSです - 11二次元好きの匿名さん24/02/23(金) 00:59:55
これは叡知
- 12124/02/23(金) 06:47:13
健全な戯れだからセーフ
- 13二次元好きの匿名さん24/02/23(金) 07:45:38
………これ公園でやってんだよな………?
- 14二次元好きの匿名さん24/02/23(金) 07:55:21
チヨ「」
- 15二次元好きの匿名さん24/02/23(金) 08:01:26
人の目があるところで特殊プレイしちゃダメだよ!
- 16二次元好きの匿名さん24/02/23(金) 10:18:31
女の子がまだいるかもしれないという事実
- 17124/02/23(金) 13:15:12