- 1◆SFW74IQbBw3i24/02/25(日) 01:44:30
- 2◆SFW74IQbBw3i24/02/25(日) 01:45:13
「─────……貴様、今何と?」
陶器を連想させる白い肌。暴君という呼称からは想像も出来ないほど透き通っている、美しい瞳。鋭い目付きに見上げられ、けれどヴィルシーナは屈さずに。
「……何度でも言いましょう。貴方に頼みたいことは変わらないのですから」
……訂正しよう。その圧力に影響を受けない訳では無かった。今ならまだ引き返せる、と、頭の中でそう囁かれもした。
けれど。
「……貴方に、私の“デート”になって欲しいのです」
ヴィルシーナは屈さなかった。いつか、貴婦人にレースでそうしたように。
彼女────世界を黄金色に染め上げる暴君。自らがターフの王だと言って憚らない彼女に。
「王には女王が相応しい────そうは思いませんか、オルフェーヴル先輩」 - 3◆SFW74IQbBw3i24/02/25(日) 01:46:07
敢えて挑発的な言葉を使ったのが良かったのか、それとも『ジェンティルドンナに勝ちたい』という欲を隠さなかったのが良かったのか。もしくは、別の理由を見抜かれていたか。それは分からないが。
「流石ですね、先輩」
「ふん……」
今現在、オルフェーヴルとヴィルシーナはペアになってダンスを踊っていた。とは言え、元より才能のある二人。完成度は既に高かった。
ステップ、ターン、近づいては、離れ。指先が絡み、次の動作を取るために滑らかに動き────
「……煩いな」
「…………」
オルフェーヴルの言ったそれは、周りから向けられる視線の事だろうとヴィルシーナも思った。
「場所を変えますか?」
「構わん。無駄な事よ。余が衆目を集めるは当然である」
確かにどこであろうとも視線は集まるだろう。
それが学園内なら。
「……スケジュールさえ教えてくだされば、もっと良い場所を提供できます」 - 4◆SFW74IQbBw3i24/02/25(日) 01:47:17
「お似合いです」
「ふむ。中々によい」
場所はヴィルシーナの家に移る。邪魔の入らぬ場所、となればここが最適だろうと考えてのことだ。やるとなれば徹底的に一番を。その考えが通じたのだろうか。オルフェーヴルは以外にもすんなりとそれに応じた。
元々注文を済ませていたドロワの衣装もタイミング良く届いていたので、どうせならと着て踊る事にした。
踊る度、フィッシュテールが揺れる。裾に刺繍された金の華が光を反射して煌めく。オルフェーヴルの衣装もまた、その髪と調和する金銀の光を宿していた。青色のネクタイピンに、何を思ったかまでは分からない。
「……オルフェーヴル先輩」
視線が向いた。ヒールの差で、普通より開いた目線の高さが逢う。
「私は貴方についていけます。アドリブなども、どうか遠慮せず、貴方の思うままに。貴方の想像する以上で答えて見せます。
私は、頂点に立つに相応しいウマ娘ですから」
強く熱の篭った視線。
「────貴様は、余が記憶している以上に恐れ知らずだな」
リーニュ・ドロワットまでの日々が、溶けていくように過ぎて行く。 - 5二次元好きの匿名さん24/02/25(日) 01:47:26
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- 6◆SFW74IQbBw3i24/02/25(日) 01:48:32
「ドロワ参加者のみなさんはこちらへ────って、お、オルフェーヴルさんとヴィルシーナさん!」
「ええ。……手続きをお願いできる?」
「あっ、は、はい!もちろん!!」
二人の圧倒的な美貌に気圧されたのか、慌ててチェック記入を始める実行委員のウマ娘。しかしそれも仕方がないだろう。服も、髪も、メイクも。ただこの夜、この一時のために仕上げた彼女らはあまりにも壮麗だ。
フロアに足を踏み入れた瞬間、ざわめきを感じた。
「………ジェンティルか」
オルフェーヴルが見やった先、ジェンティルドンナとゴールドシップが互いにリードを奪い合うようにしながら踊っていた。それはダンスと言うより、ある種戦いのようで、だからこそ不思議な魅力を生む。
「オルフェーヴル先輩、踊る前に一つ、伝えたい事があります。よろしいでしょうか」
「……よかろう。発言を許す」 - 7◆SFW74IQbBw3i24/02/25(日) 01:49:38
目の前に立つ。見上げる。手を取られる直前。
「私は────最初からずっと、ジェンティルドンナでは無く貴方と、あなたとおどりたいと、思っていました。……今も、なお。彼女たちの踊りを見ても……」
「…………」
その瞳が、陶酔しているように見えて、けれどいつも自分の周りにいる臣下では無いことにオルフェーヴルも気づく。
曲が始まる。
手を取った。
まるで磁石のようにぴたりと手のひらがくっつく感覚に、ヴィルシーナはどうしようもなく思ってしまう。
────ああ、今だけは。今だけは胸を張って言える。……私が、このひとの一番……──── - 8◆SFW74IQbBw3i24/02/25(日) 01:50:48
足元がふわふわしているようにも思う。夢のようだとも。けれどしっかりと体に覚え込ませたステップ、オルフェーヴルの踊り方や癖はちゃんと知覚できる。故に時折挟まれる、ともすれば無茶振りにすら思えるアドリブにも答えられた。
「……オルフェーヴル先輩」
ステップの合間。おそらくはウマ娘の聴力を持たねば聞こえないであろう声の大きさを意識して、ヴィルシーナは口を開いた。
「ドロワの“デート”とは特別です。年が違っていたり、同期ではなかったり……本当なら、交わらないような関係でも。ただ憧れを秘めているだけであっても。
……高嶺の君とも。想い出を作る事ができるものです」
もちろん、そうはならない事もある。誰か別の人にデートを取られる、もう既に誘う相手を決めてある────むしろ、そんな事の方が大半で。 - 9◆SFW74IQbBw3i24/02/25(日) 01:51:51
「……実を言うと。私が誘う前に、貴方が彼女やゴルシさんに誘われていないか、不安でした」
けれど、けれどもし。そんな相手を誘えたら。そんな相手と踊れたら。普段言えないような言葉がするすると出てきてしまうのも。仕方の無いこと。
「でも……私は今、こうして貴方と踊る事が出来ている。……私は貴方の“デート”になれた」
赤いマニキュアに込めた気持ちを。大半のひとは、ジェンティルドンナに向けたものだと思うだろうか?
そうでもあるかもしれない。そうでは無いのかもしれない。
外野が決めてしまうのはきっと野暮だ。
「どうか、その事に感謝を────ありがとうございます、オルフェーヴル先輩」
それを聞いて、オルフェーヴルは果たして何を思ったのか。 - 10◆SFW74IQbBw3i24/02/25(日) 01:53:41
「………合わせろ」
「!」
もう曲も終盤。何が来るのかとヴィルシーナは考えられる限りのパターンを考えた。が、彼女に訪れたものはそのどれでもなく。
「きゃっ……!?」
引き寄せられ、次に来たのは浮遊感。しかし、力強い支え方は安心感をも与える。
「余と舞踏に興じる事のできた喜びをその身に刻み込め」
初めて、自分に向けられる微笑み。
その瞬間、ヴィルシーナはまるで世界に二人しかいないような錯覚にかられた。
カツ、カツとヒールの音が鳴る。数歩進んで、丁度曲が終わるほんの少し前。
まるで本当の姫にそうするように、オルフェーヴルはヴィルシーナをスポットライトの下に、そして自分の目の前に下ろし、顎をつい、と持ち上げた。
「これは褒美だ。余を誘う胆力と────余が声を掛けるまで、誰にも拐かされなかった、な」
曲が終わる。シン、と下りる静寂。もはやホールの視線を丸ごと受けていたと言っても過言ではなかった。
そして上がる爆発的な黄色い悲鳴。
オルフェーヴルはヴィルシーナを一人残してホールを出て行った。
余韻でふらふらと歩きそうになる体を必死に叱咤して───合わせろ、と言われたのだから遂行しなければならない────、ヴィルシーナもまた逆方向に堂々と歩く。それが益々悲鳴を加速させたのは言うまでもない。 - 11◆SFW74IQbBw3i24/02/25(日) 01:54:55
「お姉ちゃ〜ん!!」
「あら、ヴィブロス」
後日、学園の一角にて。
「お姉ちゃん達のダンス、ちょー凄かったしかっこよかったし、何よりちょーきれいだったよ〜!」
「あ、ありがとう、ヴィブロス」
ダンス、と言われるとどうしても最後の姫抱きの記憶が蘇る。少しばかり頬を紅くしながらも、姉として毅然と答えた。
「やっぱり私も出れば良かったな〜」
「あら……デートにしたいひとはいるの?慎重に決めるのよ」
「うんうん、わかってるって!……でもお姉ちゃん、その〜……実はね、私、オルフェーヴルさんが最後にお姉ちゃんにかけた言葉、聞こえててね……」
「……きっと、ただのリップサービスよ?」
『余が声を掛けるまで』と、確かにあの日のオルフェーヴルはそう言った。
「オルフェーヴル先輩は褒美だと言っていたし、私も変な期待はしていないもの」
「そうなの?な〜んだ。…………ねえねえ、ほんとはどうなの〜?」
「まったく……本当に何も無いわよ」 - 12◆SFW74IQbBw3i24/02/25(日) 01:55:43
「実際の所はどうなのかしら」
「何の用だ、ジェンティル」
伝わるように言えと視線が物語っている。その事にジェンティルドンナは笑ってしまった。詳しく言わなくても分かるだろうに。
「彼女を誘うつもりはあったのかしら?と、聞いているのよ」
「余がそれに答えなければならん理由は無い。どうしても答えが欲しいと言うのなら……」
「2400m。……やはり我々はこうではなくては、ね」
「完膚無きまでに叩き潰そう、余の走りをただ後ろで見よ────」
オルフェーヴルが、金色の暴君が、ターフの王が。
女王でありたいと、頂点に立つべきだと想う彼女に何を想っていたか、その理由は永遠に知られない。 - 13◆SFW74IQbBw3i24/02/25(日) 01:57:09
終わり!です!
気づいたら4000文字近く行ってるし多分ヴィルシーナはゴールドシップさん呼びだった気がするしオルフェのエミュは分からないし、粗ばっかりで欲望しか詰めてない。
ド深夜にお付き合い頂きありがとう
公式がオルヴィルやってくれる日まで生きようと思う - 14二次元好きの匿名さん24/02/25(日) 08:32:19
このレスは削除されています
- 15◆SFW74IQbBw3i24/02/25(日) 12:26:00
- 16二次元好きの匿名さん24/02/25(日) 19:27:21
ありだな