- 1二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 09:26:38
parcaeはその結果を示した。
今回のジャパンカップ出走、エアシャカールは14着の大敗を喫すと。
そこまで悲観することは無い。
クラシック3冠での順位も、日本ダービーがハナ差7cm届かず2着であることも含め、その解を全て提示していた。結局その7cmを覆すことはできなかったが、それはそれで予想通り、というヤツだ。
だからこそひとつだけ、どうしても納得できない項が存在していた。
「オイ。」
トレセン学園に戻り、栗東寮へ帰ろうとする優勝者に声をかける。相手の目はこちらを見ると、ほんの少し怪訝そうに細められた。
「…なに?」
なぜ自分に声をかけたのか。
その疑問を探るような態度で、アドマイヤベガはこちらに向き直った。 - 2二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 09:29:08
「宝塚記念3着、秋天3着、そして今回のジャパンカップ1着。それがアンタの、シニア期に入ってからのG1戦績だ。」
「…そうね。それがどうかした?」
戦績そのものは特段目立ったものではない。菊花賞からの休養明けであることを考えれば、入着してるだけでも上々だ。
だが、その戦績こそが問題だった。
次にその問題を叩き出したソイツを起動させる。
「オレのparcaeは腹立つくらい優秀でな。目的のレースと出走メンバーを入力すりゃァ、蓄積されたデータをもとにその結果を予想する。順位だけじゃなく、その着差まで含めて。」
「…そう。……それで?」
やや間をおいて、続きが促される。これからぶつけようとしている問題に、あるいは心当たりがあるのだろうか。そう思いつつ、あるレースの結果を表示させる。
「菊花賞6着。それがダービーウマ娘アドマイヤベガの、クラシック期最後の出走レースの結果だ。ンでここから本題だが、parcaeは今年になってから、なぜかアンタの着順を表示しなくなった。」
先に挙げた3つのレースにおいても、アドマイヤベガの順位は表示されず空欄のままだった。ソフトのエラーもデータの間違いも、特に異常は見られなかった。にも関わらず好走を見せるばかりか、ついにはテイエムオペラオーの無敗伝説を打ち砕く異常事態まで引き起こした。
「シニア期にアンタが出走したどのレースでも、最下位のいっこ下の欄に決まって『EMPTY』表記。つまりコイツはアンタを、本来シニア期にいねェヤツってことにしてる。だがアンタはこうして今でも走ってる。…だとしたら、だ。」
パソコンを閉じ一息ついてから、相手を真っ直ぐ見やる。
「アンタにそうなるほどの何かが起こった、としか考えられねェ。ターニングポイントは間違いなく菊花賞だ。そン時何をした? アンタに一体何があった?」
無意識に歩み寄っていたのだろう。向こうは黙って一歩うしろに退き、眼の前の空間を押すように左手の平をこちらに向けた。ハッとして立ち止まり、頭を落として息を整える。
(熱に浮かされてる? ……いやいや、らしくねェ。) - 3二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 09:32:15
悪ィ、と言おうとして向き直ると、アドマイヤベガはこちらを見ていなかった。どこか遠くを見ているような視線の先には、瞬き出した一番星があった。
「…シャカールさん。」
ふと名前を呼ばれる。目線は暗がりを見せ始めた空に向けられたままだ。
「そのパソコンの予想通りよ。私は本来なら、こうしてここにいなかった。菊花賞が終わったら、脚が動かなくなってたはずだから。」
思わず脚に目が行った。つまりコイツは一年以上、その不調を抱えて走っていたことになる。だが年が明けてからは、そんな様子は全く見られなかった。
「それが無くなったのも菊花賞で、か?」
「ええ。…あの子が、貰って行ってくれたから。」
眉間に皺が寄るのを感じた。第三者からの干渉があったのは確かだ。だが『あの子』に対する口調が、やけに優しさを帯びているのがひっかかった。
「シャカールさん。」
今度はこちらに向き直り、名前を呼ばれる。陽が沈み切ろうというのに、鳶色の瞳は煌々と輝いて見えた。
「私の運命は、あの子が…一緒に生まれてくるはずだった、私の妹が貰って行ってくれた。だからこうして、今も走ることができる。」
再び夜空へ視線は向けられる。どう考えてもロジックに欠ける答えだ。だが不思議と、それを口にするのが憚られた。
「私はただ、捧げるために走ってきた。自分のことなんてどうでもいい。走ることが出来なかったあの子に代わって、栄光と勝利を贈る。それが産まれてきてしまった自分の、贖罪だと思ってた。」
でもね、とこちらに送られる眼差しは、先ほどより柔らかいものになっていた。
「あの子はそんなのを求めてなかった。ただ私に、今を楽しんで生きて欲しかった。だから私は決めた。いつか会えたとき、あの子が誇れる姉になろうって。」
「…………そう、か。」
返す言葉が、思いつかなかった。 - 4二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 09:33:44
「……ごめんなさい、喋り過ぎたわ。」
「いや、こっちこそ突っかかって悪かった。」
「……ねえ。」
「ん?」
「次の出走レース、決まってるの?」
「あ~……大阪杯、それか春天。アンタは?」
「一応、大阪杯。春天は距離が長いから出ないつもり。」
「……あっそ。」
つまり早ければ半年もしないうちにかち合うことになる。実質未知数みたいなものだが、ある程度の策は立てられる。
「……ねえ。」
「あ?」
スタスタと距離を詰めると、何故か少しムッとした表情でこちらを見上げた。
「はぁ……少し屈んで。」
「はァ?」
「いいから、さあ。」
渋々言う通りにすると、ゆっくりと頭を撫でられた。温もりを帯びた手付きはとても慣れていて、浮かべた笑みも温かなものだった。
「競争相手に言う事じゃないけど、あまり根を詰めるんじゃないわよ。」
ひとしきり撫でると、それじゃ、と言って寮に入って行った。
「……お姉ちゃんってヤツは、あんなもンなのかな。」
結局望む答えは得られなかったが、胸の内は不思議と満たされていた。
誰に聞かれるでもない呟きは、白い吐息と共に溶けていった。 - 5二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 09:34:24
「…………」
ボサついた髪の感覚が残る手のひらを見ながら、自分の行動を思い返していた。
弟たち以外にしたことはなかったのに、なぜあの人に……
「……まあ、いいか。」
あの気難しそうなしかめっ面を頭の片隅に残しつつ、部屋へ足を運ぶ。
またレースで会えることに、密かな楽しみを覚えながら。 - 6二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 09:40:16
- 7二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 09:53:24
いいじゃん(いいじゃん)
- 8二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 09:59:37
やるじゃん(やるじゃん)
- 9二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 10:15:26
最高じゃん(最高じゃん)
- 10二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 10:44:44
- 11二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 16:53:39
なんか……いい(言語化できなくてすまん)
- 12二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 20:50:40