【※性格改変注意】チリ婦人、ヤブからアーボック【ssスレ】

  • 1二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 16:28:43
    ここだけ性格が真逆のsv|あにまん掲示板主人公以外のキャラクターの性格が真逆になっている世界真逆になるのは性格だけであって善悪も好き嫌いも職業も変わらない、また本編の流れも殆ど変わらないものとする個人的にグルーシャはスノボー版松岡修造になっ…bbs.animanch.com

    こちらの概念からインスピレーションをお借りして、他スレでssを書いていた者です。


    ssスレとして立て直しました。


    ↓私のスレ

    ここだけ性格や立ちふるまいが真逆のSV|あにまん掲示板このスレのファンで、ミスタービ○ンチリと長州カキツバタを書いた者です。勝手ながら派生させてもらいました。https://bbs.animanch.com/board/3001788/思いついた話が長そ…bbs.animanch.com

    あらためてここに習作を投稿させていただきますので、お暇で暇で仕方がない時にでもご笑読いただければ幸いです。


    ※元ネタのスレにもある通り、この軸ではキャラクターの性格が反転・変化、それにともない物語の細部が本編と変化している世界です。


    (大筋や結末などはだいたい同じ)

  • 2二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 16:37:23

    ※追記

    アオイ/ハルトの性格だけは変わりません。


    上げと保守がてら、今までに仕上がった部分のみ投下させてもらいます。


    以下の2つは、この軸の世界観を知るパイロット版だと思っていただければ……


    チリ婦人、ヤブからアーボック | Writening「へえ、なかなかやるじゃねえか」 「ネモこそ。ただの口が悪い引きこもりじゃなかったんだね」 「言うねえ。負けてから吠えづらかくんじゃねえぞ」 アカデミーの広場。即席のバトルコートでにらみ合うネモとアオ…writening.net

    チリ→ミスタービ○ン。精神年齢が9歳児


    ポピー→やや中身が黒くてませた口うるさい子供。


    アオキ→熱血で情にあつい。業務をサボったら承知しませんからね!


    ハッサク→クールな毒舌野郎。例えるなら、めちゃくちゃ皮肉っぽい本編アオキ


    オモダカ→よわよわ乙女。精神年齢が近いチリが大好き


    校長→ネルケスタイルがデフォ。24時間いかなる時も闘魂を燃やす男


    ジニア→マッドで狂気の科学者。

  • 3二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 16:42:30
    革命戦士カキツバタ(に振り回されるネリネ) | Writening「おぅ、ネリネじゃねぇかぁ!」 昼休みまえの廊下。後ろから声をかけられたネリネは、食堂に向かう歩みを止めて、直立不動でカキツバタに向き直った。 「お疲れ様です、先輩!」 「そんな、堅くならなくていい…writening.net

    カキツバタ→長○力


    ネリネ→活発でひたむきなアホの子


    アカマツ→知的な皮肉屋。料理はうまいがフライパン降るなら本を読む


    タロ→なれなれしいギャル


    スグリ→紫髪がデフォ。ガラと口は悪いが根は素直で物分りがいい

  • 4二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 16:49:24

    もし、致命的な矛盾(施設の立地や間取りが違う、学年や肩書きが明らかにおかしいぞなどなど)があれば、ぜひ教えていただけると助かります。

  • 5二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 16:52:51

    追ってた!!これすき保守

  • 6二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 16:56:37

    10まで保守できたら、part1投下します

  • 7二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 16:58:46

    連投はヒヤヒヤするなあ

  • 8二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 17:00:30

    待ってた

  • 9二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 17:01:56

  • 10二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 17:08:31

    保守!
    みなさんありがとう!

    パートごとに直投下ののち、ライトニング(↑のテレグラフもどき)でまとめたものを置いておきます。

    ところどころ改筆してますが、前スレで読んでくださった方々、の同じ内容の繰り返しになります。すみません。

  • 11二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 17:13:09

    (以下本編)

    「ほおぉ……( °o°)」

    「なんて、なんて神々しさなの……!」

    日が沈みかけた、てらす池のほとり。立て看板と丸い木の渡しの前には、1台のミニクーパーが停まっていた。

    「チリ……アナタからのお誘いには感謝しかありません……!」

    助手席で息をのむオモダカの言葉が、甲高く潤んでいく。

    「こんなに神秘的で、胸をうつ景色があったなんて……!」

    青い手袋の両手で覆われた口もとから涙声でふり絞るオモダカとは対照的に、

    ハンドルを握ったまま呆然と池を見つめていたチリの顔は、期待とともに、みるみる満面の笑みに変わった。

    まちがいない!ここには、ぜったいに例の神さまが住んでいる!

  • 12二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 17:15:09

    だんだんと黒く染まってきた茜いろの空。来たるべき夜の暗さにまぎれつつあるグリーンのミニクーパー。

    だが、夕焼けの中にキラキラと浮かびあがる池の水面は、せまりくる闇と反比例するかのように、七色の光をいっそう増している。

    絶景をおさめようと、構えたスマホで夢中になって連写しているオモダカを放置して、チリは愛車の運転席から踊りでた。

    そして、看板の前にアグラをかくと、

    地面に置き、留め具をパチンと解いたリュックの大きな口から、なにやらいそいそと掻きだし始めた。

    「チリ。お外は危ないので、景色を楽しみながら、中で一緒に食べませんか?

    ほらほら、実は作っておいたんですよ!

    じゃーん!チリの大好きなハムタマゴですよ〜♪」

    太い紙の包みを2本、背後で自慢げに取りだしたオモダカには目もくれず、チリは、リュックの中身を無言で並べていく。

  • 13二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 17:23:01

    太い紙の包みを2本、背後で自慢げに取りだしたオモダカには目もくれず、チリは、リュックの中身を無言で並べていく。

    それらの中には、確かにサンドイッチに使えそうな具材も含まれていた。
    しかし、大半を占めるのはキタカミ地方の名産品や、神事でつかうような清めの品物ばかりである。

    色とりどりのモチが数切れずつ、タッパーに入ったキタカミそば。ビニールに包まれたきのみあめ数本。
    そして、木の棒に和紙がたれ下がった大 麻(おおぬさ)に、小さな瓶に入った塩……

    「チ、チリ?」

    無視されたオモダカは、怒り悲しむよりも戸惑って、チリの後ろに立ちつくした。

    いつものこの子なら、目をきらめかせて抱きついてくるのに。

    まるで蔵から取りだした宝を鎮座させるように、おごそかなメリハリのある手つきで全ての品を目の前に置き終えたチリは、

    ビンから出した塩を手のひらに広げ、自分のまわりを取り囲むようにサラサラとまいた。

    「なんだか、ジョウト地方の映像で見た儀式と似てますね……」

    「( - "-)」シャッ

    そして、大げさに顔をしかめること数秒。
    オモダカと色違いの、黒い両手袋につかまれた大/麻の棒が、竹刀よろしくチリの眉間に構えられた。

    「も、もしかして……」

    チリに構えられた大/麻が、サラリ、サラリと彼女の眉間を往復しはじめた。

    「( ´△`) アァ- マンカメンカ チンカ チンカ ウー」

  • 14二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 17:23:58

    連投規制よけにかきこ

  • 15二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 17:24:22

    「これは、祈祷ですか!」

    チリの口から放たれる、聞いているだけで気が抜けてしまいそうな、いかがわしさに満ちみちた呪詛。

    「( ´△`) アリソーデ ウッフン」

    「そういえば、アカデミーのレホール先生から聞いた覚えがあります……」

    チリが生まれ育った(らしい)ジョウト地方では、昔から神仏が信仰されている。

    ひと口に神仏といっても、目には見えない「運命」のような存在。

    悪行を重ねたり、他人のテリトリーを無断で冒涜しようものなら、「運命」はその者に神罰を与える。

    「( ´△`) ナサソーデ ウッフン」

    ゆえに、ジョウト地方では、あらゆる場面で祈祷や読経を行うのが習慣となっているらしい。

    古い建物を取りこわす際や、神聖な場所に足をふみ入れる際には、必ずと言っていいほど。

    よこしまな心や敵意が無いことを天に示すためだ。

    「( ´∀`) ホラホーラ キイロイ クラボノミ〜♪」

    「この子は、なんと信心深いのでしょう!」

  • 16二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 17:25:42

    わたくしたちは、よそ者。キタカミの神聖なる水源、大いなる命の源へ、足を踏みこませて「いただいている」のだ。

    「分かりました!キタカミの神様仏様!チリとわたくしを、なにとぞ……!」

    チリの真横にひざまずいたオモダカは、両手をあげ、土下座の上下運動をはじめた。目に見えない「神」に許しをこうために。

    そして、それにつられて正座になったチリも、おおげさに土下座を繰り返した。

    心がこもった自己流のお祈りで、なんでも願いをかなえてくれるらしい「神」を呼び寄せるために。

    すっかり暗くなった池の入り口に、スタイルだけは抜群な二人の影が、しなやかに踊った。

  • 17二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 17:27:40

    「きっとキタカミの屋台にいますわ!それか、高い山の上!」

    「いえいえ!飽きてパルデアに帰ったのかも……」

    ブルーベリー学園のリーグ部では、くっつけられた白いテーブルの上に、各地方の地図が広げられていた。

    「フン。夕方の講義が終わってから、この短時間で何ができるのですか?

    あの2人が自力で切符など買えるワケがありませんよ。どうせ、学園のあちこちをウロウロと……」

    地図を囲みながら思い思いに唸るパルデアの四天王たち。

    「どこでもいいが、さっさと見つけだしてもらえないか?」

    チリとオモダカが、とつぜん校舎から消えた。

    散々な内容だった講義について叱りつけようと、ブライアが彼女たちの寮を訪れた時には、すでにもぬけの殻だった。

    学園やアオイへ断りがない限り、敷地から出てはならないとブライアが厳命していたにも関わらず。

    「パルデアの人間は、そんなに時間の浪費が好きなのかな?」

    「い、いえ、あの2人は特別っていうか……」

    ブライアの辛辣な言葉に、ワタワタと手を振ったポピー。

    あの素っとん狂なコンビが、パルデアの総意と思われてはかなわない。

  • 18二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 17:31:53

    改行は30行までだから改行減らすと1レスで書き込める量増えるぞ
    書き方はスレ主の好みによるから任せるけど

  • 19二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 17:32:15

    「チリさんやオモダカさんと話をしたいという人間がたくさんいてね。

    不在の理由を何度も聞かれるのが鬱陶しくてたまらないんだよ」

    「ですから、このように策を打っている最中ではありませんか。

    うらやましいですね。あなたの周りには優秀なトレーナーしか、いらっしゃらないようで」

    しか、と強調して、ブライアの愚痴に皮肉で返したハッサク。

    少し前に起きた「カキツバタの滑舌騒動」を明らかに知っている。

    「おたくらのアホさを知って小生が笑い転げたように、アナタも彼女たちの本性を知らないでしょう?」

    部外者は口を挟むな、というハッサク流のメッセージ。

    「なんだと。万が一ワタシの庭で何かあったなら、いったい誰が責任をとるのだろうな!」

    一触即発になった両者の間へ、アオキが精一杯の営業スマイルで「まあまあ」と割りこんだ。

    「フン。首に鈴でも付けておくがいい」

    捨て台詞とともに部室を出ていったブライアの背中に向かって、

    ポピーとハッサクが、手の甲を向けて同時にピースサインを作った。

  • 20二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 17:40:24

    「ともかく、行きそうな場所が多すぎて手がかりがつかめませんね……」

    ため息をついたアオキが、話を本題に戻した。

    「……そういえば」

    ハッサクとともに腕を組んでいたポピーが、ハッと瞳を見開いた。

    「先日まで講師でいらしていたレホール先生のウンチクを、2人で熱心に聞いていましたわ」

    レホールには、通りかかる人間を片っぱしからつかまえては、即席の授業を開くクセがある。
    ここのホワイトボードを背に、人差し指をピンと立てたレホール。彼女から朗らかに語られる雑学の数々に、チリとオモダカは夢中になって聞き入っていた。その中でも、2人が特に歓喜していた内容がある。

    「……そう、てらす池!」

    『池の光を見ていると、不思議な事が起きるそうよ!』

    『聞いているだけで素敵……一度は見に行きたいものです』

    うっとりと微笑むオモダカの横顔を見やったチリは、花が咲いた笑みでこう解釈した。

    『とんでもねぇ神様が住んでいて、何でもお願いごとをかなえてくれるんだ!』

    「たぶん間違いありません!お2人はキタカミにいます!」

    「そうですか!ポピーさんが言うなら行ってみる価値はありそうですね!」

    「無駄足にならなければいいですがね。あの生活主任の顔を見るよりは100倍マシでしょうが」

    部室を飛び出したポピーにつられ、アオキとハッサクも後に続く。

  • 21二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 17:42:59

    >>18(ありがとうございます!)

  • 22二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 17:52:15

    指先で肩に突っかけたスーツを走ったまま羽織りながら、アオキはボソボソと祈った。

    「(*`・ω・´) オン キリキリ ハッタハッタ」
    チリの呪詛にあわせて、オモダカの上体がひれ伏しては起き上がる。2人がのエクササイズは夜がふけた今も続いていた。

    「ハァハァ、チリ、そろそろ、良いのでは?」
    「(*`・ω・´) ハーメタヤ ハメタハメタ」
    「そ、そろそろ、お腹が空きました……もうダメ……」
    ドテッと横に倒れたオモダカに合わせて、正座をといたチリも、後ろ手になって尻もちをついた。

    「きっと、神様もお許しになっていますよ。さあチリ、車に戻りましょう」

    しょんぼりと下を向くチリ。彼女の腕をとって立ち上がったオモダカの耳に、こちらへ向かってくるライドポケモンの足音が聞こえた。

    「やっぱりここにいたんですのね!」
    どうどう、と、モトトカゲをいなすアオキの背中から顔をのぞかせたマトリョーシカが叫んだ。

    「よかった。毎度の事ながら、ポピーさんの勘はつばめがえしのように当たりますね!」

    「ポ、ポピー!皆さんも!何故ここが……」
    「なぜ?じゃありませんわ!生活主任がカンカンなんですのよ!」

    「はぁ。またチリさんの奇行に巻き込まれたのでしょうが、甘やかすのもほどほどになさい!」

    「全くです。あの女に小生たちまで八つ当たりされてはかないませんよ」
    「面目、ありません……」

    眉をへの字に寄せてしおれたオモダカとともに、チリもうなだれている。もっとも、彼女とちがう理由からだが。

    「まあ、お説教はブライアさんに任せるとして、早く学園に帰りましょうか」

  • 23二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 18:05:55

    地面に広げた供えものが、落ちこんだチリの手で重々しくリュックにおさめられて行く。
    「大丈夫ですよ。すごく嬉しかったです。キチンと許しをもらったら、また来ましょうね」

    しゃがんだチリの頭を撫でるオモダカの右手。全く。人が良すぎるだけのトップはともかくチリ(さん)がしっかりしていればなあ……
    3人が同じタイミングで憂いた瞬間。池の水面から、湯立つような霧が上がりはじめた。

    「こ、これは一体?」
    「モトトカゲ!大丈夫!落ち着きなさい!」
    あっという間に一面を霧に囲まれ、いつもは怜悧なハッサクもたじろいだ。アオキとハッサクを乗せたモトトカゲたちは、パニックを起こして暴れている。

    「前が見えませんわ!これじゃ進めません!」
    外した帽子で周りをあおぐポピー。しかし、ますます濃くなる蒸気を防ぐ事はできない。
    「アワワワワ!!」
    「なんや、この煙!なあ、ポピー!アオキさん!ハッサクさん!総大将!」
    「その声はチリ!チリ、わたくしはここです!さあ、この腕を掴みなさい!」
    虚空にむかって差し出されたオモダカの両手を、チリの右手と右手が握った。
    「ああ、よかった!これで迷子にならずにすみそうですね!」
    「(*^^*) センキュー♪」
    「ふう、助かりましたわ。総大将でもテンパるんですね。滅多に聞かれへん慌てっぷりで、正直おもろかったですわ」

    立ちこめていた霧が、じっくりと晴れていく。白一色の景色が、ふたたび夜のてらす池に戻った。
    「ひととおり調査は終わったけど、今の霧ブライアさんに報告……おん?みんな、どしたん?」

    「チ、チ、チ、」
    「「「チリ(さん)が2人!?」」」
    「( ゚д゚)what?」
    「ほーん……ん?」
    3人の叫びは、文法が明らかにおかしい。
    「ナ、ナイストゥ、ミーチュウ……」
    放心したまま、チリは目の前のチリと握手をした。くたびれたカッターシャツ、黒いタイ、伸ばし放題の後ろ髪、リーグの紋章いりの手袋。何から何まで瓜二つ。

  • 24二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 18:09:57

    「な、な、な、なんやねん自分!?」
    わずかな違いを上げるなら、もう1人のチリはハキハキとコガネ訛りで話し、こちらのチリに比べると幾分か聡明そうな物腰であった事。2人のチリのやりとりに、クッキリとした瞳をひときわ見開いたオモダカは、直立不動で絶句したまま倒れた。

    『ドッペルゲンガーだと?ハッ、ワタシの叱責から逃れようと、バカげたウソをついても……』
    「バカげたウソと一蹴するには、非常にバカげた事態なんですがね」

    パルデアにある空港の待ち合いスペース。3人の四天王と意識を取り戻したオモダカ、2人のチリは、真夜中の空の旅でイッシュに戻るはめになった。それも、パルデアを一度介してから。
    初めは、空飛ぶタクシーで学園に各々もどる手はずだった。しかし、こちら側のチリが愛車をキタカミに放置するのを頑なに拒んだため、結局そろって飛行機に乗ることになり、さらにはミニを空輸するための手続きもろもろに時間を食われてしまい、こうしてパルデア発イッシュ行きの夜行便を待っている頃には、すでに時刻はミルタンクの刻を1時間も超えていた。
    夜明けが近い無人のターミナルには、ハッサクの抑揚がないテノールと、通話相手のくぐもった怒声が響いている。

    『ドッペルゲンガーだの、生き別れの姉妹じゃないかだの、そんなもの我が祖先が遺したタワ言と同じ、血迷ったオカルトだ!』
    「ああ、もういいもういい。間もなく、そちら行きの飛行機が来ますから。たかがアナタ1人を黙らせるために、交通費が高くついたものです……で、切れたと。まったく。見なきゃ納得しないのはおバカさんの証ですね」

    コガネ訛りのチリが道中うすうすと感じていた違和感は、いまでは確信に変わっていた。池に現れたコガネチリを迎えたパルデア一行は、自分を見下ろす2人の赤い目に意識を再び失いかけたオモダカを乗せ、ミニの車内ですし詰めになりながら、まずは、キタカミの空港を目指した。移動する時のクセでだき抱え、膝元に乗せたポピーから、「もう、ポピーはお子さまじゃありませんのよ!」という、いつもと変わらない抗議を浴びて苦笑いしたコガネチリは、目を限界まで見ひらいて運転にいそしむ、もう1人の自分いがいの面々から、素性について質問責めにあった。

  • 25二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 18:13:03

    「な、な、な、なんやねん自分!?」
    わずかな違いを上げるなら、もう1人のチリはハキハキとコガネ訛りで話し、こちらのチリに比べると幾分か聡明そうな物腰であった事。2人のチリのやりとりに、クッキリとした瞳をひときわ見開いたオモダカは、直立不動で絶句したまま倒れた。

    『ドッペルゲンガーだと?ハッ、ワタシの叱責から逃れようと、バカげたウソをついても……』
    「バカげたウソと一蹴するには、非常にバカげた事態なんですがね」

    パルデアにある空港の待ち合いスペース。3人の四天王と意識を取り戻したオモダカ、2人のチリは、真夜中の空の旅でイッシュに戻るはめになった。それも、パルデアを一度介してから。

    初めは、空飛ぶタクシーで学園に各々もどる手はずだった。しかし、こちら側のチリが愛車をキタカミに放置するのを頑なに拒んだため、結局そろって飛行機に乗ることになり、さらにはミニを空輸するための手続きもろもろに時間を食われてしまい、こうしてパルデア発イッシュ行きの夜行便を待っている頃には、すでに時刻はミルタンクの刻を1時間も超えていた。

    夜明けが近い無人のターミナルには、ハッサクの抑揚がないテノールと、通話相手のくぐもった怒声が響いている。

    『ドッペルゲンガーだの、生き別れの姉妹じゃないかだの、そんなもの我が祖先が遺したタワ言と同じ、血迷ったオカルトだ!』
    「ああ、もういいもういい。間もなく、そちら行きの飛行機が来ますから。たかがアナタ1人を黙らせるために、交通費が高くついたものです……で、切れたと。まったく。見なきゃ納得しないのはおバカさんの証ですね」

    コガネ訛りのチリが道中うすうすと感じていた違和感は、いまでは確信に変わっていた。

    池に現れたコガネチリを迎えたパルデア一行は、自分を見下ろす2人の赤い目に意識を再び失いかけたオモダカを乗せ、ミニの車内ですし詰めになりながら、まずは、キタカミの空港を目指した。移動する時のクセでだき抱え、膝元に乗せたポピーから、「もう、ポピーはお子さまじゃありませんのよ!」という、いつもと変わらない抗議を浴びて苦笑いしたコガネチリは、目を限界まで見開いて運転にいそしむ、もう1人の自分いがいの面々から素性について質問責めにあった。

    (え?これ、ドッキリか何か?)

  • 26二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 18:21:40

    この小じゃれた車を運転しとる、目の前のもう1人のチリちゃん。実はファンの1人で、チリちゃんのべっぴんなコスプレが趣味の一般人とかかいな?さまざまな邪推をしながら、コガネチリは正直に答えた。
    パルデア四天王の露払いこと1番手。かつチャレンジャーを試す面接官。
    「おん?代理で、ポピーが?なっははは! 自分ら冗談うまいなあ!こんなやりがいのある役目、誰にも譲る気はあらへんよ!」
    切り札はドオーで、テラスタイプはじめん。
    「愛車?そんなもん持ってへんけど?そこらへんでゲットしたモトトカゲと、じめんに着く足さえあれば十分やろ!」などなど。

    「あのー、もう1人のチリさん?」
    「なんなん、もう1人って?それに、さっきからずーっとオズオズして。アオキさんらしくないなあ!ドッキリなら、とっくに気がついと……」
    「これはドッキリや悪ふざけのたぐいではありません!」

    助手席に乗ったアオキから、叫びに近い制止がとんだ。おそらく一生見る事はないと思っていた、キッと引きしまったアオキの精悍な顔つきがコガネチリを睨みつけた。肩をギョッとすくめた彼女にとって、ここから先、事件が解決するまでの全てが、正反対の繰り返しだった。

    「アナタの話が本当ならば、ところどころではありますが、自分たちの知るチリさんと完璧に符号します」
    運転手に「こっちです」とナビゲートしながら、目をパチクリさせているコガネチリへと、粛々と告げたアオキ。たしかに、チリが四天王の1番手かつ面接官なのは同じだ。しかし、とてもではないが役目を全うしているとは言えない。

    「小生が一言で例えるなら、アナキズムの権化ですかね」
    幼児かと疑うほどマイペースで、自分が納得いかない物事には頑なに従わない。空港で同僚たちを悩ませる事になる、この車へのこだわりが、まさにそれだ。面接という名のチャレンジャーとのおままごと(文字通りの)も、業を煮やしたポピーが割りこみ、チリに成りかわって務めるのがお約束。
    彼女がリーグに入れたのは、たまたま目の前で倒れたリーグ職員の命を、野生のパモの尻に根元をつないだジャンプケーブルで助け、オモダカに大いに気に入られたから。
    そして、なぜか勝負だけは異様に強い理由は、彼女の手持ちたちが、なんの指示も出さない(だせない)主人のために、みずから頭脳をフル回転させて死にものぐるいで動くからである。

  • 27二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 18:31:10

    「なんでやねん!」
    「ふざけすぎやろ!」
    「チリちゃん、そこまでアホちゃうわ!」
    コガネチリは、もう1人の自分の経歴を聞かされる間だけで、すでに50回はツッコんだ。

    「たまたま出くわしたコインランドリーでコップ入りの洗剤を飲み干した時には、この方は正気ではないと確信しました……」

    「小生のアトリエに無断で入り、サンドイッチの具材で絵を作ったせいで、無数のベトベターを部屋にたからせた時はどうしてやろうかと……」

    「この間だって、アカデミーの実験室を吹き飛ばしましたわ。ジニアさんに殺されるかと……」

    「アハハハ!……でも、そんなチリが、わたくしはどうしても憎めないのです。見た目は美人さんなのに、中身は9歳児みたいに可愛くて。今回だってきっと、わたくしを喜ばせたい一心で……」

    そして会話が進むにつれ、コガネチリはさらなる違和感に襲われた。

    「あの。みんな、なんかこう微妙に違わへん……?」
    まず、彼女が知るハッサクはこんなにクールで無口ではない。おまけに教職にあるまじき口の悪さ。
    「これじゃまるで、めちゃくちゃ機嫌わるくしたアオキさんみたいやん」
    しかし、コガネチリを困らせる昼行灯など何処にもおらず、当のアオキは「もう1人のチリさん……テラスタル……もしや、あの方なら何かお分かりになるかも……」などと慇懃な口ぶりで独りごちながら、ドラゴンつかいを思わせる目力でフロントガラスを凝視している。
    「でも、今のアオキさんなら、大声も出してくれるし仕事サボることもあらへんかもしれんな……」
    それにポピー。言葉遣いが完璧で、所作もしなやか。大人たちと対等に私語を交わしている姿は、守られる児童というより、さながら保護者のように見える。
    「いつの間におぼえたん?やるなあ!」と何度もことわざの問題を出したコガネチリが、「もう1人のチリさん、大人気ないですわね」と言われて本気で凹むのは、もう少し後の事である。
    「だいたい、ポピーがチリちゃんを『さん』付けってないわ!」
    おまけにトップ。この人は業務用のスマイルではない、心からの喜怒哀楽などめったに見せない。それが、この移動中だけで表情を何回かえた事だろう。(作り話としか思えない)自分の架空の経歴を聞くたびに。「ブライア先生になんと説明すれば……」としょげ返り、運転席から伸びた手で頭をなでられるたびに。

  • 28二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 18:33:10

    「だいたい、今のトップとかアオキさんこそ、ハッサクさんの役目ちゃうんか?」
    そもそもコガネチリは、ハルトが遭遇したという不思議な現象を調査するために池を訪れていた。

    「5人まとめて霧に包まれた時からや。みんなの様子がおかしくなったんは」
    「ポピーたちも一緒ですの。チリさんが分裂したのは霧に包まれた後……」

    「チリはアメーバか何かなのですかね」
    「ハッサクさん、アホ言わんといて!あと、チリちゃん的に一番ワケわからんのは……」
    後列の真ん中から、コガネ弁でジトッと見つめられる、運転席の後ろ姿。

    「自分、ホンマ何者やねん……?」
    「チリ」
    「ちゃう!ホンマの名前教えてーな!」
    「チリ、チリ !! it's true !!」
    「だあー、もう!!」
    らちがあかない。コガネチリは、考えるのを諦めて憮然とだまった。
    学園を勝手に抜け出した他の面々とは違い、この日の彼女は働きづめだった。通常どおりのリーグの業務にくわえて、キタカミヘ飛んで池の調査、そして謎の霧……黙っているうちに、疲労と心労がまぶたにのしかかったコガネチリは、ウトウトと目を閉じ、ハッサクとともに自分をサンドイッチしているオモダカにもたれかかって、細い寝息をたて出した。

    「おやすみなさい、チリ」という、トップの慈母を思わせるささやきを、片耳に浴びて。

  • 29二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 18:39:42

    Part1は以上です。私用をすませ休憩してから、part2の出来上がった部分まで載せます。

    ↓ライトニングまとめ

    チリとチリちゃん part 1 | Writening「ほおぉ……」 「なんて、なんて神々しさなの……!」 日が沈みかけた、てらす池のほとり。立て看板と丸い木の渡しの前には、1台のミニクーパーが停まっていた。 「チリ……アナタからのお誘いには感謝しかありません…writening.net

    こうして直で投下していると自文の「、」の多さに驚きました。


    連投規制回避>>14さん

    コツを教えてくださった>>18さんありがとうございます!

  • 30二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 18:41:55

    ※追記

    ブライア→99%ツン、1%デレ。スパルタ指導者でオカルトのたぐいを嫌う、先祖を恥じる鉄の女

  • 31二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 20:08:50

    主です。戻りました!part2投下します。
    読みにくいなどあれば仰ってください。

  • 32二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 20:10:09

    ちなみにpart2は未完ですので、仕上がったところまで置いてときます

  • 33二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 20:13:56

    夜明けとともに戻ってきたパルデア四天王、そして2人のチリが、エントランスに続く長い橋の上で待ちかまえていたブライアを驚きのあまり卒倒させた7時間後。

    「なはは……その飲み方、ユニークやね」
    「クッククク……アッハハハ!!」
    「……もう、このさい他人のフリをいたしましょうかね……」
    「もう1人のチ……ドッペル婦人。相手が自分?だからって遠慮は無用です!」
    「アオキさんの言う通り!こんなトラブル製造機、甘やかしちゃいけませんわ!」
    (ちゃうねん。ツッコむ気力もないだけや)

    おのおの睡眠をとった6人は食堂で落ち合い、遅めのランチをとっていた。こちらのチリの部屋で添い寝するのは何とも不気味だったコガネチリにとって、疲労と心労が優先して思いのほか早く寝つけたのは幸いだった。
    こちらのチリと真向かいで席についたコガネチリが驚いたのは、オモダカから渡されたメニューの内容――緑黄色たっぷりマルゲリータに、キハダ教授監修・10種のきのみスムージー、ビタミンB豊富な雑穀ライスつき天そば定食……
    「あのカロリーおばけどもは、どこ行ったんや」
    どれもこれも、写真から美味しさと匂いが伝わってくるような、栄養バランス満点の品々。アオキは絶賛しコガネチリは辟易していた、あのケミカルと炭水化物と茶色にまみれたカロリーの塊が影も形もないではないか。

    「……?あなた、ここのメニューでカロリー過多だと言うなら……まさか、地元の尼僧でも目指しているのですか?」
    「いや、そういうわけやなし……」

    ハッサクのジョークをいなす余裕がないほど、コガネチリは、つぎつぎ襲いくる矛盾に困惑していた。まず、メニューの右下で指示棒をかざす白衣の女性――ハルトの話では、おそらくアカデミーのキハダという教師。そのアカデミックで冷徹ささえ覚える、メガネをかけた真顔は、額のキズなど人相こそ一致するが、ハルトから聞いたとおりの明るく熱血な人物とは思えなかった。

    「もう1人のチ……ミス・ゲンガー。ご飯はどれになさいます?どれもホッペタが落ちますよ!」
    オモダカの、年ごろの少女のような満開の笑顔に、「マ、マルゲリータ……」と力なく答えたコガネチリは、厨房がわの最後列に目線をくばった。

    後頭部を刈りあげた、赤い髪の少年。あの子は、たしかアカマツ。

  • 34二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 20:25:50

    このレスは削除されています

  • 35二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 20:30:49

    いつだったか彼の勝負を観戦した時、そのルックスに違わない初々しい熱さに思わず顔がほころんだのを思い出す。
    が、そんなアカマツが別人のごとく鋭く目をほそめ「ソクラテス」と書かれた表紙を広げている。それも、片思いを告げられずに悶々としているらしいとハルトから伝え聞いたタロを背後にはべらせながら。

    「そう、真逆なんよ!何もかもアベコベや!」
    弾かれたように立ち上がったコガネチリ。食堂中が、いっせいに彼女を見た。ポーカーフェイスで本を机においたアカマツらしき少年も。
    彼に抱きつくタロや、その背後のジャーからおびただしい量の白米を茶碗によそっているネリネらしき少女も。

    「落ち着きなさいミス・ドッペルゲンガー。酷な言い方でしょうが、小生たちからすれば、アナタこそアホチリを騙っている物好きなファンではないのかと疑わしいのですよ……今のところ100パーセントではありませんですけどね」

    入口から拝借した新聞に目を通しているハッサクの、珍しい前置きとフォローありの正論。ふー、ふー、と息をついたコガネチリは、しおらしく腰を下ろした。静まり返っていた食堂に喧騒が戻っていく。

    いらぬ混乱を招くでしょうから、とパルデア空港のお土産コーナーでアオキから買いあたえられ、ブライアを気絶させてから羽織ったドオー柄のポンチョが功を奏したようだ。

    「自分ホンマに誰なん……?ここ、どこやねん……!」
    「チリ !ブルーベリー!イッシュ♪(*´▽`*)」
    「はぁー……おんなじ見た目で気の抜ける話し方せんどいて……」
    「まあまあ、ともかく。ランチの後にお会いする偉大な方が、立ちどころに謎を解き明かしてくれますよ!」
    「偉大な方……まさか、博士!」
    喜色満面に華やいだオモダカに、アオキが力強くコクリ、とうなずいた。

    「ささ、今は何もかんがえず、絶品メニューに舌鼓をうちましょう!ね!」
    机にうずくまるコガネチリをアオキが励ましたのと同時に、1人分ずつのマルゲリータが2人のチリに運ばれてきた。
    「おかまいなく。お先にどうぞ!」
    アオキの闊達な社交辞令に、こちらのチリは(*´罒`*)シシシシと嬉しそうだ。

    「う、うまそう……」
    「うまそう。ではなく、うまいんです!ここのシェフたちはパルデアなら全員五つ星ですわ!」

  • 36二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 20:33:30

    「オオゥ!!」
    と、右の人差し指を立てたこちらのチリが、おもむろに席を立つなり、厨房カウンターのカゴからコーヒー粉の小袋と使い切りのミルクを2つずつ鷲づかみ、横の銀のケトルを1本持ってきた。

    「お、おおきに。チリちゃんもコーヒーは好きやで。せやけどブラックはよう飲まんねん」
    いちおう、容貌だけでなく味覚に関しても一致はしているようだ。

    「いただきます……」
    「(-ω-)人」

    同時に合掌したチリたちは、とろけるチーズの糸を同じ速度で引かせながら、同時に1切れ口にふくんだ。

    「う、うんまぁ……」
    「ホオォウ…(*´﹃`)」

    だが、リアクションは真反対だ。オペラの三文役者よろしくゆったりと首を振りつつ、肩の高さで両手を広げて嘆息するこちらのチリ。

    「今まで食ったピザの中でいっちゃん美味い……!具材とソース、あとモッチモチの生地とのコンビネーションが最高や……」
    と、かじったマルゲリータの断面を見つめながら食レポするコガネチリ。

    「なんだか双子みたいですね」
    青い手袋の指ごしに、ふやけた唇がクス、と笑った。

    2人のチリがマルゲリータ、アオキが天そば定食、ポピーとハッサクがガラル風カレーライスとスムージー、オモダカがシチューとサラダを平らげ、それぞれの食器が下げられたころ。
    パルデア勢の机上には、チリ同士の手もとに置かれた、インスタントコーヒーの一式のみが残された。

    「カフィ♪カフィ♪」
    食後の1杯に、両手をスリスリ喜ぶこちらのチリ。

  • 37二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 20:34:19

    頭の中でパンパンにつかえるツッコミ所の嵐に対処しきれきず、コガネチリの唇は、陸に上がったコイキングばりにパクパクするしかなかった。


    「(((*> 3 <)))」ブルブルブル


    定位置に戻された頭が、音速で横に振られる。


    こちらのチリは、口内のモノを4、5秒ほどシェイクしたのち、ゴクリと飲み込んだ。


    「(*^^*)ヤミー」


    「ククッ……ヒヒヒッ」


    忍び笑いとともに、キラーメのようなオモダカの髪が、机に突っ伏した。


    「な、な、な」


    目にした一部始終のアホさに脳がマヒしたコガネチリは、苦笑いで呟くことしかできない。


    「なはは……その飲み方、ユニークやね」


    「クッククク……アハハハ!!」


    お腹を押さえたオモダカの大笑いに、食堂中が再度ふりむいた。

  • 38二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 20:37:02

    1です。ここからは推敲&執筆中です。
    書き上がりしだい投下していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。100人に1人でも楽しんでもらえたら嬉しいです。

  • 39二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 22:59:23

    改めて読んでもカオス
    逆に反転チリが本編世界行ったらとんでもないことになってたんだろうな…

  • 40二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 23:51:14

    >>39

    たぶんポピーが真似しようとして、チリ婦人がやらかした出来事にハッサクは倒れてオモダカは真顔でフリーズしちゃうかも笑


    あっ。抜けてた!

    36と37の間、チリ婦人は粉とミルクと砂糖、そしてお湯を流し込みコーヒーを口の中でで作ってます

  • 41二次元好きの匿名さん24/03/03(日) 23:56:46

    >>36>>37の間です。申し訳ない


    「みなさん、すんません。この子とおんなしで、チリちゃんも食後の1杯が楽しみなんですわ」

    「どうぞどうぞ、おかまいなく。

    ……ただし、チリさん。いつもの飲み方だけは、ドッペル婦人にくれぐれもお見せしないよう」


    「お、おん?」

    「止めてもムダですよアオキ。彼女の嗜みかたは、ある種の習慣みたいなものですから。依存性の病と一緒なのです」


    「え?……あっ。なぁ自分。カップは?」

    チリたちの手もとには、熱いドリンクをすするのに不可欠な物が足りていない。

    「紙でもええから、どっかにあらへんの?」


    キョロキョロと見回すコガネチリを意に介さず、こちらのチリは、優雅な面もちでつまんだコーヒー粉の袋をピーッと裂いた。


    「♪(´ε` )」

    「ああもう、しゃあないなあ。チリちゃんが持ってきたるから……ちょちょちょ!何やっとるん!?」


    こちらのチリは、袋をかたむけてコーヒー粉を流し入れた。上を向き、うがいの要領で「アー」と開かれた口の中に、サラサラと。薬のように。


    「は……は?」


    こちらのチリの顔芸に勝るとも劣らない、コガネチリの唖然とした表情。


    彼女がワナワナとたじろぐ間に、こちらのチリの口の中には、ミルク、スティック入りの砂糖の順に、流れる手つきで放り込まれていく。

    そして仕上げに、持ち上げられたケトルの湯が、天井を向いている顔面コーヒーカップの中になみなみと注がれた。


    「あ……あ……」


    アホか!熱くないんか!自分の口ん中は台所のシンクか!即席って、そういう意味ちゃうやろ!

  • 42二次元好きの匿名さん24/03/04(月) 00:13:45

    なげえよって書こうと思ったらマジで普通に面白い

    ヲチってるから頑張れー

  • 43二次元好きの匿名さん24/03/04(月) 00:54:08

  • 44二次元好きの匿名さん24/03/04(月) 00:59:13

    >>42

    ありがとうございます!励みになります!


    >>40書いて生ぬるく思えてきました……元ネタの豆さんは、乗車の列に割り込んできた目の前の盲人をバスの音真似で路上に飛びださせた男ですから……

  • 45二次元好きの匿名さん24/03/04(月) 10:04:43

    元ネタうっすらしか知らないけどおもろい

  • 46二次元好きの匿名さん24/03/04(月) 10:22:55

    戦車で車潰される話は笑った記憶ある

  • 47二次元好きの匿名さん24/03/04(月) 17:24:08

    >>41

    頭の中でパンパンにつかえるツッコミ所の嵐に対処しきれきず、コガネチリの唇は、陸に上がったコイキングばりにパクパクするしかなかった。


    「(((*> 3 <)))」ブルブルブル

    定位置に戻された頭が、音速で横に振られる。


    こちらのチリは、口内のモノを4、5秒ほどシェイクしたのち、ゴクリと飲み込んだ。


    「(*^^*)ヤミー」

    「ククッ……ヒヒヒッ」

    忍び笑いとともに、キラーメのようなオモダカの髪が、机に突っ伏した。


    「な、な、な」

    目にした一部始終のアホさに脳がマヒしたコガネチリは、苦笑いで呟くことしかできない。

    「なはは……その飲み方、ユニークやね」


    「クッククク……アハハハ!!」

    お腹を押さえたオモダカの大笑いに、食堂中が再度ふりむいた。

  • 48二次元好きの匿名さん24/03/04(月) 17:31:03

    「フトゥー博士!その節はお世話に……」
    「これはこれはオモダカ嬢!それに四天王の歴々も!」

    ランチを終えた一行は、昨日と同じくリーグ部へと直行した。
    アオキからの依頼で急きょ駆けつけた、パルデアでも指折りの科学者・発明家にしてエキセントリックな変わり者でもあり、そして、こちらのパルデアを襲った大事件の終結に大きく貢献した男と会うために。

    「申し訳ありません。わたくしたちの方が出迎えなければならないのに……」
    「いやいや気にしなさんな。それほど待っておらんよ!」

    パルデア一行が入ると、ホワイトボードの前に立ったフトゥー博士が、よく通る声で6人に笑いかけた。
    「それに、キミたちが来るまでの間、こちらのブライア嬢や部長くんと実りある議論ができた事だし!」

    2つの机が連結された席には、赤いクーラーボックスをはさんで、ブライアとスグリが対面で座っている。
    「ヤバい奴だって思ってたけど、意外とマトモなおっさんじゃん。難しい言葉が多すぎて話の内容はこれっぽっちも分かんなかったけどさ。な、せんせ?」
    「どこが『マトモ』なんだい?」
    苦々しく頬づえをついたブライアが、スグリに異を唱えた。

    「ソース顔のイカれドクから、部室に押しかけられるなり時間だの宇宙だの……30分近くも世迷い言をまくしたてられた苦痛が、パルデアの遅刻魔どもに分かるのかな?」

    「なに……?いいかねッ!ブライア嬢!!」
    博士の背後にあるホワイトボードが、全身タイツの左手でしたたかに叩かれた。ブライアとスグリ、そしてドオー柄ポンチョの肩がビクン!と跳ねた。
    「さっきから散々言ってるだろう!アオキくんから連絡がきた今回の騒ぎは!アナタがこき下ろすオカルトや世迷い言では断じてないッ!!」

    あちゃー、と眉間を人差し指でおさえたアオキとポピー。ブライアの不用意な一言がフトゥー博士に火をつけたようだ。

    「七不思議のたぐいではなく、宇宙の真理。時の流れ!むしろ、アナタが最も舌を舐めずりそうな理路整然とした!そう、サイエンスに等しいのだ!!」
    「わ、わかった。悪かったから落ち着きなさい……」

    目をギラギラ血走らせた彫りのふかい顔を目の前まで詰められては、さしものブライアも怖気づくしかなかった。
    「それを今から立証してやる! 反証があるなら後で聞く!さあ、パルデアの歴々も席につくんだ!」

  • 49二次元好きの匿名さん24/03/04(月) 17:34:37

    「スグリくんと言ったか?せっかくだ!ヒマならキミも聴いていきたまえ!」

    ホワイトボードと向き合った博士が、所在なさげに渋々と席を立とうとしたスグリを振り向きもせずに止めた。

    ボードを横切るのは、定規でも使ったかのように真っすぐと引かれた長い2本の平行線。

    人から命令されるのは大嫌いなスグリだったが、
    大事なものを侮辱された(のであろう)博士が見せた剣幕や、「A」「B」「過去」「今」とテキパキ記していく手つきに惹かれ、上げかけた腰をおろした。

    苦手な生活主任の姿がなるべく視界に入らないように、意識をホワイトボードに集中させながら。

    「……座席は8つ。受講生も8人。セガレから聞いてたリーグ部ってのは、講義にも打ってつけの場所だな!」
    講習生たちに向き直ると、口をニッコリ吊り上げて、両手を激しくさすりながら生徒を見わたしたフトゥー博士。

    「あの……博士。この線と文字は一体?」
    「いやあ。ブライア嬢とスグリくんには不評だったようなので、今度はつとめて平坦な表現で説明しようと思ってな!」

    一同の目が、ホワイトボードに釘づけられる。ポピーの質問が、始業のベルだった。

  • 50二次元好きの匿名さん24/03/04(月) 17:37:08

    博士は、一同に図が見えやすいようボードの右よりで半身になって話し始めた。

    「この2つの直線AとBは、どちらも時の流れを表している。現在こうして、ボクやキミ達が体感している……

    そう。時間そのものを図におこした物だ。

    どちらの直線も同じ。左に行けば過去。右に行けば行くほど、いま現在に近づく」

    人差し指がついた長い指示棒が、上段の直線Aを、左端から右へとジワジワなぞっていく。

    「ところが!」

    と、直線Aを左から3分の1なぞった所で、指示棒がピタリと止まった。すかさず、博士の腕がホワイトボードに踊りこむ。

    「Aの右端。すなわち!Aの現在に至るまでのどこかで何らかの分岐点が生まれてしまい、

    結果、Aの流れの上にいたはずのチリ嬢の存在が、もう1つの時の流れ……すなわち、われわれが住んでいる線Bへと迷いこんだのだ!」

    平行線AとBの間が結ばれ、1本だけの線でつながったあみだくじのような図へと変化した。

  • 51二次元好きの匿名さん24/03/04(月) 17:45:30

    「直線のAとBを入れかえても、同じ理論が成立するはず。もう1人のチリ嬢が行ったか来たかの違いだけだ。つまり!我々にとってはドッペルゲンガーに思えても、当のドッペルゲンガー本人にとっては、我々の方がイレギュラーなのだ!」

    アオキとポピー、ハッサクは合点がいったのか大きく何度もうなずいた。

    「……なるほど。非常にシャクだが内容としては矛盾はない。かといって決め手もないがね」
    不服そうに目を閉じたブライアの言葉に、博士はホクホク顔で指示棒を縮めた。

    「ま、待てよ、おっさん。さっき8人つったよな?オレと先生を引いても、パルデアの奴らは5人じゃなきゃおかしい……」
    座席の面々を指折り数え始めたスグリ。オモダカやブライアを失神させた出来事について、どうやら別の切り口から気づこうとしているらしい。

    「ドオーのポンチョ。アンタ誰だ……」
    目深く被られたフードのからのぞく緑色の髪は、スグリも見なれた人物のものだ。
    「ま、ま、まさか、チリ姐さん……」

    「もういいでしょうミス・ドッペルゲンガー。半分バレたようなものですから」
    やむなしと目を伏せるアオキとポピーを一瞥し、ハッサクが促した。
    「あー……スグリ。ビビらんといてな」

    プチプチとボタンを解かれたポンチョの中から、オモダカの肩にもたれかかってイビキをかいている女性と瓜二つの容貌が現れた。

    「ひっ、チ、チ、チ……」
    「ま、まいど。チリちゃんやで〜」
    コガネチリがどれだけ披露したか分からない、スグリが初めて見る挨拶は、フニャッとしたタレ目の横に冷や汗があること以外はいつも通りであった。スグリがパイプ椅子から転げ落ちた音で、こちらのチリがハッ( ゚д゚)と目を覚ました。

    「ドク。さっきの『分岐点』とやらは一体どういう意味だ」
    椅子に戻ろうと床を這いつくばるスグリに構わず、ブライアが質問を吐き捨てた。
    「アクシデントまたはハプニングと言いかえてもいい。平行線の上を行き来するきっかけとなった共通の事象をさす!」

    しばしの静寂…………
    ポンチョを畳むドッペルと、うとうとしながらオモダカに頭を撫でられているチリとを交互に見て、口火を切ったのはポピーだった。

  • 52二次元好きの匿名さん24/03/04(月) 17:52:29

    「ポピーたちは、てらす池に来ていましたの。ここを勝手に抜け出して観光にいったトップとチリさんを探すために」
    畳んだポンチョを椅子の下に置いたドッペルは、眉をよせた。

    「お2人を見つけて学園に戻ろうとしたら霧に包まれて、トップのお声がして、霧がなくなったらチリさんが増えてて……」
    訝しい顔のままドッペルの頭が真横にかたむいた。
    「いや……遊びになんか行くわけないやん。仕事中やろ」

    ドッペルと目を合わせたオモダカは「えっ」と息を吐き、オモダカの肩から外れたチリは突っぷして眠りこけ、後頭部で腕を組んだハッサクは「ははっ」と笑い、アオキとポピーの首がちぎれんばかりに縦ゆれした。
    「チリちゃんらは池を調べに来ててん。もちろん仕事でな。面接とチャレンジャーいてこますのに時間かかってしもうて、5人で池のほとりに着いたんは夜もふけた頃やったわ」

    行動は同じだが動機が違う。しかしながら表裏一体の2組のパルデア一行は、あの時あの場所で同時に立っていたのだ。
    スグリとブライアは無言で手元を見つめて聞き入っている。顔の堀りをいっそう濃くした博士が、「どうぞ続けて」とドッペルを手先で指した。

    「それで、その……池のほとりに着くまでに色々あって……」
    「……何故ぼかすのですか?」
    相手の痛いところを、皮肉屋のハッサクは見逃さない。

    「まあ……その」
    「Aのチリ嬢。どんな些細な事でもいい。元の宇宙に帰れるカギになるかもしれんぞ!」
    博士に乞われること数秒。ドッペルはうつむいて自嘲ぎみに明かした。

    「ポピーと大ゲンガしてん……仲直りはしたけど」

    Aの世界。
    いつもは定時ピッタリに帰るポピーだが、他のメンバーがキタカミに行くと知るや、チリちゃんと行きたいです!と言いだしたらしい。
    トップみずから連絡して親に許しをもらい、ポピーはますます喜んだ。ただし、絶対に娘を1人にしない(させない)こと。これが親から下された条件だった。

    業務を終えたチリを待ち、四天王がキタカミに入ったのが夕方。そこからモトトカゲで山を登り、てらす池に着く頃には日が沈みきっていた。
    目に映るもの全てに興味をしめすポピーのために、たびたび皆で立ち止まらなければならなかったからだ。
    いつも通りの業務に、慣れない土地への視察。そこにポピーのワガママ。いつものチリなら、ポピーを笑ってたしなめる事も出来たかもしれない。

  • 53二次元好きの匿名さん24/03/04(月) 18:02:55

    だが、その日の彼女は、疲労と心労にくわえてポピーの親からの言いつけも重なって、普段よりいきり立っていた。

    「アカン。はよ戻り」
    「ポピー。仕事中やで……」
    「ポピー……チリちゃんホンマに怒るで……!」
    と苛立つたびに、ハッサクやオモダカから「まあまあ」となだめられたチリは、いつにもなく鬱屈としたまま池のほとりに着いたのだった。

    「みなさん。変わった点は見つかりましたか?」
    「……特になにも」
    「アオキさん……ホンマに見回りました?」
    調査の間じゅう、ポピーは案の定はしゃぎ回ろうとした。だがハッサクが手を繋いでいたおかげではぐれずに済んだ。
    ところがハッサクには、考える時に腕を組むクセがある。
    「しかし……ハルトくんが遭遇したという現象は、とうとう現れませんでしたね……」
    思わずクセを発動してしまったハッサクが手を離したスキに、ポピーは渡しにむかって駆け出した。
    「ああっ、ポピー!」
    ポピーをつかもうと伸ばされたハッサクの手袋は、わずかに届かない。
    「すごいすごい!お水がピッカピカ!」
    「ポピー!水の中に落ちたら痛い痛い、寒い寒いなのです!そろそろ帰りましょうか!」

    ハッサクの制止も効果がないようだ。
    ポピーは木の渡しの上から身を乗りして水面を覗きこんでいる。
    「ポピー。アナタに何かあったらと思うと……」
    オモダカが、しなやかな足取りでポピーに駆け寄った。
    「お池の中を見るのは、またの機会にしましょう」
    両脇を抱える青い手袋を「やーやーですの!」と身をにじって拒むポピー。

    自身も渡しに上がったハッサクが、オモダカとともに、もがくポピーをだき抱えようと悪戦苦闘する。
    なんで今日に限って、いつにも増してワガママやねん……!いつまでたっても聞き分けないポピーを見て、チリの堪忍袋の緒は切れた。
    2人をぼーっと見つめていたアオキが、「ふー」と鼻息を吐いて渡しに歩みよった瞬間。
    「ポピーさ「ええ加減にせぇっ!!」

  • 54二次元好きの匿名さん24/03/04(月) 18:11:07

    全員がチリを見はった。
    「オトンとオカンが言うてたやろ!!要らん事すなって!!」

    いっそう輝きを増す七色の水面。

    「チリ!落ち着きなさい!!ポピーも悪気がある訳では!」
    渡しの上から、冷や汗をとばして叫ぶハッサク。悲しげに眉間を指で押さえるオモダカ。彼女の胸に飛び込み大声で泣くポピー。

    「チリさん。幼い子供に……そのような言い方は」
    あまりの剣幕に、いつも無気力なはずの昼行灯までもが彼女をたしなめた。

    「……あっ」
    言いすぎた……そう気づいた時には遅かった。
    「ポピー、ごめ」

    言葉がつむがれるのを待たず、涙でずぶ濡れのポピーが渡しを全速力で下りてきた。そして、チリの足下に駆けよると
    「チリちゃんなんか大嫌いですの゛っ!!!どこかに行っちゃえっ!!!」
    チリに負けないほどの怒鳴り声をあげたポピーは、カバンから取り出した写真を地面に投げつけた。

    「こ、これ……」
    チリが拾った1枚の写真。
    ポピーが四天王に加わった日、職員に頼んでポピーと2人で映ったものだ。バトルコートの壁を背に、ほっぺたをくっつけて満面の笑みを見せている自分とポピー。

    「うわあああん!!」
    「ま、待ってポピー!!」

  • 55二次元好きの匿名さん24/03/04(月) 18:12:06

    逃げようと振り向いたポピーの肩を、チリの腕が写真ごと抱きとめた。
    「ごめんなポピー……チリちゃん大人気なかったわ……」
    「グスッ……チリ……ちゃんもう……怒ってませんか?」
    ポピーの背中に回った手が、返答がわりに強められる。
    「……この写真、まだ持っとったんかいな」
    「チリちゃんは、つよくてかっこよくて、あった時から、大好きだから……」
    アホやなあ、と潤んだ声に、うう……というハッサクのすすり泣きも加わった。

    「大嫌いなんてっ……どこか……行っちゃえなんて……ひどいこと言っちゃって……ごめんなさいぃ!!」
    「うぼおおおい!!おいおいおい!!
    ながなおりでぎで!よがっだのでずゔうう!!」

    微笑を浮かべたオモダカと、目を細めたアオキがかすかに頷いた。ひとしきり泣きあったあと、気を取り直したチリは泣きはらしたポピーをポンポン撫でて立ち上がった。

    「しっかし、ここまで来て何もなしやと正直へこむわあ」
    「仕方がありません。ここは引き上げ、後日キタカミの方々から情報を収集しましょう。いいですね?アオキ」
    「え」

    なはは、とチリは尻ポケットに写真をしまった。飛行機にでも乗って、落ちついてから返してやろうと。が。それから間もなく。

    「こ、これは一体!!」
    ハッサクが声を荒げた。池の水面から、湯立つような霧が上がりはじめたのだ。

  • 56二次元好きの匿名さん24/03/04(月) 18:26:37

    ※フトゥー→元々の穏やかさが消え、BTTFのドクみてえな喋り方に。

  • 57二次元好きの匿名さん24/03/04(月) 20:09:41

    バイオレット時空だけどフトゥー生きてていい人ってことは大筋変わらねえか?

  • 58二次元好きの匿名さん24/03/04(月) 20:28:17

    >>57

    コメントありがとうございます

    この世界のフトゥー「は」生きている理由は考えてあります!ただ、披露できるかどうかは分かりません

  • 59二次元好きの匿名さん24/03/04(月) 22:50:37

    ほ、

  • 60二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 07:55:28

    しゅ

  • 61二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 13:11:32

    雄弁に語られたドッペルの回想を、アオキとポピーは口をあんぐりさせながら清聴していた。

    池に5人揃うまでの差異に気づいたのも原因だが、年中とぼけ倒しているチリと、明朗快活なドッペルの弁舌とのギャップ、そして何より……

    内容にツッコミどころがねえ!

    似たような感情を思い描いたのであろうハッサクが、二の句をつげないアオキとポピーの代わりにイッヒッヒッヒッ!とドッペルを指さして笑いかけた。

    「いえね、アナタを嘲笑っている訳ではなく、

    まるで2人の三流ライターに、同じお題で掌編を書かせたかのように、筋書きが何もかも図ったように掛け違いの連続ではありませんか!」

    珍しく破顔してまくし立てるハッサクの振る舞いは、ドッペルに懐かしさを与えた。

    いっぽう、無表情で彼から会話を受けとったのはブライア。
    「共通点をあげるならば……5人まとめて池を訪れ、霧に巻き込まれた点……」

    「……!という事は、向こうとこちらのポピーたちにとって、『特異点』は池の霧!!」
    「……おんなじシチュを、もっぺん作りゃあいいって事だよな!」

    「ザッツライト!ポピー嬢もスグリくんも花丸だ!キミらにはボクの助手となる素質がありそうだぞ!」
    「「それは結構です/それは断る」」

    博士のお墨付きは、即座に返納された。

  • 62二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 13:14:50

    「てらす池で5人……」
    「違います!6人揃って!」
    「チルタリスの屁のような忌々しい霧を」
    「もう一度浴びれば、ミス・ゲンガーは家に帰れる……かもしれないのね!

    ところでハッサクさん。その例えは、白かったから……ですか?」
    「( -ω- )zZ」

    こちら側の5人(マイナス1人)の足並みは完璧に揃ったようだ。それぞれは思い思いに立ちあがった。
    跳ねるように。ちょこんと座席の上に。マイペースに泰然と。リーグの頂点にふさわしく、しなやかに。机に突っ伏す1人を除いて。

    「では行きますよ!ほまれ栄えあるパルデア四天王のみなさん、そしてトップ!えい、えい、おー!!」
    「おー!こ、こんなの恥ずかしいですの……!」
    「おー。……フン。フフ」
    「うふふ。おー!ほらチリも!」ユサユサ

    「( ゚д゚)ハッ!」

    勝手気ままのバラバラだが、いざと言う時は団結する。赤の他人でも、困っていたら手を差し伸べる。

    「みんな……なんかホンマ……ホンマおおきに……!」
    性格が大きく違えども、元いた世界の面々を思いおこさせる温かさと優しさに、ドッペルの目柱がツンと熱くなった。
    「ドッペルさん!その涙は元の自分たちに会えてから流しましょう!!」

  • 63二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 13:15:55

    このレスは削除されています

  • 64二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 13:16:27

    このレスは削除されています

  • 65二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 14:11:12

    「……ドク、水を差すようで悪いが……」

    静かに立ち上がったブライアが、雰囲気を崩さないように博士へ耳うちする。

    「霧が発生した日時までタイムマシンでさかのぼるのは無意味なのか?貴方の妻が作ったとかいう……」

    「残念だが意味がない。それに不可能だ……

    我が妻・オーリムなき今、二度と起動しなくなったアレは大きな棺桶にすぎん。
    それに四天王が遭遇したのは、あくまでドッペル嬢が『呼び出された』現象だ。

    例えその時の池に戻っても、チリ嬢が3人に……いいや、ドッペル嬢まで含めれば4人に増えてしまうだけだ……おまけに他のメンツまで2人ずつにな」

    「なるほど……よく分かった。今度は明確にね。嫌味ではなく……先ほどは失礼したね。

    堕ちてしまったらしい妻と違って、アナタはイカれドクではなさそうだ」

    フトゥー博士は静かに口角を上げた。
    「全ての科学は、人のためにあるべきだよ」

    「フフ。行こうか」とスグリをうながして、先にリーグ部の部室を退出したブライア。
    オロオロと彼女の後を追ってドアを開けたスグリも、

    「あのさ、何かあったらオレに言えよ!アンタらのためなら、ねーちゃんと力になるからさ!」と言い残し、お互いを励ましあうパルデア勢を後にした。

  • 66二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 14:17:51
  • 67二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 15:16:36

    >>61

    『特異点』→『分岐点』

  • 68二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 15:37:24

    この人のブライア先生好きだわー・・・認めた相手にはデレる感じがツボ

  • 69二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 15:41:04

    大事件

    黒幕オーリム、それを止めたパルデアトレーナーwithフトゥーってことか?

  • 70二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 18:09:37

    主です!コメントありがとうございます!

    >>68

    自分と対等にやり返せる&コイツ本気(マジ)なんだなって認めた相手には優しくなるイメージを表現できていたら幸いです


    >>69

    そんな感じです!

    自論が認めらたフトゥー&非難されたオーリム

    →フトゥーからも否定され古代ポケモンでパルデア支配と報復を企む→パルデア軍団総進撃


    いつか書きてぇなあ

  • 71二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 20:40:51

    あげ

  • 72二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 20:54:54

    某所のSV=バカ&暴力でめっちゃ笑った
    応援

  • 73二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 22:10:42

    >>61

    ポピー”が”叱ってる

    ポピー”を”叱ってる

  • 74二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 22:12:02

    >>72

    ありがとうございます笑

    あちらはキャラ反転ではなくキャラ崩壊を目指してます

  • 75二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 23:32:39

    ほしゅ

  • 76二次元好きの匿名さん24/03/06(水) 08:34:01

    保守

  • 77二次元好きの匿名さん24/03/06(水) 12:13:50

    >>61

    <博士のお墨付きは即座に返納された

    好き

  • 78二次元好きの匿名さん24/03/06(水) 13:50:13

    「ほーん。校舎の中ってこんな風になってたんや。ハッサクさんも今ごろ授業しとるんやろうなあ」
    「ィイエス!(*´︶`)b」

    「入るのは初めてですか、ミス・ゲンガー?」
    「いえ。チリちゃんたちの総大将に用があって何回かは……でも、エントランスで落ち合って話すのがほとんどでしたし、なんだか新鮮ですわ!」

    「それはそれは!機会があれば他の場所も是非ご案内させてください!」
    「トップ!チリさんたち!今の目的を忘れちゃいけませんわよ!」

    ひとまずパルデアに戻った一行は、キタカミの姉弟やブライアと連絡をとりつつ、あの日のてらす池にまつわる手がかりを集める事にした。

    不在の数日間に山積みとなった作業を処理するためリーグへ戻ったアオキ、それに加えて教師としての責務にも追われているハッサク以外の4人で、まずは校長室を目指している。

    「こっちのクラベルさん、どんな人なんやろ……」
    「決して悪い人ではありませんわ。だけど……」

    「だ、だけど?」
    「チリさんや博士とは違う方向で、ちょっぴりクセが強いというか……」
    「お、おん?」

    ポピーが言葉を切ったタイミングで、オモダカはスーツの懐から1枚のビラを取りだし、

    「アカデミーの勧誘パンフレットです。挨拶をご覧なさい。そこにクラベルさんの全てが詰まっています……」
    そう言ったきり、ドッペルにも見覚えのある仕草をとって沈黙した。

    「わたくしが!書いたんです!書かされたんですよお!付きっきりで!何度も何度も書き直させられて!彼が話したとおりに!口述筆記?ってやつですかね!わたくしは!もっとアカデミックで!ロマンチックな内容にしたかったのにッ!」

    眉間に人差し指を当てたままシクシクと泣き出したオモダカにヽ(´Д`;ヽ≡/;´Д`)/と狼狽えるチリを横目に、ドッペルはパンフレットを開いた。

    ポピーが「ここですわね」と指をチョコンと置い場所――感情豊かな乙女ではあるが、根には持たないオモダカをも嘆かせた、「校長からのご挨拶」を以下に抜粋する。

  • 79二次元好きの匿名さん24/03/06(水) 14:04:02

    このレスは削除されています

  • 80二次元好きの匿名さん24/03/06(水) 14:05:21

    ※追記

    クラベル→ネルケスタイルがデフォ。熱い闘魂を24時間もやす男

  • 81二次元好きの匿名さん24/03/06(水) 14:06:59

    このレスは削除されています

  • 82二次元好きの匿名さん24/03/06(水) 14:08:08

    元気ですか!!

    元気があれば、トップチャンピオンのゴーゴートをバックブリーカーで沈める事もできる!バカヤロー!!

    道楽者のハゲたオヤジが作ったらしい、ここオレンジアカデミー(通称・グレープアカデミー)は、
    日がなカビが生えた学問をやりつつ、時にはブッ飛んだ若者たちがクールな事をしでかす、世界一エネルギッシュな場所です!

    ソイツの持ち味を活かしつつ料理してやりますので、二足歩行で肺呼吸してりゃ誰でもウェルカム!

    数々の保険や福利厚生も充実しておりますので、万が一お子様やご家族にケガがあっても安心!

    お前ら全員、明日を夢みるバカになれ!!

    オレンジ(グレープ)アカデミー校長・クラベルの口述を理事長・オモダカが筆記

  • 83二次元好きの匿名さん24/03/06(水) 16:14:50

    ドッペルの母校にウヨウヨいたヤンチャ坊主やスケバンが、教室やトイレの壁にでも書きなぐったような文章。

    「言っときますけど!これは校長の言葉であって、わたくしの考えじゃありませんからね!」と半泣きでむくれているオモダカに相槌を返し、ドッペルはパンフレットの右半分に目を滑らせた。

    よくあるご質問
    なぜ校名が「オレンジ(グレープ)」表記なの?

    その昔。アカデミーの創設が決まった頃のこと。
    校章のモチーフには「オレンジ」が良いか「グレープ」がふさわしいかで大論争が置き、パルデア帝国内が真っ二つに別れて、大きな大きな紛争になりました。

    すでに虫の息だったパルデア帝国は、これによって完全に消滅。その際、創設者のオトシドリのひと声で、2つを組み合わせた素晴らしいモチーフが出来上がったのです。

    (文=オレンジ(グレープ)アカデミー歴史担当・レホール)

    教室や廊下の生徒たちは、春夏秋冬すきな制服に袖を通していた。

    だが、カラーリングは全員共通。ドッペルも見慣れているオレンジのネクタイ。だが、下は違った。ネクタイとミスマッチで異物感すら感じる紫色のズボン。

    そんなチグハグなコーディネートにとどめを刺す、左肩の校章。

    『よくあるご質問』の欄にデカデカと載った校章は、ドッペルのかゆい疑問を一気に解決させた。模様こそドッペルの世界と同じオレンジだが、色使いはグレープ一色だった。

    「だれか止める奴おらへんかったん?」
    「まったくです……許されるなら今からでも挨拶を書き直したい……」

    そんなアホの命脈を受け継ぐ10何代目かが、自分たちの来訪を、今か今かと待っているのだ。

    ドッペルは、もはやどんなアベコベに襲われようとも諦めようと決意した。

  • 84二次元好きの匿名さん24/03/06(水) 19:55:50

    そんなアホの命脈を受け継ぐ10何代目かが、
    ↑これ好きあげ

  • 85二次元好きの匿名さん24/03/06(水) 20:01:11

    84だけど「だれか止める奴おらへんかったん?」
    「まったくです……許されるなら今からでも挨拶を書き直したい……」ってセリフだけでトップと本物チリ(ドッペル?)のやりとりがズレてるってわかるのすごい

  • 86二次元好きの匿名さん24/03/06(水) 23:22:28

    カオス

  • 87二次元好きの匿名さん24/03/06(水) 23:28:54

    ホット・ショットとかレスリー・ニールセンの匂いがするss 悪くない

  • 88二次元好きの匿名さん24/03/07(木) 08:57:53

    保守

  • 89二次元好きの匿名さん24/03/07(木) 15:19:31

    このレスは削除されています

  • 90二次元好きの匿名さん24/03/07(木) 15:23:00

    >>83

    「おーしおしおしおし!来いコノヤロー!」

    「ノオ!ンノォォ!」


    「はああああ!?」

    だが、そんな決意は校長室を開けて2秒で破られた。優れたトレーナーほど諦めが悪いものだ。

    校長室の3分の2を占めるリングの上では、ユキノオーと半裸のクラベルが、がっぷり四つで組み合っている。


    「ア、ア、アホかああ!?」

    「あ、あいかわらずハッスルしてますわね……」

    「校長!校長!!事情をご説明にあがりました!」

    「あっ理事長!ちょっと待ってろコノヤロー!!」


    力比べしていた手を離し、相手の背後を取ったクラベルは、ユキノオーの腹回りをガッチリ掴んだ。

    「ンノオオオオ!!」

    「おーしおしおし、行くぞ!おいしょっ!!」

    雄叫びとともに、美しいアーチのジャーマンスープレックスが部屋を揺らした。


    ズッドオオオオン!!

    「ひいぃやあああ!!!?」

    「(*゚▽゚ノノ゙」パチパチ

    ドッペルの悲鳴は、彼女の人生の中で最高のオクターブを帯びて放たれた。


    「タフなのは頼もしいです!ですけど!!修理費をこれ以上ふやさないでください!!」

    「エリアゼロに乗りこんだ時も、古代ポケモン相手にミサイルキックをお見舞いしていましたわね……生身で……」

    ドッペルは開いた口が塞がらない。だが、時の流れは待ってくれない。


    「ふう、いい汗かいたぜ。ユキノオー、ありがとー!!」

    「ノオー♪」

    手持ちをハグで抱き起こし、頭上に掲げたプレミアボールにユキノオーを収めたクラベルは、「シャワーは後にするか……」と、大きなタオルをまとって首筋をふきふき、リングのロープをくぐって入り口の来客と握手を交わした。

  • 91二次元好きの匿名さん24/03/07(木) 15:31:28

    「汗くさくてスマンね!どーもどーも、クラベルです!初めまして……だよな?」
    「……えっ?あっ。はっ、はい!よろしゅうに……」
    まずはポンチョのドッペルと。

    「よう!相変わらずべっぴんだな、おめーは!」
    「ヾ(*´罒`*) ハロー!」
    続いてチリと。

    「おめーもめんこいな!ちゃんと食ってるか?」
    「発育は正常です!お気になさらず!」
    ツンとそっぽを向いたポピーにかがみながら。

    「いやぁ、どーもどーも初めまして!」
    「なん千回と!!会ってるでしょう!?」
    オモダカへの握手は、いつものハスキーさが嘘のようにひっくり返った叫びで振りはらわれた。
    「なんだ理事長か!勢い余っただけだよコノヤロー。へへッ!」

    本気とも冗談ともつかない態度に大きなため息をついたオモダカを笑って、クラベルは彼女の真横にある壁のボタンを押した。床がスライドし、大きな穴に飲み込まれていくリング。スター団が解散した際、奉仕作業と合わせて彼らにオーダーされた仕掛けだ。校長室の3分の2は、あっという間に品の良い研究設備に戻った。
    (チ、チリちゃんの知っとるアカデミーにも同じ仕掛けがあるんかな?帰れたら確かめに行こ……)

    「んで、話とはなんぞや?」
    「はい……まずはアカデミーへの帰参が遅れました事、深くおわびいたします!」
    深々と頭を下げたオモダカ。それにつられたポピーとドッペルもチョコンと礼をした。
    本来ならば四天王とオモダカのブルーベリーへの滞在予定は3日間だった。ところが、2日目の夜にドッペルが現れ、最終日にフトゥーの講座を受け、ゼイユにも支援を仰ぐべくスグリの家に立ち寄ったことで、一行は数日ほど遅れてパルデアに帰還したのである。
    「いやいや、いいって事よコノヤロー。お前らが無事って分かっただけでチャラだぜ!」
    ドッペルは少し驚いた。天然ぎみな乙女も、最低限のマナーはわきまえているらしい。

    「ただ、ハッサクの代わりに授業をよろこんで引き受けてくれてたコルサってジムリには礼言っとくんだぜ!」
    乱れたリーゼントを直しているクラベルのまっとうな返答に、ドッペルは再び驚いた。
    そして、誰も言えなかった。遅参した原因の大半が、「おじいちゃん、おばあちゃん、スグくん。引き止めたら迷惑じゃないかな……」というゼイユの制止も聞かずに開かれた、スグリ宅での歓待パーティにある事を。

  • 92二次元好きの匿名さん24/03/07(木) 19:45:44

    猪木は草なのよ

  • 93二次元好きの匿名さん24/03/07(木) 22:49:27

  • 94二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 02:08:07

    これ小説とか読んでる人の文章だよね

  • 95二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 10:24:00

    保守

  • 96二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 16:04:52

    >>91

    「面目、ございません……」

    「凹むな凹むな!オレは、その『事件』とやらが知りてえんだ!ほら。適当にイス持ってこっち来なコノヤロー」

    「はい。で、では」


    マホガニーのテーブルに歩き出したクラベルについて、4人は機械の間をすり抜けた。


    「どうりで同じ匂いがしたわけだ!」

    太い容器に入ったプロテインを飲みながら、執務席に身をあずけたクラベルは目の前に座る2人のチリを見比べた。


    「変な意味じゃねえぞ!その、ソイツの雰囲気というか気配というか……

    ……色んなポケモンと生身で取っ組み合ってるから分かるんだよ……ポンチョの下からチリと同じ、じめんタイプの匂いがしてよ!」

    やはりと言うか意外にもと言うべきか、クラベルは殊のほか取り乱さなかった。伊達に校長ではないようだ。


    「……それで、このミス・ゲンガー……もう1人のチリを元いた世界に返すためには、状況を再現するほかにも、何か条件があるのではと……」


    スグリ宅での歓待パーティから中座したオモダカら6人は、てらす池へと直行した。なんど空輸したか分からないチリのミニクーパーにすし詰めとなりながら。ほとりについた時刻は、あの時と測ったように同じだった。夕日は消え去り、夜の静寂に光る七色の光線。


    『パースといい色素といい、小生らが見た風景と瓜二つですね』

    『チリちゃんらが見てた景色とも、そっくりそのままですわ』


    2人のやりとりをドッペルとの別れだと早合点したアオキは男泣きし、

    『まだ行けるとは限らんですやん』とドッペルは苦笑いし、

    『涙の前借りになるかもしれませんよ』とハッサクは毒づいた。

  • 97二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 16:10:48

    あの時と同じ時刻が迫る。しっかり者のポピーは、それが――白い霧にハッサクがたじろいだのが午後10時20分ピッタリだったとアオキの腕時計でチラリと視認していた。
    『(°▽°) ホラホーラ キイロイ クラボノミ〜♪』
    お供えものこそないが、あの時と同じように振られる大/麻(おおぬさ)と気の抜けた念仏。

    『一応つくってきました。あの日と同じハムタマゴです♪』
    お祈りのエクササイズがわりに、オモダカは2本の紙の包みを胸に抱いていた。
    『いい歳こいた大人が、夜に何やっとったんや……』
    『チリとピクニックです。ねー♪』
    『(*´罒`*)』
    『あ、あの……そのハムタマゴ、1口だけ頂けませんか?トップのサンドイッチは絶品なので……!』
    『うふふ。ポピーの分は後でね。これはチリとミス・ゲンガーへのお土産用ですから』
    ポンチョを脱いだドッペルに、『はい。よく噛んで食べるのですよ』と両手よりやや長いハムタマゴが手わたされた。

    一行がキタカミに再度おりたった目的は、スグリ一家と飲み明かす事ではなく、霧が起きた状況を再現し、あわよくばドッペルを帰す事だった。

    『あと1分を切りましたわ!』
    スマホを浮かべたポピーがタイムキーパーだ。
    『やっとですか。待っている時に限って時の経過が遅い現象に名前が要りますね』
    ハッサクは普段どおり皮肉屋で動じない。

    55、54、53、
    『グスッ……ドッペルさん!わずかな間でも、しっかりしているチリさんが見れて良かった!!』
    『ナハハ、元気なアオキさんも新鮮やったで』

    29、28、27
    『ただ、アナタの勝負のお手並みを見られなかったのは残念です……わたくしのチリと、どう一緒でどう違うのか』
    『間違うてまた会えた時にでも、胸をお借りしますわ。まあ、どのみちトップには勝てる気しませんけど』
    『( ꒪Д꒪) アリソウ デ ウッフン』

    『まもなくですわ!午後10時20分まで、あと5、4、3、2、1、』0…………霧は起きない。

  • 98二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 16:14:48

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  • 99二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 16:17:46

    『ナサソウデ……?』
    静まり返った背後を不思議がってか、チリが念仏を止めて振り返った。

    『……何故ですの?状況は再現したはず!』
    『……細かい違いがあるからでは?まず、小生とアオキはモトトカゲに乗っていましたよね』
    『ハッサクさん!何故それを!先に言わなかったんですか!!』
    『今思い至ったのですから。いちいち喚かないで。暑苦しさまで再現する必要はないでしょう』
    『ひょっとしたら、わたくしがミス・ゲンガーに1本渡したのが不味かったのかしら……』

    『(ˊᗜˋ*) ソレ、プリーズ!』
    ねだるチリに、もう1本のハムタマゴが渡された。
    『よく噛んで食べるのですよ』
    『(*^^*) センキュー♪』
    『すみませんでした、ドッペルさん。ぬか喜びさせちゃいましたわね……』
    『気にせんでもええよポピー。チリちゃんを思ってしてくれた事なんやし』

    ハムタマゴの包みを破り、幸せそうにかぶりつくチリ。真ん中を器用にちぎって半分をポピーに分け与えたドッペル。

    『( *´꒳`*) デリシアス!』
    『トップ。うんまいですわ、コレ!』
    どうやら、分岐点を作るには一筋縄ではいかないらしい。

    『……』
    眉間に人差し指を当て、目をつぶったモダカ。長考する時の凛々しい顔だけは、ドッペルの知る彼女と変わらない。

    『……とりあえず今は、キタカミを楽しみましょう!』

    オモダカのひと声でスグリ宅へと戻った6人は、日付けが変わるまで宴会を楽しんだ。だが、楽しい時ほど早く過ぎるものだ。

    屋台に鬼退治にリンゴ狩り。キタカミを満喫するうちに、『お、お仕事は大丈夫なんですか……?』というゼイユの質問で我にかえった6人が飛び乗ったミニは、オモダカが大慌てでクラベルと連絡を取りながら、チリが増えた日のように、全速力でキタカミの空港へとひた走った。

  • 100二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 20:07:01

    「……なるほどな。それで先公たちの知恵が借りてえと」
    「はい。ミス・ゲンガーを帰すには何が足りないのか……平行世界?分岐点?について、どの先生が詳しいのでしょうか?」

    『観光にうつつを抜かしていた』を『住人から情報を集めていた』にすり替えたオモダカの説明を、意外にすんなりとクラベルは飲み込んだ様子だった。

    「そうさなあ……フトゥーのオヤジが科学だって言ったんなら、ジニアは確定だろうな」
    席を立ち、素肌に黒ジャケットを羽織りながら吐かれた言葉に、ポピーの顔が「げっ」と歪んだ。

    彼女の脳裏には、2人のチャンピオン――ネモとアオイが広場で勝負した日、チリに閉じ込められた実験室が思い出された。

    窓ぎわから炸裂した閃光。入浴剤のように香りが良かった緑色の煙。ジニアが来ないうちに窓から這いでて何とか脱出したものの、顔がバレていない事を祈るばかりだった。

  • 101二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 20:19:17

    このレスは削除されています

  • 102二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 20:20:40

    「あの人はどうですのん?チリちゃんは見かけた事しかあらへんけど、いつもエントランスに1人でおる、メガネかけてミステリアスな、デニム着とる……」

    「( *´꒳`*) レホール!メガミサマ!」
    「そうそう、レホールさんや!こっちのハッサクさんが言うには歴史の先生で……女神?かは分からへんけど……」

    「いいんじゃねえか!アイツは色んな地方の出来事とか都市伝説に詳しいからな!」
    「それにとってもチャーミングで!わたくしもチリも、彼女のお話は大好きです!」
    「ほーん。人は見かけによらへんもんやなあ」

    一行が当たる相手は決まった。ジニアとレホール。だが、校長いわく2人ともフィールドワークで外出しており、今日いっぱいは不在らしい。
    「(´・ω・`) オウ、ノーウ……」
    「歯がゆいですけど、仕方がありませんよチリ」
    「せやけどおおきに。そないに落ち込むくらい真剣になってくれとったんやな」

    しょんぼりと座椅子に体育座りしたチリの頭と肩を、彼女を挟んだオモダカとチリが優しくなでた。
    違う。これは『レホール先生いないのかぁ寂しいなあ』のポーズだと察したが、ポピーは口をつぐみ、幻想が壊れるのを防いだ。

    「宿なら心配すんな。すぐにでも用意できる!たしか、教員の寮に空き部屋が1つあったはずだ!好きに使え!」
    「校長。替えの衣服も届けましょうか。インナーだけではなく、変装用も兼ねて何着か上着も。部屋にこもらせては可哀想ですし、出歩こうにもポンチョだけでは心もとないでしょう?」

    「ほかにも何かあったら遠慮なく言え!トイレットペーパーが足りねえ、風邪ひいた、メシ持ってこい、気ばらしに勝負しろ、なんでも来いだぜバカヤロー!!」
    「何から何まで、ホンマすんません」
    「うふふ。言いっ子なしですよ。それでは、わたくしは衣服の買い出しに……」

    「ポピーはアオキさんを手伝わなければ……ですけど、たまらなく不安です……」
    一同の顔がきょとんとポピーに向いた。

  • 103二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 20:22:02

    「トップはお外に、ポピーはリーグに、ドッペルさんは校長と寮に……これではチリさんが野ばな……1人になってしまいますわよ」

    「まあまあ。チリはみなさんが思っているよりもお利口さんですよ?」
    「お利口さんは、実験室を吹き飛……」
    ポピーは言いかけた口をあわてて閉ざし、言葉を軌道修正した。

    「と、とにかく!絶対に保護者が必要です!ドッペルさんではなくチリさんに!」
    自分の陰口を面と向かって浴びせられている心地がして、複雑そうな苦笑のドッペル。丸椅子にまたがって「ふん」と胸を張ったポピーを見やり、オモダカが悲しげにドッペルへ告げた。

    「では……お願いできますか、ミス・ゲンガー?」

    一旦解散となった一行は、忙殺されているであろうアオキを助けるべくリーグへ向かったポピー、
    校長の案内で寮に向かうチリとドッペル、そして。

    「アハ!アハハハハ!別人とはいえ♪チリをおめかし出来る日がくるなんてぇ♪生きててよかったああ♪アハハハハ♪」
    オペラ歌手ばりのアルトを放ちながら、スキップで構内をくぐり抜けるオモダカとに分かれた。

  • 104二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 20:43:50

    part3は以上です!書き溜めなしのリアルタイムで執筆しているため、かなりの長丁場になっております、すみません。


    ↓part3まとめ


    チリ婦人とドッペル婦人 part3 | Writening「校舎ってこんな風になってたんや。ハッサクさんも今ごろ授業しとるんやろうなあ」 「ィイエス!(*´︶`)b」 「中に入るのは初めてですか、ミス・ゲンガー?」 「いえ。チリちゃん世界の総大将に用があって何回かは………writening.net

    個人的には、4からが後半です。好きなスター○ォーズみたいに6で終われたらいいなあ(789は知らぬ)

  • 105二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 20:54:04

    >>104

    追ってるよ!!2.2m135.5kgをジャーマンするクラベルヤバいな

  • 106二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 22:45:22

    >>105

    うおおー!主です!ありがとうございます泣

    詳しくないので調べたら、

    リアルで一番デカかった選手がそれぐらいらしくて(人型のポケモンしかプロレス出来なさそうっていうのもあって)校長の手持ちではユキノオー一択でした

  • 107二次元好きの匿名さん24/03/09(土) 07:56:36

    あげ

  • 108二次元好きの匿名さん24/03/09(土) 16:22:13

    保守!!

  • 109二次元好きの匿名さん24/03/09(土) 16:36:09

    保守

  • 110二次元好きの匿名さん24/03/09(土) 22:09:22

    >>1反転させただけじゃないキャラ付けが上手すぎるカオスだけどワチャワチャしすぎてない

  • 111二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 03:46:38

    >>103

    ↓part4


    明るい木目とタイル地がツートンを描いている、シックでモダンな床。シミひとつない真っ白な壁紙。こじんまりとしたキッチン、電子レンジ、冷蔵庫……


    すみずみまで清掃が行き届いた寮の空き部屋は、内装こそ派手ではないものの、2人のチリがルームシェアしても支障がでないほどには快適な広さであった。


    「ああどれを着せてもきっと似合うに決まってます!こんなの反則です抜群のスタイルに凛々しい顔立ちなのに1人は無垢でキュートで1人はちょっぴりワイルドでセクシーまさに双子のエンジェルです天はアナタたちに二物も三物も」


    ……あらゆるブランドの衣服やアクセサリーが詰められた大小さまざまなビニール袋の山が、オモダカとペパー、そしてアオイによって運び込まれるまでは。


    「オモダカお嬢様。チリさんには、このセーターとかどうかしらん?でもキリッとしたドッペルさんにはフォーマルなスリーピースとかが似合うかもねん……」


    「ドッペルさん。オモダカさんもペパーも、料理とおめかしが大好きなんですよ」


    チリーンの鳴くような声で無邪気に告げるアオイ。鼻血を垂らしてながらまくし立てるオモダカ、伸ばした人差し指を頬におくペパー。チリとドッペルの変装――という名のコスプレ撮影会が始まった。


    「トップ、マジで試着せなアカンのですか……?」

    「もちろん!すべての組み合わせを試してみなければ!アクセサリーもたくさんありますから!ほらチリ、バンザーイ♪」


    「"(ノ*>∀<)ノ バンザーイ」

    「うえっ!」


    一着目の服を着せられそうになったとき、ドッペルは思わずたじろいだ。仮にも異性であるペパーがいる前で、オモダカがためらいもなくチリのボタンを外し、カッターシャツとスラックスを手際よく脱がせたからだ。


    あらわになったチリの下着姿。

    「まずはコレを!」と緑のポロシャツとサングラスを差しだしたオモダカはもちろん、「デコルテとかウエストのくびれとか、すっごくキレイですね……!」と息をもらすアオイも、男子の存在を意にも介していないようだった。


    「( 🕶 )」

    なすがままにポロシャツとグラサン姿になったドッペルは「フーン」と、まんざらでもなさげである。

  • 112二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 03:59:08

    ※追記

    ペパー→言動オネエの女子力男子。料理と服飾とポエム執筆に余念がない

  • 113二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 14:57:01

    保守

  • 114二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 23:27:57

  • 115二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 08:39:41

    しゅ

  • 116二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 15:19:25

    このレスは削除されています

  • 117二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 16:29:42

    >>111(最後の主語を訂正。グラサンなのは反転チリ)


    「( 🕶 )」

    なすがままにポロシャツとグラサン姿になったチリは「フーン」と、まんざらでもなさげである。

    「あら、アタ……オレとした事がごめんなさい。ドッペルさんの世界のオレは、しっかりしてるみたいねん……」


    ペパーは頬に指を当てたままうつむいた。

    「ドッペルさん、安心……して?アタシその、異性を変な目では見ないっていうか……見れないっていうか……同性を……愛しちゃうの」

    カミングアウトに一瞬おどろこうとしたドッペルだが、すぐに考え直して真顔にもどった。涙ぐんだ彼を見ていると、どんな反応を示すのも茶々を入れるようで気が引けたからだ。


    「『そんなの個性にすぎん』ってパパは励ましてくれたけど……そのせいでママには嫌われちゃったのん……『そんな息子はいない!』って……ごめんなさい、ドッペルさん。気持ち悪かったよね」

    彼の肩に手をおき、かむりを振るアオイ。ひどい……とスマホのカメラを起動しながら眉をひそめるオモダカ。

    「すぐに出ていくから。アタシはお嬢様が撮った画像で楽しませてもらうことに……」

    「なーんや、そないな事かいな」

    ホッと息をつき、タイをゆるめたドッペルは、チリと同じくシャツとズボンを脱ぎ捨てた。


    「これでええ?さすがにマッパになるんは心の準備いるけど」

    取るに足らないお使いをすませたように気軽な口調で、ドッペルはペパーに笑いかけた。


    「な、なんで」

    「なんでって……自分のオトンも言うとったんやろ?おかしくも何ともあらへんよ。好きなんが男の子ってだけやん」

    「ねえ、ペパー!言った通りでしょ?チリさんが良い人なんだし、もう1人のチリさんだって絶対に優しいだから大丈夫だって!」


    「(>ε<) ヘ、ヘップシ!」

    「そんな事より!わたくしのチリコレクショ……もとい変装写真を早く撮影しなくては!半袖のままではチリが風邪をひきます!」

    「みんな……ありがとう……」

    「ねえ早く早く!ペパーのコーデスキル、わたしも久々に見たいなあ!」

    ペパーの肩を支えにピョンピョンと跳ねるアオイの声が、部屋のしめりけを吹き飛ばした。


    「……凛々しいドッペルさんはカジュアルに行くのが良いかもねん。チリさんはのんびり屋だから、ギャップ狙いでタキシードとか……」

  • 118二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 17:36:38

    涙を拭い、何事もなかったようにおめかしモードをonにし2人のチリを見比べはじめたペパー。

    そして、あれでもないこれでもないとワイワイ騒ぎながら試着を重ねるうちに、「変装するのは自分であってチリまで着替える必要はないのでは?」「ペパーと仲が良いらしいこの素朴な少女はだれだ」というツッコミも、ドッペルの脳裏からすっかり忘れさられた。
    ……元のスラックスの尻ポケットに入れたままの、ポピーと写った1枚の写真と同じく。

    翌日。レホールとジニアに取り付けた講義の時間までは、まだまだ余裕があった。寮の部屋にやや飽きたドッペルは、ある要件を済ませるべくチリに付き添う事にした。
    結局いつも通りの衣服をまとったチリの指が、建物の看板を次々とさしては「(*´罒`*)シシシ」とドッペルに笑いかける。
    デリバードポーチ。惣菜屋。美容室。どれもドッペルの見た街並みと変わらない。ただ、2つの違いがあるとすれば……

    「ねえねえチリさん!この前の面接のお礼!授業で作ったドオーぐるみ!これあげる!」
    「(*^^*) oh センキュー♪」
    「チリさん!こないだは絡まれてた弟を助けてくれて……」
    「チリさんの空飛ぶタクシー楽しかったなあ!気球がついたグリーンの車、また乗せててね!」
    1つ。こちらのチリは、住人から(特に幼い子どもたちを中心に)広く親しまれている事。

    (こっちのチリちゃんは、怖い美人さんやあらへんねやな……)
    人助けのほとんどが偶然や気まぐれだとは知らないドッペルは、元の世界とは違う自身の慕われぶりが少し羨ましくなった。

    「チリさん!お隣の美人さんだーれ?」
    「箱入りのお嬢様ってかんじ〜!」
    「お顔がそっくり!もしかして姉妹?」
    「ああ、いや……あのな、その」
    そしてもう1つの予想外は、変装した事で自分がかえって注目の的になっている事だった。

    「ま、まいど……リカちゃん言います〜。この子とは従姉妹どうしなんですわ。ナハハ……」
    「そっかあ!だからそっくりなんだね!」
    「あの、リカさん。お姉さまって呼んでも……」
    「あー、リカちゃんでええで〜」

    白黒のロリータドレスに大きな丸メガネ。後頭部には2本の三つ編み。ペパーいわく抑えぎみのファッションのはずが、整った目鼻立ちが一層引き立ってしまっている。

  • 119二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 17:39:01

    (これじゃ変装の意味あらへんやん!)
    ドッペルは、冗談まじりで自画自賛してきた己の美貌を初めて疎ましく思った。

    「ご、ごめんな〜。チリ……リカちゃんら急いどるから、また今度な!」
    「ヾ(*ˊᗜˋ*) バイバイ!」
    「えー!」と後ろ髪を引く子どもたちの声を振り切り、西のゲートから校外に出た2人は、橋のたもとに停められた緑のミニクーパーへと乗りこんだ。
    「ところで、ホンマにこの車で行くん?」
    先ほどの生徒から貰った手のひらサイズのドオーぐるみは、フロントガラスの下に鎮座している。
    「(*´艸`)リップ♪リップ♪」
    オモダカやレホールとならぶ、大好きな遊び相手の名前を連呼しながら声を弾ませるチリには、ドッペルの問いなど耳に入らない。
    「……ものごっつ不安やねんけど……」
    行き先はベイクドタウン。
    ジムチャレンジの名物でもあるベイクド周辺の悪路の数々を、ミニクーパーでどう踏破するのだろうか。
    着せ替えに満足したペパーとアオイが去ったあと、2人のチリは、残ったオモダカとともにジニアのスマホに連絡を入れた。その時、なぜかジムリーダーのリップも連れてくるようにと彼から依頼されていたのだ。『彼女に時は満ちたと伝えてくれ』という言づてとともに。
    「でも、なんでリップさんなんやろ?」

  • 120二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 23:50:00

    そんな、座席に身をもたれさせたドッペルの疑問が解けるのはジニアの講義までお預けとなる。

    「ひゃあああ!!アカンアカン!死ぬ死ぬ死ぬ!」
    セルクルタウンを通り抜け、西1番エリアを突っ切ったミニは、三叉路を迷うことなく左へ曲がり、あれよあれよと洞窟に到達していた。

    「アカンアカン!ヤバいヤバい!チリちゃん背骨いかれるって!!車壊れるうう!!」
    本来なら、ライドポケモンでなければ走破できないはずのベイクタウンへの近道。だが、ハンドルの下にあるボタンが自慢げに微笑んだチリに押されるや、ミニの車底に仕込まれたスプリングが飛び出し、車がピョンピョンと小刻みに跳ねだした。
    「うおっ、うおっ!な、なんや!どないなっとんねん!?」
    「(`・ω・´) ドン ウォーリー!」
    いつになくキリッと正面を向いたチリのローファーが、アクセルを力強く踏みこんだ。

    「うわわわ!なんやなんや!!うわっ!?ひゃあ!?」
    着地のたびに襲いかかる凄まじい衝撃に車内を揺らしながら、スプリングに飛び跳ねるチリのミニが、大小の弧を描いて断崖を次々と飛び越えていった。
    「(`・ω・´) タイマツ!メジルシ!」
    「こ、このアホ、どうにかしてくれえ!!」

    鉄の塊が宙を舞う光景。車内から轟くくぐもったドッペルの悲鳴。洞窟に陣取るバックパッカーやドラゴンつかいの奇異な目がグリーンの車体に突き刺さった。

    「し、し、死ぬかとおもた……!」

    洞窟の中をくぐり終わるころ、額に脂汗をかいたドッペルが助手席から吠えた。

    「こんのドアホ!!チリちゃんらはゴムボールやなし!!無茶しすぎや!!」
    「(;´Д`)ハアハア」
    満身創痍なのはチリも同じようで、まばらな前髪を額に張りつけ、ゼーゼーとハンドルに突っ伏している。

  • 121二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 23:52:43

    「ハァハァ、ベイクタウンはすぐそこや……早く車を元に戻してくれへんか……」
    「( ̄▽ ̄;)……リップ♪」

    チリが再びスイッチを押し、ミニのタイヤが地に着いた。
    「あの人、こっちの世界でもモデルだので大忙しなんかな?」
    「(* ˊ꒳ˋ*)ウンウン」
    「アポとっときゃ良かったわ……出払っとらんならええけど……」
    さいわい、ドッペルの心配はすぐに杞憂となった。唖然とする出口近くのバックパッカーに「まいど〜……」「( ˊᵕˋ ;)ハ、ハロー」と手を振りながら、洞窟を脱出した2人。切り開かれた明るい道路からは、2人の人影が見えた。

    「離して!!リップはもっとゴイスーに……」
    「これ以上なる必要がどこにあるんだ!あの男は狂人だ!目を覚ませ、リップ!」
    「いや、いやあああ!」

    「( ゚д゚) リップ!リップ!」
    「リップさん!?あと後ろの人は確か……ど、どないしたんやろ!」
    街の入口。半狂乱のリップを白衣の女性が羽交い締めしていた。

    「だって、だって!リップじゃ、世界的なキハダちゃんに釣り合わないって、この間のチャレンジャーが!!」
    「そんなヤツの戯れ言、放っておけば良い!貴様を貶めるヤツはワタシが成敗してやる!今までと同じように!だから落ち着くんだ!」
    「もうキハダちゃんに迷惑かけるのは嫌なの!!」

    ポケモンセンターとショップの店員も、揉み合う2人を怪しげに眺めている。

  • 122二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 02:06:31

    ※追記

    リップ→自分に自信が無いネガティブシンキング。哀哀哀哀。「何でも言う事を〜」という条件も幼なじみから突きつけられた。
    (実力で倒したのだが)彼女がワザと負けたのだと未だに疑ってやまないレベルの気弱。

    キハダ→人体力学やバトル学を自分の身体や手持ちで試して博士号まで持っている、クールだが根は熱い世界的な教授。

    まさか勝つとは思わず、お願い事を用意していなかったリップに「これからもお前の親友でいさせてほしい、ではダメか?」と真顔で答えて号泣させたクーデレ

  • 123二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 11:20:40

    百合百合しさが増しておる

  • 124二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 13:33:42

    >>121

    「( 」゚Д゚)」<リーップ!」

    「チ、チリちゃん!!タイミングサイコーね!!」

    運転席の窓を開けたチリに、満開の笑顔で喜ぶリップ。ミニに駆けようとするものの、キハダが許さない。


    「(*`・ω・´) カム!カムヒア!」

    「行ってはダメだ!たしか四天王の……!リップを止めてくれ!」

    「キハダさん……でしたよね!チリ……リカちゃんらリップさんに用があって……」

    「そうなの!リップもジニアさんに用があって!」


    「(`・ω・´)トキワ ミチタ」

    「……!とうとうリップは生まれ変われるのね!」

    ウットリと空を見やるリップを抱きとめたままブンブンと首を振るキハダ。

    「リカちゃんたちにも、どえらい悩み事があるんですわ……んで、もしかしたらジニアさんが解決してくれるかも知れへんくって。」

    「ワタシたちとは無関係じゃないのか!?」

    「でも、相談する前にリップさん迎えに行けって言われとるんですわ。『時は満ちた』って伝えたら分かるって……」

    「はあぁ……!」


    「ダメだダメだ!あの男の甘言に乗せられるな!アイツは、人の尊厳ですら実験材料としか捉えていない悪魔なんだぞ!!」

    「なんか知らんけど、えらい強情やな……」

    「( •ᾥ•) イラッ」


    助手席からバタンと外に出たドッペル。押し問答に嫌気がさしたチリも、彼女に続いて降り立った。

    「あの、悪いようにはせえへんって通話で言っとりましたけど……」

    「ジニアにとっては実験の正否こそ全てなんだ!アイツの『悪くない』には倫理など含まれてない!リカと言ったか!見たところ、貴様はアカデミーに行くのが初めてなのだろう!だから知らないんだ!わが校の教師陣どもの危うさを!!」

    「いやぁ、それが何回かお世話に……」

  • 125二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 15:13:11

    「 (💢'ω')」
    誰が例えたか『アナキズムの権化』。自分や友達を邪魔する者、間の悪い者がチリは大嫌いである。今の彼女にとっての悪魔はキハダの方だ。

    リップを助けなきゃ!チリは唇に手先をあてがいながら、愛車のまわり――ベイク近辺に住む野生のポケモンたちを見渡した。ワタッコ、チャーレム、ビビヨン……
    「(*ˊᗜˋ*) アイツニ キメタ!」
    顔をほころばせたチリの目先には、日向ぼっこをしながらゴロンと寝入っているハラバリーの姿。ミニの後ろを開いたチリは、トランクに入った一対のジャンプケーブルを手に巻き取った。

    「( ̄ω ̄;) ……」
    そろりそろりとハラバリーに近寄ったチリ。大の字で寝そべるハラバリーのお腹に、赤黒の先端がプニッと挟まれた。
    「( ̄▽ ̄) ニヤリ」
    そして、緑のスマホをポケットから取り出し、画面を何度か叩いたチリは、スマホを原っぱに置いた。ハラバリーの耳元に置かれたチリのスマホは、20秒後にアラームがセットされている。
    「(*´罒`*)シシシシ」
    忍び足のまま、キハダの背後に近寄っていくチリ。頭の中で秒数をカウントする彼女の両手には、ケーブルの反対側――もう一方の端子が握られていた。
    「降霊術と称してレホール先生を生贄にささげようとしたり、怪しげなクスリを調合して部屋を爆発させたり……もっとも爆発に関してはジニアの仕業ではなかったそうだが……」
    「な、なかなかエキセントリックな人なんですね……」

    チリの存在など気づかないまま、キハダとドッペルのやり取りは続いている。「でも、リカちゃんを待ってる人かて山ほどおるんですわ!でも、元いた場所に帰るヒントがないと……」
    「勝手にすればいいだろう!キサマの境遇は知らんが、リップには指1本触れさせんとジニアに伝えろ!」
    「せやからリップさん連れてこいって……ああもう!」
    この世界の住人は、何故どいつもこいつもラチが明かないのか。ドッペルはペタンとまとめられた三つ編みの頭をボリボリと掻きむしった。

    「(`・ω・´)」チョンチョン
    「?……何だ」
    肩をつつかれたキハダが、リップから手を離して背後を向いた……瞬間。キハダの両手に、ジャンプケーブルの赤黒の端子が挟まった。

  • 126二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 15:14:02

    ピピピピ!!大音量でこだまするスマホのアラーム。飛び起きたハラバリーが、驚いた拍子に電気を放った。
    「バリバリバリバリ!!」
    「ほんぎゃふんぎゃら●★&@☆*&!!!?」
    全身を硬直させ、X字に跳ね上がるキハダの全身。
    「キハダちゃあああん!!?」

    ハラバリーの放電を生身に受けたキハダは、目をうずまきにしたまま、白衣をススに染めてコテンと真横に倒れた。

  • 127二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 17:15:15

    チリの説得に心を動かされたのか、もしくは生命の危険を感じたのか、キハダは渋々ながらリップの貸し出しを許可した。もちろん、自分が同行するという条件で。
    「リ、リカちゃんの親戚が無茶やらかしてすんません」
    「で、でも、モーマンタイで良かったわねキハダちゃん……」
    「……コレが無事に見えるのか?」
    アカデミーへと戻るミニの車内。リップと隣りあって後部座席に座るキハダの頭は、チャーレムを模した髪型のところどころがボサボサに逆立っている。
    ドッペルの必死の提案でバネは使われず、空洞のなだらかな斜面を降りたミニは、行きとは異なる海沿いの道をゆっくりと進んでいる。海に落ちる不安はあるが、車体を何度も地面に叩きつけられるよりはマシだ。
    「ジニアのヤツ、リップまで巻き込んで何を企んでいる……」
    「チリちゃんが迎えにくる前、『キミの望みが叶うかもしれない』って連絡があったわ……」
    「望みだと?」
    「……うん」
    顔を下げたリップが、苦々しそうに漏らした。

    「リップ、小さい頃から弱虫で暗くて、キハダちゃんに守られっぱなしで……」
    「誰が弱虫なものか」
    ピシャリと否定するキハダに構わず、リップは続けた。
    「キハダちゃんは世界が認めたゴイスーな先生。それに引き換え、リップは地方のジムリーダー……モデルだって、街をフラフラしてたらたまたまスカウトされただけで……」
    「こんなの釣り合わないわよ」と顔を覆ってすすり泣きはじめたリップの背中を、メガネをかけたキハダが摩る。
    「たしかに釣り合わないな。プロを認めさせた美貌。強さへの渇望をあきらめさせ、ワタシを研究の道に走らせた勝負の腕。こっちこそリップが羨ましいよ」
    「……リップがリップをいちばん嫌いなのは、その優しい言葉を素直に受け入れられないネガティブな心……!」
    運転手の荒い鼻息と混ざるリップの嗚咽。しばらくしゃくり上げた後、メイクの崩れたリップの顔がキッと上がった。

  • 128二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 17:16:50

    このレスは削除されています

  • 129二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 17:20:08

    「だから、ジニアさんに何ヶ月も前からお願いしてたの。『リップの性格を、どんなケツカッチンにも負けないぐらいマキアージュしてください』って!」
    「じゃあ、ジニアさんが言うとった『時は満ちた』ってのは……」
    「きっと実験の準備がパーペキっていうサインね!早くアカデミーに行きましょう!」

    「……ジニアめ。リップに狼藉をはたらいてみろ。ハリテヤマのベビーボンバーをお見舞いしてやる」

    高台を抜けて海沿いを後にしたミニは、時おりクラクションをけたたましく鳴らして野生を追い払いながら、アカデミーへとたどり着いた。

    『ククク。正門に着いたか。実験室から見えているよ。四天王やトップチャンプもお待ちだ。そちらの覚悟が出来たら、いつでも待つ。ヒャハハハ……』
    不穏な笑い声とともに通話が切れた。時刻はまもなく正午。ジニアとの約束の時間が近づいていた。ドッペルはスマホをドレスにしまうと、「ちょっとタンマ!」と3人に告げ、寮の部屋へと向かった。

    (こんな堅っくるしい格好、やっぱ合わへんわ)
    ドッペルは、論より証拠をジニアやキハダ達に見せるのも兼ねて、元の服装に着替えた。
    カッターシャツ、黒いネクタイ、そしてスラックスにドオー柄のポンチョ。

    カサッ。
    「おん?」

    スラックスに脚を通した時、ドッペルは尻ポケットに感触を感じた。
    「すっかり忘れとった!そういえば、こっちに来る前から入れっぱなしやったっけ……」

    元のポピーと写っている『はずの』写真を見つめたドッペルは、とある異変に目をまばたかせた。
    「……チリちゃん、こないに影薄かったっけ」

    ポピーに頬ずりしている自分の姿が、まるで透明人間のようにボンヤリと透けていたからである。

  • 130二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 17:28:23
  • 131二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 18:54:25

    aの世界から存在が消えかかってる!?

  • 132二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 00:27:48

    シリアスのターン

  • 133二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 10:19:00

    保守

  • 134二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 16:47:18

    part5

    「ククク……ようこそ4人のレディよ!」
    1階の実験室。
    「これから始まるのは単なる実験ではない。ミサだ!ヒャハハハ!!」
    リップとキハダ、そして2人のチリは、聴くものを蝋人形に変えてしまいそうなジニアの高笑いに迎えられた。
    「何故ならオマエたちは、これから起こる……であろう奇跡の伝道師となるのだから!」
    ジニアのテンションに恐れをなしたリップはキハダの二の腕にしがみついている。

    「ごたくはいい……リップだけではなくリーグの連中まで呼ぶとは、いったい何を企んでいる」
    カミソリのようなキハダの眼光。初めて見る者は縮こまってしまうほどの気迫にもひるまず、ジニアは大仰に両腕を広げた。
    「人聞きが悪いなあ。2つの悩みを解決できるチャンスなんだぞ?それも同時に。オマエの幼なじみからの依頼、そしてトップチャンプから聞いた……平行世界からの来訪者」

    「平行世界?来訪者だと?」
    黒板の前に並んだ大きな机には、すでに四天王の面々が揃っている。
    「おや、ミス・ゲンガー。わたくしたちが選んだ衣装は?」
    「ああ、いや。ちょっと暑くなったんで脱いでもうたんですわ」
    「そ、そうですか……」
    しょげるオモダカにナハハと苦笑いして、ドッペルは後ろのリップとキハダを見やった。

    「それに。ジニアさんはともかく、この2人に直に見せた方が手っとり早いと思うて」
    「たしかに、この場に限っては隠しておく方が回りくどくなるでしょうね」
    アオキの後押し。ハッサクとポピー、オモダカも無言で頷いた。

    「……リップさん、キハダさん。驚かんといてな」
    すっかり言いなれた前置き。ドッペルのポンチョが脱がれるや、幼なじみたちは同時に刮目した。

  • 135二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 16:49:05

    「まいど、チリちゃんやで〜」
    両手で塞がれた口から息を漏らしたリップ。入口のドアにガタンと倒れかかった彼女を、キハダが力強く抱きとめた。

    「チ、チ、チリちゃんが、ふた、ふた、」
    「貴様の名はリカではなかったのか!四天王が五天王に……!」
    「そうです。非常に嬉しくて厄介な事に」
    「『五天王』とは。なかなか的を射た表現をいたしますね、キハダ先生」
    2人のリアクションが期待通りで、オモダカとハッサクはクスリと笑った。

    「リップからの依頼。トップチャンプならびに我が友フトゥーから託された、チリにまつわる答え合わせ!……今日の宴にはメインディッシュが2つあるな。ヒヒッ、ヒャハハハ!」
    教壇につきながら、高笑いとともに両手を擦り合わせるジニア。フトゥーといい彼といい、パルデアのエキセントリックな者たちは、皆このクセを持っているのだろうか。

    「さあ席につけ!ミサの開始だ!」
    ニヤけたジニアの目線に追われながら、4人は空いている席に座った。教壇がよく見えるように、前列の2テーブルに分かれて。
    2人のチリは、アオキとポピー、オモダカと向き合って5人がけ。そして隣の机には、リップとキハダがハッサクと対面して3人がけ。

    「まずはリップのお悩みを解決……と行きたいところだが、その前にオマエらに問いたい事がある。」
    ニヤついていたジニアの表情がキリッと整った。
    「……アレ、誰がやらかしたか知らないか?」
    黒板そばの窓を指さしたジニア。ビクッと肩を上げたチリとポピー。ドクロマークの試験管があった場所だ。
    「いや、怒ってるワケじゃないんだ。ガキどもの好奇心は計りしれない。脅しの貼り紙など効果がない事は予想していた。」

    『入ったらマルノームのエサ』
    取り除かれた窓には、ガラスの代わりに透明なセロファンで塞がれているようだった。
    「ただ、命拾いしたなと感心しているのさ。強い悪運の持ち主とでも言うべきか。もちろん犯人がな」

  • 136二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 16:54:33

    ジニアを凝視しながら、ポピーは「えっ」と口の中で囁いた。チリも「(゚д゚;)……」と、言葉の続きをおそるおそる待ち構えている。
    「たしか緑色の煙が充満していたが、あれは反応が不完全だった証なんだ。」
    「「……ゴクリ」」
    「つまり、完全には混ざりきってなかったってワケだな。マタドガスの毒ガスを科学的に再現した薬液どうしがね」
    「(º言º) ゾッ」
    「マ、マタドガ……!」
    ジニアの目がポピーに刺さったが、とっさに口をとがらせてそっぽを向いた事で、何とかやり過ごせたらしい。

    「……続ける。
    でだ。あのガスが発生した時。おそらく犯人は、とてつもなく良い香りを覚えたに違いない。森林浴や……そう、入浴剤のようにな」
    首を縦に振りたくなる欲を、ポピーは必死にこらえた。
    「そりゃそうだ。マタドガスの毒ガスは、薄めると香水の原料になるからなあ。」
    「たしかに。リップがオキニのコロンにも、マタドガスのガスが入ってたわ」
    「そうとも。緑の煙は、ガスの濃度が低かった証拠さ。つくづく犯人は命拾いしたなあ。ヒヒヒ」

    「あ、あのー、つかぬ事をうかがいますが」
    「なんだいサラリーマン」

    もう聞きたくない。さっさと本題に入れ。嫌な予感しかしない。ポピーの危険本能が、悪寒と冷や汗になって全身をつたい始めた。

    「もし全てのクスリが完璧に混ざっていたら、どうなっていましたか?」
    「うん。アカデミーが死の海になっていただろうな。VXに匹敵する猛毒が発生してね」

    笑みさえ浮かべて、サラリと答えたジニア。目を見開いたアオキのアゴが、地面につくほど唖然とした。さすがの皮肉屋ハッサクも、チリを見つめたまま真顔でフリーズしている。

  • 137二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 16:55:20

    「そ、そ、そんなモノ部屋に置いて行くなあああ!!」
    キハダのツッコミが冴えわたる。
    「だって、誰も入らないと思っていたんでね。油断したなあ。ククク」

    (誰でも入れるところで、化学兵器なみのシロモノ作っとったんかいな……!?)
    ドッペルは、キハダが彼を危険視する理由が分かった気がした。事の大きさが分からないのか、オモダカはキョトンとしている。リップも同じく。

    そして、皿のように大きな目を潤ませて、真っ赤な頬を極限まで膨らませたポピーは、
    「チチチチ、チリさんチリチチチ……コ、コイツううう……!!」
    「♪~(´ε` ;)」
    目の前の緑オタクに、ありったけの怨嗟をぶつけていた。早すぎる閑話休題。騒ぎ声が収まるまで、しばし講義はストップした。

  • 138二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 23:10:41

    ほしゅ

    猛毒じゃねーかwww前のエピソードと絡めるの上手いなあ

  • 139二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 02:09:16

    >>137

    「……ではオマエら!これよりベイクジムのリーダー、リップへの実験を開始する!名付けて『人格改変』!!」

    「「「人格改変?」」」

    数分後。落ち着きを取りもどした実験室では、聞きなれない単語に、数名の声が輪唱した。

    「まずはこれを見ろ」

    教壇の下に潜ったジニアは、両手で抱えた七色の塊を教壇においた。


    「オーリムとか言った女博士(ドクトレス)を止めるためにパルデアのトレーナー全員で乗りこんだ際、エリアゼロから拝借してきた物だ。リップ。これが何か覚えているかな?」

    「テラスタルの結晶、よね?エリアゼロの木や底の方にビッシリ生えてた……」

    「その通りだ。そしてトップチャンプ達にも見覚えがあるはず」

    「ええ。わたくし達も、あれ以降エリアゼロには何度も視察に……」

    「……違う。違いますトップ!」

    大きめのイシツブテの身体ほどはある塊をしげしげと眺めていたアオキが口を挟んだ。

    「この七色の光……エリアゼロ以外に、この神秘的なかがやきが放たれる場所を、自分たちはもう1か所知っているはずです!」

    「……てらす池!」


    思い至ったオモダカは、ハッと息を吐いた。

    「ご名答!今から行うのは、キタカミのてらす池を擬似的にシュミレートする試みでもある!キヒヒ!」

    下卑た笑いとともに、もう一度かがみ込んだジニア。彼の足元からは、今度は大きな金ダライが持ち上げられた。

    「軽そうで意外と重いんだな、これが」

    ヒョイとだき抱えられた結晶の塊が、タライの中にズシンと鎮座する。そして、いったん準備室に引っ込んだジニアは、大きなペットボトルを2本持って実験室に戻ってきた。

  • 140二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 02:10:28

    「この水の中には、様々な成分が含まれている。100mlあたりにナトリウム1.0mg、マグネシウム0.2mg、カリウムが0.5mg……」
    「それが何だと言うんだ」
    「分からないのか。てらす池の水質を忠実に再現したものだ」
    ジニアにピシャリと言いこめられ、キハダは仏頂面になった。

    「では、このタライにキタカミの人工水を4リットルほど注ぎまして……と」

    トポトポトポ……
    水に満たされた金ダライからは、結晶の塊が水面から10cmほど顔をのぞかせている。
    「んでもって、部屋を漆黒に染めてもらおうか!」
    ジニアに促された一行たちは、窓側と廊下がわ、計9枚のカーテンを全て締め切った。すると……

    「(*゚Д゚) ホオォォ...」
    「この神々しい光は……!」
    チリとオモダカが、いつぞやの夜と同じように嘆息した。
    「サイズこそ違えど、自分たちが目にした池と瓜二つ……!」
    教壇から放たれる七色の光に、アオキたちも見入っている。
    「まるで、あの夜の池を切り取って、ここに持ってきたみたいですわね……」
    「……なるほど。合点が行きましたですよ。
    ジニア先生。あのチルタリスの放屁のような霧が生まれた原因は……」

    「いかにも!十中八九、テラスタル結晶のしわざだと我は推測している!」
    ジニアは腰に両手をやってそっくり返った。

  • 141二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 11:34:25

    保守

  • 142二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 12:02:22

  • 143二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 14:07:22

    >>140

    「……だが、整ったのは舞台だけだ。

    どんなに素晴らしい具材を手に入れても、それらの利用法や持ち味を知らなければサンドイッチが作れないように。肝心のレシピ――すなわちトリックを解き明かす必要がある!」

    薄暗い実験室。水に沈んだ結晶の塊だけが光源である。


    「さあリップ。こちらにおいで」

    懐の懐中電灯で足元を照らしながら、彼女の手を取り、優しげにエスコートするジニア。警戒して何度も前につんのめるキハダへ、これ見よがしにニヤついている。そろりそろりと教壇に歩を進めたリップは、ジニアの横に立った。

    「きれい……」

    うっとりと結晶に見入るリップ。

    「それだけじゃない。もっと驚くべき現象が起きる……かも知れないぞ!ヒヒヒ」

    七色のほのかな光にぼんやりと浮かび上がるジニアの笑顔。手を擦りあわせる姿は、明るい部屋で見るよりもいっそう不気味だ。

    「さてリップ。オマエに要求するのは1つだけ……なりたい自分を想像するだけだ」


    「へっ?」とリップのまつ毛がパチクリとまたたいた。

    「目を閉じて。深呼吸して。自分の理想の姿をまぶたに思い描け」

    腕ききのカウンセラーや催眠術師を思わせる、落ち着きはらったジニアの口調。心に染み入るジニアの声に従うまま目をつぶったリップは、鼻でゆっくりと息をし始めた。


    「何が見える?」

    「……真っ暗なだけ……」

    リップに集まる部屋中の目。響いているのはジニアと彼女の一問一答だけ。

    「結晶に手を触れてみろ。水に手を突っこんで構わない。濡れるのが嫌いでなければね」

    ゆっくりと頷いたリップは、目を閉じたまま手探りでタライに両手を突っ込んだ。チャプ、と音を立てて水面に波紋が広がる。

    「……ジニア、これは何を」

    「シッ」

    静寂に耐えかねたキハダを、引き締まった顔でジニアが制した。

    「リップ。オマエはどうなりたいんだ?念じろ。想像するんだ。なんなら口に出してみても良いかもな」

    「リップは……」

    瞑想したままのリップが、つややかな唇を折りたたんだ。

    「リップは、強くなりたい!勝負だけじゃない!身も心も!」

    気弱な彼女からは意外な、ハッキリと澄んだ叫び。

  • 144二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 16:09:12

    「キハダちゃんは優しいから!嫌な事があったらいっつもリップを守ってくれる!でも、それはリップのメンタルが激弱から仕方なく……」
    業界用語など挟む余裕もない。直したはずのメイクの上を、一筋の涙が流れていく。

    「そんな事はない!貴様は十分たくましくなったじゃないか!」
    「そんな事ある!!リップは1人で歩きたい!キハダちゃんの手をわずらわせるのは、もうウンザリなの……!」
    リップのアイシャドウは完全に崩れてしまった。キハダはへの字に眉をひそめた。自分では老婆心のつもりでも、幼なじみには負担だったのだろうか……
    チリのミニで泣いた時に負けないほど嗚咽するリップ。その裏返った泣き声が高まるとともに、金タライの光が徐々に強くなってきた。

    「その調子だリップ!もっと己を解放しろ……ヒヒヒ!」
    「誰からも認められる、キハダちゃんにふさわしい、ゴイスーでパーペキなジムリーダーになりたいよぉ……!」
    暗がりの中に浮かび上がる、小さな七色のてらす池。
    (チリちゃんらが見た時とおんなじ……!たぶん、こっちの世界のチリちゃんらが見たのともおんなじ光り方や!)
    「自分を卑下するんじゃない……!誰が何と言おうと、リップはワタシの最高の親友だ……昔も今も……だから……もっと自信をもってくれ……!」
    顔をしかめたまま涙ぐんだキハダが、とぎれとぎれリップに呼びかけた。その瞬間。

    「……ずいぶんと湿っぽくなりましたですね」
    「グスッ……ええ。お2人のやり取りに、わたくしも思わず涙が……」
    「違いますよトップ。物の例えではなく、本当に部屋の湿度が上がっていますよ」
    「ケホッケホッ……それに、何だか煙っぽいです……何が起きているのか、暗くてよく分かりませんわ」

    真っ先に異変に気づいたのはハッサクとポピーだった。

  • 145二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 16:13:55

    「あっ……ハッサク!まだ我のミサは……」
    「『さま』を付けなさい、アホのジニア先生」
    毒づきながら、暗い室内を迷いなく進んだハッサクが、入口そばのスイッチをパチンとつけた。
    「!!」
    明かりが戻った実験室。キハダやリップ、ジニアに至るまでもが目を見開き、全員がいっせいに教壇へ注目した。
    「これはまさか!ポピーたちがドッペルさんと出会った時の……!」
    「小生たちを包んだ、チルタリスの屁!」
    それは、2人のチリと四天王、そしてオモダカにとって大きな因縁がある現象。濃く白い煙が金ダライから溢れだし、全員が座る机までもうもうと漂っていた。
    「リップ、逃げろ!!」
    椅子から立ちあがったキハダが吠える。
    「ひっ……!」
    甲高く鳴くが早いか、リップの身体をあっという間に飲み込んでいく白い霧。
    「クソッ!」
    スラッとした白衣をはためかせて、キハダが教壇に突っ込んだ。
    「何をやってるリップ!さっさとタライから手を引っ込めろ!」
    「怖いけど離したくないの!生まれ変われるラストチャンスかもしれない……!」
    「これも有毒ガスならどうする!言ったろう!?ジニアは狂人だと!」
    「人聞き悪いなあ。人体には無害だよ。霧を浴びたはずのリーグの連中がピンピンしてるのが、その証だろうが」
    呆れた口ぶりでたしなめるジニアは、ちゃっかりセロファンの窓ぎわに逃げている。白い霧の中から、「手を抜け!」「嫌だ!」というキハダとリップの問答が聞こえること1分ほど。不意に口論が静まった。
    「……静かになりましたね」
    「アオキさん、見て!霧が晴れていきますの!」
    シュウウ……と音を立てながら、たちこめた霧がどんどん薄まっていく。テラスタル結晶の頭は、元通りに水面から覗いていた。

    「「……」」
    金ダライの前で棒立ちの2人。うつむいたまま一言も発さない。
    「……なんやなんや、気味悪くなってきたわ」
    「(;゚Д゚) キ、キハダ、リップ……ターミーネーター、トゥー?」
    「ありましたね!ロボットがタイムスリップして人を殺めまくるお話でしたっけ。わたくしはあらすじしか知りませんけど……」
    「チリさん、トップ。私語はよしなさい!
    ……ですが、確かにお2人とも壊れたロボットのように動きませんね……」

  • 146二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 22:59:50

    ハッサクとジニアは、険しい表情でリップとキハダを見守るばかりだ。

    「ジニア先生。何をやらかしたのかは知りませんが、これは失敗では?」
    「バカを言うなハッサク……先生。このレディたちは、じきに動き出す……事をオマエらも祈れ」

    さすがに年長者への呼び捨ては反省したのか、申し訳ていどに『先生』を付けたジニアだが、先ほどまでの自信はどこへやら、六角形のメガネ越しの瞳がしきりに泳いでいる。

    「ま、まさか死ん……」
    「ダメですよポピーさん!縁起でもない事を!……こ、この場合は病院に担ぎこむのが正解でしょうか、ハッサクさん!?」
    「警察に通報が妥当では?業務上……もとい、イカれメガネ過失致死で」

    「ま、待ちたまえオマエたち!まだミサが失敗したわけでは……!」

    ハッサクの言葉にジニアが両手を伸ばしてたじろいだ。その時。

    「んふっ。よかった。チリちゃん見つかったみたいね」

    「だが、他のジムリーダーはどうしたんだろうか?リーグ中が全員集まっていると聞いたんだが……?」
    顔を上げた2人が、同時に口を開いた。

  • 147二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 23:01:20

    まさか召喚じゃなくて入れ替わり!?

  • 148二次元好きの匿名さん24/03/15(金) 08:34:28

    保守

  • 149二次元好きの匿名さん24/03/15(金) 15:49:39

    「おい、キハダ!身体に異変はないか!どこかが割れるように痛むとか!」
    「お、おう。ど、どうしたジニア先生?今日は一段と押忍がみなぎっているな!」

    キハダの白衣の肩を掴み、キハダをゆさゆさと前後させるジニア。リップが目を覚ました事に安堵したチリも、ぴょんと席を飛び上がり、遊び友達にハグをしに行った。
    「ヽ(;▽;)ノ リップ! リップ!」
    「あらあら、チリちゃん。さてはロストしてる間に、リップに乗り換える気になった?」

    ドッペルには聞き覚えのあるフレーズ。リップの目はアナフシね……アナフシて……
    「\(*ˊᵕˋ* \ )」
    喜色満面のチリが、ハイタッチの体勢に構えた。
    「んふふ。今日のチリちゃん、ビューティっていうよりプリティーね。じゃあ、再会を祝して♪」
    チリとリップの両手が、軽やかにパチン!と重なった。
    「( ゚д゚)……!」
    「リップさん……?」
    チリとオモダカの顔が固まった。
    「?……あっ、もしかして痛かったかしら?」
    リップの不安をよそに、チリは呆然と手のひらを見つめている。
    「とってもソーリー……手袋とってみて。お肌に痕がないか……」
    「おそらく違います。チリが欲しかったのはハイタッチではありません」
    リップを凛と見つめるオモダカも、チリと同じ違和感を覚えた様子だ。チリと仲の良い者なら誰もが知っている、彼女特有のスキンシップ。

    「チリは、指を絡めて手をギュッとしてあげると喜ぶんです。彼女とよく遊んでくれているアナタが知らないのはおかしいでしょう?」
    「へ?へ?オモダカちゃん、言ってる意味がワケワカメ……」
    「(;`・ω・´) Who are you !?」
    「アナタは何者です!」
    「リップはリップってしか言えないわ。本業はメイクアップアーティスト……リップの辞書に哀しみはない。あっていいのは……」

    「驚きの美しさだけ、やろ?」
    リップが両手で口を覆った。

  • 150二次元好きの匿名さん24/03/15(金) 17:37:07

    「総大将、こっちのチリちゃん。多分そう。このリップさん、ウチの知っとるリップさんや!」
    「ミス・ゲンガーが知っている……まさかAの世界のリップさん!
    「( °-°) What the……」

    すでに見知ったはずの2人のチリに、またもや刮目したリップ。
    「ア、アンビリーバブル……」
    しかし先ほどとは違い、倒れそうになる事はなかった。一方のジニアも、人差し指をこめかみに当てながら、様子がおかしいキハダに事情聴取していた。
    「すると何か?オマエは望んで我のミサに来たと言うのか」
    「そうとも。チリさんが消えたヒントが見つかるとかなんとか……。ジニア先生の実験が見れると聞いてワクワクしてな!リップとエントランスで立ち話していたら遅くなってしまった。

    ドアを開けた瞬間に白いモヤが立ちこめていたが、もう実験は終わってしまったのか?」
    ゴニョゴニョとバツが悪そうに頬をかくキハダ。
    おかしい。彼女がジニアと親しげに話すなどゴローニャが空を飛ぶよりもありえない話だ。

    「性格改変は成功……なのか?」
    怪訝そうに眉を寄せたジニアは、くたびれた白衣のポケットから紙を取り出した。フトゥーから届いた、ブルーベリー学園での講義と変わらない内容が記された手紙。もちろん、あの直線AとBの図解入りである。
    「……いや違う。フトゥーの理論が正しければ、コレは『改変』ではなく『交換』!キーとなるのは、願いか!」
    キハダとリップ、そしてチリを流れるように目で追ったジニアは、窓際から教壇に戻りミサを再開した。
    「リップ。キハダも席に戻れ。いや、席につけ。ハッサク……先生の前だ」

  • 151二次元好きの匿名さん24/03/15(金) 18:38:56

    このレスは削除されています

  • 152二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 00:29:22

    交換てことはA世界にB世界のリップとキハダ行っちゃったのか…

  • 153二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 10:31:33

    保守

  • 154二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 16:27:03

  • 155二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 17:46:24

    (主です。リアルの仕事が多忙すぎて今日は日が明けるまで一日中書き込めないかもしれません。オチまで考えてありますが、規制を食らってスレ落ちしたら、某所にシリーズとして投稿を考えています。ご覧の皆様、すみません……)

  • 156二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 18:32:28

    ここ最近のssで1番好き

  • 157二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 20:46:19

    あげとくから主ファイト!!

  • 158二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 01:01:16

    無理すんなよー

  • 159二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 03:24:15

    このレスは削除されています

  • 160二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 03:29:28

    >>150

    「なんだか……いつもより怖いというか、とっつきにくいというか……いくら急を要するとはいえ、ジニア先生が誰かを呼び捨てなんてありえない」

    席につきながら、少し不快そうにキハダがボヤく。

    「キハダちゃん。見て。もっとゲキヤバな事が起きてる……」

    リップのしなやかな指が、向かいの席を差した。オモダカとアオキの隙間から見える、チリとチリ。2、3秒ほど目を凝らしたあと、キハダは両脇をあけて大げさに驚いた。

    「そ、そっくりさんか何かか!?」

    「そうではない。おそらく2人とも本物だよ」

    ジニアが素っ気なく否定する。

    「え、ええ。とても厄介で困った事に」

    今度の相づちは、2人の新鮮なリアクションに困惑したポピーのものだった。


    「……さてと。リップからの依頼は、まあ多少のイレギュラーは発生したが半分成功。

    ここからはミサの後半戦。すなわち、もう1人のチリを元の世界に戻す手助けをしてやろうと思う。我からすれば心底どうでもいいのだが、友であるフトゥーからも請われたとあっては放っておけない」

    ムッとしたドッペルやアオキをフォローするように、ジニアは付け足した。

    「それに。リップと、ついでにキハダの様子が変化した現象にも大いに関係がある……と我は推測するからだ」

    「変わった?何を言っているんだ、ジニア先生?今さっきここに来たばかりなのに……って、わたしはいつの間に白衣を……」

    「もう、さっぱりイミフ。2人のチリちゃんに、リップからの依頼?モデルの仕事をドロンして来てるんだから、言いたい事があるならナルハヤで頼めるかしら?」

    リップの口ぶりに、少しずつ苛立ちが滲んできた。

    「安心なさいリップさん。やりがいのある仕事の合間を抜けて講義を受けにきたのは小生たちも一緒です。

    ありきたりなカス映画や、新興宗教より胡散くさい美容グッズのイメージキャラクターよりは気に入ってもらえる案件ですから、素直に協力してくださいませ。ギャラは食堂のサンドイッチでご勘弁を」

    「お、お口チョベリバ……」

    皮肉たっぷりになだめるハッサクと、自身の知るハッサクとのギャップに、口を開けたまま呆然とするリップ。彼女の怒りがぶり返さないうちに、ジニアが柏手をうって話しだした。


    「……では、ミサの後半戦といこうか。ククク 」

    白衣のポケットから抜き取られたもう1枚の紙が、ジニアの手元で三つ折りを解かれた。

  • 161二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 11:33:52

    保守

  • 162二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 17:32:10

    >>160

    「これは我が友が記した手紙だ。計2枚ある。1枚目いわく、オマエらが遭遇した現象はこういう事になるんだろう」


    黒板に書かれた2本の直線。1本線で繋がったあみだくじ。四天王たちがブルーベリーで見せられたのと同じ図である。フトゥーと同じ概要を語るジニアの言葉を、リップもキハダもおぼろげながら理解はしたらしく、時おり首をかしげつつも口を挟む事はなかった。


    「ようはだな。先ほどの実験によって、A世界のチリをこちらに呼んだ時と極めて似た現象が起きたわけだ!だが、存在を交換するには至らなかった!と、我は推測する!この結晶の量では、パワーやエネルギーが足りなかったせいだ!」

    「パワー?エネルギー?一体何のでしょうか……?」

    アオキの質問に、チョークを持ったジニアの右手が勢いよく指された。


    「願いを叶えるパワーだよ!昨日レホールとフィールドワークで見てきたが、てらす池の底に輝いていたのは、間違いなく莫大に堆積したテラスタル結晶だ!」

    「……そういや、チリちゃんらが池を調べに来たのもハルトから話を聞いたからや!てらす池には、願いごとを叶える力があるかもしれへんって!」

    「願いごと……」

    呟いたポピーは、腕を組んで宙を見た。

    同じく腕を交差させ、アオキとハッサクも考えこむ。

    タライから覗く結晶、キタカミの人工水。リップの嘆き。バラバラだったはずのピースが、四天王(マイナス1人)、そしてオモダカの脳内で1つになりつつあった。そして。

  • 163二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 19:28:22

    「「「あっ」」」
    アオキとポピー、ハッサクの声は一瞬のズレもなく揃った。
    「「「チリ(さん)が、もっとしっかりしていればなあ……」」」
    てらす池を去ろうとした時、3人で(全くたまたま同時に)願ったチリへのボヤき。
    「(/ω\*)」テレッ
    「褒めていませんわ、チリさん。まさか……てらす池は、ポピーたちの愚痴を願いごとだと勘違いして……」
    「仮定としてはありえん話でもないだろう。……だが、それならば、2人のチリが入れ替わらなければならない。メンタルが強い女になりたいと願ったリップが、その結果――人格のみだが、Aの彼女と交換されたように」
    ハイテンションが鳴りをひそめたジニアは、ギャラドスのように鋭い目で、手もとの紙と2人のチリを代わる代わる観察している。
    「うんと、その……あの、つまりジニア先生がおっしゃりたいのは……」
    眉間に人差し指、額に手のひら、某ボウルジムリーダーのように側頭部を両手で抱え、

    「リップさんと……キハダ先生の変化を見るに、チリが増えた原因がさらにある?」
    目まぐるしくポーズを変えながら長考したオモダカが、瞳をギュッとつぶってしぼり出した。
    「よく絞りだせたな!そうとも!褒めてつかわす、トップチャンプ!」
    「考え事は、苦手です……」
    ふうふうと荒く息をしながら机にうつ伏せたオモダカの背中を、身を乗り出したチリが不安げに撫でた。
    「ちょっと。ジニアちゃん?だったかしら。
    メンタルも才能も、自分の力で磨き上げなくちゃ意味がない……やすやすと誰かの魔法に頼るわけないでしょう?」
    「……ほほう。なるほどねえ。つまり、我々の世界Bに住むリップの願い『だけが』叶ったと……」
    気だるい口調で、だが凛と自分を向いたリップの言葉に、うす気味わるい笑顔を浮かべたジニア。
    「ですが、キハダさんは願いなど唱えなかったはず。どうして彼女まで性格が入れ替わったのでしょうか?」

    アオキの言う通り、変化前のキハダは霧に巻きこまれた親友を助けようと必死で、願いごとを口にする余裕はなかったはず。
    「……日ごろから悩んでいたとすれば?」
    だが、長らく沈黙していたハッサクには、思い至るフシがあったらしい。

  • 164二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 23:51:35

    保守

  • 165二次元好きの匿名さん24/03/18(月) 06:00:07

  • 166二次元好きの匿名さん24/03/18(月) 14:53:55

    保守

  • 167二次元好きの匿名さん24/03/18(月) 16:32:25

    「ハッサク……先生。話の意図が分からん」
    「はあ……アホのジニア先生。実験の最初、リップさんに瞑想させていましたよね?理想の姿を思いえがけだの。

    それと同じように、キハダ先生には悩みごとが……つまり、日ごろからお願いを念じていたのかも知れないという意味ですよ。霧に包まれた瞬間まで、ずっとね」
    「キハダの悩みだと?」
    ボサボサの頭を指先でときながら、ジニアの顔がしかめられた。
    「そういえば、以前キハダ先生から相談を受けたことがありましたね……」
    「ど、どんな?どんなカミングアウトをしたんですか、わたしは!」
    着慣れない白衣の感触に左右の肩を回しつつ、耳をすませるようと身を乗り出したキハダ。

    口はニッコリほころび、その目は友人の恋バナでも待ち構えているように爛々と輝いている。机に両手をついて半立ちになった彼女の体勢に苦笑いし、オモダカは続けた。
    「その、そういう話ではありませんでした。相談を受けたんです。『生徒から慕われる教師になるには、どうすればいいのか』と」

    感情豊かで気立てのいいオモダカはもちろん、
    まるでおとぎ話のような語り口と明るく優しい性格で万人から親しまれているレホール。
    荒々しくも生徒1人1人を大切に想っている熱血なタイム。
    皮肉や毒舌でやる気を試すものの、それに耐えきり懐いた生徒には分け隔てなく接し、すでに将来のジムリーダー候補を何人も育てているハッサク。
    オモダカいわく「他の教師やリップと違って自分には何も無い。イヤな女だから生徒も怖がるんだ」と理事長室で泣き崩れたという。
    「……いい教師なんて、目指してなれるものではないと思う」
    自分では想像もつかない悩みに、Aのキハダはかしげた頭にハテナを浮かべた。

  • 168二次元好きの匿名さん24/03/18(月) 16:34:27

    このレスは削除されています

  • 169二次元好きの匿名さん24/03/18(月) 16:36:19

    このレスは削除されています

  • 170二次元好きの匿名さん24/03/18(月) 22:30:01

    オレホシュー

  • 171二次元好きの匿名さん24/03/18(月) 23:27:13

    このレスは削除されています

  • 172二次元好きの匿名さん24/03/19(火) 07:35:48

  • 173二次元好きの匿名さん24/03/19(火) 14:45:17

    >>167

    「小生も似たような事をBのアナタに言いました。

    こっちだって、憎まれ口を利きたくて利いているわけではないと。どんなに突き放していても、アナタの本心に生徒は必ず気がつく。そんなに教え子が信用できませんか?とね」

    こちらのハッサクも、口こそ悪いが指導者には向いているようだ。初めはハッサクのギャップに戸惑ったリップもキハダも、その言葉には大きく頷いた。

    「……まあ、そう言ったら彼女、かむりを振ってボロボロと泣きだしまして。これは手に負えないと思い『トップに相談したら?』と丸投げしたのですがね」

    もがいて伸びをしたハッサクは、照れ隠しに「ははっ」と笑った。

    「……ククッ!では、我の予見した通りかもな!」

    そして、不敵な声が一同を教壇へと注目させた。

    「リップ!それにキハダ!2人が元の世界との『交換』だけにとどまった理由は、願いが一方通行だったからだ!!」

    Aのリップもキハダも、願いごとなどしていない。Bの2人の願いに巻き込まれただけ。

    「ところがだ。チリの場合、Bの四天王どもと全く同じタイミングで池に立っていた、Aの何者かが願った内容まで同時に叶ってしまったワケさ!」


    講義を清聴していたドッペルの胸が不意に痛んだ。チクリ。

    「Bの池ではチリの人格改変が願われた。だが、それならば2人のチリは存在が交換されなければ不自然だ!Aの彼女が流入したならば、代わりに我々のチリがAに送り出される。という具合にな!」


    チクリ。

    「と、いうことは!」

    「「「と、いうことは?」」」


    何度目か分からない数名の合唱。チクリ。

    「Bの世界で、チリの消滅もしくは失踪を願った者がいる。と我は推測する」

    「ッ……」

    ズキリ。

    『チリちゃんなんか大嫌いですの゛っ!!!どこかに行っちゃえっ!!!』

    ドッペルの耳にポピーの怒号がこだまする。

    本当に仲直りできたかも疑わしくなってきた。

    あの瞬間まぎれもなく、ポピーは本気でチリが消えることを願ったとハッキリ分かってしまったのだから。

  • 174二次元好きの匿名さん24/03/19(火) 14:49:12

    手を組んだヒジを支えに頭を垂れたドッペル。
    「……そちらのポピーさんと大ゲンカ、でしたっけ……」
    アオキのいたましげな問いかけに、ドッペルは力なくコクリと首を振った。

    (ポピー……会いたいけど、会うの怖いわ……)
    スラックスの尻ポケットから、だるい手つきで取り出されたポピーとのツーショット。それを見たとたん、チリの赤い瞳がギョッと丸くなった。
    「ジ、ジニア先生!これ!!」
    「どうした……これは!」
    教壇の外を回ってドッペルの側にきたジニアは、写真をパシッと取り上げるや、六角形のメガネを直し直し写真を食い入るように観察した。

    ポピーの隣に写っていたはずのドッペルの姿が、教師の寮で確認した時よりもさらにぼやけ、髪のなごりである緑色のシミを除いては、背景の壁と見分けがつかなくなっている。

    「オマエ!無かったことになりかけてるんだよ!」
    「ど、どういうことやねんな!?」
    「オマエは我々の世界に馴染みすぎたんだ。その代償として、パルデア四天王のチリという人物の概念そのものが、A――すなわち元いた世界から消えようとしているのだよ!」
    写真を見ようとジニアを取り囲んだ他の面々も、にわかにざわついた。

    「って事は……チリちゃん死ぬん……!?」
    「死ぬ方がまだマシだろう。誰かに悼んでもらえるんだからな」

    生唾をのむドッペルに、ジニアの返答が突きつけられる。

    「こちらの世界にこのまま滞在すれば、オマエはひっそりと消え失せる。Aの時の流れからも。そして、全ての人間の記憶からも」

    「は?」
    ドッペルの顔が青ざめた。

    「衣服に穴が空いたら布をあてて繕うだろう?それと同じさ。時の流れは、人1人の帰りなど待ちはしない。Aの世界は『チリという人物など初めからいない世界』へと修復されてかかっているのだろう」

    大げさに両腕を広げたジニアだが、面持ちは至って真剣である。ポピーの顔も蒼白になり、アオキは歯がゆそうに額をかかえ、腕組みしたハッサクは、何やら考えこむように一点を見つめていた。

  • 175二次元好きの匿名さん24/03/19(火) 16:22:30

    「……ミス・ドッペルゲンガー。アナタはどうしたいとお考えで?」
    「お、おん?」
    「元いた場所に帰りたいのか。それとも、こちらの住人として余生を全うするか」

    「……ウチは……」
    ジニアの背後に立つハッサクに顔を向けたまま、ドッペルはしばし瞳を揺らして逡巡した。
    「奇遇だな、ハッサク……先生。我も同じ事を問おうとしていた。Aのチリ。そしてリップ、キハダ。お前らはどうする。帰還するか否か」
    「そりゃあ帰りたいさ!チリさんが無事だと、わたしの仲間たちに伝えなければ!」
    「それに、見た目は皆クリソツなのに、中身は知らない人たちみたいでムズムズしちゃうもの」
    2人は即答した。しかしドッペルは、うつむいたまま微動だにしない。

    「ポピーに……また嫌われてまうかも」
    「大丈夫です!仲直りしたんでしょう?ポピーなんか、こちらのチリさんを何度どやしたか分かりませんもの!それでもチリさんは、何だかんだでポピーにも懐いてきますし。ケンカだって、案外そんなものかも知れませんわね!」

    座席に立ったこちらのポピーが、腰に手をやりふんぞり返った。
    「ポピーさんの言う通り!そんなものです!
    ……恥ずかしながら自分も、一度だけトップと大ゲンカしまして。一日中ムシし合ってたんです。
    しかし、帰る途中の廊下でバッタリと出会ったとたん、どちらからともなく号泣して手を取りあいました。それで、ひとしきり泣いたらスッキリ!あとは笑顔でまた明日!それでケンカは終わりました!」

    「……ポピー、アオキ。決めるのは彼女です。どんな選択をしようと、わたくし達はアナタの意思を尊重しますよミス・ゲンガー……いいえ、チリ」
    Aのオモダカを思い出させる、しっとりとした声と力強い微笑み。うつむいたまま、ジニアから静かに置かれた目の前の写真を凝視したドッペル――Aのチリは口を開いた。

    「……ウチは、チリちゃんは」
    Aのチリの脳裏を、様々な記憶が去来する。
    面接にハキハキと答えるネモの眩しさ。ジムチャレンジに挑むハルトの姿。無気力なサラリーマンの代わりにハッサクを呼ぶ自分。朝焼けに映えるリーグの頂上。アカデミーの広場で一進一退の勝負を繰り広げる2人のチャンピオン。
    そして、ポピーと擦り合わせた頬の感触。Aのチリは顔を上げた。

    「……チリちゃんは帰る!」

  • 176二次元好きの匿名さん24/03/19(火) 16:26:31

    実験室の静寂を、凛としたコガネ訛りが破った。
    「チリちゃんらの世界もジムチャレンジの真っ最中や。長いこと穴あけるなんか出来ひんし!面接を待っとる子らが山ほどおんねん!
    はよ帰って、ドオーらのコンディションも整えたらなあかん、それに……」
    まくし立てていた口がピタリと止まった。Aのチリの頬を、一筋の涙がつたっていく。
    「それに……ポピーに会いたい……!写真……かえさなあかんねん……!アオキさんにも、ハッサクさんにも、総大将にも会いたい……!」
    一言ずつ放たれるとともに、涙の筋を増やしつつ、彼女は子供のようにすすり泣いた。
    「大丈夫……大丈夫ですよ、ミス・ゲンガー」
    オモダカが席を立ち、対面の彼女に寄ってきた。

    「きっと上手く行きます。わたくしの予言って、よく当たるんですよ?」
    真っ赤に泣き腫らした彼女の耳に顔を寄せ、両肩を手繰り寄せたオモダカ。2人の健気な姿に、Bアオキも目を押さえながら震えている。Aチリが泣き止むのを待ち、ジニアが号令をかけた。

    「……長々とすまなかったな、諸君。次の実験(ミサ)をもって、この講義は終了だ」
    「驚きましたね。アホのアナタに『謝る』という選択肢があったとは」
    「オマエたちにだけではない。その……この講義を見続けてくれている、全ての者たちへの言葉だ!」
    「はあ……」
    ジニアの要領を得ない返しに、ハッサクは珍しく言葉を濁した。

  • 177二次元好きの匿名さん24/03/19(火) 23:23:36

    支援

  • 178二次元好きの匿名さん24/03/19(火) 23:25:01

    すげえ!序盤が生きてきた!

  • 179二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 08:51:42

    保守

  • 180二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 17:44:18

    がんばれ上げ

  • 181二次元好きの匿名さん24/03/21(木) 00:15:57

    面白い

  • 182二次元好きの匿名さん24/03/21(木) 09:55:19

    皆さまありがとうございます!
    文章を煮詰めたい&残り20レス足らずではキリのいい場所まで収められるか不明なので、ある程度書き溜めしだい、ここから先は次スレに書こうと思います。

    アホチリに振り回される本編チリを描こうと思ったらムチャクチャ長くなってやんの……

    もしこのスレが生きていたら次スレ貼ろうと思います。

  • 183二次元好きの匿名さん24/03/21(木) 11:40:05

    >>182

    待ってる

  • 184二次元好きの匿名さん24/03/21(木) 19:33:41

    ゆったり保守して待つ

  • 185二次元好きの匿名さん24/03/21(木) 23:22:33

    待ってるよー

  • 186二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 08:52:44

    ほっしゅ

  • 187二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 17:54:26

    保守

  • 188二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 23:53:13

  • 189二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 09:07:16

    伏線回収がうまいんよ

  • 190二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 17:36:49

    めちゃくちゃおもしろいからまってるよ

  • 191二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 17:50:58
  • 192二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 18:36:09

    続きだー!
    こっちのスレも200まで埋めよ

  • 193二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 19:08:55

    知ってる人いるか分からないけど、この作者が書いた伝説の「尊い犠牲」スレがどんな感じになるのか見てみたくなった

  • 194二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 19:14:55

    このスレ見てから尊い犠牲読むと情緒が死ぬぞ

  • 195二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 20:14:54

    過去スレを「尊い犠牲でした」で検索すると読めるけど死ネタとか鬱展開苦手な人はやめた方がいい系の閲覧注意なんで気になった人気をつけてね

  • 196二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:51:07

    朝アニメのショタみがあるチリちゃんだな
    このルックスと低音で中身はアホの子なら確かに刺さる奴は骨抜かれるわ

  • 197二次元好きの匿名さん24/03/24(日) 00:00:39

    ksk

  • 198二次元好きの匿名さん24/03/24(日) 00:52:15

    次スレも楽しみ

  • 199二次元好きの匿名さん24/03/24(日) 01:44:31

    絶対プロ志望ではあると思う
    そう思うぐらい三人称一元視点の使い方が上手すぎ

  • 200二次元好きの匿名さん24/03/24(日) 08:44:13

    次スレへGO

オススメ

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