- 1二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 19:32:39
トゥインクルシリーズを優秀な成績で終えた私とトレーナーは、来秋の遠征へ向けた療養目的も含め、温泉旅行に来ていた。
福引きで旅行券を当てたのは、もう一年以上も前のことになる。
ある日、トレーナーがふと思い出してくれたおかげでここに来ることになり、改めて今日自分が置かれた状況を突きつけられた。
私とトレーナーは、付き合い始めてまだ半年も経たない恋人同士だ。2人きりで泊まりの旅行に来るのは今回が初めてだった。
つまり、お泊まりデート、ってヤツだ。馴染みのヤツらが知ったら何て言うか、想像しただけで頭痛がする。洗いざらい吐かされる結末が見え見えだ。
ま、帰った後のことは追々考えるとするか。
さて、肝心の温泉はというと。
同性だから別に同じタイミングでも良かったんだが、成り行きで別々に入ることになった。
……チッ。しょうがねえ、まだお預けってこった。 - 2二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 19:33:02
同じ部屋で過ごす風呂上がり。2人だけの静かなお忍びデートは、次から次へとけたたましく鳴るスマホの通知にぶち壊された。
何もかもを置き去りにして、脱兎のごとく旅館を出る。
外は暗くとも思考まで黒く塗りつぶすことはできなくて、衝動的に抜け出したその先で、抱えていた本音が零れ落ちた。
本当は、プレッシャーから逃げ出したくて。その隣には、トレーナーがいてほしくて。
呆気に取られる彼女の手をとって、夜の海に駆け出した。まるで元からそうするつもりだったかのように脚が自然に動いて、爪先から足首へ、闇に溶け込んでいく。
もっと上手いブラフあんだろと心の中で独りごちながら、らしくもなく誤魔化した。
私がどこに行っても、アンタなら必ず一緒に来てくれるって、手を離さないって分かってるから。
駆け落ちも、心中も、アンタと一緒がいい。
「また一緒に、ずぶ濡れになってくれよ」
「……うん!」
月明かりの下、手は繋いだままで駄弁って笑って歩いていたら、全て吹っ切れたような気がした。
2人して潮まみれになっちまったから、温泉にもう一度入り直しだ。 - 3二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 19:33:41
今度こそは、という思いでトレーナーを風呂に誘った。少しばかり躊躇いの色が見えたが、一応了承してくれたから良しとするか。
私達は最低限の言葉しか交わさず、着替えさえも背中を向けて、悶々としながら湯船に浸かった。
気恥ずかしいのはお互い様のようで、身体にはタオルを巻いて微妙に距離をとっている。
熱い湯の中で相手の指先を探し、軽く触れるとそのまま手を重ねた。
――そっちから一緒に入るのを誘ったりとか、もうちょっと視線をこっちに向けるとか、してくれたっていいじゃねえか、意気地無し。
私はここで、とある賭けに出ることにした。
……ま、クソ真面目なアイツのことだ。
彼女は今夜、何もせずに寝る方にベットする。
この後トレーナーの部屋へ行って、私の誘惑に見事耐えることができれば私の勝ちだ。
……本当は、読みが外れることを願ってる。この勝負は、負けてもいい。負かせてほしい。今日限りは、私が勝ってもヒリつかない。
普段は、アンタのことを信じてる。
でも今夜だけは裏切ってくれ、私の答えを。 - 4二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 19:34:58
「あれ、フェスタ? どうしたのそんな険しい顔して……。……いいよ、おいで」
な、何だよその口ぶり……。まさか「大きなレースを控えててナーバスになってるから」って思っちゃいねえか? それはさっき夜の海に捨ててきたばかりなんだがな。
……あのなあ、一応2回とも『そういう意味』で邪魔したんだぜ?
もう付き合って数ヶ月経つし、私もそれなりの歳だ。ぼちぼちもう一歩踏み出してもよくねえか。真剣交際なんだろ、私達は。
律儀に卒業を待ってんのか、それとも……私の身体じゃ、物足りねえのか。
深夜0時の鐘が鳴る。教え子のドレスはもう脱いだ。窮屈なガラスの靴なんて、右も左も捨てちまえ。
さあ、アンタも脱ぎな。とっくに魔法は解けてるぜ。ありのままのアンタで、私を追いかけてくれよ。
おいで、と広げた腕に、遠慮なく飛び込んだ。
「わっ……! ふふ、今日のフェスタは甘えん坊だね」
「……アンタは、その……したく、ねえのか」
「えっ!? あ、えっと…………貴方がいいなら、したい、けど」
「だったら……!」
私の腕の力が強くなるのと比例して、堰を切ったように想いが口をついて溢れ出る。
ひとつも零れてしまわないように、彼女の柔い身体が軋むほど、固く抱きしめながら。 - 5二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 19:35:18
「……先へ、進もうぜ。一緒にさ」
「フェスタ……」
「私は……っ、私は、アンタのことが好きで好きで堪らねえんだ。ずっとこうしたいと思ってた。アンタになら全部見せたっていい、だから……!」
トレーナーの腕が、壁の方へそっと伸びる。
プツン、と音がした。
気の所為と言われりゃそれまでだが、電気が消えるのと同時に、彼女の胸の奥からも。
「……いいの?」
私を抱きしめ返した手が、身体をなぞったその瞬間。
飢えた成獣の咆哮は、甘えた仔猫の鳴き声へと変わった。
魔法をかけるのは、指先ひとつで充分だった。
身体も、思考も、互いの境界線までも、甘美な熱に溶かされてゆく。
夜明けはもう、すぐそこだ。 - 6二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 19:38:13
おしまい!お粗末さまでした
トレーナーと次のステップへ進みたくて頑張るフェスタのお話でした
今回は注意書きをなくして1レス目からぶっぱなしてみましたがどうですかね
ちなみに後日譚もあるので来週辺りにでも上げられたらいいな〜って感じです - 7二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 20:07:18
- 8二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 20:08:01
- 9二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 20:09:05
- 10二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 20:09:09
良いものを見た、ありがとう
- 11二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 20:10:03
- 12二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 20:44:58
大人百合は良いぞ…魂が回復する…
- 13二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 21:29:23
- 14二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 23:18:31
このレスは削除されています
- 15二次元好きの匿名さん24/03/05(火) 23:34:38
我、こういうオトナな雰囲気の作品すき。
こういう匂わせ感がたまらん。 - 16二次元好きの匿名さん24/03/06(水) 00:02:43
- 17二次元好きの匿名さん24/03/06(水) 08:08:39
今から後日談が楽しみなんだけど、保守っておいた方がいい?
- 18二次元好きの匿名さん24/03/06(水) 08:22:36