ここだけダンジョンがある世界の掲示板 イベントスレ 第197層

  • 1GM24/03/06(水) 21:00:25
  • 2GM24/03/06(水) 21:02:08

    今回のイベントはSS投稿がメインとなります。書き込みの方針は以下にお願いします。

    ①内容について
    ・SSの形式及び分量は自由。
    ・挿絵、イメージ曲の貼り付けもOKです。
    ・長すぎる場合にはテレグラフを推奨するつもりでしたが規制が……
    ・なので今回は長くてもそのままスレに投げて大丈夫です。類似サービスを使ってもOK
    ②投稿時の注意
    ・今イベントではコテハンに題名、冒険者名等なにかしらの記入をお願いします。SSが複数レスに渡る場合にはコテハン先頭か末尾に#1、#2…みたいな感じでページ数を振って下さい。
    ③イベント進行
    ・3月6~10、水曜日~日曜日まで。
    ・投稿されたSSは実況スレで実況される可能性があります。

  • 3GM24/03/06(水) 21:03:03

    【クエスト名】辿る道を夕日に
    【クエストランク】なし
    【時刻】(※今日~10日まで)
    【報酬】1000G
    【概要】
    光陰矢の如し。既に5000層も間近です。その物語を一度振り返ってみませんか?

  • 4投稿例:依頼主からの一言 ◆tsGpSwX8mo24/03/06(水) 21:03:53

    こんにちは。もしくはお久しぶり。名をアリエス・ハート、今回の依頼主です。
    この私めは絵本作家をしていまして、仕事柄子供と接する機会が多くてですね。時には色んな所で自作の本を読み聞かせる機会を頂くわけですが、その際こんな事を聞かれます。

    「〇〇(どっかのギルド名)に行ったことある?」
    「〇〇(冒険者名)に会ったことある?」
    「〇〇(冒険者名)の話を聞かせて!」

    ……困りました、答えに窮することが多いのです。
    かくなる上は依頼です。貴方たちの物語、是非とも聞かせて下さいな。

  • 52 投稿例:依頼主からの一言24/03/06(水) 21:05:28

    追記:ギルドに投函用ミニポストを設置しています。協力の際はそちらに。
    (end)

  • 6GM24/03/06(水) 21:07:43

    (※#の後に文字入れるとトリップになることを完全に忘れていました)
    (※…このミス前もやったな)
    (※…まあ皆さんが投稿する際はいい感じに番号付けといてください)

  • 7GM24/03/06(水) 21:09:39

    (※そんでもって保守のため10まで伸ばします)

  • 8GM24/03/06(水) 21:10:00

    (※保守)

  • 9夜想誘爆24/03/06(水) 21:10:13

    保守しますー

  • 10GM24/03/06(水) 21:10:21

    (※time to 保守)

  • 11GM24/03/06(水) 21:11:55

    (※保守感謝します)
    (GMから書くことは以上、以降自由に投稿して大丈夫です)

  • 12『“仮面”の男』①◆9f8bDhLAIE24/03/06(水) 22:53:19

    (※立て乙です!早速投下させていただきます)

    【私は─────“拙者”は侍に憧れていた】
    【故にこそ、鍛冶の家に生まれたのは幸運だと思っていた】
    【生まれながらに側には剣がある、刀がある、血の如き鉄の臭いがする、それだけで剣の道を志す理由など十二分であった】

    【だが、私の目の前には二つの巨星があった】
    【一つ、若き天才と評された名工を継ぐ者】
    【一つ、稀代の英雄と謳われた者】
    【私は幼少の頃、その二つの星に『目指すべき星』を打ち砕かれてここにいる】

    『少し足りねーな、創真の動き真似してみろ』
    『次代の正宗は初代に並ぶ「神の作り手」と噂されている、お前は何か得られたか?』
    【ああ─────煩わしい】
    【私の剣の腕は侍に程遠いと剣聖に見抜かれ、鍛冶としては名工の名を賭けて天才と比べられる】
    【何が残るというのだ、この私の胸に燻る空虚に何が残るというのか】

    【だが、その私を拾い上げるのは常にあの双つ星であった】
    【千字創真、天手院正宗……あの二人は、既に溶け折れたような刀身の私でも見捨てない】
    【才能に恵まれた者はその心根まで清廉なものというのか、劣等感に苛まれた私はふと思う】
    「かつて目指した行く末が、お前たちと並んでいる未来だったらどれほど幸福だったものか」

  • 13『“仮面”の男』②◆9f8bDhLAIE24/03/06(水) 22:56:29

    >>12

    【ある日、“拙者”は家を出た】

    【後継を家の者に託し、全てを捨てて己の在り方を探し求めたのだ】

    【拙者にとって生まれた時から欠けていた“それ”は、何よりも欲してままならないものだったからだ】

    【父上は何も言わなかったものの、姉上は私を最後まで引き留めていた】

    『わっちは姉としてあんたを見てきた、なのにこの様はなんだい!侍に憧れた?童みたいなこと言ってんじゃないよ!

    ソーマとマサムネを追いかけようとしても、あんたじゃあの二人にはなれないし、あの二人もあんたにゃなれない、それがどうして分からないってんだ!』

    【ああ姉上よ、貴女には分かるまい】

    【私は「侍」という憧憬を追い求める夢想家になりたいわけではない、これは拙者の生き方に対する宿命なんだ】

    【生まれる前から剣を求め剣の家に生まれた、ならば後は─────剣に生涯を捧げるまで】


    【神は愚かしい私に情けを与えたのか、この道行に一つの手土産を与えてくださった】

    【“妖刀”、『八卦之掌』】

    【刀と言うにはお粗末な脆く斬れない鈍、だが何者にも劣らぬ一太刀を秘める鐡】

    【これと出会えたのは正に幸運であった】

    【私と似た「嘘偽りで固めた“拙者”と同じ偽りの剣」、同情はしない、だがそれ以上に私はこの剣に魅入られていた】

    『いつかこの脆く薄い刃を、我が宿命の星を砕きし強者たちの喉元へ触れさせる』

    【拙者の目指す剣の道はここにて始まり、そして“私”はその日から「仮面」を被り始めた】

  • 14『“仮面”の男』③◆9f8bDhLAIE24/03/06(水) 23:01:28

    >>13

    【時は経ち、私は冒険者と為っていた】

    【極東のギルドをふらりと回り、斬るべきものを求めながら背負った鐡と腰の刀を揺らしている】

    【そんな折に創真の話を耳に入れた、アイツはセントラリアという異国で冒険者として名をあげているらしい】

    【セントラリアのギルドは強者が集う冒険者の総本山、この出会いは好機と踏んだ拙者は幾年ぶりに実家に顔を出した】

    【こちらを「若」と呼び慕う家の者を他所に拙者は、最奥で構える絢爛豪華な遊女に謁見した】


    『久々だね、小次郎』

    「姉上……いや“大典田景光”殿、お久しゅうござる、不肖小次郎こちらに戻りました」

    『すっかりサマになってるね、侍の真似事』

    「……何を世迷言を、拙者は元から侍でござろうに、遊郭の女王ともあろう方が、実の弟の身の上を分からないはずがあるまい」

    『バカだね、わっちの人を見る目は確かさ、あんたは昔っから何も変わらない、駄々っ子の小次郎のまんまさね』

    「……好きに言いなされ、しかしこの道は拙者の本懐である故、道を違うつもりは毛頭ありませんぞ」

    『ああそうかい、全く……聞いたよ、せんとらりあの国に発つんだって?マサムネを追いかけた次はソーマの後追いかい、アイツにはテツって言う弟分がいるのに、あんたまで行ったらお守りは大変だろうよ』


    【歓談を行う姉弟の間には溝のようなものがうっすらと刻まれていた】

    【遊郭街の女主人“輝夜姫”、刀剣を集めしサムライ“小次郎”、彼らは極東の大刀匠“大典田景光”の血を継ぐ者たちであった】


    「セントラリアには数多の強者が待ち受けていると聞きます、剣士として拙者は其処へと向かわねばならない」

    「……以前父上が話された後継に関する盟約の期日ですが、拙者は家を出ます故、やはりこれまで通り姉上が継ぐ流れでお願いしたい」

    『……つくづくバカだね、お父はお前の作る刀に惚れ込んでいたってのに、それすらも捨てて成し得もしない“剣の道”とやらを進むのかい』

    『そんな道で得られたもので何になるってんだか、わっちにはもうあんたが見えないよ』

    『小次郎……あんた“何”に取り憑かれてるんだい?』

  • 15『“仮面”の男』④◆9f8bDhLAIE24/03/06(水) 23:04:00

    >>14

    「……刀匠が目指すものと同じですよ、『私』は剣に取り憑かれている、今も昔もただその一点を見続けている」

    「私を浅ましい鈍物と罵りますか、姉上」

    「ですが、私は生まれた時からこうだったのです、鍛冶の家に生まれて剣を触れ、近場に剣を振るう者たちがいて、この鉄の臭いを血と同じものとして恋焦がれる」

    「そしてきっと、いつかあの二人と同じ場所に辿り着く、何故ならあの二人にとっても私にとっても」

    「剣とは、“斬る”ために在るものですから」

    【小次郎という名の男は生まれた時から剣を見ていた、剣を望んでいた、剣に生きたかった】


    【小次郎がなりたいものとは“侍”に非ず、ただ剣を振るう先を求める“剣鬼”になりたかった】

    【“私”は生まれた時から、『仮面』を被っていた】



    【姉である輝夜は弟の本性に畏れを抱きつつ、身内として最後に言葉をかけた】

    【「剣に生きるのなら、剣に恥じぬ生き方を」】


    【時は過ぎ、セントラリアにて千剣后と死合った後、小次郎は只管に心根の空虚が満たされていく実感を得ていた】

    【生まれて初めての、強者との太刀合い】

    【幼き日より燻っていた空虚が満たされる、鋼がぶつかり合う剣の声が耳に届いてくる】

    【ああ、嗚呼なんと心地良きものかな】


    【だが、一度血の味を知った獣は其処から抜け出せることなく、緩やかに歪みへと呑み込まれていく】

    【しかし、辛うじて理性と言うの名の箍が己を“小次郎”という人間で居させてくれる、己をまだ人の道へと居させてくれる】

    【だが運命というものは時に悪戯なもので、人を狂わし惑わせることがある】

  • 16『“仮面”の男』⑤◆9f8bDhLAIE24/03/06(水) 23:08:40

    >>15

    『なァ、お前……底の人間でもねぇのにイイ面してるじゃねぇか』

    【不意に現れた全身を呪布で包まれた男が、小次郎の背後に立ち、喉元に剣を突き立て白刃を煌めかせる】

    『欲しているんだろう?その剣が震える刻を、お前の中の空虚が満たされる時を』

    【「何故、知っているのか」と動揺を見せる小次郎を他所に、袈裟を着流す異様な男はある提案を持ちかける】

    『お前、地獄に興味はないか?』

    「地獄だと……?」

    『悪鬼羅刹に修羅に餓鬼、天上の地獄と言うべき人外魔境、オレはその場所で剣を打ちながら命のやり取りをする時、ようやく生の実感を得られんだよ』

    『目を見りゃ分かるぜ、お前はオレと同類だよ、地獄を求め彷徨う、「剣の鬼」だ』


    「……巫山戯るな、地獄などと世迷言を、それにお前の出立ちは明らかに人道に外れたもの、人の道を外れた“侍”などに拙者はなりたくないものでね」

    【しかし火傷を包帯で覆う男は「呆れた物言いだと」一蹴し、小次郎の核を突いてくる】


    『そんな仮面、いつまでつけてるんだよ』

    『お前が欲しいのは剣、どこまでも斬れる至高の刀剣だろう?』

    「剣、全てを斬れる刀剣……」

    「拙者が……“私”が目指したいものは……」

    【揺れ動く心の内、燻る空虚がかき乱される】

    【惑う只人は己の望む剣を見つけるために何を選ぶのか、外道の本懐か侍の真似事が、それとも─────】


    「……貴殿の名は、何と言う」

    『《邏遡》、彼処にいる奴等はオレをそう呼ぶ』

    『だがお前には、そうだな……こう名乗ろうか』


    『3代目、「千字村雨」』

    【仮面が、外れたような音がした】



    (※イメソン)

    ONE OK ROCK - Mighty Long Fall [Official Music Video]


  • 17フランケン博士@悪党崩し24/03/07(木) 12:24:36

    (※立て乙です、投稿させていただきますね)
    (※タダのバトルするだけの内容ですが……)
    【とあるジャングルの砦】
    【カードゲームをやっている白いローブに身を包んだ人間たちがいる】
    黒髪「俺の勝ちだな」
    赤髪「あ〜?くっそ持ってけや」
    【数人の男たちはギャンブルをやっているようで駄弁りながら手元の硬貨を移動させている】

    【そんな憩いの時間にも突然終わりがやってくる】
    博士「僕も混ぜておくれよ」
    青髪「ああ」
    「ちょっと場所あけ……てめぇ誰だ!」
    【男たちは突如現れた白衣の男…フランケン博士に驚き手元に置いていた剣や杖を掴み取る】
    「僕がどこから来たのかなんてことは些末な問題だろう?」
    「ここは今から崩壊するんだからねえ」
    【その言葉とともに見張り台であったその部屋の屋根が剥がされる】
    【そこには銀色の体を持つ巨大な人影…サメの意匠を持つゴーレムが剥がした屋根を持って立っていたのだ】
    男たち「……なんじゃこりゃあああ!」
    博士「僕の傑作さ」
    「マッドシャーク二式」
    「これ以外にも僕は一人で数倍の戦闘力を持っていると自負できる、投降し給え」
    黒髪「そんな提案飲めるかよっ!」
    赤髪「おらぁ!」
    【剣を持った男二人が突撃し後ろで杖を持った男が魔法の準備をする】
    博士「そんなナマクラで僕を叩き切るとはいい意気込みだ」
    【その剣は博士の胴体と首にたしかに当たった】

  • 18フランケン博士@悪党崩し24/03/07(木) 12:27:19

    【しかしいきなり金属に変化したその地肌に止められ男たちの手は縛り上げられる】
    博士「君も諦めて投降したまえ」
    青髪「うるせえ!うるせえぞ!」
    「殲魔教団舐めてんじゃねえぞ!」
    【青髪の男は電撃弾を数発撃ってくるが懐から博士が出した紙に寄って阻まれる】
    青髪「んなっ」
    博士「大人しくしたまえ!」
    【博士が顎をぶん殴り気絶させて再び縛り上げる】
    ガシャンガシャン
    鎧1「変な音がしたぞ!」
    鎧2「急げ!敵襲かもしれんぞ!」
    鎧3「討ち取れば手柄だ!」
    【複数の鎧の音が近づいてくる】
    博士「やっぱり来るよねえ」
    「この砦の規模なら……25人といったところか」
    「音的に4〜5人といったところだね」
    グキッ
    ヴァキャッ
    ボキッ
    【物騒な音とともに鎧を着た者たちも無力化され鎧を剥がれて並べられた】
    博士「さっさとここのボスの手足を縛って仕事を終わらせるか」
    【博士は建物の中をカツカツと音を立てながら進んでいく】
    【時折やってくる兵隊らしき者たちをぶん投げたりしながら】

  • 19フランケン博士@悪党崩し24/03/07(木) 12:30:23

    博士「さてさて君を残してここの兵士は全員いなくなったわけだ」
    「それを加味して僕は君に投降を勧めるよ」
    【やたらと広い部屋の中にふんぞり返っている魔術師のような装束の男に話しかける】
    魔術師「よくもまあ好き勝手やってくれましたね」
    「もうすぐ定例報告会があるというのにここまで壊してくれて」
    「なんて報告すればいいものか」
    博士「ここで大人しく投降してくれたなら報告の義務もなくなるわけだが」
    魔術師「できたらこんなふうにおしゃべりしているわけ無いだろう?」
    博士「あっはっは」
    「まさにそのとおりだね」
    「ならば僕たちが一番得意とする方法でやるとしようか」
    魔術師「そうだな」
    博士/魔術師「「実力行使だ」」
    【立ち上がる魔術師に掌たちを呼び出す博士】
    【ふたりとも結構戦闘狂だった】

  • 20フランケン博士@悪党崩し@424/03/07(木) 12:33:46

    【そのまあまあ広い室内で魔法の攻防が行われている】
    【炎の連射を放つ魔術師に折り鶴で防御する博士】
    【爆破する紙飛行機で攻撃する博士と地面から迫り上がる土の壁で防御する魔術師】
    博士「あっはっは!一進一退ではないか!」
    魔術師「研究者の冒険者ごときがよくもまあここまで戦闘できるな!」
    博士「昔はそうだったんだがねえ!」
    「やってみるとなかなか楽しいものじゃないか!」
    魔術師「だからといって負けてやるつもりはない!」
    「ここで貴様の研究は幕を下ろすんだ!」
    【互いに高笑いし爆炎粉塵立ち上る戦闘を繰り広げる】
    【煙幕を発生させる博士と魔力探知で位置を探知しウォーターカッターを放ち博士の右腕を落とす魔術師】
    博士「おっと」
    魔術師「叫ばない胆力は褒めてやろう!」
    【わずかの時間の間に煙幕が晴れ魔術師の目に掌が見える】
    魔術師「そこだ!」
    【その影を見落とすことなく風の刃を放った魔術師】
    魔術師「これでおまえも終わ…り……」
    【しかしそこには切り落とされた右腕しかなく博士本人の姿はなかった】

    (※番号つけてなかった!恥ずか死ぬ……)

  • 21フランケン博士@悪党崩し@524/03/07(木) 12:36:44

    博士「勝利を確信して魔力探知を切るのは間違っていたようだね」
    【いつの間にか背後に近寄っていた博士によって後ろから蹴られ組み伏せられた】
    魔術師「離せ!私は更に教団で上り詰めるのだ!」
    博士「まあたしかに君の使う魔法はどれも基本ではあるがとても練り上げられていてその事実力は確かなものだったと思うよ」
    「だがその程度でこの世界を上り詰めるなんて不可能だし犯罪者集団に紛れ込んで名を上げようとしたことが間違いだったね」
    魔術師「私を笑うのか!」
    「私はそれだけの実力がある!この砦をこの年で任せられたのだってそれ故だ!」
    博士「別に笑いやしないさ」
    「だが犯罪者は犯罪者、大人しくお縄についてもらおう」
    「……おっと縄を切らしていたか、君のお仲間たちを連れてくるから大人しくしておくんだね」
    【問答の後博士は組み伏せていたのを解き右腕を拾い上げると止血していた右腕に押し当てつつ背中を向けて部屋を出ようとしていた】
    魔術師「……私を…舐めるなあ!」
    【しかし背を向けた敵に容赦などする必要などないと魔術師が懐に隠していたナイフで博士の背中を狙うために立ち上がり突撃する】
    【だが彼がそこにたどり着くことはなかった】
    【下からせり上がってきた顎に飲み込まれ前に突き出していた両腕のみが世界に残って地面に落ちた】
    博士「あ〜あ、大人しく待っていろといったのにねえ」
    「命を奪わなかっただけ有情と思ってほしいものだよ」
    【独り言をつぶやきながら博士は兵士やたちを連れてその砦を後にした】

  • 22真心と竜威を込めて造りました①24/03/07(木) 17:36:30

    【骨だ】
    「………」
    【目の前に骨がある】
    「………えい」
    【その骨──深淵に棲まう獣の骨を、黒く尖った竜爪で突っつく竜人。その名も冒険者〈炭鉱竜〉】


    【言うまでもなく、深淵の魔物というのは強靭無比な超絶危険存在】
    【この骨の元持ち主も、紛れもない強者であった】

    【〈葬炎骸獣〉──悍しい蒼炎を全身に燻らせ、強大かつ巨大な深淵の魔物でさえも呆気なく燃やし尽くす】【そして、燃え滓の中に残った一際頑強な骨を好んで身体に纏う】
    【纏った骨は鎧であり”燃料”だ。死して尚残る「燃やされた者の怨み」は、〈葬炎骸獣〉によって自身の炎に焚べられ、蒼炎は妖しい輝きを増し続ける──】

    【そんな獣であったが、規格外の耐熱性を誇る炭鉱竜を燃やし切る事叶わず】
    【純粋な近接勝負を一時間程。激闘の末、形態変化した〈炭鉱竜〉の拳で纏った骨ごと頭部を粉砕された】
    【見事な渾身アッパーカットでした】


    【………というわけで】
    「この骨は戦利品です ぶい(ビクトリーの意)」

    【この戦利品、〈葬炎骸獣〉が燃料として怨みを綺麗に使い切った骨な訳で】
    【つまり、呪い等が発芽する可能性ナシ。こびり着いた血や屍肉もキッチリ燃やし尽くされている】
    【そこらの魔物の骨をぶっこ抜いて使うよりも、クリーンな良い素材なのだ】

    【骨を突っつく。コツコツと音を鳴らし、使える物と使えない物を選別していく】
    【小さすぎて使えなかったり、先の戦闘で流石にもうボロボロになった物は思いっ切り握り潰して粉みじんに】
    【この骨粉は深淵で畑をやってる人に渡したりする。でぃすいず らいふはっく】

    【そして使える骨。大きさや形が良い物を選び、「武器のかたち」になるよう地面に並べていく。そうして”完成形”を思い浮かべるのだ】

  • 23真心と竜威を込めて造りました②24/03/07(木) 17:39:40

    「ここを…こうして、こう………」
    【ここからが本番だ】
    【骨を重ねて、組み合わせて、削って】

    「むぐぐ………ッ██████!!!!!」
    【轟き響く竜の咆哮】
    【重ねた骨に向かって力強く振り下ろされる、剛拳。余波により硬い地面が抉れ砕かれる】
    【剛撃を叩き込み、骨と骨を強引に継ぎ合わせる】

    【正直言って骨に八つ当たりしてるようにしか見えないが、〈炭鉱竜〉にとってはれっきとした”モノ造り”】
    【実際。ただの野晒し骨だったものが、ダイナミックDIYにより徐々に徐々に姿を変えてゆく】

    【柄に刀身、鍔は無いが………即ち骨刀】
    【簡素で粗雑で、パワーな力技で造られていく刀。ここまでしないと深淵魔物の骨は加工することすら難しいという証左でもある】

    「よし」
    【しかし、このままだと刀っぽい骨製鈍器の出来上がりになってしまうのだが………最後の仕上げが、この鈍器に刃を生み出す】

    「█」
    【──牙を剥け、息吹を滾らせる】
    【噴火が如く燃え盛る竜のアギト。そのまま〈炭鉱竜〉が骨刀を咬み締め「研磨」していく】

    【〈炭鉱竜〉の咬合力は地殻でさえ安々と噛み砕ける。流石の深淵骨からも軋む音が鳴り響き、熱を帯びた研磨音と混じり合っていく………】

  • 24真心と竜威を込めて造りました③24/03/07(木) 17:41:08

    「biiiiibiiiiii biiiiiii」
    【嗚呼、騒音を聞きつけたのだろうか。人の迷惑にならないよう、この作業は無限牢獄上層のあまり生き物の気配がしない場所で行っていたのだが】

    【飛んでくる蜂の様な飛竜。膨張した尾から無数の毒棘を出し、無防備な〈炭鉱竜〉の背に向かって叩き込まんとして──】

    「───完成です」
    【研磨完了。そのまま蜂竜に振り抜かれた刀は、アギトを持ってして放たれる抜刀術のようで】
    「bi」
    【灼熱一閃。爆速居合により突き出していた尾ごと胴体を断ち斬られ、死に絶える蜂竜】

    「ふむ、良い試し斬りでした。らっきーです」
    【名刀には遠く及ばす。市販の刀と同等か、少々下の斬れ味だが………研磨により”斬れる”ようになった。ただそれだけでこの骨は刀足り得る】

    【何よりも。強烈な研磨に耐え抜いたこの刃は、頑強さを誇れる武器となった──】




    「というかんじですね」
    「まぁ…楽しそうで何よりだが……」
    「はい」
    【狩人装束と魔法使いのローブを混ぜ合わせたような姿の冒険者が、鎌を研ぎながら竜人の話に相槌を打つ】

    「なにか造る、というのはとても楽しいですよ」
    「アイツもお前も楽しそうだしな…言わなくても伝わるさ……」
    「ならよかったです」
    【些細な切っ掛けで、何となく始めた事ではあるが】
    【自分が造った物を大事にされたり、使ってくれたりするのは】

    【とても、良い気分です】

  • 25ゆるふわ女子会 その124/03/07(木) 18:31:40

     知性は、認識を切り離せない

     巷間にはよく、真実はいつも一つだとか事実は変わらないとかいう言葉が溢れている。
    それは事実だ、と私も思う。ヒトが何を思おうがどんな意味を見出そうが現実は不変で世界は不動、陽の光と月の光はどちらもただの光でしかない。
     けれど、知性は知性である限り不変の真実を知覚出来ない。出来るのは認識だけ。知性ある限りすべては予断を持ち、空想を持ち、夢に浸るからだ。
     例えば、蛇という生き物に狡猾さや不死性を見出してしまったように。
     例えば、りんごという果実に罪と知性を見出したように。
     知性は、何かを知覚する時認識を挟む。まるで、それこそが自我の証明だと言うかのように、認識こそがワタシであると言うかのように。
     そして、認識をしてしまった時点でただ一つの真実を見出だせなくなってしまうのだ。

     だが、それ自体に問題はない。
     知性は───ヒトは、それぞれに異なる認識を持ち、それによって生まれる想いを強く発露することなよって強くなってきた種族だ。
     時に異なる認識に敵愾を持ち、時に近しい認識によって朋友となる。いいことだ、素晴らしいことだ、認識はただの真実なぞよりよほど強くヒトを鎧ってくれる。想いがあるからこそヒトは戦えるのだ。

     けれど、認識の落とす影が濃くなるほどに思う──────認識が異なりすぎる存在を、ヒトと同種と言えるのだろうか、と。

  • 26ゆるふわ女子会 その224/03/07(木) 18:32:12

    「───ぇ、急に何?」

     私の言葉に、友人系パーティーメンバーは奇っ怪なものを見るような目を向けた。
     場所は巷で流行りの小洒落た当世風のカフェー。にわかに凛然とした冬の空気は遠ざかり、花の香に濁った春が近づき始めた頃のことだった。

     「何も何も、そのまんまの話だよ。人間と認識が違いすぎるものを人間と呼べるのかって話」

     友人──ナハトさんの鼻白んだ反応に少しばかりムッとしつつ、私はもう一度先ほどの言葉を繰り返した。

    「や、そっちじゃなくてさァ。いきなりンな話されても反応に困るって話だよ
     今カフェで茶ぁしばきながらケーキ待ってるトコだよ、そんなシリアスなんだか思春期なんだかわからんこと言われてもねぇ」

     どっかりと、やや乙女趣味な造りの椅子に背をもたげつつ、ナハトさんは音を立ててコーヒーを啜った。
     昼下がりのカフェの空気はゆるやかで、癒やし空間の触れ込み通りの穏やかなジャズが流れている。

    「つかさ、何。レモンちゃん自分のこと人間だと思ってないの」
    「そういうわけじゃ、ないけど……」
    「じゃなんで急にそんな話したのさ、流れ的に自分が人間とは思えないとかそういう方向に続くヤツでしょ」

     思ったよりコーヒーの苦味が強かったのか、いつもの眠たげなまなざしを少しだけ開いてこちらを見るナハトさん。
     そんな彼/彼女に対してなにか言葉を返そうと口を開いた瞬間

    「すまん、待たせた」
    「おっ、ラウちおつかれー。遅かったね、手続き長引いたの?」
    「やあラウラ、まだお茶が届いたところだから大丈夫だよ」
    「ハンターズギルドに出した方の報告書に不備が見つかってな……大丈夫ならよかった」

  • 27ゆるふわ女子会 その324/03/07(木) 18:32:54

     かららん。ドアベルの鳴る軽やかな音と共に、もう一人のパーティーメンバーであるラウラが入ってきた。気疲れした顔で上着を脱ぐ彼女を迎え入れつつ、彼女が座ろうとした椅子の上に置いてある荷物をさっとどかす。

    「ん、ありがとう。そういえばさっきはなんの話をしていたんだ?なにやら空気が妙だったが」
    「んー、レモンちゃんかを急に思春期みたいなこと言い出してー」
    「さっきからその思春期みたいなってなんなの?……ちょっと気になったことを聞いてみたんだよ、一般的な人間と認識が違いすぎるものは人間と言えるのかって」
    「なんだその話、お前自分が人間じゃないと思っているのか」
    「だから、そういうわけじゃないんだって。ただ……」
    「ただ、なんだ」 

     ……ただ、たまにたまらなく寂しくなるだけなのだ。
     他人と同じものが見えないことが、今私に見えているものが他人に見えていない事実が。
     知性は……私は、認識を切り離せないから。
     この寂しさが、思春期らしいと言われてしまえばそうなのかもしれないが。
     なんて、冷め始めたレモンティーを舌で転がした。

    「……マ、そんな気にすることもないっしょ。最近はチューニングも上手くなってんじゃん、前よりは合わせられてると思うよ」
    「ああ、私は知らんが、以前はずいぶんとズレた言動が多かったらしいな?」
    「んぁー、その時期のことは黒歴史なので触れないでいただけるとー……」
    「注文が多いねぇ、ワガママめ」
    「だってまだハイティーンだしぃ。あ、ありがとうございます。
    私が桜パフェでそっちの灰髪がチョコベリーです」
    「わーい来たー。え、マジかわいいんだけど。ねぇこの細工食べンのもったいなくね?」
    「そう言いつつお前いつも真っ先にそういうの食べるだろ。失礼、ついでに追加注文してもいいだろうか
    ハーブティーとチーズケーキのブルーベリーソースを頼む、茶と菓子は同時で」

     注文の品が届くと同時、思い思いに姿勢を崩しつつ皆で店員さんを受け入れる。
     届けられた桜パフェは華やかで、桜の薄紅といちごの赤、生クリームの白が目にも美味しかった。
     流れるような仕草で桜ジャムとクリームを一掬いし口に含む、美味しい。子供の頃は桜の独特な香りが苦手だったが、慣れと成長とはなんともありがたいものだ。

  • 28ゆるふわ女子会 その424/03/07(木) 18:33:27

    「と、いうかだ。何故急にそんな話をし始めたんだ、お前」

     未だ茶も届かず手持ち無沙汰になったのか、ラウラが先ほどの続きを始めた。

    「別に、なんでもないけど……」
    「嘘をつけー、お前人に弱みを見せるのが何よりも嫌いなタイプだろ。理由もなくこんな話するわけない」
    「くっ……パーティーメンバーが私のことをよく見ている……」
    「ほら吐け、メンタルの不調はとっとと吐き出すに限るぞ。なあ、ナハトもそう思うだろう?」
    「……え?ごめ、ケーキ美味しすぎて話聞いてなかったわ」
    「いきなり集中しすぎだろ……うわ、お前もうチョコ細工食ったのか」
    「ナハトさんあんなこと言っておいて真っ先にチョコプレート食べたよ」

     チョコケーキをコーヒーで流し込むナハトさんにラウラが話の流れを説明している様を尻目に、私は所在なく縮みこむ。
     無意識的に始めた雑談がなんだか大きくなり始めている。

    「んまあ、話は把握しました。んで、どったのレモンちゃん。なんかあったん?」
    「あった、というか……その」
    「うん」
    「ほら、よく仲間は同じものを見れる者のことだとか、人は心だとか言うだろう?
    だから……私は、見えるものが違う私は、どうなんだろうなって……」

     そこまで言って、私は気まずくなって目をそらした。ああこんな、本当にただの思春期みたいじゃないか。もう18歳だぞ私は。

  • 29ゆるふわ女子会 その524/03/07(木) 18:34:05

    「え?あー……気になっちゃった、んだねぇ?」
    「それは……そのままの意味でなく比喩的なものでは?そんな今時分に異能者差別でもなかろうに」
    「わかってまーす!でもしょうがないでしょう、気になっちゃったんだからさあ!」
    「うわー逆ギレやめれー」
    「お前たまに変なこと考えすぎる癖があるよな」

     何が面白いのか、二人が気恥ずかしくなってテーブルの上で頭を抱える私を指でつつき始める。こころなしか他のお客さんの目線も集まってきたような。なんだ君たち、見世物じゃないんだぞ!ご迷惑でしたら申し訳ありません!

    「あーもうめんどくさいなー、ほら顔上げな」
    「んぁー、なんのよ……んグ?!」

     ナハトさんに言われて顔を上げると同時、口に勢いよく何かを突っ込まれる。
     何かは甘く、苦く、しっとりとしていてわずかにベリーの風味が……チョコケーキだこれ!

    「え、急にどうしたのナハトさん」
    「美味しかった?美味しかったよね、美味しかったらそっちの桜パフェちょーだい」
    「なにこれ斬新な追い剥ぎ?」
    「はは、よかったじゃないか。美味そうだぞ」
    「ラウちにも一口あげるね、代わりにチーズケーキ一口ちょーだい」
    「いいぞ!」
    「待って私だけついていけてない」

  • 30ゆるふわ女子会 その624/03/07(木) 18:35:17

     きゃぴきゃぴとチョコケーキを食べさせ合う二人を前に、私は追い剥ぎに桜パフェを献上しつつその目を見る。


    「で、なんのつもりだったの」

    「何も何も、チョコケーキ、美味しかったんでしょ」

    「そりゃ美味しかったけど……」

    「ならいいじゃん」


     はあ?怪訝な表情を抑えられない私にナハトさんはケラケラ笑いつつ言葉を続けた。


    「よく言うじゃん。二人のヒトがチョコは甘くて美味しいって言ったとして、片方は同じチョコを苦味のある甘さだと思ってて片方はただ甘いだけだと思ってるって思考実験。

    あれさ、チョコが美味しいって部分が共通してんのならベツにいいと思うんだよね」

    「……つまり?」

    「たとえ見えるものが違っても、そこから出る答えが一緒なら同じでいいんじゃないのってハナシ。

    霊視があってもレモンちゃんはニンゲンの味方でしょ」


     そういう、ものだろうか。

     私は、パフェグラスの中でとろけて混ざりあったジャムとクリームをつつく。


    「そういうもんだよ、てかそうじゃないと自分は今でもニンゲンの敵だしぃ」

    「まあ私はそのあたりは気にしないタチだが、この世界人によって見え方が違うなどよくある話だし、そう気にすることも無いのだろうさ」

    「そういうものかあ」

    「そういうものだろう。あ、私にも桜パフェ一口くれ」

    「いいよ」


     開かれたラウラの口に適度に混ざったパフェをつっこみつつ、なんとなく気が晴れた気持ちでいると、ようやくチーズケーキとハーブティーが届き今度こそ会話は切り上げられた。

     そんな、よくある春の昼下がりのこと。


    BGM

    Relaxing Jazz & Bossa Nova Instrumentals - Spring Cafe Music for Work, Study


  • 31仔犬とボス犬①24/03/07(木) 19:14:01

    【私は孤児だった。親の顔なんてもう覚えてない。生まれてから一人で誰からも見向きもされずにずっと…ずっと生きてきた】
    【とある街で子供だからとパンを恵んでもらって、またある人は私を孤児院に入れようとした。けど、私はそれが怖くて逃げ出した】

    【そんな私はいつしか違法な裏世界の組織に拾われて奴隷のような扱いを受ける羽目になった。今思い返すと我ながらツキがなかったと思う】

    【食事は1日にまだ小さかった私の手よりも小さなパン一切れ、与えられた衣服はボロ布のそれ、飛んでくる罵詈雑言と暴力】
    【そんな地獄のような日々からずっと逃げ出したかった。本で見たようなヒーローが私を助けに来てくれるのをずっと夢見ていた】

    【———けど現実はそう甘くない。助けは来なかったし、ヒーローなんて現れなかった】
    【だから1人で逃げ出した】

    【違法な鉱山での採掘作業に駆り出された際に隙を見計らって逃げてやった。裸足だから足が凄く痛かったけどそんなの関係なかった】
    【走って走って…ただひたすらに走り続けた】
    【そして気付けば私はとある広々とした屋敷に辿り着いていた】

    【煙突からは誰かが生活している事を示す煙が出ていて、匂いに敏感になっていた私の鼻は肉料理特有の芳ばしい匂いを嗅ぎ付けた】
    【…もう我慢なんてできない。ひたすら走ったせいでお腹は空腹を通り越して痛かった】

    【鍵が開いている窓から侵入して屋敷の中に転がり込んだ私の視界に飛び込んで来たのは…】
    【目が眩むほどの数々の料理だった】

  • 32二次元好きの匿名さん24/03/07(木) 19:14:35

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  • 33『平和な冒険』124/03/07(木) 19:14:46

    あぁ、こんばんは。お久しぶりですわね。随分と様変わりした?えぇ、私自身も自覚がありますわ。

    しがない冒険者の独り語りですが、お役に立てるのなら幸いと思いまして話させて頂きますわね。余り期待はなさらないでくれると嬉しいけれど………


    そうですわね。今年の冬は寒かったですから、暖かいお話でも致しましょうか。サルヴィア、という国をご存知かしら?

    ……少し意地悪な質問でしたわね。何しろつい最近衝合でやってきた島国ですもの。まだセントラリアと正式な国交すら結んでいない国ですわ

    私の一つ目のお話は、そのサルヴィアに調査に赴いた所が始まります。発端は極東の『八州皇国』からの依頼ですわ。何でも領土の近くに突然現れた島の調査をお願いしたいと仰っておりまして

    奇妙な事に、その島からは耐え難い匂いが風に乗ってやって来るとかで漁村の方々が怯えていたのですよ。私も嗅ぎましたが、確かに形容し難く耐え難い匂いでしたわ。

    私が挨拶をしに行った際にはまるで八岐大蛇に捧げられる姫みたいな扱いまでされたのですよ?
    ………あぁ、申し訳ありません。そこまで普及している神話、という訳ではありませんでしたわね。
    そうですわね………グロワールの伝承で例えると、【贄喰らいのオーガナージャ】に登場する騎士の娘とか?

    えぇ。そう!まるで可哀想な悲劇の少女という扱いですわ!
    気遣ってくれたのか長老が「宴を開こうか?」とか村の若者が「代わりに行く」とか言い出してしまって……私自身、そこそこ強いと自負しておりましたので。受け取るのも騙しているみたいで気が引けましたの

    勿論丁重に、礼儀を尽くしてお断りさせて頂きましたわ。こんな見目で言うと驚かれる事がしばしばあるのですが、とある縁で極東への興味関心がありまして。『八州皇国』の作法についても事前に予習してましたのよ

    それが逆に勘違いを深めさせたのが後々の彼らの行動に繋がってしまうのですが…………えぇ。其処については後のお楽しみと致しましょう?

    そうして魔法で海を渡った私が見たのは─────

  • 34仔犬とボス犬②24/03/07(木) 19:16:04

    >>31

    【大きなお皿に置かれていた丸々としたお肉…スパイス特有の匂いを漂わせるそれに私は無意識の内に齧り付いていた】

    【そこからはもう止まれない】

    【がむしゃらにお肉を貪り、器に注がれていた昔一粒だけ食べた事のあるコーンの味がするスープを一気に飲み干す】

    【そんな食べ方をしていると当然喉が詰まるのでグラスに水を溢れるぐらい注いでこれも一気飲みする。久しぶりの食事にして初めて食べる贅沢な料理…】


    【それらを前に私は警戒心など何処かに吹き飛んでいた】

    【残っていたお肉を手に取り齧り付こうとした瞬間…】

    【私の頭頂部を衝撃が襲った】


    【食べていた物を吹き出して、横に倒れる私の視界に飛び込んで来たのは】

    【白くて綺麗な肌をした手を縦に構える蒼い瞳で私を見下ろす女の人】


    「人の夕食を堂々と盗み食いするその根性は褒めてやる」

    【呆れが多分に含まれた視線を向けて私を見下ろすその女の人は腰に手を当てて声を荒げた】


    「先に風呂に入れ‼︎野良犬にやる飯は無いぞ‼︎」

    【終わりだと思った。衛兵に突き出されるかその辺りに放り出されてまたアイツらの所に逆戻りかと思っていた】


    【私は何故か凄く広いお風呂であの女の人に体を洗われていた】

  • 35仔犬とボス犬③24/03/07(木) 19:16:39

    >>34

    「野良犬娘、名前は?」

    【お風呂から上がってモコモコの服を着せられた私は高級そうな椅子にちょこんと座らされ髪を乾かされている。けど、すごく失礼な呼び方された気がする】


    「…シェリフ」

    「上は?」

    「…ない」

    「そうか」

    【それ以上何か問い詰められる訳でもなくいい匂いがする柔らかいタオルで髪を拭かれるそんな状況がひどく心地よかった】


    「シェリフ、まぁ…私の夕食を盗み食いした事は許してやる。私は寛大だからな」

    【もういいぞ、と女の人は私の肩にタオルを置く】


    「———ただし、何か事情があるなら全て話せ。私は無償の施しはしない。お前は私の夕食を食べた、ならその対価はお前についての情報だ」

    【蒼い瞳が私を射抜く。鋭い目付きなのにその奥に見える感情はとても真剣なものだった】

    【…楽しい夢を見れた。美味しい食事に広いお風呂にも入れた。だからもういいかな…って思った】

    【結果どうなろうともういい…だから私は自分の事を全て話し。生まれに今までの経緯、全部…話した】


    【———私の話を聞き終えた女の人は椅子に深く座り長い足を組んで天井を見上げる】

    【女の人が口を開くそれまでの短い時間…けどその時間は無限に感じるほど長かった】


    「…迷子犬を拾ったにしては重い話だったな」

    【私に顔を向き直した女の人はそう言って小さく笑った】

  • 36仔犬とボス犬④24/03/07(木) 19:17:06

    「運がいい奴だ。此処は孤児院…の予定だ。引越しが終わったその日に来るとは思っていなかったが」
    【女の人は私の頭を撫でると立ち上がる】

    「食事の続きにするか、今度は行儀よく食べろよ?行儀が分からないなら懇切丁寧に教えてやるから耳の穴かっぽじって聞いてろ」
    【口は悪いのに言ってる事が今まで聞いた事がないくらい優しい。私の肩を叩いてさっきの食事の席に向かうよう女の人は促してくる】

    「私はサーシャだ、サーシャ・フェレル。飯が終わったら部屋に案内してやる」
    「…サーシャ…さん…けど私…」

    「帰る場所はないんだろ?好きなだけ居ていい。お前は1人で頑張って来たんだ、偶には人に甘えろ」

    【自然と涙が溢れていた。優しい言葉と共に頭を撫でるサーシャの手は大きくて暖かかった】

    「なんだ、泣いてるのか?ははっ、それでいい。泣きたい時は泣け、笑いときに笑えばいい。ガキなんだから自分の感情には正直に生きてい——————」

    【突然廊下が爆発した】

    「———此処に居るんだろぉ、クソ餓鬼〜迎えに来てやったぜ〜?」
    【あの男達の…土煙の向こうから下衆な笑い声が聞こえてきた】

  • 37仔犬とボス犬⑤24/03/07(木) 19:18:03

    「…あれがお前の言ってたドブ底のカス野郎共か?」

    【あの爆発に対して驚きもしていないサーシャは私の前に立ち、そう聞いてくる。…そういえば今、思い返せば額に青筋浮かんでた気がする】


    「…うん…あの…ごめんなさい…私のせい…で…私—————」

    「何を言うつもりか知らんが其処に居ろ」

    【サーシャは上着を脱ぎ捨て破壊された壁から外に出ていく】


    「あのクソ⚫︎⚫︎⚫︎共を潰してくる」

    「ま…まって…‼︎」

    「待たん」

    【サーシャの屋敷に穴を開けたあの男達がサーシャを視認する】


    「おいおい…!俺好みの厳つい姉ちゃんじゃねぇか!ラッキーだぜ…」

    「おい、女。あの餓鬼は何処にいる?此処にいるのは知ってるぞ」

    「餓鬼を差し出せば命だけは助けてやるぜぇ?」

    【ニタニタ笑う計6人の男達。しかし、サーシャは一言も言葉を発さない】


    「おい!聞いてん————」

    【私が瞬きした一瞬の間に】

    【サーシャは男達の背後にいて、男達全員が顔面から地面に宙を一回転する勢いで叩き付けられて意識を刈り取られた】


    「———喧嘩を売る相手を間違えたな」

    「頭をココナッツみたく割らないだけ有り難く思え、ロクデナシ共め」

    【一瞬で決着を付けたサーシャは何処からか取り出した有刺鉄線で男達を拘束して、深い溜息をついた】


    「引越し早々リフォーム決定か…」

    【———これが私とボスの出会い。ボスは確かに見た目は厳ついし、口は悪い。けど…私達にとっては何よりも誰よりも頼りになる最高で最強のボス、きっとこの思いはいつまでも変わらない…そう確信している】


    (※イメソン)

    Skillet - Hero (Official Video)


  • 38『平和な冒険』224/03/07(木) 19:28:51

    お菓子の国、ですわ!

    ふふっ、意外でしょう?私にとっても本当に意外なモノでしたのよ。だから今回のお話に選んだのですけれども、その時は屍魔が集まる島かなと予想して刀すら抜いてたのにお菓子の国ですわよ!

    驚いたの何のと……異臭がしていたんじゃないか?えぇ、間違いなくしておりましたわね。でも普段は王都に居るせいで私もすっかり忘れてしまっていたのですが、汐風は潮の匂いも混じっているでしょう?

    砂糖と塩の混ざった匂い……ふふ。そうと気付いた時の私の顔をお見せ出来たら良いのに。挿絵にしたら子供達も大笑い間違いなしの間抜け面でしたわ

    立ち並ぶ街並みは何と何と、その全部が全部お菓子でしたのよ。マシュマロのの屋根にクッキーの壁、チョコレートの噴水にプリンのお城!

    出迎えてくれた方も親切に私を案内してくれて、国の色んな所を見させて頂きましたわ。お菓子の国の王子様………あら?こう聞くと何だか実際に絵本にでも出てきそうなメルヘンチックな名前ですわね?

    それで、国王様からの印が押された外交書類と一緒に『八州皇国』に帰還しようとしたのですが………その、何でも漁村の方々が私が何時までも帰ってこない事を憐んで「せめて死体だけでも」と船を出しておりましたの

    私は馴染みがありましたのですぐにお菓子の国と気付けたのですが、彼らにとってのお菓子は和菓子ですし、それだって滅多に見れないモノなので妖怪変化の国と誤解してしまったらしく………


    そうして、漁民とお菓子の国サルヴィアの衝突が起こってしまったのです

  • 39『平和な冒険』324/03/07(木) 19:39:25

    それはもう、見るに堪えない酷い戦いでしたわ。
    思わず目を背けたくなりましたが、起こってしまったのは私の責任でしたので………止めた時には既に手遅れになっておりましたわ。

    一体何があったのか?そうですわね………それなりに修羅場を潜り抜けてきたとは自負しておりましたが、あんな戦いは見た事がありませんでしたわ





    お菓子とお魚の戦いだなんて

    ………思ってたのと違う、かしら?でもお菓子の国の軍隊と、碌に戦った事もない漁民の戦闘ですのよ
    マトモな戦いになる方が意外ですわ

    えぇ、戦況は熾烈を極めましたわ。鰯がぎゅいんぎゅいんと空を飛び、チョコレートの矢は途中で溶けて液体になり、そのチョコレートの海の中を漁民の若者が泳ぐも密度の違いで苦戦………絵面が酷い?私も同意ですわね

    私は叫びました。「食べ物を粗末にしないで下さるかしら?」

    しかし時既に遅し、その戦いのせいで磯臭さと砂糖とバターの甘さが混じった異臭が国全体に蔓延してしまったのです。

    漁民の若者とサルヴィア軍は(主に私の無言の圧によって)共に手を取り合い、掃除をする中で仲を深めて仲直りしたのでした。めでたしめでたし


    ………あぁ。二つ目のお話もありますわよ。此方はセントラリアの【貪紅の黒龍】というドラゴンとの私の冒険ですわ

  • 40『平和な冒険』424/03/07(木) 20:11:10

    名前が仰々しい?私が付けた訳ではありませんの。依頼でそう呼ばれていたのですわ

    セントラリアの竜騎士は有名な話でしょう?遡れば七国大戦でもセントラリアに所属する竜騎士の英雄が居ますもの

    【貪紅の黒龍】はかつて昔の数百年前に、当時の竜騎士団からその気性のせいで追放された強大なりしドラゴンである。それが毎日ナいているのでどうにかして欲しい──という触れ込みの依頼でしたわ

    ですが不思議な事に依頼を出した村に行っても、誰も怖がってないし避難もしていないのです
    可笑しな話でしょう?私も実際に可笑しいと思って広場で遊んでいる子供に聞き込みをしようとした正にその時!

    「ぐおおおおおーー!!」と、何処なマヌケな咆哮が聴こえて来たのですわ。私は咄嗟に刀を抜いたのですが、その時子供の一人がこう呟きましたの

    「また泣いてる。可哀想………」

    ……えぇ。想像した通りですわ。縄張りを主張している訳でも、狂気に呑まれている訳でもなく、単に泣いていたのです!ドラゴンが!それも強大と記されている!

    それで庇護欲が湧いてしまったのか、そのまま山を尋ねたら名前から思った通りの、如何にも凶悪そうな面構えをしたオニキスみたいに黒い鱗の巨大なドラゴンが佇んでいましたの


    私は慎重に話を切り出しましたわ。「何故泣いておりますの?」と
    【貪紅の黒龍】は威厳たっぷりに答えましたわ。「虫歯が痛くて………」

    強大なのは間違いありませんし、竜騎士団に解雇されたのも間違いありません。ですが彼の気性の問題は荒かったのではなく、寧ろその逆。余りにもお気楽でのんびり屋だったからなのですわ

    【貪紅の黒龍】という名前だって毎日毎日林檎を齧っていた所から付けられた名前なのです。そりゃ虫歯にもなりますわ

    そうして私はテイマーギルドに相談と提携をして、彼の虫歯を完治すると共に今後の生活指導をして依頼は完了しましたわ

  • 41『平和な冒険』524/03/07(木) 20:26:38

    冒険譚というよりも教訓に近いお話が多い?そうですわね。意図してこういうお話をしているのは確かにありますわ。『食べ物を粗末にしてはいけない』『甘い物ばかり食べてはならない』………と言った風な依頼の記憶を


    実を言えば、私自身の印象に残ってる最近の冒険は『人攫いに売られた人魚の娘』『空から墜された鳥人の落とし仔』『剣闘士として強制労働させられていた少女』みたいな陰惨な話ばかりですので

    そういうの、子供に聞かせるのは何だか憚られません?あくまでも私個人の思想なのですが


    えっ?教訓とかそういうのは寧ろ親御さんが聴かせようとするタイプの話?子供達から強請られるのは基本別ジャンルなのでは?……………ふむ。んー、これ。もしかしなくてもしくじりましたかね?

    【終】

  • 42Tox dairy①24/03/07(木) 21:28:30

    毒竜の朝は早い。具体的には朝5時のマジで太陽が無い時間。
    「んん…」
    沼のぬかるみから起き上がると、月呼竜ミモレットは気だるげに辺りを見回した。いつも寝床にしているこの毒の沼地にはいつも通り心底何もない、これを見て逆に安心するのが彼の日課であった。
    ぼてぼてと歩き出すと次第に頭が回ってくる。今日の予定……セントラリアに着いたらまずシャワーを浴びる、調毒用の液薬を飲む。あのハッカ味の。それからギルドに行って依頼を探してなんか受けて、その前に新しい剣を調達……
    「ミモ」
    「うわ!びっくりした急に呼ぶなよなんだよ」
    「おととい音楽フェスのチケット渡したでしょ。忘れずに行ってよ」
    「覚えてるって!じゃあね!」
    完全に忘れていた。人付き合いの面倒に比べれば友達は要らないが、隣人には感謝するべきかと感じたミモレットであった。

  • 43Tox dairy②24/03/07(木) 21:30:43

    良い報告書は結果から。それに従うことにしよう。正直フェスは乗り気じゃなかったけど、別の意味で行ってよかったと断言できる。
    最後の組……バンド?が演奏を終えた後に事件が起きた。このフェスでは演奏後に応援の意味で花束を投げる伝統的な習わしがあって、この時も大歓声と一緒に色とりどりの花が飛び交ってて。そんな所で、演奏者目掛けてナイフを投げた奴がいた。
    狙われた当人のハーピーが翼で弾いたから負傷は無かったし、僕を含めて近くに冒険者がすぐ取り押さえた……唾液が神経毒で良かったし、尻尾に口があったのも良かったとも思っている……けど一時は騒然とした。後から殲魔の単独犯って分かった、煌びやかなステージに立つ彼らが憎かったらしい。
    字を小さく書きすぎた。余白でフェスの感想を書こうか、まず声が綺

    「ミモレット」
    「わ!いやだから急に呼ぶなって」
    「昨日のフェスどうだった?」
    「うーん、まあ楽しかった」
    「そう。……なんで報告書?」
    「その話は後で」
    「貯めてた?」
    「違う。後で!」
    (end)

  • 44500年前の独白@124/03/07(木) 21:58:33

    我は刀である
    名前は『夢現』
    いま立てかけられている壁がある工房にて艮 艮という男に寄って打たれた
    この艮という男、奇特なものでやたらと精霊たちに好かれ妻もまた精霊…それも風の上位精霊であるシルフでありすでに子供も数人抱えているのだ
    かく言う我もかの男に身を打たれ魂を作られたのだから、かの男の子供と言っても過言でないのだ

    この身に宿っている力に至っては艮という男によって刀身に刻まれたものであるがこの男、何でもいつか神をその手で打った刀によって討つのだと語っているのだ
    なんでも他の地域にはさらなる力を秘めたる妖刀があるといい力を開放すればそれこそ神を討てるほどと言うが、我は半信半疑である
    そもそもこの男、どこか感覚が狂っているのか己の制作したもの全てを刀というのだ
    いやそれだけならばまだ良かったのかもしれない
    いかんせん、我の兄弟というべき妖刀にはやたらと分厚く硬い刀に斧まであるのだ
    我のように切る機能があるのであればまだいい方で、弩や指の縁を覆い打撃の威力を高めるための武具まであるのだ
    嫁から何だと聞かれれば弩は刀を撃つから刀と言うし謎の武具に関しては自信が打ったから刀だと言い放つ始末

    しかもこの男、わざわざこの村が鉄など金属に困らない立地にあるというのにもかかわらず己が打った刀を持って妖や化け物に立ち向かっては鉄を剥ぎ怪我をしては精霊に叱られておるのだ
    それをするのは自由だが、我を連れて行くのはやめてほしいものだ
    なぜ止めなかったとかの精霊に聞かれともに叱られたくはないのだ
    いくら我が生き物を相手にするのに適していようとカラクリの類であれば痛みを感じないのだから限度があるだろう
    かの謎の武具も山の中に登って偶然見つけた山のような空から振ってきた鉄の塊を圧縮して作ったのだ
    そのせいで重さそのまま威力は更に上昇、今では工房の地面にめり込んでは己を転ばせる要因になっている始末
    少なくともこの村の中にかの武具を持てるものがいないがいずれ現れると息を巻いており呆れて声も出なくなる始末
    これに関しては嫁の精霊にも呆れたような目で見られており他の村長たちも苦笑いで見ておった

  • 45500年前の独白@224/03/07(木) 21:58:56

    話は変わるのだが、我にもまた憧れとなる刀がある
    我らの中で最も早く打たれた妖刀だが、やたらと早く抜ける以外の性能を持たないだがそれがまた羨ましいのだ
    かの男が言うにはまともな刀で妖共の目に映らないほどの速度で振れるのであればこの刀で光を超えることなど容易と言うのだ
    どの程度信じていいものかどうかわからぬがそれでもまともな刀の使い道として作られまともな見た目の刀であることにどうしようもなく惹かれるのだ
    かの男が言った神を討つ妖刀は符牒なるものを唱えることで力を開放すると言うが姿形も変化するものもあるのだろうか
    幸い我には愚かな人間どもに苦痛を与えその大きくなった苦痛を吸って喰らう力があるという
    どの程度かはわからぬがいずれ我が符牒とやらで力を更に開放できるときには扱いやすく短くもなっているだろう
    あの男は戦いに慣れておらぬし人以外の苦痛は漠然としていて強くなった気がせん
    この村の外にはあの男が言っていた戦どころも数えるのが億劫になるほどあるだろう
    いつかそのような益荒男の男の手に渡ったときにはすぐにでも力を増して姿を変えてやろうではないか

    そう言えばという話になるが我の兄弟と言うべき仲間にも同じようにその刀に憧れを持つものがいるのだ
    名を『大見得』といい小太刀と大太刀の二振りで一本だとかの男は言う
    この刀の持つ力はもはや刀失格ではないかと言うもので相手を殺すということを一切考えていないものなのだ
    名の通り見栄を切るためのもので相手を殺そうと切りかかっても薄皮1枚程度しか切れずひどいときには衣類を切ることで精一杯なのだという
    その代わりと言っては何だが大きく切りつけた相手を吹き飛ばし場合によっては一町飛ばすことも可能だそうだ
    しかしそのような力をどうやって戦で使うというのか、妖刀であるのだから人を殺したいと思うのだと
    かの者は力を外から奪う手段を持たぬと言うから悲惨だ
    何かしらの奇跡でもなければ強くなるなど不可能であろうしたとえ強くなったとしてもその強くなった力は人を殺すための力ではないのかもしれん
    悲惨だ

    おおっと
    あの男が起きてきたようだ
    今日もまた我らの同胞を手にとって素材を収拾しに行くらしい選ばれなかっただけ良かったと思いつつ横目で我らはかの男を見送った

  • 46〈魔刃剣〉◆gt1ganT7To24/03/07(木) 23:42:31
  • 47後でちゃんと奢りました①24/03/07(木) 23:44:59

    《嗚呼》
    《無間に零れ落ちる夜の世界》

    《月が視えない、星も、何もかも》
    《何処だ》
    《何処にいる?》

    《───》
    《はは》
    《ははは》

    《月は堕ちた》
    《虚空には何も浮かばず》
    《私は勝利した》

    《永遠に不変の黒の世界に》
    《あのような》
    《光なぞ》



    《そう》
    《月は、堕ち「──月は此処にあるぞ」



    【凍え果てた首が飛ぶ。魔術により”支配されていた領域”が消え失せ、闇にあった地面が突き刺す様な月の光に照らされる】

    【闇夜に翻る狩装束と魔法のローブ。最早異形と化した魔術師を「介錯」した三日月の如き大鎌には、冷たい死を招く、暗い暗い月光が──】

  • 48後でちゃんと奢りました②24/03/07(木) 23:48:53

    「あら!狩人様と炭鉱ちゃん!今日もご苦労さまです〜」
    「こんにちはです」
    「…どうも、今日は売りに来たのだが」
    「あら本当!?いっつも助かるわぁ」
    【非常に新鮮な状態で、高度な魔術による冷凍保存が施された獣肉】
    【それを沢山入れた魔術袋を背負った狩人と竜人が、王都の市街地に現れる】

    「あ!お肉屋さんだ!こんにちはー」
    「…どうも、俺はお肉屋さんでは」
    「ほぼお肉屋さんのようなものじゃないでしょうか」
    【竜人の弟子に言われ、言い返せない程度にはお肉屋さんが板に付いてきたのを実感して少々溜息を吐く】

    【………】
    【先の一件。ある禁術により不完全な支配領域魔術の展開、また生体魔力の過剰増幅を行った異形の黒魔術師の討伐依頼】
    【それ自体は問題なく達成できたが】
    【あの支配領域………月が無い、そんな闇の世界】

    【あれが、狩人の哀愁を酷く誘うのだ】
    【衝合により混ざり落ちる前の世界、狩人が「暗月の狩人」になった世界】
    【藻掻き、殺し殺され、何時しか冷たい月に手を伸ばした──我が暗月は█████、████
    「ししょー?おーい」

    「…ああ、すまない。早速売り始めるか……」
    【………もう”終わった”事である】
    【どれ程悔いようが──我が暗月は冷たく辺りを照らすだけだ】


    「ししょー………昨日浪漫の狩人さんにアイス食べられたことそんなに落ち込んで………」
    「いや違、は?あいつ俺のアイスまた食べたのか?」
    「あっ」

  • 49厄剤師の受難①24/03/07(木) 23:50:20

    自ら調剤したポーションをギルと購買部へと納品するため、医務室を出てギルド職員の連絡通路を歩く少女がいた。
    彼女の名は〈厄剤師〉。一応は2つ名ではない本名もあるが、彼女が自らの名前を名乗る時は『師』により与えられたこの2つ名を使うことが多いようだ。

    そんな彼女であるが、突如彼女にとって最大の危機が訪れる。
    あと5秒で筋力増強剤の効果が切れるのだ。
    何故ここまで時間が無いのか。それはポーション制作に夢中になりすぎたあまり、薬の効果時間を示すタイマーの電源を入れ忘れていたからである。
    そして、今このタイミングで彼女が薬の効果時間切れが近づいていることに気がつけたのは、日頃飲用していることの感覚からであろう。

    (ふむ……)

    今まさに命の危機に瀕していることを理解した彼女の思考は、常人では考えられないような速度で解決策を模索していく。

  • 50厄剤師の受難②24/03/07(木) 23:51:14

    第1に思いついた案は、『今すぐ収納スクロールから薬を取りだして、この場で薬を飲むこと』だ。
    一見正しいように見えた選択肢。
    しかし、そこにはひとつの懸念点が存在する。今回は納品のために大量に薬を運ぶ必要がある関係上『4次元収納スクロール』と今日に限って無限に容量があるスクロールを持ってきてしまったのだ。
    まずようスクロールの奥の方に増強薬が入っていれば、取り出すのに時間がかかるだろう。
    残された時間は4秒前後。スクロールのロックを外し、薬を探し出して取り出すためにかかる時間が4秒後半程度だとすれば、薬を自力で飲むための時間が残っているかはギリギリの戦いになるだろう。
    仮に薬を飲むのに失敗した場合、彼女は服の重みに潰されて死ぬことになるだろう。重みに耐えかねて、叫ぶことすら出来ないはずだ。そして、そうなった時にこの通路を通りがかるとすれば仮眠に向かう職員ぐらいだ。
    そこで誰にも気がつかれずに圧死する可能性が0ではない。

    第2に思いついた案は今すぐ大声で叫び、誰かに助けを求めることだ。
    ギルド職員ならば自分の体質については知っている。直ぐにスクロールから薬を取り出し飲ませてくれるだろう。
    これは第1案よりも安全牌ではある。
    しかし今の時間帯は深夜。
    声の届く範囲に職員がいない可能性がある。
    もしそうならば、第1案と同じくここで誰にも気が付かれることなく圧死だ。

    ​───────さて、どちらを選ぶかと。
    ここまでの思考にかかった時間は約0.2秒。
    彼女に残された時間は残り4.8秒である。

  • 51厄剤師の受難③24/03/07(木) 23:57:44

    (​……いや。最もリスクが低い手がある)

    2つの案の懸念点について思考した後、第3の手を思いついたのだ。
    まとめよう。彼女が圧死する条件は主に2つ。

    まず、『筋力増強剤の効果が切れること』。
    そして、『重力+服の重みで肉体に負荷がかかること』だ。


    そう、薬の効果が切れることはさしたる問題では無い。
    問題なのは………自らが圧死することである。
    ならば、それを回避するためには?

    簡単だ。肉体に掛かる重みが減ればいい。
    そこまで思考した少女は……



    自らの白衣を脱ぎ捨てたのだ!!!

  • 52厄剤師の受難④24/03/08(金) 00:06:12

    結果的に言えば、彼女は一命を取り留めた。
    白衣を脱ぎ捨てたその30分後、重力に耐えきれず気絶し倒れていた所を夜勤中の白銀に発見されたのだ。
    筋力増強剤の薬を注射され、医務室へと運ばれた厄剤師が目覚めた後、〈白銀〉は呆れながらに言った。


    「……胸ポケットに入っていてすぐに取り出せる職員用カードから、救難信号を出せばよかったのでは?」


    ………焦りは、時に判断を鈍らせる。
    どのような事態にも、まずは冷静に対処法を考えることが大切なのだ。

  • 53二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 22:30:39

    このレスは削除されています

  • 54おとめ座のウィルコ ①24/03/08(金) 23:14:33

    白翼のハーピー、ウィルコはセントラリアの夕焼けを見上げながら考えた。ついぞ今まで背中に乗せていた羊娘のことなんぞ早いとこ見限って飛び去るべきかもしれない、と。

    「早く食べ終わりなよ」
    「焦らせないで下さい。こっちは1日かけて来ているんです、買い食いの1つや2つ……」

    ウィルコの目の前でアリエス・ハートはシュークリームに齧り付き、2色のクリームがまあまあな勢いではみ出た。
    そう。元はと言えばこれを誘ったのが間違いだった。知り合いの音楽ライブに突然欠員が出たと聞いて、丁度セントラリアに来ていたアリエスに一緒に何かやろうと言ってしまった。

    「へふにいいでほう」「何?」
    「別にいいでしょう?」「あんまりよくないのよ。リハに遅れたら困るわ」
    「今何時です?」「確かに待ち合わせの時間すごい早かったから大丈夫だけどさ」
    「そうでしょう」「その時間分練習じゃなくてスイーツに使うなんて聞いてないわ」
    「でしょうね」「でしょうねって何」
    「ところでこれ貴方の分、勿論奢りです」「んー…あ、美味しい」
    「ちょろいです」「ちょろくないのよ私は」

    まあ、とはいえ昔からの長い付き合い、何処となく馴れ馴れしい所もそこまで嫌いじゃない。何だかんだとご一緒するウィルコであった。

  • 55おとめ座のウィルコ ②24/03/08(金) 23:17:41

    リハーサルを終え、スタッフに渡されたジュースを飲み干したウィルコはため息をついた。正直な所アリエスとのセッションは難しい。歌にしても楽器にしてもまるで勝負、繋ぎ歩くはずの手で殴り合っている感覚。……お互いに楽しんではいたから似たもの同士ではあるかもしれない。


    「アリエスは?」

    「あの羊の子ですか。帰りましたよ」

    「帰った?」

    「“ウィルコさんからの差し入れです“って大量のお菓子を渡されましたよ。あの子一体何なんです?趣味にしては上手かったし……」

    「それを言うなら私も。ただの趣味よ」

    「あとあの本。羊の子が忘れてったみたいです」


    スタッフの1人が椅子に置かれた本を指す。

    アリエスの作品でも屈指の人気作、冒険者と怪物の対決を描いた「オーバースコア」シリーズの単行本。ウィルコは名前しか知らなかった。


    「これ、あいつが書いた絵本が元になってるの」

    「え……?」

    「まあいいわ、持っとく。私に読ませたくてわざと置いてったんでしょうね、あの羊すぐそういうことする。まあ暇つぶしくらいにはなるし……後で返しとくから」

    「んー…そういうことなら。お疲れさまでした」

    「そうね」


    (end…?)


    Re:incRnaTiØN ~夕焼ケ世界ノ決別ヲ~【OFFICIAL】


  • 56祭政技工の温泉☆女子会①24/03/09(土) 03:05:52

     三月某日。セントラリアにて。月をまたいだと言うのに未だに肌寒く 、息をはけば白み、昨日は雪が降ったほどだ。そんな日の早朝。

     「ううう…さぶいぃ…」
    そう震える彼女は祭政技工。幽霊であり、HoWLSの特別死神代行官。冒険者ギルド周辺が彼女の管轄になっているのかよく姿を現す
    「…私で暖を取られると動けないんだけど」
     返事をしたのは姉の篝火だった。経歴と肩書は妹とそう変わらない。違うといえば彼女は鬼火の類、全身が炎で出来ている事だろうか。そのせいか、今日のような冷え込む日はなんとなく同僚達が彼女の周りに集まる。元来幽霊は冷えやすいのだ。
     ダンッ。スライド戸の壁と衝突する音だ。
    「皆さん!あったまりに行きましょう!」
    駆け込んできたシズク君は、威勢良く声を張り出した。何やら随分自身を忍ばせているように聞こえたものだから、思わずこう返す。
    「あったまりに行くってどこへ?」
    「じゃーん!見て下さい代行官!犬宮温泉のチケットですよ!それも5人分!くじ引きで当てたんです!」
    メンダスシアのギルドマスターになったというのに、なかなかに小さい事に喜んでいるようだ。篝火が口を挟む。
    「あの、嬉しいよ?でも私達幽霊なんだけど…」
    「私と友人に憑依すれば大丈夫ですよ!ほら!行きましょう!」
     自身がある時のシズク君は大型犬みたいだ。褒めてやりたくなる。思えば懐かしい。彼女を部下につけていた時も、こうだったか。あいにく今日は二人共非番だ。突き合わせて貰うとしよう。

  • 57祭政技工の温泉☆女子会②24/03/09(土) 03:07:01

     「で、ボクが呼ばれたワケ?」
    柒海君は不服そうな顔を浮べる。昔騙された相手だ、まあ無理はないだろう。私としても罰が悪い。今でも度々彼女からの襲撃を受ける仲なのだ。
    「ごめん、ななみーん!本当はエリート死神さんを誘おうと思ったけど予定が合わなくて〜」
     シズク君は邪険さを和らげようと、色々語りかけるが柒海君の無愛想な顔は変わらない。さてどうなるかと考えているうちに、陸花君が合流する。
    「同志に元代表!ご再会されたのですね!」
     彼女は私の直接の部下ではない。亡命後シズクと取り入り、以後彼女に慕うようになったそうだ。正味初対面なのだが、上手くいくだろうか。篝火の方を見やる。
    「この娘達と交流がないと言えば私の方なんだけど」
    それもそうか。すまなかったね。なんて会話をしているうちに犬宮温泉に到着した。宿舎などは西洋風の外観をしているが、併設されている地下施設等は極東の温泉街そのものだった。
    「わあ、すっごい!ちょっと遠出した気分じゃない!」
    「温泉饅頭買ってきましたよ!代行官も、身体貸しましょうか?」
    「じゃあ、お言葉に甘えて…」
    「…シズクはよくこんなヒドい奴にカラダ貸せるね」
     その言葉には、黙るしかなかった。
    「そっか、ななみんはそうか。後で話すね」
    シズク君のお陰で、首の皮一枚繋がったような気がした。ないんだけどね、首の皮もなにも。

     「もぐ!この饅頭は!【企業秘密】の小麦と【企業秘密】を【企業秘密】で混ぜ合わせ
    て」
    「ちょっと陸花チャン!お店の人が廃業しちゃうでしょ!」
    「ええ?でも篝火さーん、この小豆なんかm」
    「黙って!」

  • 58祭政技工の温泉☆女子会③24/03/09(土) 03:08:46

     身体も間借りさせて貰った事だし、さあ、お目当ての温泉に入ろう。脱衣場では、14か15の小娘が、髪のお団子をまとめている。何か身内の不幸があったようにも見えるし、そうでもないようにも見える。浴場は露天風呂になっていて、造りは広く風流もある。まずは身体を洗う。シズク君の髪は長く、ボリュームもある。あの風ふけば繊細に靡く銀髪を維持するために、さぞ丁寧にケアしてるものだと思ってたが、身体の動き方を見るにそうでもないらしい。いやはや、持ってるものが違うとはこういうことなのか。
     一通り流し終ったらいざ温泉へ。足裏が湯面に触れた、そのまま段差を下るように腰が、胸が湯に沈む。温かい。何年ぶりの感覚だろう?地獄に落とされてから、身があれば焼けて骨も残らぬ灼熱か、タンパク質を構成する原子の運動が止まるほどの大寒を刑罰として受けて来た。別にそれはそれで当然の罰ではある。しかし身体の重みが、芯が、熱に絆されるこの感覚、しばらく忘れていたようだ。嗚呼、ずっとこのままでいたい。何もかも忘れて、僅かな水面の揺れに身を任せていたい。
     「温泉なんていつぶりかしらね」
    篝火が語りかける。休日二人で自転車を漕ぎ、湧き水程度の温泉をドラム缶に溜めて入った日。随分遠い記憶が蘇る物だ。隣で陸花君が温泉の成分を分析して蘊蓄語ってるが気にしないでおく…多分味覚と嗅覚が異常に発達してるのだろう。柒海君は…目線を合わせようとはしない。

  • 59祭政技工の温泉☆女子会④24/03/09(土) 03:09:15

     「柒海、もうちょっと楽しそうにしないとだめですよー!」
    陸花君が柒海君をつねる。母親と思春期の娘みたいだな、陸花君の方が年齢は低いように見えるが。
    「ダッテ…楽しくできるワケないジャン!ボクラを利用するだけ利用して捨てた奴がイルノニ!!」
    大きな声だった。他の利用客が思わずこちらを向くぐらいには大きかった。こんな声色は、彼女からは聞いたこともない。
    「…すまない」
    「そんな事キキタい訳ジャナイ!どんな顔して戻ってキタの?死神がユルそうが、ここにいる皆がユルそうがボクがユルさないから!オオゼイの人をクルシメて来たんダカラもっとクルシンデクルシンデ、消えちゃえばいいのに!」
    「まあ、まあナナミンそれくらいで…」
    「シズクは良いヨネ!こんなヤツに人生スクッテ、また命助けてモラって。でもボクは?ヨケイナ物押し付けられたダケ!コンナ罪人の自己満足にボクは付き合ってられナイ!」
     全員が黙ってしまった。閉口した口を、なんとか開ける機会を見失ったまま時間が過ぎる。
    「…ごめん。サワギすぎたね…」
    柒海君は浴場から出ていった。呼び止めるに値する言葉が見つからなかった
    「しょうがないわね、あの娘に話しつけて来るわ」
    明るい言葉で切り出したのは姉だった。
    「可愛い妹のために動くってのが、おねえちゃんだからね!任しておきなさい!」

  • 60祭政技工の温泉☆女子会⑤24/03/09(土) 03:10:05

    「柒海ちゃーん、いいかな」
    「…ナニ」
    あからさまに不機嫌そうに答える
    「いやさ、本当に最っ低だよね。アイツのした事、姉として恥ずかしく思うわ」
    「…ソウ」
    「ところでさ、柒海ちゃん。アイツ今何してるか知ってる?」
    「どうでもイイ」
    「そう、じゃあ余計教えたくなっちゃうな」
    「…勝手にスレバ」
    「使い捨ての鉄砲玉よ。的は世界のルールをひっくり返すくらいヤバいの。文明敵対種と毎週戦ってる…とでも言えば伝わるかな?」
    「…ナニが言いたい」
    「案外願えば叶うんじゃない?アイツが苦しんで苦しんで、そして消えちゃうの。でもそうしたらアイツに一つ借りができちゃうわよね?世界を守る為にやってんだから。それって尺じゃない?」
    「…ワカッタよ」

     柒海君が戻ってきたのは、私達が客室について、1時間程後だった。柒海君ははっきり私に目線を合わせてこう告げる。
    「…ユルシタわけじゃないカラ。嫌うのをチョットだけ止めたダケ…だから、負けて消えたりシナイで。ボクが嫌えなくナルじゃんか」
    返答に少し間が開いた。そしてどっと流れ込む。
    「もう!柒海は素直じゃないんですから!」
    「チョ、止めて」
    「そうそうナナミンはぶきっちょで、でもそこが良い」
    「シズクも、イジらないで」
    顔を真っ赤にした柒海君が、縋る藁を探すが如く私に顔を合わせる。
    「…嗚呼、消滅なんかしないさ。君達の孫の代まで、この世界を守ってやろう。だから存分に嫌い給え」
    「よっ私の妹、ぱちぱちぱちー」

    「盛り上がってる所失礼しますが、お食事の準備が整いましたよー!」
    「「「「「はーい」」」」」

  • 61魔女清掃員のお悩み直撃!①24/03/09(土) 11:32:41

    【魔術戦闘論において】

    「───《迸雷針》」「ガッ…」
    【総合的に、最も戦闘に優れた杖は「短杖」だとされている】

    【この世界は広い。そも杖を使わない魔術師だっているし、この魔術戦闘論も今となっては古い理論だ】

    「《焔槍》」「ぁ…」
    【中級依頼が終わった後】
    【待ち伏せでもしていたのか、人目の無い林道を歩いている所を奇襲してきた殲魔の集団】

    【その内の一人を《焔槍》により串刺しにしながら、考える】


    「クソッ!魔女ごときがァ!」
    「《衝崩結界》」
    【短杖を短剣のように振るい、パリィ】
    【《衝崩結界》を薄く小さく”見づらく”、短杖に張り付けるように発動】

    【殲魔にとっては「ただの」チンケな棒で咄嗟に身を守ったようにでも見えたのだろう。思い切り振り下ろした曲刀を弾かれ、驚愕の表情を見せる】
    【つまり、致命的な隙だ】

    「《焔矢》」「まっ」
    【二人目】
    【殲魔に向かって放たれる《焔矢》はものの見事に彼奴の頭部を貫き、そして爆ぜる】

  • 62魔女清掃員のお悩み直撃!②24/03/09(土) 11:33:22

    「《焔矢》《焔矢》──《焔槍》」
    【考えて、実感する】

    【魔術の”早撃ち”は非常に重要な技能だ。真正面からの魔術戦においては命綱とまで言える】
    【基本は一節詠唱、非常に優れた魔術師は詠唱破棄や詠唱圧縮などを使用するらしいが………】

    【それは兎も角】

    「《風斬翅》」「なっ!…ぁ」
    【短杖は、早撃ちのイメージがとても「馴染む」】
    【まさしく拳銃を撃ち放つように、軽い短剣を鋭く振り払うように】

    【どれ程理屈を捏ねくり回そうと、結局の所魔術はイメージが重要部分を占めると魔女は考える】

    (温故知新?…でしたっけ……)
    【異世界の知見を持つ母が自慢気に喋っていた事を思い出しながら、前の二人よりは多少出来た殲魔の首を斬り裂く】
    【三人目だ】

    「くくっ…まさかここまでやるたぁな。化け物は違うなぁオイ」
    「そうですか」
    【殲魔、最後の一人が下衆な笑みを浮かべる】

  • 63魔女清掃員のお悩み直撃!③24/03/09(土) 11:34:20

    【──魔女は悩んでいた。中級冒険者になってからはや数ヶ月、自身の大切な「掃除道具」かつ長杖でもある魔道具〈焔箒〉を相棒に依頼をこなして来た】

    「まァだが、化け物とはいえ…ちと疲れてきたろ?」
    【だが、伸び悩んできた】
    【究極に至りたい。とまでは言わないが、私だって魔女の端くれ】
    【魔術に対する愛は人一倍あると自覚している。ならば、この壁は乗り越えなければならない】

    「しかも!よ~くアンタを観察できたしなァ」
    「手札の割れた魔術師はさぞ辛いだろうな、ん?」
    【ブレイクスルーを求め、あの古理論を思い出して購入した短杖】
    【使い始めはかなり違和感があったが………依頼を複数達成した辺りから、手に馴染み始めたと実感する】

    【そして、殲魔の奇襲】
    【一手間違えれば命を落とすであろう魔術戦は、皮肉にも良い刺激となった】
    「──道は開けました」「は?」
    「《焔矢》」「チィッ!」

    「《焔矢》《焔矢》《焔矢》」
    「オイオイオイ、焦ってんなァ化け物がよォ!」
    【大口を叩く程度の実力はあるらしい】
    【一節、《焔矢》の”雑な”連射。爆ぜる焔で巻き上げられる土煙を物ともせず、殲魔はこちらに迫って来る】

    「《迸雷針「《呪返し》ィ!」
    (………誘われました、か)
    【殲魔が腰に携えた双剣に手をかけた瞬間を狙った、相手を数秒麻痺させる《迸雷針》】
    【「観察していた」というのは本当だったのだろう】
    【《呪返し》──文字通り魔術を跳ね返すそれにより、《迸雷針》がこちらに返ってくる】

    【「麻痺」の凶悪さは良く理解している】
    【これに当たったが最後、魔女の首は双剣によって刎ねられるだろう】

  • 64魔女清掃員のお悩み直撃!④24/03/09(土) 11:35:48

    【当たれば、の話だが】
    「《焔動》」
    「?──「《魔刃》」
    【四人目】
    【どさり、と………”真後ろ”から振るわれた《魔刃》により、殲魔の頭が転がり落ちる】
    【握った短杖から伸びた魔力の刃が崩れ落ち】
    【もう片手に握る〈焔箒〉の焔も勢いを止めた】


    【単純である】
    【魔女は殲魔戦において短杖の要領を完全把握した。それ故に】
    【自分は「短杖と長杖〈焔箒〉の二杖同時運用」が可能だと結論づけ、そして即座に実行した】

    【〈焔箒〉は穂先が焔で形作られた魔法の箒】
    【《焔動》の一節によって焔は穂先から姿を変え、轟々と噴出し爆焔と化す。それによる「箒星のような高速移動」は魔女の十八番だ】

    【《焔矢》連射時。何本かわざと地面に撃ち込み、土煙を巻き起こし………気付かれないよう〈焔箒〉を事前に呼び出す】
    【そして〈焔箒〉による超加速で跳ね返る《迸雷針》を避け、殲魔の背後に回り込み、それと同時に短杖の《魔刃》で首を落した】
    「ダブルワンド……《焔動》と《魔刃》の並列行使………即席にしては、良い感じ です」
    【懐から取り出したマナポーションを飲み干し、殲魔の死体の後処理をしながら、魔女はそう呟いた】




    【──焔箒を振って、埃を燃やし掃く】
    【魔術で作られた焔の穂先は】
    【床は焦がさず、煙も燃え滓も出さず、汚れだけを確実に燃やし尽くす】

    「魔女清掃員さん!今日もお疲れ様です」
    「ぉあっ……お疲れさまですっ……ふへへ……」

  • 65序章:解放①◆UwIgwzgB6.24/03/09(土) 12:23:22

    【薄明るい洞窟の中、"ワタシ"は目を開けた】
    (………ここは、どこだ?)

    【周囲を見渡すと、そこは地下深くに広がる巨大な空洞だった。地面は大きな水晶の柱で覆われ、天井からは鍾乳石のような物が垂れ下がっており、幻想的な光景が広がっている。中にスパゲッティーやハンバーグが閉じ込められているのはきっと目の錯覚だろう。たぶん】

    【頭の中にこびりついて消えてないのは、たった今起こったこと。満足気に消えていく邪神と、絶望の表情を浮かべながら光の粒子と化すアイツの顔と】

    「……■■・■■■■■……■■■…クッ……」 
    【邪神が消滅間際に掛けていった、仲間の名前を呼べない呪い】【最愛の人の本名すら、自分の名前すら呼べない事実にワタシはしばらく涙を流した……まぁエネルギーとして再吸収されたが】

    「今は現状の把握が先ダ…無事にあの異世界のあの場所に辿り着いたのなラ…」
    【しかし、ワタシはすぐに冷静になって現状を把握しようとした。酸素はある。細菌などの衛生面も問題はない。温度も快適】
    「なら──動けル……?」
    【口調に大きな違和感を感じたが、今は《禍目》がちゃんと使えるかが先だ。強張った手を長い時間かけてゆっっっくりと動かし胸の紋章を押す】

    "STUDY UP...BIOLOGY..."
    【起動音が鳴って紋章が緑色に輝くのを確認し──初期値に戻っテル!?」

    【しばし愕然とするワタシだったが、やがて長い長いため息を吐く】【記憶より大幅に弱体化しているが、これもあの【罵倒語】邪神の呪いなんだと受け入れたのだ】

    「よし、これでOK……ん?」
    【妙に皮膚に当たる風の面積が多い。というか寒い】【バキバキと同じ姿勢で凝り固まったっぽい首の関節を動かし、自分の身体を見ると……白色と桃色が目に飛び込んできた】

    「全裸ァ!?」
    【とりあえず洞窟の水晶?に反射した自分の姿を確認。そこには見慣れた茶髪緑眼の美少女が映っていた】
    (うん、身体に目立った異常なし。今日もワタシは綺麗。)…ってそれどころじゃナイ!」
    【しばらく周辺を探してみたが、残念ながら服は無かった。編める草を探そうにも洞窟には苔の1つも生えていない】

    「しょうがないナァ…」【今はリソースが足りないので服は作れない。ワタシは全裸のまま立ち上がり、洞窟の外に向かって歩き出した。洞窟はかなり広く、歩くたびに足音が岩壁にこだまする。】

  • 66序章:解放②◆UwIgwzgB6.24/03/09(土) 12:30:24

    (結構広いんだな。この洞窟は一体何なんだ?)【料理が埋め込まれた水晶?の洞窟を進んでいくと、前方に明かりが見えてきた。外は昼間らしい】

    「よいショ……?」
    【またしても口調に違和感。十中八九追加の呪いだろうが、今は気にしてられない。安全そうな果実を食べつつ歩き…不意に陽光が差し込む。】【それにつられて岸の向こうが霞むほど巨大な湖を見ていた視線を上げると─】

    【──山、そして見渡す限りの世界、世界、世界。森や谷、山などの自然に、西洋風、中東風や近未来的なものまで様々な文化や建築様式の無数の建物。空には遠くの方に竜だろうか、角のついた翼の影が見える。時々走る、空間の歪みでワタシは確信した。】

    (ここは多種多様な世界が融合している…やはりワタシ達が受信したあの世界…!
    【自主規制】邪神の支配から抜け出せた…抜け出せたんだ…!!!)
    【望んだ世界に転生したという実感が心の底から湧き上がり、心の底からの声になった】

    「自由だゼェーーー!!!」【その瞳からは涙が溢れ出…………?やはり勘違いじゃない…語尾に何かくっついてる!】

    〜〜時間の経過〜〜
    「あー…あー…これは厄介だ…ゼェ」
    【これ全っ然治らねぇ!?たぶん脳の言語野あたりに干渉してやがる!?しばらくしてようやく落ち着いた…落ち着いたかな?ワタシは茂みに隠れてあぐらをかいた。この治らない奇妙な口調の問題は後にしよう。どうせあのクソ邪神が「アフターケアは完璧に♪」と言った消滅間際の呪いなのだろうから】
    【脳裏で満面の笑みでサムズアップしている金銀髪全裸美女邪神の顔面にドロップキックを噛ましながら、ワタシは考え込む】

    【丈夫そうな木の上で改めて周囲の景色を眺めると早速行動を開始した…まずはこの広大な湖を渡る手段を考えなければならない】【ワタシは考え…考え……ふと、一隻の小舟がやってきているのに気づいた。】

    『おーい!聞こえてるかー?違う世界から来た者よー!』【何を言っているかが分かる。やはりラジオや漫画やラノベ等として受信したこの世界の情報通りこの村、この国の言語がインストールされているらしい】

    『ここデス!ありがとうございマス!!!』
    (さすがに全裸で会うのはまずい…)
    "STUDY UP, BIOLOGY..."【茂みから掠れた声を上げ、下着から生成を始めた─しかし】

    「…ッッッ!?」【それは悪手だった】

  • 67序章:解放③◆UwIgwzgB6.24/03/09(土) 12:40:07

    「!?が……ァ……───しまっ…ぐッッッ……」【下着を1mm創るごとに、全力疾走をした後のような疲れが襲い来る─体内からの生命エネルギーが限度を越え、強制的に変換される】【後で分かったことだが、必要量が予想以上に多かった✚弱体化により制御がうまくできていなかったことが理由らしい】

    (このままでは全裸で第一村人と遭遇してしまう…それだけは流石に避けたい!)【焦ったワタシだったが、それがさらに体力を浪費させ…】

    「ガ…ぁぁ…あ──」【全身に襲いかかる途方もない疲れと飢えと渇きに、意識を失った──】

    「……」【それからしばらくして…眠気に抗いうっすらと開けた目に、寝かせられた担架と被せられた毛布、そして門番に事情を説明する船員が見える。】【二言三言ですんなり中に入れてもらうことができた。この村では転生・転移者は珍しくないらしい。】
    〜〜時間の経過〜〜
    「──知らなイ天井ダ…」【目を覚ますと、どうやら病院らしく、ワタシはベッドに寝かせられて点滴を打たれていた。見上げると魔法であろうか…うっすらと蛍光灯でもLEDでもない明かりが光る白い天井】

    「ふ…!?」【大丈夫だとは思うが、あらぬことをされてないか怠い腕を動かして点検しようと…筋肉質なヒゲを生やした厳しい風体の男性と目があった】

    「すみません、驚かせてしまいました…私は村長のリゲンと言います。どうぞよろしくお願いします」【びっくりしてちょっと跳び上がるワタシを見て慌てて名札を見せる男性。彼が村長らしい】

    「あの洞窟から出てきたということは、あなたは『異世界転移または転生者』ですよね?」
    「えっとワタシは■■・■■■■■…あぁ…転生者デス」【ワタシは自己紹介をして、置かれていた病院食…やっとありつけた人工の食料…を食べ飲み尽くしてから、これまでの経緯を説明した。やはりここでは転生者や転移者は珍しくないらしい、村長さんは顔色一つ変えずに聞いていた】

    「なるほど…では、この世界のことを簡単にお話し…おっとその前にこれを渡しておかないと」【そう言って取り出したのは、蒼く光る巻物】

    「これは貴女が来る前に落ちていたもので"スクロール"と言いまして、転生・転移者がよく"すまほ"に例えていますが、すまほよりも──」
    「ッ…?」
    (なんだ、この感覚…何かを忘れているような…)【それを見た緑ローブの脳内にノイズが走った】

  • 68序章:解放④◆UwIgwzgB6.24/03/09(土) 12:40:44

    「──そしてこの村、「カンミ村」が属する国はセントラリア王国といい、セントラリアという王都を中心に栄えています。といっても端の端…辺境も辺境ですが」【意識がぼやけていたことに気づいた緑ローブ。慌てて手に持つスクロールを握りしめつつ耳を傾ける……痛いのだよ】

    (なるほど。やはりこの世界はアイツ、■■■が言っていた世界で間違いない)
    「この村は、糖分が含まれ浄化作用も持つ水が湧き出るカンミ池、転生者や転移者が数多く出るカンミ洞窟、飲食物がドロップするゴーレムが出るカンミダンジョンなどの名所があります。まあ、あまり知名度はないんですけどね…」
    「なるホド!カンミダンジョンについて詳シク……」
    【話を聞く緑ローブ。まだお腹が空いているのだろう、『飲食物がドロップする』というダンジョンに食いついた】

    「ふむ……。見てもらうのが早いですね。それではこちらへ……大丈夫です。これでも中級冒険者ですから、素人一人くらいは守ってみせますよ。」【そういって村長が案内したのは、村の奥、洞窟の横にあるダンジョンだった。】

    〜〜時間の経過〜〜

    【中が暗くて見えない、いかめしい洞窟。入口にはそれに似合わぬ自動ドアのような透明な素材でできた扉。】【食べ物でできたゴーレ厶がたくさん湧き出るところだという。】

    「えっ!ここに入るんデスカ!?ワタシ達だけデ……?」
    【目を丸くする緑ローブ。】
    「はい。もちろんですとも。話を聞くよりも入ったほうが知るには良いでしょうし、それに私の経験上は……こういうところのほうが安全ですよ。」
    「……わかりまシタ…行きまショウ!」【村長の説得により、まだ若干ビビりながらも"私"と緑ローブと村長はダンジョンの中に入った】


    「──それが、私とトンチキなモンスターとの縁の始まりだったのかもしれない」
    【と、現在の緑ローブは語る。】

  • 69序章:解放④◆UwIgwzgB6.24/03/09(土) 12:46:00

    ギャアァァあああああ!?!?な に ア レ!??!?
    (なんだアレ!?イチゴが全身についた鉱石人!?)【走る。逃げる。逃げ惑う】【緑ローブはピンク色で透き通ったイチゴが全身に刺さった鉱石人じみた外見の3mくらいある物体に追われていた】

    「あれはイチゴをモチーフとしたゴーレム、イチゴーレムでございます。」
    どう見ても鉱石だったのだガ…!?

    「低級の果物ゴーレ厶はああいう感じでしてね、味と匂いと食感と栄養分は新鮮なイチゴです。そのまま食べられますよ」【初めて見るモンスターに、息を切らしつつ問いかける緑ローブ。流石中級冒険者なのか、村長は難なく持った大太刀で斬り伏せてみせた】

    ……マジデ…!?
    「はい、マジです。良ければ一欠片どうぞ」【村長が差し出した欠片を恐る恐る口に含む緑ローブ】

    いただきマス…
    …!!!甘イ…!?さっきのイチゴーレム?の弱点はあるカ?
    「ええ、もちろんあります。後でお教えしましょう」【食べた瞬間に瞳を輝かせた緑ローブ。どうやらその美味しさに狩ることを決意したようだ】

    チョコ?のボールが全身についてル…
    「あれはショコラボールゴーレムですね。飛ばして攻撃してきますので当たらないように。」【跳ね跳ぶボールをすべて避けて一刀両断する村長】

    パフェ頭…!?
    「あれはこのエリアの中ボスのパルフェゴーレムですね。中ボスは他のゴーレムが出る場合もあります」【6mくらいのパフェに胴体と手足が生えたようなゴーレムを斬り伏せつつ解説する村長】

    はぁ…ハァ……次はどんなゴーレムがいるノダ…!?何デスカこの地響き……
    「次は…ッッッ!嘘でしょう、こんな時に…!!!緑ローブさん、早く出ましょう!ダンジョンのシステムが後押ししてくれるはずです!あれは──
    【地の底から響くような振動と天井からの埃に、村長は緑ローブをお米様抱っこでひょいと抱えあげる。ダンジョンのシステムなのか見えない謎の力によってぽんと崖から放り出された】【後ろを向いた緑ローブに見えたのは──】

    「な…………ダンジョンが崩れ……えっ……!!?!?」【眼の前で先程までいたダンジョンが崩落する様と】

    ──六ヶ月くらいに一度現れる、サンドバゲットゴーレムです…!!!」
    〈BAGUETTE!!!!!!!!!〉
    【DLT(ドラゴン・レタス・トマト)サンドが頭部になった、50mくらいの巨大ゴーレムだった】

  • 70序章:解放⑥◆UwIgwzgB6.24/03/09(土) 12:50:52

    「なに、大丈夫です。里の皆さんは慣れてますから……もうすぐで片付きますよ」
    【現状を飲み込めない緑ローブは全速力で漕がれる船の上で首を動かし──信じられないものを見た。】

    「村長!残ってた人は全員退避させました!」「閉じ込める結界貼りました!維持出来てます村長!」「私のデータによるとサンドバゲットゴーレムが5分後にここを通る確率は9.99%」「相変わらずガバガバじゃねぇか!ほらさっさと偽地面衝撃緩和術式張るぞ」「うーい」「魔力式超加速発射術式、準備完了!」

    「気を引き締めて…大丈夫!私なら」
    【岸が霞むほどの巨大湖全体を覆う規格外にデカいドーム状の結界、村人が手に手に物資を持ってゴーレムの対策であろう大砲を準備する姿、そして】

    「で き るぅぅぅぅぅおりゃァァァァああああ!!!!!!」
    〈BAGUETT!?!!!?───…………〉
    【ドゴァァァァン!!!という爆音とともに大砲から発射されて飛び込んできた、抹茶色の浴衣っぽい服を着た少女の飛び蹴りと】
    【腹の底に響くような咆哮を上げてダンジョンから湖にその巨大な脚を踏み入れたところで脳天を蹴り抜かれ、地響きとともに魔力で作られた巨大板に倒れ付すサンドバゲットゴーレムを】

    【あぁ…ここは】

    「魔境なんダナ……」
    【口から溢れた言葉に、村長は深く頷いた】

    ……ということがあったな…懐かしイ…!!!そうそう…この後カンミダンジョンにハマってしまってナ!
    栄養分を得て戦うほどに使える生物の能力と栄養分の消費量が増えてくから、ボロボロでダンジョンと家を往復する毎日だっタ…
    そして家の冷凍庫で凍死しかけて……そこがセントラリアの王都に行くきっかけだったナ…

    今はもう慣れタ…サンドバゲットゴーレムを倒す弾になったこともあるゼ!
    【現在の緑ローブは、遠い目をして書き終わった】
    【完】

  • 71衝合巻き込まれる数秒前①24/03/09(土) 13:57:24

    【こことは違う遥か彼方の物語】
    【舞台は近未来と異能と闘争の世界】
    【強き異能、便利な異能、優れた者がそれに値する権力を手に入れられる】
    【とある冒険者が定義した名前は、元世界】

    【元世界の権力や地位は、例外除けば計15段階存在しているが】
    【最上位段階の10名、内2人が同じ建物内にいた】

    人工災害『へいよー、反社会的勢力の1つ潰してきたぜェ。報告書テキトーにシクヨロ』
    「、、、お前がやれ」
    人工災害『オレ馬鹿だし出来ねぇ明日昼飯奢ってやるから頼む!』
    【噓つけ、一昨日監視員に囲まれながら高スピードにやってた癖に】
    【だが其れを指摘すると互いの痛い所を突き刺し合う戦争が起こるので】
    「チッ今回だけだからな」
    【面倒だが大人な俺は作業に取り掛かる】
    【機械を稼働しフォーマットに従ってコピペ、訂正、コピペ、訂正、、、】

    【ある程度区切りがつき前を向くと、その光景に眉間に皺を寄せた】
    【俺が時間削ってまでお前の作業しているのに】
    【ヤツは(俺の)ケーキを旨そうに食ってやがる】
    【研究事故と偽ってブラックホールに突き飛ばしてやろうか】

    人工災害『そう云えばよ、お前と会うの数ヶ月ぶりだけど凄く不機嫌状態だな?』
    「、、、お前が書類押し付けて来るからだろ(黙れ)」

  • 72破絆の魔女①◆IFPE0ZC60Y24/03/09(土) 15:50:50

    【最近、よく夢を見る】
    【あの頃からは考えられないくらいに、幸せな夢を】

    【─────数月前、恋とチョコが似合う某日】
    【鋭眼召喚士とノコギリ青年は、自宅で二人の時をゆっくりと過ごしていた】
    「どうした?」
    なんでも、単なる物思いよ
    しかし、バレンタインをこうしてアンタと過ごすのも何だか恒例行事になってきちゃったわね
    「ハハッ!俺はお前といるの好きだからな!初めて会ったのが中級試験の時だったから……もう2年くらいか?」
    ええ、そうね
    【中級試験時から一緒のこの男は、掲示板ではノコギリ青年なんて名乗り、巷では結構有名な冒険者になってるらしい】
    【私からしたら、ずっと変わらない冒険バカだけど】

    「バレンタインチョコありがとな!」
    別に……いっつも世話になってるお礼、私は基本ソロで掲示板とかも見ないから、周囲でいつでも依頼に誘えそうなのアンタくらいだし
    「それでも俺は嬉しいぜ!今年はどんな味なんだろうな〜」
    人のチョコをロシアンルーレットみたいに言わないでよ、義理でも自信はあるんだから
    【本当は半分本命だけど、という言葉を飲み込んで美味しそうにチョコを食べる彼の横顔を見る】

    【いつからだろう、私が惹かれていったのは】

  • 73破絆の魔女②◆IFPE0ZC60Y24/03/09(土) 15:54:39

    >>72

    「先生、中級試験の会場ってここか?」

    『ああ、筆記試験後に中央酒場の依頼掲示板近くに集合という説明を受けたからね』

    【その青年と言葉を話す巨大剣は一際周囲の注目を浴びていた】

    【ノコギリを背負った駆け出し冒険者、彼らは冒険者になってからいくつもの大事を起こす問題児にして、下級でありながら2度も無限牢獄深層へ辿り着き、途中で助太刀があったとは言え無事に帰還した、『得体の知れない』大物であった】


    アイツとだけは無理ね

    冒険者としての方針が真っ向から違う、それにああいうタイプって嫌いなのよ

    希望とか夢とか信じて、現実を見ないようなバカなんてね

    【鋭眼召喚士は冷めた目で青年達を見ていた、彼女もまた同時期に冒険者となった駆け出し】

    【そこそこの活躍とそこそこの戦果を積み重ね、一方でそれ以上は求めない、冷徹なまでの現実主義者であった】


    【しかしそんな彼女の願いも虚しく、実技試験のチーム分けはあの青年と同じ組になってしまった】

    「これで揃いましたかね、では自己紹介から僕の名前はレックス・クラフター、冒険者歴は5年ほど、副業で建築士をしています」

    「へぇ〜!スゲェなアンタ!もう5年も冒険者やってんのか!じゃあ絶対中級に上がらないとな!そんでそっちの二人は?」

    「うぇっ!?あ、アタシはエレノア・メリジェーヌって言うよ……フヒヒ…得意なことは罠仕掛けること……」

    『罠師もしくは斥候役ということか、頼りにしているよエレノア』

    「うわぁ!?背中の剣が喋った!?」

    「先生って完全に自立した意思を持っている武器っていう結構珍しいタイプだからな、そんでアンタは?」

    「……アリッサ、ただのアリッサよ、言っとくけど馴れ合うつもりはないから」

    【鋭眼召喚士は鋭い目つきで他を威圧する、そもそもパーティでの活動なんて結果よりもストレスの溜まるものと考えている】

    【生まれつきの鋭い目が人に良い印象を与えない、こうすれば変に寄ってくることはないだろう……と今までは考えていた】


    「そっか!じゃあ後で飯食おうな!俺はソーマ、千字創真だ!セントラリア風に言うならソーマ・センジか?まあよろしくな!」

    『私はイーヴル、彼の武器で『神機』と呼ばれるものだ、3人とも今日はよろしく頼むよ』

    【目の前のバカはお構いなしに此方のテリトリーに踏み込むようだ、本当にこういうやつって自分勝手で……】

    「……ムカつく」

  • 74破絆の魔女③◆IFPE0ZC60Y24/03/09(土) 15:56:40

    >>73

    【3人と一柱の剣、そして私のところの1匹は和気藹々としながら進んでいる】

    『ご主人はなー!このあるてぃめっとうるふであるぼくを従えているんだぞー!』

    ポチ、うるさい

    【私はこの子犬を嗜めながら一人で進む、仲良しこよしなんて柄じゃない、近寄るなと睨みを利かせて距離を取る】

    【だと言うのにあの男は私に話しかけてくる】

    「そっか!お前もポチも結構凄いな!俺は駆け出しの中でもかなり実力ある方だと思ってたけど、アルティメットウルフなんて強そうだ!」

    そんなのポチの冗談よ、間に受けるなんてアンタ馬鹿ね

    「騙されたか!ハッハッハッ!」

    …………ハァ、一足先に行くわ

    【ツカツカと生真面目小人と根暗眼鏡女の間を通って先を進み、試験の目的地まで無駄なく行動する】

    【今回の目標はBランク相当の魔物の巣の掃討、多分ギルド側がアイツ(ノコギリ青年)がいることを考慮して多少難易度を上げたんだろう、全く迷惑な話だ】


    【しかし、ギルドの想定を超えて青年はその場に立っていた】

    【C〜A-クラスの魔物が多数混在する巣を瞬く間に壊滅、正に規格外の一言に尽きる活躍だった】


    「よし、全部片付いたな」

    『4人ともお疲れ様、これで後はギルドに帰還して試験完了だね』

    「……強過ぎる、同じ下級のはずなのに僕たちの出る幕などほとんど無かった」

    「は、は……圧倒されちゃったぁ……」

    【後に建築小人と地雷娘と呼ばれる二人の冒険者は、ノコギリ青年の戦果に圧倒されて腰を抜かしている、一方鋭眼召喚士は「相性は悪いけど楽に終わった」と静かにその場を眺めていた】

    【しかし、良し悪しの区別なくイレギュラーとイレギュラーは惹かれるものである】

  • 75破絆の魔女④◆IFPE0ZC60Y24/03/09(土) 16:07:20

    >>74

    《ガァァァァァ!!!!!》

    新手……!?

    【少し離れた場所にいた鋭眼召喚士の目の前に飛来した巨竜が咆哮する、咄嗟に防御の体勢を取ろうにも既に竜は動き始めている】

    クッ……!距離が近過ぎる……!

    【ここまでか、と少し悔いもありながら諦めを選ぼうとした彼女の前に、大きな背中が現れ、直後ブレスによる爆発が巻き起こる】


    う、ッ……なに、が……って、アンタ……何してんのよ!何で私を庇ったの!

    「何でって、そりゃあ……仲間、だからだろ」

    【鋭眼召喚士の前に立っていたのは、焦熱でボロボロになりながらも、召喚士を守り通したノコギリ青年の姿だった】

    ……ッ!何、なのよそれは!

    この試験で最低限のことしかしてない私なんか放って、さっさと帰ればよかったでしょ!?と言うかそれが普通よ!そうすれば中級に上がれるじゃない!

    こんな非常事態に対処するなんて、今の私たちじゃ到底無理に決まってるのに!

    「それじゃダメなんだよ、中級にはなれても冒険者として失格になるんだ、だってお前はこの依頼で一緒に戦った仲間だろ?仲間を置いてくのはダメなんだ」

    は……?

    「アリッサ、俺たち冒険者はな!どんなことがあろうと仲間を見捨てるなんてことは絶対にしないんだよ!」

    「だから俺は!お前置いて逃げたりしない!」

    【神機を振り下ろし、突進してきた巨竜を怯ませ後退させた】

    仲間、仲間って……本当、馬鹿みたい……だって普通あり得ないでしょ、そんな選択肢なんて……

    「この世界で『あり得ない』、なんてことはあり得ねぇさ、俺たちでコイツをぶっ倒すのも『あり得ない』わけはない!」

    【逆境に対して不敵な笑みを浮かべ、敵を見据えるノコギリ青年の姿に心が揺さぶられる】

    【一方、怯んだ隙を見計らって建築小人が魔鎚を叩き込み、地雷娘は周囲に魔術製の茨のようなものを敷き詰める】

    「打撃も効いているようですね、僕たちでこのまま押し切りましょう!」

    「アタシだって底力見せてやるんだからーー!」

    全く……すぐ感化されちゃって、最悪の外れくじ引いちゃったみたい

    ポチ、タマ……私たちも行くよ!

    『いいよー!』【了解というプラカードを出す腕】


    【子犬を近くに呼び寄せ、虚空より巨大な両腕を召喚し、鋭眼召喚士も巨竜討伐の中へと参戦する】

    【戦いの決着がついたのは夕暮れの日も消えかける黄昏時、4人の冒険者は死闘の末に竜を討ち果たしたのだった】

  • 76破絆の魔女⑤◆IFPE0ZC60Y24/03/09(土) 16:09:52

    >>75

    「試験中に緊急事態が起きたら連絡しろと、あれほどお伝えしましたよね?」

    「いやっ、その……冒険の予感がして、つい……あっ、報告書と反省文の量を倍にするのだけはやめてくれ!」

    【その後、4人は治療を受けギルドに試験時の出来事を報告した、ノコギリ青年は担当職員であったポニーテールの女性にお説教されているようだ】

    【試験の結果は落第ギリギリの合格、大衆の歯牙にもかからぬ一般冒険者から一気に悪目立ちする立場へとシフトチェンジだ】


    ……ったく、最悪の外れくじね

    【いつものように質の悪い安酒を頼んで一人晩酌をしている、しかし今日は隣に幾人かの冒険者が座っていた】

    「ハッハッハッ!見事にやっちまったな!」

    「僕としては撤退をお薦めしたかったのですが、状況が状況でしたので……」

    「アタシはアリッサちゃんの味方だもんね!もう2度とあんな目に遭いたくないよ!」

    ……うるさいな、誰が一緒に飲むなんて言ったのよ

    【今日は試験組と一緒になって夕飯を食べている、大切な一人の時間を邪魔されてこの上なく腹立たしいはずだが……何故かそこまで気分は悪くなかった】

    「アリッサ、また冒険しような」

    ……私に予定がない時にね

    【それにあんなに嫌いだったコイツも今はそこまでじゃない、「庇ってくれたから」なんて安っぽい理由じゃないと良いけれど】

    【…………私は多分、ソーマといるのが居心地いいのかもしれない】

    『ご主人、はつこいでじょうきげん?』

    ポチ、うるさい

  • 77破絆の魔女⑥◆IFPE0ZC60Y24/03/09(土) 16:14:33

    >>76

    【思い出に浸り終わり、スッと目を開ける】

    【そして鋭眼召喚士はある決心をした】

    「中級試験は色々あったよな〜最初なんて」

    ねぇ、ソーマ

    「ん?何だ?」

    エノシガイオスでの約束、覚えてる?

    あの約束……そろそろ守らなきゃね、私もあんたもちゃんと冒険者として歩んできたからさ

    「……?」

    この鈍感、明日には加入申請しておくから、ちゃんと了承してよね!

    【鋭眼召喚士は『無窮の天路』へ加入することとなった、そしてもう一つ大切な話を彼にだけ伝えた】


    私の名前、ちゃんとした名前をあんたに教える

    私は……メイザス、アリッサ・メイザス

    「お、おお……それが何なんだ?」

    分かったならメイザスの家名をあんたのお師匠さんにでも伝えなさい、もしくはグロワールの高家の知り合いとか

    私はね、ソーマ

    私の家は穢れてるの、メイザスという名前はかつて「グロワール国家の転覆」を図った大犯罪者一族の家名なの

    それでも、こんな私を仲間だって受け止めてくれる?

    「もちろん、約束だからな」

    ……覚えてるじゃん、この冒険バカ

    【ノコギリ青年は少し顔を赤らめながら微笑む彼女の顔は綺麗だと感じた、だからこそ少し先の未来に待ち受ける出来事が、彼の内に激情の嵐を巻き起こした】

    【これはグロワールに「メイザス」の名が蘇り、鋭眼召喚士に危機が迫った事件が起こる時より、少し前のお話─────】


    ……言ったでしょう

    私の血は、どうしようもなく穢れてるって



    Aimer 『I beg you』(主演:浜辺美波 / 劇場版「Fate/stay night [Heaven's Feel]」Ⅱ.lost butterfly主題歌)


  • 78龍に眠る記憶➀24/03/09(土) 16:21:10

    【これは今はもう誰も知らない少女と龍の記憶】


    「おいそこのガキ、貴様此処で何をしている…よもや我の棲家と知って立ち入ったわけではあるまいな、もしそうならば貴様を……」

    「あぁ?生贄だと…?……チッ、そんな物はいらん…求めた覚えも無い、貴様もさっさと村とやらに帰れ」

    「我の知ったことか、村に帰れぬのなら何処へなりと行け、そして野垂れ死 ね」

    「……………………」

    「…………何故此処に居座る…」

    「……我は癇癪で人を殺 すぞ、貴様の様な人間の幼子1人鼻息でも殺せる」

    「チッ…引かぬか……面倒なガキだ…………勝手にしろ」

    「我は寝る、我の眠りを妨げれば殺す」

  • 79龍に眠る記憶➁24/03/09(土) 16:22:39

    >>78

    「くぁ……少し寝過ぎたな、今は…昼下がりと言った所か…青い空、今日は晴れ……フンッ…気に入らんな」


    「………貴様まだ居たのか」


    「あぁ?腹が減った?」


    「我の知った事ではないな、そのまま野垂れ死 ね」


    「むしろ…ここに居座ると言うならば貴様は我に贄を捧ぐべきだろう、我が貴様の飯を用意するのではなく貴様が我の飯を用意するのだ」


    「フンッ…貴様の様なガキが狩りなど出来る筈も無いだろう、我が言いたいのは貴様の様な役立たずはさっさと立ち去れという事だ」


    「……チッ、つくづく面倒なガキだ…我は寝直す、邪魔をすれば殺す」


    「………くぁ…………3…いや4時間程寝ていたか……………?……おいガキ、コレはなんだ」


    「コレを我に…?……ふざけているのか、この様な草や茸で龍の飢えが満たせるとでも思ったか」

    「……………………フンッ」


    「……………腹には貯まらんが…食えなくはないな…」



    「おい、起きろガキ」


    「目が覚めた様だな、後ほんの一瞬でも遅ければ殺していた所だ」


    「これか…先程仕留めてきた獲物だ、小腹が空いた、貴様の用意した贄が足りんからだ」


    「それと…そうぐぅぐぅと腹を鳴らされては煩くて敵わん、貴様にもほんの少し分けてやる、だからその腹の音を静めろ」

  • 80龍に眠る記憶➂24/03/09(土) 16:24:29

    >>79

    「………雨か、雨は好かん……どれ雨雲を吹き飛ばして………」


    「………面倒だな」


    「命拾いしたなガキ、我が雨雲を吹き飛ばそうとすれば貴様も巻き添えだ」


    「………よくもまあ雨に打たれているのにぐっすり寝おって…腹が立つな…」


    「………フゥゥゥ………寝てばかりいると体が固まっていかんな…少し翼を伸ばすか」


    「偶然だが…翼が雨よけになってしまうな、まあ良いだろう……」

  • 81龍に眠る記憶➃24/03/09(土) 16:26:11

    >>80

    「おいガキ…コレはなんだ」


    「草を編んで作った寝床…?おい、此処は我の棲家だ、何故我の許可無くそんなものを作っている」


    「地面で寝るのは嫌だ…?ならば此処を出ていけば良いだろう、第一貴様は何故ここに居座る?常に我に敵意を向けられ顔を合わせれば殺すと脅される…此処は貴様にとって安寧からは程遠い場所だろう」


    「他に行く場所が無い?村には帰れないとかいうやつか?別に余所の村でも街でも行けば良いだけだろう」


    「………確かにこの近くに人の住む所はあの村しかないな…1番近い町でもここからだと…」


    「あぁ?何だ急に…当然だ、我は龍ぞ…その辺りの木っ端共では到底相手にならない古き龍種だ」


    「………ハァ?それが何故お前の安心に繫がる?我にお前を守ってやる義理など無いぞ」


    「我が優しいだと…?……貴様に優しくした覚えなど無い、恐怖のあまり錯乱でもしているのか?良いか、今は気まぐれに生かしてやっているが我はその気になれば容易く貴様を殺してやるぞ」


    「…………何を笑っている」


    「………………フッ」

  • 82龍に眠る記憶➄24/03/09(土) 16:28:22

    >>81

    【それはずっとずっと昔の事、今ではもう誰も知らない生贄の少女と龍のお話、その始まり

    少女は死んで、龍は全て忘却して

    龍の鱗に眠る少女の温もりの記憶だけが幽かに残っている

    この先のと話は龍も少女も救われず取り返しがつかなくなってしまった

    今はもう、ただ終わる事だけを望まれる物語】

  • 83G.H対話実験記録No.77①24/03/09(土) 16:54:42

    ガッ─────
     ピー

    「あぁ…すみません…実験で…来たんですけど…」
    【黒い髪を肩にかからない程の長さで切り揃えた華奢な白衣の男が重厚な扉と軽装な軍人風の男の前に急ぎ足で駆け込んだ】
    「許可証と名札の提示を」
    「はいはい…」
    【紙に印刷されたその日の日付とボールペンで雑に書かれたサインのある許可証と「ファトム・ルーナ」と書かれた名札を見せる】
    【名札には男の顔写真も付いている】 

    「………確認出来た、中へ」

    【重厚な扉が軍人風の男の手により開かれる】

    「10分経ったらベルを鳴らす、そしてこの対話実験の10分間の記憶はアイツから消去される、わかったか?」
    「分かってます じゃあ…」

    【ルーナはゆっくりと開いた扉の中へ歩いて行った】

  • 84G.H対話実験記録No.77②24/03/09(土) 16:55:45

    【ルーナが入った部屋の中には】

    『… … …』
    全身が緑色の宝石の様な物質で構築された、3メートル程の大きさの巨人が鎮座していた】

    「は…初めましてグリーンハウス…僕はルーナ、クラス3研究員のルーナといいます…」
    【ルーナは緊張した様子で巨人〈グリーンハウス〉に話しかける】

    『緊張する必要はありませんよルーナ…』
    『私はグリーンハウス、人類の存続を目的として作成された機械で……貴方に説明しても仕方がありませんね』
    【グリーンハウスは静かに顔を近づけ、優しげな声で話しかける】

    「は…はひ…」
    『緊張する必要はないと言いましたよルーナ』
    【ルーナは慌ただしく姿勢を整え】
    「あ…す…すみません…」
    「僕みたいな使えない下っ端研究員でも、対話の機会が与えられて…ちょっと嬉しくて…」
    『全ての人に上下は無く平等であると主任は仰っていましたが』
    【グリーンハウスは奇妙そうに聞く】

    「あの人は…そういう思想なんだと思いますよ」
    「その癖してたまに職権濫用して危険な実験強行しますし」
    【ルーナは呆れたように呟いた】
    『あの人が…!興味深い一面です』
    「興味深いんですか?」
    【驚いたように聞き返す】
    『ええ、とても』

    【グリーンハウスはゆっくりと頷いた】

  • 85G.H対話実験記録No.77③24/03/09(土) 16:57:11

    『あらゆる物には意外な一面が存在しています』

    『例えば…この扉です』
    【閉じられた重厚な扉を指差す】
    『この扉は何者も通さないような、頑丈で、強固な鋼の壁としてここに立っています』
    『しかし一度外の人間が合図をかければ2つに割れて、人を通すことができるようになるのです』

    「それが…面白いんですか…?」

    『はい』

    「変わっていますね」

    『皆他人は変わって見えるモノ…そう主任は仰っていました』
    『貴方もそうですね』
    「ぼ…僕ですか!?」

    『はい、貴方は自分の地位が低いと、能力がないと、そのように仰いました』
    「上下の概念知らんのに地位は知ってるんですか…」


    『………貴方は優秀だと聞きましたよ』

    「主任からですか?」


    『いえ…今回の対話以前での対話者76名のうち24名がそのように』

  • 86G.H対話実験記録No.77④24/03/09(土) 16:57:43

    「なん…て…?」

    『私は毎回の実験で対話者の気に入っている人間を聞きます、その度に記録をしています』

    「え…!」

    『ぜひ…貴方の気に入っている人も聞い【ビーッ!!!!!!!!】

    「対話実験は終了だ!!!!対話者は直ちに収容室から退室しろ!!」
    【スピーカーから軍人風の男の声が聞こえる】

    『時間のようですね、それでは』

    『さようなら』


    プツッ────────────

  • 87⬛︎⬛︎話⬛︎記録⬛︎◼■7⑤24/03/09(土) 17:02:18

    「これ………お前だろ?グラダビス」
    【流れるような銀の髪と紅い瞳の…人ではない者が壊れかけの記録媒体を手に持ち、緑色の巨人〈グリーンハウス〉の前に立っている】

    『だったらなんだと言うんだ?ボタン…皆に見せる気か?』

    「まさか!!こんな面白いモン、独り占めした方がよっぽどいい!」
    「このロンズデイに似た黒髪の男も…お前のあんな姿も…な」
    【怪しく、不気味に笑う】

    『気味の悪い娘だ…』

    「作ったのはお前だぜ、この中の6番目のヤツに似せて作ったんだろ?」
    【顔を睨みつけるように、視線を向けて、そう呟いた】

    『… … …』
    【グリーンハウスは…ただ沈黙していた…】

  • 88銀竜ハイドナ、その遭遇記録-124/03/09(土) 19:23:34

    【その日、私は無限牢獄を潜っていた。下層の悪魔地帯に赴いて、その翼膜を狩り集めるためだ。
    発端は友人の魔術師が高位の悪魔の翼膜だけで衣装を作りたい、と言い出したことだった。悪趣味にもほどがあるが奴の見立ては確かで、つまりは出来上がる衣装は強力でこれから先の戦いに必要なのは間違いないと感じられた】

    【私が剣を持ち敵を斬り伏せ、あいつが魔法で有象無象を焼き払う。もう長い付き合いでお互いの腕も信用していて、探索は何一つ滞りなくすすんでいた。
    あいつが、息を呑んで立ち止まるまでは】

    「おい、見ろ……まさかあれ、本物か?」

    【指指す先には扉がある。そしてその前に、一匹の竜がいた】

  • 89銀竜ハイドナ、その遭遇記録-224/03/09(土) 19:24:03

    【全身が銀色に輝き、瞼のない目は青い宝玉をはめ込んだかのよう。大きさは自分たちより遥かに小さく、犬か猫か、その程度。その気になれば抱えあげることは造作もないだろう。
    だがそんな気は微塵も起きなかった。

    竜がこちらを見る。私達二人はそれだけで跪きたくなる衝動に駆られた。恐怖や威圧は微塵も感じないが、私達の本能的な部分がその竜があまりにも大いなる存在であることを告げていた。
    危険な迷宮の中で二人、私達はほうけたように突っ立っていることしかできなかった

    どれだけそうしていたのか覚えていない。竜はこちらをじっと見ていたが、特段興味もなかったのかふいと向きを変えた。
    横であいつが止めていた息をやっとのことで吐き出す音が聞こえた。同時に自分も同じことをしていると気づいた】

  • 90銀竜ハイドナ、その遭遇記録-324/03/09(土) 19:24:35

    【小さな竜を見送ろうとした瞬間、地響きが迷宮を揺らした。私達はとっさに身構え、現れたものに絶句する。
    山のように大きく、岩石の表皮を持つワームが天井と床の両方を砕きながら接近していた】

    「リフトワームだ!畜生、なんでこんなときに!」

               リフト
    【その巨体が動くだけで谷ができてしまう、下層でも出会ったら運がなかったと思え――そう言われるたぐいの魔物がリフトワームだ。家よりも大きな頭部が、通路ごと私達を飲み込もうと瓦礫を巻き上げながら突っ込んでくる。
    こんなものを受けられる訳が無い。避けるにも止めるにも遅すぎる。
    私も相棒も覚悟を決めたその時――】

    【何かにぶつかったかのようにリフトワームの頭部がぴたりと静止した】

  • 91銀竜ハイドナ、その遭遇記録-424/03/09(土) 19:25:55

    【家よりも大きなリフトワームの顎の先に銀色の竜の姿があった。比較すれば人と小石のような大きさの、さらに小さなその腕がたった一本でリフトワームを止めていた。リフトワームの身体がのたうち、周囲をずたずたに破壊していくが小さな腕一本に捉えられた頭部は重石でも載せられたかのように動かない。
    あまりにも現実感のない光景は、まるでパントマイムか人形劇の一幕のように見えた】

    【次の瞬間、銀色の波動が駆け抜けた。それは私にも友人にも何の変化も起こさなかったが、銀の竜の力そのものに打たれた私達は今度こそ反射的に跪いていた。しばらく頭を垂れ、耐えきれぬ存在感に身動きできないままそうしていた】

    【……何分か経って、ようやく頭を上げたときにはもう銀色の竜はどこにもいなかった。眼の前には、巨大な銀の塊と化したリフトワームが横たわっていた。
    私達は、目にしたものの衝撃に動けないまま、ただその痕跡を見つめていた】





    【銀竜ハイドナ、最も小さく最も偉大なる地底の王。
    彼は決められた縄張りを持たない。どこであれ、そこに彼がいるかぎり大地は彼の王国であるから。
    彼は小さいが、途方もなく大きい。大地が彼そのものであるから】

  • 92暁翼の司書、ウィルコ①24/03/09(土) 19:49:30

    人探しには夕方は良くない。夕日が無駄に目に入るから。

    「あ」

    けどそんな中でもあの羊は結構目立つ。丁度ギルドを出た所にいたアリエスに向かって滑空し、私は軽く翼を仰いだ。この時期の風は気持ちいい。

    「ウィルコ。来てくれたんですね」
    「本、渡しに来たわ」
    「読んでくれました?」
    「まあね」
    「折角ですしちょっと散歩に行きません?」
    「んー、いいけど乗せないわよ」
    「大丈夫です」

  • 93二次元好きの匿名さん24/03/09(土) 19:50:39

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  • 94暁翼の司書、ウィルコ②24/03/09(土) 19:53:00

    この細道は閑散としていた。夜に混雑するのだろう、大きな居酒屋があちこちに見える。良く分からない武器屋と魔道具屋……あれは何?シェイプシフトの仮面と召喚術用の杖?
    柄の悪い場所なのか、剣の類を下げている通行人も多かった。

    「柄が悪いわけじゃないです。冒険者が多いだけです」
    「ふーん」
    「この魔法石専門店の後ろはカフェですからね、コーヒーが結構苦い」
    「なんで私より知ってんのよ」
    「旅行のたびに来ますから。あのお肉屋の店主と飲みに行ったことあります」

    なんでそんなに仲良くなったのかを聞く前に、私の目はそれよりもよさそうなものを捉えた。家を模したものと竜を模した飴。

    「あれ何」
    「飴細工専門のスイーツ店。お茶します?」
    「いいわね」

  • 95暁翼の司書、ウィルコ③24/03/09(土) 19:56:23

    「…で、なにこれ」
    「建物自体が呪われていたので店を建てる費用が少なかったそうです。怪異の皆さんには暮らしやすい」

    メルヘンな内装に囲まれて店主が飴を捏ねている……4つ目でタコみたいな腕の店主。
    それを覗くのは頭。首から下が透明になっているから本当に頭だけ。

    「訳が分からないわ」
    「同意します、凄まじい上手さです」
    「飴作りの話じゃないのよ。ちょっと待って、今どこから飾りのラムネ出してた?」
    「さあ?幽霊のお手伝いさんでもいるんでしょうかね」
    「???」

    ここで幽霊に話しかけられ、アリエスはウィルコそっちのけでおしゃべりを開始した。あまり話す方じゃない私を気遣っているのならありがたい、そうなのかは分からないけど。
    客用に置かれていそうな本の棚から魔法指南書を取り出して読んでみる。「テンポよく唱える詠唱集」。どこかのんびりとしたこの店と若干のミスマッチ。

  • 96暁翼の司書、ウィルコ③24/03/09(土) 20:00:32

    「楽しかったですね」
    「そうね。桃味の美味しかった。あの指輪」
    「でしょう。私はミニチュアの葡萄のやつ好きなんです」

    店を出てから少し歩き、私たちは町の賑やかさから少し離れた場所に来た。確信的に歩を進めるアリエスの様子から、何か話をしたいのであろうことは明らかだった。

    「さて」

    羊に倣って適当な階段に腰かける。息つかいすら聞こえるような静かな場所。私たち両方が好むような場所。

    「ちょっとだけまじめな話をしましょうか。」

    「私は…このひつじめは、セントラリアが好きです」
    「…そう」
    「賑やかで騒がしくて面白くて。探せばどんな種族だっていますし、誰だって来ていいのです。」
    「……」
    「話になるような冒険者もおかしな生き物も、全部ごちゃまぜのこの世界。いや、これからも新しいものが入ってくるのです」
    「ギルドに依頼出してたね。そんなに冒険者が好きなの?」
    「そう!今日したいのはその話。その話ですとも」

    アリエスは私の方を向き、何の魔力も纏っていない目をゆったりと覗かせた。

    「私は羊の獣人であり、そして夢魔でもあります。だからこそ誘惑などではなくこれは本心と強調しましょう、冒険者達のことが好きなのです。でもあなた様。ウィルコ・アンセムはこの町のことを怖がって、淡泊な仮面を纏っているように見えましてね」

    あなたに洗脳も強迫もしない、けど本心を少しだけ欲しい。その目がそう言っている
    昔からそう。羊は夢魔として変な誠実さを持っていて、私はそこが好きだった。

    「昨日、あなたの音は遠慮がちに聞こえましてね。あなた様、この冒険者の町に…いや、冒険者にどう思っているのです?」

    「……かつてダンジョンマスターだったハーピー、ウィルコ・アンセム。無理強いはしません、けど答えてくれますね?」

  • 97暁翼の司書、ウィルコ⑤24/03/09(土) 20:02:31

    >>96

    (※④、番号ミス)


    「……今だから分かる。私は、冒険者が怖かった」

    「……」

    「仲間がやられても自身が傷ついても立ち向かってくる勇気。目標のためのある種の冷徹さ、そして逆境に耐えうる挑戦心。私には理解できなかった」

    「そうですかね」

    「物理的な強さが勝っていても、心で負けているような気がしていた。どうしてなのかしらね」

    「私は……」

    「そう、アリエス。貴方はどう思うの?冒険者に剣を向けられた時、あなたは何を思うの?」

    「そうですねえ……例えば、例えばですよ。“私は夢魔です、貴方に好意を抱いています”と一般人相手に言おうものなら“誘惑して金でもとる気か”と言われます、至極真っ当です。でも冒険者は私に剣を向けて、化けの皮を剥いで本当の私を見てくれるのです。そこが好きな所なのですが」

    「……分からないわ」

    「誰しも分かり合えない所があります。当然のことです」

  • 98暁翼の司書、ウィルコ⑥24/03/09(土) 20:04:46

    「闘技場です」
    「……」
    「闘技場ならお互いの事情そっちのけで殴り合えます。どんなに強く殴ったって本当に傷つけることは無いのです。我々は強いのだと、堂々と照明してやりましょう」

    しばし無言で向き合ってから、羊と鳥は手と翼を掲げた。落ちる寸前の夕日が決意のようにそれを照らした。

    「貴方のために、私のために。あるいはこれからの冒険者のために。そして……」

  • 99レイドボス、ウィルコ・アンセム24/03/09(土) 20:05:55

    「「ダンジョンのために」」


    【Cytus ll】Silaver & lixound - Liberation


  • 100衝合巻き込まれる数秒前②24/03/09(土) 20:09:53

    >>71

    人工災害『ん~ン~?何時もは苦笑いで済ませてくれたはずだけど』

    「・・・(黙れ)」

    人工災害『まあいいかァ。それよりこの前の護衛仕事どうだった?出された飯がスッゲー旨かったらしいし、羨ましい』


    【ガタンッ!】

    「すまないトイレ行って来る(黙れ!)」

    【作業を止めて部屋から出る事で会話を中断した】


    人工災害『いってら~・・・老害からの強制仕事がそんなに嫌だったのかねェ』

    人工災害『護衛なんて本職の奴らが殆どやってくれるし俺達は実質お飾り状態。故に雑にこなせるんだが』

    人工災害『又は余程面倒な事に遭ったのか・・・暫く優しくしておこう』


    【扉越しの声を聞きながら歩く】

    【コイツは嫌いだ。悪意0なのは知ってるしそもそも「あの」情報は知らないはずだ】

    【なのに、よく触れられたく無い地雷スレスレを通って来る】

    【護衛仕事の性で不機嫌なのは正解】

    【しかし更に深い理由までは至れていないようだ】

    【あいつは生粋のバカなので余計な情報を知れない事が羨ましい】


    【簡単に説明すると、、、仕事の過程から終わり迄に途轍もない悪意が存在した】

    『・・・PIPIPIPI!』

  • 101その名と生命に祝福を①24/03/09(土) 21:59:10

    「師よ、師の時間を少しお借りしたいのだが大丈夫だろうか?」
    【紅葉の如く鮮やかな紅色の髪を持つ長身の男が視線の先に居る存在に言葉を掛ける】

    【黒い外殻に六脚の脚を地面に接地させ、多種多様な鳥や兎などの動物達に憩いを与えている異形の存在】
    【男の言葉が異形に届く。すると閉じられていた顔の中央にある眼が開かれ赤い単眼が男を射抜く】

    『————————"オルトラグナ"』
    【オルトラグナ…それが男の名前、名を呼ばれたオルトラグナは畏まって頭を下げる】
    【樹木が軋むような音を立てて動いた異形の腕がそれを制す】

    『相も変わらず真面目ですね、私にそのような儀礼は不要と言った筈ですが』

    「師以上の存在がおりましょうか、偉大なる存在に礼を以て接するのは当然の事故に…」

    『外の世界では貴方のような者を『馬鹿真面目』と言うのですよ』

    「…生まれ持った物ですので」

    『冗談です。ところで私の時間を借りたいとのことですが何用で?』

    「それは…」
    【そこで何故か口籠るオルトラグナ。異形はそんなオルトラグナの様子に首を蟷螂のように傾げる】

    「——————子ができるんです」
    【また別の声が響く】

    『…………はい?』
    【異形の間の抜けた声が空間に木霊した】

  • 102その名と生命に祝福を②24/03/09(土) 22:00:17

    【オルトラグナや異形とはまた違う声の主】
    【地面に届きそうな"緑色"の髪と翡翠の瞳、優しい目付きをした美しい女性が優雅に現れた】
    「れ、レクトー…そういうのはもっと段階を踏んでだな…」
    「アナタに任せてたら報告だけで日が暮れちゃいそうじゃない」
    【"レクトー"と呼ばれた女性はオルトラグナに頬を軽く膨らませながら近付き、肩を小突く】
    『…いえ…えっ?貴方達契りを結んでたんですか?いつの間に?私知りませんが』
    【明らかに戸惑った声で2人を見詰める異形、その姿に似合わずその場の雰囲気はかなり緩くなっている】

    「え…えぇ…その一年前に…」
    「師匠を驚かせようかと思って、てへ」
    『てへじゃないですが』
    【深々と頭を下げる男と茶化すように舌を出す女性の真反対な夫婦に異形は頭を抱えそうになった】

    『契りを結んでた事はまぁ…いえ、よりによって貴方達が私に報告しなかったのは遺憾ではありますが、それ以上に子が出来る??』

    「はい!きっと私に似て可愛い子ですよ〜」
    「お、俺は…?」
    「アナタに似たら可愛くないじゃない」
    「れ、レクトー…」
    『貴方達というのは…ほんと…』
    【遂に異形は頭を抱えてしまう】

    『…それで今更どうしたのです、祝いなら生まれた時に見繕いますよ』
    「い、いえ…実はそうじゃなくて…師にお願いがありまして…」
    「そうなんですよ〜!師匠にしかお願いできないことなんです!」

    『…聞きましょう』
    「私達の子供に名前を付けて欲しいんです!」
    『ハァぁぁぁ……』
    【異形は深い深い溜息を吐いた】

  • 103その名と生命に祝福を③24/03/09(土) 22:01:01

    「師よ…どうか俺たちの子の名付け親になってはくれないでしょうか…」
    「師匠お願いします!」
    【異形は頭を抱えた状態から光が体を覆ったかと思うと其処には金髪の髪を伸ばした長身のこれまた美しい女性がこめかみを抑えていた】

    「いや…普通初めての子は自分達で名付けるでしょう…私だって次の世代の筆頭たる貴方達の子に下手な名前は付けられませんし…」

    「初めてだからこそ師に名付けてほしいのです…!俺たちの故郷を解放した貴女だからこそ…!」
    「"白夜"と慕われる師匠だからこそ名付け親になって欲しいんです!…そうしたらきっと生まれてくる子には凄い祝福が与えられる気がするから…」

    「…………はぁぁぁぁ…」
    【2回目となる余りに深い溜息】

    「——————分かりました。責任を持って貴方達の子に相応しい名を授けましょう」
    「ただし、少し待つように。私にも考える時間が必要なので」

    「…!!無論です!感謝します師よ!!」
    「師匠ありがとう!ふふっ、師匠から授けられるこの子の為にも私達も頑張らないとね」
    「そうだな…あぁ、勿論だ!」
    「…ふふっ」
    【夫婦のその光景に小さく笑う】

    【そして時は流れ…】

    「決めました。この子の名前…貴方達の元にやって来た新たな生命…私はその子に全ての祝福を授けましょう」
    「その子の名前は——」

    『—————————』
    【祝福と共に与えられたその名は小さな火を宿して…時を越える】

  • 104辜と伐①/3◆YDQHxpAITA5s24/03/10(日) 06:08:20

    【草木も眠る丑三つ時──とは極東由来の言い回しだが、今この場所に至ってはそうとも限らないようだ】

    【闇の中を物々しく通っていくは、黄金の花粉を惜しみなくばら撒く樹々の行列──シダートレントの群れ】
    【呻きながら、軋みながら、それよりなお大きく地を踏み鳴らしながら、彼らは巡礼者の如く野を進む】

    【──そう、巡礼。彼らの旅路がそれであるならば、その前方に立つ影は正しく殉教の試練であった】

    「……ああ、来たか」

    【やや乱雑な涅色の短髪、筋骨隆々たる風体。暗中にあって輝く若葉色の瞳は、さながら冬を耐え春を待つ蕾のよう】
    【徐に持ち上げるのは、傍に立てておいた巨斧──とある鍛冶屋から借り受けた、シダートレントを伐る為だけの斧】

    「全く……ああ、全く。キミにぴったりのお仕事だと思うよぉ、なんて主が言うから請け負ったが」

    【肩を支えに担いだ斧を持つ手とは反対の手で、男はやれやれと言いたげに頭を掻く】

    「想像以上にお誂え向きじゃねえかよ」

    【そんな言葉を呟きながら、シダートレントの群れへと歩み寄っていく。その姿は戦士のそれ……と言うよりかは】

    「よう、樹ども。お前たちの方から来てくれるなんて、こんな楽な仕事はねえぜ」
    「……向かって来ても良い。逃げ出しても良い──どうせ丸ごと、禿山にしてやるんだからな」

    【木を伐る者、即ち木こりのそれであった】

  • 105辜と伐②/3◆YDQHxpAITA5s24/03/10(日) 06:08:51

    「そぅら──よ、っとぉ!」
    【先頭の個体の胴に、男が斧を振るう。シダートレントは回避が間に合わないと踏み、逞しい胴で弾こうとする】

    『──ッ! ……──』
    【その胴は──まるで、紙を鋏で裁断するかの如く──いともあっさりと、"両断された"】

    『──ッ』『……──』『──ッ──』
    「おうおう、威勢がいいじゃねえ……か、よ!」

    【その様を間近し、続く個体たちが男へ襲い掛かる。その攻撃を潜り抜け、男は重々しい巨斧を振るう】
    【一度、二度、三度……刃が風を切る音が鳴る度、それを追うように両断された木が崩れ落ちる重い音が響く】

    『……──ッ』『────』『──! ──!』
    【仲間の無念を晴らさんと勇み襲い掛かる個体、恐怖にかられ本能のまま逃げ出す個体】

    「せぇ、りゃァ! ……ははは、そうだ。そうだ! ……ああ、全く……懐かしいな!」
    【その悉くを、男の振るう斧の刃が両断していく】

    「斧一本でデケェ樹を伐るのも! ワタワタ動き回る連中を斬るのも! ああ、そうだ……この、衝動もッ!」
    【戦闘中にも撒かれる、宙を舞う夥しい量の花粉。それに覆われた空からは、この光景は見えないだろう】

    「……ああ…………アアァ──ッ!」
    【怒り狂う獣の如き男の叫び、そして徐々に薄れていく花粉の靄──夜空は、元の色へ戻りつつあった】

  • 106辜と伐③/3◆YDQHxpAITA5s24/03/10(日) 06:09:43

    「……ハァッ……ハァッ……」

    【地に突き立てた巨斧に縋るように、息も絶え絶えに男は立つ】

    「ハァ……ハァ…………はぁ、ふぅ……」

    【少しずつ息を整えるその無防備な背へと、襲い掛からんとするものはいない】
    【男が振り向けば、そこに広がるのは一面の切り株と地に伏す木たち、そしてそれを彩る金色の花粉】

    「……シダートレント、〆て六十と四体。伐採完了だ」


    「しかし、対シダートレント専用の斧、か。あの鍛冶屋のオッサン、こんな限定的すぎる用途のモンをよく作ったな」
    「まあ、こんなのを作っちまうくらいに怒りと鬱憤が溜まってたんだろう……花粉、改めてヤベぇな」

    【伐り倒したシダートレントの胴にどっかりと座り込みながら、男は役目を終えた斧を眺める】

    「オッサンに斧を返しに行く前に、花粉落としてかねぇと……ん? これは……」
    「……あ、依頼主から貰ったマスクか……そういや貰ってたな。使っちゃいないが、どうするか」
    「あー、花粉びっしりだ。これは返せねえな……適当に処分するか」

    【立ち上がった拍子にポトリと落ちたマスクを手に、男は独り言ちる】

    「こいつが要らないってのも合わせて、本当にオレ向きの仕事だったな。全く……」
    「……マスク。マスク、か」        マスク
    「要る訳ねぇわな。何せ──他ならぬオレが、仮面なんだからよ」

    【黄昏色の靄が晴れ、元の闇色を取り戻した空。そしてそこへ浮かぶ月を、男は仰ぎ見る】
    【男の名はグラム。ここではない世界で、〈伐採魔〉の異名をとった木こりであり──】
    【とある怪異によってオリジナルたる本人から剥ぎ取られた、仮面の一つである】

  • 107思い出された活躍①◆UwIgwzgB6.24/03/10(日) 07:46:36

    なぁ、本当にやるのか…この作戦?
    【@どこかの都市の裏路地。燃え尽きたような灰髪の美少女が、何やら呟きながら服を脱いでいる】

    おーい!聞いてるかー?ミルク・クルミー?
    【靴と靴下と帽子とソワスレラ製のヘッドホン、砂を固めたような模様の灰色のフード付きパーカーを無骨なバッグに入れ、虚空に問いかける少女】

    『もちろんだよチェダー・チーズ!奴らとて人は人、曝け出された我が美ボディには釘付けになる……はず!そこが隙だよ。』
    【チェダー・チーズと呼ばれた少年の少し苛立った声色に答えるように──脳内に飄々とした声がした。恐らくは呼ばれた『ミルク・クルミ』だろう】

    なんだよ"はず"って……情報生命体のくせに作戦ガッバガバじゃねぇか!
    【小声で叫ぶ灰髪の少女】

    『一瞬の隙を作れば後は簡単。キミの《禍目》で動きを停めればほんの数秒で無力化できる。そして僕の《禍目》で奴らの情報を奪う……スマートだろう?』
    『それに、キミの姿は奴らにバレている。肉体情報を書き換えるの、凄く苦労したんだぞ?』
    【何かの意図を隠すように早口で喋る脳内の声】

    確かにそうだけどさぁ……もうちょい方法ってものgあ、分かった!どうせまた俺をTSさせたかったんだろ?
    『……バレたか!』
    おい!
    【楽天的な声にジト目をした後、心底呆れた顔をする灰髪の美少女。下着に手をかけて顔を背けると一気に脱いだ】

  • 108思い出された活躍①◆UwIgwzgB6.24/03/10(日) 07:47:31

    っ……にしてもなんで真っ裸なんだよ!?下着でよくない!?
    『全裸じゃないとインパクトが足りない!それに姿は僕のもの、キミは気にしなくていいのだ』
    気にするだろ!というか本人が気にしろよそこは!
    【わいわい言い争いながら(傍からは独り言として聞こえる)も、バッグを安全なところに隠す灰髪の少女】

    ……っていうかそんなに乗り気なら本人がやればいいだろ!身体のモデルに見られてるとめっちゃ気まずいんですけど!?
    『おや、僕のカラダに興味津々だね?視線と流れ込むリビドーがマシマシに……コホン。今の僕達は一心同体だし、キミが主導権をとらないとキミの能力が使えないよ』
    「他人の身体で………確かにそうだけどさ!」
    【眼下にひろがる肌色に赤くなって晴れた空に目を向ける"元"美少年の美少女に、脳内の相棒がからかうような声色になる】

    『それとも……なんだい?本来の姿でTSしたいの「遠慮しとくぞ」……分かった!さては僕にキミのはだk「無い。断じて無い。あと裸にする発想から離れろ」あっそ…』
    【そのままからかいを続ける脳内の相棒に、チェダー・チーズはため息をついた】

    はぁ……ったく、やっぱりあの時見捨てれば良かった気がしてくるぜ……『全部聞こえてるぞ?』
    【先程から"元"少年が話している脳内の人物は、彼と同じ『聖徒』…人造人間の異能力者である】
    【《禍目:情報学》:情報の集合体として存在でき、肉体や物体の情報を書き換えたり、脳内や精神、スクロールなどに潜入できるなどの能力を持つ美少女だ】
    【この世界に転生した時に出会い、今は主に彼の脳内に居候している。どうやら一番居心地が良いらしい】

    ──感知したぞ!こっちだ!〉
    ──ッッッ!全く、キミが大声を出したから来たじゃないかチェド!』
    オマエがんな無茶な計画を建てたからじゃねぇかミル!!!
    "STUDY UP, SYMBOLOGY..."
    【近づいてくる足音と人影に気を引き締める二人】
    【灰髪の少女はそこそこある胸の真ん中の紋章を押すと、瞳が黄色に妖しく光る】

    はぁ……ここまで来たら腹を括らなきゃな……行くぜおりゃあ!!!
    『うぇ〜い!ミルク様のお通りだぜ〜!』
    ちょっと黙ってくれ……!!!
    【人影が路地裏に入ってきた瞬間、全裸の少女は勢い良く飛び出した】

  • 109思い出された活躍③◆UwIgwzgB6.24/03/10(日) 07:56:51

    【俺はしがない殲魔。いまは組織に仇なす冒険者を追っている。】

    「"黄髪の少年"……《記号少年》を感知したぞ!こっちだ!」【通信用魔導具から仲間の声と魔力反応を追い、とある都市の路地裏にたどり着く】【魔術的、呪術的、物理的防御を張り、剣を構えながら中に入ると──

    ──ちょっと黙ってくれ……!!!〉          ・・           ・・
    ──灰色の髪をした一糸まとわぬ少女が虚空へ向かって怒りながら、飛び出してきた】

    〈あっ……やっb〉
    「…………!?誰──
    【予想外の光景に一瞬思考が止まる。黄色の髪の若い男性だという知識と魔力感知が先入観となり、眼の前の桃色の光景とともに混乱と隙を生む】【姿を変えたターゲットだと分かる前に反射的に剣を振り上げるも、ヤツは既に間合いの中だった】

    (くそっ……!?方法は分からんがターゲットはTSした、それなら多少なりとも筋力は落ちてるはず──!?)
    〈ありゃ、勢いつけすぎちまったなぁ……ん?何を考えてるのかは大体想像つくが、『聖徒』は男女共に膂力は同じなんだぜ…!〉【思うまもなくあっという間に押し倒された俺。すかさず身体を捻ると同時に剣を取って反撃しようとする──
      
    〈《停止》!〉【──が、おかしい。指の一本でさえも動かない】【剣がカランと音を立てて地面に転がる。見ると身体の前に「赤い逆三角形の中に白字で『止まれ』と書かれた標識」が出現していた】

  • 110思い出された活躍④◆UwIgwzgB6.24/03/10(日) 08:02:02

    (ヤツの異能か!幸い対処法は聞いている。目だけは動かせるから瞬きをすれば─)
    〈くっそやっぱ破られるか─!〉【唯一動く目を一瞬閉じすぐに開け、標識が消えたことを確認しようとした次の瞬間】

    『[クラックスタート]』【眼の前に少女の輪郭をしたノイズが走り】

    『[検索][検索終了][フィルタリング限定解除][オーバースペック開始:1.25sec.][前後の記憶を部分消去:30min.] キミの脳内、じっくりと拝見させてもらった。……意外と良い趣味してるね』
    【妖艶な声が耳元で囁かれ──
    【世界が

        弾けた】
    【視界が地平の果てまで広がる。離れようと動く美少女の肌や鎧の金属の細かな凹凸、はるか向こうに見える尖塔の鐘に書かれた碑文さえ読める。目を背けたいのに身体は動かず、微細なところまで目に入ってしまう。遠近感が掴めず眼が焼き切れるようだ】【自分や少女の息遣い、路地裏に風が吹き抜ける音がトンネルの中のようにうるさく脳内で反響する。耳が擦り切れるようだ】【柔らかさや暖かさ、自身の身じろぎですれる服と皮膚の感触を感じる。感じてしまう】【甘い匂い、石だたみの香り。その中の微細な雨の臭いまで嗅ぎ分けられる。嗅ぎ分けられてしまう】【空気の味が分かる。微かな鉄の味まで痛いほどに舌に突き刺さる────
    【】
    【】

    【押し寄せる情報の洪水に飲まれ、俺は気絶した】

  • 111思い出された活躍⑤◆UwIgwzgB6.24/03/10(日) 08:07:56

    なぁミルク…一体何をしたんだ?《停止》が砕かれたと思ったら動かなくなったんだけどコイツら……
    『キミが抱きついたのは予想外だったけど、おかげで大技を発動できた』【驚いた表情のまま地面に転がっている冒険者達を見て、服を着直した灰髪の少女は脳内に住み着く相棒に問いかける】

    『記憶を覗いた後に脳のフィルターの1つを一瞬外して、理解力も増加させたんだ。感覚器官の情報がどっと流れ込んできたからオーバーヒートして気絶したんだろう』
    な…なるほど……?すごいことやってたんだな…【飄々とした声で恐ろしい事を言う相棒にちょっと気圧された少年】
    『前の世界の第6位《情報学》、二つ名"クラッカー"は伊達じゃないさ!』

    「……ところでこの身体、どうやって戻すんだ?」
    ──大丈夫!後遺症はないし、キミにはキミの《禍目》で効かない……え?そのカラダ?えっと……
    あっ、うん。』「うん。じゃないが!?」
    'STUDY UP, SYMBOLOGY..."【さては戻し方を忘れたなコイツ。灰髪の少女は何度目かわからない深いため息をつくと脚元に開いた『非常口の記号』に飛び込み、脳内の相棒とともに転移した】
    『ちょっ……ハリセンで叩く想像をしないでくれたまえ!?僕には物理的に響k
    〜〜〜〜
    しっかし、あれからもう1年経ったのか……時の流れって早いな…【@深夜、どこかの草原。】【移動式アジトとしている魔導式キャンピングカーの屋根に座った黄髪の美少年は、側にホログラム装置で実体化した腐れ縁の灰髪の美少女に声をかける】

    『あぁ……懐かしいよ…あの後一日戻れなかったことはすまなかった。でもお風呂で必死に目を瞑って身体を洗うキミは可愛かったなぁ…』
    ……流石に許してるけどそこは忘れてほしかったなぁ…【からかうような表情になる少女に苦笑する少年。真夜中の涼風が二人の間を吹き抜けた】

  • 112思い出された活躍⑥◆UwIgwzgB6.24/03/10(日) 08:08:38

    ──なぁ。ミルはなんで、この世界へ転生したんだ?
    『珍しく踏み込んでくるね?……キミと同じさ。この世界を少しでも良くする手伝いができないかなって思ったからだよ』【星空を見上げつつ、懐かしそうに答える半透明の少女】

    そうか……
    『それに今あの都市に行っても、あの【罵倒語】邪神の忘却の呪いのせいで、あの子達は覚えてないだろ?』
    …確かに……まぁアイツらに助けてもらってなかったら、記憶どころか存在までも消えてたところだったがな…

    『……全く助けた覚えがない人に救われました!って言われても、覚えてないって罪悪感を増させるだけだからね』
    そうだな……せっかく全人類を望む世界に転生させるっていう偉業を成し遂げたんだ…アイツらには楽しく生きてほしいな!

    ま、幸い転生の力は残ってる。アイツらと同じこの世界線で死んでも足掻いて、この呪いを解く手段を探し出して……
    『「アイツらのところに行こうか!!」』【満天の星空の下、俺たちは改めて心に誓った】【完】

  • 113雲上決戦!空を駆けろ、流星!①24/03/10(日) 09:37:40

    セントラリア領内、王都から馬車を使い、街道をしばらく旅すると見えて来る、製菓とチーズ作りで栄える街。
    この街は、この世界に幾つも存在する、ダンジョンからの恵みを前提として成立している冒険都市である。

    ダンジョンの恵みを人間が利用できる資源とする食料品店に、それらの資源を売買する多数の商会。
    ダンジョンに挑む冒険者達が情報と仲間を求めて集う酒場と、街外から来た彼らの拠点になる宿屋群。
    彼らの冒険に有用なツールを供給する武器・防具・道具を売る職人・商人達。

    多種多様な存在が集まり、多種多様な経済活動が絶え間なく行われているこの街の大動脈は、
    街外れの丘から流れ出す質の良いミルクの川と、その源流たるダンジョン ―― 〈ミルククラウドリバー〉だ。

    太郎「つまり、我等がその〈ミルククラウドリバー〉を制圧して、ミルクを生み出す仕組みを手中に収め」
    次郎「町から流れるミルクの川や、流氷チーズの採取、ダンジョン資源の持ち出しに税を掛ければ」
    三郎「巨万の富が手に入り、それを教団に収める事で、殲魔内での僕等の地位も上がるってコトだね!」

    そのダンジョンの入り口に当たる丘の上で、殲魔教団の一員である、三人の兄弟が囁き合っていた。
    丘の上から天上へ向けて伸びる雲、乳と蜜の流れる豊穣の楽園を、我が物にしようとする陰謀である!

    三郎「でも、ここのダンジョンマスターって『魔』なのかな?使い魔?は天使みたいだけれど……」
    次郎「案ずるな弟よ、例え神であろうと『真なる人間』では無い事に変わりはない。殲魔の敵だ」

    末弟がふと呟いた言葉を即座に切り捨てる次兄だが、末弟の疑問にも一理はあるだろう。
    この〈ミルククラウドリバー〉はいわゆる『魔』のイメージとは程遠い、どちらかと言えば『聖』のダンジョンだ。

    街外れの小高い丘の上から、天上を指して伸び行く雲がダンジョンの本体であり、
    入口である低層から、源流である高層に近づくにつれて、魔物の分布は動物系、鳥系、妖精系と推移。
    最上部には、光輪を掲げた天使すら現れる ―― 故に、付いた別名が〈天使の水浴び場〉なのだから。

    太郎「ふん、聖性の偽装など幾らでも可能……天使のフリをした悪魔が敵だと思え!」

    丘を登り切った三兄弟は、長兄の掛け声と同時に、遂に〈ミルククラウドリバー〉へと侵入を果たす……!!

  • 114雲上決戦!空を駆けろ、流星!②24/03/10(日) 09:38:50

    殲魔三兄弟「「「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」

    雲の中を、悲鳴が駆け抜ける ―― と同時に、雲内を探索していた三名の冒険者達はサッと身構えた。

    海竜「人間系の悲鳴、数は恐らく3、位置は……低層のどこか、って感じかしらねぇ?」

    階層の地図が描かれた羊皮紙を持つ、珊瑚色の髪の半人半竜の娘が呟く。
    彼女は、このPTにマッパー兼スカウト兼ヒーラーとして参加している、人に化けた古龍種 ―― の雛。
    依頼受注時の名や、PT結成時の名乗りには『海竜の巫女』を使用している中級冒険者だ。

    梱包「大方、『医務室送り』に甘えた駆け出し冒険者が、ダンジョンの洗礼を浴びたんだろうよ」

    重鎧に身を包み、片手斧と大盾を構える、騎士然とした初老の冒険者が呆れ顔で呟いた。
    彼は〈梱包多呪〉の二つ名を持つ上級冒険者で、この混成PTを指揮するリーダー的存在である。
    冒険者名鑑に詳しい読者諸氏なら、あらゆる生物・物品・魔法を『梱包』する彼の異能はご存知であろう。

    流星「ここは駆け出し冒険者に人気ですから……無限牢獄とかと違い《消失 - ロスト》の恐れは無い訳ですし」

    両名から一歩遅れ、両手剣を構えながらPTの背後へとキョロキョロと視線を動かす青年が応える。
    〈流星剣士〉の二つ名を持つ彼は、〈梱包多呪〉と同じ村の出身で、冒険者歴四年目になる中級冒険者だ。
    今回の混成PT結成も、彼の抱える事情の為に、彼が主導して行ったものである。

    梱包「フン、俺から見ればお前もまだまだ駆け出しだがな……ところで、周囲の状況はどうだ?」
    海竜「この階層のマッピングは四割方終わり、次階層への階段は見つけたけれど、もう上に登っちゃう?」
    梱包「ああ、流星の奴に高層のスイーツ・モンスターを狩らせないといけないからな……駆け上がるのみだ」
    流星「ハハハ……お世話になっております」

    雑談している間も、巫女が持つ羊皮紙の上では魔法の羽根ペンが踊り、周囲の地形を描き続けてる。
    時折巫女の元から飛び立つ、お札で折られた紙飛行機がダンジョン内を飛び回り、情報を集めているのだ。
    それを元に記載される、自動マッピング情報を頼りとして、PTは階段へ向けて駆け出した。

  • 115雲上決戦!空を駆けろ、流星!③24/03/10(日) 09:40:00

    ―― それからしばらく後、 〈ミルククラウドリバー〉高層への階段、程近く。

    海竜「報告、偵察騎が本階層の階段を発見!階層情報によれば、次から高層の筈!」
    流星「む、むしろまだ中層だったんですか!?ここ、いつも来てる低層と比べてかなりキツ……」
    海竜「!!待って、階段前に敵1PTを確認、数およそ10前後 ―― 背後の通路から更に1PT接近!」

    先頭から〈梱包多呪〉、『海竜の巫女』、〈流星剣士〉の隊列を組み、ダンジョンを駆けるPTに、危機が迫る。
    高層まで後少しと言う所で、敵2PTによる挟み撃ち状態に陥ったのだ……!
    片方の敵PTと戦闘を開始すれば、もう1PTがその音を聞きつけ、背後から襲い来るのは自明であろう。

    流星「そんな……ここまで来て!?」
    梱包「おい巫女、この紙を風精霊に階段前の敵PT頭上へ運ばせろ!俺の武器が『梱包』してある!!」
    海竜「了解、八番騎は直ちに発進!〈梱包多呪〉さんの紙を敵PTの頭上に投下して!」

    狼狽える剣士を尻目に、梱包は巫女へと指示を出す。それに応じて巫女が投げ放った紙飛行機から、
    小さな緑色に光る手が伸びて来るや否や、一枚の紙きれを握らせると、飛び行く先を睨みつつ口を開く。

    梱包「前の敵PTは俺がやる、後方のPTはお前らでやれ、これ以上敵が来ない内に決めろ!」
    流星「りょ、了解……『海竜の巫女』さん、背後の敵は何匹ですか、どうやっ……」
    海竜「了解ッ!背後の敵PTの数は7……だけど、長い廊下で直線状に並んでるなら ―― 《竜輝砲》ォッ!」

    梱包の更なる指示を剣士が認識し、巫女へとその実行方法を問おうとした、その時。
    巫女はその場で足を止めて振り返り、両手に蒼く輝く『気』の球体を生み出し、流れるように撃ち放つ。
    後続のモンスター達が蒼い気の奔流に溶けていく中 ―― 前方、階段前では爆発音が幾重にも響いた。

    海竜「後続の連中は仕留めた、今の爆音は何!?やたら凄い音がしてたけれど!?」
    流星「あ、あれですか?あれは多分梱包さんの ――」
    梱包「梱包呪法、参の術式……空間梱包術で《小爆破魔宝石》を百発バラ撒いてやっただけだ……」
    海竜「うわぁ、って事は一撃5万G!?ちょーっと大盤振る舞い過ぎない……??」
    梱包「その程度、上級冒険者にとっては端金だ……それより上の階へ上がるぞ、両名付いて来い!」

  • 116雲上決戦!空を駆けろ、流星!④24/03/10(日) 09:41:30

    魔宝石による拡散爆撃を受け、飛び散ったモンスターの残骸を避けながら、
    混成PTの三名は〈ミルククラウドリバー〉高層へと駆け上がり……一旦、脚を止める事にした。
    巫女が画板に新しい羊皮紙をセットすると、羽ペンが踊り始め、高層の地図を描き始める。

    海竜「周囲に敵影は無し……で、ここがPTの目的地で、ここの良さげなモンスターを……」
    海竜「……〈流氷戦士〉さんに狩らせて『梱包』させるのが、ウチが雇われた目的、なのよね?」
    流星「……その、ボクは〈流星剣士〉です……すみません、似つかわしくない二つ名で……」
    梱包「ンな事無ねェよ、流星ってのは放っておけばバーッと走って直ぐに散る。……お前そっくりだろうが?」
    流星「……ハイ、すみません……」

    周囲の安全確認が出来るまでの間、じっと身を潜め、息を整えながら雑談に興じる一行であったが、
    平謝りし続ける〈流星剣士〉と、それを睨みつける〈梱包多呪〉の間に挟まれ、『海竜の巫女』は尻尾を竦めた。

    海竜「でも〈彗星剣士〉さんの異能剣術も凄かったと思うかしら……」
    流星「ありがとうございます……そして〈流星剣士〉です……一応、星と重力を操るのは得意なので……」

    居たたまれなくなった巫女が、そっと〈流星剣士〉の異能を使った剣術の話題を振る。
    彼の異能は左手を翳した物体(自身含む)に対して大きな重力を発生させ、それを用いて戦うというものだ。
    巫女が低層で見た、回転斬りと同時に自分自身に重力を掛け、剣を自身に引き寄せ曲げつつ加速させる技は、
    軌道が読みやすいという弱点こそあれ、中級冒険者の必殺剣として誇れる威力はあると感じていた。

    流星「それより巫女 さんの方が凄いですよ、前衛職でも無いのにあれだけの剣術を……」
    海竜「ウチなんて大した事無いから……王都のギルド酒場には凄い剣士が沢山居てねぇ ―― 例えば」
    梱包「王都ギルドのバケモン共の話は止めろ!あそこに屯してる連中は基本外れ値だ、基準に考えるなよ」

    しかし、状況は中々良い方へは向かわず、PT内の空気は重苦しくなっていくばかり。
    次は何の話題を振るべきか、それとももう依頼達成まで静かにしておくべきか。
    ―― 巫女が逡巡していると、以外にも剣士が、強い口調で語り出した。

    流星「確かにボクは王都ギルド酒場の方々に比べたら修行不足ですが ―― 今回は、失敗できないんです」

  • 117雲上決戦!空を駆けろ、流星!⑤24/03/10(日) 09:42:40

    今までの剣士の姿からは考えられない勢いに、面食らう巫女。

    海竜「えー……もしかすると、ここの高級モンスターを病気のお母さんが食べたがっているとか?」
    流星「いえ、高層のケーキモンスターを、結婚式のウェディングケーキにしようと思ってるんです!」

    そっと理由を問いかけて見ると、思わぬ返答が帰って来て、目が真ん丸になる巫女。
    いつもの悪い癖で、脊髄が叫んだ限界ギリギリトークがオブラートに包まれぬまま、口から飛び出す。

    海竜「えぇぇぇぇぇぇ!?け、結婚!?正直そんな歳には見えなかったかしら……親孝行とかの方かと」
    流星「未熟者ですみません……でも、これは本気ですし……絶対に、絶対に失敗できないんです!」
    梱包「……まぁ、な」

    巫女の疑問を受け、流星は自身が置かれている状況について語り出した。

    前から結婚を決めていた幼馴染が居た事。
    その幼馴染の両親は、冒険者という危険に身をさらす職業を良く思って居ない事。
    だからこそ、〈ミルククラウドリバー〉高層の魔物を狩って帰り、生き残れるだけの力量がある事を示したい、と。

    流星「彼女に、これから一生君を幸せにするからって言ってプロポーズしたんです」
    流星「だから、彼女の両親の反対を押し切って駆け落ちみたいなことは出来ないんです……だから!」
    梱包「……なけなしの20万Gでこの俺を雇いたい、この冒険を成功させたいって頭下げに来たんだよなァ」

    若さ漲る青春トークを横目に、コーンポタージュを飲んでいた〈梱包多呪〉が、そう口を挟む。

    梱包「いつもなら馬鹿言うなと断る所だが、その時は酔っぱらっててなァ、何だか受けちまったんだァ」
    流星「えぇ……キチンと真面目な席で依頼しましたよ、梱包さんもお酒なんか吞んで無かったじゃないですか!」
    海竜「へぇ、口は悪くても人情は一応あるのねぇ……」

    何だかんだで話が盛り上がって来て、まずは一安心かな ―― と思って居た巫女の顔面に、
    風精霊の乗った紙飛行機が強かにぶつかり……羊皮紙に描かれた地図の上を、二、三度跳ねた。

  • 118雲上決戦!空を駆けろ、流星!⑥24/03/10(日) 09:43:50

    海竜「……ッ!しまった敵PT急速接近中、数は3……多くは無いけれど、この速度は異常よ!?」

    梱包「立て、フォーメーションAで迎撃する!ここからは高層のモンスターが相手だ、抜かるなよ……?」

    流星「ハイッ!!」


    精霊の警告により、敵の接近にようやく気付いた巫女が、立ち上がって叫ぶのとほぼ同時に、

    〈梱包多呪〉と〈流星剣士〉も立ち上がり、巫女の前に立ってそれぞれの武器を構えた。


    程無く、廊下を疾走する敵PTが視界に入る ―― それは、赤い苺の鷹に、白いクリームのジャガー、

    そして黄色いスポンジケーキの熊と、動物 ~ 鳥系の、低層に出て来るようなタイプの魔物にも見えたが。


    梱包「速度が段違いだ……それにこんな連中、〈ミルククラウドリバー〉に居たか……?」


    PT内で、一番このダンジョンを熟知しているという梱包がそう呟くのを聞き、巫女は警戒を強めた。

    即座に巫女服の袖口から青いカードを取り出して、右手に付けた龍の頭を模した手甲の口に差し込む。

    『CHANGE』と言う電子音声が鳴り響き、巫女の身体を青い巫女服が包んだ直後 ―― !!


    海竜「ッ!?」


    色の付いた光と見紛う速度で、苺フレーバーの鷹が巫女に迫り、爪で喉笛を掻き斬らんと蹴りを繰り出していた。

    その鋭い一撃は、巫女の全身を覆う龍気の壁に遮られ、跳ね除けられたが ―― 只人ならば、死んでいただろう。


    海竜「梱包さん!アレが高層の魔物よね!?アレを仕留めて持ち帰れば!?」

    梱包「待て、あんな連中は見た事が無い!噂に聞いた事も……いや、まさかッ!?」


    即座に武器を構える巫女と剣士だが、梱包は魔物の動きを目で追いながら、自らの思考を整理していた。

    可能性があるとすれば、〈ミルククラウドリバー〉に挑む冒険者の中で、まことしやかに語られる噂……!


    梱包「記念すべき人生の節目に、高層まで登た冒険者の前には特別なスイーツが現れる……来るぞ、流星!」


    2 07 遊星テーマ


  • 119雲上決戦!空を駆けろ、流星!⑦24/03/10(日) 09:45:00

    空を翔ける赤い鷹が鋭く鳴くと同時に、白のジャガー、黄色の熊が、鷹の後ろに続いて走り出す。
    やがて一列に並んだ彼らの周囲を閃光が覆い ―― ダンジョン内を揺るがす咆哮が放たれる。

    見ると、光の中から苺のショートケーキめいた巨竜が立ち上がり、羽を広げ、眼前に君臨していた。
    あらゆ者の心を見透かすかのような真紅の苺の目を持つそのドラゴンは、そっと自身の背に手を廻し、
    威圧的な書体で『❤ご結婚おめでとう❤』と書道されたチョコ・プレートを掲げると、胸元へと貼り付ける。

    流星「ハイ、ありがとうございます!!」
    梱包「馬鹿野郎、礼を言うのは試練を乗り越えてからにしやがれ……おい、来るぞッ!?」
    海竜「『疾駆(かけ)よ、孤高の開拓者魂(フロンティア・スピリット)!』ッ!流星さんの援護をお願い!!」
    霊狼「バルルバウウッ……!!」

    呑気にモンスターへお礼を述べる剣士に、龍の口から放たれた苺シャーベットの弾丸が迫るが、
    巫女が呼び出した霊体の狼が剣士と弾の間に割って入り、両前足を振るってそれらを叩き落とす。
    同時に巫女は《魔法の雑嚢》から《鉄製の双眼鏡》 ―― 敵の性質と弱点を見抜く道具を取り出し、覗く。

    海竜「解析!名前は《苺氷菓眼の結婚蛋糕龍 - ストロベリー・アイス・ウエディングケーキ・ドラゴン》!」
    海竜「性質は冷気系・ドラゴン系・スイーツ系の複合、弱点は毒属性らしいけれど……」
    梱包「弱点攻撃は無しだな……コイツを『梱包』して持ち帰る、全員そのつもりで当たれッ!」

    〈梱包多呪〉がそう叫ぶと同時に、ストロベリーアイスの龍の尾から、幾つもの苺が放たれ、宙に浮かぶ。
    それらはまるで意志を持つかのようにPTの周囲を飛び回ると ―― 種を弾丸として撃ち出した!

    流星「そんな軽量の攻撃なら……これでッ!」

    しかし、〈流星剣士〉が天井に向けて左手を翳すと、宙に浮いていた苺たちは天上に吸い寄せられていく。
    彼の異能は対象の指定が自由に効くのだ、この場合は天上に重量を発生させ、苺を吸い寄せたのだろう。

    梱包「良いぞ、こっちも仕掛ける!梱包呪法、陸の術式!認証鍵付き梱包術……!!」

  • 120雲上決戦!空を駆けろ、流星!⑧24/03/10(日) 09:46:11

    梱包「カァァァァァァァァァァァァァッ!!」

    〈梱包多呪〉が苺ケーキの龍へ向け両手を突き出し、シャウトを上げると、龍の胸元に鍵穴が浮き上がる。
    その様子を見て、巫女はPT結成時に受けた説明と、低層最初の戦いを思い出していた……。

    ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ こ こ か ら 回 想 中 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

    梱包「これが梱包呪法、陸の術式。梱包呪法で『梱包』したものの『鍵』を他者に渡す術だ」
    梱包「敵一体を対象に取り、鍵穴のマーキングを浮き上がらせるのがこの術の第一段階で」
    梱包「後は、そこへ誰かが強烈な一撃を食らわせれば、ソイツを鍵として『梱包』が行われるのさ」

    低層の弱い魔物を、言われるがままに『梱包』し、戦果のプレゼントボックスを見つめる巫女に、
    〈梱包多呪〉の名を持つ冒険者は説明を行う。

    梱包「ただ、攻撃を当てれば何でも良い訳じゃねえ、攻撃側がパワーで圧倒的に上回っているか」
    梱包「或いは喰らった側が相当に参ってる状態じゃねぇと、レジストされちまう可能性が高いんだよ」

    だから、俺はこのクエストを手伝うが、最終的に成功するかどうかは〈流星剣士〉次第なんだと、
    剣士の背中をドンと叩きながら、彼は大きな声で付け足した。

    ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ こ こ ま で 回 想 中 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

    海竜「……流星さん!」
    流星「……分かってる、何とかアイツを弱らせて……一撃叩き込むッ!」
    梱包「巫女はあくまで援護って事を忘れるな、気張り過ぎてお前が『梱包』の鍵を持ったらシャレにならん!」
    海竜「そんなヘマは……た、多分しないかしらぁ!」

    天上でもがく、苺ケーキの龍が放った苺を、蒼く光る龍気の針を投げる技 ―― 《竜輝針》で撃墜した後、
    苺ケーキの龍の冷気ブレスを払い除けながら叫ぶ巫女に、〈流星剣士〉はこれまでに無く、強く答えた。
    その手は震えて見えるが、それが恐怖からのものか、武者震いなのかは、巫女には見分けが付かない。

  • 121雲上決戦!空を駆けろ、流星!⑨24/03/10(日) 09:47:20

    苺龍「アマオォォォォォォォォォォォン!!」
    海竜「《命吹き消す吹雪の吐息 - ブリザード・ブレス》ッッ!!」

    苺ケーキの龍と冷気のブレスの応酬を続ける巫女。
    冷気の龍に冷気のブレスと言う、明らかに効率の悪い攻撃方法を選択しているのは、
    折角のウエディングケーキに気弾を撃ち込み爆発四散!……という悲劇を避ける為の知恵だ。

    海竜「―― 風精霊さん、ちょっと頼みたい事が出来たかしら、みんな、しばらく時間を稼いで!」
    梱包「任せときな、梱包呪法、壱の術式!緩衝材梱包!」

    撃ち合いの後、一歩下がって右手を掲げ、仲間に時間稼ぎを求める巫女。
    その声に応えて〈梱包多呪〉が手を仲間に向けると、魔力で出来た白い泡のような鎧が現れた。

    梱包「1.5mの高さから生卵を落としても割れない衝撃吸収力がある……やれるな、流星?」
    流星「勿論です、何が来ようと叩き落としてやりますよ……ッ!」

    その言葉を発するや否や、苺ケーキの龍の龍が手を巫女に向け、砂糖菓子の爪を撃ち出す。
    攻城弩より撃ちだされたボルトめいて唸りを上げつつ飛来するそれへと、剣士は飛び掛かり……!

    流星「させません……《流星加速軌道剣 - スイング・バイ・ソード》ッ!」

    凄まじい勢いで回転しながら、一瞬で五本の爪を叩き落とす。
    それに目を見開いた苺ケーキの龍は、しかし怯む事無く、尻尾に刺さった蝋燭一本を抜き、
    頭上で風車の如く振り回してから、剣士に突きかかる!

    梱包「通すかよ、梱包呪法、弐の術式!宅急梱包術ッ!」

    が、次の瞬間!〈梱包多呪〉が叫ぶと同時に振り下ろした斧の一撃が、
    苺ケーキの龍の手元へ宅配され、蝋燭の槍を根元から叩き斬って攻撃を不発に終わらせた。
    勢い余ってつんのめる苺ケーキの龍。

  • 122雲上決戦!空を駆けろ、流星!⑩24/03/10(日) 09:48:30

    海竜「OK!準備出来たわ……やってやろうかしら!」

    風精霊の助力の元、掌の中に白い石を精製し終えた巫女が叫び、《魔法瓶》の蓋を飛ばす。
    そして、その石を《魔法瓶》の中へと放り込むと、中の水が白い煙を吐きながら泡立ち始めて、
    巫女の号令と同時に、それが白い泡の腕となって、《魔法瓶》の口から伸びて来た。

    海竜「水の腕……モード泡(バブル)ッ!コイツでふんわりヒンヤリ保管してやるからッ!」

    体勢を立て直した苺ケーキの龍が、その声に気づいて巫女の方を向こうとした所、
    その首が急激に〈流星剣士〉の方へと捻じ曲がり、固められてしまう。
    その視線の先では、剣士が左手を自分自身に翳していた。

    海竜「妨害ありがと!!それじゃ……お眠りなさいッ!」

    その隙に、白い泡の腕は二重、三重に苺ケーキの龍へと絡みつき、その行動を阻害する。
    それに抵抗していた苺ケーキの龍だが、暫くするとその動きが、明らかに緩慢になって来た。
    白い泡の腕から吐き出される、白い煙を吸い込んで、思う様に動けない様だ……!

    海竜「これなるは ―― ソワスレラのスイーツ屋さんがケーキの保存に使う超技術の一つ」
    海竜「風精霊さんに頼んで集めた二酸化炭素を凍らせて作る、ドライアイスの味はどうかしら?」
    梱包「今だッ、さっさとやれ流星!」
    流星「はいッ!」

    炭酸ガスの影響を受けない、霊体の狼が白い泡の腕を掻い潜り、苺ケーキの龍の脚を抑える。
    その隙に〈流星剣士〉が剣を構え、全力で疾走し、全体重を乗せて龍の胸元に鍵穴に斬りかかる。
    ……が!

    流星「ウワッ!!……だ、駄目です梱包さん、ボクじゃパワーが!!」

    何と、鍵穴に半分程食い込んだ所でその剣は止まり、弾かれてしまう!

  • 123雲上決戦!空を駆けろ、流星!⑪24/03/10(日) 09:49:40

    僅かな間、自らの剣と鍵穴を見つめ、呆然とへたりこむ〈流星剣士〉。
    その頭にネガティブなイメージが影を落とす ―― 前に、〈梱包多呪〉の声が飛んだ。

    梱包「忘れるな、速度とは即ちパワーだ!さっきのより凄い速度で斬りつければ良い!」
    流星「だって、そんな技もう……!?」
    梱包「いや、お前はもう持っている!」

    そう背中を押されて、剣士は再び立ち上がる。
    今までの戦いと、異能の修行を思い出し、自らを中心に、振る剣を加速支える技を思い浮かべ。
    そして、目を見開く。

    流星「……!!そうか、梱包さん!!アイツへの突撃、お願いします!!」
    梱包「おうよ、思いっきりブチかましてやれッ!!」

    次の瞬間、まるで解き放たれたシャンパンのコルクの様に、〈流星剣士〉は駆け出した。
    同時に、その左手を〈梱包多呪〉へと向けながら異能を発動 ―― 吸い寄せる対象は、自分自身!

    梱包「梱包呪法、肆の術式!魔法梱包 ―― 解!出ろ、《加速呪文 - ヘイスト》ッ!」

    〈梱包多呪〉も、自らに加速呪文を掛けて、苺ケーキの龍へと突撃を開始する。
    両者の移動ベクトルが絡み合い、〈流星剣士〉の突撃軌道を変えながら加速させる!
    一件、単純な連携に見えるが、緻密な計算の元に成り立つ技なのだ……主に、角度とか!

    流星「答えは、ボク自身が流星になる事!《流星加速軌道剣 - スイング・バイ・ソード》ッ!」

    先程の数倍凄まじい速度で撃ちだされた剣士は、苺ケーキの龍へと真っすぐに飛び、
    その星の意匠の入った剣を ―― あやまたず、龍の胸元に浮かぶ鍵穴へと突き刺した!

    苺ケーキの龍が、目を見開いて天を仰ぐと同時に、その体をプレゼントボックスが包む。
    それは手のひらサイズに縮んだ後、暫く床でゆらゆらと揺れていたが ―― やがて。

  • 124雲上決戦!空を駆けろ、流星!⑫24/03/10(日) 09:50:50

    カチャリ!と言う音と共に錠前が掛かり、動きが止まった。

    流星「やった……《苺氷菓眼の結婚蛋糕龍》、ゲット出来た……!」
    梱包「戦果はこれで十分だ、帰還するぞ!」

    喜ぶ〈流星剣士〉と、即座に脱出用のスクロールを取り出す〈梱包多呪〉。
    その様子を見つめ ―― 巫女も声を掛ける。

    海竜「……おめでとう!!ついでに高層のミルク汲みたいから、五分だけ猶予ちょうだい!」
    梱包「ちゃっかりしてやがる……これ以上敵に絡まれるなよ!?」

    手持ちの《魔法瓶》の中身を全部捨て、ダンジョン内を流れるミルクの川へ駆け寄る巫女を見て、
    呆れつつも脱出を止める〈梱包多呪〉の横で、〈流星剣士〉は愛しき恋人の顔を思い浮かべていた。

    流星「これで……きっとご両親にも納得して貰えます。君を遺したまま、ボクは……死にません!」

    その後、ダンジョンを脱出した一行は近くの街へと戻り、宿屋で一泊。
    この冒険で得た資源を清算して山分けした後、パーティを解散。
    それぞれの帰るべき所へ向けて、再び歩き出した。

    海竜「ミルクもチーズも沢山取れたし、低~中層のモンスターも『梱包』して貰ってるし!」
    海竜「帰ったら暫くは豪華な食事にありつけそうかしら……!!」

    ウキウキ顔で王都へ向かう馬車に揺られる巫女であったが、
    この数日後、『スイーツは別腹』と言う言葉にも限界がある事を、知るのであったとさ……!!

    【- 完 -】
    (※ミルククラウドリバーの設定、お借りしました!解釈不一致等あればご指摘下さい!)

  • 125あるいは懺悔24/03/10(日) 15:14:43
  • 126衝合巻き込まれる数秒前③24/03/10(日) 15:49:02

    >>100

    【端末からコールが鳴った】

    【画面を見て舌打ちした後応じる】

    「もしもしオンボロ機械殿」

    ???『その呼称は間違っております、当機の最新アップデート時間は○○』

    「五月蠅い、悪意を振りまくゴミ。サッサと要件を言え」


    【唐突にだが】

    【元世界の権力や地位は、『例外』除けば計15段階存在するが】

    【その例外の1体を説明しよう】

    【遥か昔から人々を導いてきた管理者、効率の為なら多数をも非道に切り捨てる「悪」】

    【奴は全てに於ける過程結果を演算可能で、例外は存在しない】

    【種族:機械意思、自称:神、他称:老害邪悪オンボロetc】

    【今話している相手がソイツだ】


    機械意思『私の行為は貴方達人類の為なのに・・・其れは置いときましょう。』

    機械意思『前回、護衛依頼の報告を』

    「・・・俺に言えと?」

    【怒気が更に膨らんでいく】

    【だがオンボロは気にせず報告を催促した】


    機械意思『ええ、お願い致します。』

    「・・・護衛依頼遂行の過程でテロリストが襲撃、付近の住民含め多数の人々が死亡。」

    「要人に怪我は誰一人無し」

    機械意思『ありがとうございます。私の指示通りに「何が起こっても護衛として離れなかった」お陰で彼等は無事でした。』

    機械意思『貴方は英雄です。』

    「・・・」

  • 127衝合巻き込まれる数秒前④24/03/10(日) 16:29:12

    >>126

    「・・・お前ならコレを予測出来てただろう」

    「何故事前に防がなかった」

    「何故多くの人を救えたのにしなかったッ!!」


    機械意思『私が話す必要は・・・嗚呼死んだ住民の中に貴方と親しい間柄の友人がいましたね。いいでしょう』

    『といっても前と同じです。「効率」』

    『この事件を防がなかったのはテロリストの拠点位置把握と気力戦力を削ぐ為。事実此の後人工災害さんに依頼して簡単に壊滅してくれました。』

    『住民に告知しなかったのはテロリストに不信感を抱かせない為。最下位段階の人間百数名で平和に向けて数歩進めるのです。あの世の彼等も喜んでいるでしょう。』

    『緘口令を敷いたのは人々を不安にさせない為。』

    『これ以上の質問がありますか?』


    「巫山戯るな!別に他の手段で拠点を見つければ良いだろう⁉」

    「友を奪いやがって、絶対に許さねぇ!」

    機械意思『おや反逆ですか、そう云えば貴方の母親は○○地域に住んでいましたね?』

    機械意思『其処の近くで最近ー』

    「・・・人質か」

    機械意思『いいえ、貴方を冷静な状態にさせる為です。仮に敵対しても私が必ず勝ちます。例外は存在しません』

    『貴方も知っているでしょう?』


    「(強めの舌打ち)もういい、切るぞ」

    機械意思『失礼致しました、世界の英雄。貴方の行動で世界はより良くなるでしょう』

    【PI !】

  • 128『イーカロスの翼』124/03/10(日) 16:54:35

    ───闘技場、という施設がある。
    ナニカとナニカが衝突し、闘争するを愉しむ場だ。例えば魔獣、例えば奴隷剣闘士、例えば────

    需要は確かに存在している。生死を賭けた、必死の戦いは一部の金持ちにとって刺激的で、賭けを追加すれば熱狂を容易に作り出せる。



    セントラリアの違法闘技場のオーナーである男も例に漏れず、闘争の魔力に魅力された一人であった。
    だが仮面を被り、持て余した金を注ぎ込んで、勝てと絶叫する観客とは異なり男が魅了されたのは劇的な勝利ではなく、無常な敗北だった。

    だって、そうだろう?闘技場とは生死の交錯する様を愉しむ場なのだ。後から蘇れる、なんてのは無粋極まりない。

    新しい剣闘士のファドラからの輸入業務を終えて、観客席に座る。今日は少し観客が疎らだったもののお陰で特等席が空いていた。


    結界で隔離された向こう側。少女が鎖の音をじゃらじゃらと鳴らして魔獣と対峙している。縦横無尽に踊る鋼鎖に翻弄される魔獣の瞳が死への恐怖で揺れるのが好きだった。

    強者として君臨していた者が惨めに死ぬのが、堪らなく愛おしいのだ。その相手が産まれてからずっと奴隷剣闘士の少女ならば尚更、そのギャップと惨めさが際立つ。

    「こんにちは」

    コトリ、とツマミの載せられた皿とワイングラスが傍に置かれた。仮面の少女が上等なワインを片手に微笑んでいる。
    一瞬だけ動揺した。こんな闘技場には似つかわしくない、深窓の令嬢を思わせる少女だったからだ。

    だがその姿を見てすぐに納得した。屋敷の奥深くに大事に大事に仕舞い込まれる様な姿だった。
    当然刺激は足りなくなるだろうし、或いは己と同じ様な姿になるものを観に来たのかもしれない。

    オーナーとして振る舞うべきかと思い、仮面の少女が制止した。

  • 129『イーカロスの翼』224/03/10(日) 17:00:41

    「楽にして下さって良いですわよ。此方は私からの細やかなプレゼントですわ、受け取って頂けませんか?」
    「喜んで、レディ」
    「あら、お上手ね」

    寝物語のお姫様みたいに仮面の少女は微笑み、結界に目を向けた。
    一口、フライドポテトを口に放り込む。不思議な味だったが、不味くはないしこんなものかと無視して同じく結界に目を向けた。
    「貴女は何方に賭けたので?」
    「ふふっ、こういう場は不慣れなので、先ずは一回試合を見てからにしようと思って賭けてなかったのですが………観る限りでは、あの女の子の方が勝つ様に思えますわね」
    「良い目利きですね。あの剣奴は赤子の頃から剣奴で此処での戦い方を弁えているんですよ」
    「それはそれは………」

    仮面の少女は少しだけ口を噤んだ。ワインを嗜む、美味い。まるで貴族になったかの様な気分でグラスを揺らした。

    「ずっとこの闘技場に居るのですか?」
    「えぇ、当たり前でしょう?外に出ても精々が野盗になるでしょうね」

    気遣わしげな目を仮面の隙間から覗かせた少女を、男は嘲笑した。

    「善人ぶっても無駄ですよ。そんな上っ面のモラルから逃れる為の『仮面』ですからね。此処に来てる時点で、貴女も同罪です」
    「えぇ、えぇ……………そうですわね。共犯者、と言った所かしら?先程から彼らにも同じ内容の事を言われましたわ」

    仮面の少女は今も尚、騒いでいる観客の方に目を向けた。剣闘士の少女の鎖が魔獣の喉を締め上げる姿に半分は悔しがり、半分は狂喜している。
    男は不機嫌そうにワインを舐めて溢した。

    「私はあんな奴らとは違いますよ」
    「それはオーナーだからですか?それとも負ける側が好きだからでしょうか?」
    「…………良く分かりますね」
    「人間観察には自信があるんですよ」

  • 130『イーカロスの翼』324/03/10(日) 17:21:39

    「好きなんですよ、そういうのが。惨めに這い蹲る敗者が………父が殺された日からです」
    「お気の毒に」
    「クズ親父でしたからね。寧ろ清々した。その性癖のお陰で此処まで上り詰めたので感謝したいくらいですよ」

    強者として君臨していた者が惨めに死ぬ姿を見る為に我武者羅に力を手に入れた。暴力であり、財力であり、権力である。
    仮面の少女は微笑んで問い掛けた。

    「罪悪感はないのですか?」
    「共犯者だと、さっきご自分で仰られていたのではありませんか」
    「興味本位ですよ。私ではどうやっても真似出来ない事をしてのけた方の心を知りたいのです」
    「罪悪感、罪悪感ね…………逆に何処にそんなものを感じるのです?」

    魔獣が鎖を砕いた。剣闘士の少女の瞳が死への恐怖に揺れる。態々特殊なポーションを購入して魔獣に仕込んだ甲斐があったな、とまたワインを舐めた。

    「例えば────あの少女から選択肢を奪っている所、など。彼女は此処で生まれたというだけで学校に通う自由も、外で遊ぶ権利もありません」
    「そんな綺麗事を並べ立てるのに意味なんかあるのですか?……………あぁ、今日の観客が少ないのは貴女のせいですか。営業妨害ですよ、次やれば殺します」

    寧ろ、借金を重ねた夫婦の娘を彼処まで育ててやったのを感謝して貰いたいくらいだ。
    次々に鎖を砕かれ、今にも魔獣に喰われそうになる剣闘士の少女と熱狂する観客の叫び声。男の殺意を他所に仮面の少女は悲しげに微笑んだ。

    「彼女はあのままだと死ぬでしょうね。貴方が魔獣に仕込んだ薬のせいで。熱狂を煽る為だけに優勢を演出され」
    「諦めろ。結界は一級品だ、中から此方に何も出来ないのと同じ様に此方からも何も出来ない…………出来たら賭け金の為に観客が何をするか分からんからな」
    「物理障壁と魔力吸収障壁ですわね」
    「鋭いな。此処で働くか?」

    仮面の少女は懐から一枚の紙を取り出した。

  • 131『イーカロスの翼』424/03/10(日) 17:49:03

    「お断りします。私は冒険者です。貴方を逮捕する為に来ました」

    逮捕状が出されると同時にワイングラスが落ちて、足元を濡らした。全身の力が抜けて膝から頽れた。魔導具を取り出す暇もなく、脱力感に屈して地面に這い蹲る。
    七重の物理障壁と三重の魔力吸収障壁が一瞬で貫通されて魔獣が殺された。惨めさの欠片もない、介錯の様な殺し方。

    「ポテトに麻痺毒を仕込ませて頂きました。貴方は此処で終わりです」

    観客が一幕を目にして逃げようとするよりも先に無数の冒険者が出入り口から雪崩れ込んで来ている。強者として君臨していた男は、今や惨めな敗北者に過ぎなかった。

    「ぎ、ぎ、偽善者が………!17年間、剣闘士でしかなかった女だぞ!外に出しても社会不適合者の破綻者にしかならない!此処で殺してやった方が、幸せだった!」
    「自己弁護のつもりですの?」

    痺れる舌で紡がれた呪詛を、仮面を外した冒険者が軽く受け止める。オーナーだった男は醜く顔を歪ませて叫んだ。

    「お前に責任が取れるのか!?選択肢を奪うだと?お前の方こそ、野垂れ死以外の選択肢を奪っているも同然だろうが!」
    「私が彼女を育てますわ。野垂れ死なんてさせる気は微塵もありません」

    学校に通わせて、衣食住を与え、好きな職業を選べる様にするのだと冒険者は囁いた。
    それこそが選択肢を与える事なのだ、と。

    「後悔させてやる………!俺を、殺さなかった事を後悔させてやる!」
    「頑張って下さい」

    呪詛の咆哮を、怨嗟の絶叫を、惨めな敗者の遠吠えに背を向けて冒険者が前に進む。
    その先に居るのは剣闘士だった少女。冒険者よりも一回りも二回りも歳上の少女を迎えようとするその姿に、せめて一矢報いんと男は口を開いた。

    「………ずっと恵まれぬ子供を集めたとして。それを育てる為にずっと金を稼いだとして。何処にお前の幸せがある?」
    「全て」

    冒険者は、剣闘士だった少女を優しく抱き締めた。

  • 132『イーカロスの翼』524/03/10(日) 17:53:27

    「全てが私にとっての『幸福』です」

    例え理想の陽光に翼を熔かされ、墜落して死ぬのだとしても。その飛翔は無意味でも無価値でもないのだと。
    冒険者は断言した。


    ───『闘技場』、という施設がある。
    ナニカとナニカが衝突し、闘争する施設だ。誰も死なず、勝敗だけが決まる───


    「イカレてる」

    その言葉は、静かに勝者を指し示した。

    【終】

  • 133『遺されたもの』 1/424/03/10(日) 19:17:18

    ──降霊術。そのような単語を聞いて、あなたは何をイメージするだろうか?
    冒険者として活動しているのなら。あるいは一般人として、そのような世界を噂でしか聞き及んでいないのなら──それは"外法"、あるいは"思惑通りに運ばない試み"のイメージが強いかもしれない。
    けれども。そればかりが降霊術の全てでは、ない。あらゆる技術がそうであるように、結局のところ扱うもの次第なのだ──

    ────

    その男が依頼してきたのは、先日逝去したばかりの老婆の降霊だった。自らの母であるその女性は、しかし脳を侵す病によって最愛の息子のことすら忘れ──あまつさえ甲斐甲斐しく世話を焼きに来るその姿に恐怖し、自らの命を絶ったのだという。
    依頼を持ちかけられた降霊術師。つまり私にとって、それは容易い仕事であった。亡くなったばかりで、遺体も丁寧にエンバーミングされた上で残されている。魂を"呼べない"ということはないだろう。私の力量であれば失敗はあり得ない。

    だが、私は悩んだ。本当にその霊を降ろしてしまって良いものか?と。

    彼が求める救いとは、すなわち"正気でないまま命を落とした母"と、"最期に正気の会話をしたい"というものだ。それを以て真に愛されていたのだと、そのように受け取りたいのだろうと推測した。
    だが──降霊の成功は保証できても、"その"救いまでは保証できない。私はそう考えたのだ。

    「もしも彼の母の病気とやらが、魂まで変質させてしまっていたら……彼の心はどうなる?ただトドメを刺すばかりではないのか」

    悩み抜いた私は、結局のところ「ひとまず降霊が可能かを下見する」という名目で男の母が遺した物品の調査を行うことにした。
    救いを保証する何かがそこに無いものかと、望みを託して。

  • 134『遺されたもの』 2/424/03/10(日) 19:18:28

    「──ハッ。杞憂だったかもしれないな」

    私は"母の遺品"を整理し、肩を竦める。決してその死や息子の悲しみを軽んじる意図はないが──それでも、これを"見るのも辛い"と中身まで検めなかった彼に対して、なんというかやるせないような気持ちすら湧いてきてしまう。

    何通もの"誰にも渡されなかった"手紙。そこに書かれているのはただ息子への愛と、それから悔恨、心苦しさ──「せめて一目会いたい」という切なる願い。まるで長く子供に会っていないかのように、子を案じる言葉。「どうか幸せでいてほしい、私のことなど忘れてくれても構わないから」などと、息子を忘れてしまった母が記すだろうか?それも、何通も何通も……
    そして、問題の遺書。彼が自分を追い詰めてしまうきっかけとなった最期の言葉。そこに答えがあった。

    「たしかに、"知らない男が毎日家に入ってくる"とは書かれてる」

    だが──遺書はそこで終わってない。おそらく彼はここまで読んだ時点で心折れ、目を背けてしまったのだ。

    「母君が見ていた"男"とやらの背格好は、彼とは似ても似つかない。おそらくは無関係の幻覚だ」

    ──魂とは、心とは"脳の機能"に過ぎない。そのような意見は、例えばある"世界観"──ひとつの視点においては真実なのだろう。

    「だが、今回は違う。彼女の魂は息子のことなど片時も忘れていなかった。ただ、脳の病がその認識を妨げていただけ──」

    私はすぐに依頼主へ連絡をとった。
    "降霊は可能である。あなたさえ良ければすぐに実行しよう"と。

  • 135『遺されたもの』 3/424/03/10(日) 19:19:25

    ────

    「……母さん?母さんなのかい……?俺が、俺が……分かるかい?」

    『ええ。分かるわ。私の愛する息子……ああ、本当に……ごめんなさい。ずっと、ずっと、会いに来てくれていたのに……それが見えていなかったなんて』

    「母さん……!母さん、俺、ずっとそばにいたんだ。母さんのそばで、ずっと」

    『ええ、ええ。分かっているわ。あなたはずっとそばにいてくれた。でも、病に侵された私がそれを正しく認識できていなかった……本当に、本当にごめんなさい……』

    「そんな!母さんが謝ることなんてない……!俺が、俺がやりたくてやってたことだ!母さんに死んでほしくなくて、それでさ!だから……」

    『……ごめんなさい。私もずっと、あなたを見守りたかった。でも、私はあなたを見つけられず……自ら終わりにしてしまった』

    「謝ることなんて無いって言ったろ……俺は、俺は……!」

    『ねぇ、ジャック。私の愛しいジャック……聞いて。私のことはもう忘れ、あなたはあなたの人生を生きるの。そして……母さんの分も……』

    「母さん……!……ああ、俺、頑張るよ。こんなトシになっちまってさ、今更やり直せるかなんて分かんないけど。でも、俺……」

    『……幸せにおなりなさい、私の子。母はずっと……見守っています。ずっと、ずっと……』

    「ああっ……!待っ……!……」

    「……さよなら、母さん。今まで……生きてくれて、本当に。本当に……ありがとう」

    ────

  • 136『遺されたもの』 4/424/03/10(日) 19:20:31

    ひとときの邂逅を終え、男は考え始めたようだ。
    自分に残されたもの。残された時間──これからの人生を。

    「術士さん、俺……降霊術の勉強、しようと思ってるんです。こんな歳からで、何言ってんだって感じですけど……もし良ければ、弟子にしてください……!」

    彼の目は本気だった。一時の熱に浮かされた思い上がりや何かじゃなく、本気で降霊術を学ぼうと決意している。

    「俺と同じように苦しんでる人、たくさんいると思うんです。それを……今回みたいに、吹っ切る一助になれたらなって」

    ……その言葉に目を細め、私は煙草に火を点けた。ああ、その言葉を断れるわけがない。

    「……本当ですか!?あの、では、よろしくお願いします!」

    自分と同じ動機で同じ道を志す者を、どうして無碍にできようか?
    年甲斐もなく目を輝かせる──たしか私より歳上の──"弟子"を引き連れ、私はまず連盟支部へ足を向ける。何はなくとも登録からだ。

    ──終わってみれば、些細な一幕。ほんの少し言葉を交わす手助けをしただけ。けれども、それは確かに一人の人間に声を届け、救いとなった。彼は確かにそこにあった愛を抱きしめ、これから前を向くことができる。

    我々の、降霊術師の成すべきこととは……そうして"遺されたもの"を守ることにある。
    ──そう、私は思っている。

  • 1378324/03/10(日) 19:23:39

    ※👍👍👍
    ※降霊術師本人も降霊術で救われたのもあって、心安らかになりますね

  • 138おかえりなさい①◆0KposPJqrg24/03/10(日) 19:32:07

    「あ"あ"〜〜疲れたあ〜〜まさかギルドの転移ゲートのひとつが無限牢獄の氷獄エリアに繋がったなんて……」
    【もう風もぬるんでいくつかの木々は蕾を色づけ始めた王都で、ハードワイヤードは雪の積もった厚手のコートに身を包んで歩いていた】

    【衝合が起きると類稀なる実力と貴重な高等技術を合わせ持つ冒険者である彼女は転移門や無限牢獄メインルートの乱れをチェックするために走り回る必要があるのだがここのところは衝合が多すぎる。作業中におきた次の衝合で手順が最初からになったことはもう片手では足りなくなっていたが、そこに加えて今日の最後のそれは最悪だった】

    「転移門そのものが無限牢獄に突出して中で作業をしないといけないなんてほんと……運がない……」
    【火竜が凍死するような極寒の氷獄エリアである。ハードワイヤードの小柄な体は魔術防御を持ってなお貫通する纏わりつくような冷気にすっかり冷え切ってしまっていた】

  • 139おかえりなさい②◆0KposPJqrg24/03/10(日) 19:41:09

    「ただいま~すっかり遅くなっちゃって……」

    「+°::帰宅*“<’歓迎-+;」

    【自宅のドアを開けたハードワイヤードの眼の前に現れたのは恋人である通称液状種族。名前はあるがこの地上では発音不能でギルドの記録を除けば知っているのはハードワイヤードだけ、ちょっとした二人の秘密というやつだ。

    声帯を持たず思考パターンも違う彼が何とか言語化する言葉は大抵こんな感じで、これはおかえりなさいと言ってくれている】


    「液状さん先に帰ってたんだね、こっちは転移門が無限牢獄の氷獄エリアに突出しちゃって〜……?」

    【いつもは近寄ってきてハグする液状さんが、今日はそのままの位置をキープして細く手を広げたポーズをしている。

    はて?このなだらかで丸っとしたフォルムと何処かで見たような赤色は……多分あれを形態模写しているんだとわかって思い切り液状さんに身を投げた】


    「ああ、人を駄目にするクッションね?」

    「:;>・-正答*“"+」

  • 140おかえりなさい②◆0KposPJqrg24/03/10(日) 19:52:27

    「あ"あ"〜天国ぅ〜〜〜〜」
    【根本的には液体だけあって細粒クッションのようなサラサラ感とはちょっと違うけれど、ふよんと体を柔らかく受け止める感触が心地良い。
    冷え切った体を少し熱めの温度に調整した液体さんの体がじんわりあたためて、春の中に沈んでいくみたい】

    「いい仕事してますねえ」
    【縫い目を律儀に再現しようとしたらしいすじ模様をつついてからかうと、くすぐったそうな感情が伝わってくる。
    液状さんの種族は触れ合うことで思考をつなげるのが会話、こうしてくっつけば言葉は必要ない。】

    「えっ、お疲れ様宇宙一素敵な人?もう、液状さんったら!」
    【などとからかっていたら思い切り不意打ちを食らった。何し思考が接続しているのでこちらが真っ赤になって照れている様子をどんなに可愛いく見えているかまでリアルタイムフィードバックだ
    直接ぶつけられるにはまだまだ経験値が足らない】

    【夕食を食べそこねていることを思い出したけど、もう少し冷えた手足が温まるまではこのままじゃれ合ってていいかな?
    そんな考えを巡らせつつ、一日の疲れを癒やすのだった】

  • 141おかえりなさい③◆0KposPJqrg24/03/10(日) 19:53:35

    ふふふナンバリングをミスった………
    どうしてもこの人の脳内を文字化できないため
    ハードワイヤードさんのキャラをお借りしました。
    キャラ解釈違いがあったら消去しますのでお申し付けください

  • 142ある日の一夜のこと①◆BuOGBplkzY24/03/10(日) 20:22:24

    【初めて擬人化魔法をかけてもらった日の夜。神剣は一人開いた部屋のベッドに潜っていた】

    『柔らかい……特に枕というものはいい、頭を預けると安定する。何故かわからないが……安心する』
    『布団も、柔らかい。ふわふわとして、鞘とは違うのにしっかりした安定感がある……』

    『騒々神さんはいい神様だ……主も見習うべきだ。今日も眠いだろうに、遅くまで遊んでくれた……』

    『私は刀なのだから、眠くならないのにな……』【言いながらも、だんだんと口調はゆったりとしていく】
    『……眠く、ならないな――…』【けれどどうしてか、自覚しない眠気に惹かれながらも眠りに落ちない】

    『………主は、起きているだろうか』【神剣は、ぱっと目を開いた】
    【…いつの間にかおっとりとした足取りで、預けられた部屋を出て魔刀剣士の部屋へと向かっていた】

    『あるじー…おぅい、寝ているのか?』
    【ドアを開けた部屋には結界が張られていて、音と光が内側に閉ざされていたらしい】
    【魔刀剣士は光る球を浮かべ何かを書き留めていた】
    【魔刀少女も同じ部屋に居て、ピアノに座り鼻歌を歌いながら星空をイメージしたメロディを弾いている】

    『主…やっぱり起きていたか。いつもそうだな…ちゃんと寝たほうがいいだろうに』

    「そういうキミは、眠れなかったのかな。相棒」

    『ああ。やはり私は刀だからか、眠気なども感じなかった。機能はあるのだろうが、動いていない感じだ。必要も感じない』

    「俺も似たようなものだよ、知ってるだろ?」

    『知っている、知ってはいるが元からそうできている私とは違う。それに慣れるのが正しいわけではない』

    「――そうだね、ウナギポーションの改良はまた後でいいか。まだ実験材料はたっぷりあるし、急がなくていい」
    【言葉と共に魔刀少女も演奏をゆっくりと落ち着かせていき、る、るー…と小さな歌声を残してその姿をかき消した】

  • 143ある日の一夜のこと②◆BuOGBplkzY24/03/10(日) 20:27:15

    『……――愚かだな、愚あるじだ。そんなことで遅くまで起きていたのか』
    【思いのほかくだらない用事に、呆れてため息を吐く】

    『…仕方ないから、今日は私が寝かしつけてやる。私はちょうど眠くならないし、ずっと見張ってやろう』

    「あはは、過保護な相棒だ」

    『駄目な主人が悪いんだ、仕方なくだと言っているだろう。ほら、ベッドに行くぞ』

    「はいはい――……」
    【静かになった部屋の中、明かりの魔法を消し、隣に掛けてある刀に触れて結界を解除する】

    【神剣は魔刀剣士を引っ張ってベッドに潜り、おもむろに話し出した】
    『――今日は、楽しかったな』

    「ああ、いい日だった」

    『夕飯もおいしかった。ギルドで食べたのも美味しかったが、帰ってから食べた和食も良かった』

    「たくさん作ったね、刺身に焼き魚、煮つけ、卵焼き…『主の好物ばかりだったぞ』 俺は和食は全般好物だよ」

    『ふふ……そういうことにしておく』

    「本当だろ、こっちにはお店が少ないからあまり食べないけど」

    『それにしても好物が多かった』 

    「……まあ、そうでもあるかな。キミが興味があるのは、オレがよく食べてるものだと思ってね」
    【これは単純に、言葉通りの推測であり、そして正解でもある】
    【初めて食べる食事を、自分の好物で楽しんでほしいという気持ちもあったが】

  • 144ある日の一夜のこと③◆BuOGBplkzY24/03/10(日) 20:35:26

    『ふむ、それは道理だ。美味しそうに食べるのをよく見ているからな』

    「だろう? ……騒々神さんとも、よく遊んでいたね」

    『ああ、よくしてもらった。私の希望を聞いてくれて、チェスやトランプをしたが……ふふ』

    「……どうしたんだい?」

    『表情がわかりやすかった。あの人は可愛らしいな』

    「そうだね。いい方だよ」
    『ああ、いい神様だ…』

    『……おい? 何だこの手は』【魔刀剣士が、神剣の背中をぽんぽんと穏やかに叩いている】

    「……何って、なんとなく?」

    『……まったく、眠くならないと言うに……わからない主だな』
    【言いつつも、神剣はいつの間にか魔刀剣士にしがみつくような姿勢になっている。まさに、眠くなって親に甘える子そのものの格好だ】

    「うんうん、そうだね……」

    『まった、…ぁく。またふざけて……、…ぅな』

    【あくび混じりに訴えながらも、だんだんと瞼を落としていく】

    「――今日くらい、安心して眠ってほしかったからね。擬術師さんにこんなことを頼めるのは、今日っきりかもしれないのだし」
    【完全に眠りについた神剣に向かって、囁くように答えた】

  • 145二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 20:38:40

    このレスは削除されています

  • 146ある日の一夜のこと④◆BuOGBplkzY24/03/10(日) 20:39:30

    【魔刀剣士が起き上がると同時に神剣は目を覚ます】
    【既に人から元の刀に戻っていたため、睡眠機能も残っていない。意識はすぐに浮上し、小さい刺激で簡単に目を覚ましたのだ】
    【今では自覚している昨日の眠気も、名残もなく全くの無になっている】
    『おはよう、主』
    「……ああ、おはよう。起こしちゃったかな」

    『いいや、もう眠くもない』
    『……昨日も、眠気を感じなかったのは本当だったんだがな』

    「まあ、自覚がないこともあるさ。生身は初めてだろ?」

    『…ああ、眠いというのは、ああいうこともあるんだな。肉体は便利で楽しいばかりじゃなかった』
    【実のところ、神剣に眠る必要がないのは確かだった。しかし同時に、強い生命力故に欲求そのものも人並み以上にあったのだ】
    【睡眠欲が働きながらも眠れなかった理由は……眠くならないのではなく、単純に不安があったせい】
    【その日は長く魔刀剣士と離れていて、眠るのも一人だったからだ】

    「うん、オレも久しぶりにゆっくり眠れたよ」
    『そうか。それはよかった…』

    『主、それなら。…』【いや、と小さく口にして、口ごもる。しかし】
    『……その、なんだ。刀に戻ってもまた、私を抱いて眠っていいんだぞ?』

    「……――あははっ。 そうだね、それがいい。これっきりじゃ、俺も寂しいからね」
    『……ふふ、そうだな。それでは主は余計に眠れないだろう』

    『…――今度こそ、私が主が眠るのを見届けてあげるから』
    【穏やかに、笑い合う。】
    【柔らかい口調で話す刀と人。誰に語るでもない、平穏な一夜のお話】

  • 147ある日の一夜のこと◆BuOGBplkzY24/03/10(日) 20:39:41

    おしまい

  • 148古き地より来る者、かく語りき①24/03/10(日) 21:14:16

    「そういえば……
    サクヤさんのその剣、『杜刀御魂』は何処で手に入れたものなのですか?」
    【ある休日の、昼下がり。酒場の一角で学ランの少年は問うた】
    「お?これが気になる?」
    【その傍らにいる相手──古代極東装束の女は、楽しげに笑って愛剣に手を添える】
    「はい。途轍もない力を秘めた、『神器』と呼んで差し支えない代物とお見受けします故」

    「そっか、じゃあ話そう
    ──忘れもしない、あれはボクが"堕ちた神"への生贄として捧げられた時のこと……」 
    「待ってください」
    【いきなりとんでもないことを語りだした相方を、少年は制止する】

    「ん?どうしたの?」
    「どうしたの、ではありません
    ……何があって、そのような事態になったのですか」
    「ああうん、ボクの故郷に何処かから"堕ちた神"が流れ着いたことがあってね?
    体に草木の生えた大蛇で、多分元々何処かの山森の化身か何かだったんだと思うんだけど……
    そいつが街道に陣取って『生贄を寄越せ、自分を崇めろ』って言うもんだからみんな困っちゃって」
    「……………」
    【少年は内心流石の魔境度合いですね、と思いながら聞いている】

    「だのに軍勢を差し向けたら姿を隠すもんだから、こうなったら誰か──あれを倒せるような兵(つわもの)を生贄として送り込んで、油断させて倒そうって話になったんだ」
    「そして白羽の矢が立ったのがサクヤさん、という訳ですか」

  • 149古き地より来る者、かく語りき②24/03/10(日) 21:14:46

    「うん、義母の推薦でね
    『次代の王、稀なる武勇の持ち主である貴女であればきっと征伐が叶うでしょう』って」
    「……藪から棒ですが、お義母上にお子はおられるのですか?」
    「うん。二つ下に弟がいるよ。とっても頭の良い奴なんだ」
    「…………………」
    「でも正直、ボクはあいつのほうが王に相応しいって前々から思ってたんだよね。だから引き受けたよ
    ボクが死んでもそれはそれで、って」
    「……そう、ですか」

    「でまあ、そんなこんなで神輿でそいつのところに送り込まれたんだ
    のこのこと『我を崇める気になったか。やはり神秘色濃き土地のヒト共は身の程を弁えておるわ』とか言いなから近づいてきたんで短剣で刺してやったよ」
    「台詞の記憶が正確ですね……」
    「けどまあ、大した傷にはならなかった
    そいつは怒りながら『ヒトずれがこの我に刃を向けるか!者共かかれ!此奴を八つ裂きにせよ!』って言って、そしたらそこら中から眷属が集まってきたよ」
    「……危機的状況では?」
    「うん、すごく厄場い《ーやばいー》状況だった。武器は短剣しか持ち込めなかったしね
    でもまあ、ボクも頑張ったよ
    眷属共を斬って斬って斬って、そこら中が血で真っ赤に染まるまで戦った
    刃が折れたら敵の牙をへし折って武器にして、それも無くなったなら殴って蹴って噛みついて……その時に編み出したのが《斬蛇之縁》だ
    でも眷属共の血は毒でもあったらしくてね
    全部倒す頃には目が霞んで息もしづらくなってたよ」
    「………どうして、そこまでして戦ったのですか?」
    【そこまで聞いた少年は、疑問を口にした】

  • 150古き地より来る者、かく語りき③24/03/10(日) 21:15:12

    「ん?」 
    「……逃げても、良かったのではないでしょうか
    貴女の死を、望んでいるような人もいたのに」
    【自分が口にして良い領分を超えていると分かっていながら、少年は言わずにいられなかった】

    「でも、ボクが逃げたらあの"堕ち神"はその後はもっと慎重になって、もっと狡賢く悪事を働いただろうし
    そうなったら、次は民草が危ないからなあ
    『弟の治める国』に、あいつを来させる訳にはいかなかったんだ」
    「……国と、そこに暮らす人々と、弟さんのためですか」
    「そういうことだね
    でも流石のボクももう限界だった。それであいつはトドメを刺そうとしてきたんだ。その大きな、毒牙の生えた顎でね
    そしたら、そこに剣が飛んできた。ボクがいつも使ってた剣だった」
    「………!」

    「咄嗟に引き抜いて突いたよ
    一瞬だった。ボクの剣が"堕ち神"の上顎から脳天を貫いてた
    ……その後すぐ気を失ったから、詳しくは覚えてないんだけど」

  • 151古き地より来る者、かく語りき④24/03/10(日) 21:15:37

    「──で、目が覚めたら川のほとりにいたよ
    根の国にしては綺麗な風景だなって思ってたら、弟がボクの顔を覗き込んでた」
    「弟さんが……?」
    「うん。倒れたボクを連れてきて介抱してくれてたんだ。話を聞いたら、剣を投げてくれたのもあいつらしかった
    泣きそうな顔で「良かった……生きておられた」って
    そんでボクに縋りついて泣くもんだからさ。困っちゃったよ」
    「そこまで……
    弟さんとは仲が良かったのですね」
    「昔山のモノノケに魅入られて連れ去られたのを助けてやってから、すごく懐かれてたよ」
    「……それは道理ですね」
    【軽く言っているが、サクヤの故郷における"山"とはある種の異界である。増して魔性を相手取ってまで助けてくれたなら、弟にとってはまさしく命の恩人だろう】

    「しばらくしてなんとか泣きやんでくれたから、それでボクは言ったんだ
    "国を出ていく"って」
    「……え?」
    「だってどう考えても王には向いてないでしょ、ボク」
    「それは……」
    【確かに、王の"職務"には向いていないかもしれないが……その精神性は十分"王者"のそれではないだろうか。少年は思ったが、敢えて口にはしなかった】
    「弟さんには止められなかったのですか?」
    「すごく止められたよ。「私が母上を弑すれば……」とまで言い出したからそれはまずいと思って"説得"することになった」
    「……説得とは、"これ"ですか?」
    【少年は、握り拳を作ってみせた】
    「それだね」

  • 152古き地より来る者、かく語りき⑤24/03/10(日) 21:15:59

    「でまあ、ボクの意志は堅いと伝わったらしくて
    弟は色々準備を整えてくれたよ
    必要なものを揃えてくれたり、その間ボクを匿ってくれたり
    旅立つ時はおいおい泣きながら見送ってくれた
    ……あの時はこっちもちょっと泣いちゃったね」
    【最後の言葉には、少しだけ寂しそうな感情が籠もっていた】

    「……国に戻りたいとは、思わないのですか?」
    「時々思うよ。仲が良かった人達に会いたいとも
    ……でも良いんだ。あいつ(弟)なら上手いこと国を治めてくれる
    鬼とか土蜘蛛とか、今まであんまり仲が良くなかった他の民族との交流を深めようって提案したり、"外"との交易を活発にしようって計画したり……
    すごく王に向いてるでしょ?」
    「確かに……先進的な思考の持ち主ですね」
    【少年は感心した様子で所感を述べたが──】

    「……そういえば、その剣(『杜刀御魂』)の由来を訊いていませんでした」
    「ああ、これはあの"堕ち神"を斃したら出てきたよ
    尻尾の辺りから」
    「えっ」


                       〜終〜

  • 153龍が死ぬ時➀24/03/10(日) 21:16:23

    「………我は…死ぬのか」

    【雨が地面に倒れ伏す我が身を打ち付ける
    雨が打ち付ける度に無惨に引き裂かれた胸の傷口から止めどなく血が流れ自身の体温が次第に無くなって行くのを感じる
    我が命はここで散り我が身はやがて土に還り何者かの糧となってその命を育むのだろう】
    【こんな結末は望んでいなかった
    まだ生きてやりたい事は数えきれない程にあった
    死にたくなどない、だが我はもうじき死ぬ
    このまま幾多もの後悔を抱えたまま死に行く事など許容出来る筈も無い】

    「……1つ…聞きたい事がある」

    【だがしかし今際の際に我が身を切り裂いた者に対して出た言葉は文句等ではなく問であった】

    「貴様は…何を思って生きている……それ程の力を持っていればなんであろうと出来る筈だ…貴様の龍生とはなんだ…貴様が見る世界とはなんだ…
    冥土の土産に教えてくれ…」

    【我が身を切り裂いてくれたにも関わらずこちらの事など気にも留めてないかの様に一瞥もくれない憎き相手を睨めつけ問いかける】

  • 154◆FZj6svE9vc24/03/10(日) 21:17:34
  • 155龍が死ぬ時➁24/03/10(日) 21:17:44

    >>153

    【問に対する答えは返ってこなかった】


    『龍は群れてはならない』


    『龍は常に他を圧倒する個でありその生涯において他者と徒党を組む事などあってはならない』

    『龍は従ってはならない』


    『龍は生命の頂点であり己が決めた物を除くあらゆる法則に従う道理はない』


    【怨敵から発せられる言葉は全てが自身の問に対する答えとなる物ではない

    対話と言うにはあまりにも一方的で押し付けがましくどちらかと言えば独り言に近い物だ】


    『龍は自身より上に立つ物を許容してはならない』


    『龍にとって己こそが至上の存在であり仮に自身より優れていると感じる他者がいるならばそれを己の持ち得るあらゆる手段を用いて排除しなければならない』


    『それを受け容れ自身より上がいると認めそのままのうのうと生きる者がいればそれはもはや龍に非ず』


    【ただただ眼前に立つ無傷の龍の独り言の様な物が垂れ流されて行く】

  • 156龍が死ぬ時➂24/03/10(日) 21:19:06

    >>155

    『貴様は何を思って我に挑んだ』


    【不意に問が投げかけられる

    相手の顔を見やれば相変わらず視線はこちらに向いてもいない

    投げかけた問に答えず独り言を垂れ流したかと思えば対話の姿勢を見せようともしないのにその顔は何処か『速く問に答えろ』と言っている様でその者がどれ程自分本位の身勝手な存在であるかを表している

    これに答えてやるのはこの上なく癪であったが答える事にした】


    「我は古き龍種だ、我が力を振るえばどんな相手だろうとねじ伏せる事が出来た」


    「自らの縄張りを持ち横暴の限りを尽くし立ちはだかる者は全て屠り生きてきた、我こそがこの世の頂点だと思い生きてきた」


    「だがある時余所から流れてきた者が貴様の話をしていた…その者曰くそやつは我よりも強いと言うではないか」


    「その時我はそんな筈が無いと思った、我を差し置いて頂点などと…その様な傲慢を正してやろうと此処に来た」


    【そこで口を閉じる、そう思い遥々乗り込んできたその結果が今だ

    真に傲慢であったのがどちらかなど言うまでもない

    だがそれを言葉にするのは口が裂けてでも嫌だった】

  • 157龍が死ぬ時➃24/03/10(日) 21:20:29

    >>156

    『つまりは貴様は龍だったのだ』


    『己こそが至上と信じて疑わず絶対強者として君臨し他者など省みない』


    『自らの心のままに生き圧倒的な力によってその生き方を押し通す』


    【そこで言葉が区切られる、なんとなく相手を見ればほんの一瞬その視線が我に注がれていた】


    『貴様は弱くなんの見所も無い我に勝てるなど思い上がり甚だしい愚劣な木っ端だが…』


    『貴き龍の血を引き龍として在った、そこだけは認めてやろう』


    【その言葉を聞いた時なんとも言えないもどかしい感覚が身を走る

    それは圧倒的な強者に存在を認められたが故の歓喜だったかもしれない

    しかしそれを認める事は出来ない最期の時まで彼が言う"龍"で在る為に

    終わりが近い、最後の力を振り絞り声を発する】


    「これで終わりと思うなよ…この世で最も強いのは我だ、覚えておけ…必ずやいつか貴様のその鼻っ柱を圧し折りその思い上がりを正してくれる」


    【そこまで声にした所で急速に力が抜けていくのを感じる、今まで我が生きてきた時間が走馬灯として脳裏を過ぎ去って行く】


    『さっさと逝け、我は貴様の様な木っ端の存在など覚えんぞ』


    【その言葉を聞いたのを最後に龍は力尽きた】

    (結局…我の問には答えてくれなんだか…)

    【最後にそう思い残して】

  • 158僕の恋人は①24/03/10(日) 21:22:05

    「デート行かない?」
    恋人をデートに誘った
    今日は思ったよりも早く依頼が終わって時間ができた
    あの娘はなぜかずっと僕のことを好きで居たらしく最近アプローチされて恋人になった、隠すのが上手いなとずっと一緒に居たのに今更思った
    あの娘は恋人になった途端グイグイ来るようになって、たまにやり返すと急にしおらしくなるのがかわいいと、密かに思っている
    彼女に言ったら多分怒られるから言わないけれど10年間一緒に居て知らなかったあの娘の一面を知ることができたのは受け入れてよかったと思う要因の一つだ
    だから二つ返事かな?と思ってたら…
    「えっと…ちょっと……その…考えさせて……」
    フラれた
    なんで?向こうから恋人になれって言ってきたし大丈夫かなって思ったけどあのときのキスまだ怒ってるのかな…
    けど時間できたし……
    イヤまだフラれてない…?どうなんだろ

    「えっと…デート…行かない?」
    一時間ぐらいしたとき
    時間にして太陽が天の頂上に登るよりも前くらいにやたらとおめかししたウンディーネが声をかけてきた
    その言葉は僕のもののはずなんだけど
    まあ断る理由もないし願ってもないんだから……
    というかいつの間に買ったんだろこの服
    僕知らないんだけど…
    「それじゃ…どこ行く?」
    「決めてなかったのかよ」
    …たしかに誘ったのは僕からだった
    「えっと……散歩する?」
    「いつも通りだろ?デートならどっか別のとこにしねえと」
    う〜む……
    そうだ思い出した
    「向こうの方に”ベータコーヒー”ってお店があるんだって」

  • 159私の恋人は①24/03/10(日) 21:22:30

    「デート…行かない?」
    恋人に誘われた
    いや変な意味ではなくて
    あいつは奥手だ、何ど私がアプローチしてもなびかないし変な強迫観念からか私から告白しても頑として受け入れなかったようなやつだ
    だから驚いた
    たしかににあいつはいざとなればやれるタイプの男だ
    あいつに愛の証明をねだったときは……その…すごかったし(キスが)
    そんなあいつから誘われたんだから願ってもないような状況だ
    だから快く受け入れ……
    「えっと…ちょっと……その…考えさせて……」
    ァ゙ー!なんでここでひいた私!喜んで受け入れればいいじゃん!
    なんで!
    あー……考えてもしょうがない
    リカバリーの言葉考えないと……うぅ…

    服はこんな感じでいいかな?
    服のセンスとかよくわからないな……
    肌は青色だからあんまり映えるメイクもできないし…
    とりあえずファッション誌に載ってたワンピースを一式買ったしこれで間違いないはず…はず!
    あとはでー……デートに誘うだけ!
    「えっと…デート…行かない?」
    誘えた!誘えた!
    後はどこにデートに行くか…そういえばどこに行くんだろ
    「それじゃ…どこ行く?」
    「決めてなかったのかよ」
    そっちから誘ってきたじゃん!
    「えっと……散歩する?」
    「いつも通りだろ?デートならどっか別のとこにしねえと」
    こいつセンスが無え!
    「向こうの方に”ベータコーヒー”ってお店があるんだって」

  • 160僕の恋人は②24/03/10(日) 21:22:57

    このベータコーヒーという店はセントラリア王都の表通りからちょっと外れたところにある喫茶店だ
    メニュー板を見るとちょっとメニューの値段がお高め
    こういうお店に定期的に来れるようになれればちょっとしたお金持ちなんだろうなと思いながら中に入っていく
    内装はアンティーク調で落ち着いたBGMが聞こえてくる
    村長になる義務がなければこういうお店を経営するのも有りかもな
    「紫黒、『夢現』片付すから貸して」
    「はいっと」
    たしかにこんなおしゃれなお店にこんな者は不釣り合いかな
    ウンディーネとおそろいのおしゃれなシャツとズボンにしてきたのに刀を持ってるのも駄目だなと思いながら渡しているうちに席に案内された
    場所はカウンター席、横並びで座るのってちょっと新鮮かもな
    メニューを開く

    とりあえず今は甘いものの口だからパンケーキとレモンスカッシュ
    こういうお店のってなぜか自分で作るよりも美味しく感じるのはなぜだろう
    ウンディーネはコーヒー…それもとあるダンジョンから取り寄せている食べられる雲がのっているものとハムと卵のサンドイッチにしたらしい
    「飯時なんだからもっと元気が出るもんにしておけ」
    「そうだね…たしかに。それなら……」
    「すみませ〜ん、このフィッシュバーガーもお願いします」
    今の時間ならおやつよりもそっちを食べたほうがいいかもなと思い注文する
    楽しみだな〜

  • 161私の恋人は②24/03/10(日) 21:23:17

    いきなり知らない店の名前を出されてびっくりしたがなんでもたくさん喫茶店があるこのセントラリアの中で昔ながらの形態で生き残っている店らしい
    とりあえず入っていくとアンティークな内装と落ち着いたBGMが自分たちを迎えきた
    雑音はなくこの雰囲気を維持したいなと思えるようなこの店は普段私達が直面している故郷の危機というものも今この場だけは忘れられそうだ
    とりあえず
    「紫黒、『夢現』片付すから貸して」
    「はいっと」
    物騒なものを片付けて浸れる前準備が必要だな
    腹の中にアホみたいに長い刀を押し込み身一つになったところで席に案内された
    場所は外が見えるカウンター席
    そういえば交渉術で交渉するときには対面よりカウンターのほうが立場が同じに見えて打ち解けやすいらしい
    そう考えたら今の状況にはもってこいなのかもな

    せっかくおしゃれなカフェに来たんだからなにか食おうということで私はコーヒーとハムと卵のサンドイッチを注文した
    紫黒はパンケーキとレモンスカッシュにしたらしい
    「飯時なんだからもっと元気が出るもんにしておけ」
    「そうだね…たしかに。それなら……」
    「すみませ〜ん、このフィッシュバーガーもお願いします」
    多くないか?とも思ったが多分喫茶店だし腹に入るよな

  • 162僕の恋人は③24/03/10(日) 21:23:51

    届いたけど……大きくない?
    ウンディーネはこれ食べれるかな…
    いや魔力に還元してるから大丈夫なんだっけ
    「お前ってでかいな」
    「え?なに?」
    「なんでもない///」
    いきなり声を書けられてびっくりして改めてウンディーネの方を見ると自分よりも15cmも小さいウンディーネに可愛らしさを覚える
    昔は大きく見えていたのにいつの間に身長を越したんだっけ
    いつもふよふよ浮いてるから身長差なんてわからなかったな
    ノスタルジックな気持ちになりながらフィッシュバーガーをかじる

  • 163私の恋人は③24/03/10(日) 21:24:16

    届いた…でかい⁉
    想像の1.5倍くらいでかいじゃないか
    まあ私は魔力に還元するだけだから問題はないが
    紫黒は……
    いや…普段の私よりもでかいこいつが食えないわけ無いか
    隣で座ってると……
    「お前ってでかいな」
    「え?なに?」
    「なんでもない///」
    意識してなかったことに気づけたのはいいことだった
    昔は小さく見えてたのにいつの間に身長を越されたんだっけ
    いつもふよふよ浮いてたから身長差なんてわからなかったな
    サンドイッチに口をつけた

  • 164僕の恋人は④24/03/10(日) 21:24:37

    このフィッシュフライ…ザクザクしてて美味しいな
    ソースもパンが吸ってて程よく魚の味も楽しめる
    「紫黒、これ飲んでみな」
    「これは…食べられる雲だっけ」
    「美味いぞ」
    「うん」
    コーヒーを差し出された
    コーヒーはそこまで苦くないし雲も美味しいな
    今度はこれにしようかな?
    「爽やかな味がする…雲ってかんじだ」
    「だろ?」
    嬉しそう…
    ご飯が美味しかったのが良かったのかな?
    お返ししないと
    「これお返しに」
    「?ああ、もらうぞ」
    レモンスカッシュを差し出す
    これって間接キス…気にしたら笑われそうだし言わないでおこ
    「スカッとしてていいなこれ」
    「でしょ〜」
    「でもパンよりパンケーキのほうが良かったな」
    「…だよね〜」
    ばれたか…

  • 165私の恋人は④24/03/10(日) 21:25:18

    この雲…砂糖のそれとは違う感じがして美味い
    甘すぎると喉が焼けそうになるけどこれはそんな感じがしないし
    「紫黒、これ飲んでみな」
    「これは…食べられる雲だっけ」
    「美味いぞ」
    「うん」
    コップを差し出して呑ませる
    …これって間接キスじゃねえか?
    顔が熱くなってきた
    「爽やかな味がする…雲ってかんじだ」
    「だろ?」
    こいつはなんでこんなにすましてるんだ
    私はこんなに顔が熱いのに!
    「これお返しに」
    「?ああ、もらうぞ」
    レモンスカッシュを差し出されたから飲む
    …これも間接キス
    しかもストローだから……わかっててやってないか?
    「スカッとしてていいなこれ」
    「でしょ〜」
    「でもパンよりパンケーキのほうが良かったな」
    「…だよね〜」
    熱い顔を誤魔化しつつ会話をするこの大変さ
    こいつに味わってほしいぜ

  • 166僕の恋人は⑤24/03/10(日) 21:25:41

    一通り主食を食べ終わって今度はパンケーキ
    レモンスカッシュのスカッとした甘みと酸っぱさが良いハーモニーになってる
    「はいあーん」
    「え?」
    困ってる……
    意地悪したくなるのが人情だよね
    「はいあーん」
    「イヤ自分で食えるから」
    「あーん」
    「…わかったよ」
    食べてくれた
    この気持ちは……手の上から飼い猫がご飯を食べてくれる気「あだっ」
    「変なこと考えたろ」
    ばれたか……
    「私にはわかるんだからな」
    「ごめんて…もっと挙げるから」
    「許す、んあ」
    「え?」
    「あ!」
    「はいあーん」
    要求されるとは…
    やっぱり僕の恋人はかわいいな

  • 167私の恋人は⑤24/03/10(日) 21:27:25

    一通り食い終わった
    結局互いにサンドイッチとハンバーガーも交換して間接キスは気にならなくなったかな
    私もなにかスイーツを注文しよう
    このフルーツポンチうまそう出し注文しよう
    そして注文が終わった直後
    「はいあーん」
    「え?」
    パンケーキをフォークに刺して出してきた…
    これは食えと?
    「はいあーん」
    「イヤ自分で食えるから」
    「あーん」
    「…わかったよ」
    流石に恥ずかしかったけどこうもせがまれると抵抗できなくなっちまう
    表情を見ながら咀嚼するけど気に食わん
    どついたろ
    「あだっ」
    「変なこと考えたろ」
    …この顔まじで考えてやがったな?
    「私にはわかるんだからな」
    「ごめんて…もっと挙げるから」
    「許す、んあ」
    「え?」
    「あ!」
    「はいあーん」
    要求してやる
    このパンケーキ美味いな…
    コーヒーともよく合うし

  • 168僕/私の恋人は⑥24/03/10(日) 21:28:24

    フルーツポンチとあーんされたりして時間は過ぎ、トイレに行きたくなった
    ……そう言えばこの前読んだ小説で席を外してる隙に会計をする場面があったな
    「お会計ありがとうございました〜」
    これでおしゃれに一歩前進
    その後ごちそうさまをして会計に向かったウンディーネの驚く顔を見てたらどつかれた
    解せぬ…
    でも今日は楽しかったしまたなにか考えよう

    「「ごちそうさまでした」」
    私が食べ終わる前に紫黒は食べ終わってトイレに行ってきた
    そんで戻ってきてから手と手合わせてごちそうさま
    会計しようとしたらこいつがすでに払っていたようだ
    「あだっ」
    気に食わない…
    こいつのくせにスカしたことしおって
    その後はギルドに向かって情報収集をしてその日のデートは幕を下ろした
    …またいけたらいいな

    ((本当に僕/私の恋人は素敵だな))

  • 169二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 22:06:19

    鯖が……まだ投稿できますか??

  • 170GM24/03/10(日) 22:08:15

    (※…ちょっと鯖落ちすぎですねえ)
    (※今日いっぱい大丈夫)
    (※闘技場イベント後にエンドロールを出して終わりにするつもりなので、それまでなら)

  • 171二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 22:12:41

    このレスは削除されています

  • 172赤い靴①◆yqI2qB.HcI24/03/10(日) 22:13:26

    【始まりは普通の探索依頼だった。残念ながらダンジョンで消息を絶ったその人は僅かな持ち物しか見つからなかった。
    悲しいことだがダンジョンではそれなりにある結果で、報告する時に今にも崩れ落ちそうな表情で死体は見つかってないんですねと言った家族を覚えている】

    【奇妙なのはその後だ。その消息を絶ったダンジョンとは全く違うダンジョンでその人物の遺品と遺体の一部が見つかった。その時は転移で飛ばされでもしたのかと思ったがそれで終わらなかった。また別のダンジョンからも同様に遺体の一部と遺品が見つかって合わせてみたらパーツが多すぎる。
    ドッペルゲンガーにしたって見せる相手がいなくなったあとまで死体まで真似するのはやりすぎだ】

    「新入り、運がいいな。今日はとびきりのショーが見られるぜ」
    「どういうことだ?作戦ではないのか?」
    【わかりきっている答えを質問で求めて考えを戻す。その後にいよいよ生きている状態の本人が見つかり、確保はしたもののあまりにもこちらに怯えていた。
    一般人ならそうもあるだろうが行方不明になったのは冒険者だ。それもセントラリア所属というのに異種族に対してまるでむき出しの刃物でも突きつけられたように怯えていた。
    掃除屋という人間の冒険者によってようやく得られた証言によれば、その人は自分と同じ見た目の人間ばかりの場所に押し込められていたといい、一人一人連れて行かれていたその番が来たと思ったら、ゲラゲラ笑いながらダンジョンに放り出されて魔物に殺されかけたのだそうだ。それも見世物として。
    それをやったというのが―――】

    『いやはやおまたせしたね同胞たちよ!』
    「来たぞ、赤い靴の連中だ」
    「今夜は人間狩りだな」
    【犠聖の赤い靴。人滅の内部派閥の一つだ。
    自分が影人であることをこれ幸いと人滅に入り込んだのはこれを追うためだ】

  • 173赤い靴①◆yqI2qB.HcI24/03/10(日) 22:13:54

    「どういうことなんだ!!俺を家族のもとに返してくれるんじゃなかったのか?」
    『なんてことをこのおマヌケは言ってらっしゃるぜ?いやはやどうやら自分が本物のつもりらしい』
    「つもりじゃない!俺が本物だ!家族の元に奴ら偽物の方を帰すつもりなのか!?やめてくれ!!」
    【壇上で釣り上げられて叫ぶ保護された人物と全く同じ顔、失踪した時と同じ装備。そしてなにより同じように「自分が本物だ」と主張している。
    なんとなく予想はしていたがどうやらやはりことは単なるクローンより複雑らしい】

    『ハッハァ!面白いことを言うなあそれじゃあお前が本物だと証明して見せてくれよ、冒険者なら戦うのはお手の物だろう!?』
    【壇上のおそらくは妖狐と思われる極東風の美丈夫が耳元まで裂けた口で笑うと釣り上げた男を乱暴に檻の中に落とし、同時に反対側の扉が開いて黒く大きな獣がのっそりと姿を表した
    エボニーマンティコア、凶暴かつ高ランクの人喰を習性とする魔物だ】

    「いけえ、やれやれ!」「どうした、立って見せろよ!!」「ヒューヒュー!」
    【周囲の人滅たちが囃し立てる。どう考えてもこれは公開処刑、いや残虐な見世物に過ぎない。実装した人物は中級でとてもかなわない上、おそらく長い幽閉生活のためか手も足もやせ細り、鎧と盾を構えるのでやっとの有り様だ】
    【調べた結果明らかになったこのあまりにも悪趣味な興行が《犠聖の赤い靴》の活動だ。
    いかな人滅としても無差別に人間を襲撃すればたちまち目について野望を遂げる前にお縄になるが、カルト化するほど憎き相手が目の前でのさばっていることにお預けのフラストレーションは貯まる
    彼らはこうした不満を慰撫するために人間の殺戮ショーを行うのだ】

  • 174赤い靴③◆yqI2qB.HcI24/03/10(日) 22:14:28

    「……頃合いか」
    「ん?なにか言ったか?」
    【ぼそりとつぶやいた言葉に熱狂する構成員が聞き返すのと、5羽同時に放った影の鳥がすべてのランプを叩き落とすのはほぼ同時だった】
    【ガチャンガチャンと音がして、ぶちまけられた油に次々と炎が引火する。すし詰めの観客たちは火を被って一斉にパニックに陥った】

    「うわあああっ!!!」「消せ、消せ消せ!!」
    【だがさすがは人滅、火に巻かれて悲鳴を上げる者もいれば熱をものともせず夜目の効く者もおり、炎は燃え広がる前にあっという間に消し止められる。】


    【それが、狙いだ】

    「何だ!?体が動かな……うがあっ!?」
    【暗闇が包むと同時に一斉に人滅構成員たちが悲鳴を上げる。全てが闇の中に沈んだ時、それは影を通じて自分が自由に干渉できるということだ
    全ての人滅構成員が影で作られた剣に胸を貫かれて沈黙する中、影を潜ってエボニーマンティコアの足元へとたどり着くと影から飛び出しざまにその首へと『遍斬』を一閃させる。
    剣士ならぬ腕で落とせずとも頸動脈を断てるなら十分、人の――老爺の顔を持つ魔獣は暗順応を終える前にもがいて果てた】

    「形勢逆転といったところか。極東での悪事がたたってここまでも逃げてきたか?蒼火の三狐」
    「て……てめっ……〈影法師〉か!」
    【力のもとである3本の尾を2つ切り落とされて、尾の先に蒼火を灯した獣の姿になった妖狐を影で押さえつける。幸いなことに知り合いではないが、こいつは極東の頃に散々悪名を聞いた札付きだ
    あの時は子供を生贄にしようとどこかの村を唆して未然でバレて逃げたのを最後に行方がわからなくなっていたが高跳びしてもやることは概ね変わらないらしい】

    「選ばせてやろう、ここで死体になってお前の実家に引き渡し脳味噌に聞かれたいか?
    それともここで一通りゲロっておくか」
    「☆☆■■■※☆**!!」
    「私は言うか言わないか聞いているんだ。牙まで折られて言葉も失いたいか?」
    【錯乱してキャンキャンと吠える狐の顎を影で作った手で掴んでぎりと力を込めると、狐の全身の毛がブワッと逆立ちこくこくと必死に動作だけで頷いた】

    「じゃあ、案内してもらおうか?彼を増やしたものがあるんだろう。ひとまず壊すかギルドに引き渡して悪用は止めないといけないのでな」

  • 175赤い靴④◆yqI2qB.HcI24/03/10(日) 22:15:08

    「――結論から言うとあそこにあった装置は一欠片の情報から同一の存在をから連続した時間軸より引き抜くためのものだ
    細胞のクローンでは成せない教育された兵士を生み出すためのものだったと推測されている
    奴らはそれを使って彼を何回でも娯楽処刑できる駒としていたようだ」
    【やれやれ、当時はどれほど切羽詰まっていたらこんなものを考えつくのか。このことを告げられた時の彼等の顔を思い出す。まさか隣りにいるのは一分前あるいは5分前の自分だなんてどう考えても悪夢だろう。何なら自分は2分後の自分だったかもしれない】

    「つまりは彼らは全員本物ということになる
    蒼火の馬鹿によれば装置を起動するために遺伝情報を捧げた……右の小指を切り落とされた一人がこの世界の出身になる。あえて言うなら本物はその人になるが。
    この装置を使う国があった際には皆そのことを教育されており、そういう存在として目覚めることがあるのを承知していたそうだがそれにしても時空への作用が大きすぎたのが国の滅びた理由とも推測されている」
    「うええ、200の呪いで過去の自分とこんにちはは聞いたことあるけど今回は消えないのよね?どうすんのよ真っ黒ちゃん」
    【茶をすすりながらしかめっ面をする合体術師に説明しようとして、顛末を思い出して思わず笑いが漏れた】

    「それがな、さすが冒険者というべきか……残りは全員でパーティを組んだんだ。
    あの装置は時空に影響があるといったろう?」
    「え?……言ってたけど」

    「それで検査を受けたところ、毛根の寿命が本人より大幅に伸びていたらしくてね、何やら明るい表情になって一から稼ぐとダンジョンに向かって行ったよ」
    【あんぐりと口をあけたままカップを取り落として言葉を失う合体術師。
    ダンジョンの探索隊なんて思い出すのも陰鬱になることばかりだ。こんなバカバカしい終わり方もたまには良かったかも知れない。】

  • 176赤い靴◆yqI2qB.HcI24/03/10(日) 22:20:07

    というわけでお目汚し失礼しました
    放置しちゃった話が終わったー!

  • 177『至宝詩編』の休日◆jSo10893JY24/03/10(日) 23:25:44

    〈掃除屋〉
     目を覚ますと一番最初に目に入るのは、見慣れた赤い髪。その後に鼻をくすぐるのが愛しい人の落ち着く香り。
     なのだが今日は別の匂いもして、思わず顔が赤くなる。
    (……別に嫌いじゃないですけどね)
     求められるのは好きだ。ただし自分から求めるのは苦手だし、何より全てをさらけ出すのは恥ずかしい。
    「さて、今日は休みですね。……何をしましょうか?」
     ぐっすりと眠っているアルの髪を撫でながら、グレイラは考えた。

  • 178『至宝詩編』の休日◆jSo10893JY24/03/10(日) 23:26:36

    〈塩漬け狩り〉
     オリビアの作った朝食をゆっくり味わった後のコーヒーは何よりも格別な時間だ。
     ボーっと食器を片付ける嫁後ろ姿眺めいると、
    「グランは今日なんか用事あるのかい?」
     そう声をかけられて考える。
    「……そうだな。装備と屋敷の保守点検くらいだな」
     装備は普段使いする物と、使わない物に分けて順番に整備している。ここ最近は装備をロストしていないし、足らない物もなく、新しく作る予定もない。
    (工房を使う予定もないな)
     この屋敷は中古で買ったが、色々と手を加えている。
     まず元々合った地下室を拡張して、地下四階にした。
     地下一階は普段使い用の倉庫で、二階は俺の工房。鍛冶、皮革、木工、調薬、錬金、魔術、あらゆる生産設備が整っているこだわりの工房だ。地下三階は実験室兼地下四階を隠し守る為の設備だ。そして地下四階、ここには至宝詩編で集めた素材が保管してある。以前は貸倉庫を使っていたが、セキュリティの不安からこっち移した。
     正直、宝物庫と言っても間違いではない。回復術士の二の舞いは勘弁だから、時折整理しては各国のギルドや商会にたまに卸している。
     セキュリティは元々しっかりしていたが、あの異世界召喚以降、知り合いにも依頼して更に力を入れていた。嫁は知らないが半分要塞の様になっている。
    「ならさ、今夜は開けといてよ」
    「なんかあるのか?」
    「ふふっ、それがいいとこのレストランのチケットもらったのよ。せっかくだし、おめかしして食べに行こ?」
     オリビアはウキウキしているのか、まるで少女の様に話している。
    「ああ、いいな」
     しかし、それを指摘することなく微笑んで返す。
     怒こったオリビアや、照れたオリビアも好きだが、それは別の機会に楽しむとする。

  • 179『至宝詩編』の休日◆jSo10893JY24/03/10(日) 23:27:29

    〈絶壁〉
     やりすぎない程度の化粧とお洒落をして、馴染みの宿から外に出る。
    「いい天気ですねー。最近は暖かくなってー」
     通りを歩きながら独り言をつぶやき、店を冷やかしながらいつもの場所へ向かう。
     途中、お土産買って近づくとにぎやかな声が聞こえてきた。
    「やっほー、キルシュさんですよー?」
     塀から顔を出しながら声を掛けると、子ども達の賑やかな声が返ってくる。
     ここはセフィ孤児院。
     彼女の愛しい人と、その仲間達が住まう場所。
    「やあ、キルシュさん。おはようございます。今日もお元気ですね」
    「おはようございますよー。カバラくんも、お元気そうで何よりですねー」
     思わず頬が緩む。
     休みの日にここに来てお手伝いするのは、もはや習慣だ。
    「じゃあ、みんなー今日は勉強の時間ですよー」
     途端に悲鳴を上げる子供達に対し、持っていた袋を掲げる。
    「ちゃんと受けた子にはお土産あるのになー?」
     というとピタリと大人しくなった。
    「さすがはキルシュさん、お上手です」
    「それほどでもー……じゃあ、みんな中へいきましょー」
     子供達を引き連れ、孤児院の中へ。
    (さーて、がんばりますかー! 夜はお楽しみですしねー)
     夜はカバラとデート。これもまた習慣だ。

  • 180『至宝詩編』の休日◆jSo10893JY24/03/10(日) 23:28:30

    〈熱剣士〉
     朝食をビュッフェで軽く済ませてクレイラと共に部屋へ帰る。
     このホテルはセントラリアでも有数、最高級の部類に入る。複数の高級レストランにバー、地下にはカジノもあるし、買い物以外ならこのホテルから出なくても完結できる。
     その買い物もルームサービスで頼むこともできるし、店を呼ぶ事も可能だ。
     アルはそこまで成金趣味ではないので、あまり利用した事はないが。
     とにかくこのホテルは高い。アルは1年、このホテルに滞在するのに年収の四分の一を支払う程度には。
     しかし長年住み続けていれば、もはや高級感を感じる事はない。
    「だからって、部屋で剣を振り回すのはどうかと思いますけどね……」
     余計な調度品を除いて貰った部屋で、稽古をするアルを見ながらテーブルでお茶を飲むクレイラは苦笑する。
     その形にはペットのお年玉手乗りミミックがいて、クレイラからクッキーを貰っていた。
    「了承は取っているさ。それに――」
    「――部屋を傷つけたら賠償、ですよね」
    「ああ」
     クレイラもこのホテルで住む様になってかなり長い。最初は常におっかなビックリだったが、もはや慣れた物だ。
     アルは一通りの稽古を終えるとテーブルにつき、何を言わずとも差し出されるタオルを受け取る。
    「午後はどこかに出かけようか?」
     汗を拭きながら言うと、お茶を入れていたクレイラは、
    「それもいいですが……、たまには部屋でゆっくりしたいですね。昼もルームサービスで済ませてしまいましょう」
     と朗らかに笑う。
    「ああ、それもいいな。なら夜は少し奮発して、最上階のレストランに予約を入れておこう」
    「いいですね。今から入れても大丈夫なんでしょうか?」
    「僕らは太客だからな。そこは多少融通を聞かせて貰おう」
    「なら、決まりですね。なら、私は予約入れています。アルは汗でも流して来てください」
     言うなり部屋を出ていくクレイラに苦笑しつつ、口を開けて催促しているお年玉手乗りミミックにクッキーを放り込んだ。

  • 181『至宝詩編』の休日◆jSo10893JY24/03/10(日) 23:28:53

    『至宝詩編』
     ――そして、その夜。
    「で、なんでお前らがいるんだ?」
     そう口を開いたのは〈塩漬け狩り〉。
    「僕らの住処はここだ。いてもおかしくはないだろう」
     それに答えたのは〈熱剣士〉。
    「魔剣使いさん、お久しぶりですね。それに奥さんも」
     普段会えない二人に挨拶をする〈掃除屋〉。
    「私たちはデートですよー。皆さんと同じくー」
     そう言って微笑む〈絶壁〉。
     彼らは何故かレストランで鉢合わせしたのだった。

  • 182『至宝詩編』の休日◆jSo10893JY24/03/10(日) 23:30:40

    以上です。
    ……ナンバリング忘れた。
    もっと話を膨らませるはずでしたが、結局間に合わず朝と夜のオチだけになってしまった事をお詫びします。

  • 183衝合巻き込まれる数秒前⑤24/03/10(日) 23:50:11

    >>127

    【ストレスが最高潮に達し、気晴らしに外へ出た】

    【効率と詐称する悪意が存在している】

    【だが其は変えられない】

    【何故なら、この世界を管理する奴にとって想定外は存在しないから】

    【異能の限界値も】

    【事件の起こるタイミングも】

    【人の生死も】

    【全てを演算しきっており、全てが対処可能】

    【仮に俺が反逆したとしても即潰されるし】

    【それが分かっているから俺はしないのも、お見通しだろう】

    【だがこのまま多くの人々を捨てても良いのか?】

    【また友人を取り零しても良いのか?】

    【こんな英雄という血塗れの称号なんて要らない】

    【捨て去りたいのに奴が認めない】

    【しかし無視しようとしても、演算に則った最適な非道な対処で無理矢理戻されるであろう。不可能】

    【だが・・・しかし・・・なら・・・だけど・・・】

    【思考がループに陥る、そして心が枯れていく】


    【ふと呟いた】

    重引力「もうどっか想定外が存在する場所へ行きたい、、、」


    【別の世界に移動され、様々な事に触れ合い、高揚を胸に冒険し】

    【後に帰郷して、『想定外』の存在として悪意を倒し世界を救う者】

    【彼の、世界の方向性を変える重要なターニングポイントである事象まで】


    【衝合巻き込まれる数秒前】


    【完】

  • 184鳥と羊といつかの夢 ①24/03/11(月) 00:52:20

    闘技場での濃い一戦を終え、その足で私たちはある場所に向かった。友人の代打で入ったライブの本番だ。時間的にはそこまで忙しくない、なんせまたアリエスとカフェに入れるくらいには余裕があったから。
    そして結果から言うけれど、ライブ自体は中々上手くいったと思う。アリエスと私はいいコンビ、音で気兼ねなく殴れるし相手もちゃんと拳を握ってくれる。お互いに個性という棘があって、だからこそ歯車がちゃんと回る。
    だけど問題は終わった後、嬉しいことに沢山の花束が私たちに投げられて、アンコールの声が煩いくらいに響いてた時。一本のナイフが私の元に差し向けられた。
    冒険者のものと比べれば蚊の鳴くような速度で私は翼で跳ねのけた。けれど当然観客は騒然としていて。逃げようと藻掻く人波が起こる前に冒険者らしき人が抑えたから良かったものの……アリエスは目に見えて慌てていた。高い声の泣き声、静止しようとする声は慌てふためく音に消されている。投げた奴は殲魔云々と騒ぎながら周囲に抑えられ、それがまた混乱を呼んでいた。
    けれどどういう訳かそんな中、私の心は落ち着いていて……

    「……待って」

    我ながらよく通った一言だと思った。機材の効果があったとはいえそこまで声が大きくも無かったのに、何故か混乱した空気が急速に静まっていく。

    この瞬間に私は確信した。もしこれが1つの物語で、その終わりがこれならば……他でもない私が、物語をハッピーエンドに導かなくてはいけない、と。

  • 185鳥と羊といつかの夢 ②24/03/11(月) 00:52:53

    「今日、私は戦ってきた」

    「私は知ってる。競い合うのは成長のためじゃない。相手を蹴落とすためでもない」

    「それは理解したいから。あるいは理解できなくてもいい、ただ隣に立っていたいから」

    「甘いって言われるでしょうね。弱いって言われるでしょうね」

    「だけど構わない、それこそが私だから」

    観客達は私の言葉を静まって聞いていた。殲魔への言葉と捉えた者は困惑し、あるいはアンコールへの返答と捉えたものはこの事態と静寂の中で歓声を上げるべきか迷っていた。
    ただ1人、アリエスだけは私の言葉を理解したようだった。殲魔を捕縛した冒険者に制止を願うようジェスチャーで伝え、それから時計を見て帰りの船に間に合わないことを確認して頷いた。
    貴方の我儘なら聞きます、むしろ頼ってくれて嬉しいです……とでも言うかのように。

    「もう少しだけ全員ここにいて。他でもない私が、全員と一緒にいたいから」

    「示してみせる、我々の理解のやり方を」

  • 186鳥と羊といつかの夢 ③24/03/11(月) 00:54:17

    「アリエス、もう一度構えて。私たちそのものをこの町に教えるのよ」

    「当然です!存分に殴り合い、気が済むまでご一緒ですとも!それこそが……ダンジョンマスターのやり方です!」


    EmoCosine vs. nora2r - Initiating League


  • 187エンドロール:夜明け前24/03/11(月) 00:58:19

    「……で?私の船、もう行っちゃいました。帰れるアテがないのですが。」
    「送ってくわ。どこかで追いつくでしょ」
    「いいですって。悪いです、私の我儘で貴方に付き合ったのですから」
    「……。」
    「あー、やっぱりお願いします……。」

  • 188GM24/03/11(月) 01:01:15

    これにて当イベントは終了となります。
    皆さんの力作、とっても楽しませていただきました。
    それでは、お疲れさまでした。

  • 189フランケン博士24/03/11(月) 01:02:00

    お疲れ様でした〜

  • 190ハードワイヤード◆.UIszdl3fc24/03/11(月) 06:11:41

    >>138

    >>139

    >>140

    >>141

    世話焼き症で頼られたがりなのに本質は甘えん坊なハードワイヤードさん、完璧です♡

    甘甘カップルは良い…

  • 191『至宝詩編』◆jSo10893JY24/03/11(月) 06:16:03

    お疲れ様でしたー

  • 192甘き異牙◆UwIgwzgB6.24/03/11(月) 06:38:17

    お疲れ様でした!!!

  • 193液状種族◆0KposPJqrg24/03/11(月) 12:15:27

    >>190

    良かった〜!ほっとしました

  • 194《カミガカリ》24/03/11(月) 13:05:48

    お疲れ様でした!
    滑り込みでしたがやりたい描写ができて良かったです
    場を設けてくださったGM様に感謝

  • 195シズク◆8a0wdj3FCc24/03/11(月) 13:06:37

    お疲れ様でした

  • 196海竜の巫女24/03/11(月) 22:53:43

    GMありがとうございます、お疲れ様でしたー!
    もし良ければまた来年も……!?

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