- 1二次元好きの匿名さん24/03/06(水) 23:36:00
「トレっちー、お願いがあるのー♡」
トレーナー室、一仕事終えてまったりとしていた俺の下に一人のウマ娘が襲来、人懐っこい笑顔を俺に向けていた。
「ああ、どうしたんだヴィブロス?」
いつものおねだりかな、と俺は言葉を放つ。
ヴィブロスは三姉妹の末っ子で、甘え上手、という一面を持っていた。
とはいえ、トレーニングやレースに対しては真摯で真面目、夢や気高さもちゃんと持ち合わせている子である。
……うん、このところ頑張っていたし、甘やかしてあげるのも良いかもしれないな。
そう考えて、彼女の言葉を待つ。
「えっとね、トレっちが私にして欲しいことを教えて欲しいな~?」
「ああ、そのくらいならお安いご用だ…………うん?」
ヴィブロスの言葉を受け入れてから、俺は思わず首を傾げてしまう。
そんな俺の反応などお構い無しに、可能性は目を輝かせて、尻尾を楽しそう振りながら言葉を続ける。
「今日はね、私がトレっちを甘やかしてあげるんだ~♡」
「へっ?」
ヴィブロスが、俺を甘やかす?
シンプルな文言のはずなのに、その意味が頭の中に入ってこない。
多分、間の抜けた顔を晒しているであろう俺を見て、彼女は少しだけ神妙なものにした。 - 2二次元好きの匿名さん24/03/06(水) 23:36:20
「……トレっちさ、最近は毎日夜遅くまでお仕事してるでしょ?」
「……まあ、少しね」
「私のために頑張ってくれるのは嬉しいけど、もう少し自分を労っても良いって私は思うな~」
「いやまあ、休日はちゃんと休んでるし」
「……でも、私に構ってくれてるから、休みなんか」
「俺が好きでヴィブロスと過ごしているし、俺にとっても楽しい時間だから、十分癒されているけど」
「……っ! と、とにかく! ドバイも週休二日半制になったんだから、トレっちにはお休みがもーっと必要なの!」
何故か顔を少し赤らめて、少し理不尽な声を上げるヴィブロス。
やがてコホンと咳払いを一つ、彼女は気をとりなおして再び問いかけてきた。
「それでトレっちが私にして欲しいことってなあに?」
「いや、特にないけど、トレーニングも頑張ってくれているし」
「……はあ、まあ、そう言われるかなっていたけどー、トレっちはホント真面目だなあ、ハグとかなでなでとか、何かないの?」
ヴィブロスは呆れたような表情でため息をつく。
それはキミが俺にして欲しいことだろと思いつつも、ぐっと言葉を飲み込む。
その間に頭を切り替えたのか、彼女は再び笑顔を浮かべた。
「それじゃあ────私がトレっちにしてあげたいことをしてあげるね?」
そう言うと、ヴィブロスはいつの間にか置かれていた大きな紙袋を手にとった。
色々と入っているらしく、がさごそと音を立てて中身を探ると、彼女はその中から小さめのビニール袋を取り出す。
そこから出てきたのは────大きめの肉まんだった。
「お昼まだだよね? シュヴァちオススメの肉まんを買ってきたんだー、食べて食べてー!」
「あっ、ああ、ありがと……」 - 3二次元好きの匿名さん24/03/06(水) 23:36:40
実際少し小腹が空いていたので素直に手を伸ばすと、肉まんはぴょいっと逃げ出してしまう。
困惑しながらヴィブロスを見やれば、彼女は楽しそうに微笑んで、小さく肉まんを千切った。
そしてそれをこちらに差し出してくる。
「あーん♡」
「……ヴィブロス」
「トレっちが私にするのはダメって言われたけど、逆に関しては何も言われてないよね?」
「それは、そうだけど」
「…………だめ?」
ヴィブロスは上目遣いで、瞳を微かに潤ませながら、小さく問いかけてくる。
思わず言葉が詰まってしまい、しばらく逡巡した後────俺は観念して大口を開いた
俺のためを想ってくれている彼女の気持ちを無下にはしたくないと考えてしまったからである。
「ふふっ……♪ はい、トレっち、あーん♡」
嬉しそうに尻尾を揺らめかせて、ヴィブロスは千切った肉まんを持つ手を迫らせる。
溢れた肉汁によって、てらてらと照り返す油にまみれた白い指先が、俺の口の中にそっと入り込んだ。
気をつけて口を閉ざすものの、間が悪く、ほんのわずかではあるが唇に彼女の指先が触れてしまう。
「おいしっ?」
ヴィブロスは期待に満ちた眼差しで聞いてくるが、正直、緊張で味なんて良くわからなかった。
多分、美味しいのだろう、そう考えてコクコクと首を前後に振る。
彼女はそれを見て花が咲くように笑みを浮かべた。
そして、再び肉まんを千切る。
「良かった~! まだまだあるからね? あーん♡」 - 4二次元好きの匿名さん24/03/06(水) 23:36:57
餌付けされる雛鳥のように食べ続けて、数分後。
お腹はとりあえず満たされた、のだが。
「……トレっち、なんか疲れてない?」
「たっ、多分、お腹いっぱいになって眠くなっただけじゃないかな」
心にもない言い訳を口走る、幼稚園児かな。
しかし、ヴィブロスは何故か納得したらしく、両手をポンと合わせた。
「それならグッドタイミングッ! 後ろに失礼~♪」
ヴィブロスは軽やかな足取りで、ツインテールをたなびかせながら、俺の背後に駆け寄る。
そして、優しく肩に触れると────ゆっくりと揉み込む始めた。
程よい力加減と、ツボを押さえた絶妙な手つき。
身体を融かされるような心地良さに力が抜けて、息が漏れだしてしまう。
「どう? キタサンから教えてもらったんだ~!」
「ふっ……んっ……これはすごく……いいな」
「うんうん、ちょー気持ち良いって顔してるもんね……あっ、アレ忘れてた」
マッサージの手がピタリと止まる。
そして直後、耳をぴったりと何かに覆われた。
目で捉えることは出来ないが、感触からそれが何かを理解することは出来る。
「……ヘッドホン?」
「パパから借りて来たの、これをスマホに繋いで~、再生っと」
一瞬の静寂。
やがて、ヘッドホンから流れる音が俺の鼓膜を揺らす。
脳を響かせるほどの衝撃を伴って。 - 5二次元好きの匿名さん24/03/06(水) 23:37:15
『トレっちー♡ 頑張れっ♡ 頑張れっ♡ 元気ーっ♡ 出せっ♡ 出せっ♡』
「!?」
「どうどう!? クラウ……匿名希望のウマ娘さんが、こうやって応援の声を聞いていると元気が出るって!」
『さ~んっ♡ にぃ~っ♡ い~ちっ♡ ふぁいっ♡』
「多分これは、違うと思うな……!」
愛らしいながら、どこか挑発的な、囁き声。
音声に癒される人がいるとは聞くが、これは何かが致命的に間違っていると思う。
何が間違っているかは、全くもって、全然、これっぽっちも、わからないけれど。
これ以上聞いてはいけない気がして、俺は慌ててヘッドホンを外して、ヴィブロスに向き直る。
彼女はショックを受けた様子で、しょんぼりと俯いていた。
「トレっち……嫌だった? 頑張って録音したんだけど……」
「…………………いっ、いや、ちょっと耳が痒くて外しただけだから、ちゃんと聞かせて欲しいな」
「トレっち……!」
ヴィブロスの表情に、笑顔が戻る。
トレーナーたる者、担当ウマ娘の努力を否定したり、担当ウマ娘の気遣いを無駄にするなど、あってはならない。
俺は今一度ヘッドホンを装着し、身構える。
鋼の意思をもって、真摯に受け止めれば、邪な気分にはならないはずなのだ。
「あっ、マッサージも継続するねー♡」
ヴィブロスの手によって凝り固まった筋肉が解され、力が抜けていく。
それと同時に固めていたはずの意思に容易くヒビが入り、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。
それでも、心の中で歯を噛みしめて、堪えるのだった。
『トレっち、いっつも私にあっまあま♡ 私もいつでもべったべた♡ いつかは私とドッバドバ♡』 - 6二次元好きの匿名さん24/03/06(水) 23:37:35
「……トレっち、やっぱり疲れてない?」
「だっ、大丈夫だから……」
息絶え絶えになりながら、心配そう覗き込んでくるヴィブロスに答える。
肩はとても軽くなっているのだが、身体全体にはじっとりとした疲労感に溢れていた。
なんとか笑顔を浮かべて、それを誤魔化そうとしてみるが、聡い彼女にはあっさり見抜かれてしまう。
「ごめんなさい……私、上手く出来なかったみたいで」
「そんなことないよ、気持ちは、本当に嬉しかったから」
しゅんとするヴィブロスに対して、俺は彼女を見据えて、本心を伝える。
方向は少し迷走したかもしれないが、その気持ちは真っ直ぐに届いていたから。
落ち込んでいた彼女は俺の言葉を聞くと、ちらりとこちらを見やる。
「……うん、嫌って顔、してないもんね」
そして、小さく、微笑んでくれたのだった。 - 7二次元好きの匿名さん24/03/06(水) 23:37:50
「そうだー! トレっち、こっち来て来てー♡」
しばらくして、ヴィブロスは突然、耳と尻尾を立ち上がらせて、トレーナー室のソファーへと駆け出し、端っこに陣取って、俺を呼び寄せる。
何事かと思いながら、近づいていくと、彼女はぽんぽんと自身の隣を軽くたたいた。
「さあさあ~、トレっち、座って座って~♪」
とても楽しそうなヴィブロスに誘われるまま、俺は彼女の隣に腰かける。
すると、彼女は俺の服の肩の辺りを少しつまむと、悪戯っぽく笑った。
「えいっ♡」
「うわ……!」
そして、可愛らしい掛け声とは見合わぬ勢いで、思い切り服を引っ張られた。
油断しきっていた俺の身体はあっさりとバランスを崩されて、為す術もなく傾いていく。
衝撃に備えて、目をぎゅっと閉じると、後頭部がむっちりと柔らかい感触に包まれる。
恐る恐る目を開けると、そこには、普段とは違う母性を感じさせるような微笑を浮かべるヴィブロスの顔があった。
彼女に膝枕をされている────それに気付くまで、しばらくの時間を有した。
「お姉ちゃんがね、たまにこうして甘やかしてくれるんだ」
さらさらと、ヴィブロスの小さな手が優しく俺の頭を撫でつける。
特別な触れ方ではないはずなのに、妙に気持ちが良く、一つ二つと繰り返される都度、身体から力が抜けていった。
瞼が重くなり、頭がぼーっとしてきて、意識が暗闇に包まれていく。 - 8二次元好きの匿名さん24/03/06(水) 23:38:08
「……トレっちは、私にして欲しいこと、ある?」
どこからともなく聞こえてくる声、いつかどこかで聞かれた疑問。
まともな思考が出来ない俺は、その声に対して、正直な言葉を返してしまう。
────ドバイに、一緒に行きたい、と。
彼女の夢は、俺の夢。
だからこれは、紛れもなく、彼女にして欲しいことだった。
やがて、小さなため息が聞こえてきた。
「まったく、トレっちってば……サトノみたいに、自家用ジェットで連れて行ければ良いんだけど」
気配が、静かに近づく。
暖かい吐息が、ほんのりと甘い香りが、微かな汗の匂いが伝わってくる。
やがて、優しく小さな声が、耳の中に響き渡った。
「いつか必ず、私がトレーナーさんを連れていくからね?」 - 9二次元好きの匿名さん24/03/06(水) 23:38:57
お わ り
途中のテンションがおかしいなと思いました - 10二次元好きの匿名さん24/03/07(木) 01:21:40
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- 11二次元好きの匿名さん24/03/07(木) 02:52:23
おつです トレーナーをどうにかして癒したい!って色々頑張るヴィブロスいいですねぇ 膝枕されたいですわ
ヴィブロスも大きくなったらそのうち自家用ジェットとかでトレーナーをドバイ連行とかあるんですかね... - 12二次元好きの匿名さん24/03/07(木) 04:20:53
- 13124/03/07(木) 10:04:17
- 14二次元好きの匿名さん24/03/07(木) 10:16:05
- 15124/03/07(木) 11:18:09
怒りながら永久保存するよ