すみません、ここに来れば

  • 1二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 00:24:26

    「お待ちになって」
    「まだ何か────」

    不意打ちだった。たまたまトレーニングの時間が一緒になって、いつものように少しだけ張り合って、少しだけ火花の散るような言葉を交わして、それだけだ。
    いや、いつもより少し言葉に纏う火花が強かったような気もする。けれど、それだけのこと。たったそれだけの事のハズなのに、最早慣れ親しんだとも言えるいつも通りの私達のハズなのに、一体私の何が如何様にして彼女にそんな行動をさせたのか、見当もつかない。

    「貴方ともあろうウマ娘が、ふざけているのかしら?」

    だから、私を両の腕で絡め取って離そうとしない彼女に向かってそう訝しげに睨みつけたら、彼女は、あら、と一言。
    その瞬間、彼女の表情が不意に大きく歪んだ。いや、顔の表情は変わっていない。瞳の奥に渦巻く感情の奔流が嵐のように蠢きだしたのが分かった。

    「私がふざけていると、仰るの?」
    「そうでなければ、この状況はどういう」
    「ふざけてなど、いるものですか」

    私の言葉を遮る程の感情を乗せた言葉。あまりにも急激な豹変に、どう言葉を返せば良いのか迷う。いつもは妹達の事で一喜一憂する脳内の私達が、一様に警戒を促している。勿論、私はそれに従って未だ訝しげに彼女を睨んでいた。ここで対応を間違おうモノなら、何が起きるか分からない。そんな異常なまでの緊張感が私と目の前の"貴婦人"……であるハズのウマ娘を包み込んでいる。

    「ふざけてこんなことが出来るとお思いかしら? 出来ないわ、絶対に。ええ、そう。貴方に対してふざけるだなんて」

    いつもの余裕たっぷりな女王の面影が、消えている。一体、私の何が彼女の琴線を引き裂いたのだろうか。そんな仄かな困惑が私の表情に浮かび上がった時、彼女はまた五月雨のように言葉を紡ぎ出す。

    「ああ、貴方。違うわ、違う。その目ではないわ。その表情でもない。そんな感情ではないでしょう? 貴方が私に向けてくださるのは。さあ、もっと見せてくださらない? 貴女のその、敵意のような、殺意のような、決意を秘めた、美しい瞳を、想いを、激情を。さあ」

  • 2二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 00:26:32

    表情を歪ませ迫る彼女の気迫。これではまるで怨念だ。きっとこんな状態の彼女にレース場で出会ってしまったら、並のウマ娘では恐ろしくて一歩も動く事が出来なくなってしまうだろう。
    けれど、私は違う。彼女を超え、頂点を目指す私ならば、この程度の気迫に圧されはしない。
    でも、だからと言って、流石の私でも、今この状況を如何する可きか、答えは出ない。

    そう、答えは出ないはずだった。だと言うのに、私の表情はあまりにも、あまりにも自然に、レース場で、ターフのラストスパートで、最後の最後まで頂点を目指し手を伸ばす時と同じ、彼女への激情を込めた顔を向けて見せた。
    すると彼女は、一瞬感情の奔流を収めて破顔したかと思えば、私を両の腕で思い切り抱き寄せ、唇を一瞬で奪い去った。不意を打った先ほどよりも深く、深く。まるで自身を刻みつけるかのような口付けは、おおよそ"貴婦人"には似合わない乱暴なもの。いつしか唇を離して、それでも表情を変えなかった私を前に、彼女は本当に、本当に嬉しそうに微笑んだ。

    「愛しているわ、ヴィルシーナ。貴女を」

    彼女の瞳に映る"愛する私"というのは、レース場で彼女を見つめる私なのだろうか。貴方の背中を見続け、屈辱に塗れた私に対してこれほどまで乱暴な愛を向けるなど、一体何を考えているのか、今の私には全く理解できない。
    彼女には、頂点に相応しい強さがある。速さがある。品格がある。誇りがある。美しさがある。気品がある。厳格さがある。そう、それらを兼ね備えた彼女が、ずっと自身の後ろに居た私にこれほどまでに暴力的な愛を向けるなど────。

    だが、彼女について、そこまで理解していると言うのに、私が何故あまりにも自然に彼女の求めるままに激情を込めた表情を向け、何の抵抗も無く彼女の愛を受け入れたのか。
    それもまだ、今の私には分からなかった。

  • 3二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 00:26:53

    と言った感じでずっとレースで突き刺すような激情を自分にぶちかましてくるヴィルシーナにびっくりするくらい心の底から惚れこんでしまったので思わず行動にでちゃったジェンティルドンナとそんな彼女に困惑しながらも彼女を理解しているからこそそれを何故か自然に受け入れてしまって実は自分も彼女を愛している事にまだ気づいていないヴィルシーナ

    という大変複雑なジェンヴィルが見られると聞いてきたのですが

  • 4二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 00:27:36

    ああ、良いもの見させてもらったよ

  • 5二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 00:29:19

    もうほぼ書いとるやんけありがとう

  • 6二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 00:29:42

    >>3

    お前店開け

  • 7二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 00:30:38

    これはおかわりが欲しいのサインだよ

  • 8二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 00:33:11

    シェフを呼んでくれたまえ
    とても良い品だった…

  • 9二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 00:41:48

    今こんな感じ

  • 10二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 00:56:28

    付き合ってるのに二人で一緒に居ると周りの体感温度が5℃くらい下がりそうなジェンヴィル良き

  • 11二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 09:08:19

    自分に屈しないタイプの子が好みの貴婦人マジ貴婦人

  • 12二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 09:15:44

    良いものを見た
    誰か俺にもっとジェンヴィルを浴びさせてくれ

  • 13二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 09:33:04

  • 14二次元好きの匿名さん24/03/08(金) 18:17:55

    分かってないのに分かってる行動が出ちゃうの良いよね(語彙)

  • 15二次元好きの匿名さん24/03/09(土) 01:22:51

    すみません、ここに来れば

    「お隣、よろしいかしら」
    「……どうぞ」

    不意に頭上から降ってきた他を圧倒する威厳に満ちた、かつ実に嬉しそうな雰囲気を纏った言葉。私は声のする方に振り向くでもなく、目の前に並んだ彩り豊かで栄養満点のランチと向かい合ったままその声に応えた。

    彼女が現れれば、ここがトレセン学園の憩いの場である食堂であっても周囲のウマ娘に多少の緊張感が過ぎる。この学園に絶対強者たるウマ娘はそれなりに在籍しているが、その存在に纏わり付く緊張感は様々だ。
    とは言え、ターフで何度も刃を交えた相手の纏う緊張感というのは、イヤでも身体が覚えてしまうもの。それが敗れた相手ともなれば尚更だ。その上、彼女────ジェンティルドンナはこの昼時の喧噪にも関わらず私の姿を目ざとく見つけ、真っ直ぐ私の隣にやってくる。今更その声の主が誰なのかなど、最早確認するまでも無かった。

    「では、失礼?」

    ともすれば冷徹とも取られそうな私の態度に対し、威厳を保ちつつ嬉しそうに弾む声色を出せるのは彼女の才能なのだろうか。今日は随分と機嫌が良いらしい。とは言え、そんな日こそ油断は禁物だ。

    「……っ!?」

    掛けた椅子を不意にこちらへ寄せてきたと思えば、彼女の尻尾が私の尻尾を捉え、くるりくるりと絡め取る。腕力が強ければ尻尾の力も強いのか、そのままぐいと尻尾で私の身体を自身へ引き寄せてきた。
    尻尾ハグ。ウマ娘同士の特別な親愛表現であり、罷り間違ってもこのような場でする事ではない。
    全く以て油断も隙もありはしない。堪らず彼女を鋭く睨んでみたが、そんな私の視線を受け止めた彼女は大変満足げに微笑んでいた。

    「あら、どうかなさって?」
    「……公共の場では如何なものかと思いますわ」

    一応咎めてはみるが、それで私の意思が通るならそれはジェンティルドンナでは無い。笑顔の裏側、瞳の奥に滾る感情が、今にも吹き出しそうになっているのが手に取るように分かる。

    「────こうすれば、貴女は私の方を向いて下さるでしょう?」

    そこで彼女は言葉を止めるが、その先に隠した言葉はだいたい分かる。
    『貴女を私に振り向かせられるなら、場所の選択など取るに足らない事ではなくて?』
    おおよそ、こんな所だろう。

  • 16二次元好きの匿名さん24/03/09(土) 01:29:46

    「……どうぞ、お好きに」
    「ふふふ……ええ、勿論そのように」

    溜め息も交えて複雑な感情を込めた言葉にも、感情の奔流を口許から零して嬉しそうに笑う。随分と器用なもので、まるで手を握るかのように尻尾を動かし続け、手を繋ぐ恋人同士のように私の尻尾を絡め取りながら優しく撫でて来るのだから、始末に負えない。

    先日のトレーニングルームでの一件以来、彼女は私の意識を、視線を、兎にも角にも自身へ向けないと気が済まなくなりつつある、ように思う。併走トレーニングのスケジュールに彼女の名前がずらりと載るようにもなったのは、正直どうかと思う事もあるのだ。

    彼女と私の距離を推し量る事が出来るというメリットはあるものの、彼女の私に対するそんな我侭めいた感情に全身を滅多刺しにされ続けるのは堪える。死力を尽くしてハナ差で併走に勝利した時に至っては、息も絶え絶えの私に徐ろに近寄って来たと思えば唇を奪ってトドメを差してくるのだから手に負えない。
    ゴールドシップとオルフェーヴルの二人から真剣な表情で彼女との関係について心配されるウマ娘など、学園広しと言っても私くらいなモノだろう。

    詰まるところ、彼女の私に対する意識は理解しているので、私も積極的にアクションは起こさない。しっかりと絡み合ったままの私達の尻尾を食堂に集まったウマ娘達に晒す事になるが、致し方無い。まず間違い無くどんな状況に陥ろうが、彼女が互いのランチが終わるまで私を解放する気が無い事など、火を見るより明らかなのだから。

    「……貴女、口許にソースが付いていてよ?」
    「あら、それは失れ────」

    挙句、ヴィブロスのような手を使って不特定多数の集まる食堂であっても不意に口付けを交してくるのようになったのだから、同じ立場にならなくても私の苦労が分かるというものだろう。

    「ふふ、御馳走様」
    「……どういたしまして」

    相も変わらず威厳を失わず、相も変わらず嬉しそうに、怪訝な表情で睨む私を彼女の瞳は映していた。
    だが、彼女を仕方なく受け入れているハズだった私の頬が口付けの度にほんのりと熱を持つようになり、剰え唇を伝って胸の奥に暖かいモノが灯るようになりつつあるのか。
    それが何故なのか、私は未だ確信を持てずにいるのだった。

  • 17二次元好きの匿名さん24/03/09(土) 01:30:17

    と言った感じで愛を告白して唇を奪って以降滅茶苦茶好き好きアピールして来るようになったジェンティルドンナを、諦め込みでこの間からこの人は全く何を的な目線で受け入れているつもりだったハズが尻尾ハグや口付けの度に少しずつ気付いてなかった自身の感情を刺激させられていくヴィルシーナ

    という大変複雑なジェンヴィルが見られると聞いてきたのですが

  • 18二次元好きの匿名さん24/03/09(土) 01:31:05

    そこにあります!!!

  • 19二次元好きの匿名さん24/03/09(土) 01:36:30
  • 20二次元好きの匿名さん24/03/09(土) 04:21:05

    良質なジェンヴィルは健康に良い

  • 21二次元好きの匿名さん24/03/09(土) 05:25:50

    用法用量を守らない暴力的なジェンヴィルの過剰摂取は人を頃す

  • 22二次元好きの匿名さん24/03/09(土) 09:17:24

    キス魔ドンナか……

  • 23二次元好きの匿名さん24/03/09(土) 10:25:09

    これ以上何を求めようと言うのか

  • 24二次元好きの匿名さん24/03/09(土) 10:45:43

    ゴールドシップとオルフェーヴル目線の話も!!!ください!!!!!!!(強欲)

  • 25二次元好きの匿名さん24/03/09(土) 11:05:19

    自給自足しててすごくすごいです
    どうせ釣りだろと思って開いたのにおこぼれを貰ってしまって寧ろ申し訳ないと申しますか

  • 26二次元好きの匿名さん24/03/09(土) 16:18:04

    これはアレか、尻尾ハグ見せつける事で他のウマ娘にアピールしてる訳だ
    (やる命知らずが居るかはさておき)ヴィルシーナに誰も手出し出来ないように

  • 27二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 01:44:26

    ほしゅ

  • 28二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 01:52:21

    >>24

    すみません、ここに来れば


    「……」


    誰しもその日その時の調子や何かで機嫌不機嫌というモノがあるが、少なくとも今日この時のジェンティルドンナに関して言えば、恐ろしく不機嫌であると言って差し支え無いだろう。そして、彼女程の圧倒的な実力者が滲み出る負のオーラを纏っていたならば、周囲のウマ娘の反応も推して知るべしと言える。


    「ね、ねえトレーナー=サン……」

    「ウム。今日は屋内での筋力トレーニングにチェンジだ、モブガヤエキストラ=サン。身体が元気でも首を刎ねれば死ぬ、ミヤモト・マサシの残したコトワザである。今日は耐えるのだ」

    「アイエエェ……」


    君子危うきに近寄らずとはこの事である。この時期のターフグラウンドは予約の倍率も高いというのに、これでは流石に可哀想と言うものだ。

    回れ右でグラウンドから帰って行ったウマ娘とトレーナーを遠目に見送りながら、急遽本日の併走相手に抜擢されたウマ娘が溜め息交じりに口を開いた。


    「ドンナちゃんさぁ、そろそろ機嫌直してくれても良いんじゃねーの?」

    「あら、ゴールドシップ。この私が、併走相手がトレーニング直前に突然変わった、その程度の事で機嫌を損ねているように見えて?」

    「いやどう見たって不機嫌じゃねーかよ」


    ゴールドシップに対し、彼女は微笑みながら応えてはいたが、突き刺すような鋭い瞳と共にナイフのような切れ味を纏った言葉を向けられては流石のゴールドシップも何と対応したものかと考えあぐねているようだった。

    とは言え、ジェンティルドンナの不機嫌の原因はハッキリしているので、解決しようと思えば出来なくもなかった……の、だが。


    「さあ、こうして話しているだけではトレーニングの時間を無駄にしてしまうわ。始めましょう、ゴールドシップ」

    「へいへい……」


    結局、ジェンティルドンナに促され、ゴールドシップは肩を落としつつまずはウォームアップに取り組むのだった。


    そも、事の起こりはと言うと、連絡の行き違いである。本来なら、ジェンティルドンナの併走トレーニング相手は今日もヴィルシーナであるハズだった。

    だが、ヴィルシーナは本日休養、授業が終わってからシュヴァルグランとヴィブロスを伴って街へ繰り出して行った。ここまではよくある事だし、ジェンティルドンナもヴィルシーナの姉妹仲については承知している。

  • 29二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 01:55:10

    ただ、この件が事前にジェンティルドンナに伝わっていなかったのが悪かった。ジェンティルドンナからすれば、ターフコースで自身を待っているハズのヴィルシーナが居らず、その場で初めてヴィルシーナの本日不在を聞かされた形になったのである。これが、彼女の逆鱗に触れてしまった。

    たかだかライバルとの行き違いくらいで……と思う事かもしれないが、今のジェンティルドンナとヴィルシーナの関係を知っていれば、そんな事は口が裂けても言えないのは、ゴールドシップでも知っている。

    「さて、想定は阪神レース場、芝2200m右回り。よろしくて?」
    「ん?……おう。いつでも行けるぜ」
    「……グランプリの栄誉、いつまでも貴女に独り占めさせる訳にはいきませんものね?」
    「ほっほぉ、言ったな? そういう事なら、受けてやるよ」

    不敵な笑みを向けるジェンティルドンナに対し、ゴールドシップも挑戦的な笑みを返す。どうやら併走トレーニングに集中する事で、彼女も多少は機嫌が上向いたようだ。それを察したゴールドシップは、内心安堵の溜め息。

    実はな、ココだけの話ゴルシちゃんさ、前同じような事があった時に『そんなに会いたきゃ今からヴィルシーナ一本釣りしてきてやろうか? ゴルシ様にかかればあの三姉妹を見つけ出すのはアサリの真珠を見つけるより簡単ってモンよ!』と大手を振った事があったんだよ。そん時のドンナの笑顔と来たら、これが激マブ用語で言う所の100万ドルの笑顔ってヤツかぁ、って思わず感動したっけ。
    ま、同時に『あ、ゴルシちゃん死んだわ』とも思ったんだけどな。
    ホラ、『ウマ娘ちゃんとウマ娘ちゃんの間に挟まる輩は問答無用でキリステ・ゴーメン』ってデジタルのヤツがよく言ってるだろ? 多分その手の地雷原でマイケル・フラットレーしちゃったんだなって。ゴルシちゃん反省♪

    とは言え、あんな恐ろしい目に遭うのは二度と御免被るので、一先ずゴールドシップはジェンティルドンナの挑発に乗り、芝2200mを揃って全力で掛けていくのだった。

    その後、連絡の行き違いを知ったヴィルシーナがお出かけから帰った後態々ジェンティルドンナに愛に……じゃなくて会いに来たらしく、ジェンティルドンナはすっかりご機嫌な様子だった、とゴールドシップは自身のトレーナーにぽつりとこぼしたと言う。

  • 30二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 01:55:44

    と言った感じで併走トレーニングの相手が事前連絡無しで急にヴィルシーナから別の子に変わった時だけ恐ろしく不機嫌になるジェンティルドンナと、そのせいで死ぬ思いをした事があるので迂闊な事はせず真面目に対応するゴールドシップ

    という割と愉快なジェン(ヴィル)+ゴルシが見られると聞いてきたのですが

  • 31二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 02:14:09

    アッアッ゛アッアア゛!!!!!!!!!!!💥💥💥💥💥(最高です!!めちゃくちゃ好きです!!!!!)

  • 32二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 02:16:46

    このレスは削除されています

  • 33二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 03:18:25

    これは良質なジェンヴィルスレ
    ゴルシちゃんもカップルに巻き込まれてかわいそかわいい

  • 34二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 08:39:38

    相手と状況を見極めておふざけを封印できるゴルシちゃん好き

  • 35二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 09:17:28

    片方出てこないのにしっかりジェンヴィルしてて良い…
    ゴルシちゃんは強く生きて

  • 36Wikipediaより24/03/10(日) 09:25:43

    >>29

    ※マイケル・フラットレー(Michael Ryan Flatley、1958年7月16日 - )

    アメリカ合衆国のアイリッシュダンスのダンサー、振付師。アイリッシュ・ダンスやアイルランド音楽を中心とした舞台作品『リバーダンス』の振付師、初代リードダンサーとして有名。

    1秒間に35回タップをする事ができ、世界一早くタップを鳴らせる人物としてギネスにも記載された。[1]

    彼の両足には2500万ポンド(日本円にして約32億5000万円)の保険がかけられていた。[2]


    参考動画(本人の出番は2:40頃~)

  • 37二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 12:57:18

    ジェン→→→→→→←←ヴィル
    このくらいのバランスのジェンヴィルからしか得られない栄養素がある

  • 38二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 13:43:46

    (姉さんの方の自覚が薄いタイプのヴィルジェンか……)
    (こういうのも良いな……」

  • 39二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 15:02:27

    ジェンヴィルはいずれ万能薬になる

  • 40二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 23:44:12

    >>38

    妹め 来やがったな!! ガラガラッ

    解像度の高いジェンヴィルを出しやがって!!

  • 41二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 23:45:13

    これアレだろ
    ヴィルシーナの方は無自覚らしいし周囲の殆ども「ドンナが一方的にヴィルを好きまくってんなぁ」って認識だけど、弟妹だけは「えっ、お姉ちゃんもしかして……!?」って勘付いてる奴だろ

  • 42二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 23:53:44

    ここまで読んだ感じジェンティルの言ってることジェンティルフィルター外したらだいたい「愛しのヴィルシーナちゃん大好きちゅっちゅ♥♥」なんだけど

  • 43二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 03:17:04

    すみません、ここに来れば

    草木も眠る丑三つ時……にはまだ随分早いが、それでも中央トレセン学園のウマ娘にとってはそれなりに遅い時間、まだ灯りの付いているトレーナー室からウマ娘が一人現れた。"貴婦人"の異名の通り、その所作も優雅なものであった。

    「いやあ、こんな時間になって申し訳無かったね。けれど助かったよ、これからの方針が定まったわ」
    「結構よ、私にとっても有意義なミーティングでしたもの」

    それなら良かった、とニコニコ笑うのは、"貴婦人"ことジェンティルドンナのトレーナーだ。年だけ見ればまだ若輩の女性だが、ジェンティルドンナにトレーナーとして信頼され、その彼女が類い希無き結果を残しているのだから、その才覚は推して知るべしである。

    「それじゃあ、気を付けてね。また明日」
    「貴女こそ、いい加減帰って休みなさい」

    お互いに労いの言葉を送り合って、ジェンティルドンナはトレーナー室を後にした。
    流石にこの時間ともなると、生徒の姿は校舎内に見えない。とは言え、すぐに寮に戻れば入浴と夕食には十分間に合うだろう。

    「……流石にもう済ませている頃かしら」

    ぽつりと呟いたジェンティルドンナの脳裏に浮かんだのは、自身の王冠に最も肉薄した愛おしいライバルの姿。
    ただ只管に勝利を手にせんとする気概、例え泥に塗れようと決して屈さず立ち上がる鋼の精神、ともすれば怨嗟か修羅かと見紛う程の気迫。どの一瞬を切り取っても狂おしい程の愛しさが溢れ出す。
    そも、トレーナーとのミーティングが遅くなったのも、彼女とのトレーニング日程を詰めようとしたのがそもそもの切掛であった。時折怪訝な表情を向けられたとしても、今は彼女と一緒に居るのが何よりも嬉しく感じる。

    例えばもし、私達がトゥインクル・シリーズの頂点を決する舞台で、もう一度長い長い写真判定に持ち込まれるようなレースをしたら。途方も無い緊張感の中で、私達はどんな表情で見つめ合うのかしら。

    そんな事を考えながら、ジェンティルドンナは彼女と共にターフを駆けたその瞬間に想いを馳せるのだ。

  • 44二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 03:20:00

    「……?」

    彼女の事を考えるのに夢中になっていた所為か、それともたまたま遅くなっていたのか、ジェンティルドンナの視線の先に、その愛おしいライバルこと、ヴィルシーナの姿があった。

    とっくに寮に戻ったものだと思っていたけれど。

    不思議に思いながら声を掛けようとすると、ヴィルシーナは徐ろに振り向き、自身の名を呼んだ。

    ジェンティルドンナ

    それはまるで、恋人を見つけた少女のようだった。呆気に取られるジェンティルドンナを他所に、ヴィルシーナは続ける。

    愛しているわ

    脳内に直接響くような、愛の告白。思考が蕩けるような感覚がジェンティルドンナを包み込む。ヴィルシーナはいつの間にかジェンティルドンナの目の前に立っていた。

    さあ、私の手を取って

    ヴィルシーナの真っ白な手が、ジェンティルドンナに伸びる。その手がジェンティルドンナの首筋を捉えようとした、刹那。

  • 45二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 03:20:39

    「────巫山戯ないで頂けるかしら?」

    周囲を揺らす程の殺気と怒気が周囲を包む。その衝撃は学園の木々を寝床にしていた小動物を一匹残らず叩き起こし、剰えその場からの逃走を選ばせた。
    ジェンティルドンナの目の前に立っていたヴィルシーナの表情が苦悶に歪む。

    どうしてどうしてこんなのどうしておかしいどうしてなんできかないなんでどうしてつうじないどうしておかしいなんでどうして

    真っ白な手で頭を抱え、蹲るヴィルシーナに、月明かりを背にしたジェンティルドンナが迫る。紅の瞳に宿った全身を突き刺すかの如く敵意を前に、ヴィルシーナが怯えたような悲鳴を上げた。
    ジェンティルドンナの耳はその悲鳴を捉えると同時に、ギリ、と後ろに絞られる。

    「決して私に媚びることは無い。決して私に甘えることは無い。決して私に屈することは無い。決して私に怯えることは無い。決して私に背を向けることは無い。決して私に恐怖することは無い」

    一つ、一つ。言葉にすると同時に、ジェンティルドンナは怒りのまま握り締めた拳をゆっくりと構える。

    「それが、私が愛するヴィルシーナというウマ娘よ」

    圧倒的な精神力を纏った生者に相対したこの世ならざる者は、最早仮初めの姿を維持する事もままならない。
    崩れかけた相貌が最後に目にしたのは、眼前に迫る"貴婦人"の全身全霊を込めた拳であった。

  • 46二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 03:22:28

    「……結論から申し上げますと、この木簡に書かれていたのは祝詞の類いだと思われます」
    「祝詞……?」

    不思議そうな声を上げるジェンティルドンナのトレーナーとマンハッタンカフェとを隔てる机の上には、二人分のコーヒーカップと、真っ二つにへし折れた古い木簡が鎮座していた。
    ジェンティルドンナの拳を受けたヴィルシーナ……の姿をした何かが消し飛んだ後、この木簡が残されていたのだと言う。トレーナーはその話を聞き、この手の話題に明るいと名高いマンハッタンカフェの元を訪れていたのである。

    「……神社におけるお祭りの際、神職の方が神様へ向けて奏上する神聖な言葉です」
    「ああ、なるほど……でも、それがまたどうして、怨霊のような事をしだしたのかしら?」

    疑問の声を上げるトレーナーに対し、カフェは湯気を燻らせながらコーヒーカップを一口含み、再びトレーナーに向き合った。

    「この国には、所謂『言霊』に対する信仰が各地に見られます。言葉には霊力が宿り、口に出されて述べることにより、この霊力が発揮されるという考えです。その為、祝詞のような神聖さを伴う祝福の言葉は婚儀や祝儀に用いられるものです。恐らく、ジェンティルドンナさんが聞いた言葉というのが、その祝詞だったのでしょう。ですが、祝詞……言霊を含めた言葉は一歩間違えると、呪詛に変わります。本来は愛し合う二人を祝福する祝詞が書かれるハズが、あるいはほんの小さな手違いで……」
    「……悪縁を結び、触れると命を奪う呪いに変わった、って事かしら……何でまたこんなモノがトレセン学園に……」
    「それについては、何とも言えません……元々ここにあったのか、それとも紛れ込んだのか……」

    冷静に語るカフェに対し、やや気が気でないのがトレーナーである。コーヒーを一気に飲み干し、ふう、と大きな溜め息を一つ。

    「けれど、この木簡はもう大丈夫なんだよね?」
    「ええ……何と申しますか、完全に悪意の類いが消し飛んでいると言うか……」
    「……文字通り、呪いを粉砕してくれた訳ね」
    「はい……流石は、ジェンティルドンナさんです」

    そう言って微笑んだカフェに、トレーナーは困ったような笑顔で応えるのだった。
    その後、木簡は念の為神社でお祓いを受けた上で処分され、その後トレセン学園でそのような噂を聞くことは無くなったと言う事である。

  • 47二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 03:26:28

    さて、トレセン学園に現れた呪詛を消し飛ばしたジェンティルドンナはと言うと。

    「……今日は一体、どういう風の吹き回しかしら」
    「さあ……どうかしら。けれど、そうね。時には思考を閉じて心を研ぎ澄ます、そんな時間も必要ではなくて?」
    「そこに私の都合を少しでも考慮して頂けると助かるのだけれど?」

    ヴィルシーナに寄り添い、まるで彼女の存在をしっかりと確認するかのように両の手で身体を抱き寄せ尻尾も絡ませながらトレーニング前の一時を過ごしていた。
    昨夜の事情を知らないヴィルシーナは、いつもと随分違う彼女の様子に困惑の表情で応える他無かったと言う。


    と言った感じで『愛する人の姿に化けて生きてる人やウマ娘を仕留めに掛かる怪異』がよりによってヴィルシーナに化けて現れたので看破しつつマジギレしてワンパンでぶちのめしたけど、それはそれとして本物のヴィルシーナには何事も無かったので心底安心しているジェンティルドンナ

    というジェンヴィルが見られると聞いてきたのですが

  • 48二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 07:09:46

    ヴィルシーナ過激派ジェンティルドンナ好き 本物には何事も無くて安心してるところも好き

  • 49二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 07:51:43

    握力も拳で吹っ飛ばすなんてこれも愛の力やね

  • 50二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 12:15:51

    >「……流石にもう済ませている頃かしら」

    >今は彼女と一緒に居るのが何よりも嬉しく感じる

    この貴婦人、恐らく済ませてなかったら全力で一緒に風呂入って一緒に晩御飯食べる気満々なのである

  • 51二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 21:03:26

    好きーー!!!(画像略)

  • 52二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 21:06:22

    ヴィルシーナも早く自分の気持ち自覚して付き合っちゃえよという思いと今の無自覚な時期が一番美味しいという気持ちがせめぎ合っている

  • 53二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 21:26:58

    でもこのジェンティルドンナ、付き合い始めてヴィルシーナが自分に甘えたりとかしてきたら解釈違いですれ違い起こしそうじゃない……?

  • 54二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 00:54:17

    >>53

    自分の物にした後だからセーフなんじゃね

  • 55二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 01:12:15

    >>54

    納得

  • 56二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 02:16:57

    すみません、ここに来れば

    全宇宙アバウト三兆人のウマ娘ファンの皆様、ご機嫌如何でしょうか。いつも心にウマ娘ちゃんへの愛を込めて、アグネスデジタルでございます。
    突然ですが、不肖アグネスデジタル、只今尊死しております。毎度の事じゃないかって? いやあ、手厳しいお言葉、痛み入ります。既に恒例の事と認識頂き誠に恐縮でございますが、ウマ娘ちゃんの尊さにキャパオーバーしてばかりという事もあり、まだまだ修行が足りないと実感する今日この頃でございます。

    さて、今回如何にして不肖アグネスデジタルがこうして大樹のウロに身体を任せYOU DEADする運びとなったのかと申しますと、それはほんの数分前に遡ります。

    今日も今日とてこの世のウマ娘ちゃんの尊さに感謝しつつ、中庭を歩いていた時の事。私の瞳に二人のウマ娘ちゃんが映りました。ジェンティルドンナさんとヴィルシーナさんです。
    お二人はティアラ路線の頂点を争い鎬を削り合った仲、普段から色んな意味で火花を散らすライバル同士。様子から察するにヴィルシーナさんがジェンティルドンナさんに呼び出されたのでしょうか。この時点で私のテンションがゴウランガしたのは言うまでもございません。

    そんなお二人が目の前に居たら、もしやレース場でのような火花を散らす所を生で見られるのでは、と一瞬思うのが彼女達のファンの常でしょうが、その割にはギャラリーが全く居ないではありませんか。常日頃から行動を共にしていらっしゃるヴィルシーナさんの妹さん方も見当たりません。
    はてさてこれは如何なる事か。興奮を疑問が上回ったあたしは即座にタキオンさんに助力頂き身に付けたステルス・ジツを繰り出し、大樹のウロに隠れる形で様子を伺う事に致しました。

    するとどうでしょう。不意にジェンティルドンナさんがヴィルシーナさんを抱き寄せてその唇を奪ったではありませんか。しかもその際、自身の尻尾をヴィルシーナさんのスカートから覗く美しい御御足にそっと絡めるという破壊力満点の追加効果付。

  • 57二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 02:21:08

    この時点で致命傷ではないのかって? ご安心下さい、不肖デジたん、とくせいはがんじょうではございませんが、きあいのタスキは心に常備しておりますので。
    残りHPが1となりながらも、あたしはウマ娘ちゃんへの愛情という名の精神力でギリギリ意識を保っておりました。すると、ヴィルシーナさんの悩ましげな溜め息が最初にデジタンの耳に龍星群(ドラゴンダイブ)してきました。

    「満足なさったなら、私はもう戻りますわ」
    「それは確認かしら? でしたら、私はまだこの手を離さないわよ」
    「この為に呼び出したのなら、もう十分でしょう?」
    「あら『他のウマ娘の目がある場では如何なものか』と仰ったのは貴女ではなくて? 今この場にそんな不自由があると仰るの?」
    「……それでも、学園内であることには変わらないわ。何処に目があるとも知れないでしょうに」
    「貴女にはそうかもしれないわね? けれど、何処で、誰の目が、いくらあろうとも、私は貴女を迷わず手繰り寄せるわ。そうでしょう?」

    覇王色の覇気をバリバリに纏いながらも愛おしげかつ嬉しそうな笑みを浮かべるジェンティルドンナさんに対し、やれやれ、と呆れるような表情を浮かべつつジェンティルドンナさんの腕の中に収まり続けるヴィルシーナさん。

    さて、上記の会話も併せてウマ娘ちゃんオタク論理的に考えると、このようになるのではないでしょうか。
    『実はターフ上でのライバルという関係を越え、二人は人目を憚る選択肢が提示される程度には特別な関係である。しかも、感情の温度は普段火花を放つ側のヴィルシーナさんではなく、ジェンティルドンナさんの方が圧倒的に高い。そしてそれを受け止めるヴィルシーナさんも困り気味ではあるものの決して悪感情は抱いていない、あるいは可能性として、まだご自身の感情に気付いておられない』
    以上のようにデジたんは考察した訳です。

    そこまで答えが出たなら後は皆様、お分かりですね? ウマ娘ちゃんの尊さに対しては紙耐久のデジたん、心のタスキを失ったらもうできることはただ一つ。この尊さに感謝しつつ空になったHPゲージと共に意識を手放す事のみ。
    さて、そろそろ皆様、暇乞い。お相手は、アグネスデジタルでした。

  • 58二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 02:23:48

    ……ほのかな光、意識が戻ります。薄らと目を開けてみれば、見慣れた保健室の天井。どうやら、今回もリスポーンに成功したようです。ウマ娘ちゃんの尊さを愛する機会を再び得られた事、天に感謝致します。
    しかし、それは不肖デジタルをどなたかが保健室まで運んで下さったという事。無論、一刻も早く運んで下さったどなたかに感謝を述べなくてはなりません。その為にもまずはHPの回復を────。

    「あら、目が覚めたのね?」

    声のした方へ目線を動かします……ジェンティルドンナさん?

    「ああ、気が付いて良かった……貴方、大樹のウロで意識を失って倒れていたのよ」

    ヴィルシーナさん?

    「先生を呼んでくるわ、貴方は横になっていて。ね?」

    優しく微笑みながらそう言うと、ヴィルシーナさんはパタパタと保健室を出て行かれました。この状況、つまり今回の第一発見者兼、不肖デジタルを保健室まで運んで下さったのは。

    「ねえ、貴方?」

    傍らでデジたんを見下ろすジェンティルドンナさんの深紅の瞳が光ります。正直申し上げます、ちょっとだけマジな方の死を覚悟しました。
    ですが、ジェンティルドンナさんは、ゆっくりと左手の人差し指をデジたんに見せるように持ち上げます。そして、それをご自身の唇にそっとあてがうと、薄らと覇王色の覇気を纏いながら微笑みを浮かべたのでございます。

    この瞬間、デジたんは全てを理解しました。モチのロンでございます。如何に自身が愛情表現に場所を選ばない程に相手を想っていようとも、相手がそれを望まぬならば唯の迷惑。
    イエスウマ娘ちゃんノータッチ、推しの脚を引っ張るべからず、推しの顔に泥を塗るべからず、推し活に推しを忘れる事勿れ。
    愛を持たぬは笑止千万、諸行に迷わばオタクに非ず! 聞けい!! 衰者必盛、命の鐘の響きあり!!

    あたしは最後に残っていた力を振り絞ってジェンティルドンナさんにサムズアップと渾身の笑顔で応えると、こんなにも尊み溢れる世界に感謝しながら再び意識を手放したのでございました。

  • 59二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 02:24:55

    といった感じで、これで満足かと確認されたら迷わず足りないに決まってるでしょうとは言うもののヴィルシーナが人前だと困ると言うならちゃんとそのように取り計らうジェンティルドンナと、まだ自覚が薄めなので愛情の矢印には困惑寄りではあるけれどそういう気遣いはきちんとしてくれる所に好感を持ってはいるヴィルシーナ

    というジェンヴィル(とそれを見て死んだおデジ)が見られると聞いてきたのですが

  • 60二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 02:28:53

    流石のデジたんの理解力
    そしてデジたん…無茶しやがって…そこにありますね…

  • 61二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 02:41:37

    またデジタル殿が以下略
    そして甘酢っぺぇですわ!もっとジェンヴィルくださいまし!

  • 62二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 07:55:31

    朝から尊いものを見た

  • 63二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 12:28:20

    ちょこちょこ独白にゲームや漫画のネタが入ってくるのおデジ感あって好き
    おデジに優しいシーナと全部気付いてて内緒モーション取ってくるドンナも好き

  • 64二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 19:04:21

    これ妹二人はどんな気持ちで姉を見てるんだろうか

  • 65二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 19:28:18

    妹たちは後方で気ぶってるんでしょ(適当)
    ただ初期はジェンティルへの警戒度まあまあ高そう

  • 66二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 01:40:33

    >>63

    さりげなく地球が静止する日ネタまで入ってくるの守備範囲の広さを感じる

  • 67二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 01:43:48

    無駄に熱い散り際で笑ってしまった
    一度はよく耐えたな…

  • 68二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 03:14:14

    >>64

    互いが反応違いそうだな

  • 69二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 10:33:48

    もっとジェンヴィルください!!!!!!!!!

  • 70二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 10:39:17

    >>63

    また別のタイミングでその場に出くわして慌てて息を潜めたけど自分の方に向いてたヴィルシーナと目が合っちゃって今度はヴィルシーナから困ったような笑顔込みの内緒モーション貰ったのでタスキで耐えてサムズアップで返しつつその場を音も無く離れ大樹のウロの傍らに来たところでスリップダメージでYOUDEADするデジたん可愛い

  • 71二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 18:40:05

    どれも良すぎてスタンディングオベーションしてる

  • 72二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 01:28:25

    俺が求めていたものがここにあった……

  • 73二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 02:47:38

    すみません、ここに来れば

    「貴女、ここに横になりなさいな」

    突然そんな事を言われたら、誰だって面食らうだろう。しかも、指定された"ここ"というのが、どう見ても彼女の膝の上を指しているのだから、尚更だ。
    しかし、慣れというのは本当に恐ろしいもので、こうして彼女に定期的に呼び出されるようになり、その都度彼女のやりたがるアレやコレを受け止め続けていると、不意打ちを受けても訝しげに睨んで溜め息を付くくらいで済むようになるのだ。
    無論、彼女が懐から取り出したモノから、何をしたいかを察した上で、だが。

    「……今度はどんな風の吹き回しですこと?」
    「あら、いつもと同じでしてよ? 態々言葉にして伝えられないと安心できない、なんて仰る貴女では無いでしょう?」

    そして、私が彼女を訝しげに睨んだところで、それは却って彼女の感情を煽るだけだった。言葉に、表情にも如実にそれが表われる。
    苦手意識があるなら避ければ良いのでは、と至極当然の意見を頂く事になるかもしれないが、もし私が彼女の呼び出しを袖に振ろうものなら、余計に彼女の感情を煽り、常識の琴線を引きちぎる事になるのだから質が悪い。
    気高く、力強く、誇り高い女王の表情に、私への感情を過分に込めた笑顔が混じり、それはそれは凄まじい威圧感を醸し出す。こうなってはもうタダでは済まない。

    『さあ、かかっていらして? 何度でも、何度でもお相手致しますわ』
    『貴女、そうじゃないでしょう? もっと魅せて下さらない?』
    『ふふ、ふふふ……!! そう、そうよ!! 貴女はそうでなくては!!』

    併走すれば、私への激情を隠す素振りも見せず全力でターフを蹴り、それに乗った私がターフに膝を突くまで走り続ける。

    『っ! 貴女、何を……!?』
    『最後の走り、悪くなかったわ。けれど、あれで満足する貴女ではないでしょう? 私を下したいのならば、尚のこと』
    『……それを言う為だけなら、態々拘束する必要なんて────』
    『────愛しているわ、ヴィルシーナ。私にもっと焦がれていらして?』

    それでようやく気が済んだのかと思えば、ロッカールームで着替えようとした私を突然抱きすくめ、煽った挙句唇を奪い去る。
    詰まる所、態々悪手を打って状況を悪化するよりは、受け入れる方が安全なのである。

  • 74二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 02:54:58

    「時間が勿体ないわ。さあ」

    私はもう一度溜め息を零しつつ、言われるがまま彼女の膝の上に自身を横たえたのであった。

    「貴女のことだから、手入れは行き届いているのでしょうけど」

    そう前置きしつつ、彼女は手にしたブラシで私の耳を優しく撫で始めた。
    そも、ウマ娘にとって、耳は非常にデリケートな部位だ。レースにおいては、蹄鉄の音や地面の振動を捉えて展開や状況の変化を瞬時に理解し、次の自身の動きを決める。尻尾と同様、手入れを疎かにすると日常生活だけでなく、レース中にも影響が出てしまうのだ。
    なので、こうしてブラシ等を使用してお手入れをする必要があるのだが、デリケートな部位であるため、力加減の都合もあって基本的に自分で手入れする事が多い。私の場合、ヴィブロスやシュヴァルにしてあげる事があるが、それも経験の賜物あってこそである。
    ……要は、力に関しては規格外な彼女に耳の手入れを任せるというのは不安だった、のだが。

    「いかがかしら?」
    「……正直に言って、驚いたわ。慣れていらっしゃるのね」

    力は強すぎず、弱すぎず。耳の先端から付け根に至るまで、絶妙な力加減でブラシを滑らせる彼女の手捌きに、私は思わず感心してしまっていた。トレーニングの時のパワフル(過ぎるきらいのある)イメージが脳裏に焼き付いてしまっていたせいだろうか。
    そんな私の心の内を読んだかのように、彼女は嬉しそうに笑みを浮かべた。

    「まさか、トレーニングの時のように力任せには致しませんわ。それに、この学園にはこうした技術に明るい方も多く在籍していらっしゃるでしょう。レースに限らず、吸収できる事は多くてよ」

    なるほど確かに、と頷く。しかし同時に、疑問も浮かんだ。

    「……まさかとは思うけれど、私の為に態々耳のお手入れについて学んだと?」

    まさか、彼女に限って。ジェンティルドンナに限ってありえないと思いはしたが、それでも今の状況はそれを指し示している。
    彼女の言う通り、この学園にはウマ娘のサポートを専門に学ぶ科もあるが、自身のケアの為ならまだしも、私のためにそうする意味などないハズだ。
    訝しげに睨む私に、彼女は嬉しそうな笑みを浮かべたまま、けれど女王たる者の品格をも纏って私に向き合った。

    「貴女が私に向ける走りがより鋭く洗練されるのならば、私はどんな事も承りましてよ」

  • 75二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 03:06:33

    その瞬間、私の中に閃光が奔る。やはり、彼女は────ジェンティルドンナは、そういうウマ娘だ。
    自身を打ち倒すべく突き刺すような激情を向ける私を、常にその背中を見続けて尚挑み続ける私を、こうする事で焚き付けようと言うのだ。自身の相手に相応しいウマ娘として。ならば、私がやるべき事は一つだ。

    「そういう事でしたら、私も貴女の耳や尻尾のケアを承りますわ。ああ、ご心配無く、妹達が小さい頃からこなしていましたもの、腕には自信がありますの……こうすることで"より鋭く洗練された"貴女の方が、倒し甲斐がありますものね?」

    私が返すと、彼女は尚も嬉しそうに笑った。ここまでは思った通りなのかもしれないが、この先はそうはいかない。

    「なら、今からでもよろしくて? ああ、トレーニングには間に合わせたいのだけれど」
    「ええ、どうぞご遠慮なく」

    彼女の言葉に即答すると、私は自身の太腿に彼女の頭を迎え入れ、嬉しそうに微笑む彼女に徹底的にヴィルシーナ姉妹流の耳と尻尾のお手入れを叩き込んだ。
    そんな事もあって、この日のトレーニングは私も彼女も終始絶好調で進み、次走を想定した走りではお互いに自己ベストを更新する運びとなり、この日以来、彼女が私を呼び出してする事に耳と尻尾のお手入れが追加される事になったのである。

    ……実の所、この話の件は、ジェンティルドンナがただ単純に私と耳や尻尾のお手入れをし合いたかったというだけなのだが、私がそれを知るのは随分と後になってからの事である。

  • 76二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 03:10:11

    と言った感じで、ヴィルシーナとの触れ合いをより深める為に耳のお手入れをする事を考え剰え自分の耳や尻尾のお手入れもヴィルシーナにしてほしいと考えたけど、その出力の仕方が対ヴィルシーナ用ジェンティルドンナなので、ヴィルシーナからしたら態々発破を掛けてきたか煽ってきたかみたいに聞こえてしまったけれど、結果的に思った通りになりヴィルシーナとの触れ合いが深まったので大満足のジェンティルドンナ

    というもうお前等ただイチャついてるだけじゃねーかとゴルシちゃんが突っ込み入れてきそうなジェンヴィルが見られると聞いてきたのですが

  • 77二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 08:01:48

    そこにありますね定期
    出力にフィルターかけるせいでヴィルシーナの自覚から遠のくのちょっと草

  • 78二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 08:03:11

    生き返るわ…

  • 79二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 08:38:55

    良いジェンヴィルは精神と身体を健康にする

  • 80二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 10:55:57

    この貴婦人、単純にヴィルシーナが大好きだがそれ以上に自分にバッチバチで向かって来るヴィルシーナが大好きなので、ヴィルシーナがどう対応しようと結果は変わらないのである

  • 81二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 12:53:59

    ジェンヴィルの可能性はまだまだ広がるから怖い

  • 82二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 13:51:09

    早く2人とも実装されないかな

  • 83二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 16:40:34

    この二人の前で「はよ付き合え!!!!」って叫ぶモブになりてえ~~~~~

  • 84二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 19:19:30

    まだ実装されてないから、これからもさらに増え続けるってマジ

  • 85二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 21:20:57

    むしろ実装前だからこそ存在する余地がある気もする

  • 86二次元好きの匿名さん24/03/15(金) 00:26:01

    いざ実装されて秋華賞写真判定で待ってる間貴婦人がご満悦だったら俺は死ぬだろう

  • 87二次元好きの匿名さん24/03/15(金) 01:17:14

    すみません、ここに来れば

    昼の会議に間に合わなかった資料をヴィルシーナのトレーナーに渡して来て欲しい、そう自身のトレーナーに頼まれ、部屋をノックして声を掛けるも返事は無い。
    タイミングが悪いことで。けれど、それならメモでも添えて机に置いておけば問題ないでしょう。
    そう思って扉を開けてみたら、誰も居ないと思っていた部屋には当の担当ウマ娘がただ一人、ソファに横たわっていた。

    「……珍しいわね」

    まあ、彼女も仮眠を取る事くらいあるだろう。最初に抱いたのはそんな感想。

    「それにしても、無防備すぎるわ」

    次に彼女の口をついて出たのはそんな感想だった。無論。彼女が全幅の信頼を置くトレーナーが、彼女に対して狼藉を働くなど露程にも思っていない。
    それでも、今この部屋に居るのは無防備に眠るヴィルシーナと、そのヴィルシーナに愛していると言って憚らないジェンティルドンナなのだ。

    「もし私が良からぬ事を考えていたら、貴女、どうするおつもり?」

    普段彼女と交わすように言葉を投げかけてみるも、彼女は変わらず寝息を立てていた。
    ジェンティルドンナの声を捉えると瞬時にそちらを向く彼女の耳も、ゆったりと横に向いている。どうやら、相当に疲れが溜まっているらしい。

    「……」

    早朝のトレーニング、それが終わればすぐに授業、休み時間には愛すべき妹達の面倒を見て、午後からはまた授業、時にはこの合間にダンスレッスンが挟まる。それが終わって間もなく、午後のトレーニングの開始時間。これを毎日続けるのだから、蓄積していた疲れが不意に身体を休ませようとする事だってある。
    勿論、それはジェンティルドンナとて例外では無い。体力や調子のコントロールはトレーナーと相談しながら行っているが、それでも眠気が来るようなら彼女も素直に休むようにしていた。きっと、今のヴィルシーナもそうなのだろう。

    「……仕方ないわね」

    雪解けを迎え、春の気配がそこまで迫る昼下がり。窓から入る陽射しはポカポカと暖かいが、かと言って何も掛けずに眠るのは流石に身体に悪い。部屋を見回すと、丁度洗濯から戻って来たばかりの仮眠用掛け布団が隅に鎮座している。
    丁度良い、これを使わせて貰おう。
    そう思ってそちらへ脚を向けた、その時だった。

  • 88二次元好きの匿名さん24/03/15(金) 01:20:09

    「────」

    声を捉えた耳が、ピンと立ち上がる。
    ああ、起こしてしまったかしら。
    そう思いながらヴィルシーナに視線を戻して、彼女は思わず息を呑んだ。

    「────、────」

    言葉にならない声と寝息を交互に零すヴィルシーナの瞳から、一等星がこぼれ落ちる。その軌跡は、春の陽に煌めく尾を引いて、そっと消えていった。そこから目が離せずにいると、また次の一等星がこぼれ落ちてくる。

    「……っ」

    思わず彼女に向けて伸ばした指先を、拳にして収める。瞳を閉じて、ゆっくりと自分自身に問いかけた。
    そう、ただ只管に勝利を手にせんとする気概、例え泥に塗れようと決して屈さず立ち上がる鋼の精神、まるで怨嗟の鬼か修羅かと見紛う程の気迫。彼女は、ターフでその強さを存分に見せつける事はあっても、自身の弱さを見せることは決して無かった。
    桜花賞、オークス、秋華賞。私達にとっては、レースが全て、ゴール板を駆け抜けた瞬間が全て。けれど、それでも、決して挫ける事無く挑戦者として、女王を目指す者の誇りを胸に頂点を目指す。
    それが、ヴィルシーナというウマ娘だ。これは、彼女と、彼女と共に頂点を目指す者達の覚悟の証。ならば、私がすべき事はただ一つ。

    「────ヴィルシーナ」

    どうぞ、かかっていらして。私はいつだって、貴女の瞳の先に居る。貴女が私を越える、その日まで。

  • 89二次元好きの匿名さん24/03/15(金) 01:23:57

    「……んん……っ」

    ヴィルシーナが瞳を開くのと、その脳と意識が起動したのは殆ど同時だった。不意の眠気に任せて仮眠を取る事にしたが、今回は随分と効果があったように感じる。うん、と身体を伸ばし、胸に残っていた澱を思い切り吐き出した。

    「さて……準備しないとね」
    「あ、おはよう、ヴィルシーナ。キミにしては随分と長いお昼寝だったね」
    「……えっ?」

    部屋に戻ってきていたトレーナーの声に思わず時計を見ると、トレーニングの開始予定時間をとっくに過ぎている。春の便りを届けてくれる陽射しに包まれていては、仮眠時間をオーバーするのも致し方無いと言えよう。
    しかし、それにヴィルシーナが納得するかは別問題である。慌てるヴィルシーナに対し、トレーナーは両の手を開いて待ったをかける。

    「それだけキミの身体は休みたがっていたんだよ。それがどれだけ大事なコトか、キミなら分かるでしょう?」
    「……それでも、一声掛けて下さっても良かったのに」

    少し恥ずかしそうに目線を向けるヴィルシーナに対し、トレーナーは変わらず朗らかに、けれどしっかりと芯のある言葉で応える。

    「慌てる事はないよ、しばし遅れを取ったが、今や巻き返しの時です、と言うやつだ。時間はまだたっぷり残っているからね。今、ここから、スッキリと目覚めた頭でトレーニングをスタートしようじゃないか」
    「……ええ、そうですね。ありがとうございます」
    「オーケー! あ、すぐ着替えるよね? 私先に行くから、ココ使っちゃってちょうだいな」
    「では、お言葉に甘えて」

    そう言ってトレーナーがパンと掌を打つと、全自動でカーテンが閉じていった。トレーナー室の魔改造が事後報告なのは流石にどうかとは思ったが、理事長が随分気に入ってくれたんで助かったよー、とカラカラ笑っていた。まあ、理事長がそう言うなら恐らくは問題無いのだろう。
    同性故か、こういう所に配慮してくれるのは助かる。

  • 90二次元好きの匿名さん24/03/15(金) 01:28:55

    用品を持っていそいそと部屋を出て行くトレーナーの背に、ふと思い出して声を掛ける。

    「そうだ、トレーナーさん。掛け布団を掛けて下さったでしょう。私の為に、ありがとうございました」
    「ああ、それね、ワタシじゃないよ。ワタシに会議の資料を届けてくれた子が、仮眠してるキミをほっとけなくて掛けてくれたんじゃないかな?」
    「えっ?」
    「いやはや、ワタシも気が回らなくって申し訳無いよ。次ココで仮眠するなら、その布団は自由に使ってくれて構わないからねー」
    「あ……」

    ひらひらと手を振りながら部屋を後にするトレーナーを見送ると同時、首を傾げる。
    てっきり、トレーナーが気を遣って掛けてくれたのかと思っていた。それなら、誰が────。
    そう不思議に思い、そっと掛け布団を手に取った瞬間、微かに残る香りが彼女の記憶を呼び覚ます。刹那、彼女の耳がピンと立った。
    ああ、この香り。忘れるハズも無い。そう、貴女なのね。
    誰が気を利かせてくれたのかを察した瞬間、彼女はふ、と口角を上げた。
    彼女の事だ、もしこの後私がお礼を言えば、例え仮眠と言えど整った環境で身体を休ませる事のパフォーマンスの維持に係る重要性を説かれ、身体の管理も出来ないウマ娘に勝ったところでその勝利に何の価値も無い、くらいは言ってのけるだろう。

    「……これでパフォーマンスが下がろうものなら、何を言われるか分かったものではないわね」

    誰にともなく呟いて、大きく深呼吸を一回。全身の筋肉に酸素を送り目覚めさせると、ヴィルシーナはテキパキと体操服に着替え、何処か嬉しそうな笑みを浮かべてトレーナーの待つターフへと駆けて行くのだった。

  • 91二次元好きの匿名さん24/03/15(金) 01:30:44

    と言った感じで、仮眠してるヴィルシーナに出くわしたので布団を掛けようとしたら普段絶対に自分に見せない一面を見てしまったものの、それで自分が揺らいでは彼女の覚悟に泥を塗るので頂点に君臨する者の強さを以て受け止めるジェンティルドンナと、誰が掛けてくれたか気付いてそこにどんな意図があるか自分なりに考えて納得しつつ、彼女にそうして貰った事を嬉しく思うヴィルシーナ

    というそれなりに複雑なジェンヴィルが見られると聞いてきたのですが

    (※ヴィルシーナのトレーナーの呼び方が現状不明なので、サポカイベントの丁寧な対応に合わせて『トレーナーさん』呼びを採用致しました)

  • 92二次元好きの匿名さん24/03/15(金) 01:32:48

    あると思ったので正座して待ってました。

  • 93二次元好きの匿名さん24/03/15(金) 01:37:59

    もう付き合っちゃえば良いのでは?(!掛かり)

  • 94二次元好きの匿名さん24/03/15(金) 01:45:12

    コマンド―ネタで吹いた

  • 95二次元好きの匿名さん24/03/15(金) 02:17:25

    はよ付き合えって思う一方でこの何とももどかしい距離感をもっと見ていたい気もする
    心がふたつある〜

  • 96二次元好きの匿名さん24/03/15(金) 02:48:33

    すみません、ここに来れば

    ヴィルシーナはジェンティルドンナの性急な口付けに戸惑いつつも、仕方なく受け入れていた。どんなに力を込めて抵抗しても相手の体がビクともしない上に、項と腰に添えられた手に力が込められ拘束がキツくなる一方だったからだ。呼吸が苦しくなった頃、元凶であった唇が離れていく。その隙にヴィルシーナは彼女の顔が再び近づいて来ないようジェンティルドンナの口元に手を添えた。

    「はぁ……。随分と余裕がないんじゃないかしら」
    「貴方が煽るからでしょう?」
    「は? 一体どういう」
    「問答は十分でしょう。時間が勿体無いわ」

    素早い動きで添えていた手を退けたジェンティルドンナが再び口付けてくる。しかも先ほどよりも深くなっており、ヴィルシーナは戸惑うばかりだった。先の抵抗も無駄だったこともあり、いつも通り受け流す事にした彼女は代わりに、よく分からないジェンティルドンナの言いがかりについて思考を巡らせた。

    心当たりがあるとすれば、あの意趣返しだろうか、とヴィルシーナは思い当たる。
    今から少し前、食堂で昼食を食べていた時だ。ジェンティルドンナが何時ものように隣に座し、これまた何時ものように尻尾を絡ませてきたため、ヴィルシーナは何事もないかのように振る舞っていた。
    ジェンティルドンナのよく分からない愛情表現(?)が始まった頃は困惑することも多かったヴィルシーナであったが、今ではそういうモノだと受け流せるくらいには余裕ができている。
    その余裕故だったのだろう。彼女は少し意趣返しのようなものがしたくなってしまった。
    ヴィルシーナは出来心のままに、今までは垂らしているだけだった尻尾に力を入れてジェンティルドンナに応えるように緩く尻尾を絡ませた。瞬間、隣から強めに食器と金属がぶつかる音が鳴り、思わず耳が反応する。己の振る舞いに厳しいジェンティルドンナらしくない所作に横目で様子を窺うと失礼、と一言謝罪された。元々気にする程の音でもなかったためヴィルシーナもいえ、と短く返事をする。それで会話が終わるかと思いきや、一呼吸の間の後ジェンティルドンナが口を開いた。

    「──この後、時間はお有りで?」
    「特に用事はないけれど…」
    「では、食事が終わったらお付き合い下さる?」
    「? ええ」

  • 97二次元好きの匿名さん24/03/15(金) 02:51:43

    一見、普段通りに見える彼女の様子にヴィルシーナは内心首を傾げる。いつもであれば食事をしている間中は繋がれ続けている尻尾が離れているからだ。ヴィルシーナにとってジェンティルドンナは元々不可解な所のあるウマ娘だ。気にしても仕方ないかと、ヴィルシーナは尻尾の自由を満喫しながら箸を進める事にした。

    そして食事を終え約束通りジェンティルドンナが先導する形で2人、人影のない校舎裏まで辿り着くや否や壁際まで迫られたヴィルシーナは冒頭の状況に追い込まれたのである。
    原因があるとすればやはり尻尾の件なのだろう。
    しかしターフの上でもそれ以外でも、いくら自分が張り合おうが不適な笑みで受け流す彼女が、些細なスキンシップ如きでこうもペースを乱されるものなのか。いつもの余裕を見せず、恋する乙女のように頬を染めて、獲物を喰らうかのように自分を求めるジェンティルドンナの姿に、一矢報いる事ができたかのような高揚感に包まれ、ヴィルシーナは無意識のうちに口元が弧を描いた。

    「……何に気を取られているのかしら」
    「特には」

    ヴィルシーナの返しに納得いかないジェンティルドンナは眉を顰める。その様子を受けてヴィルシーナは新しい悪戯を思いついた。ジェンティルドンナ好みの好戦的な笑みを浮かべながら、そっと彼女の頬に手を添え、一言。

    「──貴方のこと考えていただけよ」
    「……煽るのがお上手ですこと」

    荒々しく抱き寄せられ、続きが開始される。
    ヴィルシーナは思わぬ戦果と今置かれている状況に、どこか試合に負けて勝負に勝ったような何とも言えない感情を抱えながら、予鈴が鳴り響くまでジェンティルドンナの愛情表現に付き合わされる羽目になったのである。



    といった風に何となく棒立ち対応に飽きたヴィルシーナのちょっかいが自分も予想外な程刺さってしまい珍しく掛かり気味になってしまうジェンティルドンナと、そこまでされて第一に嫌悪感が湧いてこない理由そろそろ考えた方が良くない?そんなことない??いや、あるでしょ なヴィルシーナのジェンヴィルがあるって聞いて来たんですけど、ありますか?

  • 98二次元好きの匿名さん24/03/15(金) 03:05:52

    まさかの二本立て…ありがてえありがてえ…

  • 99二次元好きの匿名さん24/03/15(金) 03:37:52

    誘い受け姉さん!!!!!???!!!!!????(掛かり)(掛かり)(掛かり)

  • 100二次元好きの匿名さん24/03/15(金) 07:29:13

    早く付き合えという気持ちともうちょっとここの無自覚期を見てぇ〜という気持ち
    心がふたつある〜

  • 101二次元好きの匿名さん24/03/15(金) 09:27:33

    こんな濃厚なイチャ付き食堂で見せるとか実質うまぴょいでは?

  • 102二次元好きの匿名さん24/03/15(金) 11:47:31

    最高のスレだね❤️

  • 103二次元好きの匿名さん24/03/15(金) 17:50:45

    >>102

    最高すぎてちょっと成仏しかけてない?

  • 104二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 00:40:29

    当然のように妹二人がいるの芝

  • 105二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 03:08:25

    すみません、ここに来れば

    休養日には何をするか、とトレセン学園のウマ娘に聞くと、実に様々な答えが返ってくる。
    授業が終われば自室に帰ってたっぷり寝る、試験が近いので勉強、トレーナー室で自身のトレーナーと駄弁る(イチャイチャするとも言う)、休養日の重なった友人達で遊びに繰り出す、等々。
    そして、遊びに繰り出す際一番に候補に挙がるのがゲームセンターだ。トレセン学園のある府中からは電車を使えば都心に出るのは容易い。大きなゲームセンターも各地に点在し、腕の立つウマ娘に至ってはスコアランキングの常連である。
    今日は、ヴィルシーナもゲームセンターを選んだウマ娘の一人。

    「予定では、今日からのハズなのだけど……」

    彼女はウマ娘らしく音楽ゲーム……ではなく、クレーンゲームへと迷わず進んでいった。目指す先に見えてきたのは、トゥインクル・シリーズで活躍するウマ娘達を模したぬいぐるみ、ぱかプチである。その瞬間、彼女の瞳が輝いた。

    「見つけたわ……!」

    そこにあったのは、ぱかプチの新作『Road of Radiance』。先日開催された特別なライブで披露された衣装で、ぱかプチの実装もその時点で決定していた。そして、今日が記念すべき稼働日という訳である。

    「後はここにあってくれると……助かるのだけれど……」

    お目当てのぱかプチがあるかどうか、その上で獲得しやすい位置にあるかどうか。隅から慎重にチェックしていく。そして、その視線はある一点で止まった。

    「あった……! シュヴァルにヴィブロス!」

    彼女のお目当ては、最愛の妹達、シュヴァルグランとヴィブロスである。しかも、この筐体では二人がまるで互いを抱き合うようにセットされている。この状態のぱかプチは、愛好家からは同時にゲットするチャンスとして知られ、当然それを知るヴィルシーナがこのチャンスを逃すハズもない。

    「偶然かしら、それとも予めこうセットしてあったのか……もし後者なら、セットした人は分かってるわね」

    昂ぶる鼓動そのままに一人呟きながら、彼女は筐体にコインを積み上げる。プレイ回数にして100回分。覚悟など、疾うに済んでいた。

    私は今、ここで────全力でお姉ちゃんを遂行する!!

    レースと見紛う程の覇気を纏い、ヴィルシーナの戦いが始まった。

  • 106二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 03:15:54

    「衣装の再現度は流石ね。表情は……まあまあと言った所かしら」

    シュヴァルグランとヴィブロスの新作ぱかプチを両手に携え、ヴィルシーナは満足げに頷いた。熾烈な戦いだったが、目的のぱかプチを手にしたヴィルシーナの勝利である。ぱかプチを大事にしまい、ヴィルシーナはふう、と一息付いて立ち上がった。

    「回数が増えると、どうしても熱が籠もってしまうわ……今日は人が少なくて良かった。もし誰かに見られていたらどうなっていたか……」
    「ええ、そうね。私なら恥ずかしくて外を歩けないわ。けれど、大好きなモノに夢中になる貴女も悪くなくてよ」

    その瞬間、ヴィルシーナの脳裏に電撃が走る。その声を、話し方を、ヴィルシーナはよく知っていた。恐る恐る声の主へと振り返る。
    そこには、びっくりするくらい嬉しそうな笑みを浮かべた宿敵の姿。先程までの爽やかな表情が嘘のようにヴィルシーナの表情が歪む。

    「……どうしてここに?」
    「用品の買い出しに来ていたのだけれど、遠目に貴女が見えたものだから」
    「……いつから見ていたの?」
    「貴女がぱかプチのセッティングを褒めていた所、だったかしら?」
    「つまり、全て見ていたということね……」

    ヴィルシーナは一度天井を仰ぐと、力無く腰を落とした。それに続き、ジェンティルドンナが隣に腰掛け、頭を垂れたヴィルシーナを腕と尻尾で抱き寄せる。

    「私、こういった施設に入る機会があまり無いの」
    「……ええ、貴女ならそうでしょうね……」
    「良い機会だから、エスコートして下さる? まずは、そうね。貴女と同じクレーンゲームが良いわ」

    いつもよりずっと重い頭を持ち上げ、相も変わらず嬉しそうな笑みを向けるジェンティルドンナを睨んでみるが、それで何がどうなる訳でも無い。そもそも、仮にぱかプチ目的で無かったとしても、外で、しかも一人で居る所を彼女に見つかったのなら、結局は同じことだ。ヴィルシーナは大きな溜め息を一つ吐き出すと、勢いを付けて立ち上がった。そして、隣のジェンティルドンナの前に立つ。

    「私がエスコートする以上、心身ともに充実した一時を過ごして頂きますわ」
    「あら、それは楽しみね。退屈せずに済みそうだわ」

    ヴィルシーナの差し出した手を取り、ジェンティルドンナも立ち上がる。いっそ開き直って余裕の笑みさえ見せるヴィルシーナの後ろ姿を、彼女は一歩後ろから愛おしげに見つめていた。

  • 107二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 03:21:59

    「手の部分が脚に引っ掛かっていたらそれだけで二つ取れる、と……思っていたよりしっかりした作りなのね」

    ヴィルシーナの指導の下、ぱかプチを手に入れたジェンティルドンナは、自身とヴィルシーナのぱかプチを両手に携え、感心しつつぱかプチを観察していた。

    「そうでしょう……それで、態々貴女の脚に手を引っ掛けていた私を狙ったのには少々納得がいかないけれど」
    「ふふ、偶然かしら、それとも誰かがこうなるように置いたのかしらね? 後者なら、その方は分かっていらっしゃるわね」

    どこか含みを持たせた笑みを向けるジェンティルドンナに対し、ヴィルシーナは一瞬瞳を閉じて胸の奥に爆ぜた感情を消すと、改めて彼女に向き直った。

    「……次は何をしましょうか?」
    「そうですわね……ウマ娘らしく、音楽なんてどうかしら」

    そうして二人がやってきたのは、初代が稼働してから既に20年以上経っているメジャーな筐体。音楽と同時に画面に流れる矢印に合わせ、足下のパネルを押していく。脚を中心に全身を使うので、ウイニングライブで鍛えられたウマ娘にも人気の筐体だ。

    「貴女も一緒にいかが? そこで見ているだけではつまらないでしょう」
    「では、お言葉に甘えて」

    誘われるまま2P側の筐体に立ったヴィルシーナが画面を見た時には、彼女は既に曲を選び、剰え最高難易度を選択して既にスタートをタップしていた。

    「ちょっと、貴女……!?」
    「さあ、始まりますわよ。集中なさい」
    「ッ……!」

    会話を断たれる形になったヴィルシーナだが、イントロと同時に音楽に向かい合う。ピリ、と張り詰めたような空気を切り裂くように、二人は同時に踊り出した。それを肌で感じたのか、周囲のプレーヤーが彼女達の筐体に目を向ける。

    「あの子達、トレセン学園のよね? 随分派手に……ってか、あの二人って、もしかして!?」
    「ちょっ、マジかよ!? 動画、動画!!」

    二人の筐体に、ギャラリーが集まり出す。ここに至り、ヴィルシーナは彼女の意図を察した。彼女が選んだ曲は、最高難易度になると1P側と2P側で譜面が変わる。この譜面差が実に絶妙で、二人が揃って美しく脚を運ぶと、まるで二人が踊っているかのように見えるのだ。即ち────。
    貴女の、そして私達を見つめるファンの皆様の期待に応えて見せなさい、という事ね。貴女らしいこと。なら、全力でお相手して差し上げましょう。

  • 108二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 03:37:44

    美しく脚を鳴らして舞う二人の姿に、ゲームセンターに集まったプレイヤー達は一瞬で魅了された。その中には、トレセン学園の生徒の姿もあった。

    「アイエエエ!! ヴィルシーナ=サン!? ジェンティルドンナ=サン! ナンデ!?」
    「渇! インストラクションだ、モブガヤエキストラ=サン! 目の前の強者に呑まれるなかれ、強者達の技を自身の糧としてみせよ!」
    「ハイヨロコンデーッ!!」

    夢中になって彼女達を動画で撮影する者も居れば、その踊りにウイニングライブの粋を見出し、その技を盗もうとする者も現れた。そして勿論、二人の走りに魅せられたファン達も、一糸乱れず魅せ合う舞踏に酔いしれる。

    最後のサビの超高難度エリアを抜けて尚、二人の身体は力強く、指先と脚の先までしなやかに美しい線を描き続けた。そして、ラスト一音を向かい合う形でタップし、二人の舞台は幕を下ろした。
    一瞬の静寂が辺りを包み込む。そして、次の瞬間、割れんばかりの喝采が巻き起こった。二人は画面に表示された『PERFECT』を背に、集まったプレイヤーやファンに優雅に礼をして応えたのであった。

    「あの曲で身体を動かすのは久しぶりでしたけれど……ふふ、偶にはああいうのも悪くないわ」
    「……貴女、初めからそのつもりだったのでしょう」
    「さあ……どうかしら」
    「それにしても……ふふ」

    その時、ヴィルシーナの脳裏にジェンティルドンナの舞が過ぎる。そして、彼女は不意に笑った。ジェンティルドンナが不思議そうな顔で振り返ると、その瞳には、嬉しそうに笑みを浮かべるヴィルシーナの姿が映し出される。

    「あんなに楽しそうな笑顔で踊る貴女を見たのは初めてかもしれない……けれど、あの時の貴女、とても、とても素敵でした」

    額に煌めく汗さえも、ヴィルシーナの笑顔に魅力を添える。妹達に対する姉としての笑顔でも、私を前にした時の不敵な笑みでも、ウイニングライブでファンに向ける笑顔でもない。ただ只管に、純粋な喜びからの笑顔を、ジェンティルドンナに向けていた。
    思わず、息を呑む。同時に、彼女の胸には途方も無く愛おしい想いが溢れ出した。

    「さて、もう良い時間ですし、学園へ戻りましょうか」
    「……最後にもうひとつだけ、よろしくて?」

    その提案にええ、と頷いたヴィルシーナに対し、ジェンティルドンナはゲームセンターの一角へと視線を向けた。

  • 109二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 03:46:42

    「広報の写真撮影だと思えば良いかしら。随分色々な機能がありますこと」
    「……あの、出来ればもう少し離れて頂けるかしら?」
    「あら、どうして? そんな事をしては上手く映らないでしょう」
    「あんなに動いた後ですもの……汗とか、気になるでしょうから」
    「ふふ、私は気にならなくてよ?」

    困ったような表情のヴィルシーナに対し、ジェンティルドンナは彼女を自身の方へ寄せ、相変わらず嬉しそうな笑みを浮かべて応える。
    二人が最後に脚を運んだのは、所謂プリクラ。ヴィブロスとやり慣れていたヴィルシーナが筐体を選び、そこに二人で入ったまでは良かったのだが、ここに来て誤算があった。
    先程の舞で二人とも随分派手に動いた為、揃って額には汗が浮いていた。当然、服の中はその比ではない。そんな状態で狭い筐体に入ったので、外に居れば気にならなかった彼女の香りが、普段よりもずっと強くヴィルシーナを刺激していたのである。
    時折交わす口付けの時よりもずっと甘くて、濃厚で、蕩けるような香りに、思わず視界が揺れる。けれど、一度撮り終えるまでの辛抱。
    そう考えていた彼女の耳に、筐体の声が響く。

    『それじゃあ、一枚目! はい、ポーズ♪』

    筐体の声に合わせ、二人でポーズを取る。即座に凜とした表情と姿勢に戻せる辺り、ヴィルシーナも流石にトゥインクル・シリーズを駆けるウマ娘である。
    それを繰り返し、三枚目を撮り終えた、その時だった。

    「そう言えば……ここなら、私達の他に、人目はありませんわね?」
    「え────」

    言葉を返す間も無くジェンティルドンナはヴィルシーナを抱き寄せると、その唇を奪った。普段彼女がヴィルシーナを呼び出してする時よりも、ずっと深く、深く。両の腕でしっかりと身体を抱き寄せ、尻尾を太腿に絡めて離さない。
    しまった、私とした事が────嗚呼、けれど。
    不意に身体を抱き寄せられ、彼女の甘い香りをより近くで感じる事になったヴィルシーナに、最早抵抗する力は残っていなかった。撮影が終わるまで、ずっと彼女の深い口付けを受け止め続けた。

    『はい、おしまい♪ 次は、写真をデコっちゃおう!』

    筐体が撮影の終了を告げると同時、ヴィルシーナはようやく長い長い口付けから解放された。荒く息継ぎをするヴィルシーナに対し、ジェンティルドンナは相も変わらず嬉しそうに笑みを浮かべている。その瞳に、愛おしい感情を溢れさせながら。

  • 110二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 03:54:27

    「ふふ、お互いあれ程身体を動かして、これ程に狭い所に入ったら、こうなるのは当然でしょう? 貴女、自分がどれ程魅力的な香りを放っているのか、ご存じないようね」
    「そんな、こと……っ」

    そう、ジェンティルドンナもまた、この狭い空間の中で、ヴィルシーナの放つ甘い香りに心を揺さぶられていたのだ。それは、彼女にとっても誤算であったのかもしれない。あるいは、初めからそのつもりだったのかもしれない。ヴィルシーナが自身に向けた、純粋で美しい笑顔を見た時から、ずっと。

    「さて、撮影はこれで終わりだけれど……ああ、途中からは、もう撮れていないようなものですわね」
    「誰の、所為だと……思ってるのよ……!」

    その時、二人の声に応えるかのように、筐体が次の行動を促した。

    『撮り直したい時は、右下のボタンをタップしてね♪』

    それを聞いたジェンティルドンナの口角が上がる。そして、ヴィルシーナをもう一度自身の方へ抱き寄せる。

    「あ、貴女……っ……!?」
    「撮り直さないと、そうでしょう?」
    「……っ」

    その問いかけに抗議の声を上げて応えるはずだったヴィルシーナの口は一瞬勢い良く開いたが、先程よりも強く抱き寄せるジェンティルドンナと、彼女の甘い香りに何も言わぬまま閉じてしまった。そして、ヴィルシーナはじっと見つめてくる彼女に、ゆっくりと頷いた。
    満足げな笑みを浮かべたジェンティルドンナは、迷い無く撮り直しのボタンをタップする。そうして、二人はお互いの甘い香りが薄れ、その魅了から覚めるまで、何度も何度も"撮影"を続けたのであった。

  • 111二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 03:58:14

    「も~!! お姉ちゃんってばず~る~い~!!」

    ヴィブロスは抗議の声と共に、自身のスマホの画面をヴィルシーナに突き付けた。ウマッターに投稿された動画の中で、ジェンティルドンナとヴィルシーナが鮮やかに踊り、舞っている。
    突き付けられた動画に対し、ヴィルシーナは困ったような笑顔で応えた。

    「落ち着いて、ヴィブロス。彼女に会って、こうなったのは偶然なのよ?」
    「そうじゃないよ~! 私もお姉ちゃんとゲームセンター行きたかったの!」
    「……そう、そうよね、分かったわ。次の休養日には、一緒に行きましょう。約束よ」
    「……うんっ! 約束だよ?」

    上目遣いで迫るヴィブロスに優しく微笑みながら応えると、ヴィブロスもまた太陽のような笑顔を返した。その裏で、ヴィルシーナが安堵の溜め息を付いていた事など、知る由も無い。

    さて、一方のジェンティルドンナはと言うと────。

    「充実したお休みになったみたいで良かったよ、ジェンティル」
    「……ええ、おかげさまで」
    「それにしても、これを生で見れた人は幸せ者だね。正直言って羨ましいわ。ねえ、今度は私も一緒に行って良いかな? 勿論、ヴィルシーナさんも誘って」
    「それは……!」

    思わず声を上げて立ち上がったジェンティルドンナに、トレーナーは呆気に取られる。

    「ジェンティル……?」
    「失礼、なんでもないわ。ええ、良くってよ。彼女となら、ゲームも立派なダンスレッスンになりますもの」
    「……? うん、楽しみにしてるよ」

    ふう、息を付いて、ジェンティルドンナは腰を落とした。冷静な彼女が一瞬狼狽えた事に、トレーナーは不思議そうに首を傾げたが、彼女が何も言わずトレーナーが渡した資料に目を通し始めたので、トレーナーもそのうち気にする事はなくなった。

    この後、ジェンティルドンナとヴィルシーナはこの時の経験を踏まえ『人目の付かない所で会う事はするが決して二人きりではゲームセンターに行かない』という協定を結ぶ事になるのだが、それはまた別の話である。

  • 112二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 03:59:24

    といった感じで、偶然ゲーセンで遭遇したジェンヴィルが色んなゲームを一緒にプレイし、音ゲーを一緒にプレイしてお互い盛り上がったりしたが、その時の表情がとても楽しそうだったのに気付いたヴィルシーナが見せた純粋な笑顔を喰らったジェンティルドンナが人目に付かないプリクラに誘ったけど、動きまくった後に入ったせいでスーパーゲノムタイムが発生しいつもより多めに愛してるわヴィルシーナした結果、反省して二人きりになる場所にゲーセンを選ばなくなるジェンティルドンナ


    という事実を知ったらお前等いい加減にしろよとゴルシちゃんが突っ込みにきそうなジェンヴィルが見られると聞いて来たのですが


    (※最初のお話みたく2レスくらいで纏めたいけどなんかどんどん長くなってる……)

    (※>>96様、援護射撃感謝致します)

  • 113二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 07:27:21

    だから!!!早く!!!!付き合え!!!!!!

    いやでもこの距離感の時期をまだ見たいな???

  • 114二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 08:52:08

    ・ゲーセンデート
    ・二人でダンレボ魅せパーフェクトプレイ
    ・ス ー パ ー ゲ ノ ム タ イ ム

    これでまだ付き合ってないのは最早バグでは?

  • 115二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 13:43:40

    これアレじゃない?その内「ゲームセンター」とか「写真撮影」とかが二人だけの秘密の合図になるやつじゃない?
    シュヴァちはどう思う?

  • 116二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 14:03:32

    このレスは削除されています

  • 117二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 14:04:54

    >>115

    ……それもアリだけど耳元で妖しく「Shall We Dance?」って囁かれるだけで察して頬を染める姉さんと一言で全部通じる仲になった事にご満悦なジェンティルさんっていう可能性もあるんじゃないかな

  • 118二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 21:53:41

    付き合う前からこんな濃い事してるのに
    正式に付き合う事になったらジェンティルドンナの理性のブレーキが壊れてしまう

  • 119二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 21:57:48

    >>112

    焦ったさにもう我慢できなくなったゴルシが爆弾(not親友)落としそう

  • 120二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 22:23:39

    クソッじれってぇな………俺ちょっとやらしい雰囲気にしてきまsなってる!?!?なってるのに付き合っていない!!!!これは一体………?

  • 121二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 22:42:01

    ゲーセンデートって凄い青春って感じするな…

  • 122二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 23:59:23

    >>112

    この素晴らしいスレのおかげで浮かんだシチュエーションを我慢出来ずに投稿させて頂きましたが、お邪魔になっていないようでしたら良かったです。

    引き続き読むのを楽しませてもらいます。

  • 123二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 00:32:31

    すみません、ここに来れば

    「ドーモ、モブガヤエキストラ=サン。ゴールドシップです」
    「ど、ドーモ、ゴールドシップ=サン。モブガヤエキストラです。何故私の名前を?」

    トゥインクル・シリーズに挑むウマ娘にとって、アイサツは神聖不可侵の行為。古事記にも書かれている。例えどんなに切迫した状況であっても、アイサツはされれば返さねばならない。
    実際アンブッシュめいたアイサツをされたモブガヤエキストラであったが、慌てず丁寧なアイサツで応えると共に、当然の疑問を口にした。目の前にいるのは彼女から見たら雲の上の存在でもあったからだ。

    「お前のトレーナー、トレーニングが独特でおもしれーからよ、ちょいちょい観察してたら自然に覚えちまったんだわ」
    「ワ! 恐れ多いです!」
    「あと、お前も大概おもしれーヤツ扱いだからな?」
    「アイエッ!?」

    尻尾をピーンと立てて驚きの声を上げる姿を前に、ゴールドシップはカラカラと笑った。
    いつもテンションマックスで、面白いと思った事は何でもすぐに実戦して学園を良くも悪くも盛り上げる。そんなゴールドシップの笑い声を聞いていると、モブガヤエキストラも自然と笑顔になった。

    「んで、こんな時間に高等部の教室で何やってんだ? おめー確か中等部だろ」
    「ええ、ええ。実は尊敬する先輩の忘れ物を見つけまして。オットリガタナで届けに来ました。インストラクション『一日一善、百日百善、善い行いは自分に必ず還ると心得よ』です!」
    「やっぱおもしれーヤツだなお前のトレーナー。なんつーかそこだけ切り取るとチヨみがある。で、その先輩って誰よ?」
    「エヘヘ、実は、ヴィルシーナ=サンで……」
    「……ほーん」

    モブガヤエキストラが照れくさそうに答えたのに対し、ゴールドシップは一瞬自身が背にした教室へ視線をやったが、すぐにモブガヤエキストラに向き直った。

  • 124二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 00:35:43

    「あの、ナイショなんですけどね。悔しい思いを一杯してるハズなのに、そんな所は少しも見せないし、挑戦し続けてGⅠを勝ったのを見て、カッコ良くてステキだなって思ったんです。私も、その、なかなか勝ちきれない感じなんですけど、ヴィルシーナ=サンのレースを見てると、頑張ろうって思えて」

    もじもじと自分なりの言葉で彼女への想いを紡ぐモブガヤエキストラに、ゴールドシップはニッと笑みを浮かべ、その頭をぽんと叩いて撫でた。

    「お前、見る目あるな、良い目標だと思うぜ。けどよ、ヴィルシーナは中等部だろ」
    「さっき友達が、高等部に向かうところを見たと言ってまして。何か用事だとは思うんですが、もしかしたら、直接お話出来るかな、なんて!」

    ピコピコと耳を動かし、尻尾をご機嫌に揺らしながら嬉しそうにしているその姿は、まるで小動物である。
    実際ゴールドシップも、コイツ小動物みたいで可愛いな。今度ジャージをウサギのふわもこ仕様にすり替えといてやろう、等と思っていたが、それはそれとしてこれ以上時間を使わせるのも悪いと思っていた。

    「そういう呼び出しったら100%生徒会とかだろ。時間もかかるだろうし、アタシが預って渡してやるよ。こう見えてゴルシちゃんは生徒会室顔パスなんだぜ」
    「そんな、たまたまお会いしたのに、悪いです」
    「オメー、トレーニング抜けて来てんだろ? ヴィルシーナにはオメーの事言っといてやるから、早く戻んな」

    実際トレーナーのインストラクションがあったとは言え、トレーニングを抜けているのは事実だ。なるべく早く戻るべきだろう。彼女自身もそれを理解したのか、少々名残惜しそうではあったが、ゴールドシップに忘れ物を渡した。

    「では、よろしくお願いします。私も頑張りますね」
    「おーよ。任されたぜ」

    パタパタと駆けていくモブガヤエキストラを見送って、ゴールドシップはフッ、と感慨深く頷いた。

    「かぁー! 青春してんなぁ、若い衆はこうでなくっちゃな」

    貴女も十分若い衆でしょう、といつものように突っ込んでくれるウマ娘はこの場に居ないので、ゴールドシップは一人うんうんと頷きながらすぐ後ろの教室へと入っていった。
    扉近くの適当な机に忘れ物を置き、教室を後にする。

  • 125二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 00:41:06

    「……貸し一つな。明日アイツに会ったら礼言って、一緒にトレーニングでもしてやれよ」

    誰にともなくそう言うと、ゴールドシップは教室の扉を閉めた。
    黄昏時、灯りの消えた教室の影は濃さを増し、そこに人影があるなら、それさえも覆い隠してしまうだろう。仮に誰かが居たとして、先生が見回りにくるまでは派手な音を立てなければ他のウマ娘が気付く事もあるまい。
    ゴールドシップが去った後の教室は、まるでその事を理解していたかのように、ひっそりと静まり返っていた。

    次の日、学園のターフグラウンドには、目を輝かせながらヴィルシーナと一緒にトレーニングをこなすモブガヤエキストラと、その様子を何処か嬉しそうに含みのある笑みを浮かべながら眺めるジェンティルドンナ、そして、そんなジェンティルドンナを渋柿を口にダンクシュートされたような顔で見つめるゴールドシップの姿が見られたという。


    と言った感じで、殆どの生徒が寮に戻るかトレーニングに出掛けた後なので誰も居ない教室にヴィルシーナを呼び出していつものようによろしくやっていたジェンティルドンナに気付いていたので、咄嗟に可愛い後輩の純粋な憧れを守る行動に出るファインプレーをかましたゴールドシップと、釘を刺された分しっかりお礼を言って自身に憧れている可愛い後輩の面倒を見るヴィルシーナ(とその様子をニッコニコで見守るジェンティルドンナ)

    というちょっと変則的なジェンヴィルが見られると聞いてきたのですが

  • 126124/03/17(日) 00:46:14

    >>122

    (※とんでもございません。勢い100%で始めたスレに乗って頂き誠にありがとうございます。1日1ジェンヴィルを努力目標に頑張ります)

  • 127二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 01:03:36

    モブガヤエキストラ=サンはジッサイカワイイ。
    古事記にもそう書いてある。

    ニコニコで二人を見つめるドンナ=サン…コワイ!
    しかしそこにあるワザマエジェンヴィル…結構なお点前で!尊みよりしめやかに爆発四散!
    サヨナラ!

  • 128二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 07:19:44

    柔軟かつ適切な対応が出来るゴルシは頼りになるなぁ

  • 129二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 13:42:53

    モブガヤエキストラ=サン好きなのでちょこちょこ登場してくれて嬉しい

  • 130二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 17:38:44

    >>108

    ここでまずヴィルシーナ=サンに反応したのは憧れ重点だったのかエキストラ=サン

  • 131二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 23:36:20

    実際カワイイ

  • 132二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 23:51:33

    ウマ娘世界にもネオサイタマがあるのか

  • 133二次元好きの匿名さん24/03/18(月) 00:28:15

    付き合ってなくてこのいちゃつきようなら付き合った後はどうなっちまうんだ…

  • 134二次元好きの匿名さん24/03/18(月) 00:35:13

    >>133

    卑猥は一切ない。イイネ?

  • 135二次元好きの匿名さん24/03/18(月) 05:01:31

    ここのジェンヴィルはIce breaker似合いそう

  • 136二次元好きの匿名さん24/03/18(月) 08:09:44

    >>134

    アッハイ

  • 137二次元好きの匿名さん24/03/18(月) 17:28:58

    >>134

    欺瞞!

  • 138二次元好きの匿名さん24/03/19(火) 00:13:18

    ジェンヴィルに巻き込まれるゴルシ好き

  • 139二次元好きの匿名さん24/03/19(火) 00:26:12

    トレーニングとしての模擬レースで2着に入ったものの、前がドンナ後ろがシーナでめちゃくちゃドンナから睨まれてて悔しいよりも先に「やっちまった…」ってなってるゴルシとか?

  • 140二次元好きの匿名さん24/03/19(火) 01:33:20

    すみません、ここに来れば

    「ほら、シュヴァル? お野菜も食べないとダメよ? ふふ、それとも、あーんしてあげましょうか?」
    「わっ……! だ、大丈夫だから……!」
    「あっ、シュヴァち照れてる~♪ 可愛い~♪」
    「貴女もよ、ヴィブロス。心のときめきに惹かれるのは魅力的だけれど、栄養の事も考えないとね」
    「はあ~い♪」

    お昼時、カフェテリアの一角で繰り広げられる大変微笑ましい光景に、周囲のウマ娘達の心も和む。ある者は、お姉ちゃんって良いなあ、と羨ましがり、ある者は、たまには実家の妹に連絡してやるか、と姉心を刺激され、アグネスデジタルは保健室へ搬送された。
    長姉であるヴィルシーナにとって、昼食は可愛い妹達と過ごす大切な時間の一つである。トレーニングにレースにと、トゥインクル・シリーズで活躍するようになってからは、こういった時間も中々取る事が出来ない。姉妹揃っての団欒、例え僅かであっても素敵な良い時間にしよう、とヴィルシーナは常々思っていた。

    「そう言えばさぁ、お姉ちゃんってジェンちルさんと付き合ってるの?」

    そんな和やかなカフェテリアの空気を切り裂いて投下された爆弾の直撃を受け、ヴィルシーナは飲もうとした水が変な所に入り込んでしまった。図らずも爆風に巻き込まれた周囲のウマ娘も何人か噴き出している。
    咳き込むヴィルシーナの背中をシュヴァルグランが慌ててさする。

    「ね、姉さん……!? こ、こら、ヴィブロス!」
    「だ、だい……大丈夫よ、シュヴァル……」

    何とか体勢を立て直そうとする姉達を前に、ヴィブロスは我が意を得たりとばかりにニコニコしている。その内にヴィルシーナも落ち着き、ふう、と深呼吸をして爆弾発言を放ったヴィブロスに向き直った。

    「……あのね、ヴィブロス。前にも言ったけど、ゲームセンターの件は偶然あそこで会っただけで、私と彼女はそういう関係ではないのよ」
    「ホントに? 実はこっそりデートしてたとかじゃないの?」
    「……ヴィブロス、その辺で……姉さんも、否定してるんだし……」
    「でもでも、シュヴァちも気にならない?」
    「……ヴィブロス。まずはどうしてそう思ったのか教えてくれる?」

    この手のパターンでヴィブロスとシュヴァルグランがそれぞれ主張し合うと、十中八九ヴィブロスが押し切る。姉としての経験から二人の会話に割って入り、一先ずは事情を確認する事にした。

  • 141二次元好きの匿名さん24/03/19(火) 01:40:25

    「この間のゲームセンターの動画、最初はお姉ちゃんだけゲームセンターいいな、って思ったんだけど、あんなに難しい曲なのに二人ともタイミング全部パーフェクトだし、見れば見る程ウイニングライブ並に息ぴったりだし、あれもしかして二人は実は……みたいな♪」

    経緯を聞き、ヴィルシーナは成る程と頷いた。
    考え方の順序が実に可愛らしい、流石は私の妹である。しかし、その発想が決して真実に辿り着かないのもまた事実だ。姉として、その事はしっかり伝えねばなるまい。

    「確かに、あの時の動画は凄く評判だったみたいだし、ヴィブロスがそう思うのも無理もないわね。けれどね、ああいうゲームは難易度が上がれば、譜面を覚えるだけではなく、体力も瞬発力も必要になるでしょう?」
    「うんうん」
    「それはウイニングライブも同じ事よ。完璧な振り付けでステージを走り、踊り、歌う……例えゲームでも、難易度が上がれば必要なことは同じだと思わない? 学園でレッスンを受けるだけでなく、トレーニングには様々な方法があるということね。そして、私は勿論、悔しいけれど同じ考えだた彼女の踊りは完璧だった、それだけのことなのよ」
    「でもお姉ちゃん、学園でも時々ジェンちルさんと二人きりでいるんでしょ?」
    「ヴィブロス?」

    またしても想定外の方向から爆弾を落とされ、ヴィルシーナは思わず素で聞き返してしまった。当然、シュヴァルグランを含む周囲も巻き添えである。余りに周囲の反応が大きかったので、ヴィルシーナも今の会話が聞かれていた事にようやく気付いたが、最早後の祭り。
    一先ずはこの流れをどうにか断ち切り、落ち着いて昼食に入る方向にシフトすることにした。

    「……ヴィブロス。学園で生活していればそういう事は普通にあるものよ。確かに私と彼女はよくぶつかり合うけれど、普通に過ごす事だってあるわ」
    「え~? ホントに~? 誰も居ないトコで二人きりで過ごすなんて、そうそう無いと思うなぁ~♪ だって、好きでもない子となんて、一緒に過ごしたりしないでしょ?」

    ヴィブロスの疑問を受けたヴィルシーナの脳裏に閃光が奔る。そして、不意の疑問が彼女の頭の中を支配した。
    私はどうして、彼女の求めるまま彼女を受け止めその要望に応え、剰え呼び出されるまま彼女の愛情表現を受け入れ続けているのだろう。

  • 142二次元好きの匿名さん24/03/19(火) 01:44:50

    思えば、ヴィブロスの言う通りだ。私が彼女に抱いている感情は自分でもかなり複雑なモノだと思う。それがヴィブロスの言う所の"好き"でなかったのは一目瞭然だ。
    ならば何故? 彼女について、自他共に甘えを許さず如何なる相手を前にしても自身の正義を貫く冷徹さを持つウマ娘だと理解しているから? けれど、それはターフの上での話のハズだ。
    今、私が受け入れている彼女には、私が配慮を求めればその通りにする寛容さがある。けれど私が誘いを袖に振っても変わらず、どころかより躊躇無く愛情表現を向けてくるのも彼女だ。例えそれがターフの上であってもだ。思えば、この関係が始まってから、私に対する彼女はずっとそうだった。
    もしも気に障るなら、避ければいい。なのに、そんな彼女を私が迷わず受け入れ続けている理由は────。

    「……お姉ちゃん」

    そこまで思い至り、ヴィルシーナの自意識は昼時のカフェテリアに戻る。周囲のにぎわいも、目の前に並んだ彩り豊かなランチもそのままだ。
    先程と違う事があるとすれば、ヴィブロスとシュヴァルグランが、それぞれ怯えと困惑が混ざった表情をしていた事だろう。

    「あの、お姉ちゃん……ごめんなさい。私、何か変なコト言っちゃった……?」

    一体私は、愛する妹の前でどんな表情をしていたのだろうか。何と情けないことだろう。
    今にも泣きそうな表情のヴィブロスに、ヴィルシーナはようやく長女の表情に戻った。

    「良いのよ、ヴィブロス。私の方こそ、ごめんなさい。私は何も怒っていないわ」
    「ホント……?」
    「ええ、本当よ。けれど、さっきの話は一先ず保留にしておいてくれる? 代わりと言っては何だけど、今度ショッピングに行く時は貴女の行きたがっていたパンケーキ屋さんへ行きましょう。約束するわ」
    「……うん!」

    優しく微笑むヴィルシーナの表情に、ヴィブロスはようやく安心したようだ。昼食を再開し、美味しそうな笑顔を向けている。

    「姉さん……」
    「シュヴァル、心配しないで。大丈夫よ」
    「……分かった」

    凜とした笑みで応えれば、シュヴァルの表情にも笑顔が戻る。三人は一先ず昼食の時間を再開したが、姉としての表情の裏側で、ヴィルシーナは答えを探し続けていた。
    そして、その答えを必ず出さなければならないとも思っていた。

  • 143二次元好きの匿名さん24/03/19(火) 01:49:44

    「ジャパンカップに向けてのトレーニングメニュー、確認して貰えたかしら?」
    「ええ、勿論」
    「もう何度も走っているコースだから、私から特別言う事は無いけど、意見があったら遠慮無く言ってね」
    「ええ、勿論」
    「……貴女のトゥインクル・シリーズを有終の美で飾る為なら、出来る事はなんでもしていくつもりよ」
    「ええ」
    「……さあて、と」

    ジェンティルドンナのトレーナーはすっくと立ち上がり、うん、と背伸びをした後、両の腕を思いっ切り開いた。そして、勢いそのままに全力の柏手をジェンティルドンナの眼前で放つ。これには流石に驚いたのか、ジェンティルドンナは目を見開いた。

    「一体、何を」
    「らしくないわね、ジェンティル。貴女が上の空になるなんて。天皇賞の結果がショックだった、とは言わないよね?」
    「当然でしょう? 例え僅かな差であっても敗北は敗北。そうではなくて?」
    「うん、流石はジェンティル。それで、今は何を考えてるの?」

    そこで、再び彼女の表情が強張る。さて、彼女がここまで思い詰める原因は何だろうか、トレーナーとしての腕の見せ所である。と言っても、概ね検討は付いているのだが。

    「……貴女には関係の」
    「ヴィルシーナとのことかな?」

    自身の言葉を遮られ、彼女は驚きの表情でトレーナーを見つめていた。対するトレーナーはにこりと笑い、敢えて両の手を腰に当て、得意げに応えて見せる。

    「どうして、と言いたげな顔をしてるわね? さてさて、一体何年ジェンティルのトレーナーを務めてきたと思っているのかしら?」

    図星を言い当てられたジェンティルドンナは、バツが悪そうに視線を逸らした。しかし、トレーナーは慌てず、椅子に腰を落とす。

    「……今は敢えて何も言わないでおくわ。けど、言いたくなったらいつでも言ってね。あ、トレーニングがしたくなったらそれも教えて」

    そう言うと、トレーナーは鞄から参考書や直近の天皇賞のレースデータが詰まった資料を取り出すと、自分の仕事に取りかかった。目の前で急に置いてけぼりにされたジェンティルドンナは、一瞬戸惑ったものの、その戸惑いを即座に収める。座ったまま姿勢を正し、静かに瞳を閉じた。自分自身の心と向き合う為に。

  • 144二次元好きの匿名さん24/03/19(火) 01:53:19

    その日も、いつものようにヴィルシーナを呼び出した。けれど、彼女の表情は、普段私に向けるものとは全く異なるものだった。違和感を覚えながらも唇を重ねたが、それに対してもまるで何も感じていないかのような表情で私を見つめていた。堪らず、声を上げる。

    『貴女、一体どうされたの? 随分覇気が無いようだけど。まさか、直近のレースを引きずっていらっしゃるのかしら』
    『……少し、考え事をしています』
    『考え事……?』

    訝しげな表情の私を、彼女は真っ直ぐ見つめていた。ただ只管に、真っ直ぐに。そして、そっと私の両の腕を除ける。

    『これは、私が答えを見つけないといけない事ですから……ごめんなさい、今日はもう失礼しますわ』
    『貴女────』

    声を掛けはしたが、直感が告げていた。今の彼女は、きっと私に振り返らない、と。直後、先日の会話がフラッシュバックする。

    『ドンナちゃんさ、ホントの所ヴィルシーナの事どう思ってんの?』
    『どう、とは?』
    『ぶっちゃけ好きなんだろ? ヴィルシーナのこと』
    『あら、貴方ともあろうウマ娘が』
    『見てりゃ分かる。それとも違うのか?』

    普段は破天荒な振る舞いを見せる彼女が、そんな素振りを一切せず、言葉を遮ってまで詰めてくるのは珍しい。違和感を覚えながらも、彼女に応える。

    『好きとは違うわ。愛していますもの、彼女を』
    『ほーん。んじゃお前、ヴィルシーナから愛してるって言われたことある?』
    『私を受け入れておきながら、態々その言葉は必要かしら?』
    『断ったら面倒だから仕方無く受け入れてるだけなんじゃねーの。レースのことはともかく』

    一瞬、脳裏に火花が飛んだ。それを悟られないよう、心を抑える。

  • 145二次元好きの匿名さん24/03/19(火) 01:55:09

    『……仮にそうだとしたら、貴方はどうなさると言うの』
    『どうって、そうだな。今すぐヴィルシーナをデートに誘っても良いんだぜ。海底から宇宙空間、異世界まで、こう見えてゴルシちゃん、評価五ツ星間違い無しのオススメデートスポットには困らねーからな。なんなら妹達も誘ってよ』
    『────っ』

    今度は、脳裏に飛んだ火花を抑えられなかった。全身から沸き立つ感情を目の前のウマ娘に向ける。けれど、彼女は不愉快そうに私を睨むばかりだった。大きな溜め息と共に、彼女が一歩前に出る。

    『……あのな、ジェンティルドンナ。ヴィルシーナの事、本気で好きなら、そういうトコ早めにどうにかした方が良いと思うぞ。今はお前の事受け入れてるみたいだけどさ、ちゃんとヴィルシーナの気持ちと向き合っとかないと、なんかの拍子にスイッチ切ったみたいに何とも思われなくなるぞ。お前、そうなっても平気か?』

    反論しようと開いた口は、ゴールドシップに掌を突き付けて遮られた。

    『忠告はしたからな。ちゃんとアイツと話しろよ』

    ゴールドシップは、そう言い残して去って行った。思えば、彼女はこの事を予想していたのかもしれない。
    彼女の『考え事』が忠告の通りという保証も無いが、かと言ってこのまま何も行動せずに終わる事など、絶対に許さない。
    例え誰かが許しても、私が私自身を永遠に許せなくなる。ターフに君臨する"女王"としての私も、彼女に『愛している』と伝え続けた私も。
    そして、そのどちらにも只管に真っ直ぐ向き合い続けた彼女の想いを、無下にする事など決して許されないのだ。
    なら、私がすべき事はただ一つ。

    そうしてゆっくりと瞳を開くと、トレーナーと目が合った。私をスカウトした時と同じように、真っ直ぐな瞳で私を見つめていた。

  • 146二次元好きの匿名さん24/03/19(火) 01:58:30

    「これからどうするのか。答えは出た? ジェンティルドンナ」

    その問いかけに、ジェンティルドンナは一瞬どこか晴れやかな表情を見せると、すぐさま鋭くトレーナーに視線を返した。

    「ええ、当然でしょう。貴女、何年担当ウマ娘を側で見てきたと思っているのかしら?」
    「うん、よろしい」

    出会った頃から変わらない、嬉しそうで、それでいて懐の深さも感じさせる、にっこりと眩しい笑顔。
    今の私には、そんな彼女の笑顔が、とても心強かった。

    「それじゃあ、行こうか」

    トレーナーに促され、ジェンティルドンナは立ち上がる。ターフの女王として君臨するウマ娘に相応しい、凜とした姿だった。
    自分自身の衝動から始まったヴィルシーナとの新たな日々、その中にあった自身の想いに決着を付けるべく、彼女は力強く歩み出すのだった。
    そしてヴィルシーナもまた、自身の想いに答えを出すべく、決意を新たに空を仰ぐのだった。


    といった感じで、ふとした事から相手への想いをしっかり確認する切掛を得、お互いに抱いていた想いに決着を付ける事を決めたジェンティルドンナとヴィルシーナ

    という大変複雑なジェンヴィルが見られると聞いてきたのですが

    (※多分あと2、3本で終わります)

  • 147二次元好きの匿名さん24/03/19(火) 02:07:10

    最初のヴィブロスの爆弾発言で笑ってたら関係性がめちゃくちゃ進んだ!!!!どうしようすごくすごくドキドキしてきた

  • 148二次元好きの匿名さん24/03/19(火) 08:23:26

    冒頭から流れるように保健室に搬送されるデジたんで思わず草
    からのスパートのかかり具合がすごい

  • 149二次元好きの匿名さん24/03/19(火) 15:42:56

    アイエッ!
    尊いラッシュ…!チャドーの呼吸がなければ即死であった…

  • 150二次元好きの匿名さん24/03/19(火) 22:31:27

    完結が近付いてるのが嬉しくもあり寂しくもあり………

  • 151二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 02:28:38

    オレハマッテルゼ!

  • 152二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 09:41:55

    完結が近くて寂しいけど楽しみでもあるジレンマ

  • 153二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 14:51:02

    いつでも来ていいように正座をして呼吸を整えるのだ。
    ス──ッ!!ハ──ッ!!ス──ッ!!ハ──ッ!!

  • 154二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 22:35:04

    すみません、ここに来れば

    ヴィブロスが昼時のカフェテリアに落とした爆弾を切っ掛けに、トレセン学園には"ジェンティルドンナとヴィルシーナはライバルを越えた特別な関係である"という噂が一気に広がった。あの場でヴィルシーナは否定したものの、二人が人目の付かない所で会うようになる前に食堂でしていた事を知るウマ娘の証言がそれを助長した。
    三つのティアラを揃えた紅の女王と、史上初めて勝利の翼を二対重ねた蒼の女王。そんな二人がただならぬ関係と聞けば、今を煌めくスターとて年頃の少女。噂の真相が気になるのも致し方無い。

    「ねえねえ、シーナ。あの噂ってマジなの!?」
    「聞いたわよ、ジェンティル。"二人の女王"の話。実際の所どうなの?」

    二人のクラスメイトや友人達は、こぞって彼女達に事の真相を尋ねた。休み時間、昼食時、トレーニング中、様々なタイミングで声を掛けるも、ジェンティルドンナも、ヴィルシーナも、その話になると静かに微笑んだまま、ただの一言も語ることは無かった。

    「よーっす、お疲れい」
    「あら、珍しいわね。お昼が重なるなんて」
    「だねえ、こうして一緒に食卓を囲むのも久しぶりだ」

    カフェテリアで食事を取っていたジェンティルドンナのトレーナーに声を掛けたのは、ヴィルシーナのトレーナーだ。やれやれ、と声を上げながら向かい合うように腰を下ろす。
    二人は同期の桜だが、お互い担当ウマ娘を持つと友人同士として接する機会も少なくなっていく。データの確認、レース映像のチェック、スケジュールの調整等、多忙なトレーナー達はだいたい自室で食事を採るので、尚更だ。

    「普段はトレーナー室で食べるんだけどさ、そっちも大体事情は同じだろ?」
    「……まあね」

    だよな、とヴィルシーナのトレーナーはため息をついた。
    件の噂について、本人達がダメならトレーナーという訳で、彼女達も随分と質問攻めにあった。真相を突き止めたいウマ娘が自身のトレーナーを通じて二人にアレコレ聞いてくるし、頼まれたトレーナーも担当ウマ娘に便乗してきたりするから質が悪い。

  • 155二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 22:36:24

    いよいよ生徒会の出番か、と考えていた時、事情を聞いたゴールドシップがオルフェーヴルにも声を掛け、その手の目立つウマ娘達を片っ端から捕まえて黙らせてくれた。
    おかげで漸く落ち着きつつあるが、それでもまだ昼食を自室で取るのには抵抗が残る。オルフェーヴルの命を受けた臣下達が自室の前を固めているという状況にも、正直申し訳ない気持ちが勝った。

    「しかしまあ、ゴルシさんは兎も角、オルフェーヴルさんも協力してくれるなんてね」
    「彼女はその辺しっかりしてるよ。とかく筋の通らないコトには厳しいから、こういう時は頼りになる」

    笑いながら応えたが、ヴィルシーナのトレーナーは周囲をちらりと確認しつつ、声を潜めた。

    「……二人がああいう関係になってから随分ヴィルシーナのこと心配してたみたいなんよ、ゴルシくんと一緒にさ。『お前、大丈夫か? 妹人質に取られたりしてねーよな?』とか『彼奴の件、如何なる事でも構わん。故あれば躊躇わず余を頼れ。我が臣下として守護しよう』ってね」
    「そっか……ちょーっと二人が持ってるジェンティルのイメージについてすごくすごい釈然としない所はあるけど、それにしても助かるわ」

    安堵の微笑みを浮かべたジェンティルドンナのトレーナーだが、ハッとして再び声を潜める。

    「そう言えば、ヴィブロスさんは?」
    「ああ、シュヴァルくんとヴィルシーナと一緒に、アタシのトコにも謝りに来たよ。本人としちゃ日常会話の延長だったんだろうけど、何分、話題とタイミングが悪かった。想像以上に話が大きくなってショックだったようだし、何より大好きな姉に迷惑掛けたって、随分と落ち込んでたよ。ま、アタシが笑って許すと言ったら向こうもホッとしたように笑ってたから、多分大丈夫だろうさ」
    「そう……私もだいたい同じだわ」

    ホッとしたように息を付いた彼女に対し、今度はヴィルシーナのトレーナーがずいと机に乗り出した。

  • 156二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 22:38:09

    「ヴィブロスくん、会ったのかい? ジェンティルくんにも」
    「ええ、姉妹同伴でしっかり謝ってたわ。ジェンティルも『以後、軽率な発言には気を付けなさい』って笑顔で彼女の頭を撫でて済ませていたから、きっと大丈夫よ」
    「そっか……それなら良かった。で、本人達はキミと話をした日からまだ二人で会ってないんだよね?」
    「恐らくはね。けれどここから先は二人の問題、私達ができるのはここまで。でも……大丈夫。あの時、に啖呵を切って見せた彼女は、間違い無く私が惚れたジェンティルドンナだった。あの子達を信じて、私達は待ちましょう」

    その言葉に、ヴィルシーナのトレーナーはニッと笑みを浮かべ、深く頷いた。
    ───────────
    「……あら、貴女」

    ジェンティルドンナが西日の差しこむ更衣室の扉を開けると、丁度ヴィルシーナがロッカーの扉を開けた所だった。トレーニングの終わり時間が被ったのだが、こうなるようにおおよその時間を見積もってもいた。
    真っ直ぐ彼女の隣に並んだジェンティルドンナは、ヴィルシーナに手を伸ばす事無く、ロッカーに手を掛ける。

    「こうして会って話をするのも、なんだか久しぶりですわね」
    「ええ、そうですね」

    二人の会話は、そこで止まる。けれど、二人はロッカーの扉に手を掛けたまま、動かない。まるで、お互いに何かのタイミングを図っているかのように。

    「……そう言えば、貴女。考え事があると言っていたけれど、それはもう解決なさったの?」

    彼女に何事か悟らせないよう、微笑みを浮かべて問いかける。
    その問いかけに対し、ヴィルシーナはようやくロッカーの中へと手を伸ばした。そして、微笑みを以て応える。

    「その話ですけれど……貴女さえ良ければ、久しぶりにいかが?」

    その手には、尻尾と耳に使用する愛用のブラシが握られていた。不意を突かれて驚きの表情を見せるジェンティルドンナに対し、ヴィルシーナからは笑みがこぼれる。

    「そう言えば、お互いにケアをするようになったのも、貴女が切掛でしたわね」
    「……そうね」

    微笑みを返しながら、備え付けの長椅子に二人で腰掛けた。

  • 157二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 22:39:29

    ブラシはゆっくりと丁寧に、全体の流れを見極めながら優しく通す。尻尾のケアは想像以上にデリケートな作業、力加減が弱いといつまでも整わないし、強すぎると痛みを伴う。
    妹たちの世話で慣れたヴィルシーナは、そのデリケートな力加減をよく分かっていた。

    「……それまでは貴女を呼び出して口付けを交わすだけ。けれど、私はもっと深く貴女と触れ合いたかったの」
    「まさかとは思うけれど、その為だけに私の耳の手入れを申し出たと言うの? わざわざ指導を受けて、あんな風に私を煽ってまで?」
    「当然でしょう? 私、こう見えて貴方をずっと愛していますもの」

    そう言って、ジェンティルドンナは微笑みながら振り向いた。一瞬呆気に取られたヴィルシーナだが、すぐにその表情を崩した。

    「……貴方らしいこと」

    そう言って微笑んだヴィルシーナに促され、ジェンティルドンナは彼女の膝の上に身体を横たえた。更衣室の長椅子は少し小さいが、その分身体を寄せ合って彼女に自身を任せる。

    「……凛々しい方、と言うのが最初の印象。立ち居振る舞いに気品を感じるけれど、妹達に囲まれて、可愛らしいとも思ったかしら」

    片側の耳のケアが半分程過ぎた所で、ジェンティルドンナがぽつりと切り出した。
    トリプルティアラを目標に掲げてクラシック入りしたウマ娘の中でも、重傷を制覇してティアラ戴冠の有力候補となったジェンティルドンナとヴィルシーナ。
    竜虎相搏つと囃されたものの、終わってみれば結果は知っての通り。
    そう、着順だけを見れば両者の差は明らかだったが、それが、あの時同じターフに立ったジェンティルドンナから見ても同じだったかと言えば、決してそうではなかったのだ。

    「桜花賞、ゴール板の直前で差し切った私の背後から、突き刺さるような意思を感じたの。普通なら、ゴールしたその一瞬だけで終わるはずのそれは、その後もずっと私の背中に突き刺さっていたわ。より着差が開いたハズのオークスでもそう……いえ、むしろ、より深く、鋭く私の心を穿った。レースは、勝者だけが正義。けれどその時の私は、その強烈な感覚を忘れられなかった」

    ヴィルシーナにとっては苦い思い出の1ページ。けれど、彼女は静かにジェンティルドンナの想いに耳を傾けていた。先端から付け根に至るまで、優しく丁寧に彼女の耳を撫でながらこれまでの彼女との日々を思う。

  • 158二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 22:40:50

    「秋華賞の最後の直線、大逃げを打って先頭で前を向いた子を追い抜いて、それで決着。そう思っていたわ。けれど、私のすぐ側に、貴女が居た。ただ只管に前だけを向いて、今までで一番大きくなった、まるで殺意と見紛う程の激情と決意を纏った貴方が」
    「……それで虜になったと仰るの?」

    両の耳のケアを終えると同時に、ヴィルシーナは問いかけた。ジェンティルドンナは、身体を彼女の膝に横たえたまま、静かに微笑んだ。

    「……凛々しい気品を纏う貴方から、妹達を慈しむ優しい貴女から向けられた、全身を貫くような激情。あの長い長い写真判定の間、私は貴女から目が離せなかった、離せなくなっていた。共に走るなら、競り合うなら、側に居るなら、貴女が良い。学園のターフでも私に鋭くあの時と同じ感情を向けて下さる貴女に、ずっと虜でしたの。思わず唇を奪ってしまう程に」

    そこまで語り、ジェンティルドンナはヴィルシーナの膝から起き上がった。その表情には薄らと影がかかる。

    「もしも桜花賞で、半歩私のスパートが遅れていたら。もしも秋華賞の写真判定が違っていたら……きっと貴女へのこの想いは生まれなかった。初めて貴女を抱き寄せてからの日々も無かった。貴女を想えばこそ考えてはいけないと分かっていても、私の心はそう思ってしまうの……さあ、今度はこちらへいらして?」

    誘われるまま、ヴィルシーナはジェンティルドンナの膝に身体を横たえた。
    相も変わらず絶妙な力加減でブラシを耳に滑らせる彼女に、ヴィルシーナも口を開く。

    「……ずっと考えていました。不意に貴女に抱き寄せられ、唇を奪われ、一方的に愛情を向けられ、貴女のしたい事をして、それでも私が貴女から離れなかった理由を」

    ジェンティルドンナも先程の彼女と同じように、先端から根元まで丁寧に耳のケアをしながら彼女の想いに耳を傾ける。

    「もしも貴女が同期で無ければ、せめてあの写真判定が違っていれば。何度そう思ったことでしょう。けれど、レースに『もしも』は無い。ゴール板を駆け抜けるまでの過程や理屈に意味は無く、純然たる結果がそこにあるだけ……貴女の言う通りね」

    彼女の想いを受け止めて尚、ジェンティルドンナの指先に澱みは無い。彼女がどんな想いをぶつけてこようと、受け止める覚悟はとうにできていた。

  • 159二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 22:42:24

    「それでも……それが、貴女だったから。勝者として、絶対的な女王に相応しい強さも、品格も、誇りも、美しさも、気品も、厳格さも。それらを兼ね備えて頂点に君臨したのが貴女でなければ、私もきっとここに居なかった。貴女がそこに居たから、私は挫けず挑戦し続けて、"もう一人の女王"になれたのよ」

    両方の耳のケアが終わり、ジェンティルドンナはそっとブラシを置いた。ヴィルシーナはゆっくりと起き上がり、彼女の隣に身体を寄せる。

    「正直、まだ貴女への想いについて、よく分かっていない所はある……けれど、貴女へ向けた嫉妬や悔しさ、そんな苦い気持ちの中に、確かにあったのよ。それらを全て飲み込んで向かっていこうと思える程に、貴女の背中に、貴女自身に惹かれる想いが。きっと、貴女が私に向ける想いと、同じものが」

    瞳を閉じて、ふ、と小さく微笑む。しばし感慨に耽り、再びその瞳に彼女を映した。

    「ヴィブロスのおかげでようやく気付けましたわ。初めからずっと、答えはすぐそこにあった。ただ、あまりにも近すぎて気付いていなかっただけ……そうでなければ、突然一方的に愛情を向けてくる貴女の側に、態々居続ける理由なんてないでしょう?」

    どこか緊張感を纏っていたジェンティルドンナの表情が、和らいでいく。ただ、目の前の相手を想う、優しい瞳だった。

    「だから、今度は私にも言わせて下さる?」

    そうして、ヴィルシーナは彼女の手を取る。

    「愛しているわ、ジェンティルドンナ。貴女を」

    刹那、ジェンティルドンナはヴィルシーナを抱き寄せて唇を重ねた。それは、自身を刻み込むような暴力的なものではなく、優しく慈しむような愛を込めた口付けだった。言葉にしなくても伝わる想いを受け止めたヴィルシーナも、両の腕で彼女を抱き寄せ、二人はしばし想いを交わしあった。
    二人の唇がゆっくり離れると同時、ジェンティルドンナは自身の指先をヴィルシーナの太腿に沿わせ、愛おしげに撫でながらゆっくりと滑らせる。いつしかその指先は、ヴィルシーナの体操着とタイツの境目をなぞるようにして太腿の付け根を内側へと這っていく。ここに至り、ヴィルシーナが慌てて声を上げた。

  • 160二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 22:43:38

    「ちょっと、貴女……!」
    「ふふ、言葉を重ね、唇も重ね、尻尾も重ね合わせたというのに、今更何を慌てていらっしゃるの?」
    「……そういう事なら、場所くらい選んで欲しいのだけれど」
    「あら、私が貴女に場所を選んだ事があって?」

    確かにそうだったかもしれない。だが、それは最初の頃だけで、実際には人目に私が苦言を呈すとすぐさま気を遣ってくれていた事を思い出し、ヴィルシーナは一瞬彼女に微笑ましい想いを抱いた。
    それが通じたのかどうかは分からないが、ジェンティルドンナはふふ、と笑みを零す。

    「言われなくても、鍵と使用中の札はしてあるから安心なさって」
    「……随分と用意周到ですこと」
    「更衣室に貴女しか居なかったものだから……こうして想いをぶつけ合うのに、誰かの邪魔が入っては困るでしょう?」
    「つまり、最初からその気だったという事ね……」
    「強いて言うならば、貴女が扉の向こうに気付かれるような声を上げなければ、誰かに気取られることはなくってよ?」

    先程までの雰囲気はどこへいったのか、相も変わらず煽る言い回しが息をするように飛び出して来る。けれど、これが彼女────ジェンティルドンナなのだ。ヴィルシーナは、その事を誰よりも理解していた。
    だから、彼女は敢えて不敵な笑みを以てジェンティルドンナに応える。彼女の体操服の裾から自身の指を差し入れると、腰元の括れを指で捉えてそっとなぞる。彼女の瞳に灯った愛情の甘い炎が、俄に大きくなったのが分かった。

    「言っている割には、随分と積極的ではなくて? 煽るのが得意なのは結構だけれど、そうしてご自分がどうなるかを考えないのは如何なものかしら」
    「仕方がありませんわ。こうして貴女の我侭を受け止める事が出来るのは、私しかいませんもの」

    彼女がそう返すと、ジェンティルドンナは満足げに笑みを浮かべ、一度止めていた指先を再び体操着とタイツの境目に這わせ、太腿の内側へ潜り込ませる。それに応えるように、ヴィルシーナもまた、彼女の腰元に宛がった指先を肌の上で妖しく踊らせた。甘い色香を纏った吐息と声が漏れ、自然と重ねた唇が奏でる艶やかな音と共にお互いの脳髄を刺激する。それは、二人の心と身体に灯った愛情の熱波を更なる高潮へと導いていった。
    そして────。

  • 161※場面転換<状況判断な>24/03/20(水) 22:44:53

    レースは中盤を過ぎ、澱み無く進む。朝からの雨による重馬場のせいか、全体のペースは遅めだ。だが、どのウマ娘にも焦りの表情は無い。スパートへ向けて、虎視眈々とタイミングを計る。
    中段やや後方に居た彼女も、決してここからの勝利を諦めない。頑張っても精々善戦が関の山、きっと掲示板さえ無理だと言われても、決して挫けない。彼女は、そう決めたのだ。

    (絶対に諦めない、絶対に勝つ、絶対に……絶対に……っ!)

    小さい頃から、特別な取り柄があった訳じゃない。勉強は普通だし、運動なんてウマ娘の中でも普通以下。それが私。
    そんな自分を変えたくて、一念発起してトレセン学園に入学したけど、そこに待っていたのは、"自分は結局どこにでもいるその他大勢"という現実だけだった。
    私はずっとこのままなのかな、なら、私がここにいる意味って、何なんだろう。そう思い始めた時、あのレースを見たんだ。

    『五度目の正直かヴィルシーナ!! 内を躱した、しかし外からも迫る!! ヴィルシーナどうか!?』
    『着順が出ました!! ヴィルシーナ!! ヴィルシーナです!! 五度目の正直、遂にGⅠの栄光を手にしました!!』

    何があっても、頂点を獲るまで挫けない。簡単に言うけれど、簡単にできることじゃない。でも、それをして見せたあの人は、すごくカッコ良かった。勇気の欠片を、貰ったような気がしたんだ。
    背も低いし、身体も小さいし、勉強も、走りも普通で、あの人が持ってるもの、一つも持ってない。そんな私でも、なれるかな。なれると良いな。

    ────なりたい。あの人みたいな、カッコ良い主人公に。

    それから、教官の指導や授業だけじゃなくて、時間を見つけてはがむしゃらに走り込むようになった。そんなある日のこと。

    『はい、ひい……あ、あともうちょっと……だけ……』
    『渇ーっ!!!!』
    『アイエエエ!?』
    『インストラクションだ!! 『無謀な鍛錬百害あって一利なし、無事之名ウマ娘と心得よ』!!』

    頭上からの声に驚いて叫んだ瞬間、どこからともなく飛び出した人影が私の前に着地した。倒れ込んだ私が目を白黒させていると、その人はそっと両の手を合わせ、奥ゆかしくオジギした。

  • 162二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 22:46:17

    頭上からの声に驚いて叫んだ瞬間、どこからともなく飛び出した人影が私の前に着地した。倒れ込んだ私が目を白黒させていると、その人はそっと両の手を合わせ、奥ゆかしくオジギした。

    『ドーモハジメマシテ、トレーナーです。オヌシ、名は何と言う』
    『ど、ドーモハジメマシテ、トレーナー=サン。私は、も……モブガヤエキストラ、です』
    『オヌシ、何故そうまでして自分を追い込む。怪我をするぞ』
    『そ、それは……』
    『変わりたいのか』

    心を読まれたのかと思った。私の表情が変わったのに気づいて、トレーナー=サンの瞳が光る。

    『未熟な自分を、変えたいのか』
    『か……えたい。変えたい、です。私、変わりたいです! どこにでも居るモブじゃない、私だけの物語の主人公に!』
    『よろしい。ならば変えようではないか』
    『えっ……!?』
    『オヌシの魂に類稀なる不屈を見た。その原石、ワシが輝かせて見せようぞ!!』
    『そ、それって……!』

    トレーナー=サンは静かに微笑みを浮かべ、私に手を伸ばした。

    『オヌシをスカウトしたい』
    『……ハイ! ヨロコンデー!!』

    努力は、きっと誰かが見ていてくれる。夢にまで見た、トレーナーとの契約。
    トレーニングは、私の小さな身体の強みを活かし、インストラクションは私の心を鍛える。少しずつ、自分が変わっていくのを感じた。そうして初めて勝った日の空の色は、いまでも鮮明に覚えている。
    それからも、重賞に何度も挑戦しながら勝ちきれない私に、折れそうになった私に、トレーナー=サンは何度も渇を入れてくれた。転んでも、転んでも、その度に立ち上がって、前を向いて走った。

  • 163二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 22:49:16

    『バッカお前、終盤入った瞬間そっからワープして一着になんだよ!!』
    『アイエッ!? どうやってですか!?』
    『んなもん固有の接続・ノンスト・乗り換え・逃亡者・真っ向・影・ハイボル、使えるモンは何でも使いやがれ!!』
    『何なんですかそれは!?』

    ある時は、偶然名前を覚えてくれていた雲の上の人から指導(?)を受けたりして。

    『ゴルシさんから聞いたわ、本当にありがとう。妹とお揃いで買ったものだから、無くしたりしたらどうしようかと……貴方のおかげよ』
    『とんでもないです! お役に立てて良かったです!』
    『お礼と言ってはなんだけど、これから一緒にトレーニング、いかがかしら?』
    『は……ハイヨロコンデー!!』

    忘れ物を届けたのをきっかけに、憧れの人と一緒に走った。やっぱり、私には遠い目標だと思う。それでも、あの時貰った勇気を、思い出した。沢山の人が、私を支えてくれた。私の背中を蹴飛ばしてくれた。それでも、前へ向かって走れ、と。その全てを、今日、ここで、全部ぶつけるんだ。

    京都レース場、芝1600m右回り、残り600m。次々にスパートに入る前のウマ娘達に続くように、彼女は思い切り息を吸い込んだ。そして────。

    「Wasshoi!!!!」

    決断的シャウトを放ち、雨で重くなったターフを全力で蹴って集団から飛び出した。それは、どこにでもいるモブでも、賑やかしのガヤでも、数合わせのエキストラでもない。
    泥だらけの勝負服を纏った────ヒーローのエントリーだ。

    「そうだ、初心を忘れず己の信じる道を往け! モブガヤエキストラ=サン!」
    「よっしゃぁ、そこだ!! ワープしろ!!」

    スパートを捉えたトレーナーと、応援に駆けつけたゴールドシップが声を上げる。その視線の先で、彼女は一気に前へ進出する。

    『ここで後方からモブガヤエキストラ! 驚きです! 小柄な身体を活かして飛び出し、他のウマ娘が避けた荒れた内側の馬場を選びました!! しかしその走りは実際軽快!! 荒れた馬場をものともせずぐんぐん前へ出ます!!』
    「ったりめーだろ、誰が鍛えたと思ってやがんだ」

    ギアを上げていく実況に、ゴールドシップがハナで笑って応えた。彼女が皐月賞で見せた驚きの走りが、観客の脳裏にもフラッシュバックしていた。

  • 164※状況判断ここまで24/03/20(水) 22:51:53

    最終コーナーを抜け、ライバル達の誰より早く正面を向いた彼女は、更に脚の回転を上げる。ライバル達も必死に追い縋るが、彼女の竜巻めいたピッチ走法を前に、その差を縮める事が出来ない。だが、彼女にも限界が迫る
    視界はぼやけ、口は開き、息が詰まる。脚の回転はいつ止まってもおかしくない。それでも、彼女は最後まで、全身全霊を尽くすと決めた。あの人なら、きっとそうするハズだから

    「イヤーーーーッ!!!!」

    最後の力を振り絞り、彼女は叫んだ。前を遮るモノは、もう、何もない

    『決まった! 遂に決まった!! 勝ち取った!! 最早その他大勢でも、脇役でもない!! 刮目せよ!! このレースの主人公を! ヒーローを!! その名は、モブガヤエキストラだぁぁぁぁぁぁ!!!!』

    実況が感情を爆発させると共に、集まった大勢のファンから歓声が上がる。その瞬間を見届けたトレーナーは、それまでの厳格な表情を崩し、笑みを浮かべた

    「見事……見事だ、モブガヤエキストラ=サン……!」
    「やりやがったぜ、おい!! あーくそっ! アイツにも見せてやりたかったなぁ!! っておい、泣いてる場合じゃねえぞ! ライブ前に胴上げだ胴上げ!!」
    「これは雨だ! 泣いてなどおらぬわ、バカ者が!!」

    ゴールドシップに促され、トレーナーもモブガヤエキストラの元へと急ぐ。その先で、彼女はターフに身体を落とした。

    「ハッ、ハァ……ハァ……! やった……やったんだ……私……!」

    全てを出し尽くし、ターフにへたり込んだ私に、ようやく実感が湧いてきた。たくさんの"おめでとう"と"ありがとう"が聞こえる。なのに、視界が滲んでよく分からない。涙を拭った先の空は、分厚い雲で覆われ、雨は未だ降りしきる。それでも私はきっと、この空を一生忘れないだろう。引退しても、誰もが私の名前を忘れても、ずっと
    私はゆっくり立ち上がり、喜びを両の腕に握りしめて曇天へと突き上げた

    「やったぁぁぁぁぁぁ!!!!」

    歓喜の声と共に雲を割らんばかりの歓声が響き渡る。自分という主人公になれた彼女の笑顔は、それを見ていた大勢の人に勇気を与えた。いつか自分が貰った勇気の欠片を、今度は彼女自身が大勢の人に届けたのだ
    そのレースを見守っていた全ての人達は、ウイニングライブの最後の一音が終わっても尚、栄光を掴んだヒーローをいつまでも祝福し続けていたのだった

  • 165二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 22:53:03

    「貴女、いつまでこうしているつもり? 私はいい加減トレーナーさんの所へ行きたいのだけれど」
    「ふふ、前も同じようなコトを聞かれた気がしますわね。答えは必要かしら?」
    「……いえ、必要ありませんわ。きっと何度でも、貴女は満足なさらないでしょうから」

    そう答えたヴィルシーナに満足げな笑みで応えると、ジェンティルドンナは再び彼女に唇を寄せる。
    最後に交わした口付けの後、二人は着替えを済ませ、後は揃って寮に戻るだけであった。
    しかし、このまま一緒に寮へ戻ると周囲の尽力で鎮火した噂にまた火が付くかもしれないし、トレーナーにも用が出来たから、とヴィルシーナは彼女と別れ、その場を後にした。が、直後ジェンティルドンナに後ろから抱きしめられ、近くの教室に連れ込まれて今に至る。触れ合うだけの優しい口付けが、なんだかくすぐったい。

    「今すぐ会いにいかないといけない事情とは、私との事かしら? それなら明日の報告でも問題ないでしょう」
    「……いいえ、貴女との事だから、一刻も早く伝えなくてはならないの」

    突如向けられたヴィルシーナの凜とした声に、ジェンティルドンナは驚きの表情で彼女を見つめる。その身体は、ターフに立った時と同じ気迫を纏っていた。

    「そうね、まずは貴女との関係について。私と貴女との事はもう心配ないと伝えて、私達の為に苦心して下さったトレーナーさんに感謝を伝えなくては。そして、もう一つ、決めた事があります」

    そこで、ヴィルシーナは一つ深く息を付いた。そして、もう一度彼女に向き直る。

  • 166二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 22:56:19

    「私は、今年いっぱいでトゥインクル・シリーズを引退する事に致しました。その最後のレースとして、有馬記念に出走致します」

    ジェンティルドンナの目が大きく見開かれ、刹那、彼女はこれ以上無い程に嬉しそうな笑みを浮かべた。
    全てのティアラを戴き、それに留まらず多くの偉業を為した"貴婦人"ジェンティルドンナ。彼女の引退レースとして既に発表されていたレースが、全てのウマ娘の夢が集う年末の大舞台・有馬記念。それに出走するという事は、彼女へ挑戦状を叩き付ける事に他ならない。
    絶対的な強者が纏い、生半可なウマ娘では近づくことさえままならない覇気を前にして尚、ヴィルシーナは不敵な笑みを向ける。

    「貴女の愛に応えて共に走ることが出来るのは、これが最後。貴女にとっても、私にとっても。聞くまでもないと思うけれど……この挑戦、受けて下さいますわね?」

    ヴィルシーナの言葉通り、それは聞くまでもない事だった。溢れ出る歓喜を抑えられないジェンティルドンナは、ヴィルシーナから身体を一歩後ろに下げ、優雅なカーテシーを以てヴィルシーナへ礼を尽くす。そして────。

    「どうぞ、かかっていらして? 貴女の全てを以て」

    全身が痺れる程の緊張感に包まれて尚、二人はお互いをターフに立つ時と同じ、激情を込めた決意の瞳で見つめる。
    トゥインクル・シリーズに偉大な記録を打ち立てた、二人の女王。その最後のレースが目前まで迫っていた。


    と言った感じで、ちょっとしたトラブルはあったもののこれまでのアレやコレを経て相手に抱いていた想いを真っ直ぐに伝え合いながら正式に結ばれ、間にあった澱んだ空気を全て取っ払ったらそのまま最後の舞台へ向かって歩み出すジェンティルドンナとヴィルシーナ

    という大変複雑なジェンヴィル(と、その影で一人のウマ娘がヒーローになった話)が見られると聞いてきたのですが

    (※恐らく次回で終わります)
    (※状況判断した部分を書こうとした担当者はピンクオタニンジャ=サンのヒサツ・ワザで爆発四散しました)

  • 167二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 23:34:41

    濃厚なジェンヴィルに面倒見MAXのゴルシちゃんの株がどんどん上がる良いスレだ…

  • 168二次元好きの匿名さん24/03/21(木) 03:38:21

    ジェンヴィルがついに成ったこととモブガヤエキストラ=サンの躍進で大号泣
    二人の心が通じ合う瞬間がたまらないんじゃ………

  • 169二次元好きの匿名さん24/03/21(木) 10:54:42

    俺の心の中のデジたんが天へ旅立った

  • 170二次元好きの匿名さん24/03/21(木) 13:25:37

    Wasshoi!!!!!!!!!!!!!!!
    素敵なジェンヴィルとモブガヤエキストラ=サンをありがとう…良いカラテだ…

  • 171二次元好きの匿名さん24/03/21(木) 20:35:15

    なんたるワザマエか。
    ジェンヴィルカラテの高まりを感じるぞ…「注意は一秒、後遺症が死ぬまで」
    過剰な尊みで爆発四散せぬよう気をつけねば。

  • 172二次元好きの匿名さん24/03/21(木) 20:35:57

    俺の中のどぼめじろう先生も亡くなられました
    本当にありがとう

  • 173二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 02:05:19

    毎回本当にありがとう

  • 174二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 08:34:33

    あの有馬で大団円かぁ

  • 175二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 16:01:04

    モブガヤエキストラ=サンのトレーナー=サン常時メンポつけてそう

  • 176二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 16:47:44

    ありがたやあ
    ありがたやあ

  • 177二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 23:44:18

    すみません、ここに来れば

    「正直、未知数だね」

    冷たい風がトレセン学園に吹き荒ぶようになったある日、ヴィルシーナのトレーナーは担当ウマ娘を鋭く睨んで言った。

    「適性を考えれば決して走れない距離ではないと思う。しかし、これまでキミは中山を走った事が無い。未知の2500を走るとなると、話は別だ」
    「分かっています。その上有馬記念ともなれば、彼女だけでなくゴールドシップさんのような格上の相手が大勢出走する事でしょう。それでも、私は最後まで頂点を目指します」

    立ちはだかる相手が誰であろうと、ティアラに最も迫った者として、勝利の翼を二対手にした者として、最後まで誇り高く走り抜く。決意と共に力強く応えたヴィルシーナに、トレーナーはふ、と笑みを零した。

    「キミなら必ずそう言うと思っていたよ。ジェンティルくんの事を抜きにしてもね。でも、キミが彼女と過ごした日々は、色々な意味でキミの力になったと思うよ」

    トレーナーは机から資料を取り出し、ヴィルシーナに向けて並べた。それは、彼女がジェンティルドンナと共に過ごすようになってからの併走データであった。
    最初の一件以来、ジェンティルドンナは隙あらばヴィルシーナを併走トレーニングの相手に指名し、結果ヴィルシーナ側の併走スケジュールは片っ端からジェンティルドンナの名前で埋まっていった。

    「初めの頃は二人して、うへ、って顔を見合わせたねえ。けど、彼女には失礼だが、この状況は大いに利用できるとも思った」
    「……彼女と私との、今の距離を推し量ることができる。そして、その距離を都度突き付けられ、それに立ち向かうことが、私を今までよりも、ずっと強くしてくれる」
    「……正直、苦い思い出と向き合う事になるから、キミがそう言ってくれなかったらどうしようかと思ったよ。でも、脚を磨く極上の砥石が向こうからキミを求めているんだ。こんなチャンスは無いよね」

    ニッと笑みを向けたトレーナーに対し、ヴィルシーナも感慨深く微笑んだ。
    私の意識を、視線を、兎にも角にも自身へ向けないと気が済まなかった貴女に、何度も挑み続け、時には私への激情を隠す素振りも見せずに全力でターフを蹴る貴女を、死力を尽くして追った。
    連絡の行き違いが原因でゴルシさんが巻き込まれた時は、二度と御免被る、って何度も文句を言われたっけ。
    けれど、今なら彼女の想いも、分かる気がする。

  • 178二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 23:48:12

    「ジェンティルドンナという砥石に、キミは対抗意識という情熱の炎を燃やしてぶつかっていった。キミの脚は少しずつ、でも確実に鋭く磨かれていった。そして、その結果がコレだ」

    机に広げたデータの上に、トゥインクル・シリーズの記事を重ねる。前々走の宝塚記念では、ゴールドシップの爆発的な追い上げに突き放されての三着。そして前走は、方針を切り替えエリザベス女王杯へ直行。このレースで、ヴィルシーナは────。

    「先頭がキミに変わって最終直線を向いた時、取ったと思ったよ」

    好位置を譲らず先頭を奪った子の後方に、ヴィルシーナはピッタリと付いていった。前を主張しつつスリップストリームを活かし、体力を温存する策である。身体が人間とほぼ変わらないサイズのウマ娘とて、最高時速70㎞でターフを駆けるのだから、先頭を逃げる子が受ける空気抵抗も決してバカには出来ない。そうして温存した脚を活かし、最終コーナーを回った所で外から7番の子を差し返し、先頭に立った。
    しかし、両者の間から抜け出してきた子と、内の集団から末脚で一気に飛び込んで来た子の二人に差しきられ、結果は三着。だが、有馬記念へ最後の挑戦を決意した彼女にとっては、大いに意味のある三着だった。

    「最後まで粘る事が出来ませんでしたわ。悔やまれるレースでした」
    「それでもだ。ヴィクトリアマイルを連覇、宝塚記念三着、エリザベス女王杯で三着。キミの脚は去年の自分を圧倒的な速度で追い抜いて行った。未知数とは言ったが、ワタシは決して有馬記念を取れないとは思わない」

    ヴィルシーナの後ろ髪を引く言葉を斬り捨て、トレーナーは机の上に乗せたそれまでの資料を隅に追いやる。そして、次に取り出したのは新たに拵えたトレーニングメニュー。無論、有馬記念を見据えてのものだ。

    「これからやる事は、キミの"逃げ"の完成度を上げる、その上でキミの経験から更に100m長く走りきる為のスタミナを付ける、二度立ちはだかる中山の急坂の攻略する為のパワーとスピードの強化、終盤のスパートタイミングの正確な見極め、そして最後の坂を越えてゴール板を越える迄の最後の一手まで磨くことだ」
    「……ふふ、本番までに身体が参ってしまいそうですわね」

    そう言いながらも、既にヴィルシーナの瞳には凜とした気迫が宿っていた。力強く不敵な笑みを前に、トレーナーもまた鋭く口角を上げた。

  • 179二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 23:52:22

    「レースの直前まで、出来る事はなんでもやるよ。これが最後だが、勝つためにこれまでで最もキミを追い込んでいく事になるかもしれない……それでも、行くかい」
    「勿論ですわ。私の誇りにかけて、必ずや有終の美を飾ってご覧に入れます」

    纏った気迫を昂ぶらせるヴィルシーナに、トレーナーはよし、と一言呟くと、スマホを取り出しLANEを開いた。Enterキーを押すように力強く一発タップすると、直後、ノックの音が部屋に響いた。

    「お、来た来た。どうぞー」
    「お邪魔しまーす☆」

    底抜けに明るい声と共に部屋に入ってきたメンバーを見て、ヴィルシーナは一瞬顔を引き攣らせた。

    「こんにちは、ヴィルシーナちゃん! 今日からファル子達と一緒に、最後のレースに向けて頑張ろーね!」
    「共同ミッション『有馬記念を見据えたスタミナ強化』及び『中山レース場の坂の攻略』承りました。よろしくお願い致します」
    「私の走りがどこまで参考になるか分からないけれど……一緒に頑張りましょうね」

    目を白黒させるヴィルシーナに対し、トレーナーは得意げに笑った。

    「課題を一つ一つ潰していく時間は無いからね。できる限り複数の課題を同時進行で解決しようと思う。その為に最適だと思う人材を集めさせて貰ったよ」

    脚質"逃げ"と聞いて真っ先に思い付くようなウマ娘が三人揃って登場した事に一瞬面食らったヴィルシーナだったが、即座にハッとして姿勢を整えると、まずは静かに礼をした。

    「この度は、私のトレーニングにお付き合い頂き、ありがとうございます。至らぬ所ばかりとは思いますが、厳しく鍛えてくださいますと嬉しいです。短い期間ですが、どうぞよろしくお願いします」
    「そんなに固くならなくて良いよ! あと、私の事は気軽にファル子って呼んでね!」
    「いえ、流石にそれは……ファルコンさん、でお願いできればと」
    「うんうん、最初はそれで良いよ! ヴィルシーナちゃんがそう呼べる距離感になったと思ったら、ファル子って呼んで欲しいな☆」
    「……はい!」

    ダート界にその名を轟かすスターウマドルに任せれば、アイスブレーキングは問題あるまい。
    一先ず胸を撫で下ろし、トレーナーは窓の先の曇天を見上げた。
    さあ、最後の勝負といこうじゃないか────ヴィルシーナの底力、舐めんなよ。
    有馬記念まで、あと三週間。

  • 180二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 23:54:30

    昼時の食堂は、お腹を空かせたウマ娘達で今日も賑わっている。その賑わいの中に、食事を終えた後も静かに佇むウマ娘が一人。嬉しそうな笑みを浮かべてはいるが、レース直前のような圧倒的な強者の覇気が彼女の周りを包み込み、その一角は異様な雰囲気を醸し出していた。
    誰一人机に近寄らない状況の中、その空気を物ともせず、一人のウマ娘が向かい合うように腰掛けた。

    「随分と機嫌が良いようだな」
    「あら、オルフェーヴルさん。どうなさったの? 態々私の元へやって来るなんて。貴方にとて、私の声はひどく耳障りなのではなくて?」
    「フン……欣喜雀躍、息災で結構」

    ええ、とても。そう一言返し、ジェンティルドンナは微笑んだ。オルフェーヴルは、険しい顔のまま大きく溜め息を付いた。

    「何があった。貴様がそれ程の感情を垂れ流すとは」
    「そう仰いながら、とっくに検討は付いているのではなくて?」
    「都度煽るな、鬱陶しい……貴様の事だ、ヴィルシーナ絡みであろう」
    「……ええ、そう。そうよ、オルフェーヴルさん」

    オルフェーヴルがヴィルシーナの名を出した瞬間、彼女はその深紅の瞳を大きく見開いた。表情は変わらず、喜びに溢れた笑みを湛えている。

    「休養日に、彼女のトレーニングを観察していましたの。その日は実戦を想定してのタイム計測。想定は、中山レース場、芝2500m右回り。この条件が何を示しているか……貴方に説明の必要はありませんわね」
    「……それで?」
    「ゴールした時のタイムを、後程拝見致しました」

    その言葉に、オルフェーヴルの瞳がピクリと動いた。その表情に驚きの色が混ざる。

    「越えたのか、貴様を」

    オルフェーヴルの問に対し、ジェンティルドンナは変わらず嬉しそうな笑みを湛える。そして、静かに自身の胸に手を当てた。

    「ここまで、ここまで迫っているのよ。彼女の脚が、彼女の想いが、彼女の愛が、私を捉えようとしているの。これ程嬉しい事があるかしら、オルフェーヴルさん?」
    「……」
    「応えなくてはならないわ。彼女の愛に、走りに、想いに。私達のトゥインクル・シリーズの最後を飾るのに相応しいレースを、誰の瞳にもその刹那が焼き付くような走りを、必ずやご覧にいれましょう」

  • 181二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 23:57:12

    そう言って、ジェンティルドンナは長く、長く息を吸い込んで胸を一杯にすると、ゆっくりとその全てを胸の中から追い出した。同時に、彼女の纏っていた近寄りがたい程の覇気が薄れていった。

    「貴方には感謝しているわ、オルフェーヴルさん。私のトレーナー、そして、彼女と、彼女のトレーナーを守ってくれたんですもの。おかげで、私は全力で彼女に向き合う事ができる」
    「……往くのか」
    「この後すぐにトレーニングですので。ああ、後程貴女もいらっしゃるんでしたわね。手加減は無用でお願い致しますわ」
    「フン……貴様相手に手加減できれば苦労はせん」

    オルフェーヴルは、相も変わらず嬉しそうに去って行く今日の併走相手の背中を見送った。そうして、ふむ、と頷くと、それまでの険しい表情を崩した。

    「……変わったな」

    強者を見繕い、その強さをレースで引き出した上で勝利して、自身の栄光の礎とする。いつだったか、彼女はそう言ってターフに集まった絢爛たる強者達を煽って見せた。態々余の側にその強者達を連れてきた上で、だ。余を自身の舞台に引きずり出し、自身が最強であると証明する為に。
    そう、あの時、貴様にとってヴィルシーナというウマ娘は、集まった絢爛たる強者達の一人に過ぎぬ存在だった筈だ。それがどうだ、今となっては……"貴婦人"ジェンティルドンナをジェンティルドンナたらしめているのは、あのヴィルシーナの存在ではないか。貴様の背中を見続けた者が、それ程までに貴様を────。

    そこまで想いを巡らせて、オルフェーヴルはハッとした表情を浮かべる。
    その時、彼女の脳裏に映ったのは、プリンシパルを夢見る赤髪のウマ娘の姿。常にオルフェーヴルの背中を見続けていた彼女は、二度の大怪我に見舞われながらも不屈の闘志でターフへ舞い戻り、今も尚、物語を輝かせる主人公を目指して走り続けていた。思わず、笑みがこぼれる。

    「……似たもの同士、か」

    ふと、窓の向こうの空を見上げる。冬の北風は益々冷たさを増していくが、ただ只管に勝利を目指して駆け抜ける情熱を燃やすウマ娘達にとっては、そよ風のような物だろう。
    貴様の変化が、有馬記念でどのような結果を導くのか。見届けさせて貰うとしよう。
    オルフェーヴルの見つめる先で、冬の澄んだ空気がその先にある群青を美しく映していた。
    有馬記念まで、あと一週間。

  • 182二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 00:00:13

    その日の中山レース場は、最低気温が氷点下を下回る程の寒さの中にあって、朝から集まった大勢のウマ娘ファンの熱気に包まれていた。
    全ての夢が集うグランプリレース・有馬記念。出走者には、既にGⅠ5勝、破天荒な振る舞いと後方からの豪快な追込で大勢のファンを沸かせるゴールドシップを初め、何人ものGⅠウマ娘が名を連ねる。他にも、春の天皇賞で存在感を示し、二度目の怪我から不死鳥の如く舞い戻った不屈のソリスト、ウインバリアシオン等、錚々たる面々が揃っていた。
    そして何より、このレースを最後にトゥインクル・シリーズの引退を発表していたジェンティルドンナとヴィルシーナ。秋のレースで未だ健在の強さを見せた二人の、最後の女王対決に大勢のファンが期待を寄せていた。

    「気分はどう? ヴィルシーナ」
    「……正直、不思議な気分です。最後のレース、最高峰の舞台に立つというのに、私の心は凪いでいるように感じますわ」
    「悪い気分じゃないなら、何よりだ。さて、これからキミは最高の宿敵と大勢のファンが待つターフに向かう。ワタシがキミのためにできる事は、あと二つだけ。さて、まずはその一つにお出まし願おう」

    その言葉に、ヴィルシーナが不思議そうな表情を浮かべると、控え室の扉が勢い良く開いた。

    「お姉ちゃん!」
    「ヴィブロス、シュヴァルも! 来てくれたのね!」
    「もっちろん! お姉ちゃん、絶対勝ってね! 私、ゴールの一番前で待ってるから!」
    「勿論よ、ヴィブロス。その代わり、勝ったらたっぷりと私を甘やかして貰うわ」
    「キャー♪」

    思い切り抱きついて激励するヴィブロスを、ヴィルシーナも優しく抱きしめ、その頭を撫でる。その後ろから、シュヴァルグランが一歩前に出た。

    「……姉さん。僕はこういう時、上手い事は何も言えない。だから……ヴィブロスと一緒に、ゴールで待ってる。応援してるから」
    「ありがとう、シュヴァル。その言葉が何よりの応援だわ」
    「あ……あのぉ」

    扉の向こうから、小さな声が聞こえる。扉の影に居るようだが、入ってくる様子は無い。
    トレーナーはやれやれ、と溜め息を付いて、扉の向こうに居る誰かを呼んだ。

    「今更緊張も何もあるまい、ホラ、こっちにおいで」
    「え、あ、でも……」
    「渇! インストラクションだ、モブガヤエキストラ=サン! 声援は力の源、想いを言葉にして届けよ!!」
    「ハイーッ!?」

  • 183二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 00:03:28

    厳格さを感じる声と共に、小柄なウマ娘が一人、控え室に飛び込んできた。忘れ物を届けてくれた彼女の事を、先日のレースでヒーローになった彼女の事を、ヴィルシーナはしっかりと覚えていた。

    「まあ、ご機嫌よう。応援に来て下さったの? 先日のレース、素晴らしい走りだったわ」
    「ワ、ワァ……! 見てくれたんですか! 嬉しいです!」
    「ええ、勿論」
    「あ、あの、あの……私、ヴィルシーナ=サンに憧れてたんです。ヴィルシーナ=サンみたいなカッコ良いウマ娘になりたいって……その夢が、叶いました! ありがとうございました!! 私、こんな事しか言えませんが、頑張って下さいっ!! で、では!!」
    「こら! せめてアイサツをせぬか!」

    大きな声でそう言い切ると、彼女は自身のトレーナーに追われつつあっという間に控え室から去って行った。その様子に、ヴィブロスが嬉しそうな笑みを浮かべる。

    「あの子、お姉ちゃんのファンなんだ。お姉ちゃんに会えてとってもドキドキしてたみたいだけど、耳も尻尾も思いっ切り揺らしてて、動きがとってもキュートだね♪」
    「ええ、そうね……ねえ、トレーナーさん」
    「ん?」

    ヴィルシーナの胸に、感慨深い想いが満ちる。そっと、目を細めて、トレーナーに向き合った。

    「私の走りは……誰かの夢に繋がっていたのね」
    「ああ、そうだとも。そして、今日、ここで、もう一度キミの走りに夢を見るんだ」

    トレーナーの言葉に、ヴィルシーナは静かに頷いた。そして、真っ直ぐに前を向く。勝利の翼を纏ったヴィルシーナを前に、ヴィブロスとシュヴァルグランにも高揚感が湧き上がる。

    「……ワタシがキミにしてあげられる事、最後の一つ。行ってらっしゃい、ヴィルシーナ。最後まで、貴方らしく走りきって! こんな応援しかできなくて、すまないね」
    「とんでもございません。今日まで、本当にありがとうございました……行ってきます、トレーナーさん」

    ターフに出るまでの地下バ道はそれなりに長く、レースへ向かうウマ娘達は緊張感を纏いながらこの道を往く。
    しかし、彼女に緊張は無い。その胸にあったのは、これが最後のレースだという感慨でもない。ただ只管に、目の前で自身を待っていた彼女と、想いをぶつけ合うその瞬間への喜びだけ。不敵な笑みを浮かべるその姿を瞳に映し、ジェンティルドンナは嬉しそうに笑った。

  • 184二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 00:06:33

    「まさかとは思うけれど……私を待っていて下さったのかしら?」
    「ええ。その方がファンの皆様に喜んで頂けますもの。"最後の女王対決"を応援して下さる皆様の期待に応えるのも、私達の使命ではなくて?」

    そう言うと、ヴィルシーナは自身の手をそっともう一人の女王へ差し出した。彼女もまたその手をそっと取り、二人は光の差す方へと歩みを進める。そして────。

    『おおっ! ジェンティルドンナとヴィルシーナが姿を現しました!! これが最後の女王対決!! 互いに手を取り、揃っての登場です!!』

    瞬間、中山レース場に割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こる。大勢の声援を受け取った二人は、揃って観客席へ向かい、それぞれ勝負服に両手を添えると、優雅なカーテシーを以て応えるのだった。

    「YO、そこのターフ行くドンナとシーナ、女王の対戦、話題は独占、有馬の頂点? 許すかNo way。タダでは譲らぬこの決戦。今日こそ揃うぜ六面キューブ。止めたきゃ倒してみな、Uh-huh?」
    「御機嫌よう、ゴールドシップさん。今日もお元気そうで何よりですこと」
    「レースにその元気を残しておくことをお勧めしますわ」

    そんな二人を前に突然突拍子もない行動を取り出したゴールドシップを、ジェンティルドンナもヴィルシーナも冷静沈着にスルーした。しかし、対するゴールドシップはそんな二人にどこか満足げな笑みで応える。

    「変わったな、お前ら。なんつーか、前より良い顔してるわ。あー、別に答えなくていいけどよ、ちゃんと話したんだろ? なら、もうアタシは何も言わねーよ」

    そう言って、ゴールドシップは笑った。それまでのエンターテイナーの笑顔ではなく、頂点を目指す強者の表情で。

    「良いレースにしようぜ。ま、勝つのはアタシだけどな」

    枠入りは順調に進んでいた。ジェンティルドンナも、ヴィルシーナも、ゴールドシップも、ゲートに入ったウマ娘達は、全身に勝利への気概を昂らせ、ただ静かにその時を待つ。スタンドで見守る大勢のファンも、彼女達を支えてきた人達も、今か今かとその時を待っていた。
    最後の一人がゲートに収まり、そして────。

    『スタートしました!! 有馬記念、グランプリのゲートが今開かれました!!』

    ライバルへの想い、青春の輝き、全てを賭けた2500mの決戦が幕を開けた。

  • 185二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 00:09:41

    スタート直後のポジション争い、先駆けはヴィルシーナ。間に一人を挟んでジェンティルドンナが続き、一週目のスタンド前に差し掛かる。

    「……地固め成功、ってトコかな」
    「ええ、こちらもね」

    その声に驚いて振り返ると、隣に居たのはジェンティルドンナのトレーナーであった。苦笑いを浮かべつつ、彼女もターフに視線を向ける。

    「ずっと隣に居たのに気づいてもらえないなんて、流石の集中力ね」
    「そりゃあそうでしょう。可愛い可愛い教え子のラストランだぜ? キミもそうだろうに」
    「……正直、まだ少し実感が湧かないのよ」

    ヴィルシーナを先頭に、ウマ娘達が次々と一週目の急坂を駆け上がる。その走りには一切の澱み無く、大歓声に押されてホームストレッチを駆け抜けていった。

    「何言ってんだい。秋天前にはJCで引退だって言ってたクセに。挙句JCの結果が不本意だからって有馬に出る事にしたんだろ? まあ、ジェンティルくんらしいと言えばらしいけどね」
    「そう……そうなんだけど、ね」
    「なんだい、キミにしてはスッキリしないね」

    第一コーナー、第二コーナーを超えて尚、ヴィルシーナは先頭を維持している。
    彼女にとっては、サポーターとして参加した三人と共に研究した理想のパターンの一つ。スタミナ計算を頭に入れつつ、全体を引っ張っていく形を取る。
    そのすぐ後ろに単独二位となる形で一人が続き、その後の集団をジェンティルドンナが引っ張る。ヴィルシーナのペース計算をどの程度読んでいるのかは分からないが、少なくとも、彼女の表情には余裕が見て取れる。
    そして、ジェンティルドンナが引っ張る集団の中程に、ゴールドシップが控える。自慢のロングスパートはどこで炸裂するのか、恐らくは虎視眈々とその機を伺っているのだろう。

    「二人が会った次の日、ジェンティルと有馬記念へ向けてのミーティングをしたの。今までで一番白熱したわ。オルフェーヴルさんとの併走を混ぜるように言われたのは驚いたけれど、ヴィルシーナさんが有馬記念への出走を決めたと聞いて、流石に色々察したわ」
    「……それで?」
    「私のエゴを押し付けてはいけない、そう決めてたのに。あんなに美しい走りを始めての中山で見てしまったら、惜しくなるじゃない」
    「……そうだな、その気持ちは痛いほど分かる。でもな」

  • 186二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 00:12:04

    向こう正面から第三コーナーへの入り口付近、レースとしては終盤に差し掛かった付近で、ゴールドシップが動いた。中盤の集団から一気に前へと上がっていく。それに触発されたのか、周囲の集団も少しずつ前へ前へと詰めていく。600標識を通過して尚、ヴィルシーナは先頭をキープしていたが、後続は既にすぐ後ろまで来ていた。

    「ワタシ達はトレーナーだ。彼女達がそう決意したなら、ゴール板を駆け抜ける最後の瞬間まで、しっかり見届けてやらなきゃいけないんだ。無事に帰ってくる事を祈りながらな。ファン目線ならドリームトロフィーリーグもあるんだろうが、ワタシ達のトゥインクル・シリーズは、これで終わるんだよ」
    「……」
    「有終の美を飾ったあの子らを、そんな顔で出迎えるつもり? 泣くのは全部終わってからにしな」
    「……ええ、そうね。そうよね」

    ジェンティルドンナのトレーナーが、目元を袖で拭った。そして、その目線は最終コーナーへ向かう。その先で、ヴィルシーナは、ジェンティルドンナは────。

    後続の集団が一気に距離を詰めてきた。単独二位で追走してきた子が前へ出る。ロングスパートをかけたゴールドシップは、大外から捲るつもりのようだ。内と外の差は僅かとは言え、この位置取りからなら、最終直線までに少しでもアドバンテージが作れる。ここから先に至るまでの計算は何度も何度もしてきた。そのままゴール板を駆け抜ける為に必要な力も、全て。ここからは、どうなるか分からない。
    けれど、彼女はきっと、きっと私に応えてくれる。私は信じる。愛する貴女を。さあ────

    「勝負よ、ジェンティルドンナ」「勝負よ、ヴィルシーナ」

    その瞬間、二人は同時に中山レース場、芝2500m右回り最終コーナーのターフを蹄鉄で抉った。

  • 187二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 00:17:10

    『ここで内からヴィルシーナだ!! 一気に後続を突き放す!! しかしすぐ外からジェンティルドンナ!! ヴィルシーナを追って共に最終直線に入る!!』
    「や……やった!! 来た!! 来た来たぁ!! お姉ちゃん!!」
    「……姉さん!!」

    実況と共に、ヴィブロスとシュヴァルグランが叫んだ。それを合図に、スタンドから歓声が沸き上がる。
    同時にスパートに入った二人が殆ど同時に正面を向くも、後続も焦らず次々とスパートに入っていった。刹那、大外から鮮やかな赤い勝負服が先頭へ向かって更に加速していく。
    タダでは譲らねえって言ったろ? 悪いなデジタル、今日だけは間に挟まることを許せ!!

    「……オメーらだけで!! よろしくやってんじゃねえよ!!」 

    『ゴールドシップが吠えた!! 役者が揃った中山の最終直線!! ラストスパート、次々と二度目の急坂へ挑む!! おっと、ここでゴールドシップが差を詰めるか!?』
    これで三度目、去年のようにはいかねーぜ!! 六面完成、そのトロフィー貰った!!
    ゴールドシップが更に力強く中山の急坂を踏み込む。名だたるレースで結果を残してきた、黄金の走りだ。そして、その走りで前を往く二人との差が────。

    『ゴールドシップ後続と共に差を詰められない!! そしてヴィルシーナとジェンティルドンナ!! 両者一歩も譲らずほぼ横一線!! この二人の対決にもう文句は無い!!』
    実況が自身の声と共に、会場のボルテージを更に上げていく。

    「お姉ちゃん!! お姉ちゃんっ!!!!」
    「……ッ!! 姉さん!! 行けええええええ!!!!」
    ヴィブロスとシュヴァルグランが、最愛の姉の勝利を祈り、叫んだ。

    「ヴィルシーナ=サン!! 頑張れ!! 頑張れ!!」
    彼女に勇気をもらったウマ娘が、その勝利を祈って叫んだ。

    「一歩でも前に出た方の勝ちだ!!」
    いずれのファンだろうか、坂を上り切って尚横一線の二人に声援を送る。

    ち、くしょう……! アイツら、マジかよ……!! 二人でよろしく……クッソ燃えるレースしやがって……! っ……へへ……悪ィ、トレーナー。こりゃゴルシちゃん、アイツらに塩を送っちまったみてーだわ……行け!! そのまま行っちまえ!! 中山を、お前らの色で染めちまえよ!!
    差を詰められないゴールドシップの表情が、様々な感情をごちゃまぜにして歪んだ。

  • 188二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 00:25:56

    「……ッ!」

    桜花賞、オークス、秋華賞、エリザベス女王杯。何度悔しい思いをしただろう。何度無念にかられただろう。トレーナーとしての未熟を、何度呪っただろう。それでもキミは、決して挫けなかった。

    頂点を取るまで、挫けてなんて、あげないわ。

    その心の強さに、ワタシは何度も救われた。キミと共に、何度も何度も立ち上がった。そうしてキミは、勝利の翼を手に入れた。ようやくその時が来たんだ。最後の最後に、キミの不屈の挑戦が、その翼と共に報われる時が来たんだ。

    「……倒せ……ッ!!」

    だから────。

    「ジェンティルドンナを!! 倒せヴィルシーナぁぁぁぁぁぁ!!!!」

    ヴィルシーナのトレーナーが、滲んだ視界を振り払い、胸の底から想いのままに叫んだ。その隣で、ジェンティルドンナのトレーナーが、両手を組んでジェンティルドンナの勝利を祈る。

    「ジェンティル」

    臣下と共にレースの推移を見守っていたオルフェーヴルの瞳が、鋭く光る。

    「何故、そのように哀しく笑う。これが最後と、初めから知っていたであろうが」

    その時、オルフェーヴルの脳裏に、偉大な先達に学ぶべく様々なレースの映像を見ていた時の記憶が蘇る。紹介されたウマ娘とトレーナーの関係性を、その映像ではこう紹介していた。
    もしもそのウマ娘が、そのトレーナーに出会わなかったら。もしもそのトレーナーが、そのウマ娘に出会わなかったら。
    本当の出会いなど、一生に何度あるだろう?

    そうか、貴様にとって、ヴィルシーナは────。
    オルフェーヴルは瞳を静かに閉じ、呟いた。

    「これが余から貴様に送る、最初で最後の激励である。想いのままに走れ、ジェンティル」

  • 189二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 00:29:50

    ゴールまで、残り100mを切った。栄光まで、あと何歩? 死力を尽くした先の勝利が、トゥインクル・シリーズの最後を飾る有終の美が、すぐそこにある。なのに、嗚呼。
    どうして私は、終わりたくないと願っているのでしょうか。
    一瞬が勝負を決めるこの局面において、私は秋華賞の最終直線の事を、まるで走マ灯のように思い出していました。それは、彼女があの時私に向けていた、まるで殺意と見紛う程の激情を纏った決意を、あの時以上の大きさで私に向けているからに他ならないのです。二対の勝利の翼を背に、ただ只管に前へ、前へ。あの日虜になった貴女が、より大きく、美しく、私と共に駆けている。
    貴女と、ずっとこうしていたい。貴女とのこの瞬間を、永遠のものにしたい。叶わないと知っていても、願ってしまう。ゴール板を超えるまで、後一歩。全力でありながら、こんなにもゆっくりと進む脚の感覚が、これほどまでに憎らしく思った事は無かった。
    けれど、終わらせなくては。
    さあ、決着を付けましょう。愛するヴィルシーナ。

    確かな決意と共に、彼女はヴィルシーナと最後の一歩を踏み込んだ。

    『掲示板に写真判定が表示されてから、既に何分経ったでしょうか。周囲のウマ娘達も、スタンドに集まったファンも、その瞬間を固唾をのんで見守ります』

    殆ど同時にゴール板の前を駆け抜けたジェンティルドンナとヴィルシーナの決着は、写真判定へと縺れ込んだ。秋華賞の記憶が蘇ったファン達からは、"写"の文字が表示された瞬間、どよめきが起きた。
    ヴィブロスとシュヴァルグランが手を握り、祈る。それぞれのトレーナーも、その瞬間を途方もないプレッシャーと共に待った。
    共に走り抜いたウマ娘達は、全てを出し切りゴール板を駆け抜けて尚、地下バ道へ戻ろうとせず、その決着の行方を見守った。ゴールドシップは、ターフに身体を投げ出して、澄んだ青空を見上げていた。

    そして、中山レース場を包み込む凄まじい緊張感の中、ジェンティルドンナとヴィルシーナの二人は、走り終えたその場から一歩も動かず、お互いを見つめていた。不敵な笑みを浮かべ、あるいは激情を纏った鋭い視線を向けて。

  • 190二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 00:32:31

    そして、その緊張が頂点に達したその時、表示された一着の番号は────『2』。

    『遂に頂点が決まった!! 幾度の苦難を乗り越え!! 頂点を掴んだのは!! ヴィルシーナだぁぁぁぁぁぁ!!!!』

    実況が叫ぶと同時に、中山レース場に天を割らんばかりの歓声と拍手が鳴り響く。スタンドで見守っていたヴィブロス達は抱き合って涙を流した。トレーナー達も、堰を切って溢れる涙を拭う。ゴールドシップは、自身の腕でそっと目元を覆うと、静かに微笑みを浮かべた。
    大歓声に一瞬驚きの表情を浮かべたヴィルシーナが、電光掲示板へと目線を映す。そこには確かに、自身の数字が一着の場所に表示されていた。

    「私、が……」

    スタンドに目を移すと、今日までずっと応援してくれていた人たちが、涙と共に歓声と惜しみない拍手を送っている。彼女の胸に、少しずつ実感が湧きあがった。

    「そう、そうなのね。私が……ッ!?」

    感情が吹き出しそうになったその瞬間、ヴィルシーナはジェンティルドンナに抱きしめられた。愛する人への想いを込めた、優しい表情だった。その瞳には、想いを込めた一等星が輝く。
    そんな彼女に、ヴィルシーナもまた、彼女を抱きしめる。最後まで決着を競り合った二人に、再びスタンドから、共に走ったウマ娘達から、惜しみない拍手が送られる。

    着順が表示されて、嬉しさ、悔しさ、愛しさ。そんな言葉では説明できない感情が、私を支配した。私の脚は、その想いのままに彼女の方へ向かい、そして、彼女をそっと抱き寄せた。
    両の腕に、貴女への万感の想いを込めて。

    ────愛しているわ、ヴィルシーナ。貴女に出会えて、本当に良かった。

  • 191二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 00:35:45

    季節は巡り、トレセン学園にも桜の便りが届いた頃、学園の一室に、トレーナーの声が響く。

    「だーかーら! ワタシはやりませんって! 一人で手一杯なんですから! え? 人手不足? 知りませんよ! そう思ったら次々と寿退職してウマ娘の実家に連れていかれる男共を引き留める努力でもしたらどうです!? とにかく、ワタシはやりませんからね! それじゃ!」

    一方的に言うだけ言って、そのトレーナーは電話を切った。その様子を、この部屋の主が困り顔で見つめていた。

    「またチームトレーナーへの推薦? 相変わらずね。話だけでも聞いてあげればいいのに」
    「絶対イヤだね。話だけでもってノコノコ理事長室へ行こうモノなら即生徒会の面々に包囲されてハイと言うまで帰さない気なんだから。あーあ、こんな事なら無理矢理専属トレーナー契約続ければよかった」
    「流石にそんな事は無いと思うわ……専属トレーナーについては同感だけど」

    怒りが収まらない様子の彼女に苦笑を向けていたトレーナーが、何かを思い出したように切り出した。

    「ああ、そう言えば、あの子達は今どこに?」
    「さてね。まだ集合時間には余裕があるだろ?」
    「それはそうなんだけど、また取材の依頼が来てるから、伝えるだけ伝えようかと思って」
    「そういう事か、それなら後でも大丈夫だろ。どうせ後で会うんだから」
    「それもそうね……それにしても、あっという間ね」

    感慨深く窓の外を見つけ、ため息一つ。目線の先には、今年入学した新入生達が目を輝かせながらトレセン学園のあちこちを駆けまわっていた。

    「んなコト言って、年を取ったね、キミも」
    「貴方もね。さて、と。次はどんな子に出会えるのかしら」
    「きっと素敵な子に会えるさ、きっとね」
    「……そうね」

    言葉を交わし、トレーナー達は満開の桜の下を駆ける新芽達を見つめる。暖かい春の風は、二人のトレーナーの頬を優しく撫で、その先を駆けるウマ娘達の背中をそっと押すのだった。

  • 192二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 00:41:29

    有馬記念で劇的な走りを見せたジェンティルドンナとヴィルシーナ。あるトレーナーの部屋に、二人の姿があった。

    「貴女もなの?」
    「ええ。選抜レースのスケジュールで暫く手一杯、仮に新しい担当が決まればメイクデビューへの準備が始まるし、各種行事の準備もある。例のU.A.Fという新しい取り組みも始まるみたいだし、そちらの手伝いもするとなったら手が何本あっても足りないでしょう。ドリームトロフィーリーグに参戦するなら、必ず時間を作るとは言って頂けたのだけれど」
    「そう……そう言って下さるだけでも、感謝しないといけないわね」

    ジェンティルドンナとヴィルシーナは、有馬記念の後、引退式でドリームトロフィーリーグへの移籍を正式に発表した。諸々の事情で、早ければ今年の冬開催からの参戦となるのだが、ここで指導者の問題が浮上する。二人は当然、これまで共に走り続けてきたトレーナーからの指導を望んだが、ここでトレセン学園側から待ったがかかった。
    現状、慢性的なトレーナー不足という問題を抱えるトレセン学園としては、トゥインクル・シリーズを引退し専属契約解除となった場合、一刻も早く次の選抜レースで次なるスターを発掘して欲しい、というのだ。あるいは、専属契約を結んだウマ娘をリーダーに、チームを率いるかである。チームの依頼をトレーナー側が蹴った為、ジェンティルドンナとヴィルシーナも、現在は一先ず専属ではなく、移籍したウマ娘専門のコーチから合同で指導を受ける形となった。

    「とは言え、ドリームトロフィーリーグに参戦するかを決めるにはまだ時間がある事ですし、一先ず肩の力を抜くのも悪くないと思いますけれど」
    「そう……残念だわ、貴女、まるで牙が抜けてしまったようね。私に向ける視線も、随分と優しくなってしまって」
    「あら、期待外れでしたかしら? お望みとあれば、ターフに立った時と同じ目で睨んで差し上げますけれど」
    「────いいえ」

    煽るような言葉の応酬をしながらも、ヴィルシーナの瞳は優しく目の前のウマ娘を映す。そんな彼女に、ジェンティルドンナもまた、愛おしげな笑みを浮かべて彼女をそっと抱き寄せた。

    「今は、貴女とこうしていたいわ。できるだけ、長く」

    そっと唇を重ね合わせ、二人はしばし想いを通わせる。
    そんなひと時の後、ヴィルシーナはすっくと腰を上げ、ジェンティルドンナへそっと手を差し出す。

  • 193二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 00:44:33

    「そろそろ行きましょうか」
    「あら、もうそんな時間なの?」

    差し出された手を取り、ジェンティルドンナも立ち上がる。
    今日は、ヴィブロスが主催を務め、実行委員にゴールドシップを迎えた、二人のお疲れ様会の日である。有馬記念の後はURAファイナルズの仕事やら、取材の依頼やらで全く時間が取れず、結局桜の季節まで先延ばしになっていた。
    待ちくたびれたヴィブロスの事、今日は夜まで全力で楽しむために様々な準備をしているに違いない。ヴィルシーナはもとより、ジェンティルドンナも、今日の日を楽しみに待っていた。ふと、窓の向こうの桜を眺める。

    「すっかり満開ね。今度はお花見でも行こうかしら」
    「────ヴィルシーナ」
    「ん?」
    「愛しているわ、貴女を」
    「……急にどうなさったの?」
    「いいえ、何でも」

    嬉しそうに笑みを浮かべながらひょいと先へと歩いていくジェンティルドンナを、ヴィルシーナが慌てて追いかける。想いを通わせた二人は、満開の桜の中を、手を取り合いながら歩いて行った。

    そして、二人が去った後のトレーナー室の机には、中山レース場で撮影した引退式の写真が飾られていた。
    その写真の中で寄り添い合った二人は、彼女達を支え続けた人達に囲まれ、今までで最も美しい笑みを浮かべていたという。


    と言った感じで、ジェンティルドンナを切っ掛けにしてもう一つの未来へと進んだヴィルシーナが、ジェンティルドンナとの決戦の果てに栄光を掴み、その結果を受け止めたジェンティルドンナは勝者であるヴィルシーナをそっと抱きしめてその勝利を祝福し、結ばれた二人は希望の未来へレディ・ゴー!!!!

    と言った感じのハッピーエンドなジェンヴィルが見られると聞いてきたのですが
    (※最終回です。バチクソ長くなってすみません。妄想100%の拙いお話にお付き合い頂き、誠にありがとうございました)

  • 194二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 00:55:37

    ワオ……ゼン
    尊み許容量遥かに超えるジェンヴィルカラテにより心のデジタル=サンも浄化された。
    幸せです!超大作オツカレサマドスエ!オタッシャデー!

  • 195二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 00:59:24

    ここに!!!あります!!!!!!
    お疲れさまでした最高のジェンヴィルをありがとうございました!!!!!!!!!!

  • 196二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 00:59:40

    アーイイ……遥かに良い……

  • 197二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 01:01:52

    長きに渡ってお疲れ様&ありがとう…
    なんかもう本格的に語彙が殺されて言葉が見つからない

  • 198二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 01:26:09

    続編がほしい気持ちと結末が美しすぎてもう大満足な気持ちが混ざり合ってる

  • 199二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 01:51:31

    そこに…ありましたでしゅ…

  • 200二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 01:51:43

    >>200なら二人は幸せ重点な。

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