【SS】貴方の温もりが

  • 1二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 21:28:01

    「アルダン危ない!」

    突然大声が聞こえてすぐに私の身体は突き飛ばされました。その直後響き渡る甲高いブレーキの音と何ががぶつかる鈍い音。そして「が……ッ…」という僅かな声。
    身体を起こしてその方向をみるとそこには赤い水溜りがあってその中心に………
    「とれーなー…さん…?」
    私のトレーナーさんが倒れていたのです。
    震える足でなんとか近くに近寄る私を見て安堵の表情を見せるトレーナーさん。
    「よか…た…ア…ルダ……ぶじ…で…」
    そのままトレーナーさんは目を閉じて…
    「あ…あぁ…とれーなーさん…?」
    何も考えられない…考えたくない…私は必死に抱きしめて呼びかけていました。
    「なんで…つめたくなるんですか…?」
    どうしてでしょう…抱き締めている筈なのに段々冷たくなっていきます。
    「ここにいます!」
    救急車の声が聞こえてきて駆け寄る足音が聞こえます。
    「私達に任せてくださ…」
    「こないで……こないでください!」
    私は必死に抵抗しましたが引き離されてしまいました。そこから先は覚えていません。

    あれ?
    どうして私も皆さんも黒い服なんて着ているのですか?
    どうしてとれーなーさんはしろいふくをきてはこのなかににいるのですか?
    どうしてとれーなーさんがいるのにそのはこをなかにいれるですか?
    どうしてなかではこをもやして——————

  • 2二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 21:28:33

    「いやぁぁぁぁぁっ!!!!」
    目を覚まして見回すと辺りは真っ暗。いつも見慣れたお屋敷の自分の部屋でした。
    「ゆ……め……………?」
    先程の出来事が夢だと分かると同時に暗闇故の途轍もない恐怖が襲ってきます。
    「う……えっ…」
    それにえずくほど、夜の寒さが先程の夢で感じた冷たさを嫌でも思い出させてくるのです。そんな冷たさをかき消す様に布団に潜り込んで無理やり目を瞑る私。
    (早く…朝に…トレーナーさんに会いたい…)
    ですがあの時感じた冷たさは消えることはありませんでした…

    「今日もよろしくねアルダン」
    (生きてる…夢だったんだ…)
    「どうした?具合悪い?」
    「い、いえ!なんでもありませんよ!?」
    悪夢にうなされていた事を隠しながら練習を始めます。
    そうです、こんな事で怯んではいけません。私のラストランであるジャパンカップが間近に控えているのです。それに悪魔にうなされて全力を出せなかったなんて事…きっとトレーナーさんや姉様に聞かれたら失望されるでしょう…。だから昨夜の事は振り切るのです。

  • 3二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 21:28:59

    「はぁっ…はあっ………!?」
    昨日の事など忘れるように走り込みをしているその時でした。誰もいない筈の私の目の前に人影が急に現れたのです。
    (あれは…トレーナーさん!? どうして!?)
    私はその背中を追いかけますが追い付けません。歩いているのに…どんどん距離が離れていくばかり…。忘れようとしていた昨日の夢を…あの冷たさを思い出すには十分でした。
    「あぁぁぁぁっ!!!」
    狂った様にその背中を追いかける私。ですがその姿は急に消えて…
    「タイムは…少し早くなったがペースが狂ったな…」
    気付けば私はゴール地点に、トレーナーさんの姿もそこにありました。
    「すみません…もう一本お願いします…」
    「いや、今日は十分走ったから大丈夫。ここからは身体じゃなくて心に目を向けよう」
    「え?」
    「アルダン…悩みがあるなら言って欲しい。自分一人で抱え込んで苦しむ君の姿を見るのが辛いんだ…」
    「トレーナーさん……分かりました」
    私達は練習を切り上げてトレーナー室へ向かいました。
    (……………………)
    そんな私達の姿を物陰から眺めていた一つの影に気付く事なく…

  • 4二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 21:29:17

    「…成程、俺が死ぬ夢ね」
    「はい…それで怖くなって…思い出してしまって……っ」
    トレーナー室で私は自分のあの時見た夢の事を、先程も思い出してしまっていた事を隠す事なく伝えました。
    「大丈夫、ずっと君のそばにいるから。絶対に置いていかないからさ」
    私の手を握りながら優しく話しかけてくれるトレーナーさん。すると突然ドアが開く音がして…
    「失礼するわよ」
    そこにいたのは姉様…メジロラモーヌ姉様でした。

  • 5二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 21:29:41

    「ね、姉様!?」
    「先程の話を影で聞かせてもらったわ」
    全部聞かれてました…それに先程の走りも…
    「アルダン…貴女、本当に…」
    そうですよね…私は本当につまらない…
    「辛かったのね…」
    すると私は姉様に抱きしめられていました。
    「どうしたのかしら?そんなに驚いた顔をして」
    「だ…だって姉様なら…」
    「つまらない…そう言うと思ったのかしら? 言っておくけどそこまで私は冷酷な姉ではなくてよ?」
    抱きしめながら私の頭を撫でてくれた姉様はトレーナーさんの方を見てニコリと微笑みました。
    「貴方もよ? アルダンの事を抱きしめて頂戴」
    それはきっと今、私が最も求めている事でしょう…
    ですが———
    「いえ姉様、それは今じゃありません…。その時じゃありません…。私がレースを走り終えたその時まで…」
    これは決意です。私自身の足で一歩踏み出すための…ここで甘えてしまったらきっと…
    「流石は私の妹…いえ、私の好敵手ね」
    「………ねえさま?」
    「だから貴女の最後の走り…楽しみにしているわよ?」
    そう言って姉様は部屋を後にしました。
    「姉様が私の事を…ライバルって…」
    「よかったなアルダン…なら俺からも言わせてくれ。これからもずっと一緒だ。次のラストラン…走り終えた君の事を必ず受け止める。だから自分の悔いのないように…そして必ず無事に帰ってきてくれ…!」
    「はい!ありがとうございます!」
    なんだか少し、心が暖かくなったような気がしたのです…

  • 6二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 21:30:07

    そしてジャパンカップ本番…
    私はゲートに入りその時を待ちます。後は全てを出し尽くして走るだけ…
    (全てを出し切るんです…これが私の最後のレース…最後の…最後…………)
    ゲートが開き私は駆け出しました。誰よりも早く、一着の栄光を目指す…ただそれだけを見据えながら。
    (後少し…もう少しでゴール……え!?)
    異変は大第3コーナーに入りかけた時でした。順調に走りを進めていた私の目の前に再びあの背中が…トレーナーさんの姿が私の前に現れたのです。
    (そんな…どうして………いやぁっ!)
    するとあの時の悪夢が…その背中に追いつけなかった事が…そしてあの寒さが一気にフラッシュバックしたのです。

  • 7二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 21:30:35

    「はぁっ……はぁっ………」
    呼吸が乱れ、ペースも狂い始めてきた私の姿を逃す周りではありませんでした。どんどん追いつかれ、さらに逃げられ……
    (ごめんなさい姉様…トレーナーさん…私は……)
    その時でした———
    『貴女が目指すのは"アレ"ではないてしょ?』
    『たとえ君が引退しても、俺はアルダンの側にいるよ。どんな時もずっと…』
    何処からともなく聞こえてきた二つの声。その暖かい声は私を奮い立たせるには十分でした。
    (やっと…やっと分かりました…。あの悪夢もあの姿もあの冷たさも…引退してトレーナーさんと離れるのが怖かった私の心そのもの…)
    ———元のペースを取り戻します。
    (でも約束してくれた…ずっと側にいてくれると…そして今も……!)
    ———目を見据え、脚を強く踏み締めます。
    (私はそれに応えます!貴方のためにも…私が一歩踏み出すためにも………だから…)

  • 8二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 21:31:17

    ———勝ちたい!

    すると私の周囲の景色は一変していました。
    透き通った湖の様な大地と…
    カレイドスコープの様な空…
    ステンドグラスの様な世界が広がっていました
    周りの相手も、目の前にあったあの姿も何処にもいない私だけの世界…
    (これが……私の…)

    ———今なら行ける!

    私は最後の力を振り絞って更に一歩踏み出します。先程よりも速く軽やかに脚が動きます。まるで私の背中に青い鳥の翼が生えた様に…
    「はあぁぁぁぁっ!!!!」
    前を抜き去り後ろを突き放し、そして私はゴールへ辿り着いたのです。
    歓声が響き渡る中、辺りを見回すと友達が…先輩が…他のメジロの皆が私を祝福してくれていました。そして姉様も…あんなに号泣してる姿は初めて見ます…
    「アルダン!」
    すると後ろから声が、今一番聞きたい声が。振り向けばトレーナーさんが駆け寄ってきています…!
    私も負けじと駆け寄りトレーナーさんに飛び込んで…そんな私をトレーナーさんはしっかりと受け止めて抱きしめてくれた…!

  • 9二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 21:31:37

    「おめでとうアルダン!」
    「と…とれぇなぁさぁん…!」
    私が一番求めていた暖かさが広がっていきます…
    暖かい…暖かいよぉ………
    「わだじ! こうじでだきしめでもらいだくで!」
    「ああ…ああ…!」
    「でもぞれじゃ…あなだにだよりっぱなじじゃ! わだしじしんでのりごえられないがら!!」
    「アルダン…!」
    「でも…っ! さびじくで! づらぐで! かなじぐで!」
    「もういいんだ…!抱え込まなくてもいいんだ!」
    「だがらもう! はなじまぜん! どごにもいっじゃいやでず! ずっどいっじょにいでぐだざい!!!!」
    「ああ!約束する!ずっと一緒だ!」
    「そうでず! ずっといっじょでず! いっしょにじあわぜになるんです!!!!!」
    泣きながら抱きしめ合うそんな私達を暖かい拍手がいつまでも祝福してくれていたのでした…
    私達二人に絶え間なく贈られる祝福…
    ならば今度は私達が祝福を贈る番です。

    きっと"彼女"も私達なら———

  • 10二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 21:32:00

    何もない真っ白な世界。
    音も風もない真っ白な世界。
    そこに一人のウマ娘が力なく座っていました。
    大切なものを失い、涙が枯れるほど泣き尽くして只々虚空を虚ろに眺め続けていました。
    そんなウマ娘に二羽の青い鳥が飛んできたのです。
    その二羽の青い鳥達はそれぞれ彼女の前に何かを置きました。視線を落とすとそこには小さなバッジと杜若の花…。それを見た彼女に再び涙が戻りました。
    すると二羽の青い鳥は突如飛び去ります。彼女がその方向を見ると視線の先には一人の人影…彼女が誰よりも会いたかった、あの時失った大切な彼がそこに立っていたのです。立ち上がった彼女は走り出しました。
    そして彼へ飛び込む様に抱きつき、彼も彼女を抱きしめました。互いに涙を流し、その温もりを逃さないように…。すると風が吹き、真っ白な世界は暖かな色彩を取り戻していったのです。
    その姿を、光景を見届けた二羽の青い鳥は共に何処かへ飛び去っていったのでした……

  • 11二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 21:32:33

    目を覚まし、ゆっくり瞼を開けると光が朝日が差し込む部屋の中。私の目の前にはトレーナーさんが暖かい手で私の手を握っている姿。
    (え!? ト、トレーナーさ……あ…そうでした…)
    ライブを成功させ、会見を済ませ、祝勝会を終えた夜。
    私達は互いに永遠を刻み合う事を誓い合った事を思い出しました。その後添い寝をして…今に至るのです。
    (トレーナーさんの寝顔……可愛い…)
    普段滅多に見れない寝顔を眺めているとトレーナーさんも目を覚ましました。
    「おはようアルダン…」
    「はい、おはようございますトレーナーさん」
    何気ない挨拶をするとふと目が合い、共鳴するように見つめ合う私達…。まるで同じ事を考えている様な…それはトレーナーさんも同じの様で…
    「昨日ある夢を見たんだ」
    「はい、私もです」
    「きっと君と同じ夢を見ていた」
    「ええ、辛くて悲しくて…それでも最後は救われる暖かい夢を見ていました」
    「もう…あの二人は大丈夫かな?」
    「大丈夫ですよ。あの二人は私達の様に困難を乗り越えて、私達の様に幸せを掴み取ったのですから…」

    すると外から物音が。何事かと私達が窓の方へ近づくと外には二羽の鳥達が何かをくわえてこちらを見つめていました。すると鳥達はくわえていたものを私達の前に置いたのです。
    それは二つの花…ピンクのガーベラとカスミソウがそれぞれ一輪…

  • 12二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 21:33:02

    このレスは削除されています

  • 13二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 22:04:48

    ———ありがとう

    すると突然二羽の鳥達は羽ばたき、曇りなき青空の向こうへと飛び去っていきました…
    「今のはもしかして…」
    「ええ…きっと…」
    (だからもう…安心してくださいね…)
    飛んで行く鳥達にそう祈りを込めて私達は眺め続けていました。
    「さあ、俺たちも負けていられないな!」
    「ふふっ、そうですね!」
    "あの二人"を見送った後、私とトレーナーさんは改めて向かい合います。死が二人を分かつまで…いえ、例えその時が訪れようとも永遠に離れない強き想いを強く誓いながら…
    「これからもよろしく、アルダン」
    「こちらこそお願いします、トレーナーさん」
    私達は互いの温もりを確かめ合ったのでした———

  • 14二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 22:05:30

    以上になります
    駄文失礼致しました
    (鯖落ちびびった…)

  • 15二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 22:07:06

    豆知識

    杜若の花言葉…幸せは必ず来る

    ピンクのガーベラ、カスミソウの花言葉…感謝

  • 16二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 23:46:14

    ウマ娘世界には数多の世界が在るのだから
    そういう事になってしまった世界もまぁ…あるよな
    その分も背負って踏み出したこのアルダンは…強いよ

  • 17二次元好きの匿名さん24/03/10(日) 23:52:52

    アルトレとアルダンのラブラブはいいぞ

  • 18二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 06:52:07

    >>16

    >>17


    感想ありがとうございます

  • 19二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 09:58:55

    ストーリーで膝枕してるんだから自然と添い寝できちゃう距離感なの好き


    ところで、意中の相手が夢の中で…というのは吉夢、いい事が起こる前兆だそうです。関係の発展…そういう意味では遅かれ早かれアルダンはそういう夢を見る定めだったのかもしれないなと感じました。

  • 20二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 18:15:37

    👍️

  • 21二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 21:02:19

    >>19

    >>20

    読んで頂きありがとうございます

  • 22二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 23:16:45

    これにはラモーヌもニッコリ

  • 23二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 07:06:36

    >>22

    多分すごくニッコリ

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