(SS注意)ヴィルシーナのヒミツ

  • 1二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 13:54:22

    「くっ……! ふっ……! んんっ……!」

     トレーナー室の中、どこか悩まし気で艶めかしい唸り声が漏れる。
     まあ、その絵面そのものは、割と滑稽なものなのだけれど。
     俺は小さくため息をついて、その根源たる彼女に声をかけた。

    「なあヴィルシーナ、変に怪我とかしても困るし、そろそろやめておこうよ」
    「まっ、まだ終わってない……っ! 足を離すまでは……っ!」

     美麗な顔を歪ませて、眉を吊り上がらせて、額に汗を流して、頬を微かに上気させて、
     担当ウマ娘のヴィルシーナは、制服姿のまま、必死な表情でぷるぷると震えていた。
     視線を下に降ろせば、スカートからの伸びた、引き締まった素脚が惜しげもなく晒されている。
     そしてその脚の指先で────彼女は胡桃を挟み込んでいた。

     彼女は実のところ、多彩な面をもったウマ娘である。

     凛とした立ち振る舞いで、その名前に相応しくあろうとする、気高い『女王』の姿。
     大切な妹達を愛して、慈しみ、時には導こうとする、穏やかで優しい長女の姿。
     そして、自身の大きな壁であり、強大な先達に立ち向かい続ける────負けず嫌いの姿。
     今日は、そのどの姿が露になっているかといえば、言うまでもないだろう。

    「まだっ……負けてない……ッからぁ……っ!」
    「あくまで噂だってば、ジェンティルドンナが足の指で胡桃を割れるって話は……」

     事の発端は、出張に出ていた同期に貰った、国産の殻付きの生胡桃。
     せっかくの頂き物だから、ヴィルシーナにお裾分けしようとして、俺はそれをトレーナー室に持ち込んだ。
     俺がトンカチなどを使っている前で、素手でバキバキ割る彼女を見て、ふと思い出したのである。
     ────ジェンティルドンナが足の指で胡桃を割れる、という話を。
     それを何となく口に出してしまったのが、俺の失敗なのだろう。

  • 2二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 13:54:39

    「ふっ……あの子が……ッ割れないわけが……ないじゃない…………っ!」
    「……それは、まあ」

     ダンプカーでも壊れないと言われた機材を易々と破壊したウマ娘である。
     実際見たわけではないが、足の指で胡桃を割ることくらいは容易にやってのけるだろうなあ、とは思う。
     ヴィルシーナは残った力を振り絞り、さらに足の指先へと力を集中させた。 

    「胡桃くらい……ッ! 割れっ、なくてっ……あの子に勝てるわけが……ないっ!」
    「それはどうかなあ」

     足の指で胡桃を割れるかだろうかは、レースにはあまり関係ないと思うけれど。
     ……あっ、いやでも、トレーニングに活かせそうな何かを閃きそうな気がしてきたな。
     名残惜しくもそのアイディアを振り払って、改めて彼女を止める方法を考える。
     普段は大人びているヴィルシーナであるが、どうにもジェンティルドンナの前では年相応な面が出て来てしまう。
     それはそれで微笑ましいと思うのだが、今日のように変な方向で暴走するのは困りものだ。

     ────と、その時、彼女の動きが突然、ぴたりと止まった。

     まさか、と思い血の気が引く。
     ヴィルシーナは何とも言えない表情で目を逸らすと、乱れた呼吸のまま言葉を紡いだ。

    「……トレーナーさん」
    「だっ、大丈夫か? どこか痛むとかか?」
    「…………もうヒビくらいは入ったと思うのよね」
    「えっ」
    「………………ちょっと、確認してもらえないかしら」

     そう言うと、ヴィルシーナはおずおずと差し出すように、少しだけ前に出した。
     少しだけ恥ずかしそうに、その流れるような曲線を描く、きれいな脚とその先端を。
     一瞬どきりとしかけるが、その指先にある胡桃を見て、即座に落ち着いた。

  • 3二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 13:54:55

    「いや、自分で確認すれば良いじゃないか」
    「……足の指を離すまでは、負けじゃないから」
    「ちょっとはしたないかもしれないけど、そのまま足を上げれば見れるでしょ、俺は後ろ向いてるから」
    「…………実際に観測するまでは、結果は確定していないから」

     ヴィルシーナの心が折れかけている……!
     そもそも、ヒビで妥協しようとしている時点で負けな気もするけれども。
     しかし、まさか胡桃の前に、いや上に屈する彼女を見ることになるとは思わなかった。
     ……まあ、こんなことを少しでも早くやめさせられるなら、それに越したことはない。

    「わかったよ、確認してあげるから結果はどうあれ、これでおしまいにしてね」
    「……ええ、わかったわ」

     見るからに不本意そうに眉を顰めて、唇を尖らせるヴィルシーナ。
     妙に子どもっぽい彼女の姿を見て、思わず苦笑してしまう。
     そして、俺は改めて、彼女の脚の指先に掴まれている胡桃に視線を向けた。
     流石に、もっと近くから見ないと胡桃の状態など確認することは出来ない。
     制服姿の彼女に足を上げさせるはアレだし、こちらから顔を近づけるしかないだろう。

    「よっと」
    「……っ」

     俺は身を屈めて、ヴィルシーナの脚に目線を合わせるように、低い体勢を取る。
     それでもまだ上手く胡桃を観測出来ないので、俺は一声かけることにした。

    「ごめん、ちょっと触るね」
    「……んっ」

  • 4二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 13:55:09

     そっと、ヴィルシーナの脚に触れる、彼女の身体がぴくんと微かに揺れる。
     長くに渡りその走りを支えてきた彼女の脚は、手入れが行き届いていて、とてもしなやかで流麗だ。
     それでいて足の裏の皮膚は少し固く、ざらついていて、その道程の激しさを物語っていた。
     肝心の胡桃についてだが────彼女の悪戦苦闘の甲斐もなく、ひびすら入っていない。
     言いづらいなあ、と思いつつ、ちらりと彼女の顔を見上げた。

    「どう、かしら」

     こちらを見下ろしながら、ヴィルシーナは問いかけて来る。
     落ち着いてきたものの、まだ少し荒い呼吸、微かな汗と、紅潮している肌。
     彼女の縋るような視線の先には、跪いてその足に顔を近づけている俺の姿。
     あれ、これもしかして、大分アレな絵面なのでは────。

    「お姉ちゃーんっ! コスメが見たくてー、買い物に付き合って欲しい……の…………?」
    「あっ」
    「えっ」

     ドアが突然開き放たれて、元気の良い声が響き、尻すぼみになっていく。
     振り返ってみれば、長いツインテールの青毛を二種類のリボンで巻いたウマ娘の姿。
     紫色の無垢な瞳は大きく見開かれ、猫っぽい口元はあんぐりと開いている。
     俺達は突然の来客────ヴィルシーナの妹であるヴィブロスを、呆然と見つめていた。
     しばらくの静寂の後、ころんと、胡桃が転がる音がする。
     そしてヴィブロスは、その瞳を大いに輝かせて、大きな声を出した。

  • 5二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 13:55:22

    「お姉ちゃんが、トレーナーさんに足を舐めさせようとしてるーっ!」
    「なんかとんでもない誤解されてる!? ちょっ、まっ……!」
    「きゃー♡ これじゃあ『女王』じゃなくて『女王様』じゃん! ちょーセレブー!」
    「セレブかなあ!?」

     ヴィブロスは何故か嬉しそうな悲鳴を上げながら、トレーナー室を早々に立ち去って行った。
     俺では逃げを打ったウマ娘の脚力に追いつくわけもない。
     ヴィルシーナに追ってもらって、誤解を解いてもらおう、そう考えたのだが。

    「くぅ……!」
    「……ヴィルシーナ?」

     ヴィルシーナは、悔しそうな表情で顔を俯かせ、肩を震わせる。
     見つめるは転がっていった、ひびの入っていない胡桃。
     結局、自身の足の指の力ではジェンディルドンナに遠く及ばないと、気づいてしまったのだ。
     いや、そんな悔しがることなのかなコレ。
     そんなことを考えていた、その時だった。

    「ねっ、姉さん! 今凄い勢いでヴィブロスが飛び出していったけど何かあっ……た…………?」

     開いていたトレーナー室のドアから、慌てた様子で帽子をかぶったウマ娘が入って来た。
     一房のメッシュが混じった茶髪、澄み切った青空のような瞳、特徴的な白いマリンキャップ。
     シュヴァルグランは、困惑した様子で、俺達のことを眺めていた。
     しばしの静寂。
     やがてヴィルシーナは、目尻に雫を溜めながら、震える声で言葉を漏らした。

  • 6二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 13:55:36

    「シュヴァル……ダメなお姉ちゃんでごめんね……っ!」

     ……ヴィルシーナが胡桃に屈しかけている。
     少し呆れながらも、これもなんか誤解されそうだなと思って、俺は恐る恐るシュヴァルグランの様子を窺った。
     彼女は、顔を赤く染めながら一瞬、俺を冷たい目で見るが────やがて、大きなため息をつく。
     ちらりと、転がっている胡桃を見ながら。

    「えっと……ジェンティルドンナさんが胡桃を足の指で割れるという噂を聞いて、それに対抗してやったけど出来なくて悔しがっている、さっき出て行ったヴィブロスはそのどこかの光景を見て誤解して出て行った……ということで良いんでしょうか?」
    「よっ、良くわかったな」

     エスパーかな、あるいは流石は姉妹というべきなのか。

  • 7二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 13:56:00

    「ごっ、ごめんなさいね、トレーナーさん、シュヴァル……ちょっと、思考がおかしくなっていたわ」
    「まあ、冷静になってくれたなら、俺は構わないよ」
    「僕もたまたま居合わせただけだし……ヴィブロスも、わかってて騒いでいるだけだと思うよ」

     落ち着きを取り戻したヴィルシーナと共に、俺とシュヴァルグランは机を囲む。
     まだ胡桃はたくさんあるので、お礼ついで一緒にお茶をすることとなったのだ。
     シュヴァルグランもまた、当然のように素手であっさりと胡桃を割り、食べ進めていた。

    「シュヴァルには、恥ずかしいところを見せてしまったわね」
    「まあびっくりはしたけど、気にしないでよ……ところで、姉さん、靴下は」
    「あっ」

     シュヴァルグランの指摘に、ヴィルシーナの耳がぴこんと立ち上がる。
     先ほど胡桃と格闘していた彼女の脚は、未だにその白い肌を晒したままになっていたからだ。
     ヴィルシーナは机からその脚を出すと、俺にちらりと目配せをした。

    「すっかり忘れていたわ……トレーナーさん、お願いね」
    「俺も忘れてたよ、了解」
    「……えっ?」

     俺は立ち上がって、近くに置いてあったヴィルシーナのハイソックスを手に取る。
     そして彼女の脚の前で屈んで、その指先から、ゆっくりと靴下を履かせていく。

    「えっ、えっ、えっ?」

  • 8二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 13:56:13

     シュヴァルグランの困惑する声が聞こえて来るが、一先ずは目の前のヴィルシーナ優先だ。
     しっかりと太腿まで、皺のないように伸ばして、口ゴム部を合わせる。
     うん、最初の頃はあまり上手く出来なかったけど、最近は一発で綺麗に出来るようになった。
     そして、靴をしっかりと履かせると、ヴィルシーナは満足気に脚を見て、頷く。
     俺が手を洗って再び席に着くと、シュヴァルグランが信じられないようなものを見る顔をしていた。
     ヴィルシーナはそれを見て、首をこてんと傾げる。

    「シュヴァル、どうかしたかしら?」
    「いや、えっと、どうかしたって、今の、えっ、いつもやってるの?」
    「まさか、トレーナー室で靴を脱いだりする機会がある時だけよ」
    「そっかそれなら……いや、それでもおかしいよね?」
    「週に二回くらいだし、脱がすのはともかく、上手く履かせられるようになるには時間がかかったなあ」
    「ふふっ、最初は時間もかなりかかっていたのに、今や手慣れたものよね」
    「脱がす方もやらせてるの!?」

     思い出話に花を咲かせながら、俺とヴィルシーナは朗らかに笑い合う。
     シュヴァルグランは、そんな俺達を引き吊った表情で眺めているのであった。

  • 9二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 13:56:52

    お わ り
    実は殻付きの胡桃を食べたことがない

  • 10二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 15:04:24

    これはひどい(褒め言葉)

  • 11二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 15:07:28

    そういうプレイやん

  • 12124/03/11(月) 18:31:55

    >>10

    これにはシュヴァちも苦笑い

    >>11

    どういうプレイなんだろ……

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