【SS・ウマトレ♀】濡れてる方が、惚れている

  • 1二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 20:16:13

    午前中、教室から見た窓の外は絶好のトレーニング日和。
    スマホにはLANEの通知が来ていた。トレーナーからだ。トーク画面を机の下でこっそり開く。
    『今日はストレッチと軽い筋トレの後ロードワークだからそのつもりでいてね』とのことだ。
    「了解」の「りょ」まで打ってサジェストに出てきたスタンプを送った。

    トレーナーはロードワークに同行しないのが一般的だが、やれ怪我や事故が怖いだの、やれ年頃の女の子を独りにできないだの、なんだかんだ理由をつけてついてくるのが私のトレーナーだ。
    ま、傍から見りゃ結局その申し出を受け入れてる私も私で、ってな具合に見えてんだろうなァ。
    だって、ただのトレーニングじゃ面白味がねえだろ?
    毎度違う道を通って新鮮な景色を楽しんだり、休憩がてら寄り道して未知の店を開拓するのも乙なもんだ。

  • 2二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 20:16:55

    さて、いつもなら府中市内をうろついてるんだが、今日は調子に乗って国分寺まで来ちまった。
    ぼちぼち戻るかといったところで、手の甲にポツポツと雫が滴る。

    「……雨か?」
    「げっ、今日は夕方から降るって聞いてたのに思ったより早かったなぁ。トレーナー室に傘置いてきちゃった」
    「まだ小雨だし帰れるだろ。行こうぜ」


    ……ダメだった。私の負けだ。


    みるみるうちに雨足は強まり、慌てて近くの軒下に雨宿りした。

    「いやーびしょ濡れだ……」
    「だな。気色悪ィ……」
    「……ここ、ホテルみたいだね。洗濯機もあるだろうし……お風呂、入ろっか」

    この派手な建物に入る理由はごもっともだ。
    だが、いくらトレーナーがロードバイクで同行してるからっつっても、折り畳めば電車に乗って帰れる。それをしなかったってことは、だ。
    その言葉と行動に秘められた裏の意味が分からねえ程、私は青臭いガキじゃなかった。

  • 3二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 20:17:16

    私は、もはやトレーナーなしでは生きられなくなった。
    たった3年の契約期間が終わる前に私から想いを告げて付き合い始めたのも、今となってはいい思い出だ。
    それから数ヶ月が経ち、福引で当てたチケットで温泉旅行に行った初春の夜、私達は次のステップへと進んだ。

    彼女に、私の全てを捧げた。何もかもをさらけ出して、この身を委ねた。

    だから次は私が彼女の全てを貰う番だ。きっと今日がその時なんだろうな。
    このチャンス、逃すわけにはいかねえ……!

  • 4二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 20:17:51

    トレーナーはちょっとスマホをいじったかと思えばロビーへスタスタと歩いて行き、慣れた手つきでチェックインした。
    2人分のアメニティをサッと手に取り、客室へ向かう。
    ……何で慣れてんだ?誰かと来たことでもあんのか。
    ま、アンタほどの女を誰も放っておくわけねえわな。数年前まで学生やってたような若さだし、会社勤めの経験もあるらしいし、恋人の1人や2人くらい過去にいたって別に……別に…………

    ……ムカつくな。

    「部屋はここか?」
    「あ、うん。あの、よかったらお風呂先入る?」
    「アンタが先でいい」
    「え?あ、ありがとう。えっと……雨の中走らせちゃってごめん」
    「別に気にしてねえよ」

    ああクソッ、違うんだよ、なんで私はこんなツンケンした態度しかとれねえんだ!アンタにムカついてるわけじゃなくてさ……。
    怒らせちゃったかなぁ、と小声で呟いたのが聞こえる。んなことくらいで怒ったりしねえよ。私なんて傘はずっと寮に置きっぱなしなんだぜ?2人とも読みが外れちまったんだから引き分け、言いっこなしだ。

  • 5二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 20:18:58

    「ふー、スッキリした。温まったぜ」
    「それは良かった。そうだ、服は洗って乾かしておいたよ」
    「悪いな。助かる」

    先に風呂を済ませたトレーナーは館内の洗濯乾燥機で2人の服を洗い、雨に濡れた荷物をタオルやドライヤーで乾かしてくれていた。

    「よし、カバンはこんなもんかな。一晩置いとけば乾くでしょ」

    一通り作業を終えてダブルベッドに腰掛ける。
    何かを期待するかのようにチラリと遠慮がちにこちらを見やる様子が、私の心に火を入れた。


    上書きしてやるよ、私の色で。
    アンタの心に、身体に、誰よりも深く、痕跡を残してみせる。

  • 6二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 20:19:47

    トレーナーの肩に手を置いて、軽く力を込めるだけで簡単に押し倒せた。
    温泉旅行の夜にあれほど見せていた攻めの姿勢はどこへやら、いざ私に組み敷かれると耳まで真っ赤に染まり、まともに視線を合わせることすらできやしない。

    「あ……う……」
    「へぇ、随分と初心な反応するんだなァ?」
    「そ、そりゃそうだよ!だって、彼氏いたことないから……」

    …………え?

    「あ、そういえば言ってなかったっけ。小学校の時に両思いの子はいたけど結局何もなくて、卒業したっきり会ってないし」
    「……」
    「中学はまあ……ちょっといろいろあって。高校と大学は勉強でそれどころじゃなかったよ。もちろん就職した後もね」
    「じゃあ、やけにホテル慣れしてるのは……」
    「へ?ああ、単に旅慣れしてるだけなんだよね。この手のホテルは女子会でしか使ったことないよ」

    トレーナーになる前は休日を使って各地のレースやライブに足を運んでいたらしい。見かけによらず案外アクティブだ。
    まあでも確かに、契約する前のコイツの行動力を思い返せば納得はいく。

  • 7二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 20:20:27

    「温泉旅行の時は?」
    「あー、あれは見よう見まねというか……。貴方に喜んでほしくてこっそり勉強してたの。ただの耳年増だよ」
    「なら、本当にいないんだな?彼氏も彼女も」
    「いないよ。誰とも付き合ったことない。フェスタが初めて」

    黒曜石の瞳が真っ直ぐ私を貫く。嘘はついてねえのは明らかだ。


    初めて、か。
    私が、アンタの。


    ――そうか。そうだったのか。私は存在しない人間を相手に、ありもしないことをでっち上げて、心をグチャグチャに潰してたってわけか!


    「付き合うどころかモテた試しもないよ、残念ながら」
    「ククク……どいつもこいつも見る目がねえな」
    「え?それって、」

  • 8二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 20:22:02

    全て言い切られる前に口を塞いだ。
    少しばかり舌を絡めただけで目を潤ませながら見つめてくる。紅い頬と吐息の熱さに、私の方が先におかしくなっちまいそうで、尻尾で邪念を振り払った。
    私がアンタに抱く気持ちの、ほんの一部がこれだ。分かるだろう?

    「〜〜っ、はぁ、はぁ……フェスタ……?」
    「ッ、その……疑っちまって悪かった」
    「いいんだよ、そんなの。むしろ嫉妬してくれて嬉しい。フェスタが私のことを好きでいてくれて、すごく幸せ」

    本当に、調子を狂わせるのがお上手なことで。
    ウマ娘も人間に勝てねえ時があるもんだな、とつくづく思う。
    それが、心の底から愛した相手なら。

    相合傘ってのは濡れてる方が惚れているとか言うらしいが、生憎私もアンタも傘は持ってねえ。今宵は揃ってぐずぐずに濡れて、雨の中唄って踊り狂おうじゃねえか。
    エスコートは私がするから、ちょいと相手してくれよ、相棒。

  • 9二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 20:23:31
  • 10二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 20:26:03
  • 11二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 20:46:14

    あっ♡ちょっと掛かるっ♡

  • 12二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 21:40:05

    >>11

    ありがとうございます!掛かれ掛かれ〜〜〜

    一歩踏み出してしまうともう歯止めが効かないんですよね、お互い相手のことが好きすぎて……

  • 13二次元好きの匿名さん24/03/11(月) 23:06:30

    このレスは削除されています

  • 14二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 08:32:04

    age

  • 15二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 08:52:59

    イケ女フェスタに堕とされる♀トレはなんぼあってもいいですからね

  • 16二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 14:55:35

    >>15

    ありがとうございます!

    本当にね、トレーナーはなんぼ堕とされてもいいんですよ

    でも堕とす側もとっくに地の底まで堕ちてるんですがね!アホみたいな大きさの矢印を向けてます

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