- 1二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:49:22
- 2二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:50:08
――――――ィィィィィィィンンンンン
形容しがたい不快な感覚に、咄嗟にスカーレットを抱き締める。
この纏わりつくような気持ち悪さを、少しでも感じないように、できる限り強く抱き締める。
鉄の焼ける臭いが、鼻をついた。
閃光が収まり、目を開けてみると。
そこに居たのは、寸分変わらぬスカーレット。
思わず腕の中のスカーレットを見るが、そこにもきちんと彼女がいる。
「トレーナー! 会いたかったわ!」
背中に抱きついてくる、もう1人のスカーレット。
もう、わけがわからない。
抱き締められているスカーレットも、目を丸くしている。
とりあえず、状況を確認しようとして、新しいスカーレットを引き剥がすと、ソファを勧める。
そして自分も、スカーレットを隣に座らせて、対面に座った。
いつでも、彼女を庇えるように。
「あー、どこから話せばいいかしらね」
懐かしそうに、キョロキョロと部屋を見回しながら、話し始めるスカーレットもどき。
そこに、先ほどと同じ、空気が震える感触。
閃光も、鉄の臭いも同じ。
鳥肌が、立つ。 - 3二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:50:37
――――――ィィィィィィィンンンンン
またもやの光が収まった後、居たのはまたもやスカーレット。
だが流石に気が付く、「どたぷん」度の上昇。
だが、誰何する暇もなく。
――――――ィィィィィィィンンンンン
同じような現象が、トレーナー室を駆け抜ける。
慣れたくはないが、3回目ともなると慣れたもの。
フラッシュが収まると、そこにも大人びたスカーレット。 - 4二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:51:14
このレスは削除されています
- 5二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:51:42
このレスは削除されています
- 6二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:54:59
突如として現れた3人のスカーレットをソファに並んで座らせると、自分も座る。
隣のスカーレットは何かを感じているのか、こちらの腕を掴み、俺に尻尾を巻き付け、耳を倒して不安げな瞳を揺らしている。
大丈夫だよ、と安心させるように頭をポンポンと叩いてから、彼女たちに向き直った。
「……えっと、それで君たちは?」
目の前にいるのは、どう見てもスカーレット。
だが、少しずつ雰囲気が違うのは、こうして比較する環境となれば、簡単にわかる。
最初に口を開いたのは、その3人の中でも、一番今のスカーレットに近い娘。
「信じて貰えないかもしれないんだけど、私は3年後から来たダイワスカーレット。ちょうどトレセン学園を卒業したところだったわ」
ぼよんぼよん、と揺れる胸の存在感。
あれは、今、傍らにいるスカーレットよりかなり大きい。
多分、10cmは上。
「トレセン学園での卒業式のあと、トレーナーに告白したの。それなのにトレーナーは……」
泣き崩れる19歳のスカーレット。
隣にいる、2番目に来たスカーレットに慰められている。
「都留岐涼花さんとソノンエルフィーさんの間に挟まって結婚してしまって……。アタシが卒業したらトレセン学園も辞めてU.A.F.の技術指導員になるって」
腕を握っている、スカーレットの力が強くなる。
自分じゃないので、勘弁してほしいのだが。
引っ張られながら目配せをすると、今度は2番目に来たスカーレットが口を開いた。 - 7二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:55:51
「私は、7年後のスカーレットよ。大学卒業と同時に、トレーナーに告白したんだけど……」
ばるんばるん、と揺れる胸の存在感。
あれは、今、傍らにいるスカーレットよりとても大きい。
多分、20cmは上。
泣き崩れる22歳のスカーレット。
両側に座っているスカーレットに、慰められている。
……あれ、さっきも見た気がするぞ、この流れ。
「トレーナーはライトハローさんと授かり婚してしまって……。卒論でちょっと目を離した隙に……」
腰に回されている、尻尾の力が強くなる。
自分じゃないので、勘弁してほしい。
すると、最後のスカーレットが話し始めた。 - 8二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:56:00
挟まることとかある…?あるんだろうねえ
- 9二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:56:25
「私は、10年後のスカーレットね。今のトレーナーと同じ歳」
ゆっさゆっさ、と揺れる胸の存在感。
あれは、今、傍らにいるスカーレットより凄く大きい。
多分、30cmは上。
「そろそろトレーナーと結婚したいな、ってアプローチをかけていたんだけど、トレーナーは事故で……」
予想外に重い話になった。
……えっ、俺、10年後に死んじゃうの?
泣き崩れる、25歳のスカーレット。
「入院してから、毎日お見舞いに来てくれる担当ウマ娘の理事長に掻っ攫われて……」
……えっ、理事長ってウマ娘なの?
そう考えた時、ヒヤリと背中に悪寒を感じた。
窓の外に見える、キラリと光る銃口。
……考えないことにしよう。
「身動きできないのと、理事長権限でトレセン学園附属の病院でいつでも入れるのをいいことに……。あの、泥棒猫」
剣呑な光が、25歳のスカーレットの瞳に宿る。
ゾクリ、と背中に寒気が走った。
自分に向けられたものではないのに、肉食獣に狙いを定められたような恐怖。
「……気が付いたら、もう遅かったのよ。トレーナーは、理事長無しでは生きられない身体にされてしまったの」
……いったい、俺は何をされたのか。
詳細は分からないが、目の前の様子を見れば、スカーレットを振ったのはわかる。 - 10二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:56:55
隣に腰掛けている今のスカーレットが、ついに涙目でこちらを上目遣いで見上げ始めた。
さらに、右足をこっちの左足に絡めようとしてくる。
手のひらを、下腹部に押し付けられる。
「それで、君たちは何しに来たの?」
横にいる今のスカーレットはとりあえず置いておいて。
疑問を、ぶつけてみる。
今、ここにいる俺は彼女たちのトレーナーではないのに。
そうすると、未来から来た3人のスカーレットたちは顔を見合わせて
「「「タキオンさんに、『トレーナーともう一度やり直したい』ってお願いしたら、タイムマシンを作ってくれて。それで、『トレーナーともう一度やり直せる頃まで戻して』と願ったら、ここに来たの」」」
異口同音に、そんなことを言われた。
……それにしてもタキオン、そんなものまで完成させたのか。
怪我をしたら怪我をする前の脚に戻せばよい、とか考えたのだろうか。
「ダメっ!」
不意に、今のスカーレットが声を上げる。
必死の形相。
皮膚が白くなるほどに強く身体を掴まれ、骨がミシミシと悲鳴を上げる。 - 11二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:57:18
「大丈夫よ。あなたのトレーナーを取るつもりはないわ」
「このままだと、アタシたちみたいに、誰かに盗られちゃうわよ?」
「あなたが結婚できる年齢になるまで、アタシたちでガッチリとガードでしてあげるから」
「でも……」
今のスカーレットの、不安気に揺れる瞳。
だが、それよりも気になることがあった。
目の前の未来のスカーレットたちに、疑問をぶつける。
「でも、今のスカーレットと結婚できる年齢になったら、君たちはどうするんだ?」
遠い目をする、3人。
「そうね、アンタから子種を貰ったら、未来に戻ろうかしら……」
「例えシングルマザーで、父親の名前を公表できなくても、トレーナーとの子供がいるだけで良いし……」
「トレーナーが幸せなら、その幸せを壊す気はないから。でも、思い出だけでも欲しい……」 - 12二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:57:36
涙が、一筋。
床に零れ落ちて、小さく跳ねた。
咄嗟に隣のスカーレットを振りほどくと、ローテーブルを飛び越えて彼女たちを抱き締める。
「そんなのダメだ! 未来のスカーレットだって、俺の大事なスカーレットなんだから、幸せでないとダメなんだ!」
両手を広げて、力一杯にギュッとする。
潤んだ瞳を向けられる。
目の端に、今のスカーレットの呆れた表情が映った。
「ほら」
そんな、今のスカーレットを手招きすると。
彼女も含めて、4人のスカーレットを手中に収める。
バストとヒップ以外は、身長も腰回りもそのままなので、イメージ通りに抱き締められた。
「どんなスカーレットでも、俺にとっては世界で一番大切なスカーレットなんだ。だから」
一段と、力を込める。
甘い吐息が、4人から漏れた。
そんな彼女たちに、微笑みを返す。
「絶対、幸せにするから」 - 13二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:58:07
そのとき、バタンと大きくトレーナー室のドアが開いた。
「キャッ」「エッ」等々、驚きの声をあげるスカーレットたち。
そこに仁王立ちしていたのは、秘書のたづなさん。
「学園内のボース粒子のバランスが崩れましたから、何かあったのかと思ったら……。話は聞かせてもらいました」
つかつかと歩いてくるたづなさん。
そのまま、俺をスカーレットたちから引き剥がす。
突然のことに、呆気にとられる俺たち。
「でも、彼は私のものですから。『なったんのお婿さんになれる人は幸せだよね。こんなに綺麗で可愛らしくて、気立てが良くてさ。なったんの旦那さんになる人が羨ましいよ』って、先日の飲み会でプロポーズされたんです」
たづなさんに向き直されると、面と向かってそんな言葉を放たれた。
背中に、視線が刺さる。
「……いや、それは言葉の綾というやつで。別になったんと結婚したいという訳では」
「……ふーん。『なったん』ねえ」
恐ろしく低い声が、背中の向こうから聞こえてくる。
そこに現れたのは、理事長代理の樫本さん。
速足でトレーナー室に入ってくると、そのまま俺の右腕を取った。 - 14二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:58:36
「騒がしいから来てみれば……。この人の彼女は私ですが。先日のトレーナー研修で転びそうになった際に支えてくれて、『リコリコのことはずっと支えてあげる』と言われたのですから」
「あ……、それはトレーナー同士としてという意味でですね。別に恋人と言う意味では」
「……へー。『リコリコ』ねえ」
ドライアイスのような冷え切った声が、背中を打ち据える。
助けを求めるようにトレーナー室の入り口を見ると、桐生院さんとミークがひょこりと顔を出した。
目配せをすると、「わかりました」とばかりに入ってきて左手を取られる。
「私は先日、この人と私とミークの3人で千葉のテーマパークに行きました。折角なので、私とミークはそれぞれシンデレラと白雪姫の衣装で合わせたのですが」
「『じゃあ、葵とミークの王子様になってあげる』って言われた。ぶい」
Vサインのミーク。
「いえ、それは今日はエスコートするというだけでですね。そもそもテーマパーク慣れしていないと思ったので案内しようと思っただけで」
「……ほー。『葵』に『ミーク』ねえ」
「……千葉のテーマパーク、アタシとは行ったことがないくせに」
地獄の釜の蓋が開いたような声がする。
背中が、熱い。
――その後のことは、思い出したくもない。
ただ、大変だったとだけ言っておく。 - 15二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:59:23
やっとのことで解放されると、ゆっくりと伸びをする。
今日は、本当に疲れた。
別に口説いたりとかしていないのに、なんであんなに怒ったのだろう。
でも、今は。
とりあえず、気分転換で飲みにでも行こうか。
「もしもし、佐岳さん? これから呑みに行きませんか? えっ? 電話口なんだからあだ名で良い? じゃあ『メイメイ』、呑みに行かない?」 - 16二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:59:55
これで終わりです。
ありがとうございました。
至らない点もあると思いますが、よろしくお願いいたします。 - 17二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 23:02:12
全体通して見ててずっと思ってた
今にしても未来にしてもダスカの違和感が凄いことになってると - 18二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 23:03:25
すけこましここに極まれり