(SS注意)トランセンドに耳掃除してもらう話

  • 1二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 22:26:46

    「やほートレちゃん、今いそがし? ──ふむり、暇過ぎて困っているよん、と」
    「やあトラン……って、何も言ってないんだけど……いやまあ、暇と言えば暇だけども」

     トレーナー室で資料を広げていると、突然、彼女は現れた。。
     鹿毛の癖のないショートヘア、吸い込まれるような赤い瞳、大き目の赤縁の眼鏡。
     担当ウマ娘のトランセンドは、にやりとした笑みを浮かべながら、近くの椅子に腰かける。

    「勉強会の予定が、先方の都合で延期になったんだもんね~、いやあ、災難でしたなぁ」
    「……相変わらず良くご存知で」
    「ふっふ~ん、ウチを誰だと思ってんの?」
    「ニヒルで、危険な、情報屋さんだろ?」
    「……あはっ、わかってんじゃーん」
    「決まってんじゃーん」

     ぱちん、と二人でハイタッチをする。
     さて、今日はミーティングの予定もなく、トレーニングもお休み。
     今日、トランは掘り出し物を探しに行くとか言ってた気がするのだが────と、そこで俺は気づいた。
     彼女が見慣れぬ、ペン一本くらいしか入らなそうな、紙袋を持っていることに。
     こちらの視線に気づいたのは、彼女は耳をぴくりと反応させて、それを机の上におく。

    「おっ、トレちゃんも目敏いねぇ、これ、気になるっしょ? 何だと思う? 当ててみー?」
    「……多機能のボールペンとか?」
    「ぶっぶー、文房具じゃないよん、これはねー、衛生用品のガジェットなんだぁ」
    「衛生用品? 色々測れる体温計とか?」
    「それもはずれー」
    「…………ダメだ、わからない、教えてくれないか?」
    「うーん、タダ、ってわけにはいかないなぁ」

     トランは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
     そして、紙袋をペン回しのように手の中でくるくると回しながら、彼女は言葉を紡いだ。

  • 2二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 22:27:02

    「これを試す相手が欲しいんだよねー、ちらり」
    「……それが狙いかあ」

     俺はトランを作戦に、まんまと引っかかってしまったようである。
     今や、あの紙袋の中身が気になって仕方がない。
     ……まあ、彼女のことだ、あまりひどいことになることはないだろう。
     俺は両手を上げて降参のポーズを取った。

    「わかった、実験台にでも何でもなるから、中身を教えてくれ」
    「トレちゃんふとっぱらー♪ ……まあ、期待させておいて、そんな派手なものじゃないんだが」

     たはは、とトランは困ったように笑いながら、紙袋を開けた。
     中から出て来たものは、ボールペンのように見える、何かの機械。
     その先端はさらに細長いスプーンのようになっていて、さながら、それは────。

    「じゃじゃーん、正解はカメラ付きの耳かきでしたー、てへり」

  • 3二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 22:27:20

    「こうしてー、スマホと繋いで、おっ、映った映った、へえ、これは案外」
    「うん、思ったより画質良いんだな」
    「ライトもついてるよーん────それじゃあ、早速試してみよか、はい、トレちゃんどぞどぞー」
    「はい、どもどもー……って、ちょっと待ったトラン」

     いつものノリでトランに誘われるがまま動いてしまいそうになるが、寸前で止まる。
     ソファーの端に座り、自らのスカートに包まれた太腿をぺしぺしと叩いていた彼女は、こてんと首を傾げた。
     なんの躊躇いもない顔に、自分がおかしいのかと思いながら、俺は苦言を呈する。

    「さすがに、それはどうかと」
    「それって、膝枕のこと? ウチとトレちゃんの仲だし別に良いじゃーん、ウチは気にしないよん」
    「俺が気にするんだけど」
    「気にすんなってー、それにさ、耳掃除に膝枕ってのは外しちゃいけない合わせっしょ?」
    「そうなの!?」
    「B級映画とポップコーン、サメ映画にブロンド美女、耳掃除に膝枕、これ常識」
    「……そう言われると納得しそうになるなあ」
    「まあ、それにウチにとって一番やりやすいやり方だからさ、これでおなしゃーっす」
    「………………わかった」

     葛藤はあったものの、耳かきの実験台になると約束したことが響いて、俺は仕方なく頷いた。
     その言葉に、トランはにへらと嬉しそうに笑みを零しながら、尻尾を揺れ動かす。
     重い足取りで彼女の待つソファーへと座り、そして身体を恐る恐る、ゆっくりと、傾ける。
     肌触りの良いスカートの感触と、柔らかくてハリのある太腿の肉感、そしてじんわりと暖かい温もり。
     甘いお菓子の匂いに、微かなエナドリの刺激臭、それにどこか素朴で優しい、トランの香り。
     ……妙に居心地が良いというか、なんというか。
     なんだか安心して、落ち着いて、緊張か解けてしまうような、そんな感覚だった。

  • 4二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 22:27:35

    「ほれほれー、現役ウマ娘の膝枕の気分はどよ? ん?」
    「……気持ち良い」
    「あらま、トレちゃんが意外と素直…………ふむり、やっぱ、情報通りだったか」
    「えっ?」
    「────それじゃ、早速始めて行くよん、にひひ、トレちゃんの耳の中の秘密、初公開だぜい」

     はぐらかすように言葉を紡ぎながら、トランは耳かきを手に取って、スマホを俺にも見える位置に立てかけた。
     そして、カメラは俺の耳を、高い場所から見下ろすようにとらえた。
     自分の耳をカメラで見るって、不思議な気分である。
     やがて映像は徐々に、俺の耳へと近づいていき、遂に、耳の中に入り込んで────。

    「うわあ」
    「これはひどい」

     二人揃って、絶句するハメになった。
     スマホの画面に映る俺の耳の中には、ごろりと乾いた耳垢がいくつも転がっていた。
     それだけでなく、耳壁にもべったりくっついていて、素肌と見分けがつかないほど。

    「……いやあ、さすがはトレちゃん、こんなところでウチをゾクゾクさせてくれるなんてね」
    「それ絶対に君が求めるゾクゾクとは違うヤツでしょ……うわあ、こんな見えちゃうのか、すごい恥ずかしい……」
    「まっ、前にたまたま見た耳掃除動画に比べれば、全然きれいな方だよ、コレ」
    「……マジ?」
    「まーじ、本当にこんなの耳の中に入れて生活してたんですか的なのばっかだから、あっ、閲覧注意な?」

     そう言うとトランは、耳かきを机の上に置いた。
     惨状を見て中止にしたのかな、と思ったその矢先、彼女は置いてあった鞄をがさごそと漁る。
     気になってそちらに視線を送ると、彼女の手の中には小さな瓶と、綿棒があった。

  • 5二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 22:27:50

    「……それは?」
    「ん? これはねー、イヤーローション、耳垢をふやかして取りやすくするやーつ」
    「そんなのあるんだ」
    「うん、ウチも初めて知った」
    「えっ」
    「ささっ、トレちゃん、じっとしてろよーい……ぬりぬりーっと」

     聞き捨てならない言葉が聞こえた気もするが、トランはお構いなしに綿棒を耳に入れて来た。
     ひんやりとした、湿った感触が、耳の中を優しく撫でるように這いまわる。
     ぞわぞわと心地良い寒気とくすぐったさ、そして何とも言えないもどかしさが、神経を駆け巡った。
     ……まだ耳掃除本番ではないとわかっているものの、むずむずとしてきてしまう。
     そこをぐっと堪えて、俺はローションが塗り終わるのを、じっと待った。

    「これでよしっと、トレちゃん我慢出来て、えらいえらーい、にひひ♪」

     揶揄うような言葉とともに、そっとトランの手が、俺の頭に置かれる。
     そしてさらり、さらりと、彼女は頭を優しく撫でてくれた。
     完全に子ども扱いされていて、これまた恥ずかしかったが────不思議と、嫌ではなかった。
     ゆっくり頭を触れられる都度、身体の力が抜けて、心が落ち着いていってしまう。

    「……うん、それじゃあ中のお掃除、始めるよん」

     耳元にそっと響く、トランの穏やかな声色。
     俺はただ、こくりと頷いて、彼女の耳掃除を受け入れるのであった。

  • 6二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 22:28:04

    「かりかりーっと……トレちゃん、入口少し掻いただけでもこの取れ高だよ? 耳掃除してないっしょー?」

     トランの呆れた声。
     スマホのカメラは、耳かきの匙に溜まる白い垢をしっかり映し出していた。
     ……実際のところ、耳掃除なんて自分でしたことは殆どない。
     誤魔化しても仕方のないことだから、俺は素直に、してませんと答えた。

    「ふむり、これはウチが定期的に調査しないと、かな」

     どこか嬉しそうなトランの声が響いた。
     そしてそう言葉を紡いでいる間にも、スマホの画面では耳垢が次々に除去されていく。
     トランの耳掃除は、繊細かつ丁寧。
     肌を傷つけないようにゆっくりとした動きで、優しく耳の中を掘り進めてくれていた。
     耳垢が剥がされると、耳の中には痒みの中枢に触れたような快感が走り、その虜になってしまう。
     
    「……あはっ、トレちゃん、気持ちいー?」

     そしてそんな俺の心境を見透かしたように、トランはこちらを覗き込んでくる。
     俺がその問いかけに対して肯定すると、彼女は満足気な笑みを浮かべた。

    「そかそか、それならこのガジェットも入手した甲斐があったってもんだね」

     にしし、と笑い声を零しながら、トランは再び、耳掃除へと戻っていった。
     かりかり、こりこりと、俺の耳の中に軽やかな音が響き渡る。
     トレーナー室にそれ以外の音はせず、静寂に包まれた時間が、ただただ過ぎていく。
     何となく気になって、俺は彼女に問いかけた。

     ────トラン、楽しい? と。

     その問いかけに、彼女の手はぴたりと止まる。

  • 7二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 22:28:18

    「うーん、楽しくは、ないかなぁ……あんま目新しいわけじゃないし、特にワクワクもしないじゃん?」

     まあ、それはそうか、と心の中で思う。
     俺にとっては心地よい時間であっても、トランにとってはただただ退屈な時間だろう。
     これは早めに切り上げてもらった方が良いかな、そう考えた直後、彼女の言葉が続いた。

    「でもトレちゃんの気持ち良さそーな顔見てるとさ、こういうのも悪くないなーって思うんだ」

     こんこん、とトランの指先が耳かきを軽く叩く。
     その振動が、響きが、耳の中から頭に直接響いて、何故か安心感を覚えた。
     等間隔で音を鳴らしながら、彼女は再び、言葉を紡ぐ。

    「だからさ────今日は変な気、回さないで、存分に気持ち良くなっとこ、ねっ?」

     ……本当に、トランには敵わないなあ。
     俺は苦笑いをしながら、そっと目を閉じて、彼女の耳掃除に集中することにした。

  • 8二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 22:28:33

     気が付けば、すっかりトランの耳掃除に骨抜きにされて。
     頭の中はふわふわで、瞼は鉛のように重く、身体も動く意思すら湧き出て来ない。
     意識が、か細いぎりぎりの線で繋ぎ止められている最中、ぷつりと途切れて────。

    「……ふうー」

     生温かい息が耳の中を駆け巡り、背筋がぞぞっと走る。
     身体がびくんと跳ね上がって、飛びかけていた意識が一気に覚醒していく。
     何が起きたかわからず、目を丸くしていると、トランの顔が上から降って来た。
     ……悪戯に成功した子どものような、無邪気な笑みを浮かべて。

    「耳掃除といえばこれもやらないとねぇ♪ ……それにまだ反対もあるからさ、ほら、ごろんと」 

     色々と言いたいことはあったはずなのだが、トランの笑顔を見ているとそんな気も失せてしまう。
     俺は黙って、彼女の膝枕の上でごろんと寝返りを打って、反対側の耳を上に晒す。
     すると、彼女の動きは、ぴたりと制止する。
     どうしたのかと、ちらりと視線を受けに向けると、トランは頬を桜色に染めて目を丸くしていた。

    「……おおっ、トレちゃん、意外と大胆じゃん」

     なんのことだろう、と思って視線を前に向けると、そこにはトランの、制服に包まれたお腹。
     ふわりと、彼女の汗混じりの香りが、より強く伝わってくる。
     ……これは、ちょっとアレだったかもしれない。
     というかこれじゃあスマホの画面も見れないし、いやまあ、さっきも途中から見てなかったけども。
     慌てて身体を起こそうとする────が、それは出来なかった。
     彼女の手が、俺の頭を優しく撫でていたから。

  • 9二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 22:28:48

    「…………あはっ、いーよ、このままで、ウチとトレちゃんの仲だから、ね?」

     トランは、慈しむような表情で、こちらを見つめていた。
     微かに汗ばんだ手のひらは彼女の緊張を表していたが、それを表に出すことはない。
     一つ、二つと俺の髪を梳いていく彼女の小さな手は、それだけで癒しと安らぎを与えていくようだった。

    「トレちゃん最近あんま寝てないっしょ? ウチもけっこー夜更かししちゃうけど、それ以上に」

     少しだけ、非難めいた目つきになるトラン。
     それは、まさしく図星だった。
     もっと彼女の力になりたくて、彼女の走りを支えたくて。
     勉強だったり、あるいは情報収集だったり、いくら時間を使って足りないくらいだけど、それでも。

    「疲れって、知らないうちに溜まってくんだよ? ……横になっただけで、気持ち良くなっちゃうくらいに」

     ────やっぱ、情報通りだったか。
     先刻のトランの言葉が、脳裏に蘇る。
     今思えば、普段だったら、あんな素直な言葉を口に出したりはしなかったかもしれない。
     それを繕うことが出来ないほどに披露していた、ということを彼女はとっくに見抜いていたのだ。
     彼女の情報収集能力は群を抜いている、ともすれば、俺以上に俺に詳しいほどに。
     ……ああ、そうか、妙に準備が良いのも、最初から計画通りだったというわけか。
     撫でる手が止まり、彼女の顔が耳元にそっと近づく。
     そして、息を吹きかけるように、小さく囁くのであった。
     
    「遠慮なくすやすやしてていーよん? ウチがたーっぷり、トレちゃんを気持ちよーくしておくかーらさっ♪」

  • 10二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 22:30:19

    お わ り
    とりまたたき台ということで

  • 11二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 22:30:44

    あっあっしゅきぃ♡

  • 12二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 22:32:57

    あぁ~(浄化される音)

  • 13二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 22:33:32

    癖に突き刺さりました。
    どうもありがとう。トランを引くために苦行をする決心もついた

  • 14二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 22:34:35

    気持ち良い………これが読む耳かきかぁ………

  • 15二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 22:35:23

    すいませんこのたたき台既に完成した刀で出来てるんですけど

  • 16二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 22:43:49

    ウマ娘×膝枕×耳かき=破壊力!!

  • 17124/03/14(木) 00:40:37

    >>11

    トランちゃんいいよね……

    >>12

    友人同士くらいの距離感いいよね……

    >>13

    俺も引いたから……

    >>14

    読むASMR目指して頑張ってます

    >>15

    切れ味確かめないといけないから……

    >>16

    ウマ娘耳かき概念は良い……

  • 18二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 08:45:38

    貴重な耳かきSS助かる

  • 19124/03/14(木) 17:45:51

    >>18

    もっと増えて欲しいよね……

  • 20二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 19:20:45

    このレスは削除されています

  • 21二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 19:31:18

    とても良いものを見せていただきました

  • 22124/03/15(金) 00:41:53

    >>21

    こちらこそ読んでいただきありがとうございます

  • 23二次元好きの匿名さん24/03/15(金) 02:08:26

    これはいいものだ……

  • 24124/03/15(金) 06:59:33

    >>23

    トランちゃんはいいぞ……

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