理由など。ご自身で、お確かめになったら? その為に、形はあるのだから……

  • 1◆y6O8WzjYAE24/03/14(木) 00:33:22

    【純白を七で彩る贈り物】

    『理由など。ご自身で、お確かめになったら? その為に、形はあるのだから……』

    「お返し、ねぇ……」

     トレーナー室に備え付けてある、日めくりのカレンダーを一枚破り。大きく書かれた5という数字に囚われる。

    「はぁ~……何を渡せばいいんだろうな……」

     桃の節句も先日終わり、間近に迫る春の陽気が待ち遠しいこの季節。
     学園では卒業式や春のGⅠレースなど、これからどんどん空気が慌ただしくなることだろう。
     そして、俺自身も慌ただしく過ごさなければならない一人になりそうだった。

    「クッキー? いやぁ、無難すぎやしないか?」

     担当ウマ娘であるメジロラモーヌからバレンタインのチョコを貰い、当然そのお返しに、ホワイトデーには何かを贈りたいと思ったのが3月に入ってから。
     ただ残念ながら何をお返しするべきか思いつかず、日々こうしてカレンダーの数字が増えていくのを眺めるばかりである。

    「どうせならちゃんとした、彼女に合わせたものを贈りたいよな……」

  • 2◆y6O8WzjYAE24/03/14(木) 00:33:32

     ラモーヌから貰ったショコラは控えめに言って洒落ていた。俺が貰っていいものかと、気後れするくらいに。
     それに相応しいお返しとなると、当然こちらも何か凝ったものを贈るべきだと考えるのは道理な訳で。
     しかしながらパッと思いつくほど、その手の洒落た贈り物には詳しくない。
     そういうのはラモーヌの妹である、アルダンの担当トレーナーみたいな人の専門分野だろう。
     ……いや、待てよ?

    「……そうか! 俺だけじゃ思いつかないなら他の人に聞けばいいじゃないか!」

     自力で無理なら他力も借りて。俺自身からのお返しという意味は薄くなってしまうかもしれないが、ベストを尽くすという意味ならこれ以上ない選択肢だろう。
     どうせ贈るのなら喜んでもらいたい。ならば彼女の嗜好に合わせるべく、リサーチをするというのは悪い事ではないと思う。
     そうと決まれば思い立ったが吉日。早速有益な情報をくれそうな子達に相談しに行くのだった。

  • 3◆y6O8WzjYAE24/03/14(木) 00:33:46

    「え? ホワイトデーのお返しですか?」
    「そう。力を貸して欲しいんだけど」

     ちょうどカフェテリアでお茶をしていたライアン、ドーベル、ブライトと相席させてもらって。相談を持ちかける。

    「それならアタシたちのトレーナーに聞いたほうが参考になるんじゃないの?」
    「君たちがお返しで貰って嬉しいものを聞きたくて。ほら、君たちのトレーナーから聞いちゃうとそれは彼らの贈りたいものであって、俺が贈りたいものではないだろ?」
    「アタシたちに聞いてる時点で既に怪しいと思うんだけど」
    「う"っ……けどさ、どうせ贈るなら喜んで貰えるものを渡したくて」

     痛いところをついてくる。実際俺自身がこれをお返しに贈りたいと決められていたのなら、それが一番良かったのだろうが。
     あいにく思いつかなかったから今こうして相談しているのである。

    「まあまあドーベル〜。そう言わずに〜。トレーナーさまだってこう仰っておりますし〜」
    「……いいけど。アタシが貰うわけじゃないんだし」
    「それで。トレーナーさんはどんなものを贈りたいかとか、候補はあるんですか?」
    「ああ、それなんだけど。無難にクッキーとかそういうものしか思いつかなくて」

     ベターではなくベスト。俺が贈りたいのはそういう気持ちだ。ただそのベストを目指せる候補すら俺の頭には存在していない。

    「クッキーですか〜? わたくしなら、とても嬉しいですけれど〜」
    「うん。普通に嬉しいと思う。悪くないんじゃない?」
    「まあそうなんだけどね……でも自分の中でピンと来てないものを渡したくない。だから少しでも選択肢は広げたいんだ」
    「なるほど。そういうことなら! ……と言いたいんですけど。あたし達もラモーヌさんの事に関しては詳しくなくて……」
    「いや、それでも男の俺よりかは参考になると思うから。頼む」

  • 4◆y6O8WzjYAE24/03/14(木) 00:33:57

     以前……と言ってもラモーヌのメイクデビューから日が浅い頃、数年前にも同様の答えを聞いたことがある。
     ああ、確かあの時も似たような理由だったっけ。ラモーヌの事をもっと知りたくて。今と同じように藁にもすがる思いだった。

    「わたくしなら、マカロンが良いと思いますわ〜」
    「ブライトは好きだもんね、マカロン」
    「なるほど、マカロンか。確かに男よりかは女の子の方が好きなイメージはあるな」
    「トレーナーさんはあんまり、ですか?」
    「俺はマカロンだと量が物足りないと思っちゃうな」

     可愛らしい見た目に反して一個あたりのお値段は中々に可愛くない。
     自分が食べる為に買うとしたら、同じ値段でもっとお腹を満たせるかもしれない、と心の何処かでブレーキを踏んでしまうだろう。
     とはいえ今回は贈り物だ。十分選択肢に入る。

    「アタシはアロマキャンドルとかバスボムとか? 食べ物じゃないけど」
    「いいな、お洒落で。でも君って確かそういうアロマ? に詳しいよな? それでも貰って嬉しいものなのか?」
    「まあ自分で使う為に買う時もあるし特別感はないけど。でも使う時に貰った人の事を思い出すし、そういう意味でもいいんじゃないの?」
    「なるほど……」

     アロマキャンドルにバスボムか……。自分で考えていたらまず候補にも挙がりそうになかった。
     香りで自分の事を思い出してもらう、というのは確かにいい案だ。なにせ契約したての頃は契約した事すら忘れられていたしな……。

    「ライアンはどうだ?」
    「あ、あたしもですか!?」
    「そりゃこの流れで聞かない方が不自然だと思うんだけど」
    「えっと〜……あたしは正直貰えたらなんでも嬉しいと言いますか〜……いちごのホワイトチョコとかですかね」
    「チョコはバレンタインで貰うイメージの方が強いけど、お返しに贈るのも確かにいいな」

  • 5◆y6O8WzjYAE24/03/14(木) 00:34:07

     ラモーヌのように手作りとはいかないが、お返しとしてはかなり納得できる選択肢だ。
     ライアンの言うようにホワイトチョコなど、その中でもさらに選択肢があるがチョコという枠組みから絞っていくのもアリかもしれない。
     ──と、3人から聞いた案を整理しているとドーベルとブライトがニヤニヤしている事に気が付いた。俺の考える姿がおかしかった、とかだろうか?
     
    「ん? 俺、変な顔でもしてた?」
    「ううん、そうじゃないよ。だって、ねぇ?」
    「はい〜。いちごのホワイトチョコは、去年のホワイトデーにライアンお姉さまがトレーナーさまから戴いていたものですもの〜」
    「ちょ、ちょっと二人とも?!」

     ああ〜、なるほど。ライアンは貰って嬉しいものではなく、貰って嬉しかったものを参考例として挙げてくれたのか。ただ、それならそれで大助かりだ。

    「それならむしろ有り難いよ。だってライアンのお墨付き、って事だろ?」

     顔を真っ赤にして俯く姿に若干の申し訳なさを覚えるが、すまない。ラモーヌの為なんだ……。

    「よし、ありがとう! 参考になったよ!」

     メモ帳に3人の案をまとめたところで別れを告げ、次なる相談相手を探しに向かった。

  • 6◆y6O8WzjYAE24/03/14(木) 00:34:18

     次なる相談相手は思いの外すぐに見つかった。

    「モンブランですわ!」

     中庭で談笑していたマックイーンとパーマーに声を掛け。
     ライアン達にした質問を同様に投げ掛けたところ、マックイーンからは答えがすぐに返ってきた。

    「そ、そっか。でもモンブランだと贈り物としては難しくないか? 生ものだし」
    「ええ。ですから、一緒に食べられるお店にエスコートしていただくことを含めてのお返しです。特に先日見つけました『Cafe Indigo』というお店のものが絶品で……!」

     あまりの即答ぶりに隣にいるパーマーがお腹を抱えている。
     しかしマックイーンからしたら完璧な回答だという自負があるのだろう。ちょっと誇らしげだ。
     ただ言い切ってから俺とパーマーと、自身との温度に違いがある事に気がついたのか。少しもじもじとし始めた。

    「な、なにか言ってくださいな!? これでは私、まるで辱めを受けているようです!」
    「い、いや。いいと思うよ? 贈り物だけじゃなくてお出かけ含めてのお返しというのは参考になった」
    「いやぁ……! あんまりにもすぐに答えるのが面白くて……!」
    「パーマー!?」

     モノにこだわって、お出かけ自体をお返しの一部にするという発想は俺にはなかった。
     まあ、そんなことよりターフで走りたいと突っぱねられる可能性はあるが。誘うだけ誘ってみてもいいかもしれない。
     それと甘いモノには素直なところ、俺は素敵だと思うよ、マックイーン。

  • 7◆y6O8WzjYAE24/03/14(木) 00:34:30

    「トレーナーさん的には何か渡したいものとかあったりする? って……決まってたら相談してない……か」
    「そういうこと。情けないことにね……」
    「まあまあ、そういうことならパーマーさんにドーンと任せておきなさい!」

     ああ……なんと頼もしいことだろう……。パーマーがお悩み相談マスターな事は常々耳にしていたが、いざ自分が相談する立場になると安心感が違う。

    「それで? どんな部分で悩んでたり?」
    「ああ、それなんだけど……」

     ラモーヌに合ったお返しをしたい事。既にライアン達3人に相談してきた後で、どんな案を貰ったかを伝える。

    「3人の案もいいと思ったんだけどね。どうせなら皆に聞いておこうと思って」
    「マカロンにアロマキャンドル……それにホワイトチョコ……どれも素敵だと思いますわ」
    「俺もそう思ってる。マックイーンの案もいいと思うぞ?」
    「も、もうっ。やめてくださいな? 反射的に答えてしまったのは恥ずかしいと思っているのですから……」

     マックイーンとしても既に聞いた3人の案はいいと思えるのだろう。
     よっぽど失礼なものでもない限り、お返しに不味いも何もないとは思うが、賛成意見が一人増えるだけでも自信が違う。
     パーマーはどうだろうと視線を向けると、考えがまとまったのかちょうど口を開いた。

    「……ぶっちゃけトレーナーさん。今悩んでるの、って何を渡せばいいか分からない、じゃなくてどれにするか迷ってるんじゃないかな?」
    「どういう事だ?」
    「3人……いや、マックイーンも入れて4人だけど。どの案も選びたいのに一つに絞りきれないのかな〜、なんて。そんな風に聞こえたんだけど」

     ……確かにそうかもしれない。どんなものを贈っても喜ばれるのは分かった。
     そして贈って喜ばれそうなものの候補もある。そんな中でまだ相談しているのは、どれも贈りたくて候補の中から決めあぐねているのかもしれない。

    「そう……かもな。だとしてもどれかに決めないと──」
    「選ばなくってもいいんじゃない?」

  • 8◆y6O8WzjYAE24/03/14(木) 00:34:40

     選ばない? お返しを?

    「私らから貰ったアイディア全部選びたいんならさ。全部選んで贈っちゃないよ。だってそれがトレーナーさんのお返しとして贈りたいもの、なんでしょ? ほら! バレンタインって3倍返し、ってよく言うじゃん? アレと同じノリで!」

     そ、っか。確かにそうだ。ホワイトデーのお返しは3倍返しというのはよく聞く話だ。
     値段として、という意味でしか認識していなかったが……量で実現か……。

    「いいな……それだ! それでいこう!」

     そうと決まれば悩みも晴れた。

    「よし! そうと決まればパーマーも何か案をくれないか? どうせならメジロ家の子皆のアイディアを貰って全部渡したい」

     貰った案を全部贈っていいのなら、いっそのことメジロ家の子皆の力を借りて。全部お届けしてしまおう。

    「う~ん……あんまり食べ物がたくさんあっても困るだろうから、花束とかあってもいいんじゃない?」
    「いいな! よし、採用だ!」

     メモ帳にパーマーの案も追加して。方針が定まってしまえば身体がウズウズしてきた。
     何せ最後の一人、妹であるアルダンから贈られて嬉しいものを聞いてくれば、後は皆のアイディアを参考に実際に選ぶだけなのだから。

    「ありがとう! マックイーン、パーマー! アルダンにも聞いてくるよ!」
    「私はあまり力になれていない気もしますけれど……って行ってしまわれましたわね」
    「あはははは! いってらっしゃ~い!」

     そうして二人に見送られながら、最後に残ったアルダンを探しに行った。

  • 9◆y6O8WzjYAE24/03/14(木) 00:34:53

    「なるほど。ホワイトデーのお返しの為、ですか……」

     幸運にも図書室からちょうどよく出てきたところを見つけて。
     立ち話もなんですから、とエントランスに導かれ。テーブルの席に腰掛けたところで本題を切り出した。

    「そう。そんな感じで皆からアイディアを貰って来てるから。最後に君にも聞きたくて。アルダンは何かないかな? ホワイトデーに贈られて嬉しいものは」
    「それは誰から、の想定でしょうか?」
    「もちろん君自身のトレーナーから」

     貰いたいもの自体はすぐに思いついたのだろう。ただそれを言おうか言うまいか。逡巡する素振りを見せたものの、少しだけ頬を朱に染めて喋り出した。

    「……マロン・グラッセ、でしょうか。憧れではあります」
    「あんまり聞き馴染みのないお菓子だね。モンブランの親戚?」

     先程聞いてきたマックイーンと連続して栗関連のお菓子が挙がってきた。
     とはいえ名前からして栗に関連したお菓子ということしか分からない。

    「いいえ、違いますよ。栗を砂糖とシロップで漬けたお菓子です」
    「へぇ〜。そんなものが。君はそのお菓子が好きなのかい?」
    「好きとは少々違いますけど……」

     ほんのりとだけ朱に染まっていた頬が、みるみるうちに色を増し。深入りするのは得策ではなさそうだ。

    「それは俺がラモーヌに贈っても大丈夫なものだったりする?」

     しかしアルダンの反応を見るに、贈っても大丈夫なものかどうかの判別がつかない。
     皆のアイディアを貰っている以上、彼女だけ除け者にする訳にもいかない。なのでその事だけでも確認したかったのだが。

  • 10◆y6O8WzjYAE24/03/14(木) 00:35:04

    「えっ!? あっ、いえ……」

     何故か考え込み始めてしまった。そんなに贈るのに深い意味があるのだろうか。反応的に不味い意味ではないのだろうが。

    「トレーナーさんは、姉様の事をどう思っておられますか?」

     数秒の沈黙の後、掛けられた言葉は俺の質問への答えではなく、俺に対する問いかけだった。

    「どうって……大切な担当ウマ娘で。レースを愛する同士で」

     きっとこれは俺のした質問への答えに必要な情報なのだろう。今更答えに困るような問いかけでもない。

    「まあ、ラモーヌの言葉を借りるなら。愛してるよ、彼女自身を」

     嘘偽りなく、俺が彼女をどう思っているかを表現する言葉としては最も適しているだろう。
     そんな俺の答えに、暫く目を瞬かせた後。

    「……贈ってはダメです」

     非常に複雑な、なんとも言えない表情で口を開いた。
     例えるなら……好きなお人形を別の子に取られたのに、面と向かって返してと言えない幼い女の子みたいな感じ、だろうか?
     いや、彼女はもう大人に近い年齢だし、幼い女の子に例えるのは失礼かもしれない。

    「えっ、そうなの? 何か不味い意味があったりするのか? 貴方の事が嫌いです、みたいな」

     流石にそんなはずはないだろうが。なにせ自身のトレーナーから贈られたいものとして挙げているんだから。

    「いえ! そういう訳ではないのですけれど……私にとってあまり好ましくないことになりそう、と言いましょうか……」
    「どういう事だ……?」

  • 11◆y6O8WzjYAE24/03/14(木) 00:35:15

     贈る意味合いが不味い訳ではない? ならラモーヌが栗が好きじゃないとかだろうか?
     いや、これまで共に過ごしてきてそんな話も素振りも見た覚えがない。それに私にとって、ということはラモーヌにとっては別に問題ないということだろう。
     
    「えっと……その。もし仮に、トレーナーさんがマロン・グラッセを贈りたいのでしたら。姉様が学園を卒業してからの方が好ましいと。そう思います」
    「なるほど? 分かった。取り敢えずはそうするよ」

     まあ、アルダンがそう言うのならそういうものなのかもしれない。意味などは後で調べることにしよう。

    「けれどそうなると私からの案がなくなってしまいますね……」
    「申し訳ない……」
    「いえ、いいのです。姉様を大切に思ってくださっている故なのですから」

     そう言ってもらえると非常に助かる。そうしてもう一つ案を出してくれようと、考え始めるかと思いきや。

    「そういえばトレーナーさん。マックイーンが勧めていた店の名前をもう一度聞いてもよろしいでしょうか?」
    「え? 確か『Cafe Indigo』だったかな」

     どうやら何かを閃いたらしい。しかしカフェの名前で何を思いついたのだろうか?

    「Indigo……なるほど。トレーナーさん。こうしてはどうでしょう?」

     贈る物のアイディアと共に聞かされた内容は。メジロの子達から聞いたアイディア全部贈りたい、という思いと見事に合致していて。

    「ありがとう! そうさせてもらうよ!」
    「はい、頑張ってください」

  • 12◆y6O8WzjYAE24/03/14(木) 00:35:27

     アルダンから話を聞き終えて、弾けるようにお返しを探しに行って。今日やれる事は全部やり終えた。
     風呂にも浸かり、まだ買い終えていないお返しをまとめつつ。就寝の準備をしているとふとアルダンとした、別の会話を思い出した。

    「そういえばマロン・グラッセは結局なんだったんだ?」

     スマホで軽く調べてみると、答えは簡単に出てきた。

    「ああ。アルコールが入ってるものもあるからか。なるほど、それなら卒業してからというのにも……」

     と、納得しかけて。検索候補に挙がっていた別のサイトの見出しが目に入る。
     ああ……なるほど。確かにこれは学生に贈るものとしては相応しくないかもしれない。
     ただそれを贈ってもらいたいと思っているあたり、なんというか。

    「……隅に置けないな、まったく」

     憧れ、というのが本当にそのままの意味だったのだろう。しかし彼女のトレーナーなら憧れではなく、現実にするかもしれない。
     そう微笑ましく思っていたものの。

    「ん? でも別にアルダンが好ましくない理由ではないよな……?」

     今度は違う疑問が湧いてきた。……とはいえ完全に贈っちゃダメなものと言われた訳ではない。気にするだけ無駄だろう。

    「まあいっか」

     そんなことよりもお返しを贈った時にラモーヌはどんな顔をしてくれるだろう、と。楽しみにしながら眠りについた。

  • 13◆y6O8WzjYAE24/03/14(木) 00:35:38

     ホワイトデー当日。
     渡したい物があるからトレーナー室に来て欲しいとラモーヌに連絡して。彼女の事だ。
     もしかしたらそんな物より走ることを優先するかもしれない、と。若干不安になっていたものの、お昼過ぎにはしっかりと出向いてくれた。

    「それで? 渡したい物とは一体何かしら?」
    「ああ、バレンタインデーにチョコをくれただろう? だからそのお返しを渡したくて」

     まずは鞄に入れる訳にもいかず隠し切れていない、オレンジ色を基調とした花束をラモーヌに手渡す。

    「はい! ハッピーホワイトデー!」
    「あら、ありがとう」

     ああ、良かった。お気に召さなかったらどうしようかと内心不安だったから。いつもより表情が穏やかになった彼女に安堵しつつ、次なるお返しを取り出す。

    「まずはそれが1つ目ね」
    「1つ目?」
    「で、次がこれ。中身はマカロンだ」

     2つ目に渡したのは青色を基調としたラッピングが施されたマカロン。花束を持っていて手が塞がっているので、机に並べていく。

    「で、次が……」
    「……いったいいくつ出てくるのかしら?」
    「えっと、あと4個かな?」

     そうして用意したお返しを次々と机に並べていく。紫色のラッピングがされたアロマキャンドル。
     黄色のラッピングがされたオランジェット。緑色のラッピングがされたジャスミンティー。
     最後に、藍色の包みに入ったマロンチョコを机にコトリと置いて。

  • 14◆y6O8WzjYAE24/03/14(木) 00:35:49

    「それとこの後、『Indigo』っていうカフェがあるんだけど一緒にモンブランを食べに行かないか?」

     俺の誘いに返事はなく、きっとこのお返しの意図を聞きたいのだろう。言外に続けて? と伝えてきた。

    「君へのお返しを考えてさ。どうしても妥協したものを渡したくなくて。それでメジロ家の子たちに相談して回ってたんだけど……全部渡したくなった」

     全部渡したいなど。呆れられるだろうか? 若干の不安に苛まれる中、微笑をたたえて口が開かれる。

    「貴方、私に丸々と肥えて欲しいの? そちらの方がお好みで?」
    「いや!? なにも今日全部食べて欲しい訳じゃないぞ!?」
    「冗談ですわ」

     幸いにも、返ってきたのは軽い冗談だった。
     ああ、良かった……。誤解なく、俺の気持ちは伝わったみたいで。

    「君から贈られたメッセージカードは白紙だったけど、俺はお喋りだからね。一色だけじゃ足りないから、七色全てを贈るよ」
    「そう……橙、黄、緑、青、藍、紫……一色足りないようだけど」
    「あっ、えっ!?」

     言われて気づく。そうだ!? なんで赤色がないことに気づかなかったのだろう!?
     そもそもアルダンだって『私達6人と、トレーナーさんを合わせて7人。姉様のカンバスを彩る、虹を贈るのはどうでしょう?』と言っていたじゃないか!?
     どう考えても俺自身からの贈り物を合わせる前提の発想だ!?

  • 15◆y6O8WzjYAE24/03/14(木) 00:35:59

    「え〜、っとぉ……」

     万事休す。とんだ間抜けを晒してしまった。どうやってフォローしようか。
     必死に策を考え抜く前に、ラモーヌが再び口を開いた。ああ……! 何を言われるのか……!

    「ないのなら、この場でいただいても?」
    「は? いや、この場でっ、て──」

     渡せるものはこの場にはない。そんな言葉を口にする前に、淑やかに。トン、と距離を詰められて。
     ネクタイを捕まれ、強引に屈まされた先に待っていたのは。唇に触れる、柔らかな感触。
     呆気にとられ、気づいた時には……先程よりも、さらに上機嫌そうなラモーヌの顔が目の前にあった。

    「いただいたわ」

     いただいた。いただかれた。何を?
     …………。いや!?

    「これじゃあ俺が貰ってないか!? って、ちょっと待ってくれ!? 一体どこに──」

     何をされたのか。理解が追いついた時には、既にラモーヌは花束を机に置いてトレーナー室を出ようとしていて。慌てて呼び止めると。

    「モンブラン。食べに行くのでしょう?」

     どうやら、しっかりお出かけにも付き合ってくれるらしい。

    「……ああ!」

     あんまり呆けていると置いて行かれてしまうだろう。既にトレーナー室の扉に手を掛けたラモーヌに遅れぬよう、慌てて支度を整える。
     後ろ姿から見えた彼女の尻尾は、いつもより弾んでいるようだった。

  • 16◆y6O8WzjYAE24/03/14(木) 00:36:09

    みたいな話が読みたいので誰か書いてください。

  • 17二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 00:37:29

    書いとるやんか…

  • 18二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 00:38:28

    今まで見てきたそこにある物語は一体何だったんですかそれじゃあ

  • 19二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 01:44:59

    久しぶりに見たけど相変わらず凄い熱量だ……
    一つの話でここまで書けるの尊敬する

  • 20二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 02:20:10

    良かった…
    いや良かった以上のコメントが出てこない

  • 21二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 02:26:02

    SSの本筋とはズレてて申し訳ないけど >>6 のマックイーンがなんかもうめちゃくちゃかわいい

    あと

    >>14 で赤色がないことに気がついたトレーナーのリアクションも可愛い

  • 22二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 02:30:31

    マロン・グラッセの意味を調べてきた

    ほーん、ふーん

    愛じゃん……

  • 23二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 03:51:59

    赤かったのは唇か顔か
    まあこれ以上ない彼らの愛だよ

  • 24二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 05:35:20

    ラモーヌさんはストレートだねぇ…

  • 25二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 11:50:01

    >>23

    ラモトレはバーミリオンだからね

  • 26二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 13:03:55

    ラモーヌのストレートな感情は好き

  • 27◆y6O8WzjYAE24/03/15(金) 00:06:11

    上げてすぐにサクラバクスイオーしてました。

    姉ぴっぴのホワイトデーネタでした。
    バレンタイン関連がなんか……強火じゃない、姉様?となったので書きました。
    上げる前日の早朝に書き上げるとかいう計画性のなさゆえ全体的なリズムが調整不足なのは反省点。
    姉ぴっぴちゅきぴっぴ。

    ここまで読んでいただきありがとうございました。

  • 28◆y6O8WzjYAE24/03/15(金) 00:06:35

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています