- 1二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 22:02:42
短針が十二時を指したとき、私は寝間着の上からパーカーを羽織って寮室から出た。そしてそのまま、誰にも告げることなく寮館から抜け出した。
この時刻では出入り口の扉は施錠されているが、一部の生徒たちの間で秘密の抜け道の情報が共有されている。無論、寮長やそれに連なる者へ秘匿することを絶対の条件として、だ。
館の裏側に回り込み、周囲に誰もいないことを確認すると、茶色い石壁に背中を預けそのまま草原に座り込む。そして私は一つ、ゆっくりと大きく息を吐いた。
寮では沢山の生徒が生活していて、その生徒たちの中には顔見知りがそれなりにいる。彼女達と時間を共にして過ごすのは楽しいが、こう朝も夜も誰かしらが側に居るというのは存外気を使うものだった。
だから時々、涼やかで少しの暗がりがあって、他者の存在を感じさせない場所で空気を飲むことは、値の高い飴玉を舐めるようなものだった。
敗北や談笑に炙られて雛鳥の足取りように収束なく揺らぐ情動を、夜風が冷まし、木の葉たちの囁きによって歩調が整えられた。
終いに、継ぎ目のない薄墨色の衣を羽織った月が柔らかに微笑みかけてくれる。
空を仰いでどれほどの時間が経ったのだろうか。私の心を焦がしていた余熱はとんと消え失せ、代わりに羽毛のような睡魔が頬を撫でる。
頃合いだった。私は再び音を立てないようにそっと、寮友が眠る部屋に戻った。 - 2二次元好きの匿名さん24/03/16(土) 22:03:40
以上です。