【SS】もしロードカナロアがウマ娘になったら【オリウマ娘注意】

  • 1二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 17:20:14

    ウマ娘になったカナロアと、何人かのウマ娘たちとの関わり合い
    そしてそれを見るとある後輩ウマ娘のお話です

  • 2二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 17:20:38

    授業が終わると、私はカナロア先輩に併走をお願いするため、足早に教室を後にした。
    カナロア先輩との出会いは、トレセン学園に入学してから初めての模擬レースだった。
    模擬レースには敗れたものの、二着だった私の元には、私の実力を見込んだトレーナーや先輩のウマ娘が訪れるようになったが、カナロア先輩もその一人だった。
    香港スプリントの連覇を最後に一線を退いたカナロア先輩は、引退したウマ娘の例に漏れず、次の時代を担う後進の育成に興味を示し始めていた。
    私は短距離路線に進むつもりは無かったが、私の目指すティアラ路線には桜花賞やVMといった短距離よりのレースが多い。
    私はカナロア先輩の指導を受けることとなった。
    香港を制したほどのカナロア先輩の速さは、確かに私の走りを向上させ、いくつかのレースに勝利することが出来た。
    そしてG1レースを来週に控えた今、改めてカナロア先輩と併走することにより、己の速さを確かめる、というのが私の狙いだった。
    もっともこのことを思い付いたのはつい昨日のことだったので、アポなどはとっていない。
    後輩の面倒見がいいカナロア先輩のことだから断られることは無いだろうが、先約があればその限りではないだろう。
    私は廊下を半ば駆け抜けるようにして昇降口まで向かった。

  • 3二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 17:21:03

    校舎を出て少し歩くと、幸運にも尋ね人はすぐに見つかった。
    鹿毛を肩のあたりにまで伸ばしたその髪型は、周りのウマ娘の中に埋没してしまいそうなほど平凡だったが、幾度と無く追いかけたその後姿は、とうてい間違えられるものでは無かった。
    声を掛けようとして、私は躊躇った。
    カナロア先輩の隣のウマ娘に気付いたためだ。
    鮮やかな葦毛、まるでどこからでも見られてもいいように計算されたような“カワイイ”立ち振る舞い。
    彼女はカレンチャン、短距離路線におけるカナロア先輩の姉貴分である。
    カナロア先輩の一度目の香港遠征について調べていると、右も左も分からない異国の地で緊張と不安でガチガチになっているカナロア先輩と、彼女をエスコートするカレンチャンについての写真や証言がいくらでも出てくる。
    その上、カナロア先輩との戦績は一勝二敗。
    あの時代においてカナロア先輩に次ぐ実力を持ったスプリンターだった。
    しかしカナロア先輩から話を聞く限り、少なくともカナロア先輩がカレンチャンに向けている感情の種類は、それとは別種のものであるように思う。
    それは切なく胸を締め付けられるような――

  • 4二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 17:21:27

    改めて二人を見る。
    真っすぐ歩くカレンチャンの後ろを、従者のようにカナロア先輩が付き従ってる。
    すると私は、あることに気付いた。
    カナロア先輩の尻尾が、少しずつ、少しずつ、動いている。
    その先は――カレンチャンの尻尾だった。
    「まさか…尻尾ハグを?」
    それは一昔前のドラマにおいて、主人公が特別な相手にやっていた行為だったはずだ。
    ウマ娘にしか出来ない行為ではあるが、人間に例えれば手をつなぐどころかキスにすら匹敵するかもしれない。
    私は思わず拳を握っていた。
    今、カナロア先輩がどれだけの勇気を振り絞っているかが痛い程伝わってきたためだ。
    がんばれ、と心の中で声援を送る。
    あながち勝算の無い挑戦ではないはずだ。
    そうして鹿毛と葦毛が触れあおうとした瞬間――
    カレンチャンが振り向いた。
    私が驚いたのは、カナロア先輩の立ち位置が、いつのまにかカレンチャンより数歩離れた場所に移動していたことだ。
    その凄まじい瞬発力は、まさしく日本最強のスプリンターのものだった。

  • 5二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 17:21:52

    カレンチャンと別れた後、カナロア先輩はその場で立ち止まり、しばらくの間黄昏ていた。
    「先輩」
    「わっ、ど、どうしたの?」
    私がカナロア先輩に声を掛けると、彼女は小動物のように驚き、慌てふためいている。
    私はそれに気づかないふりをしながら自分の要件について話した。
    話しながら、改めてカナロア先輩を見る。
    ウマ娘の例に漏れず、目鼻立ちは整っている。
    しかし、その業績と比較してみれば、あまりに凡庸な容姿をしているように思う。
    その上、気が弱く、やや神経質な面もある。
    他には――
    ふと、私はカナロア先輩のことについてあまり知らないことに気付いた。
    私がカナロア先輩について知っていることは、指導を受ける過程でカナロア先輩が自身の経験を話してくれたことと、私が自分でカナロア先輩について調べたことくらいである。
    カナロア先輩はどうして短距離路線を走るようになったのだろう、カナロア先輩が憧れたウマ娘などはいるのだろうか、カレンチャンの他に親しいウマ娘は?
    「おーい?」
    私はカナロア先輩が呼ぶ声で我に返った。

  • 6二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 17:22:13

    私とカナロア先輩が練習場までの道のりを歩いていると、ターフの一画に人だかりが出来ていることに気付いた。
    人だかりの中心には、遠くからでも判るほどに鮮やかな金髪のウマ娘が一人。
    彼女はなんとターフの上で寝入っていた。
    凄まじいのは、それがまるで映画の1シーンであるかのように、絵になっていたことである。
    それゆえ、本来であればウマ娘を指導する立場であるはずの教官やトレーナーですら、彼女の眠りを妨げられずにいる。
    「ごめん、ちょっと待ってて」
    しかし、カナロア先輩は違った。
    呆れたように溜息を吐くと、人だかりに向かって小走りに駆け出した。
    私もカナロア先輩についていく。
    「わっ、ロードカナロアだ」
    「香港の龍王…!」
    カナロア先輩が人だかりに近づくと、自然と道が出来ていった。
    先ほどの姿からは考えられないことだが、カナロア先輩もまた、ウマ娘の歴史に名を残す王の一人なのであった。
    そして、王はこの場にもう一人いる。
    史上7人目の三冠ウマ娘でありながら、その激しい気性から“金色の暴君”と謳われたウマ娘、オルフェーヴル。
    人だかりの中心にて、同世代に生まれた二人の王が相対した。

  • 7二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 17:22:39

    と、字面だけなら仰々しいが、カナロア先輩はそんなことは気にもしていないようだった。
    「おーい起きてー、みんなの迷惑だぞー」
    あくまで常識的に、オルフェーヴルを起こそうとしている。
    しかし、カナロア先輩が何度声を掛けても、オルフェーヴルに起きる気配は無い。
    「……阪神大笑典」
    「貴様余を愚弄するかァ!!」
    それは突然のことだった。
    カナロア先輩が小声で何かを呟いたかと思うと、オルフェーヴルはその場で飛び上がるようにして起き上がった。
    凄まじい体幹のなせる技である。
    オルフェーヴルは怒気を孕んだ眼で、周囲を見渡した。
    オルフェーヴルが辺りを見渡すと、目線を向けられた人だかりが後退していく。
    その目線が、カナロア先輩を捉えた。
    「おはよ」
    「……なんだ、お前か」
    意外にも、オルフェーヴルの反応は穏やかなものだった。
    やや機嫌が悪そうにしているのすら、寝起きだからというのが原因と思われた。
    「だめじゃないか、ターフなんかで寝たら」
    「余の肉体が眠りを求めていたのだから仕方があるまい。春眠暁を覚えず、とも言うだろう」
    「じゃあ自室か保健室で寝ればいいんじゃない?」
    二人は和やかに会話している。
    確かに雑誌などでは並んで扱われることが多い二人だが、プライベートでも仲がいいということを私は知らなかった。

  • 8二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 17:23:05

    「して、貴様は何者だ? 慮外者」
    少しの間を置いて、それが自分に向けて言われていることに気付く。
    先ほどの怒気こそなかったが、射貫く様な眼差しに、一瞬怯んだ。
    慌てて私を紹介してくれようとするカナロア先輩だったが、私はカナロア先輩を目で制した。
    ここで自己紹介すら出来ないようでは、到底トゥインクルシリーズを駆け抜けることなど出来ないだろう。
    「申し遅れました、私は――」
    「いや、名など言わずとも良い」
    戸惑う私の腕を、オルフェーヴルの手が掴んでいた。
    そのまま、強い力で引っ張られる。
    次の瞬間、私の額とオルフェーヴルの額がぶつかった。
    オルフェーヴルの眼に写る私の像すらはっきり見える距離だ。
    そんな異様な距離感のまま、どれほどの時間が立っただろうか。
    3分もそうしていたようにも感じるし、ものの3秒程度だったようにも感じる。
    「貴様はティアラ路線に進むのだな?」
    「え? あ、はい」
    唐突な行為にも、初対面なのに自分のレース計画を当てられたことにも面食らい、私は気の抜けた返事をしてしまった。
    「やはりな、“あの女”に眼がよく似ている。いや、眼光の強さならそれ以上か」
    「あの女?」
    「そこにカナロアのスピードが加われば…手強いな。我が弟子も苦労するだろう」
    いまいち言っている意味はよく分からないが、唯一分かったことがある。
    「評価しているんですね、カナロア先輩のこと」
    私はカナロア先輩の方を向いた。
    カナロア先輩も状況についていけずに呆けていたが、自分のことを言われていることに気付くと、私?、と言わんばかりに自分を指差した。
    「まあな」
    オルフェーヴルは一つうなずくと、なんでもないように言った。
    「余が共に立つことを認めたのは、この世で奴くらいのものだ」

  • 9二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 17:23:25

    「そっかー、“共に立つもの”かー、そんなふうに思ってたんだー、へへ」
    オルフェーヴルと別れた後、私とカナロア先輩は再び練習場までの道を歩いていた。
    道中、カナロア先輩はオルフェーヴルが最後に言った言葉を反芻し、そのたびに悦に浸っていた。
    そんなカナロア先輩を見て、私は少し不自然に思った。
    確かに、同期であり三冠を取った程のウマ娘に自分が認められていると分かれば嬉しいだろう。
    しかし、この喜び方はちょっと異常じゃないか?
    同期と言っても、オルフェーヴルとカナロア先輩では路線が違う。
    言ってしまえば、お互いにまったく関係無いところで同じくらい圧倒的に勝っていた、というだけに過ぎないのだ。
    そんな私の様子に気付いたカナロア先輩は、私に一つの話をしてくれた。
    それはカナロア先輩の原点についての話だった。
    「そもそもの話、私は最初から短距離路線目指してたんじゃなかったんだよ」

  • 10二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 17:23:45

    カナロア先輩がトレセン学園に入ったのは、とある年のダービーがきっかけだったという。
    10着までのウマ娘がそれまでのレコードを更新したほどの壮絶な高速レースを制したのは、たった三週間前にG1を勝利したばかりのウマ娘だった。
    その走りは、多くのレースを志すウマ娘たちが目標とするところになった。
    有名なウマ娘で言うと、クラシック二冠を獲ったドゥラメンテなどが挙げられる。
    カナロア先輩もその一人だった。
    「だから、私もダービーを走るつもりだった」
    入学したばかりの頃、まだ本格的なレースの指導を受ける前のウマ娘相手ならば、カナロア先輩は中長距離でもそこそこには戦えた。
    そう、“そこそこ”には。
    「オルフェーヴル、ですか」
    「うん」
    “最低限のスタミナさえあれば、圧倒的なスピードでカバーできる”そんな甘い考えは、暴君によって打ち砕かれることになる。
    私はカナロア先輩の態度についてようやく納得した。
    カナロア先輩にとってオルフェーヴルは、同期というだけでは無く、自らの夢を打ち砕いた張本人でもあったのだ。
    そしてカナロア先輩は岐路に立たされることとなる。
    このまま中長距離路線に踏みとどまり暴君に戦いを挑み続けるか、それとも自らの圧倒的なスピードを生かせる短距離路線に進路を変更するか。
    「別に短距離路線に差別意識を持ってたわけじゃないけど、やっぱり人の心に残るレースってことなら、ね」
    そんなカナロア先輩の前に現れたのは、他でもないあのダービーウマ娘だった。

  • 11二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 17:24:10

    そこまで話すと、カナロア先輩は足を止め、こちらを向いた。
    見慣れたその瞳に、なぜかどきりと胸が高鳴った。
    「『なんで私は王と呼ばれていると思う?』」
    それはカナロア先輩の口から発せられてはいるが、カナロア先輩では無い“誰か”の言葉だということがなんとなくわかった。
    だから私も、私ではなくカナロア先輩になったつもりで答える。
    「…人の心に残る凄い走りをしたからです」
    「『そうね、じゃあなんで私の走りはみんなの心に残ったと思う?』」
    「…ダービーをレコードで勝ったから」
    「『違う』」
    カナロア先輩はそこで一度話を切ると、こほんと咳ばらいをした。
    「『私の走りが唯一無二だからよ』」
    刹那、私の背筋を何かが走り抜けた。
    おそらく、カナロア先輩もそうだったのだろう。
    「『MCローテに挑んだウマ娘は他にもいる』」
    「『だけどその両方を勝利、それもレコードを刻んだのは私しかいないわ』」
    「『人々は私の走りを心に焼き付け、末永く語り継ぐでしょう』」
    「『そんな走りをしたウマ娘だけが――』」
    「…王と呼ばれる資格を持つ」
    最期の言葉は私の口から漏れ出ていた。
    私の言葉にカナロア先輩はこくりとうなずくと、話を続けた。
    「『それさえ出来たのなら、走るレースはなんでも良いのよ』」
    「『ダービーでも、マイルチャンピオンシップでも、春天でも、中山大障害でも――香港スプリントでもね』」
    そこまで言い終えると、カナロア先輩は一息吐いた。
    こうして短距離路線に進んだカナロア先輩は、勝って、勝って、たまに負けて。
    カレンチャンやハクサンムーンといったライバルと出会って。
    海を越えて渡った香港の地で、彼女は“龍王”になったのだ。
    それは偉大なる継承の物語だった。
    ――で、あるならば。
    龍王が大王から受け継いだ冠は、これからどこに行くのだろう?

  • 12二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 17:24:30

    「先輩」
    「ん?」
    「先輩は中長距離路線にもう未練はありませんか?」
    カナロア先輩は少し考えて答えた。
    「うーん、無いと言えば嘘になる、かな」
    「だったら、私がカナロア先輩の代わりに中長距離のG1を勝利します」

  • 13二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 17:24:50

    私の中で、衝動が渦を巻いていた。
    大王から龍王へと受け継がれた冠を、誰でもないこの私が継承するという衝動が。
    しかし、それには一つの難関が存在する。
    その冠は、唯一無二の走りをした者にしか戴く権利はない、ということだ。
    大王はMCローテを、龍王は香港スプリントを。
    両者とも達成不可能と呼ばれたレースを勝利した、いわば開拓者だ。
    翻って、私の今後の計画にそんなレースを走る予定はない。
    私が走るティアラ路線は、多くのウマ娘たちが踏み固めてきた王道の上にある。
    では、どうする?
    “王道”と“唯一無二”を両立するためには?

  • 14二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 17:25:07

    それこそ、全ての先人たちを過去にする気概が必要だろう。
    例えば、皇帝越え。
    現在、平地G1の最多勝利記録はトレセン学園の会長シンボリルドルフが初めて達成した7勝である。
    ティアラ路線で活躍したウマ娘では、ウォッカやジェンティルドンナがその記録を達成している。
    その記録を越える。
    その過程で、どこかのG1のレコードも塗り替えよう。
    しかし、それだけでは弱い相手に勝っただけなどと言う輩も出てくるだろう。
    同期、もしくは後輩からクラシック三冠かティアラ三冠を獲ったウマ娘が出てきてはくれないものか。
    シンボリルドルフやジェンティルドンナの如くに三冠ウマ娘を直接対決で降すことが出来れば──
    そこまで考えて、自分の余りの発想の飛躍に我ながら呆れて失笑してしまう。
    私はまだ、重賞を一つ勝っただけのウマ娘に過ぎない。
    それなのにレコードだの三冠だの、気が早いにもほどがある。
    しかし、何故か私はそれがまったくの夢物語とは思えなかった。
    私の瞳には、女王の座へと繋がるまっすぐな道が映っている。

  • 15二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 17:25:53

    終わり
    競馬はにわかなんでおかしなところがあったらごめん

  • 16二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 17:53:38

    バクシンはいないのか

  • 17二次元好きの匿名さん24/03/17(日) 21:09:33

    保守

オススメ

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