(SS注意)キタサンブラックがホワイトデーに何を貰うのかを考えてモヤモヤする話

  • 1二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 18:08:55

     冷たかった風も徐々に和らぎ、空に輝く太陽が暖かい春の良き日。
     いつも通りにトレーニングが終わり、いつも通りにミーティングが終わる。
     そんな風に何も変わることがないと思っていた日常は。

    「キタサン、ホワイトデーに欲しいものってある?」

     ミーティング終わりに何気なく言ったトレーナーさんの一言。それだけで容易く崩れることになってしまった。

    「えっ、ホワイトデーにですか?」

     唐突に出てきた言葉に思わず聞き返してしまう。
     胸はドキドキしてるし、耳だって両方ともキョロキョロと動いてる。
     うん、あたし思った以上に動揺してるんだ。だからこそ、分かりきってることを聞き返してしまうのだろう。

    「ああ。こんな事を聞くのはあんまりよくないのかもしれないけど、せっかくなら君が欲しいものを渡したいからさ」

     返ってきた答えは思っていた通りのものだった。
     そうだよね……こういうのを聞くなんて、それ以上の理由はないよね……。分かりますよ、トレーナーさん。渡すなら良いものをという考え。
     あたしだって普段ならそう考えると思います。そう、普段のあたしなら絶対に。
     だけど今のあたしには。

    「そ、そうですか……お返しに……」

     動揺をさらに強くするものに他ならなかった。
     いや、貰えるのは嬉しいよ? 感謝の気持ち、しかも恩あるトレーナーさんからだもん。喜ばない方がおかしいよ。
     それなら何に動揺してるのか、えっと……それは……その……。

  • 2二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 18:09:11

    『キタサン、贈り物にはそれぞれの意味があるって知ってる?』

     ずっと前に聞いたクラちゃんの話。あれがどうしても頭から離れてくれないのが理由です……。
     どんなきっかけでこの話になったのかはあんまり思い出せない。だけど、楽しそうに話しているクラちゃんを見てると興味が湧いたのは確かだ。
     そう、興味が湧いてしまった。だからあたしは……。
     うう……なんであたしはウキウキしながら贈り物の意味を調べてたんだろう……。
     えっ!? 金平糖ってこんな意味があるの!? とか思ったのに調べ続けたんだろう……。
     そっか……マシュマロやグミってそんな意味になるんだ……。ホワイトデーとかに贈って貰うのはちょっと悲しいな……って思わずに済んだのに……。
     考えれば考えるほどあの時のことが思い出しちゃって、なんだかモヤモヤしたものが胸に広がっていく。

    「……キタサン、どうかしたのか?」

    「い、いえいえ! 何でもないですよ! あはは!」

     だけどそれを、トレーナーさんに見せるわけにはいかない。心配させて困らせたくなんかないんだ。
     胸に残るモヤモヤを隠しながら、トレーナーさんに言葉を返す。……うん、ほっぺたが引き攣ってる感じがする。多分不自然な笑顔になってる……。

    「そ、そうか? だけどそれにしては……」

     うっ……あまりに不自然な笑顔だったからかな? 心配そうな目であたしを見てる気がする……。
     だ、だめだ。このままじゃ話があたしに向いちゃうよ……。心配を掛けさせてしまう……。そんなのだめだ……。
     こ、こうなったら……。

    「そ、そんなことよりお返しのことです! あたしの欲しいものはなにか、でしたよね!」

     話を別の方向に持っていく、これしかない!
     余計怪しまれるに決まってるけど、あたしのことを聞かれるよりはずっといい。
     引き攣ったままのほっぺたで何とか言葉を返していく。どんな時でも勢いに勝るものはない。だからこそ、これが一番のはずだ。

  • 3二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 18:09:30

    「お、おう……。えっと……うん……キタサンは何が欲しいんだ?」

     う、うん。まあ話を変えることは出来たかな?
     不審そうにあたしを見てるのは変わっていないけど、あたしのことからは話は変わってるから良しとしないとね、うん。
     それはそれとして欲しいもの……欲しいものかぁ……。

    「そう……ですね……」

     うん……だめだ……。
     やっぱり贈り物の意味にばかり目が向いて、何も考えられないよぉ……。
     金平糖もキャラメルもマカロンもマドレーヌ……うう……意味を知っちゃうと選べない……。
     かといって、どれでもいいとかでグミやマシュマロなんて渡されたらそれはそれで悲しいよ……。
     悩んで悩んで悩み抜き。あたしが出した結論は。

    「……お、お菓子とかよりは物がいいかなぁ〜……なんて……」

     お菓子とは別のものを要求するという、割とすぐにでも思い浮かびそうなことだった。
     し、仕方ないじゃん! お菓子の意味を調べてるんだから、どれもらっても考えちゃうよ! それならお菓子以外の物を要求して、ちょっとでも安全にするのがベストだよ! 絶対にそう!
     頭の中は大騒ぎでも、表には出さないように気をつける。
     ど、どうかな……? トレーナーさん納得してくれたかな?

    「……なるほど、物か……。うん、分かったよ。何か考えてみる」

     な、納得してくれた……みたい?
     トレーナーさんは顎に手を持っていき、少し考え込んでからそう答えた。
     よ、良かった……とりあえずこれで話は終わりだよね……。何だか安心した……。
     さっきまでのワタワタが少しずつ和らいでいく。うん、何だか妙な感覚だ。

  • 4二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 18:09:46

    「時間を取ってしまってごめんな、キタサン。お返し楽しみにしててくれ」

     ふわふわする気持ちの中で聞こえた声に思わずハッとする。
     そ、そうだった。この話って帰る前だったんだよね。それならさよならとありがとうを言わきゃ……だけど……もう一つ聞いておきたいことが……。
     聞きたいことを聞くために、もう一度トレーナーさんに向き合った。

    「い、いえいえ! あたしのためにありがとうございます! その……楽しみにしていいんですか?」

    「ああ! 絶対に良いものを探してみせるよ!」

     そ、そうなんだ……それなら……期待してもいいのかな?
     何だか感じる照れくささ。気づけばほっぺたも熱くなっていく。

    「き、期待してますからね! では!」

     その熱さに焼かれないようにあたしはトレーナー室から出ていった。
     部屋から離れる前に見えたトレーナーさんの顔。やっぱり優しく温かなもので。
     その表情に胸まで熱くなってしまいながら、寮へと戻っていく。
     トレーナーさんがあたしのために用意してくれる贈り物。それがどんなものかを楽しみにしながら。

     ……って、その日は思ってんだけど……。
     日が進むに連れてあることに気づいてしまった。
     そうだ……お菓子だけにこだわってたけど、物にも意味あるじゃん!
     そ、そういえば贈り物の話をクラちゃんがしてたのって、ネックレスのことを言ってたような……? あれ、ぬいぐるみとかも言ってたっけ……? なんかマグカップが良いとかも言ってた気がする!
     なんであたしこんな時に大事なことを忘れてたの!? あ、そっか。あたしが検べてたのってお菓子のことだもんね。自分で調べたことって中々忘れないよね。あはは、あはは……うう……どうしよう……。
     そんなこんなの毎日はホワイトデーまで続くことになってしまった。

  • 5二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 18:10:03

    「うう……」

     なんだかんだで遂にやってきてしまったホワイトデー。あたしはトボトボとトレーナー室へと歩いていた。
     胸のモヤモヤは中々消えないけれど、それでも進み続けなければならない。例え一歩一歩が重くても、贈り物が怖くても、心が泣きそうでも。
     どんな物でも間違いなく、あたしのために選んでくれた大切なものだから。だからあたしは笑って受け入れたい。
     それだけを思って前へと進み続けた。

    「失礼します……」

     どんな道のりだったのか、周りの盛り上がりがどんなものだったのか、皆は笑っていたのか。
     それも分からないまま、あたしはトレーナー室へと入っていく。
     あれ、あたしノックしたっけ? だめだ……思い出せないや……。

    「き、キタサン? 元気がないけどどうかしたのか? その……聞こえてるか?」

    「えっ?」

     近くから聞こえる声に思わずハッとする。
     声の方に顔を向けると、そこにはトレーナーさんの顔が……って、あわわ!?
     と、トレーナーさんの顔がなんか近い!? ど、どうしてこんな近くにトレーナーさんが!?!

    「な、なんでトレーナーさんが目の前に!?」

    「俺がというか、君が近づいてきたんだけどね」

     ワタワタとしているあたしに困った顔でツッコむトレーナーさん。
     どうやらあたしはトレーナー室に入ってから、一直線でトレーナーさんの近くに向かっていたみたいだ。
     そ、それはともかくとしてだ。もう少しで頭をぶつけそうになるのは、近づきすぎてるよあたし! は、早く距離を取らねば……。
     ゆっくりと一歩下がって胸に手を抑える。
     すぅ~……はぁ……。よし、ちょっとは落ち着いてきた……かな?

  • 6二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 18:10:19

    「す、すいません……。なんというか……ぼーっとしてたみたいで……あはは……」

    「……体調が悪いなら無理はしなくていいんだぞ?」

     うう……流石に様子がおかしいと思われたみたいだ……。
     困った顔から心配そうな顔に変わってしまい、ゆっくりと立ち上がろうとしている。
     こ、これ以上心配させるなんてさせないように……えっと……えっと……そうだ!

    「い、いえ、大丈夫です! これは……その……ホワイトデーのお返しが楽しみすぎただけと言いますか! その……はい……」

     咄嗟に思いついた言い訳。だけどそれはある意味で自分を追い詰めるものでしかなかった。
     元々悩んでいた理由がホワイトデーで、そのせいであたしはこうなって……。
     モヤモヤスパイラルにまた陥りそうになった時。

    「……そっか。それならもう渡そうかな」

     聞こえてきた優しい声がそれを止めてくれた。
     えっ……と思っていたのは一瞬だ。
     だけど、その短い時間でトレーナーさんは何かを持ってあたしの前に向かい合うように立っていた。
     
    「と、トレーナーさん?」

    「ハッピーホワイトデー……って言うのが正しいのかな? はは、似合わないか」

     そしてそのまま差し出されるのは四角い箱。それはあまりに無骨なもので。……普段だったらきっと嬉しいもので。
     あたしはそれを両手で受け取る。重……くはない、思ったよりは。だけど手から感じるその重さは、あたしが思った通りの物であるのを実感させるには十分だった。

  • 7二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 18:10:37

    「……」

     何も言えなくなり箱の方を見る。
     きっと……この中にあるのは……。でもそれを見るのが怖い……。
     いつの間にか手元が震えていて、箱からも小さく揺れる音が聞こえてきた。

    「それと……」

    「えっ?」

    「これも受け取ってほしい」

     もう一つの……贈り物……?
     予想もしていなかったそれにあたしは困惑するしかない。
     伸ばされているトレーナーさんの手を見てみると、確かに小さな袋がそこにはあって。
     だけど、それだけでは何があるのかは分からなくて。
     手に持っている箱を置くことも出来ずに、立ち続けるしかなかった。

  • 8二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 18:10:40

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  • 9二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 18:10:51

    「……初めはな、ホワイトデーのお返しは君が持っている箱の中身だけだったんだ」

     ポツポツと語りだすトレーナーさん。
     そうか……初めはこれだけだったんですね。

    「中身は予想してるだろうけど湯呑みだよ。君はお茶が好きだから、使ってくれたら嬉しいと思ったんだ」

     うん、思った通り。箱の中身は湯呑みだ。
     あたしはお茶が好きだから、それで選んでくれたんだ。
     あたしのことを考えて……だけど……あたしは……。

    「だけどな、買った後に君の顔が頭に浮かんだんだ。いつもならあんまり要望を言わないのに、あの時だけは少し焦った顔でお菓子はやめて欲しいと言ってたから」

     ……お菓子をやめてとは言ってませんよ?
     いや、同じことだよね。そんな風に思われても何もおかしくなんてない。
     あの時のあたし、ううん。今日までのあたしだったらきっと。

    「だから調べたよ、湯呑みにはどんな意味があるのか。……あんまり良くはなかったな」

     トレーナーさんの言っていることは正しい。
     湯呑み……というよりも、陶器には仲が壊れるという意味がある。これは陶器が割れやすいからというのが理由……らしい。
     最近は別の意味もあるらしいけど、そっちだってあたしに贈るには適切ではない。

    「だからどうにかしたいって思った。湯呑みの意味だけに囚われて欲しく無かったから。だから今の俺の気持ちに相応しい物を探して……それで見つけたんだ、これを」

    「……その中身はいったいなんですか?」

    「キーケースだよ」

    「キー、ケース」

  • 10二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 18:11:05

     それを聞いてあたしは……あたし……は……。
     鼻の奥からツンとした熱いものが込み上がってくる。目の中に温かいものが滲んでくる。手元の震えが……もっと強くなった。

    「……照れくさいけどさ、君が走り続ける限りはずっと一緒に居たいって気持ちはずっと持ってるから」

     きっとトレーナーさんはそういう意味で贈ってはいないのだろう。
     親から子供に贈るくらいの意味で贈っている。
     それは分かってる。……ううん、それでもいいんだ。
     意味を調べた上でキーケースを贈ってくれた。
     あたし達の絆はトレーナーさんも同じ気持ちだって、何よりも大きな証に他ならないから。

    「改めて言うよ。この湯呑みと俺の気持ちであるキーケース、受け取ってくれるかな?」

    「……はいっ!」

     顔を上げてトレーナーさんを見ながら笑って見せる。
     ほっぺたに小さな水滴が流れて落ちてったけど、それを気にする必要はない。
     だってそんなものが気にならないくらい、とても大きな証を貰えたのだから。

     些細な切っ掛けで始まった笑っちゃうようだけど辛かった日々は、大切な気持ちを確認し合って終わりを迎えた。
     これからも色々と思うことがあるもしれないけど、今日貰った宝物達と一緒に歩んでいけるなら、きっと大丈夫だ。
     隣で見守ってくれる大切なあなたがいる。そうあたしは信じられるから。

  • 11二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 18:11:09

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  • 12二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 18:11:30

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  • 13124/03/20(水) 18:12:05

    一週間遅れのホワイトデーの話です

    贈り物の意味って中々難しいですよね……
    欲しいものを上げたいのに意味を考えると上手くいかなくなりますから

  • 14二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 18:12:21

    このレスは削除されています

  • 15二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 18:12:41

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  • 16二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 18:13:22

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  • 17二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 18:16:38

    俺はハートを押してクールに去るぜ

  • 18二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 18:17:12

    すき

  • 19二次元好きの匿名さん24/03/20(水) 23:19:17

    よかった
    贈り物の意味に考えすぎちゃうちょっと重い女の子なキタサンすき

  • 20二次元好きの匿名さん24/03/21(木) 05:08:45

    キタちゃんの笑顔は万病に効く

  • 21二次元好きの匿名さん24/03/21(木) 05:11:02

    >>20

     🎀

    J( ˘ω˘)し

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