- 1二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 23:52:55
- 2二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 23:53:36
闇の中で、先程まで居た彼女を想う。
外での会話を噛み締めようと思ったのだが、どうにも思考が取り留めない。
出会った日のこと。夏合宿。奇妙な高松宮記念。そして、あの夜の海。
その後の夏合宿。爪痕を遺したスプリンターズS。
バレンタインやクリスマス。ああ、もうすぐ感謝祭もある。去年の雪辱は、晴らしたいな。そういえばうっかりしていた。今日は、4コマを更新していない───。 - 3二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 23:54:21
───不意に。
すぐ傍の襖が、静かに、開く音がした。
古い旅館によくあるアレかと一瞬身構えたが、すぐさま違うと気付ける、息遣いと気配。
忘れ物だろうか。灯りが付いたら探すのを手伝ってあげよう。
寝ぼけちゃったかな。危なくないように部屋に連れて行かなきゃな。
それとも、慣れないところで一人で寝るのが怖かったかな。大人びて見えても、まだまだ子供なんだから。 - 4二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 23:54:55
………そんな、俺のわざとらしい選択肢を潰すかのように、マーチャンは俺の布団に潜り込んできた。
正直に言うと、この可能性を考えていなかったわけではなかった。 - 5二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 23:55:27
先程の、外でした会話。
何処まで本気なのか、なんて、彼女に限って侮ったことを考えられるはずもなく。
彼女のその言葉が、自分の将来を、そして今いる環境を見据え、それを圧して紡がれた願いであるということは、十分に理解しているつもりだ。
それでも、指導者と生徒という立場を弁えた上で、彼女を見守ろうと決意を新たにしたところだった。
………わざわざ常識の範囲を心構えようとしている時点で、それが如何に詭弁であるかも飲み込んだ上で、だ。 - 6二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 23:55:34
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- 7二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 23:56:11
だからこそ俺は、彼女を部屋に戻さなくてはならない。
力では敵わないとは言え、強引な手段には出ないだろう。それでも、年頃の女性には"傷"になってしまうかも知れないが………。 - 8二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 23:56:36
「………トレーナーさんは、オトナの人です。」
ポツリと、話し出した。 - 9二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 23:57:12
「マーちゃんよりも、ずっとずっと人生経験が豊富です。」
そんなことはないよ。 - 10二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 23:57:39
「………マーちゃんみたいな人に会うのも、もしかしたら、初めてではないのかも知れません。」
それも、違うね。 - 11二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 23:58:09
「ですが。………マーちゃんにとって"あれ"は、とても勇気のいる告白でした。」
「一世一代、というものです。」
仰向けで両手を頭の下に入れていた俺のがら空きの胴に、マーチャンがしがみついてきた。 - 12二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 23:58:42
「トレーナーさんのお返事は、短いものでしたね。ああ、って、たった一言です。」
「………だから。」
浴衣を掴む手が、少しだけ強張る。
「わがままな私のお願いを、今、聞いてはくださいませんか?」 - 13二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 23:59:01
………マーチャンの声が潤んでいることに、今更、気がついた。
- 14二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 23:59:24
思えばマーチャンは、どんなに辛くても、苦しくても。
しょぼくれた顔を見せることはあっても、涙だけは決して見せてこなかった。
それは一種の諦観によるものかも知れない。独りで舟を漕ぐ為に、身につけた強さだったのかも知れない。 - 15二次元好きの匿名さん24/03/22(金) 23:59:48
俺が共に生きて逝こうと、そうありたいと願った。確かに返事こそ簡素にしてしまったが、その誓いに、嘘偽りはない。
それをこの子は感じ取ってくれたのだろうか。安心が、この子に涙を取り戻してくれたのだろうか。
あまりに都合の良い、自分勝手な解釈だが、不思議としっくりときた。 - 16二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 00:00:13
俺は身体の向きを変え、マーチャンの頭を抱き寄せた。頭を優しく撫でると、強張っていた力が抜けたようだった。
「………ご存知ですか?トレーナーさん。」
「ウマ娘は、身体がとても丈夫です。人間の男性がぎゅってしても、へっちゃらなんですよ。」
冗談めかして言う。苦笑しながら、俺はマーチャンの身体を抱き締めた。 - 17二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 00:00:54
心臓の鼓動が聞こえる。自分のものと、マーチャンのもの。その二つが、確かに聞こえる。
滑らかな肌の質感も、少し汗ばんだような香りも、確かに感じる。
マーチャンは、間違いなく、ここにいる。
だから、いなくなってしまわないように、きつく、きつく抱き締めた。
………ああ、そうか。
怖がっていたのは、俺の方だったんだ。 - 18二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 00:01:23
「………あったかい………。」
呟いてほどなく。静かな寝息が聞こえてきた。
誘われるように、俺も呆気なく、眠りに落ちたのだった。 - 19二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 00:01:42
夢を見た。
よく晴れた秋の海辺を、マーチャンと二人で歩いている。
海にはあまり良い感情を持てなくなってしまったところだが、不思議と嫌な感じはしない。
マーチャンが振り返る。"行ってきます"、と、彼女は言う。どきっとする言い回しだが、ふと見上げるとそこには、満員の観客。
波の音はいつの間にか万雷の歓声へと変わっており、視線を戻した先にあったのは、青々としたターフだった。
一瞬の静寂。ゲートの開く音。
特徴的なピッチ走法で一気に先頭へと躍り出た、彼女の名は───。 - 20二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 00:04:12
終わりです。
今朝方、素敵な概念を見かけてから、一日、仕事しながら練りました。
まあ、割とスレスレな話題だったんで消されてしまったようですが。
お読みいただけたなら幸いです。 - 21二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 04:16:57
- 22二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 06:51:14
- 23二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 09:01:04
朝早くから読んでくださってありがとうございました。
- 24二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 09:04:57
- 25二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 09:12:42
マーチャンの台詞を脳内セルフマーチャンで音声再生できてとてもよかった
最後あたりがちょっとマーチャンのソロ曲っぽい言い回しだなと思ったらそうだった
夢の中でも歓声が彼女の居た証になるといいね - 26二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 12:42:06
- 27二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 14:39:40
- 28二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 17:44:28
- 29二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 23:10:54
あったかい…。で涙が出てきてしまった
よかったな…本当に - 30二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 23:43:55
ありがとうございます。マーチャンが欲しいものがなんなのか、セリフにはかなり悩みました。
- 31二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 23:45:00