【SS】忘却より

  • 1二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:47:52
  • 2二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:48:23

    おはようございます。こんにちは。こんばんは。アストンマーチャンです。

    今日から何日かは、久しぶりの連休です。
    先日の高松宮記念も、URAファイナルズ決勝戦からの連戦でしたので心配されていましたが、難なく圧勝!圧巻の連覇でした。マーちゃん絶好調。ぶいぶい。

  • 3二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:48:58

    この時期になると、相変わらず波の音は聞こえます。でも、去年、『無視をする』と決めたあの日から、不思議と体調が悪くなったりはしません。長年苦しめられてきましたが、今度こそ、春のことも、少しは好きになってあげても良いのかも知れませんね。

  • 4二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:49:31

    今日は本当はトレーナーさんもお休みのはずでしたが、明日からトレーナーさんにも連休を取ってもらうので、溜まっていたお仕事を片付けるんだそうです。
    思えばトレーナーさんとは、休日も一緒にいることが多かったので、会わないでいる日というのも、ずいぶんと久しぶりな気がします。
    ちょっぴり寂しいですが、あんまり一緒に居すぎてくっついてしまっても困りますし、明日からはずっと一緒なので、マーちゃん、今日一日は、我慢の子です。

  • 5二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:49:57

    さて。これからマーちゃんは、お買い物に行こうと思います。明日の用意も兼ねて、色々と買い出しです。行ってきます。またねー。

  • 6二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:50:27

    「ふう、こんなところでしょうか。」
    「もう夕方です。ずいぶんとお買い物をしてしまいました。」
    「………あそこのベンチで、しばしの休息です。」
    「やや!公園の隅にて、はちみーのスタンドを発見!これよりマーちゃん、補給資材の調達任務に移ります!」

  • 7二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:50:51

    ベンチから立ち上がり、歩き出そうとした、その刹那。

    「………あ………。」

    波の音が、一際大きく聞こえてきました。

  • 8二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:51:16

    気付けば、辺りには誰もいません。ざざあ、ざざあ、という音以外、何一つ聞こえません。あんなに人集りができていたはちみーのスタンドも、ポツンと、移動販売車があるだけです。

  • 9二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:51:57

    ふいに。
    背中に、気配を感じました。
    慌てて振り向くとそこには、マーちゃんが立っていました。

  • 10二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:52:24

    「………。」

  • 11二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:52:52

    その姿は、マーちゃんじゃなければマーちゃんだってわからないほど、マーちゃんとは違った姿をしていました。

    トレードマークの王冠こそ被ってはいるものの、青白い素肌を晒した裸んぼ。それもそのはずです。その身体は足の指先までぶよぶよに膨れていて、あれではお洋服なんてとても着てはいられません。
    髪も尻尾もほとんど抜け落ち、口もひしゃげていて耳も片方なくて、頬も瞼もお腹もぱんぱんになっていますが、目だけは、真っ直ぐにこちらを見ています。

  • 12二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:53:16

    「………───ぁーぢぁン"」

  • 13二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:53:40

    そのマーちゃんは一生懸命に口の部分を動かしながら、肘から先のない腕を伸ばして、一歩ずつ、こちらに向かってきます。歩くたびに、何か、べしょっていう音がします。小さいときに病院で嗅いだことがあるような、奇妙な悪臭もします。

  • 14二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:54:01

    「…ァーじャン………どボぉじデえ………ギごエ"て………いた…デしょう………?」

  • 15二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:54:29

    ………マーちゃんは、動けません。お返事もできません。
    不思議と怖くはありませんでしたが、目の前のマーちゃんよりむしろ、耳に響く波の音が大きすぎて、動くことができません。

  • 16二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:54:56

    それでもマーちゃんは、それを受け入れることをしたくはありませんでした。
    マーちゃんは、無視をすると決めたのです。
    一緒に居たいと言ってくれたトレーナーさんが知らないところでマーちゃんが先に船を降りてしまっては、それは嘘吐きというものです。
    せっかく、一緒に居ると決めたのです。
    わがままでも、世界に逆らってでも、せめてもう少しだけ、一緒に居たい。

  • 17二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:55:19

    そんな風に両方から、マーちゃんとマーちゃんがマーちゃんの引っ張り合いを始めてしまったものですから、マーちゃんは今度こそ困りました。万事、休すです。

  • 18二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:55:41

    「ガアッ!!」

  • 19二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:56:04

    ふいに、けたたましい鳴き声が響きました。
    同時に、波の音がぴたっと止みました。
    振り返る視線の上の方に、いつの間に居たのでしょう、カラスのクロエ・ハーバードさんの姿がありました。

  • 20二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:56:33

    「………クロエさん?」
    「………ォ…えーァー………さん?」

    マーちゃんとマーちゃんは、同時に、クロエさんに声を掛けました。

  • 21二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:57:00

    「───トレーナーさん、なのですか?」

    背後から、今度ははっきりと、マーちゃんの声がしました。
    振り向けばそこには、勝負服姿の、何処からどう見てもキュートなアストンマーチャンが、クロエさんを見つめて立っていました。

  • 22二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:57:28

    「やっと………やっと、見つけた。ようやく、探し出せた………。」

    クロエさんが泣きそうな声で語りかけます。マーちゃんにではなく、マーちゃんに、です。

  • 23二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:57:58

    「………ごめんな………映し続けていられなくて………見失ってしまっていて………。」
    「………だから………ずっと探していた………それでようやく………見つけることができたんだ………。」

    二人のちょうど真ん中に居てしまっていたマーちゃんは、横に数歩ずれます。マーちゃんにだって、こんな時の空気は読めます。
    それと同時にクロエさんは、あちらのマーちゃんの目の前に降り立ちました。

  • 24二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:58:24

    「………トレーナーさん………。………また、ううん、………今度こそ、『私』のことを、映し続けてくれますか?」

  • 25二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:58:45

    「もちろんだ。もう二度と、目を離したりしない。」

  • 26二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:59:05

    「………ふふっ。約束、ですよ。私の、『専属レンズ』、さん………。」

  • 27二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:59:29

    マーちゃんとクロエさんは、そのまま、お空に向かって歩いて行きました。
    気付けばすっかりと暗い空の、まん丸いお月さんの光に向かって。
    マーちゃんはしばらくの間、その後ろ姿を、ただ、ただ、茫然と見送っていたのでした………。

  • 28二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 22:59:48

    「マーチャン?」

  • 29二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 23:00:16

    聞き慣れた声が聞こえて、マーちゃんはハッと我に帰りました。
    車の音、早鳴きの虫の声、公園を行き交う人の足音と衣擦れの音。
    波の音はもう、ほんの微かにも聞こえません。代わりに耳に入ってくるのは、街の音と、自分の心臓の鼓動と、あと………。

  • 30二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 23:00:37

    「マーチャン?どうかした?大丈夫?」

  • 31二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 23:00:59

    とてもよく聞き慣れた、でも何故か懐かしいとも思ってしまうような声です。
    『私』は思わず、声の元に駆け寄り、声の主を抱き締めます。

  • 32二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 23:01:42

    「えっ!?えっ!!??ちょっ!?マーチャン!!??」

    私は抱き締めて、声の主の………トレーナーさんの胸に顔を埋めます。
    トレーナーさんが大層困惑している様子がひしひしと伝わってきますが、仕方のない状況なので我慢してもらいます。
    ふと目を開けると、さっきまであったはずのはちみーのスタンドは、もうとっくに帰ってしまったようでした。ちくしょう。

  • 33二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 23:02:18

    「トレーナーさんは、マーちゃんがどんな姿になっても、変わらずにマーちゃんのことを、映し続けてくれますか?」

    顔を上げ、そう尋ねます。

  • 34二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 23:02:48

    マーちゃんには自信がありました。
    何しろ『マーちゃん』は、クロエさんの姿になったトレーナーさんに、気づくことができていたのですから。
    マーちゃんにできて、マーちゃんにできない道理はありません。

    だからこそ、トレーナーさんにも聞きたかったのです。
    『こっちの』トレーナーさんも、例えマーちゃんが違った姿になったとしても………。

  • 35二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 23:03:11

    「もちろんだ。君から絶対に、目を離したりはしないよ。」

  • 36二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 23:03:39

    キュートなマーちゃんに抱き締められて真っ赤になりながらも、きっぱりと、そう答えてくれました。

    マーちゃんはもう、嬉しくて嬉しくて。
    小躍りしたい気分を抑えながら、トレーナーさんと歩き出しました。

  • 37二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 23:04:21

    「明日からの温泉旅行、マーちゃんはもう計画はばっちりなのです。後で旅のしおりのデータを送りますね。」
    「はは、しおりまで作ったか。………仕事が終わって、正にその明日の準備をしようと買い物した帰りだったんだ。マーチャンが公園でボーッと空を見上げていたから驚いたよ。何かあったのかい?」
    「えぇっとですね。マーちゃんは、マーちゃんに会いました。」
    「………ん?」
    「クロエさんはマーちゃんのトレーナーさんで、二人は、二人の世界に行ったんです。」
    「………え?俺?」
    「違います。」
    「え?」
    「あっ!そうだ!明日出発前に、はちみー奢って下さい!」
    「なんで!?」

  • 38二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 23:04:44

    いつか必ず、トレーナーさんと私の、どちらかが先に、海へと還る日がきてしまいます。
    その日までに、悔いの残らないように。
    いつかの後で、お互いがお互いのことを見つけられるように。
    今は、今を大切にしよう。
    川を下るを共に居てくれる、居ることができる、この人の手を、強く握り締めて。

  • 39二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 23:05:31

    終わりです。

  • 40二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 23:09:24

    再掲ありがとう、こっちもやっぱりいいSSだった

    >>1の方を先に読んでたから気になってたんだ

    マーチャンには他の人には見えないものが見えてるんだな…世界も、人の心も

    そんな本質的なものが見えてるマーチャンに専属レンズがいてくれてよかったと…心からそう思う

  • 41二次元好きの匿名さん24/03/23(土) 23:48:53

    >>40

    両作お読みいただきありがとうございました。

    最近は(当時もありましたが)ウマ娘とウマソウルとの関係性を考察するスレやSSも増えてきましたが、こちらはそういったものは考えず、『別世界線のマーチャンが辿った運命と、そこに収束させようとする世界』に視点を置いて書きました。

    マーチャンが消える直前にトレーナーが見たあの夢の、マーチャン(とトレーナー)ですね。

  • 42二次元好きの匿名さん24/03/24(日) 00:37:14

    再掲ですが初めて読ましてもらいました
    なんど消えかけてもマーチャンはちゃんとかならずそこにいる
    とてもよかったです

  • 43二次元好きの匿名さん24/03/24(日) 07:45:15

    >>42

    ありがとうございました。

    繋ぎ留める者がいれば大丈夫です。

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