- 1二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 18:45:48
「リリカル・トレニア・キンセイマール……♪」
鹿毛のツインテール、三つ編みのドーナツヘアー、特徴的な大きな魔女帽子。
スイープトウショウは鼻歌混じりに呪文を詠唱しながら、廊下を足取り軽く歩いていた。
時折気難しくなる彼女ではあったが、今日は一目で機嫌が良いとわかるほど。
その原因は、彼女が大切そうに抱えている一冊の本にあった。
表紙には幻想的な絵、不可思議な文字、見る人が見ればこう言うだろう──魔法書のようだ、と。
「アタシが一日かけて半分も解読できないなんて……これはすごい魔法が書かれているに違いないわ!」
そう言って、スイープトウショウは不敵な笑みを浮かべた。
目の下には微かに隈が出来ていて、相応の苦戦を感じさせるが、彼女はそれを微塵も表情に出さない。
むしろ、楽しくて仕方がない、と言わんばかりの顔であった。
彼女が持つ本は、彼女の誕生日にゼンノロブロイがプレゼントしたもの。
正確には、ゼンノロブロイが誕生日プレゼントに用意していたが直前に逃げ出してしまって、二人で見つけ出した本である。
何を言っているのかわからないかもしれないが、少なくともスイープトウショウの認識ではそうなっていた。
中身は魔法陣のような挿絵と、見たこともない文字で構成されていて、彼女の知的好奇心を大いに刺激する内容。
それの解読を夜通し試みて、フジキセキからこってり絞られて、現在に至るのであった。 - 2二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 18:46:01
「一緒に探したんだし、あの子にも協力してもらわなくっちゃね♪」
そんなわけで、スイープトウショウは目的の人物がいるであろう、図書室へと辿り着いた。
またご飯を忘れて読書にふけっていないでしょうね──と疑念を抱きながらも、部屋を覗き込む。
そこに、ゼンノロブロイの姿はなかった。
スイープトウショウは思わず、首を傾げる。
「おかしいわね、今日は当番の日だったはず……ロブロイ、いるー?」
「ネガティブ、ゼンノロブロイは急な“EVA”で『いない』をしているよ」
「きゃっ!?」
突然、横合いから声を投げかけられて、スイープトウショウは身体を跳ねあがらせてしまう。
慌てて受付の方に視線を向ければ、そこには一人のウマ娘が座っていた。
金髪のロングヘアー、眠たげに垂れている碧眼、どこか浮世離れした雰囲気。
「ハローハロー、今日の当番はネオユニヴァースが“代替”だね」
ネオユニヴァースは、無表情のまま、歓迎するように手を振っていた。 - 3二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 18:46:13
「……ネオユニヴァース?」
スイープトウショウは、ぽつりと目の前にいるウマ娘の名前を呟き、渋い顔をした。
その名前は、彼女にとって幾らか聞き覚えのある名前だったからだ。
彼女自身の面識はないものの、ゼンノロブロイが時折、嬉しそうにその名前を出していたのを覚えていた。
不思議な人だとか、良く気にかけてくれるとか──頭脳明晰で天才的な人だとか。
天才魔法少女を自称する彼女にとって、最後の評価はいまいち気に食わなくて、良く覚えていた。
「そう、あの子がいないならいい、出直してくるわ」
とはいえ、わざわざ突っかかったりもしない。
今の彼女にとっては、魔法書の解読が最優先であり、そんなことしている暇はないからだ。
そして、彼女は踵を返す。
このまま図書室で進める手もあったが、流石にその気にはならなかった。
「“JAM”、もしかして、あなたはスイープトウショウかな?」
「……そうだけど、何よ」
図書室を出ようとした寸前、スイープトウショウは呼び止められる。
少し苛立ちながらも振り向くと、そこには柔らかな笑みを浮かべているネオユニヴァースがいた。
「ゼンノロブロイが良くお話してくれる、元気と笑顔をくれる、素敵な『魔法使い』だって」
「……もう、ロブロイったら」
「『八冠』以来の“MIP”を成し遂げた“箒星”、ネオユニヴァースは『奇跡』を越えられなかったから」
「……? まっ、まあ? スイーピーは奇跡も起こせる天才魔法少女だもの?」
少し遠い目をしながら、ネオユニヴァースは語る。
スイープトウショウには、言葉の意味が良くわからず、また八冠などの心当たりもなかった。
けれど、とりあえず褒めてくれているんだろう、ということは理解出来た。
少しだけ、スイープトウショウの中に、ネオユニヴァースへの興味が生まれる。 - 4二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 18:46:33
「一度“交信”してみたかったんだ……その本は?」
「これはロブロイと一緒に見つけた魔法書よ、今は解読中だけど、きっとすごい魔法が書かれてるんだから!」
「魔法書……“INTI”、少しだけ“観測”させてもらってもいいかな?」
「……仕方ないわね、雑に扱ったら許さないから」
「アファーマティブ」
一瞬、迷ったがスイープトウショウは魔法書をネオユニヴァースに手渡した。
ゼンノロブロイが図書室での代わりを任せるような人物が本を粗末にするわけがない、という判断。
そして、その彼女が天才と称する人物がどの程度のものなのか試してみたくなった、という理由であった。
ネオユニヴァースは本をめくり、そして興味深そうに視線を動かし、耳を反応させる。
「解読は“EXDFF”、イギリスと日本、それとドイツかな? “MUTX”言語の組み合わせだね」
「へえ……」
スイープトウショウは思わず感心してしまう。
彼女自身それは突き止めていたが、それだけでもかなりの時間を取られてしまった。
しかし、それをネオユニヴァースは一目見ただけであっさりと突き止めている。
ロブロイが天才だなんて言うわけだわ──と、ある種の納得をしていた。
「ただ、この『筆跡』の“軌道”は……?」
「……どうしたのよ?」
突然、ネオユニヴァースは不思議そうに首を傾げ、魔法書とスイープトウショウを交互に見つめだした。
そしてしばらくして、ネオユニヴァースはこくりと頷き、優しげな微笑みを浮かべながら本を返す。
「……“THNK”、だね。解読の『進捗』はどのくらい?」
「まだまだ3割くらいってところね、ロブロイにも協力してもらおうと思ったんだけど」
「ビックバン……この“配列”を一人で“REVS”していた?」
「魔法書の解読だもの! 魔女の知識や技術は外に漏らしちゃいけないんだから!」 - 5二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 18:46:47
スイープトウショウは胸を張り、どこか自慢げに言い放つ。
しかし、内心はどうしたものか、と彼女は考えていた。
一人での調査に行き詰りを感じて、ゼンノロブロイに協力を求めにきたのである。
他にもキタサンブラックやカワカミプリンセスなど、言えば協力をしてくれそうな友人はいた、が。
(あの二人はこういうのには不向きよね……)
どちらも肉体労働担当といった感じで、あまり解読などには向いていない。
知識豊富で、魔法書の理解に長けていて、なおかつ秘密をしっかり守ってくれる人物が良い
そんな人は──と、刹那、スイープトウショウの耳が立ち上がり、目を大きく見開く。
いるじゃない、目の前に、と彼女は満面の笑みを浮かべた。
「アンタ、今、暇よね?」
「今日はずっと“断絶”しているね、ここでの“待機”は『必要』だけど」
「だったら魔法書の解読を手伝いなさい! 今日のアンタはロブロイの代わりなんだから!」
「……いいの?」
「ええ、今日のアンタはスイーピー5の番外メンバー、マジカル☆ユニヴァースよ!」
「ふふっ……それはとっても素敵な“ZEER”だね」
ネオユニヴァースは、殊更嬉しそうに微笑みを浮かべた。 - 6二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 18:48:35
「ああ、遅くなってしまいました……!」
空が赤く染まり始めた頃合い、一人のウマ娘が廊下を早歩きで駆けている。
黒鹿毛の長い三つ編み、黒縁の大きな眼鏡、文学少女然とした雰囲気。
急用で外に出ていたが、その用事もまた、予定よりも大いに時間がかかってしまった。
ネオユニヴァースに当番を変わってもらっていたのもあり、彼女は慌てて、図書室に向かっている。
そして近くまでたどり着いた時、ふと違和感に気づいた。
「……今日は随分と賑やかですね?」
図書室で騒がしいのはいかがなものか、ということは置いておいて。
普段ならば、この曜日の図書室にはそこまで人が来ることはない。
ゼンノロブロイも、存分に読書を楽しんでいられるくらいである。
それにも関わらず、今日の図書室は話し声が外まで聞こえるほどに、盛況しているように見えた。
「ですが、この声は……?」
ただ、図書室から聞こえて来る声は主に二つ。
そしてそれらはどちらも、ゼンノロブロイにとっては良く聞き覚えのある声であった。
「ユニさんに、スイープさん?」
共に大切な友人ではあるものの、二人に面識はなかったはず。
あの二人がどんなことを話しているのか──ゼンノロブロイがそれが気になって、静かな足取りで入口に近づく。
そしてバレないように、こっそりと覗き込んだ。 - 7二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 18:48:56
「こことここの『文脈』が一致している、“THRF”ここの“軌道”は」
「なるほど、さっきの記述と並べれば解釈が……アンタ、なかなかやるじゃない!」
「スイープトウショウこそ、その“COTT”はとっても“マグネター”」
「ふふん♪ 魔法に集中力は欠かせないってグランマも言ってたんだから、当然よね!」
「……! ふふっ、飲み込みの早さは本当に“PERS”だね」
スイープトウショウとネオユニヴァースは本を高々と積み上げて、調べものをしているようだった。
二人とも実に楽しそうな表情で、本を片手に会話を交えている。
ゼンノロブロイは、目を丸くして、その光景を見つめていた。
「お二人はお知り合いでしたか? それに、何の調べものをしているんでしょう?」
驚きのあまり、ゼンノロブロイは思ったことをそのまま呟いてしまう。
その言葉を、図書室の中にいた二人は拾い上げて、入口の方へと視線を向けた。
「あっ、ロブロイじゃない! 遅いわよ、もう!」
「おかえり、ゼンノロブロイ、用事は“ART”だった?」
「あっ……はっ、はい、ごめんなさいスイープさん、ありがとうございました、ユニさん」
見つかってじまったゼンノロブロイは照れた様子で、二人の下へと近づいていく。
──二人は一体、なんの調べものをしていたのんでしょう?
好奇心の抑えられない彼女は、ちらりと、本の積みあがった机の中央に鎮座している本を見る。
そして、顔を真っ赤にして、耳と尻尾をピンと逆立てた。
「あっ、こっ、これは……!」
「解読の成果をロブロイに見せられなくなるところだったじゃない、一緒に見つけた魔法書なんだから」
「ふふっ、“CETI”みたいな気分だったけど、とってもスフィーラだったよ?」
「ユッ、ユニさん……! というか、もう終わったんですか!?」 - 8二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 18:49:23
得意げな表情で笑みを浮かべるスイープトウショウ。
悪戯っぽく笑うネオユニヴァース。
その二人の前に──ゼンノロブロイは、驚きを隠すことが出来なかった。
そもそもこの魔法書は、ゼンノロブロイが自作したものである。
オリジナルの文字を考えて、文章を作って、同室のライスシャワーに協力してもらい絵も描いて。
スイープトウショウに楽しんでもらって、後日それとなくヒントを与えるつもりだった。
……ネオユニヴァースには、どうやらお見通しだったようであるが。
(まさか、それをノーヒントで読み解いてしまうなんて……)
さすがというべきか、なんというべきか。
協力があったとはいえ、ゼンノロブロイには信じられないことであった。
ぽかんとしてる彼女を尻目に、スイープトウショウは魔法書に視線を向けて、気合を入れる。
「さあ、この魔法の実践もしなくちゃいけないんだから、急ぐわよ、アンタたち!」
「えっ、あっ、はい! ……ユニさんもまだ大丈夫ですか?」
「“NPB”、むしろネオユニヴァースの方から『お願い』したいくらい……とても『美味しそう』をしているからね」
「……あはは」
ゼンノロブロイは、思わず苦笑を浮かべてしまう。
解読が殆ど済んでいるということは、この魔法書の主な内容はすでにわかっているのだろう。
以前、彼女がスイープトウショウから教えてしてもらって、とても印象に残っているもの。
色んな人から話を聞いて、教えてもらって、作り上げた彼女だけの『魔法』。
スイープトウショウは、そんな魔法の記された魔法書を、きらきらとした、期待に満ちた目で見つめている。
「一体どんな味がするのかしら……この、『魔法のスコーン』は……!」
そんな彼女を見て、ゼンノロブロイとネオユニヴァースは顔を合わせて、笑みを零した。 - 9二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 18:49:57
お わ り
とあるスレ用に書いたSSです
なんでこんな時間に不安定になるの……? - 10二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 19:20:43
そういう時間だからしゃーない
SSは良かったです - 11124/03/26(火) 19:48:16
- 12二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 22:41:48
凄く良い!
- 13124/03/26(火) 23:51:10
そう言っていただけると幸いです